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1 序 編 編者の解説 -質問の意図と回答結果に対する感想-
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編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

May 09, 2023

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Khang Minh
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Page 1: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

1

序 編

編者の解説-質問の意図と回答結果に対する感想-

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2 序編 編者の解説

 商標法において、「商標の使用」か否かは、商標権の侵害や商標登録の維

持において問題となりますが、その判断はしばしば非常に難しいものです。

 かかる「商標の使用」の判断について世界各国はどのように考えるかを知

るため、本書では、大きくは商標権侵害における商標の使用と不使用取消審

判における商標の使用に分け、世界 52 カ国の実務家に具体的な事例を挙げ

て質問をし、それに対する有益な回答を得ました。

 以下に、各質問の意図と感想について簡単に述べたいと思います。

1.商標権侵害における商標の使用

Q . 1 真正商品の並行輸入について

(1)質問の意図 真正商品の並行輸入が商標権侵害になるか否かについては、日本では、パー

カー事件(大阪地裁昭和 45 年 2 月 27 日判決)以来、一定の要件(①真正

商品性、②内外権利者の同一性、③品質の同一性)を具備すれば真正商品

の並行輸入は商標権侵害ではないとされ、その考え方が「メイプルシロッ

プ事件」(平成 13 年 10 月 31 日東京地裁判決・平成 12(ワ)15912 号)、

「バイアグラ錠剤事件」(平成 14 年 3 月 26 日東京地裁判決・平成 12(ワ)

13904 号)、「フレッドペリー事件」(平成 15 年 2 月 27 日最高裁判決・平

成 14 年(受)第 1100 号)、ダンロップ事件(平成 16 年 1 月 30 日大阪地

裁判決・平成 15 年(ワ)11200 号)、ボディ・グローヴ事件(平成 15 年

6 月 30 日東京地裁判決・平 15(ワ)3396 号)などに引き継がれています。

 そこで、各国の考え方はどうかを知るため、本質問を取り上げました。

(2)回答結果についての感想 真正商品の並行輸入は商標権侵害を構成しないと回答した国は、アメリカ

合衆国の他多数を占めました。

 欧州裁判所では、1998 年 7 月 16 日のいわゆる「シルエット判決」において、

欧州経済圏 (EEA) 域外からの並行輸入を禁止する権利を商標権者に認めるこ

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3序編 編者の解説

とは欧州連合加盟各国の義務であり、それに反する国内法規定は許容されな

いと判示しています。欧州諸国では、この影響を受けて、域内の並行輸入を

認め、域外からの並行輸入は禁止されています。

 欧州諸国の特殊な取扱いを除けば、世界の趨勢は並行輸入は非侵害とする

方向に向かっていると思われます。

Q . 2 登録商標の使用と商標権の行使

(1)質問の意図 日本では、登録商標を使用していなくとも、商標権の行使はできますが、

欧州の多くの国々では、登録商標を使用していなければ、商標権を行使し、

第三者の使用を商標権侵害として禁止できないと聞きます。この点について、

各国の取り扱いを知るため、本質問を取り上げました。

(2)回答結果についての感想 回答内容は、大きくは以下の 3 つの類型に分かれました。

 ①商標の使用は商標権の行使の要件であるが、最初の登録後 5 年は要件

ではない(例えば共同体商標、イギリス、ドイツ、フランスなど)。②商標

の使用は損害賠償請求権の要件であるが、差止請求権の要件ではない(中国、

タイなど)。③商標の使用は商標権行使の要件ではない。これらのうち上記

③の回答をした国が全体の 5 割弱を占めました。

Q . 3 音楽 CDの題号と商標権侵害(1)質問の意図

 日本では、アンダー・ザ・サン事件(平成 7 年 2 月 22 日東京地裁・平成

6 年(オ)第 1102 号)においてこの問題が取り上げられ、音楽 CD の題号

は商標としての使用ではないと判示されました。この点について各国がどう

考えるかを知るため本質問を取り上げました。

(2)回答結果についての感想 音楽 CD を指定商品とする他人の登録商標と同一の商標を音楽 CD の題号

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4 序編 編者の解説

に使用することは商標権侵害でないとする国は 5 割強と多く、逆に侵害し

得るとしたのは数カ国、その他の国は状況によるとの回答でした。その中で、

特に、アメリカ合衆国では、「楽曲の名称や題号は、書籍とは異なり、商標

としての役割を果たす」ため、本件の場合商標権侵害であるとされる点が注

目されます。

Q . 4 Tシャツの胸の全面の図形と商標権侵害(1)質問の意図 日本では、ポパイ第 2 事件(昭和 51 年 2 月 24 日大阪地裁)において、

アンダーシャツの胸部にポパイの絵や文字を表した行為は意匠的な使用で

あって、本来の商標としての使用ではないから、商標権の侵害とはいえない

と、判示されています。この点について各国がどう考えるかを知るため本質

問を取り上げました。

(2)回答結果についての感想 他人の登録商標と同一又は類似の図形を胸の全面に表示することは他人の

商標権を侵害するとした国は約 7 割と多数を占めました。これに対し、日

本のポパイ第 2 事件判決と同様に非侵害とした国は、デンマーク、ニュージー

ランドの 2 カ国であり、極めて少数であったのが印象的です。

 一方、文字を胸の全面に表示した場合には、商標権侵害の可能性が高いの

は、ほとんど世界共通の見解のようです。

Q . 5 フリーギフトと商標権侵害(1)質問の意図 他人の登録商標と同一又は類似の商標を商品でないフリーギフト(例えば、

ボールペンやジャケット)に付して使用することは許されるでしょうか。日

本では、例えば BOSS 事件(2007 年 6 月 28 日大阪地裁判決・昭 61(ヮ)

7518 号)において、他人の登録商標を自己の商品の広告媒体たる物品(フ

リーギフト)に使用しても商標権侵害とならない、と判示されました。この

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5序編 編者の解説

問題が各国ではどのように考えられるか、との観点から、本質問を取り上げ

ました。

(2)回答結果についての感想 他人の登録商標をフリーギフトとしての物品に使用することが商標権の侵

害であるとした国は約 40%、侵害でないとする国は約 30%であり、その他

は場合によるとの回答でした。本事例は大いに争いのある問題であるといえ

ます。

Q . 6 他社製品の部品と商標権侵害(1)質問の意図 他社の完成品(例えばインクジェットプリンター)の専用部品(前記イン

クジェットプリンター用のインク)を製造している場合、その専用部品を販

売するためには、他社の完成品を特定する必要がありその特定のために他社

の完成品の商標を引用する場合が考えられます。例えば日本では、ブラザー

事件(平成 16 年 6 月 23 日 東京地裁判決 平成 15(ワ)29488 号)が

あります。このような引用は、公正使用(fair use)として許される場合が

あるのではないでしょうか。この観点から、本質問を各国代理人に投げかけ

ました。

(2)回答結果についての感想 共同体商標制度は、「商品の用途を示すために、他人の登録商標を表示す

ることが公正な慣行に従ったものであれば、公正使用として、商標権の侵

害とはならない」という見解を示しており、これと同様の考え方を採用する

国が多数を占め、60%強でした。一方、明らかに侵害するとした国は、約

20%と少なく、残りの国は「場合による」との回答でした。

Q . 7 商標登録の表示(1)質問の意図 Ⓡ等の登録商標であることの表示が義務かどうか、また、その表示は、商

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6 序編 編者の解説

標権行使の要件となるかどうかの観点から、本質問をしました。

(2)回答結果についての感想 商標の登録表示が義務とする国は皆無であることが確認されました。商標

登録表示がない場合に不利に取り扱われる国がいくつか存在することが注目

されます。例えば、①アメリカ合衆国では、登録表示がされていない場合、

侵害者は不知侵害の抗弁をすることが可能になること、②フィリピンでは「登

録表示があれば被告が登録商標の存在を認識していたと推定される効果があ

る」、と規定されていること、③メキシコでは、侵害訴訟において登録表示

をして商標の使用が行われていたことの証明が要求されていること、が注目

されます。

2.不使用取消審判における商標の使用(1)質問の意図 商標の不使用に絡む問題には種々のものがありますが、本書では、以下の

3 つの動向を契機として、インターネット上のウェブサイトにおける登録商

標の使用の問題に焦点を絞りました。

① 共同勧告

 2001 年の工業所有権保護のためのパリ同盟総会及び世界知的所有権機関

(WIPO)一般総会において、「インターネット上の商標及びその他の標識に

係る工業所有権の保護に関する共同勧告(Recommendation Concerning The

Protection Of Marks, and Other Industrial Property Rights In Signs, On The

Internet)」が採択され、一定の指針が示されています。同勧告において

は、商標権の抵触の問題のみならず、商標権の維持の観点からの一定の

言及もなされています(同勧告の第Ⅲ部「標識に係る権利の取得及び維持

(ACQUISITION AND MAINTENANCE OF RIGHTS IN SIGNS)」)。

② 日本の判決例

 ウェブサイト上の広告が登録商標の使用に該当するか否かが争点の1つと

して争われた事件が日本においても発生しました(PAPA JOHN'S 事件:知

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7序編 編者の解説

財高裁平 17( 行ケ )10095 平成 17 年 12 月 20 日判)。当該事件において、

商標権者はウェブサイト上の広告が登録商標の使用にあたる旨の主張をしま

した。しかし、知財高裁は、商標権者(米国籍)が米国に設置したサーバー

によって運営していたウェブサイトはその内容からみて、日本の需要者を対

象としたものとは認められず、登録商標の使用には当たらないと判示しまし

た。

③ 日本国特許庁の出願審査における取り扱い

 商標法第 3 条第 1 項柱書の使用又は使用意思の要件に関して、商標登録

出願の出願人がインターネットによる通信販売を行っている場合、特許庁は、

「その運営者が日本国内を対象としているサイトであることが必要」である

として、「サイトの規約で日本国内のみ対象としているサイトであること、

あるいは商品の販売が日本国内を対象とするようなもの、例えば、サイト内

の表示が日本語で記載されており、国内への買い上げ商品の配送が可能であ

ること」の証明を求めています(平成 18 年度小売等役務商標制度説明会<

説明会テキスト>等)。

 以上の動向を踏まえて、諸外国に商標登録を有する商標権者は、ウェブサ

イト上の広告によって商標登録の維持を図らんとする場合、どのような条件

を備えたウェブサイトを構築すべきなのでしょうか。この点を明らかにすべ

く、各国における実務の状況を探らんとしたのが、第Ⅱ部「不使用取消審判

における商標の使用」における質問(Q . 8乃至Q . 16)の狙いです。

 質問にあたっては、仮説事例として、以下の条件を満たすウェブサイトを

設定しました(詳細については、第 22 頁の「質問事項」(詳細版)のQ . 9

をご参照下さい。)。そして、下記の条件を満たすウェブサイトの存在のみを

以って登録商標の使用と判断されるのか(Q . 9)、また下記の条件のいず

れかを欠く場合はどうなるのか(Q . 11乃至Q . 15)について質問を行

いました。

 ⅰ)当該広告のサーバーは当該外国に設置されている。

 ⅱ)当該広告は、現地の公用語で表示されている。

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8 序編 編者の解説

 ⅲ)当該広告は、現実に販売可能な商品の写真を掲載している。

 ⅳ)当該商品には、登録商標が付されている。

 ⅴ)当該商品の仕様、価格(米国ドル通貨及び現地通貨による表示)、問

い合わせ先、注文先、注文方法、代金決済方法が掲載されている。

(2)回答結果についての感想 前記条件を満たすウェブサイト上の広告が登録商標の使用として認められ

る可能性が高いと回答してきた国は、52 カ国中、10 カ国余りありました。

この割合を多いと見るか、少ないと見るかは見解の分かれるところであると

思いますが、編者としては、ウェブサイト上の広告によって商標登録の維持

を図ることは検討に値するという思いを抱きました。

 一方、残りの諸国の多くは、登録商標としての使用を否定し、その理由と

して、ウェブサイトによる広告か否かを問わず、広告だけではそもそも登録

商標の使用としては不十分であり、実際の販売事実が不可欠であることを指

摘しています。かかる指摘は、ウェブサイト上の広告を構築するに当たって

十分に留意すべきことであると思われます。また、多くの国が、ウェブサイ

ト上の広告は、当該国の消費者を対象としているものでなければならないと

いう基本原則を挙げ、当該国の消費者を対象としているかどうかの最低限の

要件として、「当該国の消費者が、当該国においてその商品を注文・購入す

ることができ、当該国にその商品を配送してもらうことができること」を挙

げています。この点も、ウェブサイトの設計にあたって、十分に留意すべき

ことであると思われます。

 では、広告を掲載するウェブサイトのサーバーが当該外国に置かれておら

ず、本国(例えば、日本)に置かれていても何ら問題はないのでしょうか

(Q . 11)。この点については、ほとんどの国が、当該国の消費者がそのウェ

ブサイトにアクセスすることができる限り、ウェブサイトの設置場所(国)

は商標の使用の有無の判断に影響しないと回答してきました。

 世界でも特殊な言語を有する日本にとっては、ウェブサイト上の広告にお

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9序編 編者の解説

ける言語の種類が気になるところです。前述の PAPA JOHN'S 事件及び日本

国特許庁の審査実務においても、言語の種類への言及がなされています。で

は、諸外国における実務も日本と同じなのでしょうか(Q . 12)。この点

については、相当数の国が、英語による表示があれば十分であると回答して

きた一方、自国語の表示をほぼ必須の要件とする国も数カ国ありました。

 ウェブサイト上の広告に掲載される通貨の種類は、商取引において重要な

地位を占めると思われます。この点についての質問(Q . 15)に対しては、

米国ドル通貨による表示があれば十分であると回答してきた国が相当数にの

ぼる一方、自国通貨の表示をほぼ必須の要件とする国も数カ国ありました。

 言語及び通貨に関する回答結果は、各国毎の緻密な対応の必要性を示唆し

ているものと言えます。

 ところで、最近では、インターネット上の登録商標の使用を商標の使用と

認定するための明確な基準を設ける国も出てきているようです(台湾等)。

このような基準を設定する国が今後も増加することが予想されます。した

がって、インターネット上の登録商標の使用を以って、各国における登録商

標の維持を図らんとする商標権者は、直近の情報を各国の現地代理人に問い

合わせることが望ましいと思われます。

 最後に、ほとんどの国が、登録商標の使用か否かの判断の基準となる概念

として、「誠実かつ真正な使用(bonafide use)」又は「真正な使用(genuine

use)」を挙げていることを指摘したいと思います。結局のところ、インター

ネット上のウェブサイト広告が登録商標の使用として認められるためには、

各国における「誠実かつ真正な使用(bonafide use)」又は「真正な使用

(genuine use)」の要件を満たすことが必要であり、その要件が具体的に何

を意味するかについては、読者ご自身において、本編「Q&A」の各国の回

答を綿密にご検討頂きたいと思います。

Page 10: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

10 序編 編者の解説

3.総括 お気づきのように、本書に掲げた質問の多くは、具体的な事実の状況いか

んによってその結論が異なり得る類いのものです。このため、質問に対して、

「答えはどちらとも言えない。」又は「答えは事実次第である。」といった留

保を伴った回答が多く見られます。これらの回答状況を見ますと、回答者が

回答に当たっていかに苦慮されたかが窺い知れます。

 また、質問の多くは、たとえ具体的な事実が明確であっても、論者により

結論が二分されるような限界事例を対象としています。

 このような難問ばかりであるにもかかわらず、各国の実務家からは非常に

真摯な回答を頂きました。編者として改めてお礼を申し上げる次第です。

 質問の性質と回答の状況に鑑みると、各国の回答から学ぶべきものは、結

論そのものよりもむしろ結論が導かれるに至った論理や視点ではないかと思

われます。

 本書を通じて、読者は、日本の実務と共通する概念や視点を各国の回答か

ら見い出し、それらを確認することとなる一方、各国に特有の概念や視点を

発見し、新鮮な刺激を受けることも期待されます。このような確認や発見が

皆様の今後の実務のお役に立てば、編者として幸甚の至りです。

編者

弁理士 竹内耕三

弁理士 向口浩二

Page 11: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

11

本 編

Q&A

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12 本編 Q&A 質問事項

質問事項(詳細版)

QUESTIONNAIRE

Regarding use of trademarks

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用 Use of a trademark in a trademark right infringement case

Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品

の並行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

Please explain about acts that constitute infringement of trademark rights.

In addition, please briefly comment as to whether parallel imports of genuine

goods constitute infringement of a trademark right.

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりま

すか。

Is the fact that a holder of trademark right is using the registered trademark

a requirement for the holder to exercise his/her trademark right?

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽 CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害し

ますか。

Does the use of a title like "love" indicated on a music CD jacket, which is

identical with another person’s registered trademark "LOVE" designating

music CDs, constitute infringement of a trademark right of another person?

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、

他人の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

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13本編 Q&A 質問事項

Does the indication on the entire chest area of a T-shirt, of designs that

are identical with another person’s registered trademark, infringe another

person’s trademark right? Similarly, how about an indication consisting of

words instead of designs?

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する

場合において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボー

ルペンに「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

In the case where there is another person's registered trademark "ABC"

designating the goods "ballpoint pens", does the use of an indication of the

mark "ABC" on ballpoint pens which are distributed as "free gifts" for the

provision of financial services infringe another person's trademark right?

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商

標権を侵害しますか。例えば、XX会社が「インクジェットプリンター及びインク

ジェットプリンターインク」を指定商品とする登録商標「ABC」を所有しており、

それらの商品を「ABC」商標を付して製造・販売している場合において、第三者が、

XXの許諾を受けることなく、「ABCインクジェットプリンター用のインクジェットプ

リンターインク」という表示の下で、「インクジェットプリンターインク」を製造・

販売することは、XXの商標権を侵害しますか。

Does the indication of another person’s registered trademark for the purpose

of indicating the usage of goods, infringe another person’s trademark right?

For example, in the case where XX Company owns the registered trademark

"ABC" covering the goods "inkjet printers and inkjet printer ink" and is

manufacturing and selling them under the trademark "ABC", does a third

party's manufacturing and selling "inkjet printer ink" under an indication of

"inkjet printer ink for ABC inkjet printers" without obtaining XX's permission

constitute infringement of the XX's trademark right?

Page 14: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

14 本編 Q&A 質問事項

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その

表示は、商標権行使の要件となりますか。

Is it required to indicate that a trademark is a registered trademark, such as

®? Is such indication a requirement for the exercise of trademark rights?

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用 Use of a trademark in a non-use cancellation proceeding

Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

Please explain the requirements for cancellation of a registered trademark in

the case where a request for cancellation based on non-use is filed by a third

party.

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登

録商標 XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえい

れば、貴国において当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十

分な使用をしていると言えますか。 (言い換えれば、当該広告が継続してなさ

れていたことを主張・立証すれば不使用取消審判を克服できますか。) 一定数

以上のアクセス数の証明が必要となりますか。

 XX社は、貴国に販売代理人、販売拠点、ライセンシーを有しない外国の会

社である。

 XX社は、自国において各種万年筆の製造又は販売の事業を行っている。

 ⅰ)XX社の当該ウェブサイトのサーバーは、自国のみならず、貴国にも置か

れており、貴国の消費者が当該ウェブサイトにアクセスすることが当然可能であ

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15本編 Q&A 質問事項

る。当該ウェブサイトは、以下の公告を掲載している。

 ⅱ)当該広告は3カ国語で表示されている。即ち、

   XX社の国の公用語のアイコンをクリックすれば当該公用語で表示され、

   英語のアイコンをクリックすれば英語で表示され、

   貴国の公用語のアイコンをクリックすれば、貴国の公用語で表示される。

 ⅲ)当該広告は、XX社の国内で現実に販売されている万年筆を対象として

いる。当該万年筆又はその包装の写真が掲載されている。

 ⅳ)当該万年筆又はその包装には登録商標「XYZ」が付されている。

 ⅴ)当該製品の仕様、価格、問い合わせ先、注文先、注文方法、代金決済

方法が掲載されている。価格は、3つの通貨、即ち、XX 社の国の自国通貨、

米国ドル通貨、貴国通貨で表示されている。

In the following case, is XX company who holds a registered trademark XYZ

designating the goods “fountain pens” in your country, considered to be

sufficiently using the registered trademark as far as XX company's website

contains the advertisement as stated below even if XX company has never

sold such fountain pens in your country? (In other words, if XX company

claims and proves the fact that such advertisement has been continuously

posted, can XX company win in a non-use cancellation proceeding?) In this

case, is it necessary to prove that the number of accesses to the website

exceeds a certain number?

- XX company is a foreign company without any agents, sales offices or

licensees in your country.

- XX company is conducting the manufacture or sales of various fountain

pens in its own country.

i)XX company’s server for this website is located not only in its own country

but also in your country and consumers in your country can, of course,

Page 16: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

16 本編 Q&A 質問事項

access this website. The website contains the following advertisement:

ii)The advertisement is indicated in three languages. In other words,

if the icon for the official language of XX company 's country is clicked, the

website is indicated in such official language;

if the icon for English is clicked, the website is indicated in English; and

if the icon for the official language of your country is clicked, the website is

indicated in the official language of your country.

iii)This advertisement is for fountain pens actually sold in XX company's

country. The picture of said fountain pens or their package is contained on

the website.

iv)Said fountain pens or their package bear the mark "XYZ".

v)Specifications, prices, contact number, order contact, order method and

payment method for the products are contained on the website. The prices

are indicated in three currencies, i.e., the currency of XX company’s country,

US dollars and the currency of your country.

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当

該広告を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の

販売代理人、ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言え

ますか。

If the answer to the above Q.9 is “No,” is it sufficient to say that the

registered trademark has been used if XX company proves the fact that

a consumer in your country has seen such advertisement and privately

imported the product even if there is no sales agent, licensee, etc. of XX

company in your country?

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置

かれていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

Page 17: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

17本編 Q&A 質問事項

In the above case i), what if the server of the website is not located in your

country but consumers of your country can still access the website?

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない

場合はどうですか。

In the above case ii), what if there is no indication in the official language of

your country?

Q.13 前記事例のⅲ)において、当該広告が現実に販売されている具体

的な「万年筆」を対象としておらず(即ち、具体的な商品の写真が掲載されて

おらず、また、商品の購入に必要な前記ⅴ)のような情報も掲載されておらず)、

単に以下の事項が掲載されている広告の場合はどうですか。

・登録商標「XYZ」

・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

・XX 社の会社名・住所・問合せ先

In the above case iii), what if the advertisement is not for specific “fountain

pens” that are actually sold (in other words, the advertisement contains

neither pictures for any specific goods nor information necessary for the

purchase of the goods such as those stated in the above v)) and merely

states the following:

- the registered trademark “XYZ”;

- the word representing the product name “fountain pens” or

abstract illustrations of fountain pens; and

- the name, address and contact number of XX Company.

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として

登録商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標

「XYZ」が付されていない場合はどうですか。URL の一部として「XYZ」が組

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18 本編 Q&A 質問事項

み込まれているのみである場合はどうですか。

In the case of above iv), what if, even though the registered trademark “XYZ”

is used in the title or explanation of goods in the website, the registered

trademark “XYZ” is not affixed to such fountain pens or their packages?

What if “XYZ” is contained only in the URL?

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうで

すか。

In the above case v), what if there is no indication of the currency of your

country?

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた

事例があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

If there are any cases in which the non-use of a registered trademark

was disputed in relation to the issue of use on the website, please state

a summary of board decisions or court decisions of such cases (multiple

answers may be given).

Page 19: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

19

北米

(NORTH AMERICA)

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20

カナダ

北米

カナダ (Canada)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用

��Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 カナダでは、登録商標は商標権者に対してカナダ全国に亘って当該

商標を使用する独占的権利及び当該権利の如何なる侵害をも救済する法的権

利を付与します。登録商標の侵害行為は、商標法第 20 条に以下のとおり規

定されています。

 「商標権者がその登録商標を独占的に使用する権利は、本法によりその使

用をする権利を有しない者が、混同を生じる商標又は商号に関連して、商品

又は役務を販売、頒布又は広告する場合に侵害されたものとする。」

 真正商品の並行輸入、すなわち、正規の製品が正式な製造者の供給経路外

からカナダに輸入される場合、一般に、商標権の侵害を構成しません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 カナダは商標の使用主義を採用しています。したがって、商標権者

は、その商標権を行使するためには、当該商標の使用を証明することが要件

となります。少なくとも、商標権者は、当該商標を放棄する意思がないこと

を証明できなければならないと言うべきです。当該商標が使用されていない

場合は、侵害者は不使用を理由として当該商標を無効にすることを試みるこ

とが可能であり、それは侵害者にとって有用な抗弁となります。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 カナダにおいては、音楽 CD のジャケット上に題号として語句又は

文字(例えば、「love」)を使用することは、「商標の使用」とは判断されず、

したがって、音楽 CD を指定する同一の語句又は文字(例えば、「LOVE」)

Page 21: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

21

カナダ

北米

に係る商標登録を保有する他人の商標権の侵害を構成しません。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 この質問への回答は、登録商標の指定商品が T シャツ又は関連する

被服の品目に及んでいるかどうかによります。登録商標が T シャツに及ん

でいる場合は、そのような同一の表示は、ある業者の商品を他の業者の商品

から識別することが可能な商標として機能するため、それが図形であろうが

文字であろうが、侵害を構成する可能性が高いと思われます。このような判

断の根拠は、「商標権者がその登録商標を独占的に使用する権利は、本法に

より、その使用をする権利を有しない者が混同を生じる商標又は商号に関連

する商品又は役務を販売、頒布又は広告する場合に侵害されたものとする。」

(強調部は筆者による)と規定する商標法第 20 条に起因します。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 「ABC」ボールペンは「フリーギフト」として頒布されているため、

ペン自体の「販売、頒布又は広告」とは判断されません。これらのペンが金

融サービスの提供の促進のために無償で頒布されているという事実は、商標

法に定義されている商標の「使用」が存在しないことを意味し、したがって、

このような使用はカナダにおいて商標権の侵害を構成しません。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 互換性のある交換用インクを製造・販売する第三者による「ABC」

商標の使用が、商標権者である XX 社による後援(sponsorship)又は承認

Page 22: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

22

カナダ

北米

(endorsement)を暗示していない限り、侵害は存在しません。この特定の

事案において、第三者により販売される交換用インクの製品が、「ABC」商

標を使用しなければ用途を容易に特定できない場合は、その製品、すなわち、

ABC インクジェットプリンターに対する使用の互換性を特定するために合

理的に必要な範囲で、商標「ABC」を使用することは可能でしょう。カナダ

においては、準拠すべき原則は、当該表示は、「ABC」を付した互換性のあ

る交換用インクの製造・販売の際に、当該第三者が XX 社の許諾を受けてい

るか又は XX 社の系列であるかのように一般消費者を誤信させてはならない

というものです。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 カナダは、商標権者が、商標表示Ⓡのように、その商標が登録商標

であることを表示することを要求していません。

 商標権者は、その商標権の行使前に、そのような表示を行っていることを

要求されることはありません。しかしながら、商標権者がその商標をライセ

ンシーにライセンスする場合は、商標表示Ⓡがライセンシーの商品及び / 又

は役務に表示されることをお勧めします。これは、カナダ商標法が、登録商

標は、商標権者の商品及び / 又は役務の出所を他の業者から識別し得るもの

でなければならないことを要求しているからです。「ライセンスされた使用」

の状況においては、商標の有効性を維持する目的上、一般消費者が商品及び

/ 又は役務の出所を容易に特定できる必要はありませんが、商標の使用は、

一般消費者に商標権者の同一性について疑義を抱かせるようなものではあっ

てはなりません。後者の状況は、その商標を識別力を有しないものとするで

しょうし、取消しの理由となります。

Page 23: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

23

カナダ

北米

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 商標法第 45 条により、登録証が発行されてから 3 年以上経過後に、

第三者は不使用に基づく登録商標の取消しを請求することができます。商標

の有効性を維持するために、商標権者は、通知(取消しの請求の受領後、カ

ナダ知的財産庁により発行される通知)の日の直前の 3 年間のいずれかの

時において、当該商標が登録証に記載のすべての商品 / 役務に関してカナダ

において使用されていたことを証明する証拠を提出しなければなりません。

商標が使用されていなかった場合、商標権者は、それが最後に使用された日

を述べるとともに、その日以降の不使用について理由を述べなければなりま

せん。商標法第 45 条(3)は、「特別な事情」による不使用について言及し

ています。一般に、そのような不使用を免責する理由は、商標権者の支配の

及ばないものに起因しなければならず、単に商業上の都合によるものであっ

てはなりません。

 第三者からの取消請求のほかにも、カナダにおいては、商標の登録官が自

己の裁量で商標権者に対していつでも第45条の通知を行うことができます。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 カナダにおいては、広告は、役務についての商標の「使用」を構成

する可能性がありますが、広告はそれ自体としては、商品についての商標の

「使用」とは判断されません。

 商品に関する「使用」は商標法第 4 条(1)に定義されています。商標は、

通常の取引の過程において、商品の所有又は占有が移転されるときに、商品

Page 24: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

24

カナダ

北米

自体又はそれらが頒布される際の包装に付されている場合、又は如何なる方

法であれ、商品と関連付けられることにより、その関連性が所有又は占有の

移転を受ける者に知らされる方法で付されている場合は、商品について使用

されていると判断されます。したがって、商品についての「使用」が認定さ

れるためには、以下の「如何なる状況で、どのように、いつ及びどこで」が

満たされなければなりません。登録商標は、

 ・如何なる状況で - 通常の取引の過程において、

 ・どのような方法で - 商品自体又はそれらが頒布される際の包装に付

され、;又は如何なる方法であれ、商品と関連付けられることにより、その

関連性が所有又は占有の移転を受ける者に知らされる方法で、

 ・いつ - 商品の所有又は占有の移転の時点で、

 ・どこで - カナダにおいて、

使用されていなければなりません。

 商標法第 4 条(1)に規定されている要件を考慮すると、商標法のすべて

の条件を満たさない限り、外国の商標権者が登録商標の「使用」を証明する

ことはかなりの負担となります。したがって、カタログや価格表における商

標の単なる表示は商品に関する「使用」とは判断されません。しかしながら、

個々の事案における事実によっては、カタログ及びパンフレットは、販売時

に利用されるのであれば、商標の「使用」と判断される可能性があります。

なぜなら、カタログは、通常の取引の過程において、購入注文をする目的で

主に使用される可能性があるからです。一方、商品を市場に売り出そうと企

てて、販促用の印刷物に商標を単に表示することは、当該商品についての商

標の「使用」とは判断されません。同様に、注文用の書式のみが記載された

広告用のチラシも「使用」ではありません。他方、商標が掲載されており、

かつ商品購入の証拠として返送されるべき注文用の書式が掲載されている折

り込み広告の形式による販売の申出は、注文書が記入されかつ商品の受領が

なされる際に商標と商品との十分な関連性がありますから、商標の「使用」

を構成します。同様の文脈で、商品の占有の移転時に、商品に使用されてい

Page 25: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

25

カナダ

北米

る商標を顧客に気付かせるために、店舗内で、商品にごく近接して商標を表

示することは、「使用」と判断されます。

 前述したこと、及び本質問の(ⅰ)から(ⅴ)の項目のすべての具体的事

情、その他本質問に示された XX 社による広告を考慮すると、このような広

告は、XX 社が、カナダにおけるその登録商標 XYZ の「使用」を主張するに、

事実上十分であると議論することは可能かもしれません。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 カナダにおける XX 社の販売代理人又はライセンシー等を通じず

になされる、カナダの消費者による登録商標 XYZ を付した万年筆の個人輸

入は、それが商標法第 4 条(1)を満たす限りにおいて、「使用」を構成す

る可能性があります。XX 社がカナダにおいて販売代理人又はライセンシー

等を有していないことを考慮すると、個人による直接的な購入が「通常の取

引過程」と判断されることになりそうです。問われるべき重要な問題は、万

年筆の所有又は占有の移転時に、そのような所有又は占有の移転がカナダに

おいて実際に生じるかどうかです。「はい」の場合は「使用」と判断され得

ると言えます。「いいえ」の場合は、「使用」と判断されそうにありません。

したがって、個人的に輸入された製品が「FOB カナダ」である場合は、製

品の所有権はカナダにおいて変更され、その商標はカナダで「使用された」

と判断されます。そうでなければ、使用されたとは判断されません。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 XX 社のウェブサイトのサーバーが、カナダの消費者が当該ウェ

ブサイトにアクセスすることを可能にするために、カナダに置かれているか

否かは、むしろカナダの裁判所の管轄権の問題です。しかしながら、「使用」

Page 26: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

26

カナダ

北米

を確かめるための基本原則は変わりません。すなわち、商品の単なる広告だ

けでは、カナダにおける、商品についての商標の「使用」とは一般に判断さ

れません。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 XX 社のウェブサイトのサーバーがカナダの公用語(フランス語

又は英語)を使用していない場合は、当該ウェブサイトはカナダの顧客を対

象にしていないようにみえるので、XX 社がカナダにおける商標の「使用」

を主張することは一層難しいと言えます。このことと、商品の単なる広告だ

けではカナダにおける商品についての商標の「使用」とは判断されないとい

う一般原則とを併せて考えると、当該商標の「使用」が認定される可能性は

低いと思われます。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場合はどうですか。  ・登録商標「XYZ」  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 XYZ の商標が付された万年筆と XX 社との「結びつき」が一層少

ないことを考慮すると(強調部は筆者により追加されたもの)、そのような

広告が万年筆についての XX 社による商標の「使用」を構成すると主張する

ことは一層難しいでしょう。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 商標の使用を認定するためには、登録商標が商品に付されている

Page 27: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

27

カナダ

北米

ことは望ましいことですが必須ではありません。登録商標は、例えば購入注

文をする目的で具体的な商品を特定するためにカタログに表示される可能性

があり、その場合には、なお「使用」と判断される可能性があります。これは、

商標法が、「…登録商標は…如何なる方法であれ、商品と関連付けられるこ

とにより、その関連性が所有又は占有の移転を受ける者に知らされる方法で

付されなければならない。」と規定しているからです。したがって、XYZ が

ウェブサイトにおいて表題又は商品の説明にしか使用されていなくても、商

標の「使用」があると主張し得る可能性があります。そうは言うものの、カ

ナダにおいては、商品の広告だけでは商品についての商標の「使用」とは通

常判断されないため、XX 社はそのような主張を推し進めることにおいて困

難に遭遇することになりそうです。

 「XYZ」が URL のみに含まれている場合、カナダの公衆は、当該万年筆と

当該登録商標とを関連付けることは、不可能ではないにしても、非常に困難

であると思うでしょうから、当該商標が当該万年筆に関連して「使用」され

ているとの XX 社の主張を大いに弱めてしまうと思われます。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 カナダの消費者は商品をオンラインで購入する際に米国ドルを支

払うことに慣れているため、XX 社のウェブサイトにカナダの通貨の表示が

ないことは、その商標の「使用」を確認する際の主要な決定要因ではありま

せん。XX 社にとって、広告だけでは商品についての登録商標の「使用」と

は通常判断されない、というより大きな難題は残ります。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 2001 年に、オンタリオ州控訴裁判所は、Pro-C Ltd. v. Computer

City Inc.(2001)、14C.P.R(4th)441 の事件おいて、外国においてのみ

販売される商品を掲示した受動的なウェブサイトは、カナダにおいて、そ

Page 28: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

28

カナダ

北米

れらの商品についての商標の「使用」を構成しない旨の判決を下しました。

当該事件の事実は、以下のように要約できます。:Computer City はアメリ

カ合衆国においてウェブサイトを運営し、アメリカ合衆国のみで販売され

る、商標 WINGEN を付したパーソナルコンピュータの新製品を受動的に広

告していました。Computer City はカナダにおいてアウトレットの小売店

を有していましたが、WINGEN コンピュータをカナダ人には販売していま

せんでした。Pro-C は、登録商標 WINGEN を所有するカナダの会社です。

Computer City がその WINGEN 系列のコンピュータを発表したとき、Pro-C

は、WINGEN コンピュータに関して、送信先を間違えた、オンラインによ

る問合せをあまりに大量に受けたため、Pro-C のサーバーが麻痺し、機能不

全に陥るに至りました。Pro-C は Computer City を商標権侵害で訴えました。

第一審裁判所は、商標の「使用」の解釈をするのに少々独特の「全体論的ア

プローチ」を採用することにより、Pro-C に勝訴の判決を下しました。第一

審裁判所は、Computer City がそのコンピュータを広告した際の、その受動

的ウェブサイト上における WINGEN 商標の使用は、Pro-C の商標権を侵害

していたと認定しました。控訴裁判所は、下級審の判決を覆し、Computer

City によるカナダにおける WINGEN 商標の「使用」はなかったと判示しま

した。控訴裁判所は、何が商標の「使用」を構成するかについての伝統的原

則に依拠しました。商品と関連した商標の「使用」を認定するためには、そ

の商標が商品又はその包装に現われるか、又は如何なる方法であれ、商品と

関連付けられることにより、その関連性が商品の購入者に知らされる方法で

現われていなければなりません。Computer City は、カナダの購入者には販

売されない、当該商標が付されたコンピュータを広告する受動的なウェブサ

イトを単に運営していたに過ぎないとして、控訴裁判所は、当該商標は「使

用」されておらず、それゆえに商標権は侵害されていないとの判決を下しま

した。したがって、外国のウェブサイトにおける商品の単なる広告は、カナ

ダ人がアクセスすることが可能であっても、カナダにおいては、その広告さ

れた商標は「使用」を構成しません。

Page 29: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

29

カナダ

北米

(原稿受領日 2008 年 3 月 29 日)

   Author: Mr. Wing T. Yan Nelligan O'Brien Payne LLP Suite 1500 - 50 O'Connor Ottawa, ON K1P 6L2, Canada Tel: +1 613 231-8343 Fax: +1 613 788-3686 Email: [email protected] Website: http://www.nelligan.ca/

Page 30: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

30

カナダ

北米

アメリカ合衆国

アメリカ合衆国 (U.S.A)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 商標権の侵害 米国における登録商標の侵害は 1946 年改正商標法

第 32 条(15USC§1114)によって、以下のように規定されています。

(1)登録権者の同意を得ないで以下の行為をする者は何人も、登録権者の

提起する民事訴訟において、後述の救済措置の責を負うものとする。

 (a)取引において、登録商標の再製標章、偽造標章、複製標章、又はもっ

ともらしい模造標章を、商品若しくは役務の販売、販売の申出、頒布、又は

広告について使用する行為であって、その使用が混同を生じさせ、誤認を生

じさせ、又は他人を欺くおそれがある場合

 (b)登録商標を再製し、偽造し、複製、又はもっともらしく模造し、かつ、

その再製標章、偽造標章、複製標章、又はもっともらしい模造標章を、商品

若しくは役務の販売、販売の申出、頒布、若しくは広告について、又はこれ

らの行為に関連して取引に使用する意図を以って、ラベル、看板、印刷物、

包装、包み紙、容器、又は広告物に付する行為であって、その使用が混同を

生じさせ、誤認を生じさせ、又は他人を欺くおそれがある場合

 ここに規定する(b)に基づき、その模造標章が混同、誤認、又は欺瞞を

目的として使用されることを知りながら当該行為がなされたものでない限

り、商標権者は、利益又は損害の回復をする権利を有しない。

 米国においては、未登録商標も、侵害に対して権利行使することが可能で

す。商標法第 43 条(15USC§1125)は以下のように規定しています。

 (a)(1)商品若しくは役務又は商品の容器について、又はそれに関連して、

以下の言葉、用語、名称、記号、図形若しくはこれらの組み合わせ、又は虚

偽の原産地表示、事実について、虚偽若しくは誤認を生じさせる記述、又は

Page 31: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

31北米

アメリカ合衆国

事実について虚偽若しくは誤認を生じさせる表示を、取引上使用する者は何

人も、その行為による損害を受けたか又は受けるおそれがあると信じる者に

よって提起される民事訴訟において、その責めを負う。

 (A)その者と他の者との系列関係(affiliation)、関連性(connection)若

しくは提携関係(association)について、又はその者と他の者の商品、役

務若しくは商業活動の出所(origin)、後援(sponsorship)若しくは承認

(approval)について、混同を生じさせ、誤認を生じさせ、又は他人を欺く

おそれのあるもの、又は

 (B)商業広告若しくは販売促進において、その者又は他の者の商品、役務、

又は商業活動の性質、特性、品質若しくは原産地を不実表示するもの。

 権利行使に係る商標が登録されたものか未登録のものかにかかわらず、商

標権侵害の基本的争点は、問題となっている商標間に混同のおそれがあるか

どうかです。この争点は、購入者が、その第三者の商品は商標の所有者を出

所としている、又は商標の所有者と関連があると、誤信するおそれに集中し

ます。2 つの商標間に混同のおそれがあるかどうかについての分析において、

様々な要因が考慮されます。これらの要因は、有名な In�re�I.E.�du�Pont�de�

Nemours�&�Co.,�476�F.2d�1357,�177�U.S.P.Q.�563�(CCPA�1973) 及び AMF,�Inv.�

v.�Sleekcraft�Boats, 599 F.2d 341 (9th Cir. 1979) の事件において明らかにさ

れました。du Pont と Sleekcraft の要因のうち、現在の状況に関連するもの

として、以下のものがあります。(1)外観、称呼、観念及び商業的印象に

ついて、その商標の全体としての類似性又は非類似性。(2)商標が使用さ

れる商品の性質及びその類似性又は非類似性。(3)商標の強さ。(4)取引

経路の類似性又は非類似性。(5)販売が行われる状況及び購入者。(6)い

ずれか一方当事者の拡大の可能性。(7)先行商標の使用者の意図。(8)実

際の混同の性質と程度。

並行輸入

 米国商標法、15USC§1124 は、登録商標を複製又は模倣した標章を付し

た製品の輸入を禁止しています。この条項は、非真正商品にのみ適用されま

Page 32: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

32

カナダ

北米

アメリカ合衆国

す。その商標の所有者によって米国における販売が許諾された商品と並行輸

入品との間に実質的な差異がある場合、商品は非真正商品であると判断され

ます。前記 1114 条は、混同のおそれのある、登録商標の再製標章、偽造標

章、複製標章又はもっともらしい模造標章を取引において使用することを禁

止しています。そのような混同のおそれは、許諾された商品と並行輸入品と

の間に実質的な差異がある場合に起こる可能性があります。つまり、米国に

おいて販売することが許諾されている商品と並行輸入品との間に実質的な差

異がなければ、米国法の下では商標権侵害は生じません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 登録商標を現在実際に使用していることは、商標権者が権利行使す

るための要件ではありません。しかしながら、商標権者は、その権利を放棄

していてはなりません。商標の放棄に関する議論をご参照下さい。下記の議

論にみられるように、米国において登録商標が継続して 3 年間不使用であっ

た場合は、商標の放棄と推定されます。

 また、米国商標法、15USC§1126(e)に基づけば、出願人の本国におい

て正当に登録された商標は、米国における商標の使用を証明することなく、

米国において登録されます。この米国商標法の規定に基づいて登録された商

標は、たとえ商標の使用が米国において生じていなくても、権利行使の適格

性を有します。

 さらに、現在使用されてはいないが、登録がされている商標を侵害する者

に対する、差止による救済や金銭的な損害賠償を得ることのできる商標権者

の能力は、被疑侵害行為から生ずる損害を立証する商標権者の能力に基づく

ことになるでしょう。例えば、差止による救済は、裁判所が両当事者の状況

を審査して行う衡平法上の救済です。商標の使用について本案的差止命令を

得るためには、商標所有者は一般的に、(1)回復不能の損害、(2)法上の

その他の救済では不十分であること、(3)差止命令に有利に働く比較衡量

上の不利益、及び(4)差止によって公衆の利益が損なわれないこと、を証

Page 33: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

33北米

アメリカ合衆国

明しなければなりません。さらに仮差止命令を得るためには、商標所有者は

一般的に、(1)本案判決の最終審において勝訴する強い可能性、(2)本案

の審理終結までに回復不能の損害を被るおそれがあること、(3)仮差止命

令が論争に先立つ「現状」を維持すること、(4)商標所有者に有利に働く

比較衡量上の不利益、及び(5)仮差止命令は第三者を保護するために必要

であること、を立証しなければなりません。商標権者が有効に登録された商

標を現在使用していない場合、これらの要因の多くは、証拠の観点から、証

明することが困難であると思われます。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 この質問は、CD の題号と CD の販売に係るブランドとの相違に関

する問題を提起しています。音楽 CD に関して広く知られたブランドには、

Sony BGM、Motown、Apple Records、Columbia Records、Universal 及

び Warner があります。これは CD の名称又は題号とは異なります。米国法に

おいては、書籍がシリーズの一部であるか、又はシリーズ名が記述的である場

合は、そのシリーズ名がセカンダリーミーニングを獲得したことを証明しない

限り、書籍の題号は商標として保護されません。単行本の場合は、セカンダリー

ミーニングの獲得を証明したとしても、登録することはできません。

 音楽の題号は、書籍とは異なった取り扱いを受けます。米国では、楽曲の

名称又は題号は、商標としての役割を果たします。それゆえに、本質問の状

況においては、音楽 CD のジャケット上に「love」の題号を使用することは、

音楽 CD を指定する他人の登録商標「love」を侵害します。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 T シャツの胸全面における他人の登録商標と同一の図形は、他人の

商標権の侵害を構成します。しかしながら、その図形の使用は、商品の出所

Page 34: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

34

カナダ

北米

アメリカ合衆国

を表示又は商標権者との提携関係を暗示することにより、商標としての機能

を果たすものでなければなりません。一般購入者が、その図形を商品の出所

表示ではなく、単なる装飾であると考える場合、その図形は商標としては保

護されません。

 本事案では、その図形が T シャツの胸部全体を覆っているという事実は、

その図形は単なる装飾であり、商標として使用されていないという結論をも

たらし得ることになります。その表示は単なるデザインであるという抗弁に

対して、商標権者は、そのデザインが商標として販売促進に供されてきたこ

とを示すことにより、これを克服できる可能性があります。本事案では、そ

のデザインを登録することは、そのような証拠を提供することになります。

 その表示が図形ではなく、文字からなるということは、その表示が単なる

装飾であるという事実を必ずしも変えるものではありません。In�re�Dimitri's�

Inc. , 9 U.S.P.Q.2d 1666 (T.T.A.B. 1988) 事件において、T シャツ上の「sumo」

の文字は美的装飾に過ぎないと認定されました。この点に関して、Grupke�

v.�Linda�Lowe�Sportswear�Inc. , 921 F. Supp. 987 (E.D.N.Y. 1996) もご参照下

さい。(「cats coming and going」との表題が付されて、猫の前面と背面を

描いた T シャツのデザインが出所表示の意味を有しないと認定され、した

がって単なる装飾であると判断されました。) 他方、Vuitton�et�Fils�S.A.�v.�J.�

Young�Enters. , 644 F.2d 769, 775(9th Cir. 1981) の事件において、LV の

反復使用及びフラ・ダ・リ(fleur-de-lis)パターンは有効な商標であると判

示されました。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 ABC の標章が付されたボールペンが販売されたのではなく、「フリー

ギフト」として配布されたという事実は、商標権侵害に対する抗弁を可能に

するものではありません。前述したように、15USC§1114 は、商標権の侵

Page 35: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

35北米

アメリカ合衆国

害は商品の販売又は販売の申出からだけではなく、商品の頒布からも発生す

ることを明示しています。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 商品の用途を表示する目的で他人の登録商標を表示することは、登

録商標の侵害にはなりません。そのような使用は「指示的使用」(nominative

use)であると考えられます。米国の裁判所は、登録商標の指示的使用が許

容されるかどうかを判断するための 3 つの要因テストを創り出しました。

 1.問題となっている製品又は役務が、登録商標を使用することなしには

容易に特定することができないものでなければならない。

 2.商標は、製品又は役務を特定するのに合理的に必要な最小限の範囲で

使用されなければならない。

 3.使用者は、商標権者による後援(sponsorship)又は承認(endorsement)

を暗示させる如何なることもしてはならない。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 米国登録商標にⓇの表示を付することは可能ですが、そのような表

示は義務ではありません。そのような表示が付されていない場合、被疑侵害

者は不知侵害の抗弁をすることが可能になります。この抗弁は、侵害者がそ

の標章が他人によって商標として登録されていること又は使用されているこ

とを知らなかったという論拠に基づいてなされます。そのような抗弁が成功

すると、過去の侵害に対する損害賠償を請求することができません。米国商

標第 29 条(15USC§1111)は、「そのような表示による登録の告知をしな

かった商標権者が本法に基づいて提起する如何なる侵害訴訟においても、本

法の規定に基づく利益及び損害を回復することはできないものとする。ただ

Page 36: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

36

カナダ

北米

アメリカ合衆国

し、被告がその登録を現実に認識していた場合はこの限りではない。」と規

定しています。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 第三者は、連邦裁判所に訴訟を提起することにより、又は米国特許

商標庁の商標審判部(T.T.A.B.)に取消審判を請求することによって、登録

商標の取消しを求めることができます。商標審判部における取消審判請求は、

取消通知書を提出することにより開始されます。商標登録全体の取消しとは

対象的に、商標登録の一部取消しを求めることも可能です。審判請求人は、

取消しを求める商標登録の存在により、損害を受けている旨を主張しなけれ

ばなりません。この要件は、当該登録商標と請求人の商標との間に混同のお

それがある旨の申立てを十分に行うことにより満たすことができます。

 商標審判部の規則に基づき、取消通知書には以下の事項が記載されていな

ければなりません。

 1.請求人が、取消しを求める商標登録によって損害を受けている又は受

けるおそれのある、手短で簡潔な理由

 2.取消理由の手短で簡潔な陳述

実質的要件

 不使用取消しの実質的要件として、米国商標法は以下のように規定してい

ます。

 商標は、以下の場合に放棄されたものとする。

 (1)その使用が、使用を再開しない意図を以って中断されているとき。

再開しない意図は、状況証拠から推認されるものとする。継続した 3 年間

の不使用は、放棄の一応の証拠とする。商標の「使用」とは,通常の取引過

程において行われる誠実かつ真正な使用を意味し、単に商標に係る権利を維

持するために行われるものを意味しない。15USC§1127。

Page 37: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

37北米

アメリカ合衆国

 前記の法令は、「Carroll�Shelby,�et�al.�v.�Ford�Motor�Company , 43 U.S.P.Q.2d

1962(Dist. Ct. Calif. 1997)」(不可争性を取得した登録商標の侵害における

抗弁として、不使用による抗弁を成功裏に主張するためには、「不使用及

び使用の再開をしない意図」の両方を証明しなければならない旨が述べら

れています。)を含む多数の法的決定の対象となっています。「Prudential�

Insurance�Company�V.�Gibraltar�Financial�Corp. , 694 F.2d 1150, 1156(9th

Cir. 1982)」、「Saxlehner�v.�Eisner�&�Mendelson�Co. , 179 U.S. 19, 31, 45, L.

