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密度汎関数法(DFT)の基礎 その6 HPCシステムズ株式会社 佐藤大介 [email protected] TextBook 密度汎関数法の基礎 (KS物理専門書) 常田 貴夫 () 出版社: 講談社 (2012/4/11)
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密度汎関数法 Density Functional Theory (DFT)の基礎第6回

May 28, 2015

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Density Functional Theory, DFT, MO, abi initio, Quantum, Chemistry, Physics, Computational, HPC, SuperComputing
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Page 1: 密度汎関数法 Density Functional Theory (DFT)の基礎第6回

密度汎関数法(DFT)の基礎 その6

HPCシステムズ株式会社 佐藤大介 [email protected]

TextBook

密度汎関数法の基礎 (KS物理専門書) 常田 貴夫 (著) 出版社: 講談社 (2012/4/11)

Page 2: 密度汎関数法 Density Functional Theory (DFT)の基礎第6回

前回までのあらすじ

http://www.hpc.co.jp/gaussian_nyumon.html

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はじめに

「ハートリー・フォック法」の 物理学的基礎と数式を 時間軸に沿って学びます。

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はじめに

たくさんカタカナが出てきますが これらはほとんどが人物の名前を 冠していますので、人物名には 「さん」という呼称を付けて 分かりやすく記述します。

Inspired by anan

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「パウリの排他原理」を提唱

パウリ (Wolfgang Pauli)さん

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スレーター行列式 電子の交換を考慮した波動関数

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独立に提案

ハイゼンベルグさん (Werner Heisenberg)

ディラックさん (Paul Dirac)

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「パウリの排他原理を 自然に満たすためには 波動関数が反対称化 (同じ量子数をもつ電子の交換に対して波動関数の符号が逆)

されていなければならず、 行列式で表すべきである。」

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この反対称化によって現れた新たな電子間相互作用は交換相互作用とよばれています。

交換相互作用

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スレーター(John C. Slater)さん

反対称化波動関数を表す規格化された行列式をもとに、シュレディンガー方程式の一般的解法を作り上げました。

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電子の交換をヘリウムを例にして考えてみましょう。ハミルトニアン演算子は、2つの電子の座標を交換しても形が変わりません。

ヘリウムの例

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ハミルトニアン演算子

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ハートリー波動関数 対称関数と反対称関数

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ハートリー波動関数 反対称関数

「パウリの排他原理」を満たすのは反対称波動関数だけです。なぜならば、同じ軌道に同じ電子を占めることができないので、 そのような波動関数はゼロにならなければならないからです。

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行列式 反対称関数

この反対称波動関数は行列式で書くことができます。

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スレーター行列

3個以上の電子の場合も、反対称波動関数は 以下のように、行列式で書けます。

この行列式をスレーター行列[Slater, 1929]と呼びます。

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ハートリー・フォック法

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フォック(Vladimir Fock)さん

1926年にクライン-ゴルドン方程式を一般化し、1930年にはハートリー-フォック法を開発。フォック空間、フォック表示、フォック真空、フォック状態など、フォックの名を冠した用語も多い。国際量子分子科学アカデミー会員、ソビエト連邦科学アカデミー(現在のロシア科学アカデミー)会員

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ハートリー・フォック法

1930年、フォックさんはハートリー法に スレーターさんの解法を応用しました。 量子化学の基幹理論の一つである ハートリー・フォック法を提案しました。 ちなみに、同じ年にスレーターさんも 同じ方法を提案しています。

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スレーター行列式

n個の軌道に電子が2個ずつ占有される閉殻系を考え、軌道を空間とスピンの座標の関数としたスレーター行列式を考えてみましょう。

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ハミルトニアン演算子の期待値 このとき電子は区別がつかないので、1電子積分に関する積分(1電子積分)は同じものがn個、 2電子演算子に関する積分(2電子積分)は同じものが{2n(2n-1)/2}個存在します。

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式の展開 式を展開します。

ここで、1電子積分について

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式の展開 さきほどの条件によって、1電子積分は同じものが (2n-1)!個となります。 さらにスピン、α, βに同じ空間軌道を用いるため、 スピンを考えずに、

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2電子積分

2電子積分は以下のようになります。

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ハミルトニアン演算子の期待値

1電子積分と2電子積分で書けるハミルトニアン演算子の期待値については以下のように表せます。

1電子積分と2電子積分で書けるハミルトニアン演算子の期待値については以下のように表せます。

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エルミートさん(Charles Hermite)

