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経済産業省委託調査 平成 28 年度産業経済研究委託事業 (法人課税負担の実態に関する調査) 報告書 平成 29 年 3 月
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平成 28 年度産業経済研究委託事業 (法人課税負担の実態に ...4 表 1 変化なし・増税・減税企業の企業数・平均値比較 ìFúFç Q&ï ö&ï ìFúFç

Oct 22, 2020

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  • 経済産業省委託調査

    平成 28 年度産業経済研究委託事業

    (法人課税負担の実態に関する調査)

    報告書

    平成 29 年 3 月

  • <目 次>

    第 I 章 本調査の目的および全体方針 ...................................................................................... 1

    1. 調査の目的 ......................................................................................................................... 1

    2. 調査の内容と本報告書の構成 ............................................................................................ 1

    第 II 章 法人実効税率引き下げ・外形標準課税拡大の影響分析 .............................................. 3

    1. 分析に用いたデータの概要 ................................................................................................ 3

    2. 法人税改革の影響分析の枠組み......................................................................................... 9

    3. 分析結果 ........................................................................................................................... 14

    4. 分析結果のまとめ ............................................................................................................ 30

    第 III 章 諸外国における法人税改革の動向 .......................................................................... 31

    1. 法人税制を巡る各国の状況 .............................................................................................. 31

    2. イギリス ........................................................................................................................... 34

    3. ドイツ .............................................................................................................................. 48

    第 IV 章 アンケート調査 ...................................................................................................... 61

    1. アンケート調査の概要 ..................................................................................................... 61

    2. 内部留保 ........................................................................................................................... 63

    3. 情報処理関連支出 ............................................................................................................ 71

    4. 連結納税・租税特別措置 ................................................................................................. 75

    5. 参考 .................................................................................................................................. 78

  • 1

    第 I 章 本調査の目的および全体方針

    1. 調査の目的

    日本においては、法人実効税率の引下げを実行する中で、租税特別措置について、毎年

    度、期限が到来するものを中心に、廃止を含めてゼロベースで見直しを行うとの方針が示

    されているが、経済実態に即し、機動的に措置されることが重要である。

    そこで本調査では、今般の法人税改革や、生産性向上設備投資促進税制、所得拡大促進

    税制、研究開発税制等を中心に、我が国の中堅・大企業を対象として、法人課税負担の軽

    減が与える効果等を調査する。また、欧米等の諸外国の制度改正動向等を整理するととも

    に、それらや既存の統計を踏まえ、必要な政策立案に資するデータを整備し分析する。

    2. 調査の内容と本報告書の構成

    本調査の内容と報告書の構成は以下の通りである。

    (1) 定量分析

    第Ⅱ章では、アンケートで収集したデータを用いて、平成 27年度法人税改革における法

    人実効税率引き下げおよび外形標準課税拡大の影響を定量的に分析している。分析方法と

    しては、税制改革によって負担が変化しなかった企業、増税となった企業、減税となった

    企業についてアウトカムを比較している。分析対象としたアウトカムは、投資(国内外設

    備投資および研究開発投資)、雇用(従業員数)、賃金(一人当たり年収)、生産性(一人当

    たり売上総利益および全要素生産性)の 4つである。

    アウトカムの比較にあたっては、単純比較に加えて、Propensity Score Matching を用い

    た分析も行っている。

    (2) 諸外国における法人税改革の動向

    第Ⅲ章では、諸外国における法人税改革の動向を整理しており、以下の 3 つのパートで

    構成されている。

    第一は、諸外国における法人税改革のトレンドの把握である。諸外国では、法人税率を

    引き下げ、課税ベースを拡大する改革が進んでいるが、その動向を整理している。

    第二は、イギリスにおける法人税改革に関する調査結果である。イギリスは、主要先進

    国で最も低い法人税率でありながら、経済活性化のため更なる法人税率の引き下げを実施

    している。その背景や評価を、現地調査を踏まえながら整理している。

    第三は、ドイツにおける法人税改革に関する調査結果である。ドイツは、日本と産業構

    造が類似しており、2008年に大規模な法人税改革を行っている。2008年法人税改革の背景

    とそれ以降の動向について、現地調査を踏まえながら整理している。

  • 2

    (3) アンケート調査

    第Ⅳ章では、本調査で実施したアンケート調査結果の概要を取りまとめている。アンケ

    ート調査の対象は税法上の大企業(資本金 1 億円超)および中小企業(資本金 1 億円ちょ

    うど)であり、経営上の課題について企業の動向・意向を把握した。

  • 3

    第 II 章 法人実効税率引き下げ・外形標準課税拡大の影響分析

    1. 分析に用いたデータの概要

    (1) データおよび分類

    分析は、本調査で実施した資本金1億円以上の企業 20,500 社に対するアンケート調査を

    用いる(アンケート調査の詳細は第 IV 章参照)。企業規模および産業の分類も第 IV 章と

    同様である。

    (2) 企業の特性比較

    アンケート対象企業の特性を、法人税改革によって税負担が変化しなかった企業、増税

    となった企業、減税となった企業のそれぞれについて示したものが表 1 である。増減税の

    定義と企業規模・産業分類の定義については後述している。

    アンケート回答企業は規模が大きくかつ所得の多い企業が多いため、全体としては「減

    税」に区分される企業数が大きくなっている。

    平均値をみると、変化なし企業は売上高からみても常用従業員数でみても規模がもっと

    も大きく、次いで減税企業の規模が大きく、増税企業は全体として規模は小さい。しかし

    常用従業員一人当たり売上総利益をみると、変化なし企業と減税企業の差はあまり大きく

    ない。

  • 4

    表 1 変化なし・増税・減税企業の企業数・平均値比較

    変化なし 増税 減税 変化なし 増税 減税 変化なし 増税 減税 変化なし 増税 減税 変化なし 増税 減税建設業 48 40 123 15,477 9,416 19,021 452.0 189.7 301.1 5.9 10.6 15.8 -1.1 2.5 -14.3素材型製造業 126 54 117 11,870 8,678 14,979 198.9 261.4 218.3 11.3 12.5 24.9 0.2 3.0 -13.9加工組立型製造業 107 62 130 38,532 7,563 18,544 543.3 253.1 288.2 6.9 5.2 10.3 1.5 2.6 -13.8その他製造業 101 61 118 12,326 5,895 9,458 297.1 191.3 228.9 13.6 9.5 13.5 -1.1 2.6 -8.8インフラサービス 235 117 209 8,083 5,450 18,847 301.9 271.4 317.7 15.5 8.9 30.2 -0.3 2.7 -13.3卸小売業 123 125 289 26,017 15,464 130,855 368.6 362.7 305.1 26.2 24.1 32.5 -0.5 3.0 -10.9金融・不動産業 104 83 206 2,495 1,382 4,798 45.7 22.3 65.7 59.8 23.1 46.8 -0.5 0.7 -8.4その他サービス業 215 179 214 8,790 3,935 7,309 475.3 471.8 372.2 23.3 8.2 29.5 -1.0 2.2 -7.2建設業 30 15 54 168,413 70,267 258,642 2,496.6 899.7 2,771.0 8.7 7.3 15.0 -19.7 19.3 -201.3素材型製造業 123 42 94 465,166 96,035 146,841 6,110.2 1,779.6 2,054.8 17.2 22.1 19.2 -0.7 13.0 -167.8加工組立型製造業 137 41 82 667,176 79,548 714,577 12,169.8 1,394.9 10,131.2 9.3 6.5 14.0 -4.5 21.0 -566.7その他製造業 66 34 56 217,240 42,884 108,275 3,137.3 1,236.3 1,803.7 20.7 9.5 20.9 -14.2 13.3 -65.3インフラサービス 144 38 77 113,722 20,614 168,185 4,172.1 675.9 3,360.7 31.1 32.2 30.9 -14.8 14.0 -278.1卸小売業 76 41 108 694,541 319,295 291,685 7,510.4 2,765.9 2,476.0 23.6 19.6 59.5 -21.9 26.3 -94.3金融・不動産業 101 49 114 50,359 36,476 60,269 903.1 217.2 819.5 275.4 40.1 49.0 -5.2 17.9 -110.9その他サービス業 84 56 53 174,203 59,050 52,036 2,236.7 945.6 1,785.3 51.5 30.2 81.7 -14.3 19.7 -59.4

    1,820 1,037 2,044 157,849 32,985 99,615 2,513.7 580.5 1,164.2 33.6 16.0 30.5 -4.4 7.2 -68.3合計

    ネット増減税(百万円)

    平均値

    中堅企業

    大企業

    常用従業員一人当たり売上総利益(百万円)

    企業数売上高(百万円) 常用従業員数(人)