Ed. 60,21 S. Ct. 7 (1900)」、「Star-Kist�Foods,�Inc.�v.�P.�J.�Rhodes�&�Co. , 769

F.2d 1393, 1396 (9th Cir.1985) もご参照下さい。

立証責任

 立証責任は、放棄を請求する当事者にあります。放棄は、権利の剥奪の

性質を有するため、その立証負担は重いものになります。「Cumulus�Media,�

Inc.�v.�Clear�Channel�Comm'ns,�Inc. , 304 F.3d 1167, 1175 (11th Cir.2002)」

及び「Saratoga�Vichy�Spring�Co.�v.�Lehman , 625 F.2d 1037, 1044 (2d Cir.

1980)」をご参照下さい。いったん、不使用、例えば、米国商標法に基づく

3 年間の不使用が証明されれば、その推定を覆すに十分な反証となる証拠の

提出責任は、商標権者に転換されます。しかしながら、最終的な説得責任は

転換されず、放棄を請求する当事者に残ったままとなります。「Cerveceria�

Centroamericana,�S.A.�v.�Cerveceria� India,� Inc. , 892 F.2d 1021 (Fed. Cir.

1989)」、「Saratoga�Vichy�Spring�Co.�v.�Lehman,�supra;�Abdul�Jabbar�v.�

GMC,�85 F.3d 407 (9th Cir. 1996)」をご参照下さい。

取引上の使用を再開する意図

 多くの事件において「放棄の意図」の言葉が用いられていますが、正確

な法律用語では、「使用を再開しない意図」です。「Carroll�Shelby,�et�al.,�v.�

Ford�Motor�Company,�supra」事件(不可争性を取得した登録商標の侵害に

おける抗弁として、不使用による抗弁を成功裏に主張するためには、「不使

用及び使用の再開をしない意図」の両方を証明しなければならない旨が述べ

られています。)をご参照下さい。商標権者は、放棄を望まないかもしれないが、

Page 38: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

38

カナダ

北米

アメリカ合衆国

その使用を再開する意図がない可能性があります。放棄を求める側に一応有

利となっている事件において、放棄の推定を覆すための反証として決定的に

重要なのは、「取引上」の使用を再開する意図です。「Exxon�Corp.�v.�Humble�

Exploration�Co. , 695 F.2d 96, 106 (5th Cir. 1983)」事件をご参照下さい。

 Exxon 事件において、裁判所は、名目的使用及び係争商標を取り替える意

図にもかかわらず、当該商標を再導入するためのさらなる展開は、放棄の認

定を排除するのに十分であると判示しました。原告は、係争商標「HUMBLE」

を含む 3 つの商標を新しい商標に取り替えることを決議しましたが、原告は

その取り替えに係る商標を使用し続けることも意図していました。裁判所は、

当該商標の単なる実際の使用は、放棄の推定を覆すに不十分であると判示し

ました。この状況において、裁判所は、市場における当該商標の不使用は外

部の要因又は規制障壁によって強制されたのではなく、また当該商標は他の

類似の事件のように、「取引上は死んでいる」状態にはないと認定しました。

しかしながら、裁判所は、原告の全体的な商標の状況との関連で、当該商標

の不使用の検討をも行いました。その上で、原告は当該商標の取引上の使用

を再開する意図があったと判断しました。この判断に関連する要因は、原告

のマーケティング部門は当該商標を使用する提案を作り上げており、当該商

標は 3 年後に使用に復しており、備忘録は原告が当該商標の名目的使用以上

のものを意図していたことを示している、という一連の事実です。裁判所は、

原告は当該商標を放棄しておらず、被告が当該商標を商号として使用するこ

とは禁止されるとの判決を下しました。

 免責される不使用を証明するためには、商標権者は、その特定の状況の下

で商標権者が取った行動は、米国における取引においてその商標を使用する

誠実かつ真正な意図を有する合理的な事業家であれば取るであろう行動と同

じであることを示す証拠を提出しなければなりません。「Imperial�Tobacco�

Ltd.�v.�Philip�Morris,�Inc. , 899 F.2d 1575, at 1582, 14 U.S.P.Q.2d 1390, 1394 95

(Fed. Cir. 1990)」事件(「不使用の期間に如何なる活動に従事したか、又は不

使用の期間に如何なる出来事が使用を再開する意図から生じたか」に関する

Page 39: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

39北米

アメリカ合衆国

証拠が要求されました。)をご参照下さい。また、「Rivard�v.�Linville� (CA FC)

45 U.S.P.Q.2d 1374 (1/8/1998)」事件もご参照下さい。

 Imperial Tabacco 事件においては、不使用による放棄の請求を克服するため

に、商標権者は、「マーケティング戦略」の作成に携わっていたのであり、当

該商標に関する潜在的な法律上の問題を懸念していたのであり、かつ巻きた

ばこに使用する自己の商標「JPS」が使用されなかった 6 年の間、ライセンス

を供与する努力をしていた、と申立てました。しかしながら、裁判所は、こ

れらの理由は、取消手続きにおいてなされた放棄の判決(正式事実審理を経

ないでなされる判決 summary judgement)を排除するには不十分であると認

定しました。商標権者の「マーケティング戦略」の大部分は、サングラス・

ペン及び腕時計のような「付随的」な製品のマーケティングに向けられてい

たのであり、巻きたばこについての不使用を免責するものではありませんで

した。加えて、提訴についての商標権者の懸念は、商標を登録された態様で

使用をすることが不可能であったことに起因したのではなく、特殊な表示態

様による「JPS」の巻きたばこを販売することを望んでいたことに起因してい

たことを証拠は示していました。さらに、商標権者がライセンスを供与せん

とした努力は、米国の国外における、巻きたばこ以外の商品に関するもので

したし、商標権者は、いずれにしても、ライセンスをしなければ当該商標を

使用することができなかった理由を述べませんでした。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 本設問の所与の事実に基づくと、XX 社は不使用取消手続において

勝利すると言うべきです。この点に関して、XX 社のウェブサイトへの相当

数のアクセスが示されていることが役に立ちますが、具体的なアクセス数を

Page 40: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

40

カナダ

北米

アメリカ合衆国

示す必要はありません。

 米国においては、「取引において使用」されている商標の所有者は、当該

商標を米国特許商標庁に登録することができます。「取引における使用」の

要件は、通常、当該商標が商品、商品の包装、商品のラベル又は商品の取扱

説明書に付されており、かつそのような商品が米国の消費者又は米国内の展

示会に向けて出荷されたことを証明することによって達成されます。しかし

ながら、「取引における使用」の要件を満たすためには、商品が実際に販売

されたことまでは必要とされません。むしろ必要となるのは、商品が米国に

おいて販売に供され、注文があった場合に、その商品がその商品を注文した

消費者に向けて合理的な時間内に出荷され得ることです。本設問の所与の事

実状況においては、商品が米国において販売に供されているとの主張が可能

です。当該商品は、同社のウェブサイトにおいて継続的に販売の申出がなさ

れており、かつ米国の消費者は当該ウェブサイトにアクセスすることができ

ます。当該ウェブサイトは英語で表示されており、当該ペンはウェブサイト

に掲示されており、当該ペンには商標 XYZ が付されています。当該ペンの

価格は米国通貨で特定されており、その製品に関する注文方法及び支払方法

がウェブサイト上に具体的に示されています。前記の事実は、XYZ 商標を

付した XX 社のペンが米国において販売に供されていることを意味します。

加えて、所与の事実によれば、XX 社が自国においてペンを確かに製造して

いるため、米国の消費者からのペンの注文を履行することが可能です。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 Q.9に対する我々の回答は「はい。」ですが、米国の消費者が

XX 社にペンを注文し、それらを米国に輸入したという事実は、当該商標が

米国において使用されていることを証明するのに確実に役立ちます。

Page 41: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

41北米

アメリカ合衆国

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 ウェブサイトのサーバーが米国にあるか否かという事実が、決定

的な要因になる可能性は低いと思われます。サーバーが米国にあれば、この

事実はその製品が米国において販売に供されていることを証明するのに役立

ちます。しかしながら、サーバーが米国の国外に設置されているとしても、

米国の消費者がそのウェブサイトに容易にアクセスすることができるのであ

れば、このことはサーバーがどこに設置されているかということよりも、もっ

と重要である可能性が高いと思われます。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 米国の公用語による表示がない場合、米国の消費者の大半が話す

のは英語であるため、米国における商標の使用を立証できる可能性はかなり

低いと思われます。とはいえ、当該言語が、スペイン語又は中国語のように、

米国民の比較的多数に対応するものである場合、そのウェブサイトは依然と

して米国の多数の潜在的消費者がアクセスすることが可能であるという議論

をし得ると思われます。これに関して、米国の消費者が当該ウェブサイトを

通じて実際に当該ペンを購入したことを証明することができれば、役に立つ

と思われます。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場合はどうですか。  ・登録商標「XYZ」  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 広告が商標登録に係る指定商品を具体的に示すものでなければ、商

標が取引において使用されていることにはなりません。一般購入者は、当該商

Page 42: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

42

カナダ

北米

アメリカ合衆国

標と当該商標登録において特定された商品とを結び付ける必要があります。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 上記のQ.13において述べたように、商標は商標登録に係る

指定商品に使用されることが必要です。商標が商品、商品の包装、商品の

ラベル又は商品の取扱説明書に使用されていない場合、公衆はその商標と

その商品とを結び付ける可能性は低いと思われます。同様のことは、「XYZ」

が URL にのみ含まれている場合にも言えます。とはいえ、ウェブサイトは、

消費者にその商標とその万年筆とを結び付けさせる、電子的な販売展示場所

として機能し得ると言えます。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 本設問における事実状況は、ペンの価格が米国ドルで表示されて

いることを示しています。とはいえ、米国ドルでの表示がない場合、その

事実は決定的な要因ではないと思われます。クレジットカードでペンを注文

できる場合、クレジットカード会社によって請求される価格は、外国通貨と

米国ドルとの間でその時現在適用される為替レートによることになるでしょ

う。さらに、多くのウェブサイトにおいて、現在の為替レートを入手するこ

とはかなり簡単です。したがって、価格が日本円で表示されていても、購入

者は比較的容易にウェブサイトにアクセスして、等価の米国ドルを決定し得

ると思われます。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 商標審判部は、ある製品を展示し、かつその製品の注文方法を掲

Page 43: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

43北米

アメリカ合衆国

載しているインターネットのウェブサイトページは、その商標とその商品と

を結び付ける方法でウェブページ上にその商標が表示されている限り、「商

品との関係を有する展示」を構成するとの判断を示しました。この事件では、

十分な商標の使用は、商標の登録を支えるとの判断が示されました。「In�re�

Dell,�Inc. 71 U.S.P.Q.2d 1725, (T.T.A.B. 2004)」事件において、Dell 社のコン

ピュータ製品に関するウェブページは、そのウェブサイトが商品の掲載に加

えて、その商品の注文用のリンクを提供していたことから、単なる広告以上

であって、むしろ、商品と結び付けられた電子的展示を構成する、と認定さ

れました。実際、当該ウェブサイトは電子的小売店を構成しており、消費者

に対して製品の購入を促す店舗陳列又は大見出しでした。

 ウェブサイトはまた、役務商標の使用を確立するのに十分であるとされて

きました。役務商標の適正な使用を確立するのに必要なことは、その者の役

務を特定し、その者の役務と他の者の役務とを識別し得る方法で、当該商標

が役務の提供若しくは広告において使用又は表示されていることを証明する

ことのみです。この点に関して、商標審判部は、コンピュータスクリーン上

における商標の使用を示す見本は、コンピュータスクリーンがその役務の内

容を説明していなかったとしても、データ送信サービスに係る登録を維持

するのに十分であるとしました。「In�re�Metriplex,�Inc. , 23 U.S.P.Q.2d 1315

(T.T.A.B. 1992)」事件をご参照下さい。

(原稿受領日 2008 年 4 月 25 日)

Author: Mr. Jerry Nagae Christensen, O'Connor, Johnson & Kindness PLLC 1420 Fifth Avenue Suite 2800 Seattle, Washington 98101-2347, U.S.A. Tel: +1.206.695.1705 Fax: +1.206.224.0779 Email: [email protected] Website: http://www.cojk.com/

Page 44: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

44

Page 45: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

45

欧州

(EUROPE)

Page 46: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

46 欧州

カナダ

共同体商標

共同体商標 (Community Trade Mark)

 序

 回答すべき質問は、共同体商標規則(Community Trademark Regulation)

(以下、CTM 規則と言います。)の文言からその回答を容易に導き出すこと

ができないという意味において、不透明な法的状況に言及しています。さら

に、共同体商標法制度は 1990 年代に確立したばかりであることに留意しな

ければなりません。したがって、多くの分野において、欧州司法裁判所(ECJ)

は、統合的な判例法をまだ確立していません。よって、質問に対する回答の

一部は筆者の意見を述べたものであり、拘束力のあるヨーロッパ法であると

みることはできません。

 さらに、厳密に言えば、欧州共同体は、それ自体が司法管轄区域ではな

く、むしろ、各加盟国内における国内商標制度の上に成り立つ超国家的な商

標制度を確立していることに留意する必要があります。CTM 商標権の行使

は CTM 規則の原則に従いますが、それは各国の国内裁判所において取り扱

われます。各国の国内裁判所は共同体商標裁判所として指定されるものであ

り、CTM 規則が最終的に適用される場合を除き国内法を適用します。いず

れにせよ、手続面においては国内法が適用されます。

 したがって、CTM 商標の侵害の問題を統轄する単一の共同体商標法のよ

うなものはありません。しかしながら、CTM 規則を補完する国内法律は、

共同体商標指令(89/104/EWG)によってある程度ハーモナイズされてい

ます。欧州司法裁判所は、前記指令の法律用語の解釈に関して最終的な権限

を有するので、ハーモナイズされた欧州各加盟国の商標法に関しても最終的

な権限を有します。

Page 47: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

47欧州

共同体商標

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 Alicante にある OHIM による登録を通じて獲得され、EU の全領域

において効力を有する CTM 商標は、商標権者に対し、その商標に係る独

占権を付与します。共同体商標規則(CTM 規則)の第 9 条(1)によれば、

商標権者は、すべての第三者が取引過程において CTM 商標の指定商品・指

定役務と同一又は類似の商品・役務について同一又は類似の標識を使用する

ことを禁止する権利を有します。CTM 規則第 9 条(2)は、侵害を構成す

る使用を限定列挙しています。すなわち、(a)商品又はその包装に標識を付

すること、(b)その標識の下で、商品の販売の申出をし、市場にその商品

を置き又はその目的でそれらを貯蔵すること、又はその標識の下で役務の申

出若しくは提供をすること、(c)その標識の下で商品を輸入又は輸出するこ

と、(d)取引書類及び広告にその標識を使用すること、です。

 問題となる商標及び商品・役務が類似又は同一であるかどうかという問題

とは別に、その商標の使用が存在するかどうかの問題についての審査が重要

な問題となったことがあります。BMW/Deenik の事件において、欧州司法

裁判所(ECJ)は、被告の標識が「商標として」使用された場合にのみ商標

の侵害が生じ得ると判示しました。すなわち、商標は、取引過程において、

他の企業の製品又は役務と(自己の)製品又は役務とを区別するために使用

されなければならないと判示しました(欧州司法裁判所 1999 年 2 月 23 日

判決、C-63/97-BMW/Deenik)。

 真正商品の並行輸入は、商標権侵害を構成する可能性があります。しかし

ながら、共同体消尽制度の下では、共同体のいずれかの加盟国における最初

の販売により権利は消尽します。並行貿易は共同体内においては許容されま

すが(CTM 規則第 13 条第 1 項)、欧州経済地域(EEA)外の諸国からのも

のは許容されません。

Page 48: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

48 欧州

カナダ

共同体商標

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 一般的に、商標権者がその商標権を行使するためには、その登録商

標を使用していることが要件となります。ただし、登録後の最初の 5 年間は、

使用の要件はありません(CTM 規則第 15 条)。この期間の後に、CTM 登録

に基づく異議申立、取消訴訟又は侵害訴訟がなされたとしても、その CTM

登録商標は使用の要件を満たしていないとの主張を成功裏に行うことによ

り、それらの攻撃を防衛できる可能性があります。その際には、商標の使用

は商標権者によって証明されなければなりません。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 一般的に、公衆がその題号「love」を取引上の出所表示として認識

する場合、そのような使用は商標権侵害を構成します。原則として、CD の

題号は、書籍の題号と同様に、むしろ CD(又は書籍)の内容を表示するも

のとして機能するか、又は一つの作品を他の作品から識別する働きをします。

しかしながら、同時に、公衆は、作品の題号から製品の取引上の出所を連想

する可能性があります。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 T シャツの胸全面に商標を表示することは、その表示が図形であるか

又は文字からなるかにかかわらず、公衆が当該商標を純粋な装飾というより

むしろ商品を特定するための表示として理解する限り、商標権侵害を構成す

る可能性があります。公衆がその標識を出所表示として認識するか又は純粋

な装飾的使用として認識するかどうかの問題は事実によります。Arsenal/Reed

の事件において、欧州司法裁判所は、スカーフ及びその他のファン用の小物

における Arsenal FC(ロンドンのフットボールクラブ)のロゴ及び紋章の使用

Page 49: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

49欧州

共同体商標

に関して、その標識は「商標として」使用されていたと判示しました(欧州司

法裁判所 2002 年 11 月 12 日判決、C-206/01-Arsenal/Reed)。裁判所は、その

標識の使用が出所表示機能に影響を与えるおそれがあれば、商標権者の唯一の

権利は危険にさらされると認定しました。これは、その標識の使用がその取引

の参加者の心に、関連する商品と商標権者との間に実質的な関係があるという

印象を創出する場合には妥当するかもしれません。一部の消費者が Arsenal FC

を示すその商標を商品の出所に係る企業と解釈する可能性があれば、侵害に至

ることになります。したがって、T シャツの胸に使用された図形の事例におい

ては、侵害が認定されるように思われます。

 たとえ、上記の意味において、「商標として」の使用がないとしても、その

標識についてなされる使用は、CTM 規則第 9 条(1)(c)の意味において、そ

の評判を不正に利用する可能性がなお存在します。Adidas/Fitnessworld の事件

において、欧州司法裁判所は、ジャンプスーツに 2 本の縞模様のモチーフを使

用することは、関係者がその縞模様を単なる装飾と思う可能性があるとしても、

なお有名な Adidas 商標を連想するおそれがあるとして、Adidas の評判を利用

するおそれがあると判示しました(欧州司法裁判所 2003 年 10 月 23 日判決、

C-408/01-Adidas/Fitnessworld)。ここにおける最低限の要件は、その商標が「商

品及び役務について」使用されていることであり、たとえ出所表示としての印

象を創出することがなくても、その標識が商品の商業化に関して使用されると

きに、その要件は既に満たされるように思われます。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 原則として、同一の商品についての他人の商標の使用は、その商品

が販売されるか又は販売促進の目的で「フリーギフト」として頒布されるか

を問わず、他人の商標権を侵害する可能性があります。しかしながら、一定

の状況の下、様々な要因によって、公衆が当該商品に付されたその標識を出

Page 50: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

50 欧州

カナダ

共同体商標

所表示として認識しない場合は、侵害行為は否定される可能性があります。

当該商品がフリーギフトとして頒布されているという事実は、この点におけ

る一つの重要な要素にすぎないかもしれません。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 いいえ。CTM 規則第 12 条は、CTM 商標の商標権者は、第三者が

取引過程において、自己の氏名若しくは住所、商品・役務の記述的表示、又

は製品若しくは役務の意図された用途、特に付属品若しくは予備部品の意図

された用途を表示するために必要な場合には、その商標自体を使用すること

を禁止することができない旨を規定しています。ただし、その使用が工業上

又は商業上の公正な慣行(いわゆるフェアユース)に従っており、かつ公衆

がその製品が商標権者から出所していると信ずるに至ることがない場合に限

ります。したがって、欧州司法裁判所は、Gillette の事件において、他人の

商標を使用することが、その提供に係る製品が他の製品に適合し得るという

事実を消費者に知らせることができる唯一の現実的な方法である場合におい

て、そうすることが「必要」であることを強調しました。(欧州司法裁判所

2005 年 3 月 17 日判決、C-228/03-Gillette v. LA Laboratories)。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 いいえ。そのような表示は要求されません。それにもかかわらず、

そのような表示は、登録商標を公衆に知らせるために推奨されます。

Page 51: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

51欧州

共同体商標

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 不使用に基づく取消しに関する規定は、CTM 規則第 50 条です。

CTM 規則第 50 条(1)(a)(3.1)によれば、CTM 商標は、登録から継続

して 5 年を経過した後、取消請求前に、真正な使用に付されていなければ、

取り消されなければなりません。ただし、不使用について正当な理由がある

場合はこの限りではありません。EU 加盟国の 1 カ国における使用であって

も、EU 全体における使用の要件を満たすに十分であると判断されます。と

りわけ、登録商標の識別性に影響を与えない要素において異なる態様におけ

る CTM 商標の使用、輸出目的のみで EU において商品又はその包装に CTM

商標を付すること、及び商標権者の同意を得て CTM 商標を使用すること、

例えば、ライセンシーによる使用は、正当な使用と判断されます(CTM 規

則第 15 条(2)及び(3))。CTM 規則第 50 条(2)によれば、特定の商品

又は役務についての一部取消しも可能です。

 CTM 実施規則は、さらに、商標権者がどのようにすれば、使用の要件を

満たし得るかについての基準を規定しています。CTM 実施規則の第 22 条(2)

によれば、商標権者は、その商標の使用の場所、時期、性質及び範囲につい

ての証拠を提出しなければなりません。しかしながら、CTM 規則も CTM 実

施規則も、何が「真正な使用」と判断されるかについて定義していません。

 リーディングケースである Minimax 事件において、欧州司法裁判所は、

真正な使用がされたかどうかは、その商標を商業的に利用するという真摯さ

の点を考慮しつつ、かつ単なる名目的な使用、すなわち、商標を登録簿にお

いて維持するためだけの使用を排除した上で、その事案のすべての状況に照

らして判断されなければならないと判示しました。裁判所はまた、その事件

において、修理サービスの履行及び予備部品の販売は真正な使用の基準を満

たすと判示しました(欧州司法裁判所判決 2003 年 3 月 11 日、C-40/01、

Ansul B.V.v.Ajax Brandbeveiliging B.V.)。

Page 52: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

52 欧州

カナダ

共同体商標

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 ウェブサイト上の商標の使用に関しては、欧州全体に適用される判

例又は拘束力のある原則は今のところ存在していないことにご留意下さい。

原則として、商標権者はその商標を商標登録に係る指定商品及び指定役務に

ついて真正な使用に付さなければなりません。ただし、不使用について正当

な理由がある場合にはこの限りではありません。広告を目的とする使用は、

ウェブサイト上のものであっても、登録商標の使用であると判断され得ると

言えます。ただし、商標登録に係る具体的な商品又は役務について使用され

る場合に限ります。それにもかかわらず、EU においてその商品が販売され

たことがなければ、EU における「真正な使用」は認められそうにありません。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 いいえ。これは十分ではないでしょう。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 インターネット上の標識の使用は、その使用がその加盟国におい

て商業的効果を有する場合にのみ、加盟国における使用を構成します。した

がって、決定的な事実は、ウェブサイトが特定の国において利用できるかど

うかであり、ウェブサイトのサーバーがどこに設置されているかではありま

せん。重要な事実は、また、ウェブサイト上の言語及び通貨です。

Page 53: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

53欧州

共同体商標

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 上述したように、言語は、そのウェブサイトが欧州の特定の国の

消費者を対象としていることの一つの論拠となり得ます。一般的に、例えば、

ドイツ語の表示がなければ、そのウェブサイトは必ずしもドイツの消費者を

対象としているとは考えられないでしょう。これは、特定の産業分野に関し

ては異なるかもしれません。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場合はどうですか。  ・登録商標「XYZ」  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 上述したように、商標権者は、商標を商標登録に係る指定商品及

び指定役務に真正に使用していたことが必要とされます。したがって、一般

原則として、商標を商品に付することが必要とされるでしょう。登録商標、

製品の名称である「万年筆」を表す言葉又は万年筆の抽象的なイラストレー

ション及び XX 社の名称・住所及び連絡先の単なる表示は、通常、商標の使

用についての適切な行為と判断されないでしょう。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 既に述べたように、通常、商品にその商標を付することが必要で

しょう。例えば、役務又は(液体のように)一定の商品に関しては例外が存

在するかもしれません。したがって、URL のみにおける商標の使用は十分

ではないでしょう。

Page 54: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

54 欧州

カナダ

共同体商標

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 ウェブサイト上における特定の通貨の使用は、そのウェブサイト

がその取引分野を対象としていることを示す非常に重要な表示であると言え

ます。例えば、そのウェブサイトが米国ドルのみを表示しているなら、特定

の国についてのウェブサイト上の商標の使用は共同体における使用と認めら

れることはなさそうに思われます。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 (回答なし。)

(原稿受領日 2008 年 3 月 29 日)

Author: Mr. Peter J. A. Munzinger Bardehle, Pagenberg, Dost, Altenburg, Geissler Galileiplatz 1, 81679 Munchen Germany Tel: +49-89-92805-0 Fax: +49-89-92805-444 Email: [email protected] Website: http://www.bardehle.com/

Page 55: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

55欧州

オーストリア

オーストリア (Austria)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 商標権者の同意を得ずに、登録商標(同一又は類似)を指定商品・

指定役務又はそれらに類似する商品・役務について使用する行為は、侵害を

構成します。

 EEA(欧州経済地域)外からの真正商品の輸入は、侵害を構成します。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 商標の使用は、差止請求権行使の要件ではありません。しかしなが

ら、何人も、登録後 5 年以内に使用されていない商標の取消しを請求する

ことが可能です。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 音楽 CD のジャケット上の題号は、原則として商標の使用ではない

と判断されるでしょう。すなわち、侵害を構成しません。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 これはどちらとも決めにくい事例ですが、どちらかと言えば、その

ような使用は商標権の侵害を構成しそうに思われます。

Page 56: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

56 欧州

カナダ

オーストリア

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 どちらかと言えば、そのような使用は商標「ABC」の侵害を構成し

そうに思われます。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 どちらかと言えば、そのような使用は侵害を構成しません。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 商標が登録商標であることの表示は要求されません。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用

Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 商標登録後 5 年以内に、商標権者又は使用権者が、当該商標を指定

商品又はそれに類似する商品に使用したことを商標権者が証明できない場

合、登録商標は第三者からの請求によって取り消され得ます。

Page 57: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

57欧州

オーストリア

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 指定商品又はそれに類似する商品に関する広告は、インターネット

によるものであっても、商標の使用と判断されます。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 (回答なし。)

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 サーバーがオーストリアに置かれていることは必要とされません。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 当該表示は、公用語(ドイツ語)又は関連業界の多数の人々に理

解される言語によらなければなりません。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場合はどうですか。  ・登録商標「XYZ」  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 広告は、真摯な経済活動が推測され得るものでなければなりません。

Page 58: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

58 欧州

カナダ

オーストリア

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 どちらかと言えば、商標の使用であると判断されます。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 通貨の表示の有無は、何ら関係しません。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 商標権者が真摯な経済活動を証明できることが重要です。

(原稿受領日 2008 年 2 月 21 日)

Author: Mr. P. Kliment Kliment & Henhapel Patentanwalte OG Singerstrasse 8 A-1010 Wien, Austria Tel: +43 1 512 77 91 Fax: +43 1 512 47 15 Email: [email protected] Website: http://www.klimenthenhapel.at/

Page 59: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

59欧州

ベネルクス

ベネルクス (Benelux)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 商標権侵害とは、当該商標又は類似の標識を同一、類似若しくは非

類似の商品 / 役務に(販売促進のために)使用することを意味します。(た

だし、非類似の商品 / 役務については、自己の商標が評判を有し、かつ、自

己の商標が不正に利用されたこと又は自己の商標の評判が損なわれたことを

商標権者が証明できる場合に限ります。)

 EU 加盟国外からの真正商品の並行輸入は、侵害と判断されます。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 いいえ。商標の登録から最初の 5 年間は、使用の要件はありません。

商標権者は、第三者に対し独占権を行使できます。

 最初の 5 年の後は、商標権者は、侵害商標に対し訴訟をする前に、自己

の商標について真正な使用を証明することができなければなりません。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 状況によりますが、ほとんどの場合、侵害とされないと思われます。

第 1 に、「LOVE」はこの種の製品(音声、音楽の媒体。「LOVE」の語は、製

品に収められるこの種の音楽に非常にしばしば関係します。)についてほとん

ど識別力がないからです。別言すれば、それは、具体的な製品の種類(ラブ

ミュージック、バラード等)を特徴付けるものです。

 第 2 に、「LOVE」の標識は、アルバムに録音されるその種の音楽を表現す

ることを欲する何人にも開放されているべきであると主張できるからです。

Page 60: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

60 欧州

ベネルクス

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 それは商標の識別性、商標権者が出願した商標に係る製品 / 役務、

及びその商標が評判を有するかどうか又は周知であるどうかという事実に依

拠します。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 はい。私の意見では、公衆は、これらのペンが商標権者から出所し

たもの又は少なくとも 2 つの会社は関連すると考えるため、出所を混同す

る可能性があります。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 いいえ。一定の製品が他人の商標に係る製品に又はその製品に関

連して利用し得ることを表示することが認められています。Alfa Laval an

Miele 事件のようにいくつかの判決例があります。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 そのような表示は要求されませんが、いくつかの理由によりそうす

ることが推奨されます。第1に、独占権が存在していることを他人に警告す

るためです。これは誰かが意図的に侵害していたことを証明するために役立

ちます。第 2 に、その商標が一般名称と考えられるのを避けるためです。

Page 61: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

61欧州

ベネルクス

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 取消請求は、その商標が使用されていない旨を申し立てることによ

り、地方裁判所にしなければなりません。存在しなかった何か(この場合

「使用」)について、それが存在しなかったことを証明することは、不可能

ではないにしても困難ですので、裁判官は、被告の商標権者に対し、取消請

求前の過去5年以内に通常の方法でその商標を使用していたことを証明する

ことを命じることができます。形式的な販売(5年毎に1回又は数回の広告

など)は通常の使用を証明するに不十分です。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 これらのすべては、わが国(法域:ベネルクス)における商標の通

常の使用を証明するには不十分でしょう。なぜなら、多くの言語を用いた世

界的なウェブサイトを設け、維持することは大変容易であり、その後これを

維持し続ける特別の努力は不要だからです。そのようなウェブサイトが、販

売の申出に係る製品の購入注文をもたらすこともなければ妥当な売上げをも

たらすこともなく、長期に亘って存在することは道理に合わず、考えられな

いことです。したがって、私の見解としては、ウェブサイトの所有者が法域

内(又は法域外)への現実の販売を証明できなければ、わが国の裁判官はそ

の商標は使用されておらず取り消されるべきものと判断すると思います。

Page 62: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

62 欧州

ベネルクス

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 いいえ。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 これは、侵害の場面では使用と判断されるかもしれませんが、商

標権を維持する真正な使用とは判断されません。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 私の意見では、たとえそのウェブサイトがオランダ語又はフラン

ス語(ベネルクスの公用語)で表示されていなくても、そのウェブサイトの

存在により、結果的に、商標の使用を証明することが可能かもしれません。

しかし繰り返しますが、商標権者が現実の販売を証明できる場合に限ります。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。  ・登録商標「XYZ」  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 違いはありません。ウェブサイト上の如何なる使用も、具体的に

ベネルクスの法域内の公衆に向けられたものであるかどうかにかかわらず、

実際の販売が結果としてなければ、ベネルクス商標条約に基づく「通常の使

用」とは(ほぼ間違いなく)判断されません。

Page 63: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

63欧州

ベネルクス

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 それらのすべては、事実を変えるものではありません。通常の使

用は存在しないと判断されるでしょう。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 上記の回答をご覧下さい。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 そのような事例は知りません。そのような事例があるかどうかを

知るためには、判例を深く検討する必要があるでしょう。

(原稿受領日 2008 年 2 月 15 日)

   Author: Mr. Peter Verhaag Arnold & Siedsma Sweelinckplein 1, P.O. Box 18558 NL-2502 EN The Hague, The Netherlands Tel: +31 70 365 48 33 Fax: +31 70 345 21 40 Email: [email protected] Website: http://www.arnold-siedsma.com/

Page 64: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

64 欧州

ブルガリア

ブルガリア (Bulgaria)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 商標法第 13 条(1)によれば、商標権は、商標権者がその商標を

使用し、処分し、第三者が商標権者の同意を得ないで以下の標識を使用する

ことを禁止する権利からなります。(ⅰ)商標登録に係る指定商品・指定役

務と同一の商品・役務について使用する、登録商標と同一の標識。(ⅱ)登

録商標と同一又は類似であり、商品・役務が同一又は類似であるため、公衆

に混同を生じさせるおそれがある標識。混同のおそれには、登録商標とその

標識との連想のおそれも含む。(ⅲ)商標登録に係る指定商品・指定役務と

非類似の商品・役務に使用する、登録商標と同一又は類似の標識。ただし、

先行商標がブルガリア共和国の領域において評判を有しており、かつ正当な

理由なきその標識の使用が当該先行商標の識別性若しくは評判を不正に利用

又は害するものに限る。

 法第 13 条(2)によれば、「取引過程における使用」は、特定の標識の下

で商品を輸入又は輸出することを含むことにご留意下さい。したがって、商

品の輸出は侵害行為と判断される可能性があります。

 原則として、真正商品の並行輸入は商標権の侵害を構成しません。しかし、

第 73 条(1)によれば、商標権者の同意を得ずに第 13 条に規定される標

識を事業活動において使用する者は何人も侵害者と判断されることにご留意

下さい。

 上記の条文に照らし、以下の実務が存在します。すなわち、商標権者の同

意を得ずに、第三者が EU 加盟国外の諸国から真正商品を輸入することは、

侵害行為であると判断される可能性があります。新しい傾向として、裁判所

の判決が分かれています。したがって、それが成功するか否かは明らかでは

Page 65: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

65欧州

ブルガリア

ありません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 ブルガリア法によれば、商標権者が登録商標を使用していることは

商標権行使の要件ではありません。しかし、登録後 5 年の期間内に、ブル

ガリア共和国の領域において、商標登録に係る指定商品又は指定役務につい

て、商標を真正な使用に付していない場合、又はそのような使用が継続して

5 年間中断した場合は、第三者によって登録が取り消される可能性があるこ

とにご留意下さい。ただし、不使用について正当な理由が存在する場合は、

この限りではありません。

 侵害商標に対する無効請求においては、請求の要件の一つとして、請求人

が自己の商標の使用を証明しなければならないことにご留意下さい。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 いいえ。音楽 CD のジャケット上に「love」の題号を表示すること

は、題号及び CD の内容の表示であり、商標の使用とは判断されません。題

号 LOVE が CD ジャケットにどのように付されているか、より具体的には、

その標識が商品自体としての CD の出所に関してではなく、CD の題号に関

して使用されていると消費者が明確に区別できる態様で付されているかを検

討することが重要であることにご留意下さい。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 はい。ブルガリア法によれば、当該図形が図形商標と同一であり、

T シャツに表示されている場合、それは商標の使用と判断され、侵害を構成

します。同様の分析が文字からなる表示に関しても適用されます。

Page 66: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

66 欧州

ブルガリア

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 いいえ。上記の使用は「ボールペン」についての商標の使用ではなく、

「金融サービス」についての商標の使用であると判断されます。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 ブルガリア法によれば、商標は、商標権者に対し、第三者が取引過

程において以下の表示を使用することを禁止する権利を付与するものではあ

りません。

 (ⅰ) 自己の名称又は住所

 (ⅱ) 商品又は役務に係る種類、品質、量、意図された用途、価格、地理

的原産地、製造若しくは提供の時期、又は商品若しくは役務についてのその

他の特性に関する表示

 (ⅲ) 商品又は役務の意図された用途、特に付属品又は予備部品の用途を

表示するために必要な商標

 上記は、その使用が取引の公正な慣行に反しない場合にのみ認められるこ

とにご留意下さい。したがって、そのような使用が侵害を構成するかどうか

は、事案によって慎重に検討すべきであり、製品全体の出所について混同を

生じさせるかどうか等、具体的な事情次第であるということになります。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 ブルガリア法は、商標権の行使の要件として登録の表示を要求して

いません。

Page 67: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

67欧州

ブルガリア

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 ブルガリア法によれば、商標権者が、その商標がブルガリア領域内

においてその登録の日から 5 年以内に使用されたこと、又は商標権者が 5

年の期間の満了日と取消請求日との間にその商標の真正な使用の開始若しく

は再開をしたことを証明しなければ、当該商標は不使用を理由に取り消さ

れます。取消請求前 3 月以内における使用の開始又は再開は、そのような

使用又は再開の準備が、そのような請求がされるおそれがあると商標権者が

知った後にされた場合には、考慮されません。

 本法によれば、以下の行為は使用を構成すると判断されます。

 (ⅰ) 商標権者による、登録された態様とは実質的に異ならない態様での

その商標の使用。

 (ⅱ) 輸出のみを目的とするかどうかという事実にかかわらず、ブルガリ

ア共和国において商品又はその包装に商標を付すること。

 (ⅲ) 商標権者の同意を得てその商標を使用することは、商標権者による

使用を構成すると判断されます。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 ブルガリアの実務によれば、インターネット上の広告を通じてなさ

れる商標の使用を証明するためには、指定商品又は指定役務について具体的

な商標が広告に含まれていることを証明しなければなりません。また、広告

は、ブルガリアの消費者及び(彼らがアクセスすることができる)市場に「向

Page 68: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

68 欧州

ブルガリア

けて」なされていなければなりません。これらは、以下により証明されなけれ

ばなりません。

 - そのウェブサイトが、ブルガリア語の選択肢又はブルガリア通貨による

価格等その商品に関するデータを含んでいること。

 - そのウェブサイトが英語によるものであること。ただし、そのウェブサ

イトにブルガリアからのアクセスがあったことが証明されなければなりません。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 (回答なし。)

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 答えは、9 と同じです。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 答えは、9 と同じです。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 実務によれば、その広告を見る消費者が、XX 社が XYZ 商標を付

した万年筆を扱っており、その具体的な商品に関して XX に対して問合せを

することができることを確認し得ると結論付けられるなら、そのような広告

Page 69: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

69欧州

ブルガリア

は十分な使用と判断されます。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 消費者がそのウェブサイトにおける商品についての表題又は説明

が万年筆の商標であると認識できるなら、そのような使用はその商標の広告

であると判断されます。その商標が URL のみに含まれており、消費者がそ

の商標とその指定商品との関係を認識することができないなら、そのような

使用はその商標の使用であると主張することはできません。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 たとえ、我国の通貨の表示がなくても、広告は全体として評価さ

れなければなりません。そして、広告がブルガリアにおける消費者に向けら

れていることを表示し得るその他の要因を検討しなければなりません。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 残念ながら、本件に関する実務は非常に新しいものであるため、

ウェブサイト上の使用の問題に関する判例はまだありません。

(原稿受領日 2008 年 3 月 31 日)

Author: Mrs. Elena Miller Bojinov & Bojinov Ltd. 38 Alabin Str., P.O. Box 728 1000 Sofia, Bulgaria Tel: +35 92 986 2974 Fax: +35 92 9814206 Email: [email protected] Website: http://www.ptmbojinov.com/

Page 70: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

70 欧州

チェコ

チェコ (Czech Republic)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 チェコ共和国においては、商標権は商標法(法律第 441/2003 号)

に基づき以下の効力を有します。:

