1. 腎臓に関する検査値の読み方
2. 腎機能障害へのアプローチ
① 腎機能の評価
Q1 ) Cre 0.90 なら腎機能は問題な
い?
GFR ( 糸球体濾過量 ) とは
• 単位時間あたりに糸球体で濾過される血漿の量
• イヌリンクリアランスで測定
eGFR とは
• (体表面積が 1.73m2 と仮定した場合の) GFR の推算値
• 血清クレアチニン、年齢、性別から推
定eGFR=194×Cr-1.094× 年齢 -0.287(mL/min/1.73m2) ※女性では ×0.739
腎機能の低下速度
• 45 歳まで 0.4 mL/min/1.73m2
• 45 歳以上 0.8 mL/min/1.73m2
• 蛋白尿があると低下速度は 2 倍
Q1) Cre 0.90 なら腎機能は問題ない?
A1) 年齢・性別によって変わってくる。
20 歳男性⇒ eGFR 92.1mL/min/1.73m2
80 歳女性⇒ eGFR 45.7mL/min/1.73m2
② 尿検査の読み方
Q2 ) 黄疸 + 尿中ウロビリノゲン陰
性?
意外と奥が深い尿検査
• pH
• アシデミアの時は通常尿も酸性 (pH<5.0) になる
• もし尿 pH>5 ならば尿細管アシドーシス
• 尿比重
• 尿比重 >1.030 ならば脱水を考える
尿比重 尿浸透圧
1.010 3501.020 7001.030 1050
意外と奥が深い尿検査
• 尿潜血
• 尿潜血陽性+尿沈渣で赤血球あり⇒血尿
• 尿潜血陽性+尿沈渣で赤血球なし⇒ヘモグロビン尿 or ミオグロビン尿
• 亜硝酸塩
• 腸内細菌群が亜硝酸塩を産生する
• 腸球菌や緑膿菌では陰性
• 白血球反応
• 高齢者では尿路感染症とは無関係な白血球尿が多い
尿検査と尿路感染症
感度 特異度 LR+ LR-白血球反応陽性 74-96 94-98 17 0.3亜硝酸塩陽性 35-85 92-100 15 0.4白血球反応陽性&亜硝酸塩陽性 75-84 82-98 8.0 0.2
グラム染色(未遠心) 93 95 19 0.1
Am Fam Physician. 2005 Mar 1;71(5):933-42
尿糖陽性は糖尿病だけじゃない
• ブドウ糖
• 血糖値 >180 を超えると尿糖陽性に
• ブドウ糖を再吸収する近位尿細管の障害でも尿糖陽性(=
腎性糖尿)
• ケトン体
• アセト酢酸とアセトンを検出
• DKA で優位な 3- ヒドロキシ酪酸 (3-OHBA) は検出できない
尿検査で黄疸の鑑別?
• 尿中ビリルビン• 直接ビリルビン増加を示唆
• ウロビリノゲン
• ビリルビンが腸内細菌で分解されると産生• 黄疸でも腸肝循環が分断される ( =閉塞性黄疸 ) と
陰性になる• 便秘でも増加
Q2) 黄疸 + 尿中ウロビリノゲン陰性?
A2) 閉塞性黄疸
黄疸 尿中ビリルビン ウロビリノゲン溶血性黄疸 - +++
肝細胞性黄疸 + +++閉塞性黄疸 + -
③ 尿蛋白の評価
Q3 ) 蛋白尿 (2+) (1+)⇒ なら蛋白尿が減って
きている?
尿蛋白定性の限界
• アルブミンしか検出できない
• Bence-Jones 蛋白は検出できない
• 起立性蛋白尿、熱性蛋白尿には病的意義なし
• 早朝第一尿、解熱後に再検を
• 尿の希釈や濃縮の影響を受ける
• 尿蛋白の定量はできない、増減の評価できない
• 微量アルブミン尿があっても陰性になる可能性
1日尿蛋白排泄量を推定する方法 蛋白/ Cre 比
• 24時間蓄尿して尿蛋白を定量するのが理想だが・・・• 実は1日 Cre 排泄量は約 1g とされているので・・・
• 随時尿の蛋白/ Cre 比を 1 日尿蛋白量の近似値と考える
• 0.5g/gCr 以上なら専門医に紹介( 3.5g/gCr 以上はネフローゼ症
候群)
1日尿蛋白排泄量=随時尿蛋白濃度 ×
=随時尿蛋白濃度 ×
≒随時尿蛋白濃度 ×
≒
Q3) 蛋白尿 (2+) (1+)⇒ なら蛋白尿が減ってきている?
