第 8 第 第第第第 第 第第第第 第
Jan 11, 2016
第 8章 景気指標
経済統計 ー ー
この章の内容
Ⅰ 景気の定義と景気循環a) 景気の定義b) 景気循環
ⅰ ) 景気循環の諸概念 ⅱ) 景気循環の要因
Ⅱ 景気を測定する方法c) 景気指標による景気の測定
ⅰ ) 採用系列と 3 本の指数 ⅱ) CI の算出とその見方ⅲ ) DI の算出とその見方 ⅳ) 景気転換点の設定 ⅴ)
累積 DI d) サーベイデータによる景気の測定
ⅰ ) 日銀「短観」 ⅱ) 内閣府 BSIⅲ )内閣府「景気ウオッチャー調査」
e) 計量経済モデルによる景気の測定
Ⅰ 景気の定義と景気循環a) 景気の定義 景気とは、「経済の全体的な状態」であるということができる。 しかし、「完全失業率」のような数値が「経済の全体的な状態」を示す数値として存在するわけではない。 そこで、 「経済の全体的な状態」 について、数値で表すことが可能なように定義する必要がある。代表的な定義としては次の3 つがある。 1. 景気 = 総体的経済活動 ととらえる考え方 2. 景気 = 実感 ととらえる考え方 3. 景気 = GDP ととらえる考え方これらの考え方は、後の景気を測定する方法に対応している。
b) 景気循環ⅰ )景気循環の諸概念 景気は、「良い」状態と「悪い」状態を交互にくり返す。そのくり返しを「景気循環」という。
景気循環の概念図
※ 山から山、または、谷から谷までを 1 循環といい、山から谷までを後退期、谷から山までを拡張期という。
山
谷後退期 拡張期
山
景気基準日付(内閣府経済社会総合研究所)
拡張 後退 全循環
第1循環 1951年6月 1951 10年 月 4ヵ月
第2循環 1951 10年 月 1954年1月 1954 11年 月 27ヵ月 10ヵ月 37ヵ月
第3循環 1954 11年 月 1957年6月 1958年6月 31ヵ月 12ヵ月 43ヵ月
第4循環 1958年6月 1961 12年 月 1962 10年 月 42ヵ月 10ヵ月 52ヵ月
第5循環 1962 10年 月 1964 10年 月 1965 10年 月 24ヵ月 12ヵ月 36ヵ月
第6循環 1965 10年 月 1970年7月 1971 12年 月 57ヵ月 17ヵ月 74ヵ月
第7循環 1971 12年 月 1973 11年 月 1975年3月 23ヵ月 16ヵ月 39ヵ月
第8循環 1975年3月 1977年1月 1977 10年 月 22ヵ月 9ヵ月 31ヵ月
第9循環 1977 10年 月 1980年2月 1983年2月 28ヵ月 36ヵ月 64ヵ月
10第 循環 1983年2月 1985年6月 1986 11年 月 28ヵ月 17ヵ月 45ヵ月
11第 循環 1986 11年 月 1991年2月 1993 10年 月 51ヵ月 32ヵ月 83ヵ月
12第 循環 1993 10年 月 1997年5月 1999年1月 43ヵ月 20ヵ月 63ヵ月
13第 循環 1999 1年 月 2000 11年 月 2002 1 年 月 22ヵ月 14ヵ月 36ヵ月
14第 循環 2002 1年 月 2008 2年 月 2009 3年 月 73ヵ月 13 ヵ月 86ヵ月
15第 循環 2009 3年 月 2012 4年 月 37ヵ月( )暫定 ( )暫定
期 間谷 山 谷
ⅱ ) 景気循環の要因 景気循環の要因は経済に内在するものか、外的なショックなのかはっきりとは分からないが、代表的な景気循環の要因として、次の 4 つを挙げる。 コンドラチェフ波 ( 技術革新 ) 約 50 年周期 クズネッツ波 ( 建設循環 ) 約 20 年周期 ジュグラー波 ( 設備投資 ) 8 ~ 10 年周期 キチン波 ( 在庫変動 ) 2 ~ 3 年周期
Ⅱ 景気を測定する方法 景気指標によるもの - 景気に敏感ないくつかの経済指標を
組み合わせた指数を作る ( 例 ) 景気動向指数 景気を「総体的経済活動」ととらえる考え方に対応
サーベイデータによるもの - 個人や企業経営者の予測や判断を利用するもの ( 例 ) 日銀「短観」、景気ウオッチャー調査
景気を「実感」ととらえる考え方に対応
計量経済モデルによるもの - 経済理論にもとづき、計量経済モデルを使う ( 例 )GDP についての計量分析
景気を「 GDP 」ととらえる考え方に対応
a) 景気指標による景気の測定
景気に敏感ないくつかの経済指標をくみあわせた景気指標としては、景気動向指数がある。
景気動向指数には、 2 種類のものがある。• CI(Composite Index) - 採用系列の変化率を合成したもの。景気
の量感を把握するために用いる。• DI(Diffusion Index) - 採用系列の変化方向を合成したもの。景
気転換点の判定等に用いる。 景気動向指数は、内閣府経済社会総合研究所が作成するもので