 (1)商標権者は、商標登録に係る指定商品・指定役務について登録商標

を独占的に使用する権利を有する(第 8 条)。商標権者は、登録簿の抄本又

は登録証によって自己の権利を証明するものとする。商標権者は、登録商標

にⓇの記号を付する権利を有する。

 (2)本商標法(第 10 条及び第 11 条)に別段の定めがある場合を除き、

第三者は、商標権者の同意がなければ、取引過程において以下の標識を使用

することができない。

 a)登録商標と同一であって、商標登録に係る指定商品・指定役務と同一

の商品・役務について使用する標識

 b)登録商標と同一又は類似であって、当該登録商標及び当該標識が付さ

れる商品・役務が同一又は類似であるため、公衆に混同を生じさせるおそれ

がある標識(登録商標を連想させる場合を含む。)

 c)登録商標と同一又は類似であって、商標登録に係る指定商品・指定役

務と非類似の商品・役務について使用する標識。ただし、当該登録商標がチェ

コ共和国において評判を有しており、かつ、当該標識の使用が当該登録商標

の識別性若しくは評判を不正に利用又は害する場合に限る。

 取引過程における使用とは、特に、商品又はその包装に当該標識を付する

こと、当該標識の下で商品の販売の申出をすること、当該商品を市場に置く

こと若しくはそれらの目的のために当該商品を貯蔵すること、又は当該標識

の下で役務の申出若しくは提供をすること、当該標識の下で商品を輸入若し

Page 71: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

71欧州

チェコ

くは輸出すること、及び取引書類若しくは広告に当該標識を使用すること、

を意味します。

 商標権侵害の場合、商標権者は、裁判所に対して、侵害若しくは侵害のお

それに対する差止命令を請求する権利を有します。これにより、侵害に対す

る未然の救済を受けることができます。商標権者は、また金銭的弁済その他

の適切な弁済をも請求することができます。

 商標権者は、当該商標登録出願の公告日後になされた行為により生じた損

害について損害賠償を請求することもできます。裁判所は、登録簿に当該商

標が登録された後に本案判決をすることになります。

 商標権者は、第三者が商品を市場に置く若しくは置こうとしている場合又

は役務を提供しようとしている場合において、その商品若しくはその商品の

包装又はその付属文書に、商標権者の商標と同一又は類似の商標が付されて

いる場合は、当該第三者に対して、その商品又はその商品・役務の付属文書

の出所に関する情報を求める権利を有します。かかる権利に関する決定権原

は裁判所にあります。裁判所は、当該法的行為が侵害又は侵害のおそれの重

大性に照らして均衡を欠く場合は、これを拒絶します。

 商標権者は、裁判所に対して、第三者による製造又は市場への導入が商標

権を侵害又は侵害するおそれがある商品を市場から撤収しかつ廃棄するこ

と、又は商標権を侵害又は侵害するおそれのある活動に専ら若しくは主とし

て使用若しくは使用されるおそれのある材料及び道具を廃棄することを、当

該第三者に命令するよう請求することができます。裁判所は、その請求を受

ける当人が当該商品の所有者ではない場合又は商標権に対する侵害又は侵害

のおそれが他の手段により救済され得る場合において、廃棄が侵害又は侵害

のおそれに照らして適切ではない場合には、廃棄を命じないものとされます。

商品が市場に導入される前の段階で、当該商品からその標識又は偽造商標を

除去することは例外的な場合にのみ認められます。

 商標がその商標の所有権者の同意なく代理人の名称で登録された場合には

(以下、「代理人の名称で登録された商標」と言う。)、代理人がその行為の正

Page 72: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

72 欧州

チェコ

当性を証明する場合を除き、その商標の所有権者は、当該代理人によるその

商標の使用を禁止する権利を有します。

 当該標識を付した商品の輸入又は輸出(真正商品の並行輸入を含む。)は、

商標権の侵害を構成します。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 チェコ共和国においては、商標権者が登録商標を使用している事実

は、商標権者が差止による救済を求める権利を行使するための要件ではあり

ません。たとえ商標権者が登録商標を使用していなくても、差止請求権は、

商標権を侵害した者に対して、商標権者によって行使され得るものです。し

たがって、商標権者は、登録商標を使用していなくても、差止請求権を行使

することが可能です。

 しかし、知的財産庁は、登録商標がその指定商品又は指定役務について継

続して 5 年間適正に使用されておらず、その不使用について正当な理由が

ない場合には、第三者の請求により開始される手続において、商標登録を

取り消します。登録商標が 5 年間不使用であった後であって、取消請求前 3

月以内に開始又は再開された使用については、その使用の開始又は再開の準

備が、取消請求のおそれを商標権者が察知した後に初めてなされた場合には、

考慮されません(第 31 条)。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 チェコ商標法(法律第 441/2003 号)の第 8 条(3)a)によると、

取引過程における商標の使用とは、特に、商品又はその包装に標章を付する

ことを意味します。したがって、音楽 CD を指定商品とする登録商標「LOVE」

と同一の題号「love」を音楽 CD のジャケットに使用することは、他人の商

標権侵害を構成します。

Page 73: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

73欧州

チェコ

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 チェコ商標法(法律第 441/2003 号)の第 8 条(3)a)よると、

登録商標と同一又は類似の標識であり、かつ商品又は役務が同一又は類似で

あるため、公衆に混同を生じさせるおそれがある場合(当該登録商標を連想

させる場合を含む。)は、そのような標識の使用は商標権侵害と判断されます。

したがって、T シャツの胸全面に表示した図形は、商標の使用と判断されま

す。したがって、文字と図形との間に連想のおそれがある場合には、当該使

用は他人の商標権を侵害すると解釈されます。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 我々の見解によれば、他人の登録商標「ABC」と同一の標識「ABC」

を付したボールペンを頒布すること自体は、金融サービスの提供のための「フ

リーギフト」として頒布されるボールペンがその納入者又は製造者の標識を

付して提供されているのであれば、商標権侵害を構成しません。「ABC」の

標識についてこれらのボールペンを指定している納入者又は製造者は、登録

された商標権「ABC」を使用していることになります。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 チェコ商標法(法律第 441/2003 号)の第 10 条によると、当該標

識が製品又は役務の意図された用途、特に付属品又は予備部品としての用

途の表示に必要であり、かつ公正な商慣行、道徳及び健全な競争原則にした

がって使用される限り、商標権者は第三者による当該標識の使用を禁止する

Page 74: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

74 欧州

チェコ

権原を有しません。したがって、「ABC」商標の商標権者の許可なく、「『ABC』

インクジェットプリンター用のインクジェットプリンターインク」の表示を

しても、商標権の侵害を構成しません。しかし、「インクジェットプリンター

インク」に標識「ABC」を使用することは、当該商標権を侵害します。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 チェコ商標法(法律第 441/2003 号)の第 8 条によると、商標権者は、

登録商標にⓇを付する権利を有します。したがって、チェコ共和国では、Ⓡ

の表示は、商標権者の権利であり、義務ではなく、商標権の行使のための要

件ではありません。商標が登録商標であることをそのような方法で示すこと

をお勧めします。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用

Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 チェコ共和国では、商標法(法律第 441/2003 号)の第 31 条にお

いて、商標の取消しのための要件が明確に規定されています。知的財産庁は、

登録商標が以下に該当する場合、第三者の請求に基づき開始する手続きにお

いて、当該商標登録を取り消します。

 a)商標登録に係る指定商品又は指定役務について継続して 5 年間、登録

商標が適切に使用されず、不使用について正当な理由がない場合。登録商標

が 5 年間不使用であった後であって、取消請求前 3 月以内に開始又は再開

された使用については、そのような使用の開始又は再開の準備が取消しが請

求されるかもしれないと商標権者が知った後に初めて生じた場合には、考慮

されません。

 b)登録商標が、商標権者の作為又は不作為の結果、その指定商品又は指

Page 75: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

75欧州

チェコ

定役務について普通名称となった場合

 c)商標登録の日以後、登録商標がその指定商品又は指定役務について、

商標権者により又は商標権者の同意の下で使用された結果、特にその商品又

は役務の性質、品質若しくは地理的表示について公衆を誤認させるおそれが

ある場合

 当該商標の使用が不正競争行為に当たるとの判決が確定した日から 6 月

以内にされた取消請求によって開始された手続において、庁は当該商標登録

を取り消さなければなりません。当該取消請求の請求期間は延長することが

できず、その期限の徒過は回復できません。

 取消理由が商標登録に係る指定商品又は指定役務の一部にのみ関係する場

合は,庁はその一部の指定商品又は指定役務についてのみ商標登録の取消し

を行います。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 ウェブサイト上の広告が登録商標の使用とされるかどうかに関する

公開された決定は、チェコにおいては現在までのところ存在しません。我々

の見解では、答えは、当該ウェブサイトへのアクセス、当該登録商標の指定

商品又は指定役務に係る消費者の種類、広告の言語、及び当該広告が特定の

商品に関するものであるなら、平均的な消費者が当該ウェブサイトにアクセ

スすることを可能ならしめる追加的な状況次第であると言うべきです。

 商標の使用を証明するための広告(インターネット上の広告を含む。)には、

商標権者の名称に加えて、商標の態様及び商標登録に係る指定商品又は指定

役務が掲載されていなければなりません。当該商品の販売がない場合であっ

ても、インターネット上の広告は登録商標の使用として十分です。

Page 76: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

76 欧州

チェコ

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 (回答なし。)

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 ウェブサイトのサーバーが我国に置かれていなくても、当該広告

がチェコ語で表示されている場合又は当該広告が商標登録に係る指定商品に

関する平均的な消費者にとって一般的な言語で作成されている場合には、当

該広告は我国の消費者を対象とする広告であると判断されます。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 チェコ語による表示がない場合であっても、英語による表示があ

る限り、当該広告は、チェコ共和国に在住の外国人消費者向け又は商標登録

に係る指定商品又は指定役務(例えば、コンピュータ)について普通に使用

される英語を理解するチェコの消費者向けの広告と判断されます。したがっ

て、当該広告は登録商標の使用として十分です。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 我々の見解としては、広告中に、商標登録に係る登録商標、製品

を表す名称又は製品の抽象的なイラストレーション及び商標権者の名称が記

Page 77: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

77欧州

チェコ

載されていれば、当該広告は登録商標の使用であると認識されるべきです。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 登録商標がウェブサイトにおいてその表題又は商品説明に使用さ

れていれば、広告された商品に付されていない場合であっても、消費者は、

ウェブサイト上の当該表題又は商品説明を万年筆の商標であると認識するこ

とができます。当該表題又は商品説明は、登録商標に係る万年筆の広告と判

断され得ると言えます。したがって、当該表題又は商品説明は登録商標の使

用として十分です。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 当該広告が登録商標の使用として認識されるのであれば、広告さ

れた製品の価格及び支払い通貨に関する情報は意味がありません。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 チェコ共和国においては、ウェブサイト上での使用の問題に関連し

て登録商標の不使用が争われた事例に係る公開された判決例は存在しません。

(原稿受領日 2008 年 4 月 7 日)

Author: Dr. Jan Hak Patentservis Praha a.s. P.O.Box 34 140 21 Praha 4, Czech Republic Tel: +420 261 090 011 Fax: +420 261 214 921 Email: [email protected] Website: http://www.patentservis.com/

Page 78: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

78 欧州

デンマーク

デンマーク (Denmark)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 デンマークにおいては、商標権は、登録されているか否かにかかわらず、

以下の効力を有します。(1)商業的企業による使用又は使用が意図されている

指定商品・役務に商標を独占的に使用する効力、及び(2)他人が、同意を得ず

に、商標権に係る商品・役務と同一又は類似の商品・役務に同一又は類似の商

標若しくは標識を取引過程において使用することを禁止する効力。同一及び類

似の商品・役務という上記(2)の限定にかかわらず、商標権者は、非類似の商

品・役務についてもその使用を禁止する権利を有します。ただし、当該商標が

デンマークにおいて周知であり、かつ他人によるその使用が当該商標の識別性

若しくは評判を不正に利用又は害する場合に限られます。

 取引過程における使用とは、特に、(ⅰ)商品又はその包装に当該商標を付す

ること;(ⅱ)当該商標の下で、商品の販売の申出をすること、商品を市場に置

くこと若しくはその目的で商品を貯蔵すること、又は役務の申出若しくは提供

をすること;(ⅲ)当該商標の下で、商品を輸入又は輸出すること;及び(ⅳ)

取引書類及び広告に当該商標を使用すること、を意味します。

 商標権者自身によって又はその同意を得て、当該商標の下、欧州経済共同体

(EEC)の市場に置かれた真正商品の並行輸入については、商標権者はこれを禁

止することはできません。しかしながら、EEC 外からの並行輸入は商標権の侵

害を構成するでしょう。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 デンマークにおいては、当該商標が使用されていることは、商標権者

が商標権を行使するための要件です。未登録の商標権に関しては、使用は継続

Page 79: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

79欧州

デンマーク

的でなければなりません。登録された商標権に関しては、当該商標は、登録手

続の完了後 5 年の期間内に、商標登録に係る指定商品・役務について真正な使

用が開始され、その後、使用が継続して 5 年間中断してはなりません。

 さらに、以下の行為も使用を構成します。(ⅰ)登録された態様と著しく相違

しない態様での当該商標の使用;(ⅱ)輸出目的のみで、商品又はその包装に当

該商標を付すること;(ⅲ)商標権者の同意を得た当該商標の使用

 上記より、差止による救済及び損害賠償を請求するための商標権者の権利は、

商標の真正な使用次第であるということが導かれます。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 はい。題号は音楽 CD の内容の表示として商品の包装に付されることに

より取引過程における使用に該当することになるので、音楽 CD のジャケット

上に識別力のある題号を表示することは、他人の商標権の侵害を構成するでしょ

う。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 いいえ。原則として、T シャツの胸全面に表示された図形は、単にデザ

インの表示にすぎず、商標の使用ではありません。この問題は、使用されるデ

ザインが例えば T シャツに関してそれ自体としても保護される場合、又は芸術

著作物に係る著作権を侵害する要素から構成されるか若しくはそのような要素

を含んでいる場合は、異なった見方がされる可能性があります。漫画のキャラ

クターである「ピノキオ」及びピノキオの文字を描いた商標出願は、このキャ

ラクターの著作権を侵害するとして拒絶されました。

 T シャツの胸全面への表示が文字のみである場合には、たとえ当該文字の表

示が大きなサイズであるとしても、当該文字がデザインとしてのみ認識される

とは限りません。それらはある企業の商品又は役務と他の企業のそれらとを識

Page 80: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

80 欧州

デンマーク

別することが可能な標章として機能する商標としても認識され得ます。したがっ

て、そのような使用は商標権の侵害を構成することがあり得ます。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 いいえ。基本的に、上記の使用は「ボールペン」とは関係がなくかつ

非類似の役務についての商標の使用であり、したがって、「ボールペン」に関し

ての商標の使用ではないからです。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 いいえ、当該商標が取引過程において工業上及び商業上の公正な慣行

にしたがって使用されている場合は、侵害になりません。これは、「商品の意図

された用途、特に付属品又は予備部品としての用途の表示に必要なとき」、商標

を使用してもよいと規定する商標法の第 5 条(ⅲ)から導かれます。

 これは、例えば、当該商標の使用が、当該商品が XX 会社の純正製品である

こと又は何らかの関係する許諾が与えられていることを示すものではないこと

を意味しています。同様に、当該使用は、当該商標を使用することなしには表

示することができない意図された用途を表示するために「必要」でなければな

りません。したがって、単に商業的に利益になる又は販売を促進するかもしれ

ないという理由で他人の商標を使用することは認められません。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 いいえ、例えばⓇを使用することにより、商標が登録商標であること

を示すことは要求されず、この表示がないことは商標権の行使の障害になりま

Page 81: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

81欧州

デンマーク

せん。商標法又は規則にその使用を規定する条項はありません。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標がされる要

件を説明して下さい。

A.8 デンマークにおいては、当該要件は、商標法の第 25 条及び第 28 条に

明示されています。第三者によって不使用に基づく商標登録の取消しが請求さ

れた場合、商標権者が以下の事項を証明しない限り、当該登録商標は取り消さ

れます。

 (ⅰ)登録手続の完了の日から 5 年の期間内又は後の継続した 5 年の期間内に;

 (ⅱ)デンマークにおいて;

 (ⅲ)商標権者又は商標権者の同意を得て当該商標を使用する使用者が;

 (ⅳ)当該請求に係る指定商品及び役務について;

 (ⅴ)当該登録商標を真正な使用に付したこと。

 なお、上記の規定は、商標権者(被告)が不使用について正当な理由を証明

できる場合には適用されません。さらに、当該商標が登録された態様と著しく

相違しない態様で使用されている場合も使用と判断されます。取消しの請求前

3 月の期間内の使用の開始又は再開は、その使用の開始又は再開の準備が、取

消しが請求され得ると商標権者が知った後に初めて生じた場合には、考慮され

ません。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 いいえ、当該登録商標に言及しているインターネット上の単なる広告は、

実際に提供され得る具体的な商品に関するものであっても、デンマークにおい

Page 82: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

82 欧州

デンマーク

て販売されたことがなければ、登録商標の使用とは判断されません。これに関

連して、ウェブサイトへのアクセス数は、デンマークにおける真正な使用、す

なわち実際の使用を証明し得るものではないので、重要ではありません。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 いいえ、消費者が当該広告を見て個人的に当該製品を輸入したこと

を証明することも十分ではありません。そのような使用、すなわち、1 人の消

費者による 1 回の購入によるものは、「通常の取引過程における真正な使用」に

該当しないでしょう。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 単にウェブサイトへアクセスすることが可能であるということは、

登録商標の使用と判断されないので、デンマークにサーバーが置かれていない

という事実は重要ではありません。上記のA.9をご参照下さい。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 デンマーク語による表示がない場合には、当該ウェブサイトはデン

マークの消費者を対象としているとは言えないため、これは登録商標が使用さ

れていないことを示すことになりそうです。たとえデンマーク語による表示が

あるとしても、通常の取引過程における実際の使用も証明されなければならな

いので、そのこと自体を以って商標が使用されているとは判断されません。英

語による表示は、デンマークに在住する外国人消費者向けの広告とは判断され

ないでしょう。

Page 83: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

83欧州

デンマーク

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 デンマークにおいては、登録商標の使用として認識され得る広告は、

一般に具体的な商品に関するものでなければならず、したがって、上記の広告

だけでは登録商標についての広告として認識されそうにありません。したがっ

て、たとえ XX 社が自国において実際に万年筆を製造又は販売しており、かつ

その連絡先の詳細が表示されている場合であっても、当該広告それ自体は、な

おデンマークにおける実際の使用に該当しません。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 ウェブサイトにおける表題及び商品説明が当該万年筆の商標である

と消費者が認識し得る限り、登録商標が万年筆又はその包装に付されていない

ことは問題となりません。しかしながら、そのような使用及び / 又は広告それ

自体はデンマークにおける実際の使用に該当しません。

 登録商標が URL に組み込まれているだけの場合は、商品及び役務、すなわち

指定商品「万年筆」との関連で使用されていないので、そのような使用は登録

商標の使用とはならないでしょう。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 デンマークの通貨、すなわち、デンマーククローネ(DKK)の表示は、

当該ウェブサイトがデンマークの消費者を対象としていることを証明するのに

Page 84: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

84 欧州

デンマーク

役立つ重要な特徴ですが、これがない場合でも、米国ドルを使用する可能性が

なおありますので、デンマーク語の使用等の他の要素と相俟って、当該広告は

デンマークにおける商品の広告であることを示すことなりそうです。

 しかしながら、取引過程における真正な使用、すなわち実際の使用がデンマー

クにおいてなされていないので、当該広告の使用は登録商標の使用になお該当

しません。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 そのような事例についての審決又は判決はありませんが、デンマー

ク特許商標庁によってなされた数多くの異議決定は、ウェブサイトにおける使

用に対する立場を例示しています。

2002年1月22日付の決定(CROMBIE)

 インターネットにおける商標の使用の要件:要件を満たさないとされたもの。

「当該商標は、潜在的な消費者が当該商品又は役務の存在に気付かされる、何ら

かの外向けの事業活動に関して使用されなければならなかった。単なる広告は、

実際の使用を証明するのに十分ではない。.co.ukのウェブサイトにおける使用は、

デンマークにおける商標の使用とは判断されない。当該ウェブサイトは英語に

よって表示されているため、デンマークの消費者が対象とされていない。対応

する .dk. のウェブサイトが存在していない。さらに、当該デンマーク商標登録

に係る商品と当該ウェブサイトに係る商品とは非類似である。インターネット

上の当該商標の使用について、さらなる証拠の提出がなかったことを考慮する

と、ウェブサイトへのアクセス数は重要ではない。」

2002年2月13日付の決定(CHAMPS�SPORTS)

 インターネットにおける商標の使用の要件:要件を満たさないとされたもの。

「使用の要件は、商標の実際の使用、特に当該ウェブサイト、すなわち、当該商

Page 85: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

85欧州

デンマーク

標が、デンマークにおけるインターネットの使用者を対象としている程度に基

づいて判断されなければならない。インターネット上の当該商標の使用は、そ

れ自体ではデンマークにおける商標の使用に該当しない。当該商標は特定の商

品に散発的に使用されていたに過ぎず、当該ウェブサイトは英語のみで表示さ

れ、価格も米国ドルのみで表示されている。.com のウェブサイトはデンマーク

からアクセスすることが可能であるが、デンマークにおいて当該商標が(実際に)

使用されていたことを示す他の要素がないとき、これは重要ではない。」

2003年2月14日付の決定(monkeyclass.dk)

 ドメイン名の登録は、それ自体では、使用に基づく商標権の発生を認めるの

に十分ではない。「インターネット上の商標の使用がデンマークにおける商標の

使用と判断され得るためには、...商標の使用者がデンマークにおいて指定商品

又は役務に関して事業を行っているか否かという事実が重要視される。また、

商標がデンマークの消費者又は企業を対象としたウェブサイトに関して使用さ

れているか否かも重要である。その表示は、ウェブサイトがデンマーク語によ

るものであって、デンマーククローネによる支払いが可能であること、.dk ドメ

イン名の登録、及びインターネット以外の他のメディアにおける又は他のメディ

アを通じて行われるデンマークにおける商標の使用を必要とするであろう。」

(原稿受領日 2008 年 3 月 10 日)

Author: Mr. Ole Vangshardt Larsen & Birkeholm A/S Banegaardspladsen 1, P.O.Box 362 DK-1570 Copenhagen V, Denmark Tel: +45 33 13 09 30 Fax: +45 33 13 09 38 Email: [email protected] Website: http://www.lbpatent.dk/

Page 86: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

86 欧州

フィンランド

フィンランド (Finland)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 フィンランドにおいては、商標に係る独占権は商標法第 4 条に定義さ

れています。それによれば、商標権者(又は商標権者の同意を得た他の者)の

みが、取引の過程において、当該商標と同一又は類似の商標を同一又は類似の

商品・役務に関して、商品自体若しくはその包装又は広告若しくは取引書類に、

口頭その他の方法で使用することができます。この条項は、商品がフィンラン

ド国内若しくは外国において販売又は販売が意図されているかを問わず、又は

商品が取引、保管、貯蔵若しくは第三国への輸送を目的として輸入されるかど

うかを問わず適用されます。

 したがって、「商標が登録商標と同一又は類似であるかどうか」、「商品又は役

務が商標登録に係る指定商品又は指定役務と同一又は類似であるかどうか」、そ

して「取引過程において商標の使用があったかどうか」についての判断が重要

な問題となります。

 真正商品の並行輸入は、フィンランド商標法第 10 条 a に規定されています。

それによると、商標権者は、商標権者又はその同意を得た他の者が欧州経済地

域内の市場に置いた商品に当該商標が使用されることを阻止することができま

せん。ただし、この規定は、当該商品が再び市場に置かれることに対して異議

を唱える正当な理由が商標権者にある場合、特に商品が市場に置かれた後に商

品に改変がなされたり、商品が劣化したような場合には、適用されません。こ

の規則は、欧州商標指令第 7 条に基づくものです。1998 年の Silhouette 事件に

おいて、EJC(欧州司法裁判所)は、第 7 条の解釈として、国際的消尽の代わり

に EEA(欧州経済地域)域内消尽の原則を採用しました。

Page 87: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

87欧州

フィンランド

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 フィンランドにおいては、商標権者が登録商標を使用していることは、

商標権者がその商標権に基づく差止請求権を行使する要件ではありませんし、

損害賠償請求権を行使する要件でもありません。これは、登録商標の不使用が

5 年又はそれ以上続いていないと仮定してのことです。

 原則として、たとえ商標権者が登録商標を使用していなくても、商標権者は

損害賠償請求をすることができます。商標法第 38 条によると、侵害が故意又は

過失による場合には、侵害者は商標の使用に対する合理的な賠償金及び侵害に

よってもたらされたすべての損害に対する賠償金を支払う義務があります。軽

過失しかない場合には、損害賠償金は調整されます。無過失の場合、侵害者は

商標の使用に対する合理的な賠償金を支払う義務があります。したがって、商

標権者が商標を使用していないという事実は、過失の有無の決定に影響を及ぼ

す可能性があります。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 原則として、音楽 CD のジャケットに使用された題号が、「love」と同

じように識別力の大変弱い一又はそれ以上の語からなる場合には、その使用は

必ずしも侵害を構成しません。というのも、「love」のような語に対する独占権

を音楽 CD について取得するのは困難であるからです。この事例では、「love」

の語は、CD に収められている音楽の種類を示していると判断し得るものです。

 被疑侵害者が、製品の出所について消費者を混同させるような方法で商標を

使用していた場合には、裁判所はその使用を侵害と判断する可能性があります。

両商標の相違が小さいものであっても、その相違が混同を防ぎ、侵害が発生し

ないこともあります。

Page 88: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

88 欧州

フィンランド

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 その他人の商標登録がTシャツに及んでいない限りにおいて、答えは、

いいえです。しかしながら、その他人の商標登録がTシャツに及んでいない場合

であっても、その他人の商標がいわゆる周知商標である場合には、その商標の

保護範囲は登録されていない商品にまで及び、侵害が起こり得ます。これは、

図形商標及び文字商標の両方に当てはまります。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 はい。フィンランドにおいては、金融サービスの提供のための「フリー

ギフト」として頒布されるボールペンについての商標の使用は、商標法第 4 条

に基づいて、他人の商標権を侵害すると判断され得ることになります。この商

標法第 4 条によると、商標権者(又は商標権者の同意を得た他の者)のみが、

取引の過程において、当該商標と同一又は類似の商標を、同一若しくは類似の

商品又は役務について、商品そのもの若しくはその包装又は広告若しくは取引

書類に、口頭その他の方法で使用することができます。

 本事例では、ボールペンは広告材料であると判断され得ることになります。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 答えは、具体的な事情によります。当該第三者による「ABC インクジェッ

トプリンター用のインクジェットプリンターインク」の表示が、公衆に当該製

品の用途についての完全な情報を提供する唯一の手段であり、当該第三者によ

るその商標の使用が公正な取引慣行にしたがったものであるならば、その表示

Page 89: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

89欧州

フィンランド

はおそらく商標権侵害を構成しません。

 2006年2月22日付のフィンランドの最高裁判所の判決(Gillette事件)によれ

ば、第三者による商標の使用が、実際問題として、市場における正常な競争シス

テムを維持するために、製品の用途について理解し易い完全な情報を公衆に提供

する唯一の手段である場合には、その使用は必要なものと判断され得ることにな

ります。フィンランドの最高裁は、Gilletteの商標は公正な取引慣行にしたがって

第三者により使用されたのであり、当該使用は購入者にとって不可欠な情報を提

供する唯一の手段であったと判示しました。この事件の法的評価は、欧州商標指

令の第6条(1)(c)の解釈に基づいたものです(89/104/EEC)。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 いいえ。推奨されるにとどまります。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 フィンランドにおいては、商標法第 26 条にその要件が明示されていま

す。過去 5 年間の商標の不使用に基づく商標登録の取消しが第三者によって請

求された場合、商標権者が以下のことを証明しない限り、当該登録商標は不使

用を理由に取り消されます。

 (ⅰ)その取消審判の請求前に *

 (ⅱ)フィンランド国内において

 (ⅲ)商標権者又は商標権者の承諾を得た者が

 (ⅳ)その請求に係る指定商品又は指定役務について

 (ⅴ)登録商標の使用をしていること

 (ⅵ)商標権者に不使用についての正当な理由があること

 * 使用が取消審判の請求前 3 月になって初めて行われ、かつ、商標権者が取

Page 90: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

90 欧州

フィンランド

消審判の請求の可能性に気づいていた場合は、その使用は考慮されません。

 取消しは、その商標が使用されていない商品及び役務のみについて部分的に

行うことも可能です。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 フィンランドにおいては、インターネット上の商標の使用に関する判

例や具体的な制定法はありません。WIPO の「第 6 回商標・意匠・地理的表示

の法律に関する常設委員会 (SCT) によって採択された規定を含む、インターネッ

ト上の標章及びその他の標識に係る工業所有権の保護に関する共同勧告(2001

年 3 月 12 日から 16 日)」に、法解釈のための多少の指針を見出すことができ

ます。以上に鑑み、質問 9 乃至 16 に対する回答は、主に我々独自の考察によ

るものです。

 XX 社が、注文及び支払い方法についての詳細な情報(質問 9 のⅰ~ⅴで述べ

られているような情報)と共にウェブサイト上で「XYZ」製品の販売の申出を

している事実は、フィンランドにおいて不使用に基づく取消しを防ぐのに十分

であると思われます。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 質問 9 に対する答えは、「はい」です。

Page 91: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

91欧州

フィンランド

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 当該ウェブサイトのサーバーが我国に置かれていなくとも、前記事

例の広告はフィンランド語による表示がなされ、我国の通貨での表示もなされ

ているから、我国の消費者を対象とした広告と判断し得ると言えます。したがっ

て、当該広告は登録商標の使用として十分であるとする余地はあります。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 フィンランド語による表示がない場合でも、インターネットを使用

するフィンランドの消費者にとって英語は極めて一般的な言語であることから、

英語による表示がある限り、そのような広告はフィンランドにおける広告であ

ると判断し得ると言えます。したがって、当該広告は登録商標の使用として十

分です。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 我々の見解では、このような広告はフィンランドにおける登録商標

の使用であると認識され得ないと思われます。フィンランドとの取引上の関連

がありません。

Page 92: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

92 欧州

フィンランド

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれているのみである場合はどうですか。

A.14 ウェブサイトの表題又は商品説明が当該万年筆の商標と消費者が認

識し得る場合は、当該万年筆又はその包装に登録商標が付されていなくとも、

当該登録商標に係る万年筆の広告と判断し得ると言えます。したがって、当該

表題又は商品説明は登録商標の使用として十分です。

 しかし、URL に登録商標が組み込まれているだけでは、消費者が URL 中の登

録商標と指定商品「万年筆」との関係を容易に認識し得るとまでは言えません。

したがって、当該使用は登録商標の使用と言えません。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 我国の通貨であるユーロによる表示がなくても、米国ドル通貨によ

る表示がなされていれば、ユーロ通貨への換算は通常容易です。したがって、

我国の通貨の表示がないことを以って直ちに当該広告が具体的な商品の広告で

はないとまでは言えません。具体的な商品の広告と言えるかどうかは、その他

の要素をすべて考慮して総合的に判断されます。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 -(回答なし。)

(原稿受領日 2008 年 3 月 28 日)

Author: Ms. Lena Pitkanen Oy Jalo Ant-Wuorinen Ab Iso Roobertinkatu 4-6 A FI-00120 Helsinki, Finland Tel: +358 9 612 6120 Fax: +358 9 640 575 Email: [email protected] Website: http://www.jalopat.fi/

Page 93: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

93欧州

フランス フランス (France)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用

Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 フランス法(フランス知的財産法第 L.713 条 1、第 L.713 条 2、第

L.713 条 3)に以下の旨が規定されています。

 a.標章の登録は、商標権者に対し、指定商品及び指定役務について独占

権を付与する。

 b.商標権者の許諾がある場合を除き、以下の行為は禁止される。

 - 商標登録に係る指定商品・指定役務と同一の商品・役務について、標

章を複製、使用若しくは付すること(「法式(formula)、態様(manner)、

体系(system)、模造(imitation)、種類(type)、方法(method)」等の語

が付加されるものも含む。)又は複製された標章を使用すること。

 - 適法に付されている標章を除去又は改変すること。

 c.公衆に混同を生じさせるおそれがある場合は、商標権者の許諾がある

場合を除き、以下の行為は禁止される。

 - 商標登録に係る指定商品・指定役務と類似の商品・役務について、標

章を複製、使用若しくは付すること又は複製された標章を使用すること。

 - 商標登録に係る指定商品・指定役務と同一又は類似の商品・役務につ

いて、標章を模造すること及び模造された標章を使用すること。

 また、フランス知的財産法(第 L.716 条 9 及び第 L.716 条 10)は以下の

旨を規定しています。:侵害標章の下で、商品の販売、提供、販売の申出又

は貸与を目的として、以下の行為を行った者は、4 年の懲役及び 400,000 ユー

ロの罰金に処する。

 a.如何なる通関制度の下であれ、侵害標章の下で、商品を輸入し、輸出し、

Page 94: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

94 欧州

フランス

再輸出し又は積み替えること。

 b.侵害標章の下で、商品を工業的に複製すること。

 c.(a) 及び (b) に規定する行為を行うよう指示又は命令すること。

 本条に規定する違反が組織された犯罪団体によって行われた場合、刑罰は

5 年の懲役及び 500,000 の罰金に重課されます。

 以下の行為を行った者は、3 年の懲役及び 300,000 ユーロの罰金に処する。

 a.如何なる通関制度の下であれ、正当な理由なく、侵害標章の下で、商

品を所持、輸入又は輸出すること。

 b.侵害標章の下で、商品の販売の申出又は販売をすること。

 c.商標登録によって付与される権利及びそのような登録から生ずる禁止

行為に違反して、標章、団体標章若しくは証明標章を複製、模造、使用、貼

付、除去又は改変すること。

 d.その者に使用が認められた商品・役務以外の商品・役務を、そうと知

りながら、登録商標の下で頒布又は提供すること。

 (d) の規定に該当する場合でも、薬剤師が公衆健康法第 L.5125 条 23 に規

定する代替機能を果たす場合は、侵害を構成しないものとされます。(a) 及

び (b) に規定する違反が組織された犯罪団体によって行われた場合、刑罰は

5 年の懲役及び 500,000 ユーロの罰金に重課されます。

 原則として、真正商品の並行輸入は商標権の侵害行為を構成しません。た

だし、以下の場合に限られます。

 - 欧州経済地域(27 の EU 加盟国、すなわち、オーストリア、ベルギー、

ブルガリア、キプロス、チェコ共和国、デンマーク、エストニア、フィンラ

ンド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、

ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポーランド、

ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデ

ン、イギリス。さらに、アイスランド、ノルウェー、リヒテンシュタイン及

びスイスも含まれます。)の市場に置かれた商品であること。

 - 商標権者によって又はその同意を得て、その商標の下でなされたもの

Page 95: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

95欧州

フランス

であること。

 しかしながら、正当な理由が存在する場合、特に市場に置かれた後に当該

商品の状態が変更又は損なわれた場合、商標権者は、その後さらにその商品

が売買されることに異議を申し立てることが引続き可能です。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 原則として、商標権者が登録商標を使用していることは、商標権行

使の要件ではありません。

 しかしながら、フランス法(知的財産法第 L.714 条 5)は、正当な理由な

く、継続して 5 年の期間、商標登録に係る指定商品又は指定役務について、

登録商標の真正な使用がなされなかった場合、商標権者は商標登録の取消し

の責めを負う旨を規定しています。

 これは、いくつかの結果をもたらします。

 ・その商標が登録されてから(登録の公告の日から計算して)5 年が経過

していない場合、使用義務の制約を受けません。したがって、商標権者がそ

の商標を使用していることは商標権行使の前提条件にはなりません。

 ・逆に、その商標が登録されてから 5 年が経過している場合、使用義務

の制約を受けます。過去 5 年間、真正な使用がなされていた場合は、商標

登録の取消しの責めを負うことはありません。

 さらに、フランス法は、以下の行為は真正な使用を構成又は擬制すると規

定しています。

 ・商標権者の同意を得てなされる使用、又は団体標章の場合は対応の規定

に従ってなされる使用

 ・変更を加えているが、その識別性を変更しない態様での使用

 ・輸出のみを目的として商品又はその包装に商標を付すること

 前記の事情を考慮すると、その商標が登録されてから 5 年が経過してい

る場合において商標権を行使するには、不使用を理由とする取消しの反訴を

克服できるように、商標登録に係る指定商品又は指定役務について、その商

Page 96: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

96 欧州

フランス

標の使用の証拠を提示できることが商標権者に求められます。

 この点に関して、フランス知的財産法の同 L.714 条 5 によれば、訴訟の

当事者は何人も当該訴訟手続において取消しを請求することができます。取

消請求が商標登録に係る指定商品又は指定役務の一部についてなされる場合

は、その請求はその一部の商品又は役務についてのみ審理されます。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 フランス法(知的財産法の第 L.713 条 2、第 L.713 条 3 及び第 L.713

条 4)によれば、標章の登録は商標権者に対し、指定商品及び指定役務に係

る商標の所有権を付与します。したがって、商標権者の許諾がない限り、商

標登録に係る指定商品又は指定役務と同一の商品又は役務について、標章を

複製、使用若しくは付すること又は複製された標章を使用することは禁止さ

れます。また、類似する商品又は役務に関しては、その商品又は役務の出所

について、公衆に混同を生じさせるおそれがある前記行為は禁止されます。

 本事例における使用が侵害行為を構成するかどうかを判断するためには、

音楽 CD ジャケットに題号を使用することが商標としての使用(すなわち、

指定商品又は指定役務についての使用)を構成するかどうかを判断する必要

があります。そして、商標としての使用であれば、先行商標登録に係る指定

商品又は指定役務が音楽 CD と同一又は類似であるかどうかを判断する必要

があります。

 我々の見解では、CD ジャケットへの題号「Love」の使用は、CD の出所

を示すのではなく、どちらかと言えば、CD の内容、具体的には CD に収め

られた音楽の種類を記述するものとして理解されます。言い換えれば、「love」

の語は音楽の種類を記述するのに比較的普通に用いられるため、題号として

この語を使用することは商標としての使用ではないと思われます。

 我々の見解を支持するものとして、いくつかの判決例を引用します。

 ・パリ第一審裁判所 - 2007 年 1 月 1 日付 - 「DVD、対話型 CD

Page 97: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

97欧州

フランス

等に使用する商標として登録された LES CHORISTES(「コーラス歌手」を意

味します。)」対「コーラス歌手に関する映画を収めた DVD の題号として使

用された LE MONDE DES CHORISTES(「コーラス歌手の世界」を意味しま

す。)」の事件は、非侵害であるとされました。

 ・パリ控訴裁判所 - 2006 年 1 月 25 日付 - 「テレビ画像、娯楽サー

ビス、映画制作、音楽制作等に使用する商標として登録された TOUT PEUT

ARRIVER(「すべて起きる」を意味します。)」対「映画の題号である TOUT

PEUT ARRIVER(SOMETHING'S GOTTA GIVE)」の事件は、非侵害であると

されました。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 この質問に対する回答の目的上、先行する商標権が第 25 類におい

て存在すると仮定します。この種のシナリオにおいては、フランスの裁判所

は、通常、登録商標に類似する図形又は文字を T シャツの胸全面に表示す

る行為は侵害を構成すると判断します。

 我々の見解を支持するものとして、いくつかの判決例を引用します。

 ・パリ第一審裁判所 - 2007 年 12 月 4 日付 - 商標として登録さ

れた CHE GUEVARA の絵と同一のロゴを第三者がエプロンに使用した行為

は、侵害であると判示されました。

 ・パリ第一審裁判所 - 2007 年 5 月 25 日付 - 商標として登録さ

れた「FRAGILE」と同一の標章を第三者が T シャツに使用した行為は、侵害

であると判示されました。

 ・パリ第一審裁判所 - 2008 年 1 月 15 日付 - 商標として登録さ

れた「c'est pour janvier」、「c'est pour février」、「c'est pour mars」等(「1 月用」、

「2 月用」、「3 月用」等を意味します。)と同一の標章を第三者が T シャツに

使用した行為は、侵害であると判示されました。

Page 98: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

98 欧州

フランス Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 答えは以下の基準に依拠します。

 ・商標の評判

 ・適用される法の条文(侵害に伴って、フランス知的財産法に基づく不正

競争が存在する否か)

 1 評判を有しない商標に関連する場合

 フランスにおいては、商標の保護は商標登録に係る製品と同一若しくは類

似の製品に限られるという原則が適用されます。

 したがって、当該商標が評判を有していない場合は、その当該商標の使用

は「ボールペン」についてではなく「金融サービス」についてのものである

から、侵害を構成しません。

 この原則は、フランスの国内登録商標又はフランスを指定する国際登録商

標について適用されるフランス知的財産法(IPC)の第 L.713 条 2 1 及び第

L.713 条 3 2 に由来します。

 2 評判を有する商標に関連する場合

 金融サービスの「フリーギフト」として頒布されるボールペンに商標「ABC」

を表示する使用は、「ボールペン」についての評判を享有する他人の商標権

1  フランス知的財産法第 L713 条 2 は以下の旨を規定する。 「商標権者の許諾がある場合を除き、以下の行為は禁止される。 a)商標登録に係る指定商品・指定役務と同一の商品・役務について、標章を複製、使用若しくは付すること(「法式(formula)、態様(manner)、体系(system)、模造(imitation)、種類(type)、方法(method)」等の語が付加されるものも含む。)又は複製された標章を使用すること。」 b)適法に付されている標章を除去又は改変すること。

2  フランス知的財産法第 L713 条 3 は以下の旨を規定する。 「公衆に混同を生じさせるおそれがある場合は、商標権者の許諾がある場合を除き、以下の行為は禁止される。 a)商標登録に係る指定商品・指定役務と類似の商品・役務について、標章を複製、使用若しくは付すること又は複製された標章を使用すること。 b)商標登録に係る指定商品・指定役務と同一又は類似の商品・役務について、標章を模造すること及び模造された標章を使用すること。」

Page 99: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

99欧州

フランス

ABC を侵害し得ると言えます。

 以下の事項を証明する必要があります。

 ・「フリーギフト」の頒布が商業的使用の行為であること。

 ・フランス国内登録商標又はフランスを指定する国際登録商標がフランス

において指定されている商品又は役務について評判を享有しており、(2a)

その使用が商標権者に損害を与えるか又は(2b)その使用がその商標を不

正に利用する行為を構成すること。 3

 3 取引自由の原則の制限:不正競争又は不正の利益

 フランス国内登録商標、国際登録商標及び共同体商標に関して、これらの

商標権者に損害を与える不正競争又は不正の利益をもたらす場合、侵害者は

その責めを負います。

 フランス民法第 1382 条及び第 1383 条にしたがって、フランスの裁判所

は、取引の自由が存在することを考慮する一方で、第三者がその行為の責め

を負うかどうかを調べることになります。提出されなければならない証拠は、

過失、損害の発生、及び過失と損害の因果関係です。

 商標権侵害の場合、不正競争についての明確な事実が証明されなければな

りません。その企業が競争業者ではない場合、他の企業の投資、事業等を不

正に利用することは過失を構成し得ると言えます。4

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

3  フランス知的財産法第 L713 条 5 は以下の旨を規定する。 「商標登録に係る指定指定商品・指定役務と非類似の商品・役務について評判を有する商標を使用する者は、その使用が商標権者に損害を与えるか又はその使用がその商標を不正に利用する行為を構成する場合、民法上のその責めを負う。 前段の規定は、前記工業所有権の保護に関するパリ条約第 6 条の 2 の意義の範囲内における広く知られた商標の使用に適用する。

4  フランスの訴訟事件「Comm 1996 年 1 月 30 日 ;D. 1996 inf. rap. p. 63」をご参照下さい。

Page 100: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

100 欧州

フランス

A.6 フランス知的財産法の第 L.713 条 6b)によれば、「標章の登録は、

製品又は役務の意図された用途、特に付属品又は予備部品の用途を表示する

ために必要な引用表示である場合、同一又は類似の標識の使用を妨げない。

ただし、出所についての混同が生じないことを条件とする。もっとも、その

使用が商標権を侵害する場合、商標権者は、その使用の制限又は禁止を要求

することができる。」とされています。

 前記の規定に照らせば、商標「ABC」の商標権者の許諾を得ないで「AB

Cインクジェットプリンター用のインクジェットプリンターインク」と表示

することは可能でしょう。ただし、この引用表示は、当該インクの用途を示

すために必要なものであって、かつ製品の出所について混同のおそれを生じ

させるものであってはなりません。

 パリ第一審裁判所の 2006 年 7 月 13 日判決において、インクジェット

プリンター用インクの包装における「for SAGEM WEBFAX」の引用表示は、

その包装上の他の表示に比べてあまりに大きな文字で書されているとして、

裁判所は、商標 SAGEM WEBFAX の商標権者による禁止を認めました。

 裁判所は、当該商標の引用表示は、そのような態様で書される必要は全く

なかったのであり、かつ被告は、その包装に商標 SAGEM WEBFAX を拡大し

て言及することにより、製品の出所に関して混同を生じさせたいという意図

を有していた、と判示しました。

 したがって、当該商標の使用は侵害行為を構成するものであり、正当かつ

必要な引用表示ではないと判示しました。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 フランスにおいては、Ⓡの記号を注意を引くように使用することに

より、商標が登録商標であることを表示することは要求されません。

 Ⓡの記号を使用するためには、当該商標はフランス又は他のいずれかの

EU 諸国において登録されていなければなりません。登録されていなければ、

Page 101: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

101欧州

フランス

その行為は、誤認を生じさせる広告として制裁を受けることになります(消

費者法第 L.121 条 1)。

 この記号の使用は、商標権行使の要件ではありませんが、公衆に対して、

商標権者がその商標に係る所有権を有していることを知らせるために推奨さ

れます。また、そのような記号の使用は、その商標が普通名称になったとし

て取消しを受けるリスクを制限することになるでしょう。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用

Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 フランスにおいては、フランス知的財産法の第 L.714 条 5 が、「商