A3) 希釈尿の影響かもしれない。 尿蛋白/ Cre 比で確認を。
尿蛋白 (2+)
尿蛋白 100 mg/dL尿 Cre 200 mg/dL
蛋白 /Cre 比 0.5 g/gCr
尿蛋白 (1+)
尿蛋白 30 mg/dL尿 Cre 30 mg/dL
蛋白 /Cre 比 1.0 g/gCr
尿沈渣:血尿の鑑別
• 赤血球 5個以上 /400 倍⇒血
尿
• 糸球体性 or 非糸球体性
糸球体性血尿
• 変形赤血球
• 赤血球円柱
• 蛋白尿 (0.5g/ 日以上 ) を伴う
腎疾患の可能性!腎臓内科医へ紹
介
非糸球体性血尿
• 赤血球形態は正常
•円柱はみられない
•凝血塊がみられる
尿路系疾患を示唆
悪性腫瘍・尿路結石・尿路感染症を鑑別
腹部エコー、尿細胞診など
円柱
• 腎集合管で作られる
• 腎臓で何か異常が起きていることを示す
• 硝子円柱:病的意義なし
• 赤血球円柱:激しい糸球体腎炎
• 白血球円柱:腎臓での炎症全般
•脂肪円柱:高度の蛋白尿
尿細管上皮由来の円柱
• 上皮円柱:急性尿細管壊死を示唆
• 顆粒円柱:上皮円柱が変性したもの
• ろう様円柱:上皮円柱のなれの果て
• 幅広円柱:尿細管の拡大・萎縮を反映、高度の腎機能障害を示唆
Hospitalist Vol 2 No 1 2014 特集・腎疾患 メディカル・サイエンス・インターナショナル
急激な腎機能悪化 = AKI (急性腎障害)
1. 腎臓に関する検査値の読み方
2. 腎機能障害へのアプローチ
腎機能障害へのアプローチ
• 障害部位はどこか?腎前性
腎性
腎後性
腎機能障害へのアプローチ
Step 1まずは腎後性を除外せよ
症例1)
74歳男性
前立腺肥大症にて泌尿器科通院中
呼吸苦を訴えて来院
採血にて Cr 2.31 と腎機能障害を認めた
まず行う検査は?
エコー!
水腎症
腎後性:エコー所見からの鑑別• 水腎症⇒尿路の閉塞
• 膀胱虚脱⇒上部尿路の閉塞
• 尿路結石
• 悪性腫瘍による尿管閉塞
• 膀胱充満⇒下部尿路の閉塞
• 前立腺肥大症
• 前立腺癌
• 膀胱癌
腎機能障害へのアプローチ
Step 2病歴・身体所見で腎前性の可能性を考慮せよ
症例2)
66歳女性
腹痛・下痢・体動困難のため救急搬送
採血にて BUN 40.3, Cr 1.85 と腎機能障害を認め
た
確認したい身体所見は?
細胞外液量減少の身体所見(成人)
感度 特異度 LR+
脈拍数増加 43 75 1.7
口腔粘膜の乾燥 85 58 2.0
眼球陥凹 62 82 3.4
腋窩の乾燥 50 82 2.8
Capillary refilling time 34 95 6.9
JAMA. 1999 Mar 17;281(11):1022-9
腎前性:血液・尿検査で確認
• を計算
• 脱水ならば腎臓は Na を再吸収する
• 尿中に Na が排泄されにくくなる
•従って腎前性では FENa < 1% と低値になる
FENa が使えない状況
•嘔吐などで代謝性アルカローシスがある場合
• HCO3 と一緒に Na も尿中に排泄してしまう
• FECl<1% が有用
•利尿剤を使用している場合
• 利尿剤の影響で尿中 Na 排泄が増加している
• FEUN<35% が有用
• BUN/Cr>15 もそこそこ有用
腎前性・腎性の鑑別
Kidney Int. 2002 Dec: 62(6): 2223-9
BUN/Cr>15 FENa<1% FEUN<35%0
102030405060708090
100
88 92 9085
48
89
204 4
腎前性 腎前性+利尿剤 腎性
現実は・・・
• 腎前性と腎性を厳密に区別するのは困難!
• 腎の低潅流による腎機能低下 vs虚血性の ATN
• 病歴から腎前性の可能性がありそうならとりあえず輸
液してみる
• 診断的治療
volume responsive AKI / volume unresponsive AKI
腎機能障害へのアプローチ
Step 3薬剤に注意せよ
症例3)
70歳女性
変形性膝関節症に対してロキソニン内服中。
他にはガスターとマグラックスも内服している。
最近痛みがひどく、ボルタレンサポを頻用してい
た。
採血にて Cr 3.12 と腎機能障害を認めた。腎機能障害の原因は?中止すべき薬剤は?