  • 5

    (3) 母集団とアンケート回答企業の比較分析

    ① 会社標本調査との比較

    表 2~表 4 は、会社標本調査とアンケート回答企業の属性を、所得区分と資本金区分で

    比較したものである。表 3は全体に占める各セルの割合を示しており、表 4は資本金企業

    ごとの企業数に占める各セルの割合を示している。表 4 をみると分かるように、同じ資本

    金区分内でみても、アンケート回答企業の方が欠損法人が少なく、所得が大きな企業が多

    い傾向にあることが分かる。

    ② 経済センサスとの比較

    表 5~表 7 は同様に、経済センサスとアンケート回答企業の属性を、産業区分と資本金

    区分で比較したものである。表 7で見ても、アンケート回答企業は資本金 10億円未満の企

    業が少なく、資本金 10 億円以上の企業についても、全体的には資本金 50 億円以上の超大

    企業の割合が高いことが分かる。

  • 6

    表 2 法人数の比較(会社標本調査・アンケート)

    表 3 全体割合の比較(会社標本調査・アンケート)

    表 4 資本金区分ごとの割合の比較(会社標本調査・アンケート)

    会社標本調査 アンケート資本金区分 資本金区分

    10億円以下100億円

    以下100億円超

    合計(1億円超)

    10億円以下100億円

    以下100億円超

    合計(1億円超)

    所得区分 欠損法人 4,133 822 219 5,174 所得区分 欠損法人 520 162 74 7561億円以下 5,960 683 107 6,750 1億円以下 1,095 176 20 129110億円以下 4,697 1,080 135 5,912 10億円以下 1440 395 55 189010億円超 1,137 1,331 632 3,100 10億円超 373 484 338 1195合計 15,927 3,916 1,093 20,936 合計 3,428 1217 487 5,132

    会社標本調査 アンケート資本金区分 資本金区分

    10億円以下100億円以

    下100億円超 合計 10億円以下

    100億円以下

    100億円超合計

    (1億円超)所得区分 欠損法人 19.7% 3.9% 1.0% 24.7% 所得区分 欠損法人 10.1% 3.2% 1.4% 14.7%

    1億円以下 28.5% 3.3% 0.5% 32.2% 1億円以下 21.3% 3.4% 0.4% 25.2%10億円以下 22.4% 5.2% 0.6% 28.2% 10億円以下 28.1% 7.7% 1.1% 36.8%10億円超 5.4% 6.4% 3.0% 14.8% 10億円超 7.3% 9.4% 6.6% 23.3%合計 76.1% 18.7% 5.2% 100.0% 合計 66.8% 23.7% 9.5% 100.0%

    会社標本調査 アンケート資本金区分 資本金区分

    10億円以下100億円以

    下100億円超 合計 10億円以下

    100億円以下

    100億円超 合計

    所得区分 欠損法人 25.9% 21.0% 20.0% 24.7% 所得区分 欠損法人 15.2% 13.3% 15.2% 14.7%1億円以下 37.4% 17.4% 9.8% 32.2% 1億円以下 31.9% 14.5% 4.1% 25.2%10億円以下 29.5% 27.6% 12.4% 28.2% 10億円以下 42.0% 32.5% 11.3% 36.8%10億円超 7.1% 34.0% 57.8% 14.8% 10億円超 10.9% 39.8% 69.4% 23.3%合計 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 合計 100.0% 100.0% 100.0% 100.0%

  • 7

    表 5 法人数の比較(経済センサス・アンケート)

    表 6 全体割合の比較(経済センサス・アンケート)

    経済センサス アンケート資本金区分 資本金区分1億円超10億円未満

    10~50億円未満

    50億円以上 1億円超計1億円超10億円未満

    10~50億円未満

    50億円以上 1億円超計

    産業 建設業 1,679 157 98 1,934 産業 建設業 229 70 23 322素材型製造業 1,973 429 312 2,714 素材型製造業 320 165 93 578加工組立型製造業 2,133 468 363 2,964 加工組立型製造業 330 169 93 592その他製造業 1,911 294 133 2,338 その他製造業 299 122 34 455インフラサービス 3,538 582 260 4,380 インフラサービス 602 183 66 851卸小売業 5,301 677 307 6,285 卸小売業 584 185 42 811金融・不動産業 2,845 474 390 3,709 金融・不動産業 438 153 96 687その他サービス業 4,476 575 343 5,394 その他サービス業 658 158 35 851合計(非該当除く) 23,856 3,656 2,206 29,718 合計(非該当除く) 3,460 1205 482 5,147

    経済センサス アンケート資本金区分 資本金区分1億円超10億円未満

    10~50億円未満

    50億円以上 1億円超計1億円超10億円未満

    10~50億円未満

    50億円以上 1億円超計

    産業 建設業 5.6% 0.5% 0.3% 6.5% 産業 建設業 4.4% 1.4% 0.4% 6.3%素材型製造業 6.6% 1.4% 1.0% 9.1% 素材型製造業 6.2% 3.2% 1.8% 11.2%加工組立型製造業 7.2% 1.6% 1.2% 10.0% 加工組立型製造業 6.4% 3.3% 1.8% 11.5%その他製造業 6.4% 1.0% 0.4% 7.9% その他製造業 5.8% 2.4% 0.7% 8.8%インフラサービス 11.9% 2.0% 0.9% 14.7% インフラサービス 11.7% 3.6% 1.3% 16.5%卸小売業 17.8% 2.3% 1.0% 21.1% 卸小売業 11.3% 3.6% 0.8% 15.8%金融・不動産業 9.6% 1.6% 1.3% 12.5% 金融・不動産業 8.5% 3.0% 1.9% 13.3%その他サービス業 15.1% 1.9% 1.2% 18.2% その他サービス業 12.8% 3.1% 0.7% 16.5%合計(非該当除く) 80.3% 12.3% 7.4% 100.0% 合計(非該当除く) 67.2% 23.4% 9.4% 100.0%

  • 8

    表 7 産業区分ごとの割合の比較(経済センサス・アンケート)

    経済センサス アンケート資本金区分 資本金区分1億円超10億円未満

    10~50億円未満

    50億円以上 1億円超計1億円超10億円未満

    10~50億円未満

    50億円以上 1億円超計

    産業 建設業 86.8% 8.1% 5.1% 100.0% 産業 建設業 71.1% 21.7% 7.1% 100.0%素材型製造業 72.7% 15.8% 11.5% 100.0% 素材型製造業 55.4% 28.5% 16.1% 100.0%加工組立型製造業 72.0% 15.8% 12.2% 100.0% 加工組立型製造業 55.7% 28.5% 15.7% 100.0%その他製造業 81.7% 12.6% 5.7% 100.0% その他製造業 65.7% 26.8% 7.5% 100.0%インフラサービス 80.8% 13.3% 5.9% 100.0% インフラサービス 70.7% 21.5% 7.8% 100.0%卸小売業 84.3% 10.8% 4.9% 100.0% 卸小売業 72.0% 22.8% 5.2% 100.0%金融・不動産業 76.7% 12.8% 10.5% 100.0% 金融・不動産業 63.8% 22.3% 14.0% 100.0%その他サービス業 83.0% 10.7% 6.4% 100.0% その他サービス業 77.3% 18.6% 4.1% 100.0%合計(非該当除く) 80.3% 12.3% 7.4% 100.0% 合計(非該当除く) 67.2% 23.4% 9.4% 100.0%

  • 9

    2. 法人税改革の影響分析の枠組み

    (1) 増税および減税の定義

    アンケートで収集した企業別データを用いて、平成 27年度税制改正によって変化した法

    人実効税率の引き下げ(国税所得税減税分、法人住民税法人税割減税分、地方法人税減税

    分、法人事業税所得割減税)と法人事業税の外形標準課税増税の影響を分析する。なお国

    税法人税率は平成 27 年度に 1.6%分が減税されているが、外形標準課税拡大の増税分であ

    る 3,900億円分に相当する 0.93%分のみを考慮している。また法人住民税法人税割と地方法

    人税分は加味していない。

    増税および減税の定義は以下のように行っている。まず、平成 27年度の企業データを用

    いて以下の税負担率を計算する。分母はキャッシュフローを表しており、キャッシュフロ

    ーに対する税負担率を計算していることになる。

    税負担率 =国税法人税額+法人事業税額

    税引前当期純利益+減価償却費

    次に、平成 27年度改正における法人実効税率の引き下げと外形標準課税増税がなかった

    と仮定した場合の負担率を、上記の計算式に従って算出する。税負担率の実績値と法人実

    効税率引き下げ・外形標準課税増税がなかったと仮定した場合の税負担率の差分を計算し、

    ±0.5%pt 以内の変化に留まっているときは「変化なし」、+0.5%pt 超の場合は「負担増」、

    -0.5%pt より小さい場合は「負担減」と定義した。

    (2) 比較するアウトカム

    ① 概要

    変化なし、増税、減税の各企業について、以下のアウトカムを比較することによって法

    人税改革の影響を分析する。

    <投資関連>

    対売上高国内設備投資比率の H26 年度から H27 年度にかけての変化(%)

    対売上高海外設備投資比率の H26 年度から H27 年度にかけての変化(%)

