沼津藩を知るためのABC
樋口雄彦氏の著作発刊機に講演会
『シリーズ藩物語沼津藩』の刊行を記念
し、著者の樋口雄彦氏(国立歴史民俗博物館
教授、元明治史料館学芸員)による講演会が
二十一日、マルサン書店仲見世店で開かれ
た。約五十人の聴講者があった。
水野家の履歴と藩士を解説
旧藩を知るよすが保存を
樋口氏は「沼津藩を知るための ABC」と
題し、江戸時代後半に現在の泊津市の一部
を治めた沼津藩について、藩主だった水野
家の来歴と藩士の全体像を話した。
徳川家康の母の実家である水野家は、元
は松本藩(長野県松本市)の藩主だったが、六
代藩主忠恒(ただつね)が江戸城内で傷害事
件を起こして藩は取りつぶしとなり、約五
十年後に沼津藩主として大名に復帰した。
沼津第二代の忠成(ただあきら)は幕府の老
中首座を務めた。現在の首相のような立場
だったという。
約六百家があった藩士については、松本
時代の家臣を再雇用しただけでなく、柳沢
の小野氏や岡宮の持田氏など沼津近辺の農
民から藩士に取り立てられた例もあったこ
とを話した。
沼津藩は幕末、上総(かずさ=現在の千葉
県)に移転となり、沼津城も明治になって取
り壊された。このため、沼津藩の存在を現
在に伝える遺物は、光長寺辻之坊に移築さ
れた城内中門や、市内寺院に残る藩士の墓
などに限られている。
しかし、少子化による影響で墓の無縁化
も進み、廃棄される墓石もあるという。
樋口氏は、旧藩士の氏名などの情報が刻
まれた墓石を「野外の人名事典」と呼び、
墓石の管理は非常にプライベートな問題な
ので外部からの干渉には配慮が必要である
と前置きしつつ、「個人墓であっても、沼津
共通の歴史の痕跡となるもの。できれば残
してもらいたいし、整理するのであれば、
せめて拓本や写真などの記録を取ってほし
い」と呼びかけた。
また、沼津藩の歴史を明らかにする上で
の今後の重要課題として、現在は千葉県鎌
ケ谷市の郷土資料館に保管されている藩士
履歴史料の活字化と刊行を挙げ、これらの
作業が進められることへの期待を語った。
◇
樋口氏が執筆した『シリーズ藩物語沼津
藩』は、現代書林が国内全藩網羅を目指し
て刊行を続けているシリーズの一冊。藩士
の紹介に多くのページが費やされている特
徴があるほか、樋口氏は幕末維新期が専門
であることから、沼津藩消滅後の明治時代
を生きた藩関係者の動向が詳しく取り上げ
られている。
価格は千六百円(税抜き)。マルサン書店各
店などで販売している。
【沼朝平成 29年 1月 25日(水)号】