本当は怖い NSAIds
• NSAIDs は腎血流量を減少させ腎前性腎不全をきたす
• 特に脱水、高齢者、心不全時、利尿薬投与時は危険
• NSAIDs は間質性腎炎も引き起こすことがある
• 間質性腎炎の特徴(揃わない事が多い)
• 発熱
• 皮疹
• 好酸球増多
• 無菌性膿尿
ヨード造影剤による造影剤腎症
• GFR<45ml/min/1.73m2 では輸液による予防を行う
• 生食 1ml/kg/hr を 6~ 12 時間前から
• 終了後も 1ml/kg/hr で 4~ 12 時間持続
• 利尿薬や NSAIDs は中止
cf) 造影 MRI 検査で使用されるガドリニウム造影剤
• GFR<30ml/min/1.73m2 では腎性全身性線維症を起こすため禁忌
• GFR30~59ml/min/1.73m2 では利益がリスクを上回る場合のみ
腎機能障害時に注意する薬剤
• H2 ブロッカー ガスター、アシノン、ザンタックなど
• 蓄積により痙攣・錯乱や血球減少
•マグネシウム下剤 酸化マグネシウム、マグラックスな
ど
• 高Mg血症
•ジギタリス
• 血中濃度正常範囲でも、房室ブロック・消化器症状
• ACE阻害薬・ ARB• 急激な腎機能低下をきたす可能性
腎機能障害時に注意する薬剤
• 抗菌薬
• Β ラクタム系のほとんどが腎排泄
• セフトリアキソン、セフォペラゾンは胆汁排泄
• キノロン系、アミノグリコシド系、グリコペプチド系は腎排泄
• 抗真菌薬:フルコナゾール、ボリコナゾールは腎排泄
• 抗ウイルス薬:アシクロビル、オセルタミビルなど
• スタチン
• 横紋筋融解症のリスク
腎機能障害へのアプローチ
Step 4適切なタイミングで専門医に紹介
症例4)
72歳男性、高血圧、狭心症の既往あり。
関節リウマチにてリウマトレックス , プログラフ ,ボルタ
レン内服中。
半年前より徐々に腎機能が悪化してきていた。
1カ月前より食欲低下、傾眠傾向あり。
採血にて Cr 6.75 と著明な腎機能障害を認めたためコンサ
ルト。 このコンサルトのタイミングは適切?
専門医紹介のタイミング
• 適切なタイミングで専門医に紹介し、腎機能悪化の進行を
阻止すべき
• 日本腎臓学会「CKD患者を腎臓専門医に紹介すべき場合」• 高度の蛋白尿( 2+ 以上 or 0.50g/gCr 以
上)
• 蛋白尿と血尿がともに陽性
• GFR 50ml/min/1.73m2 未満
• RPGN が疑われる場合(急速な腎機能悪
化)
腎性腎不全はその後どうなるか
•緊急透析の必要性を判断
• 適応があれば腎生検
• 病理所見と臨床所見を総合して診断
• 最適な治療法を選択
病理コア画像 http://pathology.or.jp/corepictures2010/index.html
緊急透析か保存的治療か
問題となる病態 臨床所見 保存的治療
体液過剰 全身浮腫胸腹水呼吸状態の悪化
利尿薬 フロセミド 200mg まで サイアザイド、トルバプタン
代謝性アシドーシス
心機能低下意識障害
炭酸水素ナトリウム
高カリウム血症 房室ブロック高度徐脈
グルコン酸カルシウムGI療法陽イオン交換樹脂利尿薬
尿毒症 嘔気、倦怠感など 吸着炭(クレメジン® )
薬物中毒 下剤・胃洗浄・吸着剤
末期腎不全はその後どうなるか
•不可逆性の変化であれば腎生検の適応なし
• 腎機能が廃絶していれば透析導入・・・
病理コア画像 http://pathology.or.jp/corepictures2010/index.html
透析治療とは
維持透析のスケジュール
• 週3回(月水金 or 火木土)• 1回4時間• 一生続く
維持透析の医療費
例: 65 歳未満、市町村民税額(所得割) 3万 3千円未満の課税世帯の透析患者Aさん (自立支援医療自己負担限度額 5,000円)の場合
腎不全に出くわしたら・・・(まとめ)
これ以上悪くしないこと、誤った判断をしないことが大事
DO NO HARM !!
腎不全に出くわしたら・・・(まとめ)
• 腎後性除外のために超音波検査
•正常な血圧の維持
•適切な輸液 診断的治療もあり
•有害な薬剤( NSAIDs 、 RAS阻害薬)の中止
•薬剤投与量の見直し
主な参考文献
• 今井直彦 「極論で語る腎臓内科」 丸善出版
• Hospitalist Vol 2 No 1 2014 特集・腎疾患 メディカル・サイエ
ンス・インターナショナル
• 日本腎臓学会編 「CKD診療ガイド2012」 東京医学社
• 酒見英太監修 上田剛士著 「ジェネラリストのための内科診断リファレンス」 医学
書院
• 救急・集中治療 Vol 23 No 11-12 2011 ワンランク上の検査値の読み方・考え方
• 全国腎臓病協議会 http://www.zjk.or.jp/index.html• 病理コア画像 http://pathology.or.jp/corepictures2010/index.html• I Heart Guts http://iheartguts.com/