あり、景気の測定に関して、次のような手順がとられる。• 採用系列の選択• 景気動向指数の算出• 景気転換点の設定
ⅰ )採用系列と指数の種類 景気動向指数は、さまざまな分野の経済指標を集め、それを総
合化している。 そのためには、さまざまな経済指標から景気指標に有用なもの
を選択する必要がある。その基準として代表的なものは次の 6つである。
経済的重要性 経済活動のカヴァレッジが広いかどうか 統計的充足性 長期の系列が得られるか、データの改訂はどの程度おこなわれるか
タイミング 個別指標の転換点と景気基準日付のタイミングが規則的であるかどうか
対応性 拡張期・後退期との対応性がみられるか 平滑性 不規則変動が小さく、平滑な変動を示すかどうか 速報性 データの公表に速報性があるかどうか
このようにして選択された系列は、各系列の転換点と景気基準日付とのタイミングによって、先行系列、一致系列、遅行系列の 3 つに分類される。景気動向指数は、各系列ごとに指数化される。
先行指数(先行系列) 景気に先立った変化をするもの。予測に用いられる。
一致指数(一致系列) 景気の動きと一致した変化をするもの。現状把握に用いられる。
遅行指数(遅行系列) 景気の動きに遅れをともなった変化をするもの。事後確認に用いられる。
(= )一致系列 景気先行系列遅行系列
景気動向指数採用系列
1 ( )最終需要財在庫率指数 逆サイクル
2 (鉱工業生産財在庫率指数 逆サイクル)
3 ( )新規求人数 除学卒
4 ( )実質機械受注 船舶・電力を除く民需
5 新設住宅着工床面積
6消費者態度指数
7 ( )日経商品指数 42種
8長短金利差
9東証株価指数
10 ( )投資環境指数 製造業
11 D. I .中小企業売上げ見通し
1 ( )生産指数 鉱工業
2鉱工業生産財出荷指数
3大口電力使用量
4耐久消費財出荷指数
5 ( )所定外労働時間指数 調査産業計
6 ( )投資財出荷指数 除輸送機械
7 ( ) ( )商業販売額 小売業 前年同月比
8 ( ) ( )商業販売額 卸売業 前年同月比
9 ( )営業利益 全産業
10 ( )中小企業出荷指数 製造業
11 ( )有効求人倍率 除学卒
1 3 ( )第 次産業活動指数 対事業所サービス業
2 ( ) (常用雇用指数 調査産業計 前年同月比)
3 ( )実質法人企業設備投資 全産業
4 ( ) ( )家計消費支出 全国勤労者世帯 前年同月比
5 法人税収入
6 ( )完全失業率 逆サイクル
一致系列
系 列 名
遅行系列
先行系列
100
101
102
103
104
105
106
107
108
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
個別系列の仮想例
系列1
系列2
ⅱ ) CI の算出とその見方 CI ( Composite Index )は、個別指標の変化率に注目し、こ
れを基準化した上で、合成し、指数化したものである。 (例) ある時点において、系列 A は 0.5%増、系列 B は 0.2%増だったとする。ただし、系列 A はコンスタントに 0.5%前後増加しているのに対し、系列 B はほぼ横ばいの傾向を示しているなら、系列 Bの 0.2%増のほうが重要な意味を持つ。そのため、各系列の変化率を基準化し、合成する。そして、指数全体での変化率を求めて、前月にかけたものが CI となる。
当月値−前月値(当月値+前月値)/2
×100
対称変化率
2008 年 4 月より、日本でも CI が主な指標として公表されるようになった。それ以前は、 DI が主で CI は補完的な役割をであった。
なお、アメリカや韓国などは以前から CI が主である。
70.0
80.0
90.0
100.0
110.0
120.0
1999
年1月
1999
年6月
1999
年11
月20
00年
4月20
00年
9月20
01年
2月20
01年
7月20
01年
12月
2002
年5月
2002
年10
月20
03年
3月20
03年
8月20
04年
1月20
04年
6月20
04年
11月
2005
年4月
2005
年9月
2006
年2月
2006
年7月
2006
年12
月20
07年
5月20
07年
10月
2008
年3月
2008
年8月
2009
年1月
2009
年6月
2009
年11
月20
10年
4月20
10年
9月20
11年
2月20
11年
7月20
11年
12月
2012
年5月
2012
年10
月20
13年
3月20
13年
8月
DI
年・月
景気動向指数(CI)の一致系列
ある系列が極端な動きをした場合、その影響を受けやすいという指摘があったが、平成 16 年 10 月分からその値を「刈り込む」ことによって、だいぶ改善された。