標登録は、継続して 5 年の期間、商標登録に係る指定商品又は指定役務に

ついて真正な使用がなされていないことが証明された場合、取り消される。」

と規定しています。不使用を理由とする取消しの要件は、以下のように要約

されます。

 - 取消請求は、利害関係を有する者によって、裁判所に対してのみする

ことが可能です。請求は、反訴の請求の主原因として又は控訴請求のいずれ

においても可能です。「利害関係を有する者」とは、その商標を使用するこ

とが、取消請求に係る商標登録の侵害を構成するという法律上の利害関係を

有する者を意味します。

 - 立証責任は商標権者にあり、取引過程において、登録商標を指定商品

又は指定役務について取引上使用していることを証明しなければなりませ

ん。

 - 使用は、商標権者による使用又はライセンシーによる使用のように商

標権者の代わりになされる使用でも可能です。

 - 使用は、フランスの消費者を対象として、フランスの市場においてさ

れなければなりません。

Page 102: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

102 欧州

フランス

 - 使用は、商標の識別性に影響を与えない変更であることを条件として、

変更が軽微である場合を除き、登録された態様でされなければなりません。

 - 使用の量の程度及び地理的な範囲の程度は、市場の分野によります。

これらの要素は、その使用が登録商標の真正な使用を構成するかどうかの評

価とは別問題です。

 - 使用は指定商品又は指定役務のすべてについて証明されなければなり

ません。使用が一部の指定商品又は指定役務についてのみ証明される場合は、

商標登録は部分的に取り消されます。

 - ある品目の商品は、指定商品の記載に含まれる、より広い商品のサブ

カテゴリーとして認識されます。

 - 輸出のみを目的とした使用は、商標登録の防御上、有効な使用と認識

されるでしょう。

 - 使用の証明は、如何なる方法でもかまいません。証拠の評価は、裁判

所の裁量によるのみです。

 - 不使用について正当な理由がある場合は、商標権者は使用証明の要求

を克服することができます。

 商標登録が取り消される場合、取消請求をする者がより早い日を明示的

に請求しない限り、その効果は取消請求の日前 5 年に遡及します。ただし、

その商標の登録後 5 年を経過する日前に遡及することはありません。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 A.2及びA.8において述べたように、フランス知的財産法第 L.714

条 5 は、商標の真正な使用の要件、すなわち、商標権者が不使用取消請求

を克服するために証明しなければならないことについて規定しています。

Page 103: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

103欧州

フランス

 一応の要件は、XX 社の商品がフランスの消費者を対象としているか又は

XX 社の商品が輸出を目的としてフランスにおいて製造されているかです。

 フランスの判例は、インターネット上の広告をその他の媒体による広告と

異なるものとは考えていません。インターネット上の広告、それ自体だけで

は、フランスにおいて、関連性を有する商品についての真正な使用と判断さ

れるに十分ではない可能性があります。そうは言っても、非常に多くのヒッ

ト数があるか又は相当な数のアクセス数があるインターネット上のウェブサ

イトのみならず、いくつかの異なる媒体において広範囲に広告したことを商

標権者が証明することができれば、裁判所は登録商標の真正な使用を評価す

る際にその事実を考慮するかもしれません。 5

 当該企業が、フランスにおいて販売代理人、営業所又はラインセシーを有

しているかどうかは問題ではありません。ただし、当該商品がフランス領域

内に配送され得る場合に限られます。さらに、繰り返しになりますが、重要

な問題は、フランスの消費者が当該商品をフランスにおいて(たとえ、ウェ

ブサイトにおいてであっても)購入することができ、かつフランスに配送し

てもらうことができるかどうかということです。

 インターネット上の店舗を想定した場合、サーバーの置かれている場所が

フランスか世界のどこかかは問題になりません。一般的に言えば、重要なの

は、ウェブサイトが以下の要件を満たすことです。

 - とりわけフランスの消費者を対象としていること(A.12をご覧下

さい。)。

 - フランスにおいて用いられている通貨、すなわち、ユーロによる価格

が表示されていること。

 - 連絡先、フランス語による注文先を掲載していること。

 - 当該製品について、フランスへの配送を可能ならしめる注文方法及び

支払い方法が表示されていること。

 さらに、登録商標を付した商品が掲載されていることも必要でしょう。

5 フランスの判例法「2001 年 10 月 19 日パリ控訴裁判所:D.2003.somm.130」をご参照下さい。

Page 104: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

104 欧州

フランス Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 商標の実質的な使用の証明を可能にするために、商標権者がフラ

ンスにおいて販売網を確立する必要はありません。商標権者がフランスにお

いて現地販売代理人、ライセンシー又は物理的な販売網を有していなければ

ならいという要件はありません。

 しかしながら、取消しのリスクを回避するために、商標登録に係る指定商

品又は指定役務について、登録商標の真正な使用を証明することができる必

要があります。フランスの裁判所は、孤立した単一の使用は商標の真正な使

用と判断するに不十分であると判示しています。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 ウェブサイトのサーバーの物理的な存在は、適用法を決定するも

のではありませんし、商標の使用の場所を決定する際に何らかの影響を与え

るものでもありません。インターネット上の標識の使用は、利用者のスクリー

ンに現われるのであって、サーバーが置かれている場所に現われるものでは

ありません。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 フランスの判例に基づけば、フランス語以外の言語によるウェブ

サイトはフランスの消費者を対象としておらず、そのような使用はフランス

における商標の使用ではないとすることがしっかりと確立しています。

  し か し な が ら、2008 年 1 月 30 日 に、 パ リ 控 訴 裁 判 所 は、「SAS

Vallourec Mannesmann Oil Gas France vs. Rurexpol Spolka ZO.O and SA

Page 105: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

105欧州

フランス

Huta CZESTCHOWA」事件において、裁判管轄を決定しなければなりません

でした。この事件においては、ガス及び石油の部門におけるハイテク製品の

販売の申出が、ポーランドの会社のウェブサイトにおいて、英語及びポーラ

ンド語でなされていました。

 裁判所は次のように判示しました。

 1.その製品がハイテク製品の性質を有していたため、関連する専門家は、

運転作業者の国籍にかかわらず、主に英語で交信をした。

 2.当該ウェブサイト上の製品は、特定の市場に向けられておらず、むし

ろ世界市場に向けられている。

 その結果、上記の事実認定に基づき、自己のウェブサイトを通じて、当該

ポーランドの企業はフランスの会社に自己の製品を提供していたと判示しま

した。したがって、フランスの裁判所は、当裁判所は本件について管轄権を

有すると宣言しました。この論法は、商標の使用場所を評価する際に転用さ

れ得るものです。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 上記のA.9において記載したように、ウェブサイトにおける商

標の広告は、それ自体だけでは、商標の真正な使用を証明する目的上、十分

ではないおそれがあります。この点について、フランスにおける商品の購入

を可能ならしめるために必要な情報が欠如しており、かつ実際に販売されて

はいない万年筆についての言及が単になされていることは、当該登録商標が

フランスにおいて真正に使用されていたことを証明する証拠を構成する可能

性をさらにもっと低くするものと言えます。

 「我国の製品に関して、仕様、価格、問い合わせ先、注文先、支払い方法」

Page 106: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

106 欧州

フランス

及びその他上記事例の 9- ⅴ)において言及されている事項がすべてウェブ

サイトに提示される場合、結論は異なるでしょうか?

 フランス知的財産法及びフランスの裁判所の判例によれば、商標登録の取

消しを防ぐために十分な使用であると言うためには、使用は真正かつ誠実な

ものでなければなりません。

 一般的に、インボイス又はその他の取引書類等による商業的販売の証拠に

よって商標の使用が証明される場合、裁判所は、その使用は真正かつ誠実で

あると認めます。

 しかしながら、広告だけの使用も、企業が広告に投資した結果、商品が商

業的な販売に供されていると推定することが公正な場合は、登録商標の十分

な使用であると判断される可能性があります。これは、本質的には事実の問

題です。

 商標「XYZ」が具体的な指定商品に付されているという事実は、重要な要

素です。宣伝活動の程度も考慮の対象となるでしょう。

 我々の見解を裏付けるものとして、CFI の 2004 年 10 月 VITAKRAFT 判

決(T356/02)を確認した、TGI PARIS の 2007 年 10 月 31 日 QUANTUM

判決があります。

 しかしながら、事案によっては、裁判所は、商標がフランスにおいて商業

的に使用されていたことを示す証拠方法の裏付けとなるインボイスの証拠を

さらに要求する可能性があります。

 XX 社がその自国において商標「XYZ」を特定の万年筆について使用して

いるが、我国における上記の広告がその特定の万年筆についてではなく、我

国からの注文が可能なその他種々のペンの写真について商標「XYZ」をウェ

ブサイトで表示しているに過ぎない場合はどうなるでしょうか?

 この場合、商標「XYZ」が本国において特定の万年筆について使用されて

いるが、フランスにおける広告においては他のペンとの関係で表示されてい

るという事実は、その特定の万年筆についてのフランスにおける使用を構成

しない、と取消しを請求する第三者及び裁判所は判断しそうに思われます。

Page 107: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

107欧州

フランス

 企業は、自国においてその同一の商品にすでに使用している商標を外国で

使用するのが普通です。XX 社は、フランスにおいて販売されているペン(本

国の特定の万年筆以外のもの)に商標「XYZ」が使用されていることを証明

する立証責任があります。

 答えは、万年筆が一般的なペンのサブカテゴリーに属するかどうかにより

ます。これは、関連性を有する商品の最終的な状態及び意図する消費者に依

拠する、事実の問題です。万年筆がペンのサブカテゴリーに属しない場合は、

他のペンの写真と共にウェブサイトに表示されているその商標の広告は、フ

ランスにおける商標の真正な使用を構成するに十分ではない可能性がありま

す。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 商標が商品自体に表示されていることは、商標の使用の評価に際

して決定的な要因となります。しかしながら、関連性を有する消費者が商標

と商品との関係を正しく認識できるのであれば、製品及び製品の包装自体に

商標が付されている必要はなく、当該商品との関係でカタログ、広告資料又

はインボイスに商標が表示されていれば十分です。

 ドメイン名として又はドメイン名の一部としての標識の使用は、本来、サ

イトの所有者を特定するためになされるものであるため、商標の真正な使用

を証明するのに十分ではありません。しかしながら、状況によっては、その

ような使用も真正な使用と判断される可能性があります。ウェブサイトの

URL が「FOUNTAINPENXYZ」であり、その万年筆がウェブサイトにおいて

フランスの消費者に向けて販売されているのであれば、その URL はサイト

の所有者を特定するのみならず、提供されている商品と商標との関係を確立

しているという有効な議論をし得ると思われます。なぜなら、その URL は

Page 108: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

108 欧州

フランス

製品名と商標とを表示しているからです。ドメイン名の拡張子を付加する

ことにより、商標を変更した態様で使用することは、商標の識別性を変更す

るものではないため、有効であると判断されます。(「E-PAYE 対 E-PAIE 及び

E-PAIE.FR ドメイン名」事件における 2006 年 3 月 9 日パリ控訴裁判所の判

決をご参照下さい。この判決も、ドメイン名 E-PAIE.FR は先行商標 E-PAYE

を侵害すると認定しました。)

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 フランスにおいて用いられている通貨(ユーロ)は特定の国のも

のではありませんが、「ユーロ圏」と呼ばれる大きな経済地域に共通するも

のです。「ユーロ圏」は 3 億 2 千万人に及び、オーストリア、ベルギー、キ

プロス、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタ

リア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポルトガル、スロベニア、スペ

イン及び他の諸国(アクロティリ及びデケリア、アンドラ、コソボ、モンテ

ネグロ、モナコ、サンマリオ、バチカン市国等)を含みます。

 現地通貨がサイトに表示されておらず、サイトがフランス語で表示されて

おらず、製品に何ら商標が表示されていない等の事実は、すべて総合的に判

断されます。そのような簡単なウェブサイトは、確立したフランス判例法に

よれば、真正かつ誠実な使用の証拠であると判断されることを排除するで

しょう。

 逆に、ウェブサイトがフランス語で表示されておりかつユーロの表示があ

るという事実は、そのウェブサイトの所有者がフランスにおいて商標を使用

したことを必ずしも意味しません。実際、例えば、ベルギーの公用語(3 つ

の公用語の一つ)もフランス語であり、ユーロが現地通貨です。検証される

べきはテストは、フランスの消費者が対象となっているかどうかです。

Page 109: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

109欧州

フランス

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 前述したように、フランスの判例法によれば、当該ウェブサイト

の内容から、そのウェブサイトがフランスの公衆を対象としていること及び

そのウェブサイトを通じてフランスの消費者が商品又は役務を購入すること

が可能であることが推認できる場合は、商標は真正に使用されていると判断

されます。したがって、このことは、商品がフランス領域内に配送されない

場合又は役務がフランス領域内で提供されない場合は、フランス語の表示が

ないウェブサイトにおける如何なる商標の使用も排除します。

 ウェブサイトのホストサーバーが設置されている国は関係ありません。な

ぜなら、実際のところ、フランスのサーチエンジンで検索すること又はフラ

ンスからアクセスすることが可能だからです。(なぜなら、どのウェブサイ

トもどの国からでもアクセスすることが可能だからです。)

 しかしながら、商標がウェブサイト上に又はドメイン名(ウェブサイト

へのアクセスを可能にするもの)として表示されているという単なる事実

は、第 38 類の通信サービスについての商標の真正な使用を構成しません。

(「Locatour」事件における 2005 年 12 月 13 日フランス最高裁判所判決)

(原稿受領日 2008 年 3 月 29 日)

   Author: Ms. Guylène Kiesel Mr. Patrick Boyle Cabinet Plasseraud 52 rue de la Victoire 75440 Paris cedex 09, France Tel: +33 (0) 1 40 16 70 00 Fax: +33 (0) 1 42 80 01 59 Email: [email protected] Website: http://www.plass.com/

Page 110: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

110 欧州

ドイツ

ドイツ (Germany)

 序

 回答すべき質問の一部には、ドイツ商標法(以下、「GTA」と言う。)の文

言からその回答を容易に導き出すことができないという意味において、不透

明な法的状況について言及がなされているものがあります。このことは、ド

イツ又は欧州の裁判所が統合的な判例法をまだ確立していない分野について

特に留意しなければなりません。したがって、回答の一部は筆者の意見を述

べたものであり、拘束力のあるドイツ法であるとみることはできません。

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 ドイツにおいては、保護の範囲はドイツ商標法(以下、「GTA」と言う。)

の第 14 条において定義がなされています。その文言は欧州商標指令の第 6

条に則っています。商標(登録商標、周知商標、評判を有する商標)の所有

者は、指定商品又は指定役務について当該商標を使用する独占的権利を有し

ます。その結果として、3 つの類型の侵害が存在します。すなわち、(1)同

一製品についての同一標識の使用、(2)同一・類似の製品についての同一・

類似の標識の使用であって、混同のおそれを生ずるもの、及び(3)如何な

る種類の製品であろうと周知商標と同一又は類似の標識の使用であって、正

当な理由なく、その周知商標の識別性若しくは評判を不正に利用又は害する

もの、という 3 つの類型が存在します。侵害は、商品に標識を付するか又

はその標識の下で役務の申出若しくは提供をするだけではなく、取引書類又

は広告に使用することも含みます。

 制定法上の侵害の要件に加え、ドイツ裁判所は商標としての使用を要求し

ます。BMW/Deenik の事件において、欧州司法裁判所は、被告の標識が「商

Page 111: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

111欧州

ドイツ

標として」使用された場合にのみ商標の侵害が生じ得ると判示しました。す

なわち、商標は、取引過程において、他の企業の製品又は役務と(自己の)

製品又は役務とを識別するために使用されなければならないと判示しました

(欧州司法裁判所 1999 年 2 月 23 日判決、C-63/97-BMW/Deenik)。ドイツ

連邦最高裁判所は、商標の使用についてこの概念を採用しています。

 真正商品の並行輸入は、商標権侵害を構成する可能性があります。しかし

ながら、共同体消尽制度の下では、共同体のいずれかの加盟国における最初

の販売により権利は消尽します。並行貿易は共同体内においては許容されま

すが(ドイツ商標法第 24 条。共同体商標規則第 13 条第 1 項もご参照下さ

い。)、欧州経済地域(EEA)外の諸国からのものは許容されません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 一般的に、登録商標の使用は商標権者がその商標権を行使するため

の要件です。登録後の最初の 5 年間に限り、使用の要件はありません。相

手方が当該商標が使用に付されていないと主張する場合、当該商標の使用は

商標権者によって立証されなければなりません。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 一般的に、公衆がその題号「love」を取引上の出所表示として認識

する場合、そのような使用は商標権侵害を構成します。原則として、CD の

題号は、書籍の題号と同様に、むしろ CD(又は書籍)の内容を表示するも

のとして機能するか、又は一つの作品を他の作品から識別する働きをします。

しかしながら、同時に、公衆は、作品の題号から製品の取引上の出所を連想

する可能性があります。

Page 112: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

112 欧州

ドイツ

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 T シャツの胸全面に商標を表示することは、その表示が図形である

か又は文字からなるかにかかわらず、公衆が当該商標を純粋な装飾というよ

りむしろ商品を特定するための表示として理解する限り、商標権侵害を構成

する可能性があります。公衆がその標識を出所表示として認識するか又は純

粋な装飾的使用として認識するかどうかの問題は事実によります。とにか

く、ドイツの裁判所は、欧州の判例法にしたがって、関連性のある公衆が当

該標識を装飾として見るという事実はそれ自体で侵害を免れる理由として十

分ではないことを明らかにしました(判決番号 I ZR 13/96 1998 年 3 月 5

日 -Les-Paul-Gittarren)。これに応じて、ハンブルグ控訴裁判所は、ごく最近、

T シャツの胸への商標の使用は商標的意味における使用と判断され得ると確

認したところです ( ハンブルグ控訴裁判所判決番号 5 U 38/04 2005 年 1 月

20 日 -Ahoj-Brause)。当該標識が装飾と見られたという事実は、それ自体で、

商標のように出所表示として働くその能力に対する障害とはならなかったの

です。言い換えれば、その事案のすべての状況を考慮した場合に、当該標識

が出所表示として認識されることはないと言えない限り、商標に類似する標

識の装飾的使用は、その商標の侵害となる可能性があります。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 原則として、同一の商品についての他人の商標の使用は、その商品

が販売されるか又は販売促進の目的で「フリーギフト」として頒布されるか

を問わず、他人の商標権を侵害する可能性があります。しかしながら、一定

の状況の下、様々な要因によって、公衆が当該商品に付されたその標識を出

所表示として認識しない場合は、侵害行為は否定される可能性があります。

Page 113: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

113欧州

ドイツ

当該商品がフリーギフトとして頒布されているという事実は、この点におけ

る一つの重要な要素にすぎないと言えます。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 ドイツ商標法第 23 条によれば、第三者は一般的に製品の用途、特

に付属品又は取替部品の用途を表示するために、商標を使用することが許容

されます。ただし、その使用が必要であり、公正な慣行に反しない場合であっ

て、かつその製品が当該商標の商標権者を出所とすると公衆が誤認しない限

りにおいてです。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 いいえ、そのような表示は要求されません。そうは言うものの、公

衆に登録商標であると気付かせることは望ましいと言えます。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 関連する規則として、ドイツ商標法の第 49 条及び第 26 条があり

ます。商標が過去 5 年間使用されていない場合、その商標は不使用により

取り消されます。しかしながら、前記 5 年の後であって取消請求前に商標

権者が当該商標の使用を開始又は再開した場合は、第三者は不使用による取

消しを請求することはできません。しかしながら、その使用が不使用による

取消請求前 3 月以内に開始され、かつ当該商標に対して不使用による取消

請求がなされる可能性があると知った後に商標権者が使用の準備を開始した

場合、それらの行為は使用に該当しません。特定の商品又は役務についての

Page 114: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

114 欧州

ドイツ

一部取消しが可能です。ドイツ商標法の第 26 条は、商標の使用がなされて

いたことの立証責任を商標権者に課しています。

 取消請求の訴訟は、民事裁判所に対してのみ提起することが可能です。し

かしながら、ドイツ商標の第 53 条によれば、取消請求をまず特許庁に提出

することが可能です。特許庁は、当該請求を商標権者に通知し、取消しに対

して反論をするかどうか特許庁に知らせるよう商標権者に要請します。通知

の送達がなされた後 2 月以内に、商標権者が取消しに反論しなかった場合、

当該登録は取り消されます。商標権者が取消しに反論をした場合、特許庁は

当該請求をした者にその旨の通知を行い、取消請求は民事裁判所に対して訴

訟を提起することによりなされなければならないことを告げます。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 商標権者は、不使用について正当な理由がない限り、商標登録に係

る指定商品又は指定役務について、当該商標を真正な使用に付していなけれ

ばなりません。法は、「真正な使用」が実際に何を意味するのかについて定

めていません。商標登録に係る具体的な指定商品又は指定役務についてな

されることを条件として、広告目的の使用はウェブサイト上のものも含めて

登録商標の使用と判断され得ると言えます。当該商品がドイツにおいて販売

されたことがなければ、ドイツの裁判所がドイツにおける「真正な使用」と

判断する可能性は非常に低いですが、ドイツ連邦特許裁判所は、ごく最近に

なって、広告目的のウェブサイト上の標識の使用は、商標登録に係る具体的

な指定商品又は指定役務についてなされる場合であって、かつ商品が実際に

配送され得る場合は、登録商標の使用と判断され得ると判示しました(ドイ

ル連邦特許裁判所 24W (pat) 185/99 2000 年 4 月 18 日 - Warenvertreib

Page 115: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

115欧州

ドイツ

im Internet / Distribution of goods on the Internet に係る判決をご参照下さ

い。)。ウェブサイトへの相当な数のアクセスは真正な使用に有利に働きます

が、一般的に、具体的なアクセス数を証明することは要求されません。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 いいえ、それでは十分ではありません。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 ドイツの商標実務によれば、決定的な事実は、ウェブサイトが特

定の国において利用できるかどうかであり、どこにウェブサイトのサーバー

が設置されているかではありません。重要な事実は、とりわけ、ウェブサイ

ト上で使用されている言語及び通貨です。一般的に、ウェブサイトが明白に

ドイツの消費者を対象としている場合であって、ドイツ語による表示がなさ

れている場合に限り、当該ウェブサイトは適切な使用行為として認められる

でしょう。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 上述のように、ドイツ語は当該ウェブサイトがドイツの消費者を

対象としていることの一つの論拠となり得ます。一般的に、ドイツ語による

表示がなされていない場合、他の要因がドイツの消費者を対象としているこ

とを指し示していない限り、当該ウェブサイトはドイツの消費者に向けて行

われたとは解釈されません。

Page 116: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

116 欧州

ドイツ

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 上述のように、ドイツ商標法第 26 条は、商標権者が商標登録に

係る指定商品及び指定役務について、登録商標を真正な使用に付することを

要求しています。したがって、原則として、商品に商標を付することが要求

されます。登録商標、製品名である「万年筆」を表す文言又は万年筆の抽象

的なイラストレーション及び XX 社の会社名・住所及び問合せ先の単なる表

示は、通常、商標についての適切な使用行為と判断されることはあり得ませ

ん。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 すでに述べたように、通常、商品に商標を付することが要求され

ます。例外はあり得ます。例えば、役務又は一定の商品(例えば、液体)で

す。したがって、URL のみに商標を使用することは十分ではありません。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 ウェブサイト上において通貨としてユーロを使用することは、当

該ウェブサイトが国内の取引を対象としていることを示す非常に重要な表示

となり得ます。裁判所又はドイツ特許庁が、外国の通貨のみを表示するウェ

ブサイト上の商標の使用を認めることはなさそうです。

Page 117: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

117欧州

ドイツ

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 2000 年 10 月 10 日付のドイツ連邦司法裁判所の判決(判決番号:

I ZR 235/00)によって確定した、2000 年 8 月 24 日付のミュンヘン高等

裁判所の判決(判決番号:29 U 2351/00)において、裁判所は、言語が英

語のみであり、かつ通貨が米国ドルのみで表示されているウェブサイトは、

ドイツの消費者を対象としているとは判断されないと判示しました。した

がって、かかる行為は商標の真正な使用の有効な根拠とはなり得ません。

 ドイツ連邦特許裁判所は、2000 年 4 月 18 日付で、ウェブサイト上の商

標の使用は、適切な商標の使用行為と判断され得るとの判決を下しました(判

決番号:24 W (Pat) 185/99)。この事件では、ウェブサイトはドイツ語で

表示されていました。

(原稿受領日 2008 年 3 月 29 日)

Author: Mr. Peter J. A. Munzinger Bardehle, Pagenberg, Dost, Altenburg, Geissler Galileiplatz 1 81679 Munchen, Germany Tel: +49-89-92805-0 Fax: +49-89-92805-444 Email: [email protected] Website: http://www.bardehle.com/

Page 118: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

118 欧州

ギリシャ

ギリシャ (Greece)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 1994 年法律第 2239 号による改正商標法第 26 条によれば、以下

の旨が規定されています。「他の者に属する商標を模倣又は偽造(改変)す

る行為は、侵害訴訟及び損害賠償請求訴訟の対象とする。同旨は、他人の商

標と同一又は類似の商標を商標登録に係る指定商品・役務と非類似の商品・

役務に使用する行為にも適用する。ただし、当該他人の先行商標がギリシャ

において評判を有し、かつ、正当な理由なきその使用によって、当該他人の

商標の識別性若しくは評判を不正に利用又は害する場合に限る。」

 1994 年法律第 2239 号による改正商標法第 20(3)条によれば、「商標は、

商標権者によって又はその同意を得て、その商標の下で EU の市場に置かれ

た商品に関して、その使用を禁止する権原を与えるものではない。」とされ

ます。したがって、EU の市場に置かれた商品に関しては、上記の規定により、

商標権者はその使用を禁止することができません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 ギリシャ商標法には、そのような明示の要件はありません。実際、

1994 年法律第 2239 号の改正商標法第 2 条によれば、商標権者に対する独

占的使用権の付与は登録によるものであって、使用に基づく権利の獲得によ

るものではありません。それにもかかわらず、実際には、商標権者がギリシャ

において使用されていない商標に基づいて侵害訴訟を提起することを決めた

場合に常に伴う必然的リスクは、被疑侵害者からその商標に対する取消請求

を受ける可能性が高いということです。このことは、通常、そのような商標

上の問題が完全になくなるまで侵害訴訟の提起を抑制する効果を有します。

Page 119: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

119欧州

ギリシャ

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 製品の包装に使用される言葉が市場において広く使用される記述的

又は一般的な言葉である場合、そのような状況において侵害を証明すること

は非常に難しいでしょう。それにもかかわらず、特定の製品について商標登

録が存在する場合には、原則として、確実に侵害訴訟を招来します。被疑侵

害者は、その際、その言葉が記述的であって識別力を欠くとの理由に基づい

て、その侵害訴訟の根拠となっている商標の有効性に対して攻撃をかける可

能性が高いでしょう。その結果、侵害訴訟の審理はその問題が解決するまで

保留されることになるでしょう。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 ギリシャにおいては、商標法の規定において、侵害を構成する使用

を網羅的な形で規定した明示の定義がないため、他の者の商標権を侵害する

ことになる使用の種類に制限はありません。これに照らすと、T シャツに登

録商標を使用することは、その使用が商業目的であるなら、確実に侵害行為

と判断される可能性があります。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 ギリシャにおいては、1994 年法律第 2239 号改正商標法の規定、

特にその第 26 条により、商標権の希釈をもたらす使用又はその商標を許諾

なしに使用する者に不正の利益をもたらす使用は、その権原なき者による使

用が特定の商標登録の効力が及ばない製品又は役務についてのものであって

も、なお禁止されます。

Page 120: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

120 欧州

ギリシャ

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 上記の状況においては、侵害訴訟が成功する可能性は低いと思われ

ます。ただし、包装への ABC 商標の使用は、特定の製品がどの商品に使用

可能であるかという表示を純粋に目的とするものであって、特定の製品等の

出所について混同を生じさせることを目的とするものではない場合に限りま

す。具体的には、1994 年法律第 2239 号改正商標法第 20(1) 条は次のよう

に明示しています。「(1) 商標により与えられる権利は、商標権者に対し、

第三者が、取引過程において、自己の名称及び住所、商品若しくは役務の提

供に係る種類、品質、意図される用途、価格、地理的原産地、製造若しくは

提供の時期、又はその他の特性に関する表示を使用することを禁止する権原、

又は製品若しくは役務の意図された用途、特に付属品又は予備部品の用途を

表示するために必要な商標を使用することを禁止する権限を与えるものでは

ない。

その使用は,工業上及び商業上の公正な慣行に従って行われなけばならず、

如何なる場合も商標の形態をとってはならない。」

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 ギリシャにおいては、法律上、製品の包装にⓇの記号を用いて商標

が登録されていることを表示しなければならないという規定はありません。

しかしながら、多くの商標権者は、特定の商標がその商標に由来する商標権

者にとってのすべての権利を伴った登録商標であることを知らなかったとい

う侵害者側からの主張に対して反駁できるように、潜在的な侵害者に対する

「警告」として、そのような表示を行っています。

Page 121: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

121欧州

ギリシャ

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用

Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 1994 年法律第 2239 号改正のギリシャ商標法第 17 条において、

以下の旨が規定されています。

「(1)次に該当する場合、商標は、行政商標委員会又は管轄裁判所の決定に

より、その全部又は一部について登録が取り消されるものとする。

 (a)登録手続が完了した日から 5 年の期間内に、商標権者が、商標登録

に係る指定商品又は役務について当該商標を真正な使用に付さず、又はその

使用が継続して 5 年間中断された場合

 (b)商標登録に係る商品に関する事業が 5 年間活動を停止している場合

 (c)商標権者の行為又は不作為の結果、商標が商標登録に係る製品又は役

務に関して、慣用商標又は取引における普通名称となった場合

 (d)商標登録に係る指定商品又は指定役務について、商標権者により又

は商標権者の同意を得て使用された結果、当該登録商標が特にその商品又は

役務の性質、品質若しくは地理的原産地について公衆を誤認させるおそれが

ある場合

 (e)当該登録商標が本法の第 3 条及び第 4 条の規定に違反して登録され

ていた場合

 (2)次の場合,商標は取り消されないものとする。

 (a)競合する先行商標が存在するにもかかわらず、本条の(1)(a)及び(b)

に規定される、商標の不使用又は事業の活動停止の結果として、当該先行商

標について取消事由が存在する場合

 (b)先行商標又は後発商標の使用を禁止するその他の権利を有する所有

者が、連続して 5 年間、後発商標の使用を黙認していた場合。ただし、後

発商標の出願が不誠実に行われていた場合はこの限りでない。

 (3)本条の(1)(a)及び(b)の規定にかかわらず、次の場合は商標は

Page 122: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

122 欧州

ギリシャ

取り消されないものとする。

 (a)商標権者が不使用又は事業活動の停止について正当な理由を有する場

 (b)5 年間の満了日と取消請求日との間の期間に、商標権者が真正な使用

を開始又は再開した場合。ただし、取消請求前 3 月以内に開始された使用

の開始又は再開(最も早くて、継続した 5 年間の不使用期間の満了日後に

開始又は再開されたもの)については、その使用又は再開の準備が、取消請

求が行われるかもしれないことを商標権者が知った後に初めてなされたもの

である場合は、その使用の開始又は再開は考慮されない。

 (4)本条の目的上、商標の「使用」とは、本法の第 18 条(2)に規定さ

れる使用を意味する。

 (5)法律上の利害関係の存在を立証することのできる者は、何人も、商

標の取消請求を行うことができる。裁判部は、本法の第 3 条及び本条の(1)

に従ってのみ商標登録の取消しを請求することができるものとする。

 (6)本条の(1)(e)の場合、取消請求は当該商標の登録から 5 年の期間

内に行政商標委員会にされなければならない。ただし、当該商標が不誠実に

登録された場合はこの限りでない。本条の(1)(c)の場合、当該商標の登

録後 20 年が経過するまでは取消請求を行うことができない。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 上記の質問に関しては、ギリシャの裁判所の現在の傾向によれば、

オンライン上の使用(ウェブサイト等における広告の態様での使用)は、ギ

リシャにおいて商標が広範に使用されていることを裏付けるという意味で確

かに考慮される一方、上記の状況においては、オンライン上の広告における

Page 123: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

123欧州

ギリシャ

商標の使用のみでは、他の者によってなされた取消請求における不使用の申

立てを必ずしも克服できないと思われます。他方、侵害事件においては、最

近の判決は、ギリシャにおいて「積極的」に使用されていなくても、その商

標の著名性は、当該商標を盗用する第三者に対する侵害訴訟の根拠として十

分であると判示しています。さらに、如何なる EU の加盟国における使用も、

通常、共同体商標の使用を立証するに十分であるという基本的原則は、対応

の共同体商標があれば、その共同体商標が EU の他の加盟国において積極的

に使用されている限り、ギリシャにおける特定の商標についての実際の使用

を不要にすると言えます。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 ギリシャの消費者が1人当該広告を見て当該製品を個人輸入した

ことを証明しても不十分ですが、多数(好ましくは非常に多数)の消費者が

当該広告を見て個人使用のためにギリシャに当該製品を輸入した場合は十分

でしょう。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 サーバーの置かれている場所は、ギリシャの裁判所による評価に

とって何ら重要ではないと思われます。適切かつ重要なことは、ギリシャの

消費者が当該ウェブサイトにアクセスし、広告された商標をよく知っている

ことを証明することでしょう。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 ギリシャ語による表示がなくても、ギリシャの消費者、特にイン

Page 124: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

124 欧州

ギリシャ

ターネット又はオンラインサービスを利用する者が有する英語についての幅

広い知識を考慮すると、英語によるオンライン上の使用は十分であると判断

されそうに思われます。言い換えれば、たとえその使用が純粋にオンライン

上のものであっても、ギリシャの裁判所が、商標の実質的な使用であると確

信する場合、ギリシャ語対英語の問題は裁判所の評価において不利益をもた

らすことはないと思われます。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 広告の提示のされ方は、ギリシャにおける広告の範囲の程度に関

する証拠と相俟って、その具体的な提示が問題の商品に十分に言及してい

るかどうかを判断するために、裁判所によって評価されなければならないで

しょう。ギリシャの裁判所は、通常、具体的な商品についての明確かつ非抽

象的な方法による言及を要求します。それにもかかわらず、この問題は事実

についての裁判所の評価次第であり、事実について予め判断することはでき

ません。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 特定の商標が予定されている商品に付されておらず、単に URL

として使用されている場合、オンライン上の使用を使用の証拠として考慮す

るという最近の傾向にかかわらず、ギリシャの裁判所はそのような使用を十

分な使用と判断しないおそれがあります。

Page 125: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

125欧州

ギリシャ

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 ギリシャにおいて用いられている通貨はユーロです(他の大多数

の EU 諸国と同じです。)。ユーロが広範に使用されていることを考慮すると、

他の通貨(米国ドルのみ又は円等)による表示しかなければ、おそらく、そ

のウェブサイトはギリシャその他の EU 諸国を対象としていないと推認され

ることになるでしょう。それにもかかわらず、この問題は、おそらくあまり

に些細な事実として、特定の広告に関する正確な場所又は対象国を判断する

ための考慮の対象にはならないでしょう。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 そのような事例に関するギリシャにおける判決例は知りませんが、

ギリシャにおける最近の傾向は、ギリシャの裁判所がオンライン上の使用を

使用として考慮するということです。

(原稿受領日 2008 年 4 月 3 日)

Author: Dr. Helen Papaconstantinou Dr. Helen Papaconstantinou John Filias and Associates 2 Coumbari Str., Kolonaki 10674 Athens, Greece Tel: +30 210 3625 757 Fax: +30 210 3626 742 Email: [email protected] Website: http://www.hplaw.biz/

Page 126: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

126 欧州

ハンガリー

ハンガリー (Hungary)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 我々は、以下のとおり、商標及び地理的表示の保護に関する 1997

年法 XI の第 27 条(1)を引用します。

 「(1)『商標の侵害』とは、第 12 条の規定に違反して行われる、権原なき

商標の使用を言う。」

 第 12 条 法が規定する商標の保護の内容は以下のとおりです。

「以下引用:

(1)商標の保護は、商標権者がその商標を使用する独占的権利を与える。

(2)独占的使用権に基づいて、商標権者は、その同意なく事業活動におい

て以下に掲げる標識を使用する者に対して、訴訟を提起することができる。

 a)商標登録に係る指定商品・役務と同一の商品・役務について使用する、

登録商標と同一の標識

 b)当該標識と登録商標とが同一又は類似であって、商品・役務が同一又

は類似であるため、消費者が登録商標と混同するおそれのある標識;又は

 c)商標登録に係る指定商品・役務に記載されていない商品・役務につい

て使用する、登録商標と同一又は類似の標識。ただし、当該登録商標が国内

市場において評判を有し、かつ正当な理由なき当該標識の使用が当該登録商

標の識別性若しくは評判を害するか又は不正に利用する場合に限る。

(3)第(2)項の規定が適用される場合には、特に、以下の事項が禁止される。

 a)商品又はその包装に当該標識を付すること;

 b)当該標識を付した商品を市場に置き、それらの販売のための申出をし、

又はそれらを市場に置く目的で貯蔵すること;

 c)当該標識の下で役務の提供又は申出をすること;

Page 127: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

127欧州

ハンガリー

 d)当該標識を付した商品を輸出又は輸入すること;

 e)取引書類又は広告に当該標識を使用すること。」

 並行輸入の問題は、主として EU の領域外(例えば、アメリカ合衆国又は

日本)の商取引において存在します。その場合には、並行輸入も商標権侵害

となるかもしれません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 はい。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 はい。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 はい。文字が同一の場合も同様です。その場合は、一層明らかに商

標権侵害を構成します。類似の場合はその程度、すなわち、どの程度類似性

が存在しているかが重要です。

 我々は、本法の第 4 条(4)を引用します。

 「(4)本法の目的上、当該標識と当該商標との間において連想のおそれが

ある場合は、公衆における混同のおそれが存在するものとする。」

 上記で引用した第 12 条もご覧下さい。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 はい。

Page 128: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

128 欧州

ハンガリー

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 第 12 条(2)c.(上記で引用) 訴訟においては、当該商標又はそ

の著名性が不正な方法で使用 / 利用されていたかどうかの問題が審理されな

ければなりません。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 いいえ。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用

Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 我々は、本法の第 18 条-商標の不使用-を引用します。

「(1)商標権者が、登録の日から 5 年の期間内に、商標登録に係る指定商品

又は指定役務について、国内において、当該商標の実際の使用を開始してい

ない場合、又は継続して 5 年間当該商標を使用していない場合には、本法

に定められた法的責任が当該商標の保護に適用される(4 条(3)、5 条(2)

b)、30 条 d)、33 条(2)a)、34 条、61 条 E、73 条(2))。ただし、商標

権者がそのような不使用について正当な理由を証明することができる場合は

この限りではない。

(2)第(1)項の適用において、以下も国内における実際の使用と判断される。:

 a)識別性に影響を与えない範囲で当該商標の登録された態様を僅かに逸

脱するに過ぎない態様での当該商標の使用;

 b)専ら輸出を目的として、国内において、商品又はその包装に当該商標

Page 129: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

129欧州

ハンガリー

を付すること。

(3)第(1)項の適用において、商標権者の同意を伴う当該商標の使用は、

商標権者の使用と判断される。」

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 商標法の解釈において、商標の使用は「真摯」かつ「継続的」であ

るべきとされます。加えて、商標の使用がハンガリーにおいて実現されたこ

とが証明されなければなりません。例外は CTM です。すなわち、EU のい

ずれかの国において使用が実現されれば十分です。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 十分とは言えません。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 (これは、興味深い質問です。)

 我々は、インターネット上の使用をハンガリーの当局に認めてもらいたい

と思っていますが、当局が認めかつ先例となるような決定はまだありません。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 前述の回答をご覧下さい。

Page 130: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

130 欧州

ハンガリー

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 前述の回答をご覧下さい。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 前述の回答をご覧下さい。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 前述の回答をご覧下さい。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 残念ながら、そのような事例はまだ存在しません。

(原稿受領日 2008 年 2 月 12 日)

Author: Dr. Gabriella Sasvári S.B.G. & K Andrassy ut 113 H-1062 Budapest, Hungary Tel: +36 1 461-1000 Fax: +36 1 461-1099 Email: [email protected] Website: http://www.sbgk.hu/

Page 131: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

131欧州

アイルランド

アイルランド (Ireland)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 1996 年アイルランド商標法によれば、商標権者は登録商標につい

て独占的権利を有し、商標権者の同意なく、アイルランド共和国においてそ

の商標を使用する行為は当該権利を侵害するものとされます。

 取引過程において、登録商標と同一の標識を商標登録に係る指定商品・指

定役務と同一の商品・役務について使用する者は、登録商標を侵害するもの

とされます。

 また、取引過程において、以下の標識を使用する者も登録商標を侵害する

とされます。

 (a)登録商標と同一の標識であって、商標登録に係る指定商品・指定役務

と類似の商品・役務に使用されるもの。

 (b)登録商標と類似の標識であって、商標登録に係る指定商品・指定役

務と同一又は類似の商品・役務に使用されるもの。

 (c)使用の結果、公衆において混同のおそれがある標識。混同のおそれは、

登録商標の連想のおそれを含む。

 侵害は、登録商標と同一又は類似の標識を商標登録に係る指定商品・指定

役務と非類似の商品・役務について使用する場合にも起こり得ます。ただし、

その登録商標が国内において評判を有しており、かつ、正当な理由なき当該

標識の使用がその登録商標の識別性若しくは評判を不正に利用又は害する場

合に限られます。

 侵害を構成する行為は特に以下のものを含みます。

 (a)その商標を商品又は商品の包装に付すること、

 (b)その商標の下で、商品を販売のために申出若しくは展示し、市場に

Page 132: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

132 欧州

アイルランド

置き若しくはそれらの目的のために貯蔵すること、又はその商標の下で役務

の申出若しくは提供をすること、

 (c)その商標の下で、商品を輸入又は輸出すること、及び

 (d)取引書類又は広告にその標識を使用すること。

 その者が登録商標を侵害すると認定した場合、裁判所は、侵害者に対し、(a)

侵害者の支配下にある侵害商品から侵害標識を除去すること、又は(b)侵

害商品を破棄すること、を要求する命令を発することができます。

 欧州経済地域内にある他国からアイルランド共和国への真正商品の並行輸

入は、商標権の侵害を構成しません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 商標権者が侵害訴訟を提起する前に登録商標が使用されている必要

はありません。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 公衆が LOVE の題号をジャケットの内容を示す商標として見る場合

には、侵害であると思われます。東京地方裁判所の「Under the Sun」事件

の状況に対応する状況に直面した場合に、アイルランドの裁判所がどのよう

に決定するかは予想し難いと思われます。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 アイルランドの裁判所は、図形であろうと文字であろうとそのよう

な使用は登録商標を侵害すると判断する可能性が高いと思われます。周知商

標の所有者が他の商品についてその商標の「フランチャイズ」をするという

一般的慣行を考慮すると、当該商標が周知であれば特にそうなるでしょう。

例えば、GUINESS という文字(ビールについて周知なアイルランドの商標)

Page 133: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

133欧州

アイルランド

の使用は、特に当該商標がビールのみならず被服について登録されていれば、

そのような状況において侵害になることはほぼ確実です。

 Tシャツが周知ではなくかつ全く異なった商品に登録されている商標を表

示している場合は、状況は異なるでしょう。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 はい、「ボールペン」に商標「ABC」が付されるか又は商標「ABC」

の下で販売されていれば、そのとおりです。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 アイルランド商標法第 15 条 (1)(c) は、製品又は役務の意図された

用途、特に附属品又は予備部品の用途を表示するために必要な場合、当該登

録商標の使用によっては登録商標は侵害されない、と具体的に規定していま

す。ただし、その使用が工業上又は商業上の公正な慣行に基づいてなされる

場合に限られます。さらに、商標法において具体的に言及されていませんが、

公正な比較広告は、今日、一般に認められる取引慣行です。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 商標法には、商標権者が当該商標が登録されていることを公衆又は

潜在的な侵害者に告知することを要求する規定はありません。したがって、

そのような表示は、侵害訴訟を開始する前に商標権者に求められる要件では

ありません。

 商標の表示について商標法が規定しているのは、商標が登録されていない

Page 134: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

134 欧州

アイルランド

のに登録されていると偽って表示することは犯罪であるということだけで

す。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用

Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 アイルランド商標法第 51 条基づけば、商標登録は以下のいずれか

の理由によって取り消されます。

 (a)当該商標が、登録の公告の日以後 5 年の期間内に、商標権者により

又はその同意を得て、その登録に係る指定商品又は指定役務について、国内

において、真正な使用に付されておらず、かつ、その不使用について正当な

理由がない場合

 (b)使用が継続して 5 年間中断されており、かつ、その不使用について

正当な理由がない場合

 (c)登録商標が、商標権者の作為又は不作為の結果、その指定商品又は指

定役務に係る取引上、普通名称となった場合

 (d)登録商標がその指定商品又は指定役務について、商標権者により又

は商標権者の同意を得て使用された結果、特にその商品又は役務の性質、品

質若しくは地理的原産地について公衆を誤認させるおそれがある場合

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 商標法はインターネット上の商標の使用について言及していません。