    対売上高研究開発投資比率の H26 年度から H27 年度にかけての変化(%)

    <雇用関連>

    常用従業員数の H26年度から H27 年度にかけての変化率(%)

    正社員・正職員数の H26年度から H27 年度にかけての変化率(%)

    パートタイム従業員数のH26年度からH27 年度にかけての変化率(%)

    <賃金関連>

  • 10

    常用従業員一人当たり平均年収の変化(=労務費・人件費/常用従業員数)

    正社員・正職員一人当たり年収の変化(算出方法は後述)

    パートタイム従業員一人当たり年収の変化(算出方法は後述)

    <生産性関連>

    常用従業員一人当たり売上総利益の変化

    全要素生産性(TFP)上昇率(算出方法は後述)

    ② 正社員一人当たり年収とパートタイム従業員一人当たり年収の算出方法

    アンケート調査では、各企業の労務費・人件費の総額しか把握していないため、正社員

    一人当たりの年収とパートタイム従業員一人当たりの年収を把握することはできない。そ

    こで以下のような手順によって、正社員一人当たり年収とパートタイム従業員一人当たり

    年収を算出した。

    正社員一人当たり年収=

    (正社員数×産業別正社員平均年収)/(正社員数×産業別正社員平均年収+

    パートタイム従業員数×産業別パートタイム労働者平均年収)×労務費・人件費/正社員

    パートタイム従業員一人当たり年収=

    (パートタイム従業員数×産業別パートタイム労働者平均年収)/

    (正社員数×産業別正社員平均年収

    +パートタイム従業員数×産業別パートタイム労働者平均年収)

    ×労務費・人件費/パートタイム従業員数

    正社員数、パートタイム従業員数、労務費・人件費はアンケート調査の各企業別の値を

    用いた、産業別正社員平均年収と産業別パートタイム労働者平均年収は、賃金構造基本調

    査の産業大分類の各年の数値を用いた。

    ③ TFP 上昇率の算出方法

    アンケート調査では、資本ストックに関する項目を把握することはできないため、厳密

    な意味での TFP 上昇率を測定することはできないが、以下のような方法によって簡便に算

    出を行った。

    付加価値額が以下のようなコブ・ダグラス型生産関数によって決定されると仮定する。

    𝑌 = 𝐴𝐾𝛼𝐿1−𝛼

  • 11

    ここで、𝑌は付加価値額、𝐴は TFP、𝐾は資本ストック、𝐿は労働投入量、𝛼は資本分配率

    である。両辺を、𝐿で割ることによって一人当たりの付加価値額の式に変形すると以下のよ

    うになる。

    𝑦 = 𝐴𝑘𝛼

    ここで、𝑦は一人当たり付加価値額、𝑘は一人当たり資本ストック(資本装備率)である。

    両辺を自然対数を取って時間で微分することで以下の式が得られる。

    �̇�

    𝑦=�̇�

    𝐴+ 𝛼

    �̇�

    𝑘

    データから、一人当たり付加価値増加率(�̇�/𝑦)と、一人当たり資本ストック増加率(�̇�/𝑘)を

    計算すれば、その差分として TFP 上昇率(�̇�/𝐴)を算出することが出来る。具体的には、

    一人当たり付加価値増加率(�̇�/𝑦)には常用従業員一人当たり売上総利益の変化率を用いる。

    一人当たり資本ストック増加率(�̇�/𝑘)については、𝑘は国民経済計算から産業別の資本装

    備率を算出し、その値を用いる。�̇�は(設備投資-減価償却費)/常用従業員数から算出した。

    以上の変数を当てはめることによって、企業別の TFP 上昇率(�̇�/𝐴)を算出することがで

    きる。なお𝛼は一律で 1/3とした。

    (3) 分析方法

    法人税改革による影響を把握するため、変化なし、増税、減税の各企業について、以下

    の方法を用いてアウトカム指標の変化を分析する。なお、いずれの分析でも、外形標準課

    税の対象外の企業(電気供給業、ガス供給業、保険業)は分析対象から除外している。

    ① 単純比較

    第一が単純比較である。変化なし、増税、減税の各企業について、アウトカム指標の平

    均値を計算して単純比較を行う。

    ② Propensity Score Matching を用いた比較

    第二が Propensity Score Matchingを用いた比較分析である。

    税制の効果を測定する場合、しばしば「逆の因果」が問題となる。「逆の因果」のイメー

    ジを示したものが図 1 である。たとえば税制改革によって減税になった企業は、投資や雇

    用などを積極的に増加させる可能性があるが、減税企業と増税企業を単純に比較しても、

    単に業績の良い企業が減税企業である可能性がある。

  • 12

    図 1 「逆の因果」のイメージ

    こうした「逆の因果」が存在する場合、減税・増税の違いが設備投資等のアウトカム指

    標に及ぼす効果のみを抽出することは簡単ではないが、近年は Propensity Score Matching

    を用いて政策効果を抽出する方法が用いられるようになってきている。 Propensity Score

    Matching を用いれば、増減税の違いがアウトカム指標どの程度増加させたかについて、よ

    り厳密に検証を行うことが可能となる。

    Propensity Score Matching のイメージを示したものが図 2である。まず分析対象のサン

    プルを、減税企業と増税企業に分ける。次に Probit 分析や Logit 分析を用いて各企業の減

    税確率(減税となる確率、Propensity Score)を計算する。

    増税企業と減税企業から、減税確率が近い企業をマッチングし、それらの企業のアウト

    カム指標を比較する。マッチングした企業のアウトカムの差が、減税によって増加したア

    ウトカムとなる。

    設備投資減税

    多くの設備投資を行った企業ほど減税になる

    減税によって設備投資が増加

  • 13

    図 2 Propensity Score Matching による分析のイメージ

    分析にあたっては、以下のような企業特性がほぼ似通っている企業をマッチングして、

    アウトカム指標の比較を行っている。

    常用従業員数(平成 26年度)

    常用従業員一人当たり売上総利益(平成 25・26年度の平均値)

    売上高

    資本金

    常用従業員に占めるパートタイム労働者の割合

    海外売上高の有無

    創業年

    上場の有無

    産業

    減税企業 増税企業

    2つの企業の設備投資を比較分析

    減税確率が近い企業をマッチング

  • 14

    3. 分析結果

    (1) 単純比較

    ① 投資関連

    a) 対売上高国内設備投資比率の変化

    変化なし企業と比較した場合の対売上高国内設備投資比率の変化をみると、減税企業は

    全体として投資を拡大させていることが分かる。特に製造業やインフラサービスなどにお

    いて、減税企業の投資増加幅が大きくなっている。

    資本金規模・産業の合計値でみると、変化なし企業は-0.5%、増税企業は-0.2%、減税企

    業は+0.0%となっている。

    図 3 対売上高国内設備投資比率の変化(変化なし企業との比較)

    (資本金規模別・産業別)

    -4%

    -2%

    0%

    2%

    4%

    6%

    8%

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    1億円超10億円未満 10億円以上 合

    増税 減税

  • 15

    b) 対売上高海外設備投資比率

    変化なし企業と比較した場合の対売上高海外設備投資比率の変化をみると、減税企業は

    海外設備投資を全体として増加させていることが分かる。増税企業については、減税企業

    と大差ない結果となっている。

    資本金規模・産業の合計値でみると、変化なし企業は-0.02%、増税企業は-0.02%、減税

    企業は+0.01%となっている。

    図 4 対売上高海外設備投資比率の変化(変化なし企業との比較)

    (資本金規模別・産業別)

    -0.2%

    -0.1%

    0.0%

    0.1%

    0.2%

    0.3%

    0.4%

    0.5%

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    1億円超10億円未満 10億円以上 合

    増税 減税

  • 16

    c) 対売上高研究開発投資比率

    変化なし企業と比較した場合の対売上高研究開発投資比率の変化をみると、減税企業に

    ついては変化なし企業とほぼ同水準であることが分かる。中堅企業の製造業では変化なし

    企業の方が、大企業の製造業では減税企業の方が研究開発投資の増加幅が大きい。一方、

    増税企業については、全体として研究開発投資を縮小していることが分かる。

    資本金規模・産業の合計値でみると、変化なし企業は+0.10%、増税企業は-0.02%、減税

    企業は+0.08%となっている。

    図 5 対売上高研究開発比率の変化(変化なし企業との比較)

    (資本金規模別・産業別)

    -1.0%

    -0.8%

    -0.6%

    -0.4%

    -0.2%

    0.0%

    0.2%

    0.4%

    0.6%

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    1億円超10億円未満 10億円以上 合

    増税 減税

  • 17

    ② 雇用関連

    a) 常用従業員数の変化率

    変化なし企業と比較した場合の常用従業員数の変化率をみると、減税企業と変化なし企

    業ではほとんど差はないことが分かる。一方、増税企業については全体として雇用を減ら

    していることが分かる。

    資本金規模・産業の合計値でみると、変化なし企業は+1.7%、増税企業は+0.6%、減税

    企業は+1.8%となっている。

    図 6 常用従業員数の変化率(変化なし企業との比較)