※ 刈り込み平均 オリンピックの体操競技などでは、最高点をつけた審判員と最低点をつけた審判員の点数を除いて平均を算出することで、極端な点数がつかないようにしている。これが刈り込み平均の考え方である。
この場合の「刈り込む」とは、最高点をつけた審判員の値を一定の値以下に、最低点をつけた審判員の値を一定の値以上にすることによって、外れ値の影響を少なくすることである。
ⅲ ) DI の算出とその見方 DI は CI のように景気を量的に把握する指数ではなく、あくま
でその変化の方向を見るための指標である。 個々の系列の値を 3 か月前と比較し、その増減を調べる。 増加系列 1 点、現状維持 0.5 点、減少系列 0 点を与え、系列数
で割り 100倍したものが DI
このようにして求められた DI は、景気の良し悪しを量的に表すものではない。すなわち、
DI の大きさ ≠ 景気 DI が 50 をまたぐときが景気の転換点 山 50 より大 → 50 より小 谷 50 より小 → 50 より大 DI=100 は景気が最も良い時期ではなく、すべての系列が増加しているということ。すなわち、拡張期であることを示している。反対に DI=0 は景気が最も悪い時期ではなく、すべての系列が減少しているということ。すなわち、後退期であることを示している。
グレーの網掛けの部分は後退期をあらわす
0.0
50.0
100.0
1999
年1月
1999
年6月
1999
年11
月20
00年4月
2000
年9月
2001
年2月
2001
年7月
2001
年12
月20
02年5月
2002
年10
月20
03年3月
2003
年8月
2004
年1月
2004
年6月
2004
年11
月20
05年4月
2005
年9月
2006
年2月
2006
年7月
2006
年12
月20
07年5月
2007
年10
月20
08年3月
2008
年8月
2009
年1月
2009
年6月
2009
年11
月20
10年4月
2010
年9月
2011
年2月
2011
年7月
2011
年12
月20
12年5月
2012
年10
月20
13年3月
2013
年8月
DI
年・月
景気動向指数(DI)の一致系列
山
谷後退期 拡張期
山
( )景気動向指数 一致系列
0
50
100
景気循環
DI の変動
ⅳ )景気転換点の設定 DI が 50 をまたぐときが景気の転換点であるが、実際の DI の動
きは不規則変動が多く、転換点を見つけるのは困難である。 そこで、各系列ごとに山、谷を設定し、谷から山まではすべて+、山から谷まではすべて-の符号を与える。 ( これによって不規則変動が取りのぞかれる ) 。この系列から作成した DI をヒストリカル DI といい、ヒストリカル DI が 50 をまたぐ時点を景気転換点とする。
最終的には、景気動向指数研究会の議論を経て、景気基準日付が決定される。
景気動向指数研究会では転換点の決定のほかに、採用系列の改訂が議論され、改訂が決定した場合には、過去にさかのぼってDI の算出がおこなわれる。
ⅴ )累積 DI 景気の変化の方向を把握するための DIだけでは不十分だとし
て、景気の良し悪しを量的に把握するための指標として、累積DI というものがある。 (CI も以前は、 DI の補完的なものとして作成されていた )
累積 DI は、ある時点 (現在は 1980 年 1 月 ) を 0 とし、それに毎月の DI から 50 を引いたものを加えていったものである。
)50(1 ttt DIDIDI 累積累積
500.0
1000.0
1500.0
2000.0
2500.0
0.0
50.0
100.0
1991
.119
91.1
219
92.1
119
93.1
019
94.9
1995
.819
96.7
1997
.619
98.5
1999
.420
00.3
2001
.220
02.1
2002
.12
2003
.11
2004
.10
2005
.920
06.8
2007
.720
08.6
2009
.520
10.0
420
11.0
320
12.0
220
13.0
1
累積DIDIDIと累積DI(一致系列)
DI
累積DI
b) サーベイデータによる景気の測定 サーベイデータとは、個人や企業経営者の予測や判断について
のアンケートのデータである。 サーベイデータの結果をあらわすとき、判断 DI などいったもの
が用いられることがよくあるが、これは景気動向指数の DI とは作成方法が全く異なり、 「良い」という回答の割合から 「悪い」という回答の割合を引いたものである。
そのため、 -100 から +100 までの値をとり、景気循環と同様の動きをする。
ⅰ )日本銀行「企業短期経済観測調査」(通称「短観」)
全国の資本金2千万円以上の民間企業(金融機関を除く)約22万社から約1万社を標本として選び、3ヶ月ごとに業況判断や事業計画などについての調査をおこなっている。