 外国のウェブサイトにおけるアイルランドへの商品の販売の申出は、おそ

Page 135: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

135欧州

アイルランド

らくアイルランドにおける使用を構成しないでしょう。単に広告がアイルラ

ンドにおいて流されているという事実又はインターネット上の使用は、必ず

しも侵害とはならないと判示されています。同様に、広告は使用と判断され

るべきではありません。

 もちろん、ウェブサイトの所有者が、ウェブサイトにおける広告の結果、

アイルランドの消費者が商品を注文し受け取ったことを証明し得るのであれ

ば、状況は異なるでしょう。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 この質問に対する回答は、ほぼ確実に、「いいえ」です。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 質問 9 及び質問 10 に対する回答をご覧下さい。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 質問 9 及び質問 10 に対する回答をご覧下さい。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 質問 9 及び質問 10 に対する回答をご覧下さい。

Page 136: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

136 欧州

アイルランド

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 質問 9 及び質問 10 に対する回答をご覧下さい。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 質問 9 及び質問 10 に対する回答をご覧下さい。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 この質問に関連するアイルランドの審判部(特許庁)又は裁判所

における審判決はありません。

(原稿受領日 2008 年 5 月 16 日)

Author: Mr. Norman MacLachlan MacLachlan & Donaldson 47 Merrion Square Dublin 2, Ireland Tel: +353 1 6763465 Fax: +353 1 6612083 Email: [email protected] Website: http://www.maclachlan.ie/

Page 137: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

137欧州

イタリア

イタリア (Italy)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1

 1.イタリアにおいては、商標権者の権利は、第一に商標を使用する独占

的権利からなります。商標権者は、その同意がある場合を除いて、第三者が

取引過程において以下の標識を使用することを禁止する権利も有します。

 a)登録商標と同一の標識であって、商標登録に係る指定商品・指定役務

と同一の商品・役務について使用するもの。

 b)登録商標と同一又は類似の標識であって、商標登録に係る指定商品・

指定役務と同一又は類似の商品・役務について使用するもの。ただし、その

標識の同一性・類似性及び商品・役務の同一性・類似性が、公衆に対して、

混同のおそれを生じさせ得る場合に限ります。混同のおそれには、連想のお

それが含まれます。

 c)登録商標と同一又は類似の標識であって、商標登録に係る指定商品・

指定役務と非類似の商品・役務に使用するもの。ただし、その登録商標が国

内において周知であり、正当な理由なきその標識の使用がその登録商標の識

別性若しくは評判を不正に利用又は害する場合に限ります。

 2.前記1.の場合において、商標権者は、特に第三者による以下の行為

を禁止することができます。:商品又は包装に標章を付すること。そのよう

な商品の販売の申出をし、それらを市場に置き又はそのような目的で所持す

ること。その標識により識別された役務の提供の申出又は提供をすること。

その標識により識別される商品を輸入又は輸出すること。取引書類又は広告

にその標識を使用すること。

 3.商人は、販売に供する商品に自己の商標を付することができますが、

Page 138: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

138 欧州

イタリア

製造者又は商人から受け取った製品又は商品から、それら製造者又は商人の

商標を除去することはできません。

 これらの場合において、商標権者は、特に第三者による以下の行為を禁止

することができます。

 ・その商標を製品又は包装に付すること。

 ・販売の申出をすること、流通過程に置くこと又はこれらの目的で単に所

持すること。

 ・その商標によって識別される役務の提供の申出をすること。

 ・その商標を付した製品を輸入又は輸出すること。

 ・その商標を取引書類又は広告に使用すること。

 商品の並行輸入の場合、イタリア産業財産法(第 5 条)は以下の通り規

定しています。

 1.産業財産権の所有者の独占的権利は、ひとたび産業財産権により保護

された製品が、その所有者によって又はその同意を得て、国内又は欧州共同

体若しくは欧州経済地域(EEA)の市場に置かれれば、消尽するものとする。

 2.しかしながら、当該商品がさらに売買されることに反対する正当な理

由が産業財産権者にある場合、特に市場に置かれた後に当該商品の状態が変

更又は損なわれた場合には、前記1は適用されないものとする。

 上記の結果として、非EU加盟国からの輸入のみが禁止されます。(商標

権者の明示の同意がない輸入は当然ながら禁止されます。)

 本件に関する現在の判例法は、商標権侵害ではなく、主に不正競争の側面

に焦点があてられています(イタリア民法第 2598 条第 3 項参照)。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 イタリア法に基づけば、たとえ出願人 / 商標権者がその時点で未だ

商標の実際の使用を行っていなくても、商標登録出願をすると同時に、その

商標の所有者に商標権侵害訴訟を提起する権利が与えられます。イタリア

CIP の第 15.2 条は、具体的にこの問題を取り扱っています。

Page 139: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

139欧州

イタリア

 商標登録(又は、場合によっては、商標登録出願)が、侵害訴訟提起の前

提条件です。

 よって、商標が不使用により取り消される場合を除き、登録されたが実際

の使用が未だ開始されていない場合のみならず、先行商標が未だ登録に至っ

ていない場合(すなわち、出願がなされ、審査中である場合)でさえも、侵

害に対して起訴することが可能です。これらの権利は、商標の独占的使用に

係る単なる潜在能力に基づくものです。

 商標権侵害に対する損害賠償が認められるには、以下の証拠を必要としま

す。

 ・侵害行為

 ・侵害者の故意又は過失

 ・実際の損害を反映する損害額

 ・侵害者の行為と被った損害との間の直接原因及び近因

 商標の(継続的な)使用の欠如が、損害賠償額を軽減することはありませ

ん。実際、継続的な使用の欠如にもかかわらず、侵害者が侵害すべき権利を

有しない商標について、商標権者は独占的権利を有しています。権原なき商

標の使用により、商標権者は、商標権者自身による使用の潜在的独占の意味

においてであろうが、ライセンシーに商標の使用を許諾することにより得ら

れたかもしれない金額の意味においてであろうが、その商標の独占を侵され

ることにより、損害を被ったことになります。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 原則的に、イタリア法は、他人が取引において、商品又は役務の提

供に係る種類・品質・量・意図された用途・価格・地理的原産地・製造若し

くは提供の時期又はその他の特性を表示するためにその商標を使用すること

を禁止又は妨げる権利を商標権者に与えていません。

 したがって、本問において想定されている使用は、侵害を回避するために

Page 140: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

140 欧州

イタリア

は、商標の記述的要素である必要があります。言い換えれば、「LOVE」の題

号の使用は、それが CD についての特定の品質若しくは意図された需要者、

又は、おそらく、当該 CD がラブソングであることを示す場合に認められる

でしょう。

 とりわけ、商標権者による明示の許諾がなくても、商品又は役務を記述す

る役割を果たす一定の使用をイタリア法が容認していることを思い出す必要

があります。ただし、そのような使用は公正な取引慣行に合致していなけれ

ばなりません。

 この点、たとえ他人による商標の使用が記述的な表示であるとの理由によ

り容認される場合であっても、その使用の態様と状況が、商標権者が登録し

育てた商標を利用しようとする企てを明らかに示すものであったり、商標権

者の企業との混同のおそれ(連想のおそれを含む。)をもたらすものである

場合には、その使用は禁止されます。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 上記の事案に関する一般的な判例法によれば、その標識が商標であ

ると見込み客によって理解される可能性のすべてが除去されるような方法で

当該図形標識が表示される場合に限って、侵害が排除されます。すなわち、

その標識が出所表示(又は一要素としての出所表示)ではなく、一般的な意

味において識別機能を失っていると看取される場合です。

 さらに、そのような方法での商標の使用は、イタリア産業財産法第 20.1b

条によって、除外されるように思われます。同法が商標権者に認めているの

は、商標権者の同意がある場合を除き、第三者が取引過程において、登録商

標と同一・類似の標識を指定商品 / 役務と同一・類似の商品 / 役務について

使用する場合であって、その標識の同一・類似性及びその商品 / 役務の同一・

類似性が公衆に連想その他の混同のおそれをもたらす場合に、その標識の使

用を禁止する権利です。

Page 141: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

141欧州

イタリア

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 その者が提供する役務(金融サービス)ではない商品(すなわち、ペン、

キーホルダー等)に商標が付されている場合であっても、商品又は役務が無

料で配布 / 提供されるとの事実により、必ずしも侵害が排除されるわけでは

ありません。

 「ABC」商標の存在がその者が提供する金融サービスに具体的かつ明確に

言及しており、かつ混同のおそれ及び / 又は商標権者の経済活動との連想の

おそれを生じないことが明白である場合に限り、そのような使用は非侵害と

考えられます。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 イタリア産業財産法第 21.1c) 条は、登録商標に係る権利は、商標

権者に対し、第三者が取引過程において以下の表示を使用することを禁止す

る権原を与えるものではない旨を規定しています。

 a)自己の名称及び住所

 b)商品又は役務に係る種類、品質、量、意図された用途、価格、地理的

原産地、製造若しくは提供の時期、又は商品若しくは役務についてのその他

の特性に関する表示

 c)製品又は役務の意図された用途、特に附属品又は予備部品を特定する

ために必要な商標。ただし、その使用が公正な取引の原則に従っている場合

に限る。

 したがって、商標 XX の使用は、たとえ許諾を受けていなくても、製品の

意図された用途を表示するために使用されるものであって、かつ公正な取引

Page 142: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

142 欧州

イタリア

の原則に従っている場合、容認されます。対照的に、第三者が、そのような

方法でその商標を使用することにより、自己の提供する商品が XX によって

提供されているか又は XX によって保証若しくは承認されているかの如き印

象を与えることを企図する場合は、違法な使用となるでしょう。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 イタリアには、商標の隣にⓇの記号(又はその他、例えば TM のよ

うな記号)を付することを要求する法律は存在しません。

 この点に関して、実務上は、告知のため及び侵害を阻止するため、そのよ

うにすることを強くお勧めします。

 イタリア産業財産法第 127.2 条では、その製品が登録商標による保護を

受けているとの印象を与える意図を以って、真実ではない言葉や表示を商品

に付する者は、51.65 ユーロ乃至 516.46 ユーロの罰金を科せられます。

 最後に、商標出願人が、登録がされる予定であることを示すために、Ⓡの

記号を使用する場合は、出願が審査中である間は「TM」の記号を使用する

のが望ましく、登録が認められた後に初めてⓇの記号を使用することが望ま

しいと言えます。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 イタリア産業財産法第 24 条では、以下の通り規定しています。

 1.登録後 5 年以内に、その商標が、商標権者によって又はその同意を得て、

商標登録に係る指定商品又は指定役務について有効な使用に付されていない

場合、又は継続して 5 年間使用されていない場合、商標登録は取り消される。

ただし、不使用について正当な理由がある場合は、この限りではない。

 2.識別性に影響を与えない態様で変更された商標の使用、及び輸出目的

Page 143: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

143欧州

イタリア

で商品又はその包装に国内で商標を付する行為は、本条の目的上、商標の使

用を構成する。

 3.出願商標に係る権利又は使用により獲得された商標に係る権利を除い

て、5 年の不使用期間の満了日から取消しを求める請求書又は反訴請求書の

提出日の間に、商標の有効な使用が開始又は再開された場合は、商標登録は

取り消されない。ただし、取消しを求める請求書又は反訴請求書が提出され

ようとしていることに気付いた後に初めて、商標権者が商標の使用の開始又

は再開の準備を行う場合は、そのような使用又は再開は、少なくとも取消し

を求める請求書又は反訴請求書の提出前 3 ヶ月に行われたものでなければ、

考慮されない。ただし、これは、5 年の不使用の期間の満了後にそのような

期間が経過した場合にのみ該当する。

 4.さらに、不使用による取消しは、不使用商標に係る商標権者が、同時

に、有効に存在する一以上の類似商標の商標権者であり、そのうちの少なく

とも一つの商標が同一の商品又は役務を識別するために有効に使用されてい

る場合は、適用されない。

 ひとたび 5 年の不使用に至った場合、商標権者は、不使用に基づく商標

の取消請求という防衛手段を行使できる被疑侵害者に対して、著しく不利な

立場に置かれることに留意することが重要となります。

 よって、不使用の攻撃を受けた商標権者は、以下の事項を証明しなければ

なりません。

 ・取消請求前の 5 年以内に商標を実際に使用していること

 ・イタリアにおいて使用していること

 ・直接的に、又は許諾に係る使用権者を通じて使用していること

 ・商標登録に係る指定商品又は類似する商品の販売との関係で使用してい

ること

 ・実際の使用を証明することができない場合は、不使用が商標権者の支配

の及ばない、正当な理由の結果であること(例えば、行政上の認可を待つ必

要性のような不可抗力や予測不可能な事態)であることを証明しなければな

Page 144: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

144 欧州

イタリア

りません。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 不使用による商標の取消しを回避するためには、その使用は、現実

的かつ有効なものでなくてはなりません。換言すれば、その使用は形式的で

あったり、商標登録に係る製品と無関係な製品についてなされるものであっ

てはなりません。とにかく、それは、広範囲に及ぶ使用又は一地方における

使用ではなく、使用の中断を構成するおそれがあります。

 広告物についての商標の使用は、文言上使用を構成し、商標権者は、不使

用による取消しの訴えに対する防御に成功するでしょう。

 しかしながら、これを念頭に入れつつも、学者の中には、当該広告が、販

売可能な製品についてのものであるか、又はそうでなくとも販売可能になり

つつある製品についてのものでなければ、商標の広告的使用は使用の証拠と

して十分ではないと述べる者もいます。

 他のどこかの国において製造され、商標が付された製品を輸入したことは、

使用証明として適切なことは明らかです。

 欧州司法裁判所は、「有効な使用」は、すべての商標に係る本質的機能(す

なわち、商標登録に係る商品及び / 又は役務の出所の特定に資する機能)が

達成される場合に証明されるのであり、その場合に、そのような使用が、単

なる形式的な使用を除き、商標登録付与における本来的な権利のみを保持す

るところの商標登録簿における登録の可能性を維持する、と判示しました。

 商標の有効な使用を検証するためには、その当事者の商業的使用の現実を

示すすべての事実及び状況を考慮する必要があります。その際に着目すべき

は、その商標に係る商品又は役務の市場を認定するために必要な、その商品

Page 145: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

145欧州

イタリア

又は役務が一般に提供される特定の経済分野・部門において正当とされる使

用、商品又は役務の性質、市場の特性、商標の使用の範囲及び頻度です。

 Farmaceutical Dott. Ciccarelli S.p.A. vs. Aboca di Mercati Valentino & C の

有名な事件において、ミラノ裁判所は、当事者の商標の使用が競業者の活動

に経済的な影響を与える潜在的可能性を有していると認められる場合は、た

とえその使用が大きな売上をもたらしておらず、継続的なものでもなく、広

い範囲に及ぶものでもなくても、そのような商標としての使用は取消請求に

耐え得るものであると判示しました。

 本質問における具体的な想定例においては、イタリアの潜在的な顧客が商

標を付した製品を提供するサイトにアクセスすることができるという事実

は、潜在的な顧客がその気になればオンライン注文を行うことができる限り

において、たとえ販売が意図されているに過ぎないものであったり、市場へ

の参入が準備段階にあるものであったとしても、有効な使用の証拠であると

考えなければなりません。

 明らかに、実際にウェブサイトに訪問者があったことを証明できることは、

使用を証明する議論を強化することになるでしょう。

 さらに、イタリア産業財産法第 20.2 条は、商標権者に対し、第三者が商

品若しくは包装にその標識を付すること、そのような商品の販売の申出をす

ること、それらを市場に置くこと又はそのような目的で所持すること、その

標識により識別された役務の提供の申出又は提供をすること、その標識によ

り識別された製品を輸入若しくは輸出すること、及び取引書類若しくは広告

にその標識を使用することを禁止する権利を与えています。

 例えば、ナポリ裁判所は、EU 外に出所を有する商品であって、登録商標

を付したものは、その商品についての単なる販売の申出であっても、商標権

者の同意がなければ、製品が物理的にイタリアに存在するかどうかとは無関

係に、他人の商標に係る権利との関係で不法行為を構成することを確立しま

した。

Page 146: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

146 欧州

イタリア

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 製品の販売についての証拠は、現実的かつ有効な使用の証明を支

える議論の一つを構成します。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 たとえウェブサイトのサーバーが物理的にイタリアに存在しなく

ても、個人がそれにアクセスし、かつ注文をすることが可能になっているこ

とは、使用証明についての適切な要素となります。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 イタリア語の表示は、ウェブサイトがイタリアの消費者を対象と

しているかどうかを評価する上で、重要な要素となります。イタリア語の表

示がないことは、提供される製品及び / 又は役務が、イタリアの消費者に向

けられておらず、イタリアの消費者が入手できないことを自動的に示すもの

ではありません。それは、広告及び販売の申出の表示です。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 この種の広告(すなわち、具体的ではない広告)は、商標権者が

有効かつ現実的な商標の使用を証明できる可能性を減じると言えます。

Page 147: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

147欧州

イタリア

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 このような場合、商標の本質的要素が欠如していることから、有

効かつ現実的な商標の使用を構成する可能性は排除されます。具体的な製品

と商標との結び付き又は関連がみられません。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 ユーロによる表示がないという事実は、それ自体、イタリアにお

ける現実の使用を証明する障害とはなりません。しかしながら、他の要素(例

えば、イタリア語の表示がないこと)との関係では十分となるかもしれませ

ん。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 「格好な」具体的判決は存在しませんが、ローマ裁判所は、米国

のウェブサイトにおける商標の使用に関する事件(かつ、ホストプロバイダ

もサービス・プロバイダもイタリアに住所を有していなかった事例)におい

て、以下の通り宣言しました。

 「インターネット上で商標又はロゴの侵害が生じたかどうかを検討するに

際しては、ウェブページ上に現われた被疑侵害製品のイタリアへの輸入では

なく、むしろ、競合商品・役務に対して当該製品又は役務の有効な「販売の

申出」があったかどうかである。そのような申出は、その国内における広告

キャンペーンの開始、又は取引窓口 / 代理店であって当該製品の販売を企図

しているか、若しくは製品の販売をもたらす手続に従事しているものの存在

によって示される。」

Page 148: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

148 欧州

イタリア

 上記の事例においては、書面による証拠からは、米国のウェブサイト(英

語のみで記載され、価格及び支払うべき税金が米国ドルでのみ表示され、財

務及び保険の実体は米国の事業所にありました。)が、イタリアの消費者が

販売の申出に係る製品を購入できるようになっているとは見えず、その米国

の事業体がイタリア市場に参入するための手続を採ってきたことを決定付け

るものは何もありませんでした。

 同様の判決は、イタリアの消費者が単に閲覧できるにすぎないウェブサイ

トは、イタリアの消費者がそのサイト上で提供されている製品を購入し得る

ための対応能力を欠くため、イタリアにおける不法行為を構成するのに十分

ではない、ということを明らかにしました。

 上記より、言語、提供されている商品・役務の購入の対応能力、その他ウェ

ブサイトのすべての側面が、使用の証明、場合によっては、侵害を認定する

ために重要であると言うことができます。

(原稿受領日 2008 年 3 月 3 日)

Author: Dr. Gabriella D. Modiano Dr. Modiano & Associati SpA Via Meravigli, 16 20123 Milano, Italy Tel: +39-02-8590.7777 Fax: +39-02-863860 Email: [email protected] Website: http://www.modiano.com/

Page 149: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

149欧州

ノルウェー

ノルウェー (Norway)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 ノルウェーにおいては、商標登録は、商品及び / 又は役務について

の特別な標識として当該商標を使用する独占的権利を付与します。当該権利

は、商品自体、包装、広告、取引書類における言語描写又はその他の方法に

よる商標の使用に適用されます。

 登録は、他人が登録商標と混同のおそれのある商標を商標登録に係る指定

商品・役務と同一又は類似の種類の商品・役務に使用することを禁止すると

いう独占的権利を付与します。したがって、商標権を侵害する行為とは、登

録商標の指定商品・役務と同一又は類似の商品・役務に登録商標と同一又は

類似の商標を正当な理由なく他人が使用する行為を言います。よって、「商

標が登録商標と同一又は類似であるかどうか」、「商品又は役務が登録商標の

指定商品又は役務と同一若しくは類似であるかどうか」及び「商標の使用

があったかどうか」の判断は、重要な問題です。さらに、商標の使用は取

引者間の公正な取引についての基準に抵触し得るので、マーケティング法

(Marketing Act)も適用されるかもしれません。

 原則として、真正商品の並行輸入は商標権の侵害を構成しません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 いいえ、ノルウェーにおいてはそのような要件はありません。しか

しながら、継続して 5 年間使用されない場合には、不使用に係る商標は裁

判で争われることになるかもしれず、取り消されるかもしれません。さらに、

使用は損害賠償請求の要件ではありませんが、商標が使用されていなかった

という事実は、当然、実際の損害額を立証することをより困難にするでしょ

Page 150: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

150 欧州

ノルウェー

う。それでも、ノルウェーにおいては、商標が使用されていたか否かにかか

わらず、裁判所が公正なライセンス料と判断する費用に相当する最低限の損

害賠償額を設定する原則があります。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 ノルウェーにおいては、これは個々の事案における評価に従うこと

になるでしょう。題号の使用が CD の取引上の出所表示と判断される場合は、

そのような使用は商標権の侵害となる可能性があります。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 ノルウェーにおいては、これは個々の事案における評価に従うこと

になるでしょう。当該図形又は文字からなる表示の使用が T シャツについ

ての取引上の出所表示と判断される場合は、そのような使用は商標権の侵害

となる可能性があります。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 はい、ノルウェーにおいては、これは原則として侵害となるでしょ

う。商標「ABC」の商標権者は、それがどのように頒布されているかにかか

わらず、ボールペンに当該商標を付する独占的な権利を有するでしょう。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 原則として、文書中において、登録商標に言及することは侵害と判

Page 151: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

151欧州

ノルウェー

断されませんが、答えは使用の具体的な態様によります。当該第三者による

「ABC インクジェットプリンター用のインクジェットプリンターインク」の

表示が「ABC インクジェットプリンターインク」(XX 社の純正製品)との

混同を生じさせるおそれがなければ、上記の表示は商標権侵害とはならない

と考えます。一方、「ABC インクジェットプリンターインク」(XX 社の純正

製品)との混同を生じさせるおそれのある表示又は行為は、商標権侵害とな

るおそれがあると考えられます。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 いいえ、ノルウェーにおいては、そのような要件はありません。ノ

ルウェー特許庁は、そのウェブサイトに以下の情報を掲載しています(筆者

訳文)。

 「Ⓡ又は TM は米国の商標法に由来します。それらは、ノルウェー商標法

において機能しませんが、当該商標の商標権者が当該語又は当該商標につい

て独占権を有するとの主張を示し得ると思われます。ノルウェーにおいては、

これらの表示を使用することは要求されません。しかしながら、もし、ノル

ウェー登録又は他国の登録を有しているのであれば、原則としてⓇを使用す

ることができます。しかしながら、当該記号についての誤認を招く使用は、

ノルウェー商標法の規定及びノルウェー刑法の違反になり得ることにご留意

下さい。」

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 ノルウェーにおいては、そのような請求は裁判所にされなければな

りません。しかしながら、ノルウェー特許庁にそのような請求を審理させる

権限を与えるために、ノルウェー商標法の修正案が、法務省によって作成

Page 152: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

152 欧州

ノルウェー

されつつあります。いずれの場合おいても、第三者は当該商標が継続して 5

年間使用されていなかったことを証明しなければなりません。ノルウェー特

許庁がそのような請求を審理するための手続方法は未だ完成していません。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 登録商標の商標権者がその指定商品及び / 又は指定役務についてそ

の商標と共に広告を行ったときは、常に商標の使用と判断されるでしょう。

ただし、当該商品及び役務がその時点又は近い将来ノルウェーにおいて実際

に販売される場合に限ります。

 インターネット上に広告することは、原則として、雑誌及び新聞に広告す

るのと同様です。

 考慮すべき主要な要素は、常に、当該商標の真正な使用があったかどうか

及びノルウェー市場への商品 / 役務の申出があったかどうかです。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 (回答なし。)

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 サーバーが地理的にどこに設置されているか及び商標権者の国籍

がどこであるかは、上記の 9 において述べた要素が満たされる限り、関係

ありません。

Page 153: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

153欧州

ノルウェー

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 たとえ当該ウェブサイトがノルウェー語で表示されていなくても、

当該広告は当該商標の十分な使用と判断され得るでしょう。ノルウェーの平

均的な消費者は英語の教育を受けており、英語のウェブサイトを理解及び使

用することができるでしょう。

 一般的に、ウェブサイトは、国内ではなく、世界を対象にしています。す

なわち、amazon.com がノルウェー語のウェブサイトを有していなくても、

不使用を理由に amazon.com が取り消されることはあり得ません。

 この問題は、我々が知る限り、ノルウェーの裁判所によって判断されたこ

とはありませんが、他の不使用の事件における判断と同様の判断がなされる

と思われます。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 原則として、商標は登録された商品について使用されなければな

りません。実際の商品への言及のない当該商標の一般的な使用は取消しを回

避するのに十分ではありません。

 しかしながら、上記の事例においては、商標 XYZ が表示されており、か

つこれが特定の万年筆の商標であることが明らかであれば、これは使用と判

断されるでしょう。ただし、当該万年筆がノルウェーおいて又は XX 会社に

連絡することにより購入され得る場合に限られます。

Page 154: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

154 欧州

ノルウェー

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 ウェブサイトの表題又は商品説明が当該万年筆の商標であると消

費者が認識し得る場合は、当該万年筆又はその包装に登録商標が付されてい

なくとも、当該登録商標に係る万年筆の広告と判断し得ると言えますから、

登録商標の使用として十分です。

 しかしながら、URL に登録商標が組み込まれているだけでは、消費者が

指定商品「万年筆」との関係を容易に認識し得るとまでは言えませんから、

登録商標の使用と言えません。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 我国の通貨、すなわちノルウェークローネによる表示がなくても、

米国ドル通貨による表示がなされていれば、ノルウェークローネ通貨への換

算は通常容易です。したがって、我国の通貨の表示がないことを以って直ち

に当該広告が具体的な商品の広告ではないとまでは言えません。具体的な商

品の広告と言えるかどうかは、その他の要素をすべて考慮して総合的に判断

されます。

 本件の事例の場合、ノルウェークローネによる表示がなくても、その他の

要素を考慮すると我国の消費者を対象とした具体的な広告であると判断し得

る余地は十分にあり、登録商標の使用であるとの主張が可能です。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 現在のところ、(我々が知る限り)そのような事例は存在しません。

Page 155: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

155欧州

ノルウェー

(原稿受領日 2008 年 4 月 4 日)

   Author: Mr. Espen Clausen Ms. Anne Clarine Hygen Tandbergs Patentkontor AS Uranienborg Terrasse 19 P.O.Box 7085 M N-0306 Oslo, Norway Tel: +47 2319 9400 Fax: +47 2319 9401 Email: [email protected] Website: http://www.tandbergs.no/

Page 156: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

156 欧州

ポーランド

ポーランド (Poland)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 産業財産法第 296 条によると、次に掲げる商標を市場において違

法に使用する行為は商標権侵害を構成します。(a)指定商品と同一の商品に

ついて使用する登録商標と同一の商標、(b)消費者に誤認を与えるおそれ、

特に登録商標を連想させるおそれがある場合には、指定商品と同一又は類似

の商品について使用する登録商標と同一又は類似の商標、(c)その商標の使

用がその使用をする者に不正な利益をもたらす場合又はその使用が登録商標

の識別性若しくは評判に悪影響を与える場合には、商品の種類を問わず、周

知な登録商標と同一又は類似の商標。産業財産法第 154 条に基づけば、商

標の使用とは以下の行為を言います。(1)商標権に係る商品又はその包装

に商標を付し、それらの販売の申出をし、それらを市場に置き、それらを輸

入若しくは輸出し、又は販売の申出及び市場に置く目的のために貯蔵するこ

と、並びに当該商標の下で役務の申出若しくは提供をすること、(2)市場

に商品を置く際又は役務を提供する際に用いられる取引書類に商標を使用す

ること、(3)広告に商標を使用すること。

 真正商品の並行輸入は、それらの商品が EU 加盟国のいずれかの国におい

て適法に、すなわち、商標権者によって又はその同意を得て市場に置かれた

場合、商標権侵害を構成しません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 ポーランドにおいては、正当な理由なく、継続して 5 年間、商標登

録に係る指定商品又は指定役務について、商標権者によって登録商標が真正

な使用に付されていなければ、当該商標権者は第三者による同一又は類似の

Page 157: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

157欧州

ポーランド

商標の使用を禁止することができません。使用又は商標の不使用について重

大な理由が存在することについての立証責任は、商標権者にあります。

 侵害の場合には、商標権者は、損害賠償を請求するためには、登録商標を

使用していなければなりません。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 いいえ。音楽 CD のジャケット上の題号の表示は、CD に収められ

た音楽を表示するものとして取り扱われるものです。したがって、商標の使

用とは判断されないでしょう。

 一般的に、そのような使用は商標権侵害を構成しません。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 はい。他人の登録商標と同一の図形を T シャツの胸全面に使用する

ことは、当該図形が被服を含む第 25 類の商品を指定商品とする商標として

登録されている場合には、商標権侵害を構成します。

 T シャツの胸全面に文字のみを表示した場合も、それらの文字が被服を含

む第25類の商品を指定商品とする文字商標として登録されている場合には、

他人の商標権の侵害であると判断されるでしょう。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 いいえ。「ボールペン」上に上記のように使用することは、「金融サー

ビス」に関する役務の提供を促進するだけであり、「ボールペン」を指定商

品とする商標登録に係る商標権を侵害しません。

Page 158: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

158 欧州

ポーランド

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 産業財産法第 156 条第 1 項第 3 号によると、商標権者は、意図さ

れた製品の用途、特に予備品、付属品又は役務の用途を表示するために必要

な場合に、第三者が登録商標と同一又は類似の商標を使用することを禁止す

る権利を付与されていません。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 産業財産法第 151 条によると、商標権者は、登録商標にⓇを付す

ることによって当該商標が登録されたものであることを表示することができ

ます。商標権者によるそのような表示は義務ではなく、商標権行使の要件で

もありません。しかし、商標の希釈化を防ぐために、そのような表示を使用

することは望ましいことです。

 反対に、当該商標が登録されていると誤認させる表示を商品に付する者は、

罰金に処せられます。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用

Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 当該商標が、ポーランドおいて、正当な理由なく、5 年間、当該商

標登録に係る指定商品又は指定役務について真正な使用に付されていない場

合、法律上の利害関係を有する者の請求により、商標権者の権利は取消しを

宣言されます。不使用に基づく取消しの手続が開始された場合、当該商標が

使用されていたこと、又は当該商標の不使用について重大な理由が存在する

Page 159: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

159欧州

ポーランド

ことの立証責任は商標権者にあります。第 169 条第 4 項によれば、「商標の

使用とは、以下の標章の使用も含む。」とされています。

 - 登録された態様における商標の識別性に影響を与えることのない要素

を変更する態様での使用

 - 輸出のみを目的として商品又はその包装に商標を付することによる使用

 - 商標権者の同意を得た第三者による使用

 ポーランドの市場で入手できない又は製造されていない輸出用の製品に係

る広告のみにおける使用は、真正な使用を構成しません。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 上記の事例において、当該ウェブサイトにポーランドにおける当該商

品の販売業者の住所も表示されているのであれば、当該広告は商標の真正な使

用と判断されます。以下の要素は、商標権者のウェブサイトに掲載された広告

がポーランドにおける登録商標の使用として認識されるために重要です。

 - 当該ウェブサイトのアドレスがポーランドのドメインネーム、すなわ

ち、「.pl」によるものであること

 - 当該ウェブサイトが我国の言語、すなわち、ポーランド語で表示され

ていること

 - 価格が PLN(ポーランドズロティ)によって表示されていること

 - 当該ウェブサイト上に示された連絡先番号及び注文先がポーランドに

存在していること

 当該ウェブサイトへのアクセス数が一定数を超えることを証明する必要は

ありません。

Page 160: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

160 欧州

ポーランド

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 該当しません。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 当該ウェブサイトのサーバーがポーランドに置かれていなくても、

ポーランドの消費者によるアクセスが可能であり、当該広告がポーランド語

で表示されており、価格がポーランドの通貨で表示されており、ポーランド

における連絡先が表示されているのであれば、当該広告はポーランドにおけ

る登録商標の真正な使用を構成するとの議論の余地があります。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場合はどうですか。

A.12 登録商標は、ポーランドで使用されなければなりません。ポーラ

ンド語による表示がない場合には、当該広告はポーランドの消費者を対象と

した広告とは判断されず、登録商標の使用として十分ではないでしょう。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場合はどうですか。  ・登録商標「XYZ」  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 産業財産法に基づけば、登録商標を表示する広告が商標の真正な

使用として認識されるためには、当該広告は商標登録に係る指定商品であっ

て、ポーランド市場に投入されたものに関するものでなければなりません。

 上記に提示された商標の使用は、ポーランドにおける登録商標の十分な使

用とは判断されないでしょう。

Page 161: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

161欧州

ポーランド

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれているのみである場合はどうですか。

A.14 ポーランド法は、商標の使用とは、とりわけ商標登録に係る指定

商品又はその包装に商標を付することであると明示的に定義しているので、

ウェブサイトにおける表題又は商品説明のみに商標を使用することは登録商

標の真正な使用と判断されないおそれがあります。

 URL に登録商標が組み込まれているだけでは、そのような使用は登録商

標の十分な使用とはならないでしょう。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 ポーランドにおいては、公式通貨は PLN(ポーランドズロティ)

です。広告が掲載されたウェブサイト上にポーランド通貨による表示がない

場合には、当該広告はポーランドの消費者に向けられた広告としては扱われ

ず、その結果、当該広告は登録商標の使用と判断するに十分ではありません。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 残念なことに、ウェブサイト上での使用の問題に関する不使用事件

について、ポーランド特許庁又は裁判所の審判決は現在のところありません。

(原稿受領日 2008 年 6 月 30 日)

Author: Ms. Anna Stopinska-Slefarska Polservice Patent and Trademark Attorneys Office P.O. Box 335 00 - 950, Warsaw, Poland Tel: + 48 22 44 74 600 Fax: + 48 22 44 74 666 Email: [email protected] Website: http://www.polservice.com.pl/

Page 162: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

162 欧州

ポルトガル

ポルトガル (Portugal)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 ポルトガルにおいては、商標権は、(1)指定商品又は指定役務につ

いての登録商標の独占的な使用をもたらし、(2)他人が、登録商標と同一

又は類似の商標を商標登録に係る指定商品・指定役務と同一又は類似の商品

又は役務について使用することを禁止します。

 したがって、商標権の侵害とは、他人が、登録商標と同一又は類似の商標

を商標登録に係る指定商品・指定役務と同一又は類似の商品・役務について

使用する行為を言います。よって、「商標が登録商標と同一又は類似である

かどうか」及び「商品・役務が商標登録に係る指定商品・指定役務と同一又

は類似であるかどうか」についての判断が重要な問題となります。

 真正商品の並行輸入は商標権の侵害を構成しません。ただし、ポルトガル

産業財産法の第 259 条にしたがって、真正商品に当該商標を使用すること

についての同意が EU 加盟国内の商標権者によって与えられている場合に限

られます。この条項は、欧州における権利消尽の原則を規定したものです。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 ポルトガルにおいては、登録日から起算して 5 年を経過すると、登

録商標は不使用による取消しの対象となります。

 しかしながら、商標権者が登録商標を使用していることは、商標権者が商

標権を行使するための要件ではありません。

 商標権者が登録商標を使用していない場合であっても、商標権者は商標権

を侵害した者に対して商標権を行使することができます。言い換えれば、ポ

ルトガルは「登録主義国」であり、「使用主義国」ではないということであり、

Page 163: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

163欧州

ポルトガル

商標権は登録によって発生します。したがって、商標権者は、登録商標を使

用していない場合であっても商標権を行使することができます。

 しかしながら、商標権者が常に考慮しておくべき重大なリスクがあります。

実際、相手方は、登録商標(登録から既に 5 年が経過したもの)が使用さ

れていないことを知った場合、反訴によって、不使用に基づく取消しを請求

する可能性があるということです。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 はい、そのような使用は商標権侵害と判断される可能性があります。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 はい、そのような使用は、図形でも文字でも、商標権侵害と判断さ

れる可能性があります。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 いいえ、そのような使用は、「ボールペン」についてではなく、「金

融サービス」についての商標の使用です。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 はい、商標権者からの許可が必要です。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 ポルトガルにおいては、商標が登録商標であることの表示は任意で

Page 164: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

164 欧州

ポルトガル

あり、商標権行使の要件ではありません。

 ポルトガル産業財産法第 257 条に従って、登録商標は「Marca registada」

の語、「M.R.」の文字又はⓇの記号で表示することが可能です。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消される要件を説明して下さい。

A.8 ポルトガルにおいては、ポルトガル産業財産法第 269 条及び第

270 条並びにポルトガル産業財産法実施規則第 64 規則に、その要件が明示

されています。第三者によって不使用に基づく商標登録の取消しが請求され

た場合、商標権者が以下のことを証明しない限り、当該登録商標は取り消さ

れます。

 (ⅰ)その取消請求前 5 年以内に、

 (ⅱ)ポルトガルにおいて、

 (ⅲ)商標権者又は使用権者(排他的又は非排他的)のいずれかが、

 (ⅳ)その請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについて、

 (ⅴ)登録商標を使用していること

 ただし、その指定商品又は指定役務についてその登録商標の使用をしてい

ないことについて正当な理由があることを商標権者(被請求人)が証明した

ときには、この限りではありません(ポルトガル産業財産法第 269 条№1)。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国において当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 指定商品との関係で登録商標が使用されている広告はインターネッ

トによるものであっても、我国において登録商標の使用と判断されます(ポ

ルトガル産業財産法実施規則第 64 規則)。ただし、当該条項に該当する広

Page 165: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

165欧州

ポルトガル

告であると言うためには、現実に提供し得る具体的な商品についての広告で

なければなりません。

 前記事例を検討しますと、製品の仕様、価格、注文方法等が掲載されてお

り、XX 社は実際に自国において万年筆の事業を行っていることが認められ

ますから、前記事例の広告は具体的な商品を対象としたものであると判断し

得ると言えます。したがって、そのような広告であっても登録商標の使用を

証明するのに十分であるとの議論の余地があります。しかしながら、我々の

過去の経験に照らせば、他の証拠を提出すること、すなわち、販売がポルト

ガルにおいて行われたことを示す実際の証拠、例えば、製品そのもの、包装、

写真、下げ札、インボイス、領収書、又はこれらに類する取引書類を提出す

ることが望ましいと考えます。

 アクセス数の証明は必須ではありませんが、前記広告が広告として機能し

ていることを証明するために、相当数のアクセスがあったことを証明できる

ことが望ましいです。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 (回答なし。)

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 当該ウェブサイトのサーバーが我国に置かれていなくとも、前記

事例の広告はポルトガル語による表示がなされ、我国の通貨での表示もなさ

れていることから、我国の消費者を対象とした広告と判断し得ると言えます。

したがって、当該広告は登録商標の使用として十分であるとする余地はあり

ます。

Page 166: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

166 欧州

ポルトガル

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場合はどうですか。

A.12 ポルトガル語による表示がない場合でも、英語による表示があれ

ば、ポルトガルに在住する外国人消費者向けの広告と判断し得ると言えます。

したがって、当該広告は登録商標の使用として十分です。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場合はどうですか。  ・登録商標「XYZ」  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 我国においては、登録商標の使用と言えるための広告は具体的な

商品を対象としたものでなければなりませんから、このような広告だけでは

登録商標の使用とはいえません。

 しかしながら、この事例では、XX 社が自国において実際に各種万年筆の

製造又は販売を行っている事情を考慮する必要があります。そうすると、こ

の広告に接した消費者は、XX 社が万年筆を取り扱う会社であることを知る

こができ、かつ、具体的な取り扱い商品を XX 社に問い合わせることも可能

であることから、この広告は XX 社の万年筆の販売促進的機能を果たしてい

ると判断し得ると言えます。したがって、このような広告でも登録商標の十

分な使用であるとする余地はあります。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれているのみである場合はどうですか。

A.14 ウェブサイトの表題又は商品説明が当該万年筆の商標であると消

費者が認識し得る場合は、当該万年筆又はその包装に登録商標が付されてい

なくとも、そのような表題又は説明は当該登録商標に係る万年筆の広告と判

Page 167: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

167欧州

ポルトガル

断し得ると言えます。したがって、登録商標の使用として十分です。

 しかし、URL に登録商標が組み込まれているだけでは、消費者が指定商

品「万年筆」との関係を容易に認識し得るとまでは言えませんから、登録商

標の使用と言えません。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 我国の通貨、ユーロによる表示がなくても、米国ドル通貨による

表示がなされていれば、ユーロへの換算は通常容易です。したがって、我国

の通貨の表示がないことを以って直ちに当該広告が具体的な商品の広告では

ないとまでは言えません。具体的な商品の広告と言えるかどうかは、その他

の要素をすべて考慮して総合的に判断されます。

 本件の事例の場合、ユーロによる表示がなくても、その他の要素を考慮す

ると我国の消費者を対象とした具体的な広告であると判断し得る余地は十分

にあり、登録商標の使用であるとの主張が可能です。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 この件に関する判決例は知りません。ポルトガル特許商標庁の決

定に関しては、ポルトガルの審査官は前記A.8で述べた基準に従います。

したがって、我々が本件に関する審決を知らないとしても、異なる基準に従

う理由はないものと考えます。

(原稿受領日 2008 年 3 月 13 日)

Author: Mr. Goncalo Paiva e Sousa J. E. Dias Costa, LDA. Rua Do Salitre, 195 P-1269-063 Lisboa, Portugal Tel: +351 213 841 300 Fax: +351 213 875 775 Email: [email protected] Website: http://www.jedc.pt/

Page 168: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

168 欧州

ルーマニア

ルーマニア (Romania)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 ルーマニアの制定法は、並行輸入についての規定を設けていません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 商標権者が登録商標を使用していることは商標権に基づく差止請求

権の行使の要件ではありませんが、損害賠償請求権の行使の要件となります。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 登録商標との連想のおそれがないため、これが侵害と判断されるこ

とはあり得ません。それ以上に、題号における言葉は CD に記録された音楽

の種類について記述的である可能性があります。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 はい。両方とも侵害であると判断される可能性があります。商標権

者は、管轄権を有する裁判所に対して、何人であれ、取引過程において、商

標権者の同意を得ずに、商標登録に係る指定商品・役務と同一の商品・役務

に登録商標と同一の標識を使用することを禁止するよう請求することができ

ます。

 その商標が付された商品又は役務の品質について公衆に誤認を与えること

を意図して商標を模造すること又は不法に使用すること、及び同一又は類似

の製品に係る登録商標と同一又は類似の商標の下で製品を不法に販売し商標

Page 169: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

169欧州

ルーマニア

権者に害をもたらすことも侵害であると判断されます。

 T シャツがマーケティングに使用されているか又は正当な商標権者の真正

商品として販売されている可能性があるため、上記の事例は明らかに侵害で

あると判断される可能性があります。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 その製品名を付したペンが市場から得られたと仮定すると、本事案

は侵害ではありません。金融サービスの提供者の名称も ABC であると仮定

すると、その者は、ペンについて商標権を有する商標権者の権利を侵害する

ことなく、ペンに自己の名称を付すことができます。なぜなら、消費者は

ABC の名称からその金融サービスの提供者を連想するからです。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 はい、それは侵害であると判断されます。なぜなら、その商標が付

された商品又は役務の品質について公衆に誤認を与えることを意図して商標

を不法に使用する行為、及び同一又は類似の製品に係る登録商標と同一又は

類似の商標の下で製品を不法に販売し商標権者に害をもたらす行為に該当す

ると判断され得るからです。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 いいえ。

Page 170: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

170 欧州

ルーマニア

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用

Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 ルーマニア商標法は、商標権者がその商標を使用する義務について

特別の規定を設けました。旧商標法第 28/1967 号は、この点について何の

規定も設けていませんでした。このため、商標の取消しという制裁は、新法

が効力を発してから 5 年後にのみ裁判所によって適用されます。これは、ルー

マニアにおいては、最初の取消請求は 2003 年 7 月 23 日を過ぎてからなさ

れることを意味します。

 ルーマニアの規定によれば、商標登録は、ルーマニア領域内において、商

標登録に係る指定商品又は指定役務について、5 年間継続して、その商標が

真正な使用に付されなかった場合に取り消されます。ただし、不使用につい

て正当な理由が存在する場合はこの限りではありません。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 商標権者の利益のために効力を生ずる「使用」の種類に関して、法は、

実際に「有効な使用」又は「真正な使用」が何を意味するかについて定義し

ていません。

 商標の基本的な定義 - 自然人又は法人の商品若しくは役務と他の自然

人又は法人のそれらとを識別する役割を果たす、写実的な表現が可能な標識

 - に照らして、「有効な使用」の意味が確立されます。

 使用は、商標の機能を発揮する目的でなされなければなりません。すなわ

ち、使用は商標が出所表示となるものでなければなりません。このため、裁

Page 171: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

171欧州

ルーマニア

判所は商標が使用される理由を確立すべきです。

 結論として、商標の真正な使用は、明確かつ説得力のある証拠によって証

明されるべき事実の問題です。

 インターネット上においてなされる広告は起こるとも起こらないとも言え

る将来的かつ不確実な出来事を意味するため、また、インターネット上の広

告は特定の領域に対して積極的なものではないと判断されるため、裁判官は、

このような広告は有効又は真正な使用を証明する妥当な理由にはならないと

判断する可能性があります。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 ルーマニア法の別の規定は、商標権者の同意を得てなされる他人