    (資本金規模別・産業別)

    -6%-5%-4%-3%-2%-1%0%1%2%3%4%5%

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    1億円超10億円未満 10億円以上 合

    増税 減税

  • 18

    b) 正社員・正職員数の変化率

    変化なし企業と比較した場合の正社員・正職員数の変化率をみると、減税企業は全体と

    して正社員・職員数を増加させていることが分かる。特に製造業における雇用増加幅が大

    きい。一方、増税企業については、全体として雇用を減少させている傾向がある。

    資本金規模・産業の合計値でみると、変化なし企業は+1.7%、増税企業は+0.6%、減税

    企業は+1.8%となっている。

    図 7 正社員・正職員数の変化率(変化なし企業との比較)

    (資本金規模別・産業別)

    -6%

    -5%

    -4%

    -3%

    -2%

    -1%

    0%

    1%

    2%

    3%

    4%

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    1億円超10億円未満 10億円以上 合

    増税 減税

  • 19

    c) パートタイム従業員数の変化率

    変化なしと比較した場合のパートタイム従業員数の変化率をみると、増税企業・減税企

    業ともに大きな差はないことが分かる。

    資本金規模・産業の合計値でみると、変化なし企業は+1.5%、増税企業は+0.4%、減税

    企業は+0.7%となっている。

    図 8 パートタイム従業員数の変化率(変化なし企業との比較)

    (資本金規模別・産業別)

    -15%

    -10%

    -5%

    0%

    5%

    10%

    15%

    20%

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    1億円超10億円未満 10億円以上 合

    増税 減税

  • 20

    ③ 賃金関連

    a) 常用従業員一人当たり年収の変化額

    変化なし企業と比較した場合の常用従業員一人当たり年収の変化額をみると、減税企業

    は全体として年収が増加している傾向がある。特に中堅企業や大企業非製造業で年収の増

    加幅が大きい。一方増税企業については、製造業を中心として全体として年収を低下させ

    ていることが分かる。

    資本金規模・産業の合計値でみると、変化なし企業は+4.4万円、増税企業は+1.8万円、

    減税企業は+8.4万円となっている。

    図 9 常用従業員一人当たりの年収変化額(変化なし企業との比較)

    (資本金規模別・産業別)(万円)

    -40

    -30

    -20

    -10

    0

    10

    20

    30

    40

    50

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    1億円超10億円未満 10億円以上 合

    増税 減税

  • 21

    b) 正社員・正職員一人当たり年収の変化額

    変化なし企業と比較した場合の正社員・正職員一人当たり年収の変化額をみると、全体

    として減税企業は年収を増加させていることが分かる。一方、増税企業と変化なし企業の

    差はほとんどないことが分かる。

    資本金規模・産業の合計値でみると、変化なし企業は+3.7万円、増税企業は+3.8万円、

    減税企業は+9.3万円となっている。

    図 10 正社員・正職員一人当たりの年収変化額(変化なし企業との比較)

    (資本金規模別・産業別)(万円)

    -40-30-20-10

    010203040506070

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    1億円超10億円未満 10億円以上 合

    増税 減税

  • 22

    c) パートタイム従業員一人当たり年収の変化額

    変化なし企業と比較した場合のパートタイム従業員一人当たり年収の変化額をみると、

    減税企業・増税企業いずれにおいても増減税の影響はあまり大きくないことが分かる。

    資本金規模・産業の合計値でみると、変化なし企業は-1.3万円、増税企業は-1.2万円、

    減税企業は-0.9万円となっている。

    図 11 パートタイム従業員一人当たりの年収変化額(変化なし企業との比較)

    (資本金規模別・産業別)(万円)

    -10

    -5

    0

    5

    10

    15

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    1億円超10億円未満 10億円以上 合

    増税 減税

  • 23

    ④ 生産性関連

    a) 常用従業員一人当たり売上総利益の変化額

    変化なし企業と比較した場合の常用従業員一人当たり売上総利益の変化額をみると、減

    税企業は全体として一人当たりの売上総利益が増加していることが分かる。一方で、増税

    企業については全体として一人当たり売上総利益が減少している。

    資本金規模・産業の合計値でみると、変化なし企業は+3.5万円、増税企業は-8.4万円、

    減税企業は+40.8万円となっている。

    図 12 常用従業員一人当たり売上総利益の変化額(変化なし企業との比較)

    (資本金規模別・産業別)(百万円)

    -1.0

    -0.5

    0.0

    0.5

    1.0

    1.5

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    1億円超10億円未満 10億円以上 合

    増税 減税

  • 24

    b) TFP 上昇率

    変化なし企業と比較した場合の TFPをみると、減税企業は全体として TFP上昇率が高い

    ことが分かる。一方で、増税企業については変化なし企業と比較すると TFP上昇率が低い。

    資本金規模・産業の合計値でみると、変化なし企業は+1.0%、増税企業は-0.6%、減税

    企業は 2.8%となっている。

    図 13 TFP 上昇率(変化なし企業との比較)

    (資本金規模別・産業別)(%)

    -15%

    -10%

    -5%

    0%

    5%

    10%

    15%

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    建設業

    素材型製造業

    加工組立型製造業

    その他製造業

    インフラサービス

    卸小売業

    金融・不動産業

    その他サービス業

    1億円超10億円未満 10億円以上 合

    増税 減税

  • 25

    (2) Propensity Score Matching を用いた分析

    ① 投資関連

    減税企業、変化なし企業、増税企業のそれぞれについて投資への影響をみると、減税企

    業は変化なし企業と比較して、統計的に有意に設備投資を増加させていることが分かる。

    海外設備投資と研究開発投資については、減税企業と変化なし企業の間で統計的に有意な

    差は生まれていない。

    増税企業については、変化なし企業と比較して研究開発投資を有意に減少させている。

    図 14 対売上高投資比率の変化(Propensity Score Matching)(%)

    (注1)「差分」の白抜きは統計的に有意ではない結果、色つきは統計的に有意な結果。 (注2)Propensity Score Matchingではマッチングの過程で分析対象企業の範囲は異なってくる。そこで、グラフ化にあたっては以下のような便宜的な計算を行った。まず、減税企業・変化なし企業の比較分析と、増税企業・変化なし企業の比較分析を行い、双方の分析においてマッチングされた変化なし企業の、対売上高投資比率の変化額の平均値を算出する。次に、双方の比較分析における差分を足すことで、減税企業と増税企業の対売上高投資比率を算出した。

    -1.5%

    -1.0%

    -0.5%

    0.0%

    0.5%

    1.0%

    国内設備投資(対売上高) 海外設備投資(対売上高) 研究開発投資(対売上高)

    減税企業 変化なし

    増税企業 差分(=減税企業-変化なし企業)

    差分(=増税企業-変化なし企業)

  • 26

    ② 雇用関連

    減税企業、変化なし企業、増税企業のそれぞれについて雇用への影響をみると、減税企

    業は変化なし企業と比較して、常用従業員や正社員を増加させているものの、雇用増加率

    の差は統計的に有意ではない。一方、増税企業については、変化なし企業と比較して、常

    用従業員と正社員を統計的に有意に減らしていることが分かる。

    図 15 雇用増加率(Propensity Score Matching)(%)

    (注1)「差分」の白抜きは統計的に有意ではない結果、色つきは統計的に有意な結果。 (注2)Propensity Score Matchingではマッチングの過程で分析対象企業の範囲は異なってくる。そこで、グラフ化にあたっては以下のような便宜的な計算を行った。まず、減税企業・変化なし企業の比較分析と、増税企業・変化なし企業の比較分析を行い、双方の分析においてマッチングされた変化なし企業の、雇用変化率の変化額の平均値を算出する。次に、双方の比較分析における差分を足すことで、減税企業と増税企業の雇用変化率を算出した。

    -2.0%

    -1.5%

    -1.0%

    -0.5%

    0.0%

    0.5%

    1.0%

    1.5%

    2.0%

    2.5%

    常用従業員数 正社員数 パート従業員数

    減税企業 変化なし

    増税企業 差分(=減税企業-変化なし企業)

    差分(=増税企業-変化なし企業)

  • 27

    ③ 賃金関連

    減税企業、変化なし企業、増税企業のそれぞれについて賃金への影響をみると、減税企

    業は変化なし企業と比較して、全体として一人当たり賃金を有意に増加させていることが

    分かる。一方、減税企業の一人当たり賃金の増加額については、変化なし企業と統計的に

    有意な差は確認できない。

    雇用に関する結果と賃金に関する結果を総合的に考えると、減税企業は雇用を頭数では

    増加させていないが、一人当たりの賃金では増加させていることが分かる。一方、増税企

    業については、一人当たりの賃金を引き下げているわけではないが、雇用の頭数を減らす

    ことによって総額人件費を抑制していることが分かる。

    図 16 一人当たり賃金変化額(Propensity Score Matching)(万円)