業況判断 DI =「良い」という回答社の割合 (%) - 「悪い」という回答社の割合 (%)
グレーの網掛けの部分は内閣府の景気基準日付による後退期をあらわす
-60
-40
-20
0
20
40
60
1987
.01
1988
.02
1989
.03
1990
.04
1992
.01
1993
.02
1994
.03
1995
.04
1997
.01
1998
.02
1999
.03
2000
.04
2002
.01
2003
.02
2004
.03
2005
.04
2007
.01
2008
.02
2009
.03
2010
.04
2012
.01
2013
.02
年・四半期
日銀「短観」業況判断DI
ⅱ ) 内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」 国内の景況判断 BSI ( Business Survey Index ) 資本金1千万円以上の法人企業約 15,000 社を選び、 3ヶ月ごとに調
査する。 国内景気について、 BSI =「上昇」という回答社の割合
(%) - 「下降」とい
う回答社の割合 (%)
グレーの網掛けの部分は内閣府の景気基準日付による後退期をあらわす※ 平成 15 年度以前にあった、内閣府「法人企業動向調査」と財務省「景気予
測調査」を一元化したものである。平成 15 年度以前のデータは、「法人企業動向調査」による。
-100-80-60-40-20
0204060
1987
.01
1988
.02
1989
.03
1990
.04
1992
.01
1993
.02
1994
.03
1995
.04
1997
.01
1998
.02
1999
.03
2000
.04
2002
.01
2003
.02
2004
.03
2005
.04
2007
.01
2008
.02
2009
.03
2010
.04
2012
.01
2013
.02
内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」国内景気BSI
ⅲ )内閣府「景気ウオッチャー調査」景気の現状判断DI
景気に関連深い経済活動項目の動向を観察できる立場にある人2050 人に対して、毎月調査をおこなっている。
景気の現状判断 DI - 身の回りの景気は 3ヶ月前と比べてどうなっているかを聞き、その割合 (%) に下の表のような点数をかけて加えたものが現状判断 DI
グレーの網掛けの部分は内閣府の景気基準日付による後退期をあらわす
良くなっている
やや良くなっている
変わらない やや悪くなっている
悪くなっている
1 0.75 0.5 0.25 0
15.020.025.030.035.040.045.050.055.060.0
2000
年1月
2000
年6月
2000
年11
月20
01年
4月20
01年
9月20
02年
2月20
02年
7月20
02年
12月
2003
年5月
2003
年10
月20
04年
3月20
04年
8月20
05年
1月20
05年
6月20
05年
11月
2006
年4月
2006
年9月
2007
年2月
2007
年7月
2007
年12
月20
08年
5月20
08年
10月
2009
年3月
2009
年8月
2010
年1月
2010
年6月
2010
年11
月20
11年
4月20
11年
9月20
12年
2月20
12年
7月20
12年
12月
2013
年5月
2013
年10
月
内閣府「景気ウオッチャー調査」現状判断DI
c) 計量経済モデルによる景気の測定 GDP (国内総生産)は国内の経済活動で生まれる付加価値の合
計である。この GDP の動きこそ景気の動きに一致すると考えることもできる。
この GDP の予測には、さまざまな計量経済モデルが用いられる。
400,000420,000440,000460,000480,000500,000520,000540,000
1994
Ⅰ
1995
Ⅱ
1996
Ⅲ
1997
Ⅳ
1999
Ⅰ
2000
Ⅱ
2001
Ⅲ
2002
Ⅳ
2004
Ⅰ
2005
Ⅱ
2006
Ⅲ
2007
Ⅳ
2009
Ⅰ
2010
Ⅱ
2011
Ⅲ
2012
Ⅳ
GDP
年・四半期
実質GDP(季節調整値)の推移
実質 GDP (季節調整値)の対前期増加率
-5-4-3-2-10123
1994
Ⅰ
1995
Ⅰ
1996
Ⅰ
1997
Ⅰ
1998
Ⅰ
1999
Ⅰ
2000
Ⅰ
2001
Ⅰ
2002
Ⅰ
2003
Ⅰ
2004
Ⅰ
2005
Ⅰ
2006
Ⅰ
2007
Ⅰ
2008
Ⅰ
2009
Ⅰ
2010
Ⅰ
2011
Ⅰ
2012
Ⅰ
2013
Ⅰ
GDP
年・四半期
実質GDP(季節調整値)(変化率)の推移