による商標の使用は商標の有効な使用とする旨を規定しています。

 しかしながら、商標の使用は、公衆がその商標によってその商標権者を特

定することを可能ならしめるのに十分なものでなければなりません。商標の

量的な使用を確認するための最も適切な方法は、販売額を評価することです。

また、販売方法も非常に重要です。問題の商標を付した商品の販売の量が非

常に大きいとしても、その販売が継続的にされていなければ真正な使用と判

断され得ないと言えます。一般的に、商標の使用は真摯なものでなければな

らず、したがって、使用は「散発的、偶発的又は一時的ではなく、計画的か

つ継続的」なものでなければなりません。使用は、一般的には、販売額、金

額又はその他の量的測定方法によって評価されます。

 また、商標の使用の質的な評価方法には、その使用が商業的になされてい

るか又は単に商標権を維持するためになされているかどうかについての事実

の評価があります。

 この点について、「使用」は、通常の商取引において、公然となされなけ

ればなりません。裁判所は、製品は通常の商業的取引の下で販売されなけれ

Page 172: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

172 欧州

ルーマニア

ばならないと判示しました。これは、製品がどこででも入手できるものでな

ければならないことを意味するものではありません。製品が何らかの専門店

で販売されることでも十分です。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 この質問は関係なくなります(質問 10 における我々のコメント

をご参照下さい。)。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 この質問も関係なくなります。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 この質問も関係なくなります。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 この質問も関係なくなります。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 この質問も関係なくなります。

Page 173: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

173欧州

ルーマニアQ.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 ルーマニアにおけるそのような事例は知りません。

(原稿受領日 2008 年 4 月 11 日)

Author: Ms. Denisa Markusev Rominvent S.A. 35, E.Pangratti St., 1st Floor Sector 1, Bucharest, Romania Tel: +40 21 231.2382 Fax: +40 21 231.2550 Email: [email protected] Website: http://www.rominvent.ro/

Page 174: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

174 欧州

ロシア

ロシア (Russia)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 ロシアでは、自己の名義で商標が登録された者(商標権者)は、法

に反しない方法による商標の使用について独占的権利を有します(商標に対

する独占権)。何人も、商標権者の同意がなければ、その使用が混同のおそ

れをもたらす場合には、商標登録に係る指定商品・役務又はそれに類似する

商品・役務についてその商標に類似する表示を使用する権利を有しません。

 法は、商標権者の支配の及ぶ商標の使用態様を限定的に規定しています。

すなわち、以下の使用態様です。(1)製造、販売の申出、販売、展示会及

び博覧会への展示、その他ロシア連邦の領域内の取引への導入、又はその目

的での保管若しくは輸送、又はロシア連邦の領域への輸入、に係る商品(商

品のラベル及び包装を含む。)への使用、(2)取引の履行又は役務の提供の

過程における使用、(3)取引への商品の導入に関する書類における使用、(4)

商品の販売、取引の履行、役務の提供の申出、並びに看板及び広告の告知に

おける使用、(5)インターネット(ドメイン名、その他アドレスを含む。)

における使用。

 したがって、登録商標と同一又は類似の標識の使用行為は、商品又は役務

に関する如何なる態様であっても、その商品・役務が商標登録に係る指定商

品・役務と同一又は類似であり、そのような使用が混同のおそれをもたらす

ことを条件に、商標権侵害を構成します。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 ロシア商標法は、商標権者がその独占権を行使するために登録商標

が使用されていることを要件としません。

Page 175: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

175欧州

ロシア

 しかしながら、商標権者の行為が他人(被告)を害する意図で排他的に行

われたと判断されるような場合は、裁判所は商標権者の権利を守ることを拒

否することがあり得ます。例えば、商標権者が商標の使用も使用許諾もして

いない場合には、裁判所は損害賠償の請求を拒絶する可能性があります。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 原則として、答えは「いいえ。」です。なぜなら、CD 上に音楽の楽

曲の題号を表示することは、商品の個性化の手段としての使用とは認識され

ないので、商標「LOVE」の不正な使用とは認められないからです。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 答えは、その商標が登録されている商品によります。その商標が国

際分類第 25 類の商品(T シャツを含む。)について登録されていれば、T シャ

ツにその商標と同一の図形を表示することは、商標権侵害として認められる

可能性が非常に高いです。そうでなければ、裁判所は、商品の類似性の問題

と混同のおそれを評価すべきです。

 商標に係る図形の独創性と認知度も考慮されるべきです。その図形が独創

性と認識度のあるものであればあるほど、商標権侵害、又は場合によっては

不正競争と認められる可能性が高まります。

 上記は、文字から構成される表示についても該当します。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 原則として、答えは「いいえ。」です。この設問例は、おそらく、

その登録商標と同一の標識が非類似の役務(金融サービス)に使用されてい

ると判断されるでしょう。すなわち、ボールペンは、商品というよりむしろ

Page 176: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

176 欧州

ロシア

単に標識の表示媒体にすぎないと判断されるでしょう。

 しかしながら、その商標が高い評判を有している場合、裁判所(又は独占

禁止政策担当局)は、この事案を不正競争と認めるか、又は金融サービスが

ボールペンに類似すると認める可能性すらあります(ある事案では、裁判所

は、「スナック菓子」が「ビール」と類似すると判断しました)。

 裁判所は、また、金融サービスを提供する者は、そのフリーギフトに「ABC」

の標識を使用する十分な理由を有しているかどうかも調べる可能性がありま

す。その金融サービス提供会社が、その商標が登録される前から、その企業

名に「ABC」を使用していた場合には、裁判所はそのような使用は「フェア

ユース」であると認める可能性が高いと思われます。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 答えは、使用の具体的な態様によります。第三者の「ABC インクジェッ

トプリンター用のインクジェットプリンターインク」が ABC インクジェッ

トプリンターインク(XX 社の純正製品)と混同を生じさせないならば、お

そらく上記の表示は商標権の侵害を構成しないでしょう。反対に、ABC イ

ンクジェットプリンターインク(XX 社の純正製品)と混同を生じさせるよ

うな如何なる表示又は行為も商標権の侵害を構成するおそれがあります。

 Volkswagen の 自 動 車 も 扱 う 自 動 車 サ ー ビ ス 会 社 の 広 告 に お け る

Volkswagen の商標 -「VW」- の使用は、商標権侵害に当たらないと裁判所

が判決を下した事案があります。そのサービス会社の実名が表示されており、

「VW」の標識が広告の支配的な要素を占めるものではなかったので、混同

のおそれは存在しなかったとしたものです。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 ロシア商標法は、商標権者の裁量で、使用される標識がロシア連邦

Page 177: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

177欧州

ロシア

にける登録商標であることを示す警告表示-「R」の文字、円で囲んだ「R」

(Ⓡ)、「商標」又は「登録商標」という文字標識-を商標に付することがで

きると規定しています。

 侵害行為による損害を回復する商標権者の権利は、警告表示が対象製品に

付されていたか否かの事実には依拠しません。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用

Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消される要件を説明して下さい。

A.8 ロシアでは、登録後 3 年間の商標の不使用は、その期間後に、利害

関係人による取消請求をもたらします。不使用による取消しの目的上、商標

の使用とは、商標権者若しくはライセンシー、又は商標権者の管理下でその

商標を使用する者による使用を意味します。ただし、その商標の使用が商品

又は役務の取引の過程で行われる場合に限られます。また、要素の点で異な

るが商標の識別性に影響を与えない態様での商標の使用は、登録商標の使用

として認められます。

 商標の使用の立証責任は商標権者にあります。商標の使用の障害となる、

商標権者の支配の及ばない事情は、不使用の正当な理由として認められる可

能性があります。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国において当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 我国には、電子商取引を規律する法律はまだありません。また、ロ

シアにおける国境を越えた電子商取引についての実務例も多くはありませ

ん。

Page 178: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

178 欧州

ロシア

 我々は、質問の事案に類似する事例を知りません。

 WIPO の一般総会で採択されたインターネット上の標章及びその他の標識

に係る工業所有権の保護に関する共同勧告(2001 年)を考慮すれば、イン

ターネット上の商標の使用が、商標登録の維持の目的上、我国おける使用を

構成するためには、我国における商業的効果が立証されなければなりません。

 所轄官庁(特許紛争評議会又は裁判所)は、インターネット上の商標の使

用が我国における商業的効果を有するかどうかの判断に関連すると認められ

る要因をまだ定めていません。

 商標の使用の有効な証拠となる広告は、インターネット上の広告を含めて、

その商標が、商標権者又は商標権者の支配下にある者によって、我国の市場

で販売される商品又は役務に付されていることを証明するものでなければな

りません。

 設問で述べられた事実は、商標の正当な使用とはほぼ認められないと思い

ます。なぜなら、その広告で提供される取引の遂行の場所は、我国ではなく、

また広告される製品がロシアで販売されたものとも認められないからです。

 また、我国の所轄官庁(特許紛争評議会又は裁判所)が、(国内の会社の)

ウェブサイトからのプリントアウトを商標の使用の証拠として認めなかった

不使用取消しの事案があります。すなわち、そのプリントアウトは、ウェブ

サイト上で広告された商品が商標権者のものであることを証明するものでは

ないとしたものです。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 製品の個人輸入は、その製品が国内市場で販売されたものである

ことを証明するものではないので、そのような輸入の事実は、その商標が我

国で使用されたことの証拠とはなりません。

Page 179: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

179欧州

ロシア

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 電子商取引を管理する法律がないので、サーバーの置かれた場所

が、我国における商標の使用の証拠としてのウェブサイト上の広告の検討に

関連するかどうかを推測するのは難しいことです。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場合はどうですか。

A.12 広告に関する法律は、広告はロシア語で表示されなければならな

い旨を規定しています。しかしながら、取引を規律する法律は、商品及び役

務がロシアで販売されているかどうかの問題の審査における、商品又は役務

(又はその申出)の広告の言語についての重要性を何ら規定していません。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場合はどうですか。  ・登録商標「XYZ」  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 当該広告の対象が商品ではなく、むしろ会社又は商標であるので、

上記の状況は、「万年筆」についての商標の正当な使用とは認められにくい

と思われます。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれているのみである場合はどうですか。

A.14 たとえ商標が万年筆又はその包装箱に付されていないとしても、

その商標がウェブサイト上の記載事項において、その表題又は商品説明に使

用されている場合、そのような使用はなお万年筆の広告として認められます。

Page 180: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

180 欧州

ロシア

しかしながら、質問 9 に対する回答で説明したように、そのような使用は

ロシア連邦領域での商標の使用としてはほぼ認められません。商標が URL

にのみ組み込まれている場合も同様です。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 我国の通貨、すなわちロシア・ルーブルでの価格の表示がないこ

とは、上記広告が真に特定の商品の広告であるかどうかを決定する実質的な

要因にはなりません。重要なことは、消費者がその表示を、例えば商品の型

の表示ではなく、商品の価格として認識することです。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 我々は、商標の不使用がウェブサイト上の使用の問題に関して争

われた事例を発見できませんでした。しかしながら、2008 年以前、商標法

は、不使用取消しを求められた場合には、商品又はその包装への商標の使用

のみが考慮されるべきと規定していたことに注目して頂く必要があります。

2008 年 1 月 1 日に施行された新法は、登録維持の目的における、商標の使

用として認められる使用の態様の問題についてより寛大になっています。

(原稿受領日 2008 年 2 月 29 日)

Author: Mr. Nikolay Bogdanov Law Firm "Gorodissky & Partners" Ltd. Bolshaya Spasskaya Str. 25 stroenie 3, Moscow 129090, Russia Tel: +7 495 937 6116 Fax: +7 495 937 6104 Email: [email protected] Website: http://www.gorodissky.com/

Page 181: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

181欧州

スペイン

スペイン (Spain)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 スペインにおいては、商標権はスペイン商標法(1998 年 7 月 31 日)

に定められた規定にしたがって有効に行われた当該商標の登録によって獲得

されます。

 この登録は、以下の権利を生じさせます。(1)取引過程において、商標

登録に係る指定商品又は指定役務に当該商標を使用する独占的権利。(2)

第三者が取引過程において、商標権者の同意を得ずに、以下の標識を使用す

ることを禁止する権利。:登録商標と同一の標識であって、同一の商品・役

務に使用するもの。;登録商標と同一又は類似の標識であって、同一又は類

似の商品・役務に使用する場合において、公衆に混同を生じさせるそれがあ

るもの。;登録商標と同一又は類似の標識であって、商標登録に係る指定商品・

指定役務と非類似の商品・役務に使用するもの。ただし、当該登録商標がス

ペインにおいて周知性又は評判を有しており、かつ、その標識の使用が商標

権者との関係を示唆し得る場合、又は一般的にその使用が当該登録商標の識

別性、周知性若しくは評判を不正に利用又は害する場合に限られます。

 商標権に関しては、「商標権の消尽」として知られる確立した原則がスペ

インにはあります。この原則によれば、商標の登録によって付与される権利

は、第三者が、商標権者により又はその同意を得て欧州経済地域において取

引される製品について、当該商標を使用することを、商標権者が禁止するこ

とを許容しません。その結果、欧州経済地域外の諸国からスペインに入って

くる真正商品の並行輸入は、商標権者に与えられた権利の侵害を構成します

が、当該経済地域の加盟国から輸入される製品は侵害を構成しません。

Page 182: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

182 欧州

スペイン

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 スペインにおいては、取消しの制裁の下、登録商標を使用すること

は義務ですが、第三者に対して商標権侵害訴訟を提起するために、商標の使

用を証明する必要はありません。

 それにもかかわらず、第三者が訴訟を受けた際に、当該商標が登録後 5

年を経過している場合は、当該第三者は原告に対して、当該商標が商標登

録に係る指定商品又は指定役務(請求に係る商品又は役務)について、取消

請求日前 5 年以内に、現実かつ有効な使用に付されていたこと、又は不使

用について正当な理由が存在することを証明するよう請求することができま

す。

 また、商標の使用は、第三者による侵害の結果生じた損害の請求について

も必要不可欠ではありません。なぜなら、法は、証拠を全く提出せずとも、

不法に商標が付された商品又は役務の下で創出された売上高の1%を損害賠

償の額として請求することができると規定しているからです。また、商標権

者がより大きな損害を被った場合は、より高い損害額を請求することができ

ます。その場合は、被った損害額の証拠を提出しなければならず、侵害され

た商標を商標権者が使用していたことが不可欠となります。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 理論上は、「いいえ」です。普通に使用される語である LOVE の使

用が行われた状況次第です。CD の題号としての使用は、正当化され得ると

言えます。

 とにかく、芸術(音楽)著作物の題号としての包装への使用と商標として

の製品又は包装への使用とは異なる使用を構成し、侵害は生じないでしょう。

Page 183: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

183欧州

スペイン

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 当該図形の使用が行われた態様及びその商標の識別力の程度次第で

す。また、その商標が「被服」について登録されているかどうか次第でしょ

う。なぜなら、そうでなければ、評判を有する商標は別として、特殊性の原

則(the principal of specialty)が適用されるからです。

 いずれにせよ、その商標が第 25 類で登録されており、その図形が装飾的

な要素として T シャツに使用されたのであれば、その商標は確かに侵害さ

れたと判断し得ると思われます。

 T シャツに言葉が表示されており、その言葉が登録商標を構成する場合も、

侵害行為が起こり得ると考えます。ただし、その言葉が、その有する意味の

ために、普通の使用と判断され得ない限りにおいてです。普通の使用と判断

され得る場合は、その表示は正当化され、その商標が侵害されたとは判断さ

れないでしょう。

 したがって、理論上は確かに侵害行為が存在すると思われますが、具体的

な個々の事案毎に考察しなければならないでしょう。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 たとえ、その広告を行っている金融サービス会社が、他人が所有す

る「ボールペン」に係る商標と同一の商標(ABC)を所有しているとしても、

当該金融サービス会社によるその使用が単に金融サービスの宣伝目的である

という事実にかかわらず、侵害行為が存在し得ると考えます。ただし、この

見解は、具体的な個々の事案によって異なるでしょう。

Page 184: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

184 欧州

スペイン

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 いいえ。なぜなら、スペイン商標法第 37 条は、「商標権の制限」に

関して、商標権は、その使用が工業上又は商業上、公正な慣行にしたがって

なされ、かつその使用が製品又は役務の用途、特に附属品又は予備部品の用

途を表示するために必要な場合に、第三者がその商標を取引過程において使

用することを禁止する権利を付与するものではない、と規定しているからで

す。

 工業上又は商業上の公正な慣行について言及することにより、法は、個々

の具体的な事案についての分析を課しています。ただし、本件の質問に対す

る一般的な回答としては、他人による当該商標の使用は、前記の第 37 条に

記載の条件に合致する限り、適法と判断され得ると思われます。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 いいえ。スペイン法は、この点に関して、何ら規則を設けていません。

Ⓡの記号の使用は、著作権に関して使用されるⒸの記号と同様に、市場にお

いてその商標が広く尊重されるという利益をもたらすと共に、第三者に対し

て、保護されなければならない権利の存在を単に警告する役割を果たすに過

ぎません。これにより、第三者は、その商標が登録商標であるという事実に

ついて不知であったという主張はできなくなります。しかし、とりわけ重要

なのは、対象の商標の有効性を維持するという視点です。

 実際、登録商標の侵害に対して刑事上の手段を講じる場合において、侵害

者の有罪を証明しようとする場合、他人の商標を使用したという客観的事実

の存在に加えて、不誠実又は犯罪を犯す意図のように、主観的性質を有する

他の要因も存在していなければなりません。その場合、その商標が常にⓇの

記号を伴って使用されていれば、侵害者はその商標の登録の不知を以って不

Page 185: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

185欧州

スペイン

誠実又は犯罪意図を抗うことはできません。

 さらに、その商標が市場において製品又は役務を特定する普通の方法とな

りつつある場合は、そのような記号の使用は、希釈化のおそれに対する対抗

手段としての役割を果たし得ることも明らかです。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消される要件を説明して下さい。

A.8 スペイン商標法第 39 条は、その登録の公告の日から 5 年の期間内に、

スペインにおいて、その商標登録に係る指定商品又は指定役務について、そ

の商標が現実かつ有効な使用に付されていない場合、又はそのような使用が

継続して 5 年間中断している場合は、裁判所によって宣言される取消しの

制裁の対象となる旨を規定しています。ただし、不使用について正当な理由

が存在する場合は、この限りではありません。

 第三者が商標の不使用に対して取消請求をした場合、第 39 条に定められ

ている条件の下でその商標が使用されたこと、又は不使用についての正当理

由の存在を証明することは、商標権者の責任です。

 使用を証明する目的上、次の行為は使用を構成します。

 - 登録商標の識別性に著しい影響を与えない要素部分において、差異を

有する商標の使用

 - スペインにおいて、輸出のみを目的とする商品若しくは役務又はその

包装に当該商標を付することによる使用

 - 当該商標が商標権者の同意(ライセンス)を得て第三者によって使用

される場合、当該商標は商標権者によって使用されたものとされます。

 - 商標登録に係る指定商品又は指定役務に課せられた輸入制限又はその

他当局の要件等、商標権者の意思を超えて障害となる事情は,商標の不使用

の正当理由として認められるものとされます。

Page 186: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

186 欧州

スペイン

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国において当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 スペインにおいては、すべての商標に対して、商標登録に係る指定

商品又は指定役務について現実的かつ有効な使用が要求されます。本件の事

例においては、現実的かつ有効な使用と認められるためには、スペインの市

場において製品又は役務の申出が有効になされていること、及び有効な販売

があったことが必要とされます。

 理論上、ウェブサイトにおける単なる広告としての商標の使用が登録商標

の現実的かつ有効な使用と判断される可能性はないように思われます。前述

したように、現実の使用に付されるべき猶予期間として、当該登録の公告の

日から 5 年の期間がありますので、その登録が 5 年以上前に登録されたこ

とを前提とします。

 商標の使用についての判断の問題に関しては、すべての関連性を有する要

因及び状況について、評価がされなければなりません。この点に関して、当

該登録が 5 年以上前に公告されたことが十分に考慮されなければなりませ

ん。

 前掲の広告を分析すると、オンラインによる製品の販売の申出の存在を認

めることができますが、それはインターネットという世界的なネットワーク

を通じてなされるものです。それは、使用証明上、証明に役立ち得る、スペ

インの市場における一つの態様ですが、後に商業上の取引の存在も証明され

る場合に限ります。

 インターネットにおいて、別言すれば、世界的規模で、製品の販売の申出

がなされ、当該ウェブサイトにスペインが含まれているという事実は、証明

に係る使用を検討する目的上、スペインの市場において商標が存在している

ことの証拠をある程度構成し得ると言えます。

Page 187: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

187欧州

スペイン

 スペイン法が、輸出のみを目的とする製品若しくは役務又はその包装に商

標が付されている場合はスペインにおいて商標が使用されているものとする

旨規定している以上、たとえ意図された使用がインターネットを通じてなさ

れているとしても、我国の国内での有効な販売を証明することができなけれ

ば、スペインにおいて商標が使用されていると判断することはできないと考

えます。したがって、当該ネットワークを通じた商標の存在という事実及び

スペインの公衆のうち関連する人々への単なるアクセスは、不十分であると

判断されるべきです。

 実際、インターネットを経由した単なる広告としての掲載によってなされ

る商標の使用は、その使用が後に、スペインの消費者のために、スペインの

市場に製品が導入されることにより、現実的かつ有効な使用と結びつかなけ

れば、真正な使用と判断されるべきではありません。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 商標登録に係る指定商品又は指定役務についての現実的かつ有効

な使用について言及するスペイン商標法第 39 条の規定をご参照下さい。当

該規定を分析した専門家の意見及び判例法は両方とも、当該規定に定められ

ている使用は、単なる散発的な取引(名目的使用)ではなく、相当数の商業

的な取引であって、配送、保管、広告等によって達成するものであると考え

ています。

 したがって、本件の質問の事例は、スペインにおける商標の現実的かつ有

効な使用を構成しません。それゆえ、これは使用の証拠を構成しません。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 インターネットのおかげで、今日、このようなことは起こり得ます。

しかし、スペインの消費者が当該ウェブサイトにアクセスをし、当該ウェブ

Page 188: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

188 欧州

スペイン

サイトを通じて、その製品を現実的かつ有効に購入するまで、スペインにお

けるその製品についての商標の現実的かつ有効な使用を議論することはでき

ません。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場合はどうですか。

A.12 インターネットを通じてスペインにおいて使用されている商標を

検討する目的上、スペイン語の使用が関連性を有しないと考えるなら、他の

言語の場合においても同一の結論を出さなければなりません。そのような状

況においては、問題の商標のスペインにおける不使用は、さらにもっと明ら

かでしょう。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場合はどうですか。  ・登録商標「XYZ」  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 これまでの我々のコメントをご参照下さい。ただし、本件の質問

の場合、単なる商標及び会社についての広告であり、販売されている製品に

ついての広告ではないことを考慮すると、商標の不使用についての評価は、

さらにもっと明らかでしょう。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれているのみである場合はどうですか。

A.14 商標登録に係る指定商品又は指定役務についての商標の現実的か

つ有効な使用が要求される以上、そのような商標と商品との関係が存在しな

ければ、商標について適切な使用があると判断することは極めて難しくなり

ます。

Page 189: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

189欧州

スペイン

 とにかく、後に有効かつ相当な販売が伴わなければ、製品の単なる広告は

商標の使用を証明する目的に役立たないことを強調したいと思います。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 スペイン語の不使用の問題に関してすでに述べたように、当該商

品を付した製品の販売の申出が我国の通貨(ユーロ)を以ってなされていな

ければ、インターネットにおいて単にその製品の販売の申出がなされている

ことによる商標の使用の証明が成功することは、非常に難しいと思われます。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 後に商業上の取引を伴うことがなく、インターネットを通じた商

標の使用のみが行われていたという事例は、知りません。

(原稿受領日 2008 年 4 月 1 日)

Author: Mr. Javier Ungria UNGRIA PATENTES Y MARCAS, S.A. Avda. Ramón y Cajal, 78 28043 Madrid, Spain Tel: +34 91 413 60 62 Fax: +34 91 413 64 17 Email: [email protected] Website: http://www.ungria.es/

Page 190: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

190 欧州

スウェーデン

スウェーデン (Sweden)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 スウェーデンにおいては、商標権者の同意を得ずに行われる以下の

行為は侵害を構成します:1)保護に係る商標と混同を生ずるおそれのある

標識を保護に係る商品・役務と同一又は類似の商品・商品の包装・役務に使

用すること;2)保護に係る商標と混同を生ずるおそれのある標識を保護に

係る商品・役務と同一又は類似の商品・役務に関して、広告若しくは取引書

類に、又はその他の方法で使用すること。

 スウェーデンにおいて評判を有する商標と同一又は類似の標識をその商標

権者の同意を得ずに使用することは、その同一又は類似の商標が使用されて

いる商品・役務の種類を問わず、侵害を構成する可能性があります。ただし、

その使用が保護に係る商標の識別性若しくは評判を利用又は害する場合に限

ります。

 領域内商標権消尽の原則は、EEC 指令とのハーモナイゼーションの結果と

して、スウェーデンにおいて適用されています。これは、欧州経済地域にお

いて、商標権者によって又はその同意を得て、その商標の下で市場に置かれ

た製品の並行輸入は、通常許容されることを意味します(欧州司法裁判所

Peak Holding AB 事件判決、事件番号 C-16/03)。しかしながら、欧州経済

地域外の市場に置かれた製品の並行輸入は、侵害を構成する可能性がありま

す。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 スウェーデンにおいては、商標権者が登録商標を使用していること

は、商標権者が商標権に基づく差止請求権を行使する要件ではありません。

Page 191: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

191欧州

スウェーデン

商標規則第 1 条(1960 年法 :644)によれば、商標権は当該権利の設定の

登録によって生じます。このことは、商標権者が登録商標を使用していない

場合であっても差止請求をすることができるということを意味します。

 故意又は重過失による登録商標の侵害は、罰金又は懲役(2 年以下)が科

せられる刑事犯罪と判断されます。そのような犯罪が行われた場合、侵害商

標が付された商品及び侵害を構成する物は差し押さえられる可能性がありま

す。侵害行為の企図や準備も処罰の対象となります。商標権侵害に関しては、

登録日前に生じた行為に制裁は科せられません。商標権者は登録商標を使用

していない場合であっても、これらの要件が満たされることを条件に、原則

として損害賠償を請求することができます。

 登録から 5 年以内又は継続して 5 年の間、商標権者が当該商標を使用し

ていない場合には、当該商標は無効にされる可能性があります。侵害訴訟に

おいては、侵害されている商標の登録の無効又は商標の独占的権利の停止が

抗弁として提示される可能性があり、裁判所は、被告の請求により、登録の

有効性が最終的に決定するまで侵害訴訟の手続を一時保留します。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 音楽 CD のジャケット上に「love」のような題号を使用することは、

単に、音楽 CD にどのような種類の音楽が収められているかを表示するに過

ぎません。本事例では、当該標章は商標の機能を有しておらず、製品を記

述するものであるため、商標の使用とは判断されません。(商標規則第 3 条

(1960 年法 :644))。この題号「love」が商標の機能を有すると判断される

場合には、当該題号の使用は侵害を構成し得ると言えます。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 登録商標に係る独占的権利は、登録商標が実際に商標として使用さ

Page 192: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

192 欧州

スウェーデン

れている状況に対してのみ影響を及ぼします。これは、登録商標に係る文字

又は図形の使用は、商標と認識されなければ、商標の使用を構成しないこと

を意味します。言い換えれば、登録商標の使用が侵害を構成するか否かは、

T シャツに使用された当該文字又は図形がどのように認識されるかによって

決まります(NJA 1937 s.209)。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 商標の使用は、商標登録に係る製品と同一の種類の製品に使用され

なければ、他人の商標権を侵害しないというのが主要な原則です。その登録

商標が良い評判を有しかつその使用者に不正な利益をもたらす場合には、当

該商標が使用される製品が商標登録に係る製品と同一の種類でない場合で

あっても、当該登録商標の使用は侵害を構成します。商標権者の同意なしに、

市場での売買を唯一の目的として登録商標を新製品に印刷する行為(無償の

場合も含む)は、評判の良い登録商標に係るグッドウィルの不正な使用を構

成する可能性があります。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 その製品が商標権者によって販売されているものではないことが明

らかな限り、その製品が他の会社の製品に適合することを表示するために登

録商標を使用することは許容されます。当該第三者による「ABCインクジェッ

トプリンター用のインクジェットプリンターインク」の表示が「ABC イン

クジェットプリンターインク」(XX 社の純正製品)との混同を生じさせな

ければ、上記の表示は商標権侵害を構成しません。ABC インクジェットプ

リンターインク(XX 社の純正製品)との混同を生じさせる表示は、商標権

Page 193: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

193欧州

スウェーデン

侵害を構成する可能性があります。(商標規則第 3 条及び第 4 条 2st(1960

年法 :644))。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 登録商標に「Ⓡ」又は「Registrerat Varumärke」を付することは可

能ですが、義務ではなく、商標権行使の要件ではありません。使用されては

いるが未だ登録されていない商標に「TM」を付することは可能です。これは、

商標出願がされているという事実を他人に気付かせるために取られる普通の

方法です。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消される要件を説明して下さい。

A.8 スウェーデンにおいては、その要件は商標規則 25 条a(1960 年

法 :644)に規定されています。不使用に基づく商標の取消しを回避するた

めに、商標権者は、登録後 5 年以内に登録商標がスウェーデンにおいて商

標登録に係る指定商品又は指定役務に真正に使用されたことを証明しなけれ

ばなりません。そのような使用が証明されない場合又は継続して 5 年間不

使用であった場合、不使用について正当な理由がない限り、商標登録は取り

消されます。

 商標の真正な使用が、5 年の期間の満了後であるが取消請求前に開始又は

再開されたことを商標権者が証明した場合には、登録は取り消されません。

ただし、その使用は取消請求前 3 月以内に開始又は再開された場合に限り

ます。

 登録商標の不使用が商標登録に係る指定商品又は指定役務の一部について

である場合には、使用の要件が満たされなかったそれらの商品について一部

取消しがなされます。

Page 194: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

194 欧州

スウェーデン

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国において当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 広告は商標の使用を構成します。商標の使用は真摯になされなけば

ならず、したがって広告は市場に存在しているか又は近い将来市場に置かれ

る計画がある製品に関するものでなければなりません。商標は、商標登録に

係る製品に使用されなければなりません。XX 社は実際、自国で万年筆に関

する事業を行っており、広告は商標登録に係る製品に関するものとなってい

ます。したがって、広告は登録商標の使用として十分であり、スウェーデン

における実際の使用を考慮する必要はありません。

 ウェブサイトへの具体的なアクセス数の証明は必要ではありませんが、前

記広告が広告の機能を有していることを証明するために、当該ウェブサイ

トへの相当数のアクセスがあったことを証明することが望ましいです(NJA

1987 s. 22)。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 (回答なし。)

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 前記広告は、我国の公用語による表示がなされ、我国の通貨によ

る表示もなされているため、使用の証拠としてなお十分である可能性が高い

と思われます。これは、前記広告が我国の消費者を対象としていることを示

しています。

Page 195: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

195欧州

スウェーデン

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場合はどうですか。

A.12 我国の消費者に向けた広告であると判断されるための要件として

は、広告が我国の言語で表示されている必要はありません。英語はスウェー

デンにおいてほとんど誰もが話す言語です。したがって、英語による広告は、

英語を理解する我国の国民及び我国に在住する外国人消費者を対象とした広

告と判断されます。このことは、当該広告が登録商標の使用を証明するのに

十分であり得るとの結論をもたらします。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場合はどうですか。  ・登録商標「XYZ」  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 我国においては、広告は商標登録に係る指定商品又は指定役務に関

するものでなければなりません。しかしながら、実際の製品を描写した写真

又はスケッチ等である必要はありません。「万年筆」という語又は万年筆の抽

象的なイラストレーションを用いることで十分です。当該製品が広告の間中

存在している必要はありませんが、広告された当該製品に関するマーケティ

ング計画は存在していなければならず、また、商標の真正な使用を示すこと

ができるよう、当該製品は近い将来市場に存在していなければなりません。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれているのみである場合はどうですか。

A.14 我国においては、商標が使用されていたかどうかを決定する際に、

商標の実際の使用のみが考慮の対象となります。広告が本物であり、架空の

ものでなければ、商標が製品に付されているか否かは問題ではありません。

Page 196: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

196 欧州

スウェーデン

スウェーデン

しかしながら、製品がその商標の下で販売されていることが明確でなければ

なりません。商標が URL に組み込まれているだけでは、当該ウェブサイト

にアクセスする消費者は、製品がその商標の下で販売されていると認識しそ

うにありません。そのような使用は、商標の真正な使用として十分とは言え

ないでしょう。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 広告は我国の消費者を対象としたものでなければなりませんが、

我国の消費者に向けた広告であると判断されるための要件としては、我国の

通貨による表示は必要とされません。前記の事例では、当該広告が我国の消

費者を対象としていることを示す他の要素が存在しています。したがって、

当該広告は登録商標の使用を構成すると主張することが可能であるべきで

す。広告は全体的に評価されるべきです。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 (回答なし。)

(原稿受領日 2008 年 3 月 31 日)

  Author: Ms. Jenny Lundberg Brann AB PO Box 171 92 SE-104 62 Stockholm Sweden Tel: +46-(0)8-429 10 00 Fax: +46-(0)8-429 10 70 Email: [email protected] Website: http://www.brann.se/

Page 197: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

197欧州

スイス

スイス (Swiss)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 スイス商標法(以下「本法」と言う。)の第 13 条は、以下の旨を規

定しています。:「商標権は、商標権者に対し、指定商品又は指定役務を特定

するために商標を使用しかつ処分する独占的権利を付与する。商標権者は、

第 3 条 (1) に基づく保護から除外される標識を他人が使用することを禁止す

ることができる。特に,以下の行為を禁止することができる。

 (a)商品又はその包装に当該標識を付すること。

 (b)当該標識の下で、商品の販売の申出をし、市場に置き、又はそれら

の目的のために貯蔵すること。

 (c)当該標識の下で、役務の申出若しくは提供をすること。

 (d)当該標識の下で、商品を輸入又は輸出すること。

 (e)当該標識を取引書類、広告又はその他取引過程において使用すること。」

 商標法第 3 条 (1) は以下の旨を規定しています。「商標の保護は、[中略]

以下の標識には及ばない。

 (a)先行商標と同一の標識であって、先行商標の商品・役務と同一の商品・

役務について使用されるもの。

 (b)先行商標と同一の標識であって、類似の商品・役務について使用さ

れるものであり、その結果混同のおそれがあるもの。

 (c)先行商標と類似の標識であって、同一又は類似の商品・役務について

使用されるものであり、その結果混同のおそれがあるもの。

 本法には、並行輸入の問題を取り扱った規定はありません。スイスの裁判

所の実務では、いったん商標を付した製品が、商標権者又はその許諾を受け

た使用者により、世界のいずこかで流通過程に置かれれば、商標権は消尽す

Page 198: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

198 欧州

スイス

ると判断されます。したがって、真正かつ未変質の商品の並行輸入は、一般

的に商標権の侵害を構成しません。しかしながら、並行輸入された商品は、

商品の品質に影響を与えたり、商標権者の評判に悪影響を与えるような方法

で変更又は改変されてはなりません(BGer、2000 年 1 月 12 日判決 - 

CHANEL IV)。商標を付した製品の販売が法的規制又は市場の規制を受ける

国から並行輸入がなされた場合は、商標権侵害を構成する可能性があります。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 商標権者が登録商標を使用しているという事実は、商標権者が商標

権を行使するための要件ではありません。しかしながら、被告が、原告の商

標は使用猶予期間が満了しているのにスイスで有効に使用されていないと答

弁した場合には、その限りではありません。同様のことが損害賠償請求の要

件についても当てはまります。損害賠償請求の際、原告は、経済的損害を被っ

たことを証明しなければならず、その経済的損害の請求額は正確な数字で評

価し得るものでなければなりません。これは、特に当該商標が使用されてい

ない場合には難しいと思われます。もう一つの方法として、商標権者は侵害

者に対して不当利得の返還を請求できます。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 スイス商標法には、この問題を取り扱った明示の規定はありません。

したがって、ケースバイケースで決定がなされるでしょう。原則として、音

楽 CD のジャケットに表示される題号の使用は、消費者がその題号を出所表

示と認識する態様で CD ジャケットに付されていれば、音楽 CD を指定商品

とする他人の商標権の侵害を構成し得るでしょう。しかしながら、単に作

品(例えば CD の作品)のテーマの内容を記述するに過ぎない題号は、消費

者がその題号を出所表示と認識しない態様で CD ジャケットに付されていれ

ば、商標権侵害を構成すると判断されることはないでしょう。CD のテーマ

Page 199: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

199欧州

スイス

の内容を記述する文字(例えば LOVE)のみからなる商標であって、CD を

指定商品とする商標登録は、識別力の欠如を理由とする取消しを受けるかも

しれません。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 はい。T シャツの胸全面に他人の登録商標を使用することは、その

商標が T シャツ若しくは被服又はTシャツに類似する他の商品について登

録されているとすれば、その他人の商標権を侵害する可能性があります。同

様のことが著名商標(顕著な評判を有する商標、商標法第 15 条)にも当て

はまります。この場合は、たとえ T シャツに類似する商品又は役務につい

て登録されていなくても当てはまります。他人の登録商標が、消費者が即座

にそれを出所表示としてではなく模様として認識する純粋に装飾的な態様で

使用されている場合にのみ、その使用は商標権侵害を構成しないと言えます。

胸全面に他人の登録商標を使用することは、それ自体で、純粋な装飾的使用

としての適格性を有するわけではありません。他人の登録商標の識別性が、

T シャツの全体的な模様の中で失われている場合に限り、そのような使用は

商標権侵害を構成しない可能性があります(Willi, MSchG, Art. 13 N 14)。

 他人の商標が T シャツ又は類似の商品若しくは役務について保護を求め

てもおらず、著名商標でもないとすれば、胸全面への商標の使用は商標権

を侵害しません。しかしながら、スイス不正競争法(UCA)の規定により不

正競争と判断される可能性は依然としてあり得ます。すなわち、他人の登

録商標を T シャツの胸全面に付する際には、その商標がたとえ通常 T シャ

ツ以外の商品に使用されているとしても、消費者、特に、その商標に一定の

魅力を感じる潜在的な消費者を惹き付ける意図が売主にある可能性がありま

す。他人の商標を使用することにより、その売主は、その商標に存在する又

は結び付けられているグッドウィル又は評判を移転又は共有しようとしてい

るとの主張が成り立ち得えます。このグッドウィル及び評判は、通常は、商

Page 200: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

200 欧州

スイス

標権者又はその商標の使用を許諾された者によって一般的に確立されるもの

です。したがって、許諾を受けずにこのグッドウィルを共有することは、売

主と潜在的な購入者との関係に影響を与えるおそれがあり、不正競争法第 2

条の不正競争と判断される可能性があります。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 スイスにおいてこの問題を取り扱った判決例は存在しません。この

質問に対する回答は、ケースバイケースであると言うにとどまり、事件のす

べての付帯状況を考慮しなければなりません。ボールペンに標章が付されて

いれば、消費者はその標章をボールペンの出所表示と認識する可能性があり

ます。そのような使用は、一般的に商標権侵害を構成します。しかしながら、

その標章が、消費者がその標章をボールペンの出所表示としてではなく専ら

かつ即座に金融サービスの表示として認識する方法で、ボールペンに付され

ていれば、そのような使用は、おそらく、他人のボールペンについての「ABC」

商標に係る商標権の侵害を構成しないと判断される可能性があります。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 商品の用途を示すことを目的として他人の登録商標を引用する使用

は、その他人の商標権を侵害しません。しかしながら、そのような使用は、

使用者自身の製品又は業績に明確に言及していなければならず、かつ使用者

と商標権者との一定の関係の存在に関して間違った印象を生み出してはなり

ません(BGE 128 III 146 -VW/Audi Spezialist)。

Page 201: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

201欧州

スイス

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 スイスにおいては、商標が登録されていることを表示する義務はあ

りません。商標権者が損害賠償請求をできるかどうかは、Ⓡの使用に依拠し

ません。スイスにおいて又は国際商標登録簿において商標が登録されている

ことを表示するためにⓇを使用することは任意です。虚偽表示は、告訴に基

づき、制裁の対象となります。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用

Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 スイス商標法には、不使用に基づく登録商標の取消しについて明示

の規定はありません。しかしながら、商標法は不使用に基づく無効請求を暗

に認めています(BGE 130 III 267 - TRIPP TRAPP)。無効請求は民事裁判所

にされなければなりません。無効請求において、原告は裁判所に、係争対象

の商標がスイスにおいて有効に指定商品又は指定役務(又はその一部)につ

いて使用されていない一定の蓋然性があることを確信させなければなりませ

ん。商標権者が以下のことを証明しなければ、不使用を理由に当該商標は全

体又は一部について無効であるとの宣言がなされるでしょう。

 (ⅰ)当該商標権者又は許諾された使用者が(許諾された使用者若しくは

ライセンシーとしての登録、又は書面による許諾は必要とされない)使用し

たこと、

 (ⅱ)当該商標を少しばかり又は単に商標権を維持する目的で使用したの

ではなく、真摯に使用したこと、

 (ⅲ)商標登録に係る指定商品及び指定役務の全部又は一部について使用

したこと、

Page 202: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

202 欧州

スイス

 (ⅳ)スイスにおいて又は当該商標がドイツにおいても登録されている場

合はドイツにおいて使用したこと(1892/1902 スイス - ドイツ条約により、

両締約国で商標が登録されている商標は、当該商標がたとえ一つの締約国に

おいてのみ有効に使用された場合であっても、両締約国において有効に使用

されたと判断される。)

 (ⅴ)使用猶予期間の後であって、不使用の主張が最初にかつ有効に原告

によりなされた日前 5 年の期間内に使用したこと、

 (ⅵ)又は商標の不使用について重大な理由があること。

 スイスの実務の特徴として、不使用の主張は、請求人による商標権者への

レター・オブ・インテント(letter of intent:契約意図表明状)という手段によっ

てすることができます。この書簡においては、差出人は、不使用を理由とす

る商標の無効を間違いなく主張しなければなりません。無効請求の提訴は、

そのようなレター・オブ・インテントの有効性及び効果についての前提条件

ではありません。しかしながら、それは当事者間に関する限り有効です。商

標の取消しは、無効請求によってのみもたらされ得るものです。

 スイスにおいては、使用猶予期間は 5 年です。商標権者が商標の使用を

開始しないこと又は使用を中断することについて重大な理由があれば、その

重大な理由が存在する限り、使用猶予期間の満了は中断されます。スイスの

国内商標登録に関しては、使用猶予期間は商標登録の公告日後 3 月から始

まります。異議申立手続においては、使用猶予期間は異議申立手続が継続し

ている限り、始まりません。スイスを指定する国際登録に関しては、使用猶

予期間は WIPO によるスイス連邦知的所有権機関に対する国際登録の通知

日後 12 月又は 18 月から始まります。日本の基礎登録に基づく国際登録に

関しては、適用される期間は 18 月です。国際登録の指定国スイスが暫定的

拒絶の対象である場合、使用猶予期間はスイスにおける商標保護の付与確定

の日まで始まりません。

Page 203: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

203欧州

スイス

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 いいえ。スイスの実務によれば、商標権者がスイスの市場を開拓す

るために適正かつ真摯な努力をしたこと又は商標を使用しなかったことにつ

いて重大な理由があることを証明すれば、その商標はスイスにおいて十分に

使用されていると判断されます。商標の有効性を維持するという唯一の理由

で、僅かに使用するのみでは不十分です。(知的財産連邦控訴裁判所 2003

年 9 月 17 日付判決 sic! 2004, 106ff. - Seiko Rivoli/R Rivoli)。商品について

の保護を求める商標は、スイスでそれらの商品が現実に販売されていない実

質的な理由がない限り、広告において使用されているだけでは、十分な使用

とは考えられないという法学上の見解があります(Willi, MSchG, Art 11 N

23)。この見解は、これまでの判決において決定的なものではなかったとは

いえ、所轄官庁及び裁判所のいくつかの決定において言及されています(例

えば、知的財産連邦控訴裁判所 2004 年 6 月 24 日付判決 sic/2004, 868 ff -

Globex/Globix)。

 インターネットのウェブサイトを通じた広告の継続的な掲載が商標権者に

よる継続的かつ繰り返しの努力を何ら必要としないことを考慮すると、広告

は、スイス商標登録の有効性を維持し得る商標の使用を証明していると認め

られそうにありません。スイスで使用されている主要な公用語(ドイツ語、

フランス語、イタリア語)の一つによる広告の掲載は、それ自体では、スイ

スにおける商標の使用を証明する資格を有しません。

Page 204: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

204 欧州

スイス

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 いいえ。商標権者は、少なくとも、スイスの市場を開拓するた

めに適正かつ真摯な努力をしたことを証明しなければなりません(A.9

参照)。スイスの消費者から偶然に注文を受けることを単に期待するだけの

商標権者は、スイスにおいて商標を使用する真摯な意思を証明できないで

しょう。したがって、当該製品についての僅かばかりの偶然の注文のみで

は、スイスにおける商標の十分な使用を証明するに不十分であると判断され

ます。必要とされる売上高は、関連する商品の種類及び価格によります。大

量に生産される製品は、贅沢品より多くの売上高が必要とされます。例え

ば、3 年間に中級の価格帯の腕時計を 4 個の販売したことは、十分な使用と

認められませんでした(知的財産連邦控訴裁判所 2003 年 9 月 17 日付判決

sic! 2004, 106 ff - Seiko Rivoli/R Rivoli)。一方、全部で 9 個の高級な価格帯

の腕時計に対する 7 件のインボイスは、十分であると認められました(知

的財産連邦控訴裁判所 2005 年 9 月 20 日付判決 sic! 2005, 881 - Admiral's

Cup/Admiral)

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 サーバーが設置されている場所は、オンライン広告の妥当性を認

定するに決定的なものではありません。外国の ccTLD(国コードのトップレ

ベルドメイン)を使用したインターネットウェブサイトを通じて掲載される

広告は、それ自体では、スイスにおける商標登録について有効な効果を有す

るとは認められません。一般的なトップレベルドメインを使用したインター

ネットウェブサイトを通じて掲載される広告もまた、スイスにおける商標の

使用についての十分な証拠とは認められません。なぜなら、そのような広告

Page 205: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

205欧州

スイス

は、通常、スイスの市場を開拓するという商標権者の適正かつ真摯な意図を

証明するのに役立たないからです。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 そのようなオンライン広告は、商標がスイスにおいて有効に使用

されていたかどうかに関する評価に何ら関連しそうにありません。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 そのような記載内容は、スイスの市場を開拓するという商標権者

の適正かつ真摯な意図を証明するのに十分ではりません。その広告は、スイ

スにおける商標登録について有効であると認められそうにありません。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 スイス商標法第 11 条によれば、「商標は、指定商品及び指定役務

に関して使用されていれば、保護される。」ことになります。しがって、商

標 XYZ が万年筆又はその包装に付されている必要はありません。消費者が

関連商品についての出所表示と認識するような方法で商標が使用されていれ

ば、その商標は指定商品及び指定役務に「関して」使用されていると判断さ

れます。商品と商標との近接性は、その種の商品 / 役務に商標を使用する際

に普通かつ経済的に妥当な範囲内でなければならないでしょう。

Page 206: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

206 欧州

スイス

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 3 つの主要な言語(ドイツ語、フランス語、イタリア語)が専ら

スイスにおいて使用されるものではないことを考慮すると、スイス通貨(ス

イスフラン)による表示がスイス市場に対する広告の一定の近接性を証明す

る唯一の方法かもしれません。オンライン広告の単なる掲載は、それ自体が

スイスにおける商標の十分な使用と認められる可能性は低いと思われます。

スイスフランによる商品の価格表示のないオンライン広告の場合、スイスに

おける商標登録に対して有効であると認められる可能性はもっと低いと思わ

れます。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 商標 Globex 対 Globix に関する商標異議申立事件における 2007

年 6 月 24 日付の審決において、スイス連邦知的財産審判部は以下の旨を述

べています。「特にインターットを通じて自己の役務を全世界に提供してい

る商標権者は、スイスにおける商標の有効な使用を証明することに困難を伴

うかもしれない。しかしながら、その商標がスイス市場にごく近接して、ス

イスの消費者の間における合理的な需要を刺激しそうな方法で使用されてい

れば、その商標の使用はスイスにおいて有効であると認められる可能性があ

ることに留意すべきである。その役務がインターネットを通じてのみ提供さ

れているので、商標権者は、少なくとも、その者が定期的に繰り返しスイス

で広告を掲載していること、又は提供されている役務が定期的にスイスの消

費者によって注文されていることを示さなければならない。」(2004 年 6 月

24 日審決、sic! 2004, 868ff. - Globex/Globix)

 スイス連邦知的財産審判部は、以前の審決において、以下の旨を宣言し

ていました。「スイス用のインターネットアドレス又はインターネットウェ

ブサイトはインターネット上で発見されなかった。(商標権者の)オランダ

Page 207: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

207欧州

スイス

用のウェブサイトは、スイスにおいて、商標についての確かな使用を形成

することとは無関係である。」(2003 年 9 月 17 日付審決、sic! 2004, 106 -

Seiko Rivoli/R Rivoli)

 2006 年 1 月 25 日付の審決で、連邦知的財産審判部は、インターネット

からの抜粋がスイスにおける商標の使用を証明するのに十分かどうかに関し

て決定をしなければなりませんでした。抜粋の一つは、スイスで行われたテ

レビ会議に言及していましたが、商標がいつどこで実際に使用されたかにつ

いての言及がなされていませんでした。商標権者は、本件インターネットの

内容は、スイスから簡単にアクセスすることが可能であったと主張しました。

審判部は以下の通り述べました。「インターネットからのこれらの抜粋のす

べてが、スイスから容易にアクセスすることが可能なものであったという事

実は、商標がスイスにおいて実際に使用されたことの十分な証拠にはならな

い。また、インターネットウェブサイトへの掲載が(スイスの主要な公用語

(ドイツ語、フランス語、イタリア語)の一つである)ドイツ語でなされた

という事実は、それ自体では、その商標がスイスにおいて実際に使用された

ことを信じせしめる根拠とはなり得ない。」(2006 年 1 月 25 日付審決、sic!