    (注1)「差分」の白抜きは統計的に有意ではない結果、色つきは統計的に有意な結果。 (注2)Propensity Score Matchingではマッチングの過程で分析対象企業の範囲は異なってくる。そこで、グラフ化にあたっては以下のような便宜的な計算を行った。まず、減税企業・変化なし企業の比較分析と、増税企業・変化なし企業の比較分析を行い、双方の分析においてマッチングされた変化なし企業の、一人当たり賃金変化額の平均値を算出する。次に、双方の比較分析における差分を足すことで、減税企業と増税企業の一人当たり賃金変化額を算出した。

    -10

    0

    10

    20

    30

    40

    50

    60

    70

    一人当たり賃金 正社員一人当たり賃金 パート従業員一人当たり賃金

    減税企業 変化なし

    増税企業 差分(=減税企業-変化なし企業)

    差分(=増税企業-変化なし企業)

  • 28

    ④ 生産性関連

    減税企業、変化なし企業、増税企業のそれぞれについて生産性への影響をみると、減税

    企業は変化なし企業と比較して、常用従業員一人当たり売上総利益を統計的に有意に増加

    させている。

    変化なし企業と比較して減税企業は一人当たり 38.9 万円ほど労働生産性を改善させてい

    る。一方、変化なし企業と比較した場合の増税企業の一人当たり売上総利益の増加につい

    ては、統計的に有意な差とはなっていない。

    図 17 常用従業員一人当たり売上総利益の変化額(Propensity Score Matching)(百万円)

    (注1)「差分」の白抜きは統計的に有意ではない結果、色つきは統計的に有意な結果。 (注2)Propensity Score Matchingではマッチングの過程で分析対象企業の範囲は異なってくる。そこで、グラフ化にあたっては以下のような便宜的な計算を行った。まず、減税企業・変化なし企業の比較分析と、増税企業・変化なし企業の比較分析を行い、双方の分析においてマッチングされた変化なし企業の、一人当たり売上総利益の変化額の平均値を算出する。次に、双方の比較分析における差分を足すことで、減税企業と増税企業の一人当たり売上総利益の変化額を算出した。

    -0.20

    -0.10

    0.00

    0.10

    0.20

    0.30

    0.40

    0.50

    一人当たり売上総利益

    減税企業 変化なし

    増税企業 差分(=減税企業-変化なし企業)

    差分(=増税企業-変化なし企業)

  • 29

    同様に、TFP上昇率への影響をみてみる。「常用従業員一人当たり売上総利益」は全要素

    生産性が上昇していなくても、資本装備率が高まれば、見かけ上は上昇してしまうことに

    なるが、TFP上昇率はそうした資本装備率上昇の影響を取り除くことができる。

    減税企業、変化なし企業、増税企業のそれぞれについて TFP 上昇率への影響をみると、

    減税企業は変化なし企業と比較して統計的に有意に TFP が上昇している。上昇幅はおおよ

    そ 3%程度となっている。一方、増税企業は変化なし企業と比較して TFP 上昇率は低下し

    ているが、統計的に有意な差とはなっていない。

    図 18 TFP 上昇率(Propensity Score Matching)(%)

    (注1)「差分」の白抜きは統計的に有意ではない結果、色つきは統計的に有意な結果。 (注2)Propensity Score Matchingではマッチングの過程で分析対象企業の範囲は異なってくる。そこで、グラフ化にあたっては以下のような便宜的な計算を行った。まず、減税企業・変化なし企業の比較分析と、増税企業・変化なし企業の比較分析を行い、双方の分析においてマッチングされた変化なし企業の、TFP 上昇率の平均値を算出する。次に、双方の比較分析における差分を足すことで、減税企業と増税企業の TFP上昇率を算出した。

    -2%

    -1%

    0%

    1%

    2%

    3%

    TFP上昇率

    減税企業 変化なし

    増税企業 差分(=減税企業-変化なし企業)

    差分(=増税企業-変化なし企業)

  • 30

    4. 分析結果のまとめ

    法人実効税率を引き下げて外形標準課税を拡大する法人税改革について、企業行動に及

    ぼした影響としては、以下のように整理することができる。

    (1) 投資

    ○ 法人税改革によって減税になった企業は、法人税改革の影響を受けなかった企業と

    比較して、国内設備投資を増加させている。

    ○ 一方で、法人税改革によって増税となる企業については研究開発投資を抑制してい

    る。

    ○ 法人税改革によって減税になった企業については資本コストが低下しており、それ

    によって設備投資を増やしているものと解釈できる。一方で外形標準課税の拡大に

    よって増税となった企業については、内部資金が削減されたことと労働コストが上

    昇したことによって、研究開発投資を手控えているものと考えられる。

    (2) 雇用

    ○ 法人税改革によって増税となった企業については、常用従業員、とりわけ正社員を

    抑制している。これは外形標準課税の拡大によって労働コストが高まったためだと

    考えられる。

    ○ 一方で、法人税改革によって減税となった企業の雇用増加率は、法人税改革の影響

    を受けなかった企業と大差ない。

    (3) 賃金

    ○ 法人税改革によって減税となった企業については、一人当たり賃金を増加させてい

    る傾向がある。これは、資本装備率の上昇と全要素生産性の上昇によって、労働生

    産性が高まっていることによるものだと考えられる。

    ○ 一方で、法人税改革によって増税となった企業については、法人税改革の影響を受

    けなかった企業と大差はない。これは一人当たり賃金には一定の下方硬直性がある

    からだと考えられる。

    (4) 生産性

    ○ 法人税改革によって減税となった企業は、法人税改革の影響を受けなかった企業と

    比較して、労働生産性および TFPが上昇している。

    ○ 増税となった企業は生産性を低下させているが、統計的に有意な差ではない。

  • 31

    第 III 章 諸外国における法人税改革の動向

    1. 法人税制を巡る各国の状況

    (1) 法人税制を巡るトレンド

    わが国の法人税負担の高さは、日本の立地競争力、国内企業の競争力を弱め、経済成長

    を抑制するものとして、税率の引き下げが長らく主張されてきた。1980年代まで 40%を超

    えていた国税法人税率は、90年代以降、徐々に引き下げられ、近年においても、「成長志向

    の法人税改革」を実現する観点から、課税ベースの拡大とともに税率が引き下げられてい

    る。平成 28 年度改正において、平成 28 年度・29 年度は国税法人税率 23.4%、法人実効税

    率 29.97%となり、平成 30 年度には国税法人税率 23.2%、法人実効税率 29.74%となった。

    主要国と比較しても、遜色ない数字となっている。

    図 19 主要国における国・地方を合わせた法人実効税率

    (注)2016年 4月現在における国・地方を合わせた法人実効税率

    (出所)日本・米国・イギリス・ドイツ・フランスは財務省資料、イタリア・カナダは OECD Tax Database

    近年の諸外国の法人実効税率の推移を見ると、ドイツが 52.03%(2000 年)から 29.72%

    (2016 年)に、イギリスが 30%(2000 年)から 20%(2016 年)に引下げられるなど、実

    効税率の引下げが国際的な潮流となっている。こうした法人実効税率の引き下げは課税ベ

    ース拡大と併せて行われており、日本の法人税改革は国際的なトレンドにしたがったもの

    であると言える。

    29.97

    40.75

    20.00

    29.72

    33.33 31.29

    26.80

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    40

    45

    日本 米国 英国 ドイツ フランス イタリア カナダ

    (カリフォルニア州) (全国平均)

    (%)

  • 32

    図 20 主要国における法人実効税率の推移

    (注)日本は復興特別法人税、フランスは社会保障負担金を含む値。財務省資料による実効税率とは定義

    が異なる。

    (出所)OECD Tax Database

    わが国の法人実効税率は主要国と比較しても遜色ない水準になっているものの、アメリ

    カのトランプ大統領が法人税率の大幅な引き下げを主張しているほか、イギリスでは 2020

    年に法人税率が 17%に引き下げられることが決まっているなど、国際的な法人税引き下げ

    競争が再燃する恐れがある。また、税率以外にも、イギリスにおけるパテントボックス税

    制の導入、イタリアにおける ACE1の導入など、経済成長の促進を目指して種々の改革がな

    されている。

    (2) 調査国及び調査事項

    わが国の立地競争力、国内企業の競争力を維持・強化するためには、諸外国における法

    人税改革の状況及び将来の見通しを正確に把握するとともに、財源や背景、政治状況等を

    知ることが重要である。特に、わが国では、これまでの法人税改革によって課税ベースを

    拡大しており、法人税の枠内での税収中立を図ることが徐々に困難になっている現状を踏

    1 みなし利息控除(Allowance for Corporate Equity)を差す。企業行動に対し資本と負債の中

    立性を保つため、資本の金額に対する一定割合を「みなし利息」として法人税の課税ベー

    スから除外する。

    15

    20

    25

    30

    35

    40

    45

    50

    55

    2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

    日本

    米国

    英国

    ドイツ

    フランス

    イタリア

    カナダ

    (%)