エルミート行列、エルミート演算子、エルミート多項式、一般的な五次方程式の解法を発見した。

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ハミルトニアン演算子

エルミート演算子が実の固有エネルギーを与えます。

これをハートリー・フォック方程式と呼びます。

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ハートリー・フォック方程式

この軌道エネルギーを使うと、全電子エネルギーは以下のように書けます。

全電子エネルギーが軌道エネルギーの2倍の和にならないのは、軌道エネルギーの和では 電子間相互作用を2回加えることになるからです。

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ハートリー・フォック方程式

よって、全エネルギーは全電子エネルギーに 核間反発エネルギーを加えた以下のような形式で 表されます。

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ハートリー・フォック方程式の解法

ハートリー・フォック方程式は、 ハートリー方程式と同様に非線形方程式であり 通常、SCF法によって解かれます。

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SCF法の手順 1. 分子系の情報(核座標、核電荷、電子数)と

初期参考分子軌道を設定する。

2. 参照分子軌道を使って、フォック演算子の 2電子演算子を計算する。

3. 計算したフォック演算子を使って ハートリーフォック方程式を解く。

4. 得られた分子軌道を参照分子軌道と比較し、 ある閾値以下の差であればこれを解とする。

5. 閾値以上であればこの軌道を参照分子軌道として、2に戻る。

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まとめ

1. 一般的に、ハートリーフォック法とはこのSCF法に基づく方法を指します。しかし、ハートリー・フォック方程式を解くのは、さほど簡単な問題ではないことがすぐに明らかになりました。

2. 分子の電子状態に対するハートリー・フォック方程式は人間の手で解けるものではありません。

3. 実際、分子の電子状態をハートリー・フォック方程式を解いて求めるには、汎用コンピュータの登場を待たなければなりませんでした。

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ローターン法 行列形式のSCF法

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汎用コンピュータの登場

1950年の商用コンピュータの登場をはじめとするコンピュータの実用化の 流れを受けて、コンピュータを利用した化学に向けた準備が進み始めました。

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ローターンさん (Clemens C. J. Roothaan)

IBM社の研究者であったローターンさんは コンピュータでハートリー・フォック方程式を解く方法、ローターン法を提案しました。

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ローターン法 IBM社の研究者であったローターンさんとホールさんが独立にコンピュータを使ったハートリー・フォック方程式の解法を提案しました。これをローターン法、ローターン・ホール法とも呼びます。 この手法の提案以降、量子化学の進展はコンピュータの発展と歩をそろえています。

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分子軌道系

LCAO-MO近似にもとづくと、分子軌道系は 以下のように展開できます。

展開係数は分子軌道(MO)係数と呼ばれます。

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基底関数

しかし、原子軌道をそのまま使うより、 それを模した基底関数を使った方が効率が良く、汎用性も高いことが知られています。 分子軌道の展開を使うと、ハートリー・フォック方程式は行列方程式になります。

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ハートリー・フォック 行列方程式

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ハートリー・フォック方程式を 行列方程式で表す

このとき

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ハートリー・フォック方程式を 行列方程式で表す

各項は、

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密度行列の概念を独立に提唱

John von Neumann Lev Landau

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密度行列

密度行列は分子軌道係数を使って以下のように表せます。

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密度行列の対角項 密度行列の対角項はそれぞれの分子軌道における 1電子の存在確率に相当します。 係数行列がゼロ行列になる以外の解をもつためには、 以下を満たさなくてはいけません。

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計算テクニック

ここで行列Fを行列F'を与えるように、以下のように 変換することで、対角化して、解きます。

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対角化を行う最も簡単な方法

あらかじめ基底関数を規格直交化しておくこと つまり、重なり行列Sが単位行列Eになるような基底関数を使えば、フォック行列を対角化するだけで済みます。実際、多くの汎用量子化学計算プログラムではこの手法がとられます。

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ローターン方程式のSCF法による解法 規格直交化された基底関数を使う場合、以下のような手順で、ローターン方程式の解を求めます。

1. 分子系の情報(核座標、核電荷、電子数)と規格直交化された基底関数系を設定する。

2. 1電子積分、2電子積分を計算する。 3. 初期分子軌道係数により、密度行列Pを計算する。 4. フォック行列Fを計算する。 5. フォック行列Fを対角化し、分子軌道係数と軌道エネルギー

を求める。 6. 新しい分子軌道係数で密度行列P'を計算します。 7. 得られた密度行列P'を変換前の密度行列Pと比較し、設定し

た閾値以下の違いしかない場合は収束したと判断し計算を終了する。閾値を超える場合は4に戻り、計算を続ける。

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全電子エネルギー

このSCF計算は、分子軌道をユニタリ変換して全電子エネルギーを下げています。したがって、SCF計算は分子軌道を緩和させるプロセスと見なすことができます。 この密度行列Pとフォック行列Fおよび1電子積分を使うと、全電子エネルギーは以下のようにして計算できます。

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ハートリー・フォック法 を学びました。

今回は

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基底関数 入門編 の予定です。

次回は

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動画でのハンズオン配信予定

http://www.youtube.com/user/hpcsystems