2006.271 - Dona/Donafor)

(原稿受領日 2008 年 4 月 16 日)

  Author: Mr. Fred Gromann / Mr. Christoph Mueller Hepp Wenger Ryffel AG Friedtalweg 5 CH-9500 Wil, Switzerland Tel: +41 71 913 95 55 Fax: +41 71 913 95 56 Email: [email protected] Website: http://www.hepp.ch/

Page 208: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

208 欧州

英国

英国 (U.K.)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 商標権の侵害を構成する行為は、1994 年商標法第 10、11、12、

13 及び 17 条に規定されています。以下は侵害を構成する行為の簡潔な要

約です。この要約は 1994 年商標法に規定されているすべてを詳細に記載し

たものではありません。

 取引過程において、登録商標と同一の標識を商標登録に係る指定商品又は

指定役務と同一の商品又は役務について使用する者は、当該商標権を侵害し

ます。

 侵害は以下の状況においても生じます。

(a)その標識が登録商標と同一であって、商標登録に係る指定商品・指定役

務と類似する商品又は役務について使用される場合、又は

(b)その標識が登録商標と類似であって、商標登録に係る指定商品・指定

役務と同一又は類似の商品・役務について使用される場合

 上記の(a)及び(b)の場合、原告は、被告の行為の結果として、公衆

において混同のおそれが存在することについても裁判所を確信させなければ

なりません。

 侵害は、被告が登録商標と同一又は類似の標識を、商標登録に係る指定商

品・指定役務と類似する商品・役務に使用する場合のみならず、非類似の商

品・役務に使用する場合にも生じます。ただし、商標登録に係る当該商標が

英国において評判を得ており、かつ侵害に係るその標識の使用が正当な理由

なく当該登録商標の識別性若しくは評判を不正に利用又は害する場合に限ら

れます。

 「使用」は以下のように定義されています。

Page 209: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

209欧州

英国

 (a)侵害に係るその標識を商品又は商品の包装に付すること、

 (b)侵害に係るその標識の下に商品を販売のために申出若しくは展示し、

市場に置き若しくはそれらの目的のために貯蔵すること、又は侵害に係るそ

の標識の下に役務の申出若しくは提供をすること、

 (c)侵害に係るその標識の下に商品を輸入若しくは輸出すること、又は

 (d)取引書類若しくは広告にその標識を使用すること。

 商品に標識を付する者又は包装をする者も、侵害に係るその標識を付する

際に、その標識を付することが商標権者若しくはそのライセンシーによって

正式に許諾されていないことを知っていた場合、又はそのように信じるに足

る理由がある場合には、侵害者として扱われる可能性があります。

 他人の商標を使用する比較広告を保護する規定が本法にあります。

 並行輸入に関しては、商品がどこから輸入されるかによります。1994 年

商標法の第 12 条は以下のとおり規定しています。

 「 商 標 権 者 に よ っ て 又 は そ の 同 意 を 得 て、 欧 州 経 済 地 域(European

Economic Area)の市場に置かれた当該商標に係る商品については、当該商

標の使用は商標権侵害を構成しない。」

 しかしながら、当該商品がさらに売買されることに反対する正当な理由が

商標権者にある場合(特に、市場に置かれた後に当該商品の状態が変更又は

損なわれた場合)は、商標権者は対応措置を講ずることができます。EEA の

領域への並行輸入については状況が異なります。そのような並行輸入は、商

標権者が同意を与えていない限り、侵害を生じさせます。同意は明示もので

なければなりません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 商標登録後の最初の 5 年間 - 出願日からではなく、登録商標と

して登録簿に登録された日から計算されます - 当該商標を使用している

かどうかは、侵害訴訟を提起する際に問題とはなりません。したがって、す

べての救済 - 差止による救済並びに損害賠償及び少なくとも原告の費用

Page 210: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

210 欧州

英国

の一部の回復 - を受けることができます。

 最初の 5 年の経過後は、商標権の行使は、商標権者又はその同意を得た

者による登録商標の使用を立証できるかどうかによります。

 英国の国内における使用又は英国からの輸出が使用となり得ます。

 登録商標が継続して 5 年間使用されていなければ、1994 年商標法の第

46 条に基づき、被告は反訴により当該商標登録の取消しを請求できます。

それが成功すれば、被告は商標権侵害訴訟を克服することができます。商標

権者は、不使用について正当な理由が存在する旨の答弁をすることが認めら

れます。反訴請求がされるかもしれないことを商標権者が知る前であれば、

使用には、当該登録商標の使用の開始又は再開のための準備も含まれます。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 例えば、「A collection of love songs」のように、LOVE の語が純粋

に記述的に使用されている場合は、たとえ LOVE の登録がコンパクトディス

クについて存在するとしても、侵害にはなりません。一方、LOVE の語が、

コンパクトディスクのブランドとしてコンパクトディスク又は当該コンパク

トディスクの包装に使用されている場合は、コンパクトディスクを指定商品

とする LOVE の登録を侵害することになります。したがって、侵害が成立す

るためには、LOVE の語がブランドの名称として使用されていなければなり

ません。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 重要なことは、T シャツのどのくらいの面積を占めるかではありま

せん。英国法に基づけば、重要なことは以下のとおりです。

 当該図形が被服の商標として登録されている場合、当該図形が使用されて

いる商品は当該商標の指定商品と同一であるため、混同又は混同のおそれを

Page 211: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

211欧州

英国

立証する必要はなく、当該商標権は侵害されることになります。

 しかしながら、その登録が有効であることは立証する必要があります。無

効理由が存在し得る状況は様々であることから、我々はそのすべてを列挙す

ることはできません。商品化するための T シャツを検討する上で特に関連

する例を挙げます。例えば、あるサッカークラブがそのクラブの紋章を被服

の商標として登録していたが、侵害訴訟における被告が次のような証拠を有

する場合は、当該紋章(図形)の登録は十分に無効となり得ます。すなわち、

当該クラブが、他人がその紋章を勝手に使用するがままにしていた結果、相

当な数の消費者が、当該クラブだけが当該商品(T シャツ)の唯一の出所で

はないと信じるに至った - 当該Tシャツを当該クラブによって許諾され

た特定の場所だけではなく、どこからでも入手できる - という証拠を有

する場合である。

 上記のすべては文字商標にも等しく適用されますが、図形商標の場合の唯

一の相違点は、原告が著作権侵害に係る訴えの追加を行うかもしれないこと

です(英国法は、単一の言葉に著作権はあり得ないとしています。)。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 ボールペンに表されたものが「ABC Financial Services」の文言であ

る場合、当該登録商標 ABC が非常によく知られていない限り、裁判所は侵

害を認めにくいといえます。ボールペンに表されたものが「ABC」の文字で

ある場合、侵害訴訟を招くことになりそうです。そのペンが販売されるので

はなく、フリーギフトとして配布されるということは重要ではありません。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 この質問に対する回答は、以下のとおり、第 11 条(2)(c)に規

定されています。

Page 212: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

212 欧州

英国

 「登録商標は、製品又は役務の意図された用途(特に附属品又は予備部品

の用途)を表示するために必要な場合における当該登録商標の使用によって

は侵害されない。ただし、その使用が工業上又は商業上の公正な慣行に基づ

いてなされる場合に限る。」

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 商標が登録商標であることの表示を要求する規定はありません。し

かしながら、その表示が虚偽であることを知りながら又は信じるに足る理由

を有しながら、当該商標が登録商標である旨を偽って表示することは 1994

年商標法第 95 条違反となります。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消される要件を説明して下さい。

A.8 これについては、1994年商標法第46条が適用されます。商標登録は、

以下のいずれかの理由によって取り消されます。

 (a)当該商標が、登録の手続の完了した日以後 5 年の期間内に、商標権

者により又はその同意を得て、その登録に係る指定商品又は指定役務につい

て、英国内において、真正に使用されておらず、かつその不使用について正

当な理由がない場合

 (b)使用が継続して 5 年間中断されており、かつその不使用について正

当な理由がない場合

 (c)登録商標が、商標権者の作為又は不作為の結果、その指定商品又は指

定役務に係る取引上、普通名称となった場合

 (d)登録商標がその指定商品又は指定役務について、商標権者により又

は商標権者の同意を得て使用された結果、特にその商品又は役務の性質、品

質若しくは地理的原産地について公衆に誤認を与えるおそれがある場合

Page 213: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

213欧州

英国

 5 年の期間の満了後であるが、取消請求前 3 月以内になされた登録商標の

使用の開始又は再開は、取消しが請求されるかもしれないと商標権者が知る

前にその使用の開始又は再開の準備がなされるものでない限り、考慮されま

せん。

 取消しは、商標登録に係る指定商品の一部についても行うことができます。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国において当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 ウェブサイトへの訪問者の数は、英国の在住者からの商品の注文を

履行できるように当該ウェブサイトが構築されていない限り、重要ではあり

ません。

 裁判管轄権の問題があります。英国の国外から操作されているウェブサイ

トが、英国内における使用と判断されるでしょうか? 当該ウェブサイトが

英国の在住者からの注文を受けることができるように構築されているなら、

答えは「はい。」です。例えば、当該ウェブサイトが商品の価格を英国ポン

ドで表示している場合です。

 しかしながら、裁判管轄権の問題とは全く別に、商品の広告が - 全く

販売されたことがない場合に - 真の使用となるかどうかという問題があ

ります。商標権者が英国内において当該商品の市場を創出するために最善の

努力を尽くしてきたが、全く販売することができなかった場合は、販売のな

い広告のみであっても、真正な使用とされるべきです。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 個人輸入によって、商標登録を不使用の攻撃から守ることはでき

ないでしょう。

Page 214: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

214 欧州

英国

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 ウェブサイトへのアクセスが可能であるだけでは十分ではありま

せん。ウェブサイトは、英国の消費者が当該ウェブサイトを通じて当該商品

を注文することができ、かつ当該商品がその注文者に配送されるように構築

されていなければなりません。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場合はどうですか。

A.12 消費者がウェブサイトに表示されていることを英語で読むことが

可能になっている場合は、上記で述べたことが適用されます。

 ウェブサイトが日本語(英国においてはよく知られていません。)でのみ

表示されている場合は、英国における真正な使用ではありません。

 ウェブサイト上の広告(英国における販売が全くない場合)が真正な使用

であると判断されることがあるとしても、その場合は当該ウェブサイトは英

語で表示されていなければなりません。一方、仮に英語で表示されていると

しても、当該ウェブサイトが英国の在住者からの注文を受けることができる

ように構築されていない場合は、当該広告が「真正な使用」であることを保

証するには不十分でしょう。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場合はどうですか。  ・登録商標「XYZ」  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 そのような方法で記載された広告は、商標権者又はその同意を得た

者が英国において万年筆の販売をしようとする努力を何ら示すものではない

ため、英国において商標登録を維持するのに十分とは到底言えないでしょう。

Page 215: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

215欧州

英国

 ウェブサイトが商標を付したペンの写真を表示しているか、あるいは商品

の写真なしに商標のみに言及しているかどうかは問題ではありません。問題

となるのは、当該広告が、当該商標との関係で当該商品を販売する意図を以っ

てなされたかどうか - すなわち、問題となるのは、ウェブサイトが消費

者がその商品の注文を行うことができる程度に当該商品に関する十分な情報

を表示しているかどうかです。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれているのみである場合はどうですか。

A.14 回答すべき質問では、このウェブサイトにおいて、商標「XYZ」

の下で万年筆の販売の申出がなされているのでしょうか? これは、事実の

問題です。裁判所は、当該ウェブサイトから知り得るすべてのものを調べ、

商標「XYZ」の下で万年筆の販売の申出がなされているかどうかについて、

結論を出すに至るでしょう。商標「XYZ」が URL に含まれているだけなら、

それは万年筆について使用されていません。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 価格が英国ポンドで表示されていなければ、当該商標権者は英国

において市場を創出する努力を行っていないとの印象を与えます。商標権者

が依拠し得る唯一の「使用」がそのようなウェブサイト上での広告であるな

ら、英国における当該商標登録を維持するのには十分ではないでしょう。一

方、そのように構築されたウェブサイトが、英国の在住者に対する販売をも

たらした場合 - 例えば、英国の在住者が米国ドルで支払った場合 - 

当該ウェブサイトの存在に加えて、そのような販売の証拠があれば、当該商

標登録を維持するのに十分である可能性があります。

Page 216: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

216 欧州

英国

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16  有 力 な 教 科 書 で あ る「Kerly's Law of Trade Marks and Trade

Names」の第 14 版は、その見解を次のようにまとめています。

 「本質的に、ウェブサイト上の商標の使用は、そのウェブサイトがその特

定の領域の消費者を対象として、その特定の領域の消費者に使用されている

場合は、その特定の領域における使用を構成するのみである。」

 この問題に関する事案はそれ程多くありませんが、おそらく、最良のも

のは、Euromarket Designs Inc. v. Peters and Crate & Barrel Limited [2001]

FSR 20 です。

 この事件において、原告は、「Crate & Barrel」の看板を掲げたチェーンス

トアを所有する米国企業でした。原告は、自己の英国登録及び CTM 登録の

両方に基づく侵害訴訟を提起しました。これらの登録は、両方とも「Crate

& Barrel」の文字商標でした。

 被告は、アイルランドのダブリンにおいて、「Crate & Barrel」の名称の下、

店舗を一店経営していました。

 原告及び被告は、両方ともにウェブサイトを有しており、原告による請求

対象の一つは被告によるウェブサイト上での「Crate & Barrel」の名称の使

用でした。

 被告は、英国において取引を行ったことを否認し、被告のウェブサイトは

被告のダブリンの店舗において入手可能な商品を対象とするものであると主

張しました。

 被告は、被告が意図していた対象は世界ではなく、被告の国の顧客のみで

あったと主張しました。裁判官は、「商標の趣旨に照らせば、ウェブサイト

が世界のどこでもアクセス可能であるという単なる事実は、世界のどこでも

商標が使用されているものと法が判断すべきことを意味するものではない。

それは、種々の状況次第であり、特に当該ウェブサイトの所有者の意図及び

Page 217: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

217欧州

英国

読み手が当該サイトにアクセスした場合に何を理解するかに依拠する。」と

述べました。裁判官は続けて、「他の事件は事案を異にする - 例えば、

広く知られた事例は、Amazon.com. の事件である。米国を本拠地としなが

らも、同社は、インターネット上での名称の使用によってのみでなく、その

事業を広告し、かつ英国における書籍の供給という現実のサービスの申出と

提供を行うことにより、積極的に世界規模の取引を求めてきた。被告はその

うちのいずれも行っていない。」と述べました。さらに、「私の見解によれば、

『真正な使用』は、取引者又は消費者がこの国おける現実又は真の取引と判

断できるものを伴っていなければならないと思われる。」と述べました。こ

れは、使用の質と同様に量をも必要とします。一部分において、それは程度

の問題であり、ボーダライン上の事案があるかもしれません。

 被告は、原告による英国における商標「Crate & Barrel」の唯一の使用がウェ

ブサイト上のものであり、原告のインターネットによる販売サービスが非米

国相手の取引に向けて構築されておらず、かつ米国外からの注文を受けるこ

とができないことが明らかになったことを理由として、原告の所有する登録

が無効とされるべき旨の反訴を提起しました。

 以上は、正式事実審理を経ないでなされた判決(summary judgment)の

事案であり、棄却されました。裁判官は、「当該登録は無効とされる見込み

が十分にある。」と結論付けました。

(原稿受領日 2008 年 4 月 11 日)

   Author: Mr. Don Turner Beresford & Co 16 High Holborn London WC1V 6BX, United Kingdom Tel: +44 (0)20 7831 2290 Fax: +44 (0)20 7405 4092 Email: [email protected]

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218

Page 219: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

219

アジア

(ASIA)

Page 220: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

220 アジア

中国

中国 (China)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 中国商標法によれば、以下の行為が商標権の侵害となります。

 (1)商標権者の許諾なく、登録商標と同一又は類似の商標を同一又は類

似の商品に使用すること、

 (2)商標権を侵害する商標を付した商品を販売すること、

 (3)他人が所有する登録商標の表示を、商標権者の許諾なく、偽造若し

くは製造すること、又は商標権者の許諾なく偽造若しくは製造した登録商標

の表示を販売すること、

 (4)商標権者の同意なく、商品に付された登録商標を取り替え、取り替

えられた商標を付した商品を再び販売すること、又は、

 (5)その他、他人の商標権を害する行為を行うこと。

 上記の(5)は、 中華人民共和国商標法施行規則により定義されています。

 (1)他人の登録商標と同一又は類似の商標を、同一又は類似の商品に、

商品の名称として又は商品の装飾として使用し、公衆に混同を生じさせるこ

と、

 (2)他人の商標権を侵害する目的で、保管、輸送、郵送、隠匿等の便宜

を故意に図ること。

 商標権侵害訴訟における最高裁判所の司法解釈は、上記の(5)に関して

さらに、以下の行為もまた商標権の侵害であると説明しています。

 (1)他人の登録商標と同一又は類似の文字を、同一又は類似の商品を取

り扱う企業名として使用し、明らかに、関係する公衆に混同及び誤認を生じ

させること。

 (2)他人の周知登録商標又はその要部を複製、模倣、翻訳し、同一又は

Page 221: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

221アジア

中国

類似の商品に商標として使用し、公衆に混同を生じさせ、周知登録商標に係

る商標権者の利益を侵害するおそれがあること。

 (3)他人の登録商標と同一又は類似の文字を、ドメイン名として使用し、

当該ドメイン名を介した電子商取引によって事業を行い、関係する公衆に混

同を生じさせること。

 一般的に、真正商品の並行輸入は商標権の侵害を構成しません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 商標権者がその商標権を行使するにあたって、そのような規定はあ

りません。しかし、損害賠償請求をするにあたっては、登録商標の使用は不

可欠です。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 登録商標 「LOVE」 は音楽 CD を指定しています。当該 CD ジャケッ

トは音楽 CD の包装です。題号「love」が登録商標「LOVE」と同一の文字

及び同一の態様で表され、公衆に混同を生じさせる場合は、登録商標の違法

な使用及び商標権侵害と判断される可能性があります。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 中華人民共和国商標法施行規則の規定によれば、当該商標が T シャ

ツと同一又は類似の商品について他人によって登録されており、当該図形が

登録商標と同一又は類似であって公衆に混同を生じさせる場合は、当該行為

は侵害であるとされるでしょう。同様に、登録商標と同一又は類似の文字を、

同一又は類似の商品に、装飾として使用する行為は、商標権の侵害とされる

でしょう。

Page 222: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

222 アジア

中国

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 中華人民共和国商標法施行規則によれば、商標権侵害に関する規定

における「使用」には、商品、商品の包装若しくは容器又は取引書類への商

標の使用及び広告、展示若しくはその他の取引における商標の使用が含まれ

ます。ボールペンに登録商標と同一の商標を使用することは、侵害と判断さ

れます。少なくとも、当該ボールペンの製造者は、侵害者と判断されるでしょ

う。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 設問の事例に基づけば、第三者による 「ABC インクジェットプリン

ター用のインクジェットプリンターインク」 の使用は、商品の表示又は説明

であり、したがって、当該説明それ自体は商標の侵害を構成しません。当該

第三者が自分自身の商標を使用しておらず、明らかに、当該インクが XX 社

の純正製品であると消費者に混同を生じさせるような態様で「ABC」を付し

ている場合は、当該行為は侵害を構成する可能性があります。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は、義務的要件ではありません。

そのような表示は、商標権者がその商標権を行使する要件ではありません。

Page 223: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

223アジア

中国

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用

Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 中華人民共和国商標法施行規則は、第 39 条において、何人も登録

商標に対して、継続した 3 年間の不使用に基づく取消しを請求することが

できる旨を規定しています。かかる取消しが請求されると、中国商標局は商

標権者に通知を行い、商標権者は当該通知を受け取ってから 2 ヶ月の期間

内に、取消しを克服するために、使用又は不使用の正当な理由についての証

拠を提出することができます。商標権者がかかる証拠を提出しない場合は、

当該登録は登録簿から抹消されます。

 中国では、使用についての有効な証拠には、商品、包装若しくは容器又は

取引書類への当該商標の使用及び広告、展示、使用許諾又はその他の取引に

おける商標の使用が含まれます。しかしながら、その証拠は、以下の基準を

満たす必要があります。

 ( ⅰ ) いつ使用されたか。:証拠は、取消請求日前 3 年以内の使用を証明す

るものでなければなりません。

 ( ⅱ ) どこで使用されたか。証拠は、登録商標が中国本土の領域内で使用

された事実を示すものでなければなりません。

 ( ⅲ ) どの商品又は役務に使用されたか。:主に、不使用に基づく取消しに

は 2 種類あります。すなわち、登録商標のすべての指定商品又は役務の取

消しを求める全部取消しと、登録商標の一部の指定商品又は役務の取り消し

を目的とする一部取消しです。前者の取消しを克服回避するためには、登録

の指定商品又は役務の一つの品目についての実際の使用を証明する証拠で十

分です。一方、一部取消しの場合、全面的な防衛のために、取消請求に係る

各商品又は役務について証拠を提出した方が良いと言えます。

 ( ⅳ ) 不使用についての正当な理由。:不使用の理由の提出に関しては、商

標権者が以下の事実を証明できない限り、正当な理由と認められることはほ

Page 224: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

224 アジア

中国

とんどないと言わざるを得ません。

 a)当該不使用が不可抗力によるものであること、

 b)当該不使用が国の政策によるものであること、

 c)商標権者が破産管財人の管理下におかれていること、又は、

 d)その他の相当な状況にあること(個別的に認められる。)。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 XX 社は、中国に販売代理人、販売拠点、ライセンシーを有しない

外国の会社です。したがって、ウェブサイト上の広告における問い合わせ先

及び注文先はすべて外国に向けられていると思われます。かかる場合、その

言語が中国語であったとしても、中国では登録商標の広告とはおそらく判断

されないと言わざるを得ません。当該ウェブサイトでは価格も人民元で表示

されています。しかし、ご存知の通り、中国本土では、消費者が外国に対し

て人民元で支払うことはできません。したがって、人民元で価格を表示する

ことは、中国の消費者がウェブサイトを介して電子商取引を行えることの証

明となりません。米国ドル又は他の通貨で支払うことが可能な電子商取引が

実際に存在する場合、当該取引が実際に行われたことを証明するために、船

積書類、通関書類等が審査官によって要求されるでしょう。

 設問の事例に関して、もし我々の理解が正しくなければ、すなわち、もし

ウェブサイト上の広告に示された問い合わせ先及び注文先が、契約販売代理

人、販売拠点又はライセンシー以外の一定の事務所であって、中国本土に所

在する場合、中国における商標の広告であると判断される可能性があります。

しかしながら、使用日、すなわち、当該広告がそこに掲載され始めた日を証

明するには、大きな問題があります。上述の通り、取消請求日前の 3 年以

Page 225: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

225アジア

中国

内の使用を証明することが要求されます。通常、商標権者が中国商標局から

使用の証拠の提出を求める通知を受け取った際に、関連するウェブページの

開始日を証明することは、商標権者にとっていつも非常に困難です。

 今日までの状況を全般的に見て、商標権者がウェブサイトにおける登録商

標の広告のみを提出しても、中国商標局は、中国において当該商標が使用さ

れていたとは判断しないでしょう。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 商標の使用は、中国本土で行われている必要があります。我々の

意見では、ウェブサイトでの広告を証明する個人の宣誓供述書は、設問の事

例では有益ではないと思われます。中国の実務では、個人輸入は証明するこ

とが困難であり、したがって、中国商標局によって認められることはほとん

どないでしょう。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 Q.9及びQ.10に対する上記の我々の回答から結論が導かれ

る通り、外国に置かれたサーバーの場合は、取消しに対する防御をより困難

なものにすると思われます。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 中国語の表示がなければ、それらの広告が中国の市場に向けて行

われているとはほとんど言えません。Q.9及びQ.10に対する上記の我々

の回答から導かれる通り、そのようなウェブサイトのみに基づいて取消しを

防御することは、ほとんど不可能です。

Page 226: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

226 アジア

中国

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 Q.9及びQ.10に対する上記の我々の回答に基づき、この設

問の事例における状況は、取消しの防御における我々の困難さに差異を生じ

させるものではありません。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 上記のQ.9及びQ.10において我々が挙げた回答に加えて、

不使用に基づく取消審判においては、そのような使用を以って、登録商標の

使用を主張できる可能性はほとんどどありません。商標が URL に表示され

ているだけの場合は、そのような使用が商標の使用と判断されることはない

と考えます。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 Q.9及びQ.10に対する我々の回答から結論付けられる通り、

この設問の事例における状況は、我々の議論をさらに弱めます。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 上述の通り、商標権者がそのウェブサイトにおける登録商標の広

告を提出するのみである場合、中国商標局は、当該商標が中国において使用

Page 227: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

227アジア

中国

されていたとは判断しないでしょう。判例はほとんどありません。

 貴方の商標権を中国において有効に守るための実務上の一般的な方法は、

商標登録の有効期間中、中国現地を本拠とする新聞に定期的に広告を掲載し

続けることです(3 年間に 1 回以上が良い)。なぜなら、日付の入った情報

が新聞に明示されるため、我々は使用の日付を証明する困難を容易に克服す

ることができるからです。もちろん、これらの広告には、中国の消費者が現

地で購入できる方法、例えば、中国本土内の問い合わせ先、連絡窓口、注文

及び支払い方法が常に記載されていなければなりません。中国において適格

性を有する広告は、中国の消費者が中国本土内で商品を購入する方法を明確

に示すものでなければならないため、これらの情報は重要です。

(原稿受領日 2008 年 2 月 21 日)

Author: Ms. Ya Feng Ms. Hong Guan Shanghai Patent & Trademark Law Office, LLC 435 Guiping Road, Caohejing Hi-Tech Park Shanghai 200233, People's Republic of China Tel: +86-21-64853500 Fax: +86-21-64828651/2 Email: [email protected] Website: http://www.sptl.com.cn/

Page 228: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

228 アジア

香港

香港 (Hong Kong)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 (a)侵害の定義

 商標条例に基づき、登録商標の侵害は以下の場合に生じます。

 (ⅰ)同一の標章が、商標登録に係る指定商品・指定役務と同一の商品・

役務に使用される場合

 (ⅱ)同一の標章が、商標登録に係る指定商品・指定役務と類似の商品・

役務に使用される場合であって、かつ被疑侵害標章の使用が公衆に混同を生

じさせるおそれがある場合

 (ⅲ)類似の標章が、商標登録に係る指定商品・指定役務と同一又は類似

の商品・役務に使用される場合であって、かつ被疑侵害標章の使用が公衆に

混同を生じさせるおそれがある場合

 (ⅳ)同一又は類似の標章が、商標登録に係る指定商品・指定役務と非類

似の商品・役務に使用される場合であって、その登録商標が香港において周

知であり、正当な理由なきその標章の使用が、その登録商標の評判を不正に

利用又は損なう場合

 (b)並行輸入

 商標条例に基づき、並行輸入は認められています。したがって、商標権者

の同意の下、世界のどこかで市場に置かれ、その後、香港に輸入される商品

にその登録商標を使用することが、登録商標の侵害となることはありません。

しかしながら、この例外は、商品が市場に置かれた後に、商品の状態が変更

又は毀損され、かつそのような商品に登録商標を使用することが当該登録商

標の識別性を損なう場合には適用されません。

Page 229: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

229アジア

香港

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 いいえ。しかし、当該商標が、商標登録に係る指定商品又は指定役

務について、商標権者により又はその同意を得て、継続して 3 年又はそれ

以上、香港において真正に使用されておらず、不使用について正当な理由 ( 例

えば、商標登録に係る商品又は役務に関する輸入規制又はその他の政府の規

制 ) がない場合、商標登録は取り消される可能性があります。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 上記の 1(a)をご覧頂下さい。「love」の語の使用が公衆に混同を

生じさせるおそれがある場合、例えば、そのジャケットに「love」の語が目

立つように使用され、公衆がその CD は「LOVE」の商標権者によって製造

されたか又はその商標権者と関連していると誤認する場合には、侵害を構成

するおそれがあります。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4

 (a)再度、上記の 1(a) をご覧下さい。(ⅰ)、(ⅱ)又は(ⅳ)に該当する

場合には、侵害になるでしょう。

 (b)図形ではなく文字から構成される表示は、おそらく類似商標と判断

されるでしょう。(ⅲ)又は(ⅳ)に該当する場合には、侵害を構成するでしょ

う。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 上記の 1(a)をご覧下さい。頒布される万年筆が商標権者によっ

Page 230: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

230 アジア

香港

て製造又はライセンス製造されたものでなければ、侵害を構成するでしょう。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 いいえ。商標条例第 19 条(3)(d)は、商品又は役務の意図され

た用途(例えば、付属品又は予備部品としての用途)を表示するために必要

な場合は、登録商標の使用は侵害とならない旨を規定しています。ただし、

その使用が工業上又は商業上の公正な慣行に従って行われる場合に限りま

す。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 いいえ。香港法には、そのような要件はありません。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用

Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消される要件を説明して下さい。

A.8 そのような取消しを請求する場合、以下の事項を登録官に確信させ

なければなりません。

 「当該商標が、商標登録に係る指定商品又は指定役務について、商標権者

により又はその同意を得て、少なくとも継続して 3年間、香港において真正

に使用されておらず、不使用について正当な理由 ( 例えば、商標の使用に係

る商品又は役務についての輸入規制又はその他の政府の規制 ) がないこと。」

 上記の目的上、商標の使用には以下ものが含まれます。

 「(a)その商標が登録された態様における商標の識別性に影響を与えない

要素において異なる態様による使用、

 (b)輸出のみを目的として、香港において商品又は商品の包装に商標を

Page 231: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

231アジア

香港

付すること、及び、

 (c)商標が役務について登録されている場合は、香港外で提供されている

又は提供される予定である役務に関する使用。」

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国において当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 商標条例第 6 条は、以下の通り規定しています。

 「本条例に言う商標又は標識の使用 ( 又は使用についての特定の説明 ) は、

視覚的に表示される方法によるか否かを問わず、如何なる使用 ( 又はその使

用についての説明 ) も含むものと解釈する。」

 したがって、香港のサーバーを用いたインターネット上の広告は、この定

義に含まれるように思われます。

 さらに、商標条例に基づき、不使用を判断する目的上、商標の使用には以

下の使用が含まれます。

 「(a)その商標が登録された態様における商標の識別性に影響を与えない

要素において異なる態様による使用、

 (b)輸出のみを目的として、香港において商品又は商品の包装に商標を

付すること、及び、

 (c)商標が役務について登録されている場合は,香港外で提供されている

又は提供される予定である役務に関する使用。」

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 (回答なし。)

Page 232: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

232 アジア

香港

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 たとえ香港にサーバーが設置されていなくとも、当該ウェブサイ

トが香港においてアクセスすることが可能であり、当該万年筆が販売のため

に広告され、通信販売によって香港で入手することが可能である場合、香港

における商標の使用があったと議論する余地がなおあります。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場合はどうですか。

A.12 中国語及び英語の両方が香港の公用語です。したがって、中国語

による表示がないことが、状況を実質的に変えることはありません。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場合はどうですか。  ・登録商標「XYZ」  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 商標条例第 6 条は、以下の通り規定しています。

「本条例に言う商標又は標識の使用 ( 又は使用についての特定の説明 ) は,

視覚的に表示される方法によるか否かを問わず、如何なる使用 ( 又はその使

用についての説明 ) も含むものと解釈する。」

 したがって、本条例に規定されるように、設問の当該広告は、なお商標の

使用を構成すると議論する余地があります。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれているのみである場合はどうですか。

A.14 Q.13に対する回答をご覧下さい。商標の使用は、実際に商標

Page 233: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

233アジア

香港

を製品に付すことによってなされなければならないという法的な要件はあり

ません。その商標が XX 社の製品と他の企業の製品とを識別するために使用

されている限り、商標の使用として十分です。しかしながら、商標が URL

の中にのみ含まれている場合は、目立たない態様で示されていることになり、

商標が XX 社の製品と他の企業の製品とを識別するために使用されていると

は言えません。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 インターネットを通じて香港の消費者がその製品を入手できる限

り、香港の通貨が表示されていなくとも、使用について揺ぎ無い主張をする

ことができます。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 そのような審判決例はありません。

(原稿受領日 2008 年 3 月 31 日)

Author: Mr. Joseph Tsang Tsangs 13/F., Chiyu Bank Building 78 Des Voeux Road, Central, Hong Kong Tel: 852-2851-2822 Fax: 852-2581-2258 Email: [email protected]/

Page 234: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

234 アジア

インド

インド (India)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 インドにおいては、商標登録は、商標に係る所有権及びその所有権

に対する侵害の救済手段を付与するという簡易な方法により、商標について

より十分な保護を付与します。商標権者の権利行使における簡易化を図るこ

ととは別に、商標権者は、商標登録により、業務上のグッドウィルを伴わず

に商標を譲渡し、第三者が登録使用権者又は非登録使用権者としてその商標

を使用することを許諾することができます。

 インドでは、1999 年商標法第 29 条が登録商標の侵害を扱っています。

第 29 条は、商標権者又は許諾使用による使用者以外の者が以下の行為をす

るとき、登録商標を侵害すると規定しています。

 1. 取引過程において、同一又は欺瞞的に類似する商標を商標登録に係る

指定商品・役務と同一の商品・役務について、使用するとき。

 2. 取引過程において、同一の商標を類似の商品・役務について、類似の

商標を同一又は類似の商品・役務について、又は同一の商標を同一の商品・

役務について、使用するとき。

 3. 取引過程において、インドにおいて評判を有する登録商標と同一又は

欺瞞的に類似する商標を商標登録に係る指定商品以外の商品に使用すると

き。

 4. 取引過程において、登録商標を、自己の商号若しくはその一部として、

又は商標登録に係る指定商品・役務を取り扱う会社の名称若しくはその一部

として、使用するとき。

 5. 当該登録商標を、取引書類として、商品のラベル又は包装に用いるこ

とを意図している物に、又は商品若しくは役務の広告に用いることを意図し

Page 235: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

235アジア

インド

ている物に付するとき。ただし、その者が、その商標を付するときに、その

商標の貼付が正当に許諾されていないことを知っていたか又はそのように信

じるに足る理由があった場合に限る。

 6. 当該商標を広告に掲載するとき。ただし、その広告が、登録商標を不

正に利用するものであって、工業又は商業上の公正な慣行に反するものであ

る場合、又は登録商標の識別性を損なう場合、又は登録商標の評判に反する

場合に限る。

 7. 登録商標の識別力を有する構成要素が言葉からなるか又は言葉を含む

ときは、商標の侵害は、その言葉の視覚的な表示によるのみならず、口頭に

よる使用によっても生ずるものとする。

 インドには、並行輸入に関する特定の法令は存在しませんが、並行輸入は

1999 年商標法によってカバーされています。法第 30 条(4)は、商品が市場

に置かれた後、その商品の状態が変化又は毀損したという正当な理由が存在す

る場合は、商標権者はその商品のそれ以降の取引に反対することができる、と

規定しています。この点に関して、裁判所は、一般に、第 30 条(4)に記載の

変化が実質的であるためには、その変化は物理的でも非物理的であってもよい

という見解を取ってきており、商品の状態が変化又は毀損したことを示す要素と

して、とりわけ、以下のものを指摘しています。:(1)アフターサービスや修理

の欠如を招くような保証の欠如、(2) 我国の表示法に不適合 /違反するような表

示の相違。

 Samsung�Electronics�Company�Ltd.�and�another�v.�G.�Choudhary�and�

another�[2006�(33)�PTC�425]、Bose�Corp.�v.�Mehta[Suit�337�of�2006]、GE�v.�

A.�Khan[Suit�1283�of�2006]の各事件において、裁判所は、インドへの真正

商品の並行輸入に対し、一方的差止命令を発しました。

 したがって、当該商品が、第 30 条(4)に規定される商品の「実質的な変化」

の要件を満たす場合は、真正商品の並行輸入は侵害を構成します。

Page 236: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

236 アジア

インド

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 インドでは、商標権者が登録商標を使用していることは、商標権行

使の要件とはなりません。商標権者は、たとえその商標を使用していなくて

も、商標権者が国境を越えて獲得した評判に基づいて侵害訴訟を提起するこ

とができます。ただし、当該商標の評判が、新聞記事、広告等を通じてイン

ドに伝わっていることを証明できる場合に限られます。

 インドの商標原簿における登録の継続性との関係で、1999 年商標法第

47 条(これは、1958 年「貿易及び商品商標法」の第 46 条に対応します。)

は、登録後 5 年と 3 月間の不使用に基づく商標の取消しを規定していますが、

裁判所は、商標権者による 5 年以上の商標の不使用にもかかわらず、詐称

通用を理由として、第三者に対する差止命令を求める商標権者の権利を幾

度となく認めてきました [Polson�Ltd.�v.�Polson�Dairy�and�Ors.(01.�09.�1994)

Delhi�HC 事件、Avis�International�Ltd.�v.�Avi�Footwear�Industries�AIR�1991�

Del.�22 事 件、Ahmed�Oomerbhoy�and�Anr.�v.�Shri�Gautam�Tank�and�Ors.�

146�(2008)�DLT�774 事件 ]。

 したがって、たとえインドにおいて商標を使用していなくても、商標権者

は侵害訴訟を提起することができます。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 いいえ、音楽 CD のジャケット上に題号を表示することは、CD の

雰囲気 / 内容を反映するものであり、それゆえ商標権の侵害ではないと判断

されます。LOVE、MUSIC、ROMANCE のような言葉は、取引者が CD の内

容を記述するために必要であるという善意使用の要件を満たすと判断される

でしょう。

 登録は侵害の根拠となり得ますが、そのような登録はその商標の記述的性

質を考慮すると、無効であると主張し得ると思われます。

Page 237: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

237アジア

インド

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 はい、他人の登録商標と同一の図形を T シャツの胸に表示すること

は、商標権侵害となります。

 その商標が第 25 類において登録されている場合は、第 29 条(1)の規定

が適用され、評判を証明する必要はありません。商標が第 25 類以外の商品

区分において登録されている場合は、商標の評判の証明を要求する第 29 条

(4)の規定が適用されなければなりません。

 その図形が 2000 年意匠法に基づいて登録されるべきものであれば、意匠

法に基づく意匠権侵害となるでしょう。その図形が独創的な芸術著作物であ

るロゴであれば、著作権侵害となります。

 以上より、他人の登録商標と同一の図形の使用は侵害となります。その表

示が図形ではなく、文字が同一の場合も同じでしょう。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 そのボールペンが「ABC」の商標権者によって製造されている場合

は、1999 年商標法第 30 条の規定に基づき、商標権の消尽の原則によって、

商標権侵害とはならないでしょう。

 そのボールペンが第三者によって製造され、フリーギフトとして配布され

る場合は、登録商標「ABC」の侵害になる可能性があります。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 いいえ、商品の用途を示す目的で他人の登録商標を表示することは、

その商標権者の有する商標権を侵害しません。

 1999 年商標法第 30 条(1)の規定は、何人も商標権者の商品又は役務を

Page 238: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

238 アジア

インド

特定することを目的として他人の登録商標を使用することができる旨を規定

します。ただし、その使用が、工業又は商業上の公正な慣行に従い、登録商

標の識別性若しくは評判を不正に利用又は損なうものではない場合に限られ

ます。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 いいえ。インドにおいては、商標権者は、その商標が登録されてい

ることを表示するために、Ⓡの記号を使用することは必要ではありません。

しかしながら、登録商標であることを表示するために、Ⓡが使用されること

は望ましく、推奨されます。当該表示は、その商標の登録が有効であること

を表示することになります。

 しかしながら、係属中の出願商標に対して、若しくは出願されていない場

合に、Ⓡの記号を使用することは禁止されており、1999 年商標法第 107 条

に基づき罰せられます。科せられる刑は、3 年以下の拘禁若しくは罰金、又

はその併科です。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用

Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消される要件を説明して下さい。

A.8 インドにおいては、登録商標の取消審判請求は以下の理由によりま

す:(1)登録商標の不使用、かつ、誠実かつ真正な使用意思の不存在、(2)