  • 33

    まえ、法人税率引き下げの必要性、財源確保の考え方、あるいは法人税以外の税を財源と

    することの可能性について、各国のトレンドを把握することが重要であると考えられる。

    そこで、諸外国の動向を把握するため、①法人税率の大幅な引き下げを引き続き実施し

    ているイギリス、②わが国と産業構造が類似しており、かつて大幅な財政赤字の中で他の

    税目を財源として法人減税を実施したドイツ、の 2か国に的を絞り調査を実施した。なお、

    トランプ大統領の下、大幅な法人減税を検討しているアメリカについては、法人税改革の

    全体像が明らかでないことから、対象としなかった。

    調査に当たっては、現地を訪問し、学識経験者、政府関係者、経済団体等を対象にヒア

    リング調査を実施した。

    調査理由 主な調査事項

    イギリス 主要先進国で最も低い法人税率で

    ありながら、経済活性化のため更な

    る法人税率引き下げを実施してい

    る。

    近年の法人税改革の背景・内容

    今後の法人税改革の見通し(トラ

    ンプ政権への反応含む)

    ドイツ 日本と産業構造が類似しており、か

    つて大幅な財政赤字の中で他の税

    目を財源として法人減税を実施し

    ている。

    2008 年に実施した法人税改革の

    背景・内容

    今後の法人税改革の見通し(トラ

    ンプ政権への反応含む)

  • 34

    2. イギリス

    (1) 法人税制の概要

    イギリスの法人税率は 2000年時点では 30.0%であったが、イギリス経済の活性化と対内

    直接投資 EU 諸国内での法人税率引き下げ競争に対抗すべく、2008 年に法人税率が 28.0%

    に引き下げられたことを皮切りに段階的に引き下げられてきており、2016 年現在では

    20.0%となっている。これは、EU主要国の中でも低い水準である。さらに、同税率は 2017

    年 4月以降 19.0%に、2020年までに 17.0%に引き下げられることが予定されている2

    法人税の対象となるのは、有限責任会社、無限責任会社、共済会又は慈善団体その他組

    織を含む事業体の所得である。一般的なパートナーシップは法人税の納税義務者とならな

    い(パススルー)。

    2015年 4月以降、課税所得が 30万ポンド以下の企業に対する軽減税率、150万ポンド以

    下の中小企業に対する税額控除(Marginal Relief)が共に廃止され、法人税率は課税所得に

    関わらず 20.0%となった(リングフェンス所得3を除く)。

    なお地方税としての法人所得課税は存在しない。

    表 8 イギリスにおける法人税率

    課税対象所得 税

    2015 年 4 月 1 日

    2014年 4月 1日~

    2015年 3月 31日

    2013年 4月 1日~

    2014年 3月 31日

    2012年 4月 1日~

    2013年 3月 31日

    £300,000 以下 軽

    減 20.0%

    20.0%

    £300,000 超 標

    準 21.0% 23.0% 24.0%

    £ 300,000 超

    £1,500,000 以下

    - 1/400 3/400 4/400

    (出所)JETROホームページ

    2 従来は 2017年に 19.0%、2020年までに 18%に引き下げられる予定であったが、オズボーン財務相は、

    2016年 3月 16日の予算演説の中で、税率引き下げ幅を拡大し、2020年 4月までに 17.0%に引き下げるこ

    とを表明した。 3 リングフェンス所得(イギリス領の油田開発事業から得られた収益)には、30%の標準税率が適用され

    る。ただし、課税所得が 30万ポンド以下の場合は、19%の軽減税率が適用される。また、課税所得が 30

    万ポンド超~150万ポンド以下の場合には、法人税額から控除(Marginal Relief)が受けられる。

  • 35

    (2) キャメロン政権以降の法人税制改革

    ① 税制改革の哲学:ロードマップ

    2010 年 5 月のデービッド・キャメロン政権誕生以降、イギリスでは法人税改革が急速に

    進められてきた。法人税率引き下げを含む法人税制改革は、2010年 11月に財務省から公表

    された法人税制改革のロードマップ”Corporate Tax Road Map”に基づいている4。この時に

    示された法人税改革の原則は、以下の 5点である。

    【法人税改革の原則】

    1) 課税ベースを維持しながらの税率引き下げ:

    税率が低く優遇措置や控除が少ない法人税制は、投資を促進し経済活動の歪みを抑制す

    る。

    2) 安定した税制の確保:

    安定的な税制は企業活動にとって重要である。政府は無用な税制改正を避け、持続可能

    で長期安定的な税制を構築する。

    3) 最新の事業実態の反映:

    グローバリゼーションと技術進歩によって、企業経営は過去 20年間ますます急速に転換

    してきた。税制はそうした企業経営の実態に対応する必要がある。

    4) 複雑性の排除:

    政府は簡素な税制を志向してきたが、複雑性が残っている。政府はより簡素な税制を構

    築する必要がある。

    5) 納税者に対する公平なシステム:

    税制は、企業間で公平であることが望ましく、控除や免税措置は制限すべきである。

    4 緊急予算(Budget June 2010)および歳出計画(Spending Review)を受け、2010年 11月に財務省より

    公表された。

  • 36

    ② 法人税率の引き下げ

    キャメロン政権では、2011 年以降、法人税制改革のロードマップに従って法人税率の引

    き下げが進められてきた。2011 年度以降の法人税率を提案時期ごとに整理したものが表 9

    である。2010 年度時点の法人税率は 28%だったが、2010 年 5 月の提案において 2011 年度

    以降毎年 1%ずつ税率を引き下げ、2014年度には 24%まで引き下げることが盛り込まれた。

    しかし実際には、2011 年度には 2%引き下げられて 26%になり、2012 年度にはさらに 2%

    引き下げられて 24%となった。2012 年 3 月時点の提案では、2013 年度に 23%、2014 年度

    に 22%と、さらに 1%ずつ引き下げる予定となっていたが、2012年 12月の秋の財政演説に

    よって、2014 年度に 21%に引き下げることが盛り込まれた。その後、2015 年度には 20%

    まで税率が引き下げられて、現在に至っている。つまり、当初は 28%から 4%引き下げて

    24%まで引き下げることになっていたが、追加的に 4%引き下げられ 20%となっている。

    なお、2010 年度までは課税所得が 30 万ポンド以下の中小企業に対しては 22%の軽減税

    率が適用されていた。軽減税率は 2011 年度に 20%に引き下げられたが、2015 年度に標準

    税率が 20%まで引き下げられたため、消滅する形になっている。これは税率を単一化する

    ことによって税制の簡素化を企図したものである。

    表 9 イギリスにおける法人税率の推移

    提案時期 各年度における法人税率

    2010 2011 2012 2013 2014 2015

    2010年 5月

    28%

    27% 26% 25% 24% -

    2011年 3月 26% 25% 24% 23% -

    2012年 3月 - 24% 23%

    22% -

    2012年 12月(秋演説) - - 21% -

    2013年 3月 - - - - 20%

    (注)四角囲みが実際の法人税率

    (出所)Oxford University Centre for Business Taxation “Business Taxation under the Coalition

    Government” February 2015

  • 37

    ③ 減価償却制度の見直し

    表 10は、主要国の減価償却制度を整理したものである。イギリスでは、建物は減価償却

    できない制度となっているが、その他の資産については資本控除(Capital Allowance)と

    いう仕組みの定率法が適用されている。建物付属設備と機械装置等に対する資本控除率は

    2011年度まで 20%だったが、2012年度に 18%に引き下げられた。なお電子システム等の

    特別な資本財については 10%から 8%に引き下げられている。これは課税ベースを拡大す

    る措置である。

    表 10 主要国の減価償却制度

    減価償却制度についてのもう一つの見直しが年次投資控除(Annual Investment

    Allowance:AIA)である。年次投資控除とは、自動車を除く一般的な設備や機械に対して

    適用され投資額が全額即時償却される制度だが、即時償却には上限額がある。年次投資控

    除の上限の推移を示したものが表 11 である。2012 年 3 月までは、年次投資控除の上限は

    10 万£だった。しかし課税ベースの拡大を図るために、2012 年 4 月に 4 分の 1 の 2.5 万£ま

    で引き下げられた。しかしこの上限額はわずか 8カ月しか続かず、2013年 1月には 10倍の

    25 万£まで引き上げられ、2014 年 4 月にはさらに倍の 50 万£まで引き上げられた。年次投

    資控除上限の予見不可能で頻繁な制度改正は、企業の投資行動の不確実性を高める要因に

    日本 アメリカ イギリス ドイツ フランス 韓国 シンガポール

    建物定額法

    【21~50年】定額法

    【27.5年または39年】償却不可

    定額法【33.3年】

    定額法【通常一般に使用される期間】

    定額法【40年】

    定額法【25年】

    建物付属設備

    定額法または

    200%定率法【3~20年】

    定額法【27.5年または39年】

    定率法【18%または8%】

    (建物と一体化していると見なされる場合には、Special rate poolに分類さ

    れ、8%)

    定額法【8~33年】 定額法

    【通常一般に使用される期間】

    定額法または定率法

    定額法

    構築物

    定額法または

    200%定率法【5~80年年】

    150%定率法【耐用年数15・20年の

    動産】

    定率法【20%】(「一般税率区分資産」対象と分類された場合)

    定額法【10~33年】

    定額法【通常一般に使用される期間】

    定額法または定率法

    定額法

    機械装置

    定額法または

    200%定率法【3~22年】

    150%定率法または

    200%定率法【3~20年】

    定率法【18%または8%】

    (耐用年数が8年以下と見なされればMain rate poolに分類され、18%)

    定額法【3~33年】

    定額法【通常一般に使用される期間】※耐用年数が3年以上にわたる一定の機械設備等については、定率法を

    選択可

    定額法または定率法

    【5~20年】

    定額法【5~16年】

    工具・器具・備品

    定額法または

    200%定率法【2~20年】

    200%定率法【3~20年】

    定率法【18%または8%】

    (耐用年数が8年以下のsingle asset poolとみなされた場合は8%)

    定額法【3~25年】

    定額法【通常一般に使用される期間】

    定額法または定率法

    定額法

    車両・運搬具

    定額法または

    200%定率法【2~20年】

    200%定率法【5年】

    定率法【18%または8%】

    (Single assetと見なされた場合、どちらかが適用される)

    定額法【6~12年】

    定額法【4~5年】

    定額法または定率法

    定額法

    航空機・船舶

    定額法または

    200%定率法【5~10年】(航空機)【4~15年】(船舶)

    200%定率法【5年】(航空機)【10年】(船舶)

    定率法【18%または8%】

    (耐用年数が25年以上のitems with a long lifeとみなされた場合、8%)

    定額法【5~21年】(航空機)【20~30年】(船舶)

    定額法【通常一般に使用さ

    れる期間】

    定額法または定率法

    定額法

    (注1)日本、アメリカ、イギリス、ドイツの建物は鉄筋コンクリート造の場合。(注2)韓国・シンガポールは2011年1月1日現在、シンガポールでは事務上の減価償却が認められていないが、代わりにそれに相当する資本控除が認められる。

    (出所)財務省HP、鈴木(2015)「法人税申告の実務」、三菱東京UFJ銀行(2012)「投資ガイドブック」等

  • 38

    なると批判されてきた。そのためイギリス政府は、2016 年 1 月以降、年次投資控除の上限

    を 20万£で恒久措置化することを決定した。

    表 11 年次投資控除の上限の推移

    2012年 3月

    以前

    2012年 4月~

    2012年 12月

    2013年 1月~

    2014年 3月

    2014年 4月~

    2015年 12月

    2016年 1月

    以降

    10 万£ 2.5 万£ 25万£ 50万£ 20万£

    (出所)イギリス政府ホームページ

    ④ 研究開発税制およびパテントボックス税制

    イギリスの研究開発税制は 2000年代初頭に導入されたが、2008年に大幅拡充された。キ

    ャメロン政権では以下の 2つの改革が行われた。第一は、中小企業は 2010年まで研究開発

    費の 175%を課税所得から控除できる仕組みだったが、それを 2011 年 4 月に 200%まで引

    き上げた。その後、2012 年 4 月には 225%まで引き上げ、2015 年 4 月には 230%まで拡大

    させている。これによって、中小企業は研究開発投資をさらに増やすインセンティブを持

    つことになった。改革の第二は、2013年の Above the Line控除の導入である。欠損法人の

    大企業の場合、研究開発投資を行ったとしてもすぐには優遇措置を受けることはできず、

    将来課税所得が発生した段階で控除を受けることができる。Above the Line 控除では、欠

    損法人であっても研究開発費の 11%の税額が還付されることになる。

    イノベーション関連のもう一つの改革が、2013 年からのパテントボックス税制の段階的

    な導入である。パテントボックスは、特許や関連知的財産権から生じる利益に対して 10%

    の軽減税率を適用する制度である。

  • 39

    ⑤ 法人税改革による財政への影響

    前述の通りキャメロン政権では、当初は 24%まで法人税率を引き下げるとしていた。当

    時は、課税ベースの拡大によって歳入中立の改革が目指されていたが、その後の追加的な

    法人税率の引き下げによって、もはや歳入中立ではなく大幅な減税となっている。一連の

    法人税改革による財政への影響を整理したものが表 12である。

    減収要因のうちもっとも大きいのは税率引き下げである。法人税改革は全体として 79億

    £の減収となっているが、うち 76億£は税率引き下げによるものである。減価償却制度につ

    いては、資本控除の見直しは増収要因となっているが、年次投資控除の制度変更は逆に減

    収要因となっている。またパテントボックス税制の導入や研究開発税制の制度変更も、合

    計で 11億£の減収要因となっていることが分かる。

    表 12 法人税改革による財政への影響

    法人税改革 財政への影響

    (2015年度、10億£)

    法人税率の 28%から 20%への引き下げ -7.6

    中小企業に対する税率の 20%への引き下げ -1.4

    年次投資控除の制度変更 -0.5

    資本控除制度の見直し 1.2

    パテントボックス税制 -0.7

    研究開発税制の制度変更 -0.4

    租税回避対策 1.1

    その他 0.4

    合計 -7.9

    (出所)Budgets and Autumn Statements(2010-2014)

  • 40

    (3) 財源確保策

    このように、法人税改革はネット減税になっているが、財源を確保するために歳出カッ

    トや他の税負担を拡大させる方策を講じている。ここでは主要な税負担拡大方策である付

    加価値税(Value Added Tax)、国民保険料(National Insurance Contributions)、ビジネス

    レート(Business Rate)の 3つを取り上げる。

    ① 付加価値税率

    諸外国の付加価値税の標準税率の推移を示したものが図 21である。イギリスの付加価値

    税は 1973 年に税率 10%で導入され、1991 年以降はながらく 17.5%で据え置かれてきた。

    イギリスの付加価値税には軽減税率が導入されており、食料品、水道水、新聞、雑誌、書

    籍、国内旅客輸送、医薬品、居住用建物の建築、障害者用機器等は税率 0%であり、家庭用

    燃料や電力等の税率は 5%である5。

    図 21 諸外国の付加価値税の標準税率の推移

    (出所)財務省ホームページ「諸外国における付加価値税の標準税率の推移」

    しかし、2008 年のリーマンショック後に経済が急速に悪化し、雇用情勢と消費が低迷す

    るなか、当時のブラウン政権は、景気刺激を目的として 17.5%だった付加価値税を同年 12

    月 1日から 2009年 12月 31日までの 13カ月間 15%に引き下げた。しかしその後、2010年

    に誕生したキャメロン政権が作成した 2010年 6月の緊急予算案では、財政赤字の解消を目

    的として付加価値税率を 20%に引き上げることが盛り込まれ、2011年 1月より施行され現

    5 財務省ホームページ「主要国の付加価値税の概要」

    http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/108.htm

  • 41

    在に至っている。

    付加価値税の増税は家計負担の増加によってイギリス経済に打撃を与える可能性がある

    として、小売業界から懸念が表明されたが6、オズボーン財務相は所得税や国民保険料と比

    較すれば、付加価値税の増税は個人の就労阻害や企業の国際競争力低下といった悪影響が

    少なく、財政健全化を行うためには不可避の方策であるとしている7。

    ② 国民保険料

    イギリスでは、公的年金および国民保健サービス(National Health Service:NHS)の財

    源を賄うために国民保険料が徴収されている。国民保険料は、被用者と雇用者を対象とし

    たクラス 1、自営業者を対象としたクラス 2、学生や海外居住者などが任意で支払うクラス

    3、高収入の自営業者に対するクラス 4の 4種類に分かれている。クラス 2とクラス 3は定

    額保険料であり、クラス 1とクラス 4は所得に対する定率保険料となっている。

    被用者を対象としたクラス 1 の 2016 年度保険料について示したものが表 13 である。保

    険料率は週給によって異なっており、週給 155£~827£の場合の被用者保険料率は 12%とな

    る。827£を超える分については保険料率が 14%となる。一方、雇用者については週給 156£以

    上について 13.8%保険料率が負荷されている。

    表 13 クラス 1 の国民保険料率(2016 年度)

    クラス 1

    国民保険料

    対象 課税対象となる週給 保険料率

    被用者 155~827£ 12%

    827£を超える部分 14%

    雇用者 156£を超える部分 13.8%

    (出所)HMRC “Main Features of NICs 1999-2000 To 2016-17”

    クラス 1保険料率(Main Rate)の推移を示したものが図 22である。2003年度以降、被

    用者保険料率は 11%、雇用者保険料率は 12.8%で推移してきたが、2011年度にはそれぞれ

    12%と 13.8%に引き上げられて現在に至っている。

    6 BBC news “VAT rate rises from 17.5% to 20%”

    http://www.bbc.com/news/business-12099638” 7 The Guardian “Miliband accuses Osborne of misleading people over VAT rise”

    https://www.theguardian.com/politics/2011/jan/04/george-osborne-vat-rise-least-damaging

  • 42

    図 22 クラス 1 保険料率(Main Rate)の推移

    (出所)HMRC “Main Features of NICs 1999-2000 To 2016-17”

    ③ ビジネスレート

    ビジネスレートは非居住用(事業用)資産(店舗、事務所、倉庫、工場など)に対する

    固定資産税である。ビジネスレートの税率は中央政府が決定し、自治体が徴収を行ってい

    る。イングランドとウェールズでは、資産評価局が市場の年間賃貸額に基づく課税評価額

    を算出し、中央政府が決定する税率(Multiplier)を掛けることで税額を算出する8。課税評

    価額は 5年ごとに見直しが行われ、次回の見直しは 2017年に予定されている。

    ビジネスレートの税率の推移を示したものが表 14 である。2011 年度以降、イングラン

    ド、ロンドン市内、ウェールズのいずれにおいても急速に上昇してきていることが分かる。

    表には示されていないが、2015年度の評価額 1ポンド当たりの課税額は、イングランド 49.3

    ペンス、ロンドン市内は 49.7ペンス、ウェールズ 48.2ペンスである。小規模事業者に対し

    ても軽減措置が行われている。

    8 スコットランド、北アイルランドでは取り扱いが異なっている。

    12.0%

    13.8%

    8%

    9%

    10%

    11%

    12%

    13%

    14%

    15%

    被用者 雇用者

  • 43

    表 14 ビジネスレートの税率(評価額 1 ポンド当たりの課税額:ペンス)

    (出所)Oxford University Centre for Business Taxation “Business Taxation under the Coalition

    Governemtn” February 2015

    ④ 税収内訳の変化

    こうした一連の税制改革によって、イギリス政府の税収内訳は変化してきている。一般

    政府における税収の内訳を 2010年と 2015年について示したものが図 23である。税収全体

    に占める割合が大きく低下しているのは、法人税である。法人税は 2010 年の税収の 8.5%

    を占めていたが、2015年には 7.0%まで減少している。その一方で、付加価値税は 18.8%か

    ら 21.2%まで上昇している。また社会保険料とビジネスレートはおおむね同水準の割合を

    維持していることが分かる。

    以上からイギリスでは、法人税改革によってネット減税となっているものの、歳出カッ

    トを行ない、付加価値税や社会保険料、ビジネスレート等の負担を拡大させることによっ

    て、財政再建をしながら法人税負担を軽減してきていることが分かる。

  • 44

    図 23 イギリス一般政府の税収の内訳

    (出所)OECD “Revenue Statistics”

    28.2%

    27.0%

    8.5%

    7.0%

    19.0%

    18.6%

    4.7%

    4.6%

    18.8%

    21.2%

    20.8%

    21.5%

    0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

    2010

    2015

    所得税 法人税 社会保険料 ビジネスレート 付加価値税 その他

  • 45

    (4) 法人税改革に対する評価

    ① 政府としての全体の評価

    このようなキャメロン政権下での一連の法人税引き下げのマクロ経済効果を、HMRC

    (2013)”Analysis of the dynamic effects of Corporation Tax Reductions”において分析して

    いる。分析は応用一般均衡(CGE)モデルによるものである。

    分析結果の概要をまとめたものが表 15 である。この分析によると政策実施から 20 年目

    までに、減税により投資は 2.5%、GDP は 0.6%増加することが示されている。対内直接投

    資の増加効果を加味すると、投資と GDPはそれぞれ 4.5%と 0.8%増加するとしている。

    この分析では、法人税改革の税収効果についても推計をしている(図 24)。法人税改革

    によって GDPが増加すると、課税ベースが拡大することになるため、税収の一部が戻って

    くるのである。法人税改革実施当初は、法人税減税による減収額の 40%程度しか戻ってこ

    ない。しかし投資の拡大や企業活動の活発化によって、20年目には減収額の 46%が戻って

    くると試算されている。対内直接投資の増加効果を加味するとそれは 58%まで上昇する。

    表 15 法人税改革の効果(20 年後のインパクト)

    (注)Share per household:世帯当たりの GDP増加額

    (出所)HMRC(2013)”Analysis of the dynamic effects of Corporation Tax Reductions”

  • 46

    図 24 法人税改革による税収効果

    (出所)HMRC(2013)”Analysis of the dynamic effects of Corporation Tax Reductions”

    ② 個別項目に対する各機関の評価

    以下では、現地調査を踏まえて一連の法人税改革に関する評価を取りまとめる。

    a) 法人税率の引き下げ

    いずれの機関に対するヒアリングでも、法人実効税率の目的はイギリスの立地競争力を

    強化し、経済の活性化を図ることであることが確認された。産業界は法人税率引き下げを

    評価しているが、経済団体によっては、今後はビジネスレートの引き下げにも重点を置い

    て欲しいという意見がみられた。

    b) 中小企業優遇税率の廃止

    法人税改革のなかで中小企業の優遇税率が廃止され、企業規模に関わらず単一の法人税

    率が適用されている。これに対しては、中小企業が増税になったわけではなく、中小企業

    の税率に大企業の税率をそろえる形であったため、中小企業に近い立場からも大きな不満

    の声は聞こえてきていない。

    c) 減価償却制度の見直し

    減価償却制度が見直された背景としては、いずれも課税ベースの拡大によって増収を図

    ることが当初の目的であった。しかし年次投資控除の上限が頻繁に上下していることにつ

    いては、企業の投資計画の不確実性を高めることになるため、いずれの機関からも批判的

  • 47

    なコメントが聞かれた。オックスフォード大学 Devereaux 教授からは、年次投資控除の上

    限は企業規模に関わらず一律であるため、大企業に対して不公正な制度となっていること

    が指摘された。

    d) 研究開発税制・パテントボックス税制

    研究開発税制についてはいずれの機関も制度に対して肯定的な評価を下している。しか

    しながら、パテントボックスのイノベーション促進効果に対しては一部から疑問が呈され

    ている。また、現行のパテントボックス税制は、イギリス国内で生み出された知的財産か

    らの収入のみに適用される形になっているため、制度の性質が研究開発税制にかなり近く

    なっているという意見もあった。

    また経済団体からは、税制によってイノベーションを促進することは重要だが、制度に

    対する認知が低く、特に中小企業において利用率が低くなっていることが問題であると指

    摘された。

    (5) こうした改革を実行できた政治的背景

    イギリスでは、法人税率を引き下げる一方で、付加価値税率や国民保険料率、ビジネス

    レートが引き上げられている。こうした税制改革を実施できた背景としては、第一に、財

    政再建に対して国民の理解があったこと、第二に、増税が選挙の直後に実施されているた

    め政治への影響が少なかったこと、第三に、イギリスの付加価値税が内税化されているた

    め痛税感が小さかったこと、の 3点が指摘された。

  • 48

    3. ドイツ

    (1) 法人税制の概要9

    ドイツの企業所得課税は、連邦税の法人税と、市町村税の営業税とに分けられる。ドイ

    ツの事業形態は資本会社、人的会社、個人事業主に大別する事が出来る。営業税について

    は事業形態に関わらず課税対象となるが、国税の法人税が課税されるのは資本会社のみで

    あり、人的会社や個人事業主に対しては所得税が課税される事となる。またこれらに加え

    て、連帯付加税が課されている。

    表 16 ドイツにおける会社制度の概要と課税方式

    株式 会社 AG

    有限 会社

    GmbH

    有限 責任 事業 会社 UG

    株式 合資 会社

    KGaA

    合名 会社 OHG

    合資 会社 KG

    民法上 の組合

    GbR

    個人 事業主

    形態 資本会社 人的会社

    国税 法人所得に対する 法人税

    個々の出資者に対する 所得税

    所得税

    地方税 営業税 営業税 営業税

    (注)年間売上額が 25 万ユーロ、利益が 2 万 5,000 ユーロを超えると、合名会社として商業登記を行う

    必要がある。

    (出所)ドイツ貿易・投資振興機関(GTAI)などを参考に作成

    法人課税としては、資本会社の所得に対する課税、連邦税の法人税(Korperschaftsteuer)、

    市町村税の営業税(Gewerbesteuer)、連邦税の連帯付加税(Solidaritatszuschlag)に分け

    る事が出来る。法人税率は 15%であり、課税標準は当期利益をベースに計算された課税所

    得となる。連帯付加税は旧東ドイツ支援を目的として創設された税である。1998年以降、

    税率は現行の法人税額の 5.5%に引き下げられている