登録簿に記載されている条件の違反又は不遵守、(3)十分な根拠のない登

録簿への登録、(4)登録簿に誤って残存している登録又は登録簿における

登録の誤記又は瑕疵。

 1999 年商標法第 47 条は、不使用を理由とする取消しについて規定して

います。第 47 条(1)(a)は、その商標について誠実かつ真正な使用意思

Page 239: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

239アジア

インド

がなかったにもかかわらず登録され、かつ実際にその商標について誠実かつ

真正な使用がなかった場合における、当該登録商標の取消しについて規定し

ています。第 47 条(1)(b)は、取消請求前 3 月までに、登録の日から少

なくとも 5 年間が経過し、その期間、その商標の誠実かつ真正な使用がなかっ

たとことに基づく当該登録商標の取消しについて規定しています。

 取消請求をする者は、その不使用が、インドにおける商標の使用に関する

法律上の規制に起因する場合、その他の特別な事情に起因し、かつその商標

を放棄又は使用しない意思によるものでなかった場合、その不使用に依拠す

ることができません(1999 年商標法第 47 条(3))。

 「誠実かつ真正な(bonafide)」という言葉は、多くの判決において、「通

常かつ真正な(ordinary and genuine)」を意味すると定義されてきました

[Electrolux�Ltd.�v.�Electrix�Ltd.,�1954�(71)�RPC23]。しかしながら、使用の最

小限のレベルを設定することは、極めて難しいことです。重要なことは、取

引において商標を使用する誠実かつ真正な意思です。

 Hardie�Trading�Ltd.�v.�Addisons�Paint�&�Chemicals�Ltd.,�AIR�2003�SC�3377

の事件において、最高裁判所は以下のように判示しました。「『商品との関係

におけるその誠実かつ真正な使用』は、法第 2 条(2)に次のとおり定義さ

れている。

 『法第 2 条(2) 商品との関係における商標の使用は、物理的関係である

か又はその他如何なる関係であるかを問わず、当該商品についての商標の使

用をいうものと解釈する。』

 これは、使用は、物理的関係以外でも存在し得ることを示している。使用

が商品とその他の関係にあり得ることを示している。この規定の意義を考慮

すると、使用を商品への使用又は商標を付した商品の販売に限定する理由は

ない。」

 さらに、当該事件において、不使用に基づく登録の除去の目的上、「法的

利益を侵害された者」という文言は、誤って登録簿に記載された登録又は

誤って残存している登録の取消し、抹消又は変更のために使用される文言と

Page 240: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

240 アジア

インド

異なった意義を有すると判示されています。後者の場合、そのような誤った

登録を除去することは、同業者の利益に反しないばかりではなく、公衆の利

益にもなるため、訴えの利益を広く認めることができます。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国において当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 インドでは、商標の「使用」は、商標出願における記載事項として

は要求されません。商標の使用は詐称通用の場合において要求されます。取

消しの場合には、取消手続の防御として登録商標の使用が必要です。

 ドメイン名若しくはウェブサイトが特にインド向けであることが意図され

ているか、インド向け部分を有しているか、又はいずれかのインド言語によっ

て表示されている場合、その使用は、取消手続の防御として十分な使用と判

断される可能性があります。購入のオプション、アクセスの証拠等の状況に

よりますが、何らかの問合せや注文があれば、取消手続を克服するのに十分

な使用と認められる可能性があります。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 はい。、消費者が当該広告を見て製品を個人輸入したことを XX

社が証明できるなら、登録商標の使用と判断されるでしょう。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 ウェブサイトのサーバーの設置場所は重要ではありません。サー

バーがインドに設置されていなくても、商標権者の使用と判断されるでしょ

う。

Page 241: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

241アジア

インド

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場合はどうですか。

A.12 インドの公用語はヒンディー語ですが、英語が当該ウェブサイト

でアクセスできる言語のうちの一つである限り、取消手続を克服するのに十

分であると思われます。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場合はどうですか。  ・登録商標「XYZ」  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 上記の登録商標の使用は、その商標に係る出願をする目的上、不

十分でしょう。詐称通用に係る訴訟を開始するためには、そのような使用は

十分でしょう。取消手続においては、そのような使用は十分ではない可能性

があります。なぜなら、商品を購入するオプションがないので、インドに

おける当該商標の誠実かつ真正な使用意思を有しないと解釈され得るからで

す。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれているのみである場合はどうですか。

A.14 登録商標の使用とは判断されないでしょう。なぜなら、商品を購

入するオプションがないので、インドにおける当該商標の誠実かつ真正な使

用意思を有しないと解釈され得るからです。

 仮に誰かが商品を購入したとしても、当該商品に登録商標「XYZ」が付さ

れていないことになるでょう。したがって、そのような販売は、出願への記

載の目的上においてさえも、使用には該当しないでしょうし、そのような販

売だけでは、不使用に基づく取消しに対して登録を維持し得る使用には該当

Page 242: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

242 アジア

インド

しないでしょう。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 登録商標を付した商品がインドの通貨で表示されているかどうか

は、重要ではありません。インドの通貨以外の通貨で表示されていても、購

入オプションがあり、インドにおいて商品の配送を受けることが可能である

限り、オンラインによる購入として、取消手続を克服し得る登録商標の使用

となる可能性があります。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 我々の知る限りでは、上述の問題を取り扱った事例は報告されて

いません。

(原稿受領日 2008 年 4 月 16 日)

Author: Mr. Revanta Mathur Anand and Anand B-41, Nizamuddin East New Delhi-110013, India Tel: + 91.120.4059300 Fax: + 91.120.4243056-057/59 Email: [email protected] Website: http://www.anandandanand.com/

Page 243: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

243アジア

インドネシア

インドネシア (Indonesia)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 第 90 条 何人も、故意にかつ権利なく、他の者の登録商標とその

全体において類似する標章を、製造及び / 又は取引される同種の商品及び /

又は役務に使用する者は、最長 5 年の拘禁及び / 又は最高額 1,000,000,000

(10 億)インドネシア・ルピアの罰金に処せられます。

 第 91 条 何人も、故意にかつ権利なく、他の者の登録商標とその要部に

おいて類似する標章を、製造及び / 又は取引される同種の商品及び / 又は役

務に使用する者は、最長 4 年の拘禁及び / 又は最高額 800,000,000(8 億)

インドネシア・ルピアの罰金に処せられます。

 第 94 条 何人も、第 90 条及び第 91 条に規定される侵害から生じたこ

とを知っている又は当然知っているべき商品及び / 又は役務について取引を

行った者は、最長 1 年の拘禁及び / 又は最高額 200,000,000(2 億)イン

ドネシア・ルピアの罰金に処せられます。

 我国においては、並行輸入に関する規定はありません。したがって、真正

商品の並行輸入は商標権の侵害を構成しません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 我国の 2001 年法律第 15 号の商標法によると、商標権者は商標を

使用してもしなくても構いません。しかし、当該商標がその登録日又は最後

の使用日から 3 年以内に使用されなければ、当該登録は、如何なる第三者

からの請求によっても、不使用を理由として取り消される可能性があります

(第 61 条)。

Page 244: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

244 アジア

インドネシア

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 その表示がアルバムの題号に過ぎない場合は、商標権の侵害を構成

しません。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 シャツのブランドが、他人の商標の全体又はその要部において類似

する限り、当該他人の商標権の侵害を構成するでしょう。さらに、文字商標

の場合も、その文字商標の全体又はその要部において類似する商標を使用す

る場合も同様でしょう。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 当該万年筆のブランドと異なる限り、侵害を構成しません。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 いいえ。当該第三者が自己のインクジェットプリンターインク製品

として「ABC」商標を使用するものでない限り、当該行為は侵害を構成しま

せん。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 「R」や「TM」の記号の使用に関する規定はありません。したがって、

そのような表示は商標権の行使の要件ではありません。

Page 245: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

245アジア

インドネシア

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消される要件を説明して下さい。

A.8 関連の行政機関、例えば、通商産業局から、登録商標が登録日又は

最後の使用日から継続して 3 年間、インドネシアの全領域において、取引上

使用されていない旨を確認する正式な通知があった場合に取り消されます。

 インドネシアの全領域における当該商標の不使用に関する地方政府の確認

陳述書があった場合に取り消されます。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国において当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 「使用」とは、商品がインドネシアの領域において実際に販売され

ていることを意味します。ウェブサイトを通じてなされる販売は、使用とは

判断されません。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 いいえ。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 いいえ。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場合はどうですか。

Page 246: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

246 アジア

インドネシア

A.12 いいえ。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場合はどうですか。  ・登録商標「XYZ」  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 いいえ。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれているのみである場合はどうですか。

A.14 いいえ。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 いいえ。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 ウェブサイト上での販売がなされている場合において、不使用が

裁判所で争われた事例は、現在のところ存在しません。

(原稿受領日 2008 年 3 月 31 日)

Author: Mr. Heru Lukito Amroos & Partners Jl Permata Hijau Raya, B-29 Senayan, Jakarta 12210, Indonesia Tel: +62-21 549 3880, 530 0680, 536 1576 Fax: +62-21 548 2506, 548 0068, 534 6550 Email: [email protected] Website: http://www.amroos.com/

Page 247: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

247アジア

日本日本

日本 (Japan)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 日本において、商標権は、①指定商品・役務について登録商標を独

占排他的に使用し、②他人が登録商標と同一又は類似の商標を指定商品・役

務と同一又は類似の商品・役務について使用する行為を禁止する効力を有し

ます。したがって、商標権の侵害行為とは、他人が正当な理由なく、登録商

標と同一又は類似の商標を指定商品・役務と同一又は類似の商品・役務につ

いて使用する行為をいいます。したがって、「商標の類否」、「商品・役務の類否」

及び「商標の使用」の判断が重要となります。また、直接侵害の予備的行為

(商標法 37 条)が間接侵害として、商標権の侵害とみなされます。

 2007 年 1 月 1 日の法改正により、使用の定義の中に、「輸出」が明記さ

れました。2007 年 1 月 1 日以前は、使用に輸出が含まれるか議論があり、

輸出は実際には譲渡を伴うから譲渡として取り締まることができるとしてい

ましたが、2007 年 1 月 1 日以降はこの議論に終止符が打たれ、輸出自体が

侵害行為とされました。

 真正商品の並行輸入は、原則として商標権侵害となりません。一定の要件、

即ち①真正商品であること、②内外権利者が同一であること、及び③品質が

同一であることを具備すれば、真正商品の並行輸入は商標権侵害ではありま

せん。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 日本では、商標権者が登録商標を使用していることは、商標権に基

づく差止請求権の行使の要件とはなりませんが、損害賠償請求権の行使の要

件となります。

Page 248: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

248 アジア

日本

 差止請求権は、商標権者が登録商標を使用していなくても、権利侵害をし

た者に対し、行使できます。すなわち、日本は使用主義を採用せず、登録主

義を採用し、商標権は設定登録により発生します(18 条)。したがって、登

録商標を商標権者が使用していなくても差止請求権(36 条)の行使が可能です。

 一方、損害賠償請求権(民法 709 条)の行使の要件は以下の通りです。

(ⅰ)権利侵害

(ⅱ)故意又は過失

(ⅲ)損害の発生及びその額

(ⅳ)権利侵害と損害の発生との間の相当因果関係

 (ⅰ)に関して、権利侵害とみなされる行為として予備的行為が含まれま

す(37 条)。(ⅱ)に関して、商標権者の保護のため、過失の推定規定(39

条で準用する特許法 103 条)があります。(ⅲ)については、損害額の算定

を容易にするための規定(38 条)が設けられています。

 商標権者が登録商標を使用していない場合には、そもそも損害が生じない

と考えられるとして、損害賠償請求権が認められなかった判決(例えば小僧

寿し事件 平成 9 年 3 月 11 日最高裁判決 平成 6 年(オ)第 1102 号など)

が多く見られます。これは、登録商標の使用が損害賠償請求権の行使の要件

となることを示していると考えられます。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 いいえ。音楽CDジャケット上の題号の表示は、音楽 CD に収めら

れた音楽の題号であり、内容を表示するものであるから、商標としての使用

ではないと考えられます。したがって、商標権侵害を構成しないと考えられ

ます。

 「UNDER THE SUN 事件」(平成 7 年 2 月 22 日東京地裁平 6( ワ)6280

号)において、第三者が、登録商標「UNDER THE SUN」と同一の表示を音

楽 CD ジャケットに表示したが、それは CD 音楽の内容を表示したものであ

Page 249: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

249アジア

日本

り商標としての使用ではないから、CD についての登録商標「UNDER THE

SUN」に係る商標権を侵害しないと判示されました。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 いいえ。Tシャツの胸全面に表示した図形は、原則として単にデザ

インとしての表示にすぎず、商標としての使用ではないから、他人の商標権

を侵害しないと解されます。

 ポパイ事件(昭和 51 年 2 月 24 日大阪地裁・昭和 49 年(ワ)393 号)

において、Tシャツに表示されたポパイの図形は、T シャツについてのポパ

イの図形の登録商標に係る商標権を侵害しないと認定されました。

 一方、Tシャツの胸全面に表示したものが文字のみである場合は、大きく

表示したとしても必ずしもデザインとしてのみ認識されるのではなく、識別

標識たる商標とも考えられるので、商標権侵害を構成する可能性があると考

えます。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 いいえ。上記の使用はボールペンについての商標の使用ではなく、

金融サービスについての使用であるからです。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 答えは、具体的な使用態様によります。当該第三者による「ABC イ

ンクジェットプリンター用のインクジェットプリンターインク」の表示が

「ABC インクジェットプリンターインク」(XX 社の純正製品)との混同を生

Page 250: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

250 アジア

日本

じさせるおそれがなければ、上記の表示は商標権侵害とはならないと考えま

す。一方、「ABC インクジェットプリンターインク」(XX 社の純正製品)と

の混同を生じさせるおそれのある表示又は行為は、商標権侵害となるおそれ

があると考えられます。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 登録商標であることの表示は推奨されますが、商標権行使の要件で

はありません。

 詳しく言えば、商標法第 73 条において、「商標権者、専用使用権者又は

通常使用権者は、登録商標である旨の表示を付するよう努めなければならな

い。」と規定されています。

 「登録商標である旨の表示」とは、経済産業省令において、「登録商標」の

文字及び「登録番号又は国際登録番号」であると定めています。「付するよ

う努めなければならない。」と規定され、違反した場合の罰則がないことから、

いわゆる訓示的な義務が課されているだけです。

 一方、Ⓡについてはなんら規定されていません。したがって、Ⓡの表示は、

日本では義務ではなく、もちろん商標権行使の要件ではありません。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用

Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 日本においては、商標法第 50 条第1項乃至第 3 項にその要件が明

記されています。第三者から当該登録商標に対して不使用取消審判の請求が

された場合、当該登録商標の商標権者が以下のことを証明しない限り、当該

登録商標は不使用を理由に取り消されます。

 (ⅰ)その審判の請求の登録前 3 年以内に、

Page 251: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

251アジア

日本

 (ⅱ)日本国内において、

 (ⅲ)商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、

 (ⅳ)その請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについて、

 (ⅴ)登録商標の使用をしていること。

ただし、その指定商品又は指定役務についてその登録商標の使用をしていな

いことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、こ

の限りではありません。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 指定商品との関係で登録商標が使用されている広告はインターネッ

トによるものであっても、我国においては登録商標の使用とされます(商標

法第 2 条第 3 項第 8 号)。ただし、当該条項に該当する広告であると言うた

めには、現実に提供し得る具体的な商品についての広告でなければなりませ

ん。

 前記事例を検討しますと、製品の仕様、価格、注文方法等が掲載されてお

り、XX 社は実際に自国にいおいて万年筆の事業を行っていることが認めら

れますから、前記事例の広告は具体的な商品を対象としたものであると判断

し得ます。したがって、我国において当該万年筆の販売が全くなかったとし

ても、原則として、当該広告は登録商標の使用として十分です。

 アクセス数の証明は必須ではありませんが、前記広告が広告として機能し

ていることを証明するために、相当数のアクセスがあったことを証明できる

ことが望ましいと思われます。

Page 252: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

252 アジア

日本

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 (回答なし。)

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 当該ウェブサイトのサーバーが我国に置かれていなくとも、前記

事例の広告は日本語による表示がなされ、我国の通貨での表示もなされてい

ることから、我国の消費者を対象とした広告と判断し得ます。したがって、

当該広告は登録商標の使用として十分であるとする余地はあります。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 日本語による表示がない場合でも、英語による表示があれば、日

本に在住する外国人消費者向けの広告と判断し得る場合も、一定の条件下、

あり得ると考えます。しかし後述(A.16)の判決例や使用証明に関する

日本国特許庁の取扱い実務を考慮すると、日本語による表示がない場合は、

日本国の消費者を対象とした広告であるとの主張は困難を伴うことが予想さ

れます。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 我国においては、登録商標の使用と言えるための広告は具体的な

商品を対象としたものでなければなりませんから、このような広告だけでは

Page 253: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

253アジア

日本

登録商標の使用とはいえません。

 しかし、この事例では、XX 社が自国において実際に各種万年筆の製造又は

販売を行っている事情を考慮する必要があります。そうすると、この広告に

接した消費者は、XX 社が万年筆を取り扱う会社であることを知るこができ、

かつ、具体的な取り扱い商品を XX 社に問い合わせることも可能であることか

ら、XX 社の万年筆の販売促進的機能を果たしていると判断し得ます。したがっ

て、このような広告でも登録商標の使用であるとする余地はあります。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 ウェブサイトの表題又は商品説明が当該万年筆の商標であると消

費者が認識し得る場合は、当該万年筆又はそのパッケージに登録商標が付さ

れていなくとも、当該登録商標に係る万年筆の広告と判断し得ますから、登

録商標の使用として十分です。

 しかし、URL に登録商標が組み込まれているだけでは、消費者が指定商

品「万年筆」との関係を容易に認識し得るとまでは言えませんから、登録商

標の使用とは言えません。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 我国の通貨、円による表示があることは、極めて望ましいと思わ

れます。しかし、我国の通貨、円による表示がなくても、米国ドル通貨によ

る表示がなされていれば、円通貨への換算は通常容易です。したがって、我

国の通貨の表示がないことを以って直ちに当該広告が具体的な商品の広告で

はないとまでは言えません。具体的な商品の広告と言えるかどうかは、その

他の要素をすべて考慮して総合的に判断されます。

 本件の事例の場合、円による表示がなくても、日本語による表示がなされ

Page 254: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

254 アジア

日本日本

ていること等のその他の要素を考慮すると、我国の消費者を対象とした具体

的な広告であると判断し得る余地があると思われます。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 ウェブサイトにおいて広告がなされていたが、登録商標の使用と

認められなかった事例として、以下の知財高裁判決があります(知財高裁平

17( 行ケ )10095 平成 17 年 12 月 20 日判)。:「被告は,1996 年から現在に

至るまで,ウェブサイトにおいて、指定商品「ピザ」の提供に関する広告を

行っており、当該ウェブサイトには日本からもアクセスが可能であり、日本

の複数の検索エンジンにおいて登録商標を構成する「PAPA JOHN's」の語で

検索した場合に直ちに検索できることが認められる。しかし,当該ウェブサ

イトは,被告の国のサーバーに設けられたものである上に,その内容もすべ

て英語で表示されたものであって,日本の需要者を対象としたものとは認め

られない。当該ウェブサイトは日本からもアクセス可能であり,日本の検索

エンジンによっても検索可能であるが,このことは,インターネットのウェ

ブサイトである以上当然のことであり,同事実によっては当該ウェブサイト

による広告を日本国内における使用に該当するものということはできない。」

(原稿受領日 2008 年 1 月 25 日)

Author: 竹内 耕三、向口 浩二 深見特許事務所 〒 530-0005 大阪市北区中之島二丁目 2 番 7 号 中之島セントラルタワー 22 階 Tel: 06-4707-2021 Fax: 06-4707-1731 Email: [email protected], [email protected] Website: http://www.fukamipat.gr.jp/

Page 255: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

255アジア

大韓民国

大韓民国 (Korea)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 韓国において商標権(サービス標権を含む)は、日本の場合と同様に、

①登録された指定商品又は指定サービス業について登録商標又は登録サービ

ス標を独占排他的に使用し、②他人が登録商標又は登録サービス標と同一又

は類似の商標又はサービス標を登録された指定商品又は指定サービス業と同

一又は類似の商品又はサービス業について使用する行為を禁止する効力を有

します。

 したがって、商標権(サービス標権を含む)の侵害行為とは、他人が正当

な理由なしに登録商標又は登録サービス標と同一又は類似の商標又はサービ

ス標を、登録された指定商品又は指定サービス業と同一又は類似の商品又は

サービス業について使用する行為を言います。したがって、商標権の侵害の

ための判断としては 「商標(サービス標)の類否」、「商品・サービス業の類

否」 及び 「商標の使用」 の判断が重要となります。また、日本の商標法と同

様に、直接侵害の予備的行為(商標法第 66 条)が間接侵害として商標権の

侵害と見なされます。

 一方、韓国では商標法第 2 条第 1 項第 6 号における商標の使用を “1. 商品

又は商品の包装に商標を表示する行為、2. 商品又は商品の包装に商標を表

示したものを譲渡若しくは引渡したり、又はその目的で展示・輸出又は輸入

する行為、3. 商品に関する広告・定価表・取引き書類・看板又は標札に商

標を表示、展示若しくは頒布する行為 ” であると定義しており、使用の定義

に輸出が最初から含まれていました。

 真正商品の並行輸入は日本と同様に原則として商標権の侵害にはなりませ

ん。

Page 256: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

256 アジア

大韓民国

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 韓国では、商標権者が登録商標を使用していることは、商標権に基

づいた差止請求権の行使の要件及び損害賠償請求権の行使の要件とはなりま

せん。

 差止請求権は、商標権者が登録商標を使用していなくても権利侵害した者

に対して行使することができます。すなわち、韓国は使用主義を採用してお

らず登録主義を採用しており、商標権は設定登録により発生します ( 第 41

条 )。したがって、登録商標を使用権者が使用していなくても差止請求権 ( 第

65 条 ) の行使が可能であります。

 一方、損害賠償請求権(韓国民法第 750 条)の行使の要件は日本と同じで、

以下の通りであります。

 (ⅰ) 権利侵害

 (ⅱ) 故意又は過失

 (ⅲ) 損害の発生及びその額

 (ⅳ) 権利侵害と損害の発生との間の相当因果関係

 (ⅰ)に関して、権利侵害として見なされる行為として予備的行為が含ま

れます(第 66 条)。(ⅱ)に関して、韓国特許法及びデザイン保護法は過失

の推定規定がありますが、韓国商標法では商標権者の保護のために故意の推

定規定(第 68 条)があります。(ⅲ)に関しては、損害額の算定を容易に

するための規定である “ 損害額の推定 ”(第 67 条)が設けられています。

 商標権者が登録商標を使用していない場合において、韓国の法院はそもそ

も損害が発生していないものと考慮されるべきであり、損害賠償が認められ得

ないものと大体において判断しています(大法院 2002 ダ 33175 判決、大法

院 2002 ダ 58594 判決など)。これは登録商標の使用が損害賠償請求権の行

使の要件であることを示しているものと思われます。

Page 257: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

257アジア

大韓民国

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 いいえ。音楽 CD のジャケット上の題号の表示は音楽 CD に収録さ

れた音楽の題号であり、内容を表示するものであるため、商標としての使用

ではないと思われます。したがって、商標権侵害を構成しないものと思われ

ます。

 韓国大法院では音楽 CD のような音盤の題号は特別の事情がない限り、書

籍の題号と同様にその音盤に収録された該当著作物の名称乃至はその内容を

含蓄的に示すものであって、商品の出所を表示する機能を果たし難いものと

判断しているため(大法院 2005 ダ 67223 判決)、登録商標と同一の題号を

音楽 CD のジャケット上において第三者が表示することは CD 音楽の内容を

表示するものであり、商標としての使用ではないため、音楽 CD を指定商品

としている登録商標の商標権を侵害しないものと思われます。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 韓国の大法院では “ 意匠と商標は排他的な関係にあるものではない

ため、意匠になり得る形状や模様であるとしてもそれが商標の本質的な機能

であるといえる自他商品の出所表示のために使用されるものと見ることがで

きる場合には商標としての使用であると見なければならない(大法院 2000

年 12 月 26 日宣告 98 ド 2743 判決)” と判示しております。

 したがって、原則として T シャツの胸全面に表示した図形は単純にデザ

インとしての表示であり、商標としての使用ではないため、他人の商標権を

侵害しないものと解釈されます。しかしながら、T シャツの胸全面に表示し

た図形が T シャツという商品の出所表示として使用される場合には商標的

な使用であると見なして商標権を侵害するようになります。

 一方、T シャツの胸全面に表示したものが文字である場合にはそれが独特

Page 258: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

258 アジア

大韓民国

にデザインされた場合でも文字として呼称されて観念されるため、自他商品

を識別する機能をなす商標として認識され得ます。したがって、商標権の侵

害となり得る可能性があるものと思われます。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 いいえ。上記の使用はボールペンの商品出所表示のための商標の使

用ではなく、金融サービスの広告のためにボールペンが使用されたものであ

るため、金融サービスに対するサービス標の使用に該当します。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 回答は具体的な使用態様によって異なります。当該第三者による

「ABC インクジェットプリンター用インクジェットプリンターインク」 の表

示が 「ABC インクジェットプリンターインク」(XX 社の純正製品)との混

同を引き起こすおそれがないとすれば、上記の表示は商標権の侵害にはなら

ないものと思われます。

  す な わ ち、 シ ン イ ル E.N.G. 事 件( 大 法 院 2007 年 7 月 13 日 2001 ド

1355 判決)において、第三者が自動車部品であるエアークリーナを製造し

つつ、その包装箱にエアークリーナが使用される適用車種を明らかにするた

めに自動車の製作会社の登録商標の表示をしたが、諸般事情に照らして部品

などの用途説明などのために使用したことに過ぎないという理由によりその

登録商標を使用したものと見ることができないため、商標権の侵害が成立し

ないと判示しました。

 しかしながら、「ABC インクジェットプリンターインク」(XX 社の純正製品)

との混同を引き起こすおそれがある表示又は行為は商標権侵害となるおそれ

Page 259: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

259アジア

大韓民国

があるものと思われます。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 韓国商標法第 90 条において 「商標権者、専用使用権者又は通常使

用権者は登録商標を使用するときには当該商標が登録商標であることを表示

することができる」 と規定されているため、Ⓡという登録商標の表示は韓国

では義務ではなく、商標権行使の要件でもありません。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用

Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 韓国においては商標法第 73 条第 1 項第 3 号にその要件が明記され

ています。第三者から当該登録商標に対して不使用取消審判が請求された場

合、当該登録商標の商標権者が以下の事項を立証できない限り、当該登録商

標は不使用を理由にして取り消されます。

 (ⅰ)その審判の請求の登録前 3 年以内に、

 (ⅱ)韓国内において、

 (ⅲ)商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、

 (ⅳ)その請求に係る指定商品のいずれかについて

 (ⅴ)登録商標の使用をしていること

 ただし、その指定商品についてその登録商標の使用をしていないことにつ

いて正当な理由があることを被請求人が立証したときには、この限りではあ

りません。

Page 260: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

260 アジア

大韓民国

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 指定商品との関係において登録商標が使用されている広告はイン

ターネットによるものであるが、“ 商品に関する広告に商標を表示し、展示

若しくは頒布する行為 ” に該当するため、登録商標の使用となると思われま

す(韓国商標法第 2 条第 1 項第 6 号ハ目)。ただし、当該条項に該当する広

告であるといえるためには現実的に提供することができる具体的な商品に対

する広告でなければなりません。

 上記の事例を検討すると、製品の仕様、価格、注文方法などが掲載されて

おり、XX 社は実際に自国において万年筆の事業を行っていることが認めら

れるために、上記の事例の広告は具体的な商品である万年筆を対象としたも

のと判断することができます。また、韓国にウェブサイトのサーバーがあり、

広告が韓国語でも表示されており、製品の価格もやはり韓国の通貨で表示さ

れているため、インターネットウェブサイト上のショッピングモールのアク

セスを介した製品の購入及び販売が行われることが普遍化された韓国におい

て、韓国の消費者が当該ウェブサイトにアクセスするのが当然可能であれば、

このような広告は韓国内における消費者を対象とした広告行為となって登録

商標の使用と見ることができるものと思われます。

 したがって、韓国において、当該万年筆の販売が全くなかったとしても原

則として当該広告は韓国内における登録商標の使用として十分であると思わ

れます。

 登録商標権者である XX 社のウェブサイトに対するアクセス数を証明する

ことが必ずしも必要な訳ではありませんが、上記の広告が広告として機能し

ていることを証明するために韓国において相当数のアクセスがあったことを

Page 261: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

261アジア

大韓民国

証明することが登録商標の使用を立証するのに一層役立つものと思われま

す。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 上記Q.9に対する回答が 「可」 であるため、該当質問に対して

は回答する必要はない訳でありますが、韓国の消費者が当該広告を見て商品

を個人的に輸入したという事実を XX 社で立証することができれば、登録商

標の使用を立証するのに一層役立つものと思われます。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 当該ウェブサイトのサーバーが韓国に置かれていなくとも前記事

例の広告は韓国語による表示がなされ、価格も韓国の通貨で表示されている

ため、韓国の消費者を対象とした広告であると判断することができます。

 また、インターネットショッピングモールによる製品の購入及び販売がな

されているのが普遍化された韓国において、韓国の消費者が当該ウェブサイ

トにアクセスすることが当然可能であれば、これは韓国内における消費者を

対象とした広告行為となり、登録商標の使用であると見ることができるもの

と思われます。したがって、当該広告は登録商標の使用として十分であると

いえる余地があるものと思われます。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 韓国語による表示がない場合でも、XX 社が国の公用語のみでは

なく英語による表示もあり、韓国の通貨で価格が表示されており、該当ウェ

ブサイトに韓国の消費者が当該ウェブサイトにアクセスすることが当然可能

Page 262: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

262 アジア

大韓民国

であれば、韓国に住んでいる外国人消費者及び韓国通貨を使用する韓国消費

者のための広告であると判断することができます。

 一方、韓国の大法院では “ 外国において外国語で発行された刊行物であっ

ても該当刊行物が韓国に輸入・販売されていれば、韓国内の消費者がその外

国において発行された刊行物に掲載された商品広告に接することができるた

め、このような外国において発行された刊行物を通じた韓国内における商標

の宣伝広告行為は商標の使用に該当するものと認められる(大法院 1991 年

12 月 13 日宣告 91 フ 356 判決、1999 年 3 月 23 日宣告 98 フ 1907 判決)。”

と判示しています。

 したがって、このような韓国の大法院の判例によるときにも当該インター

ネットウェブサイト上の広告が韓国の消費者がアクセスすることができるも

のであるならば、韓国における登録商標の使用と見ることができるものと思

われます。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 韓国においては、登録商標の使用であると言えるための広告は具

体的な商品を対象としたものでなければならないため、このような広告だけ

では登録商標が指定商品である万年筆に使用されているといえません。

 しかしながら、具体的な事例によっては、XX 社が自国において実際に各

種万年筆の製造又は販売をしている事情を考慮する必要があります。それな

らば、この広告に接した消費者は XX 社が万年筆を取り扱う会社であること

が分かり、また、具体的な取扱商品を XX 社に問い合わせることも可能であ

るため、XX 社の万年筆の販売促進のための広告機能を果たしていると判断

することもできます。したがって、このような広告でも登録商標の使用であ

Page 263: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

263アジア

大韓民国

るといえる余地はあるものと思われます。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 ウェブサイトのタイトル又は商品説明が当該万年筆の商標である

と消費者が認識し得る場合は、当該万年筆又はそのパッケージに登録商標が

付されていなくとも、当該登録商標に係る万年筆の広告であると判断するこ

とができますから、登録商標の使用として十分であります。

 しかし、URL に登録商標が組み込まれているだけでは、消費者が指定商

品 「万年筆」 との関係を容易に認識し得るとまではいえませんから、登録商

標の使用であると認められません。

 即ち、MARIOUOMO 事件(特許法院 2006 年 12 月 29 日宣告 2006 ホ

7214 判決確定)において、商標権者が登録商標である “MARIOUOMO” を

含んでいる “www.mariouomo.co.kr” を URL にしてウェブサイトを運営して

いることだけではウェブサイトにおいて登録商標が表示された指定商品を広

告したといえないと判示されました。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 英語で表示された外国のインターネットショッピングモールを用

いて米国ドルで価格が表示されている外国の商品を購入することが一般的に

なされている韓国の実取引き状況を考慮してみたときに、韓国の通貨である

ウォンによる表示がなくてもドル通貨による表示がされていれば、ウォン通

貨への換算は通常、容易であると思われます。したがって、韓国の通貨表示

がないことを以って直ちに当該広告が具体的な商品の広告ではないとまでは

いえません。

 したがって、具体的な商品の広告であるといえるか否かはすべての事項を

Page 264: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

264 アジア

大韓民国

全部考慮して総合的に判断するものであり、韓国の通貨であるウォンによる

表示がなくても韓国にウェブサイトのサーバーがあり、広告が韓国語でも表

示されており、韓国の消費者が当該ウェブサイトにアクセスすることが当然

可能であることを考慮すると、韓国の消費者を対象とした具体的な広告であ

ると判断することができる余地は十分にあり、登録商標の使用であるという

主張が可能であるものと思われます。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 韓国では前記のA.14において述べたように、ウェブサイトに

おける使用問題に関して商標権者が登録商標を含んでいる URL を使用して

ウェブサイトを運営していることだけではウェブサイトにおいて登録商標

が表示された指定商品を広告したといえないと判断した MARIOUOMO 事件

(特許法院 2006 年 12 月 29 日宣告 2006 ホ 7214 判決確定)がありますが、

該当判決以外には現在(2008 年 3 月)インターネットウェブサイトにおけ

る登録商標の不使用が争われた具体的な判決や審決はありません。

(原稿受領日 2008 年 9 月 28 日)

Author: Mr. Myung-shin Kim MYUNG-SHIN & PARTNERS INTELLECTUAL PROPERTY LAW FIRM 12th Floor Jindo Building, 37 Dowha-dong, Mapo-gu, Seoul, Korea Tel: 82-2-714-9922 Fax: 82-2-714-9933 Email: [email protected], [email protected] Website: http://www.mspat.co.kr/

Page 265: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

265アジア

マレーシア

マレーシア (Malaysia)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 登録商標は、商標権者に、商品又は役務に商標を使用する独占的な

権利を付与します。第三者は、同一の商品又は役務に、同一又は類似の商

標を使用することが禁止されます。この保護は、1976 年マレーシア商標法

の下、商標権者に与えられています。商標権者は、さらに、商標権者でもな

く、登録された使用権者でもない第三者が、登録商標と同一又は類似の商標

を、商標登録に係る指定商品・役務と同一の商品・役務に使用することによ

り、取引過程において他人を欺き又は混同を生じさせるおそれがある場合に

は、当該第三者に対して訴訟を提起する権利を有しています。これは商標法

第 38 条及び第 39 条に規定されています。マレーシア商標法第 38 条には、

2 つの種類の商標権侵害が規定されています。第1は、登録商標と同一又は

類似の商標を商標的意味において使用することです。そのような商標の使用

は、商品又は役務の取引の過程において、他人を欺き又は混同を生じさせる

おそれがあります。第 2 は、同一又は類似の商標であって、商標権者又は

登録された使用権者を連想させるものを、権原なく使用することです。侵害

が生じた場合、権利者は 2 つのことを証明しなければなりません。すなわち、

侵害行為がなされたこと、及びその行為が登録商標に与えられている保護範

囲内に含まれることです。

 マレーシアにおいては、真正商品の並行輸入は、商標権の侵害行為を構成

しません。登録商標と同一の商標を付した商品を世界の異なる場所で製造及

び販売している親会社は、その商品がその商標の下で販売及び転売される限

り、マレーシアにおけるその商品の販売を制限することは認められません。

しかしながら、特定の地理的領域において販売が制限されている場合、商標

Page 266: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

266 アジア

マレーシア

権侵害が生じるでしょう。マレーシアにおいては、並行輸入は明示的に規定

されていません。コモンロー上、裁判所は、商標は出所表示であるから、権

原を有する取引者からの商品の輸入は商標権侵害を構成しないとの見解を

取っています。とは言え、並行輸入は非真正商品、改変又は粗悪化した商品

には適用されません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 1976 年商標法の第 3 条は、「商標」を「取引過程において、商品

又は役務と、商標権者又は登録された使用権者としてその商標を使用する権

利を有する者との関係を表示する目的で又は表示するために、商品又は役務

に使用されている又は使用が意図されている標章…」と定義しています。前

記の通り、商標を出願するためには使用が必要とされます。不使用の場合は、

商標登録簿からの抹消を招くおそれがあることに留意しなければなりませ

ん。自己の法的権利を侵された者は、1976 年商標法の第 46 条 (1) に基づき、

以下の場合に、当該商標を商標登録簿から抹消又は除去することを請求する

ことができます。

 (ⅰ)当該商標が不誠実な使用意思を以って登録され、かつ当該商標の使

用がされなかった場合、又は、

 (ⅱ)当該商標が登録日から 3 年間使用されていない場合。

 さらに、登録前においては、商標の所有者が自己の商標に係る詐称通用に

対して訴訟を提起することを望む場合、その所有者は、グッドウィル及び評

判に依拠することができます。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 商標の目的は、商品の出所を表示し、かつ商標権者の商品と他人の

商品とを識別することにあります。未登録の標章が登録商標を侵害している

と言うには、その標章が商標として又は商標的な意味において使用されて

Page 267: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

267アジア

マレーシア

いなければなりません。その標章が単に商品を記述するためにのみ使用され

ている場合は、商標権侵害は存在しません。Mothercare U.K. Ltd. v. Penguin

Books Ltd. [1988]R.P.C. at pg 119 の事件において、裁判所は、当該商品

がどのような商品であるかを記述するために使用される標章は登録商標の権

利を侵害しないと判示しました。この英国の判決例は、マレーシアにも適用

されます。本設問例では、音楽 CD のジャケットに表示された「love」の題

号が、商標として又は商標的な意味で使用されている場合には、商標「LOVE」

の侵害となるでしょう。この状況の下では、「LOVE」の語を使用しないこと

が賢明でしょう。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 ⅰ)T シャツの図形が登録商標を侵害するか否かは、当該図形が商

標的な意味で T シャツに使用されたかどうかによります。当該図形が商品

の出所を特定するために使用されている場合、その標章は登録商標の侵害と

なるでしょう。しかしながら、使用の目的が、例えば、装飾である場合、す

なわち非商標的に使用されている場合には、侵害とはならない可能性があり

ます。

 ⅱ)当該図形が登録商標と同一又は類似する文字から構成されている場合、

商標権侵害が生じる可能性があります。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 はい。商標の目的は、商標権者の商品又は役務と他人の商品又は役

務とを識別することにあります。ここで焦点となるのは、当該商品又は役務

と当該商標の商標権者との間に構築された取引過程における関係です。商標

「ABC」を目にする者は、「ABC」がペンについての商標であると思うでしょう。

Page 268: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

268 アジア

マレーシア

たとえ、例えば金融サービスの提供者がフリーギフトとしてペンを頒布して

いるとしても、公衆はなお当該ペンの出所は当該金融サービスの提供者では

なく、ボールペンの製造者であると思う可能性があります。ペンに付された

商標「ABC」は、金融サービスの提供者ではなく、ペンの製造者と関係付け

られるでしょう。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 はい。そのような使用は権原のない使用なので、当該行為は侵害と

判断されるでしょう。しかしながら、当該商標が、当該登録商標が使用され

ている他の商品・役務の一部を形成する物又は付属品としての商品・役務に

使用される場合は、そのような使用は商標権の侵害を構成しないでしょう。

ただし、この場合の使用は、商品 / 役務が適合していることを示すために合

理的に必要なものでなければなりません。

 Neostyle Manucfacturing Co. Ltd. v. Ellam's Duplicator Co. [1904] 21 RPC

185 の事件において、原告は商標「Neostyle」に係る複写機の取引者でし

た。被告は、複写機の付属品の販売者であり、「ink for the Neostyle」の表

示を使用していました。原告は、訴訟において、被告が標章「ink for the

Neostyle」を使用することを阻止することができませんでした。裁判所は、

原告は、複写機について「Neostyle」を独占的に使用していたが、複写機以

外の商品についてその語に係る独占権を有していなかったと判示しました。

裁判所は、被告の商品が原告の商品であることを示すことがない限りにおい

て、被告も「Neostyle」を使用してインクや紙を販売し得ると判示しました。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 いいえ。商標権者がその権利を行使するためにⓇマークを表示する

Page 269: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

269アジア

マレーシア

必要はありませんが、そうすることは望ましいと言えます。1976 年商標法

の第 35 条は、商標権者はその商品又は役務に商標を使用する独占的権利を

有すると規定していますが、その商標が登録商標である旨の表示をすること

を特に要求していません。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 登録商標の取消しの要件は、1976 年商標法の第 46 条に規定され

ています。第 46 条により、自己の法的権利を侵された者による請求に基づ

いて、裁判所は、以下の場合に、商標登録に係る指定商品又は指定役務につ

いて、当該商標を登録簿から削除することを命じることができます。

 (a)当該商標が誠実かつ真正な使用の意思なく登録され、かつ当該商標が

販売その他の取引に係る商品に使用されなかった場合、又は、

 (b)取消請求前 1 月までに、当該商標が登録日から 3 年間使用されなかっ

た場合。

 商標登録の取消請求は、取消請求前に商標の誠実かつ真正な使用がされた

場合、拒絶されます。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 設問の事例のような事案が、これまでに審理されたことはありませ

ん。マレーシアは、英国の判決例に従うことになるでしょう。標章は、まず

商標として使用され、それによって、商品の出所表示として商標権者の商品

と他人の商品とを識別する機能を果たさなければならないことを念頭に置く

Page 270: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

270 アジア

マレーシア

ことが重要です。充足すべきさらなる要件は、商標がマレーシアにおいて使

用されなければならないということです。これの意味するところは、マレー

シアにおける製品の広告だけでは十分ではないということです。マレーシア

における商標の使用を構成するためには、マレーシアにおける商品の販売又

は提供の申出が存在しなければなりません。

 インターネットにおいて広告をすることによって、XX 社は、商標的な意

味において商標を使用したと言えるかもしれません。サーバーは外国に設置

されているかもしれませんが、XX 社のウェブサイトは我国でアクセスする

ことがなお可能です。商品を販売するために、商標権者がマレーシアに現実

に所在しなければならないという要件はありません。販売された記録がなく

ても、利用可能なそのような広告が存在しているという事実は、マレーシア

における商標の使用を示すことになります。さらに、ウェブサイトには、価

格、連絡先、支払い方法等、製品についての詳細が掲載されており、また最

も重要なことですが、価格は現地通貨で表示されています。これは、その製

品を購入するマレーシアの公衆に対してなされた販売の申出が存在すること

を示すことになると言うべきです。しかしながら、前述したように、この議

論はまだなされたことがありません。

 消費者は、製品を購入するために、製品の詳細についての記載を読むこと

ができなければならないので、言語の選択肢の提供は販売の申出と判断する

ことができます。言語の選択肢は、購入過程における手助けとなります。

 現地で製品が製造されなければならないという要件はありません。XX 社

によって提供される製品は XX 社の自国でのみ販売されていますが、ウェブ

サイトには、当該製品の販売を XX 社の自国に限る旨の記述はありません。

マレーシアにおいて当該商標を付した製品の販売の申出がなされているなら

ば、XX 社は商標を使用していることになるでしょう。

 ウェブサイトへのアクセス数を証明しなければならないという要件はあり

ません。しかしながら、そのような証拠を含めることは、当該商標の使用が

あったという XX 社の主張を裏付けることになるでしょう。

Page 271: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

271アジア

マレーシア

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 ウェブサイトにおける広告だけでは、使用を構成するのに十分で

はありません。設問のようなウェブサイトの使用は、現実の取引上の使用の

裏付けとなる可能性はあります。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 たとえ、ウェブサイトのサーバーがマレーシアに設置されていな

くとも、公衆が XX 社の製品を入手できることは、マレーシアにおいてその

製品の販売の申出がなされているという意味で、商標が使用されていること

を示すことになります。さらに、広告が我国の言語でなされており、価格が

マレーシア・リンギットで表示されていることを考慮すると、当該広告が商

標の使用と判断される可能性はあります。この設問の事例も、裁判所でまだ

審理されたことがありません。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 我国の言語による広告はありませんが、当該広告を英語で見る選

択肢が提供されています。マレーシアにおいては、英語が広く理解されてい

ることを考慮すると、当該広告は商標の使用であると判断するに十分です。

さらに、価格がマレーシア・リンギットで表示されています。したがって、

当該商標の広告は、マレーシアにおける使用と判断され得ると言えます。

Page 272: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

272 アジア

マレーシア

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 標章の使用は、商品又は役務に使用されない限り、商標の使用と

はなりません。前述の通り、広告は、商標の使用の態様の一つを構成します。

しかしながら、そのような広告は具体的な商品についてのものでなければな

らず、一般的なものであってはなりません。単に一般事項を記載するだけで

は、広告における商標は、取引過程における商品又は役務と商標権者との関

係を示す商標としての機能を成就しません。

 上記設問の広告は、公衆に対する販売の申出というよりも、むしろ商標の

の存在の表示又は単なる広告に近いように見えます。これは、ウェブサイト

におて提供される情報が不十分であるため、当該広告が製品の販売の申出と

いうよりも、むしろ一般的な表示になっていることに起因すると思われます。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 標章は、商品に物質的に付される必要はありません。第 3 条 (2)(b)

は、商品についての標章の使用とは、商品についての物理的又はその他の関

係における使用を言うと解する、と規定しています。したがって、標章は商

品自体に付され又は貼られるものに限られません。標章は、それ自体を商標

として表示することが可能であり、またその標章が万年筆との関連付けを可

能にすれれば十分でしょう。

Page 273: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

273アジア

マレーシア

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 たとえマレーシア・リンギットの表示がなくとも、米国通貨によ

る表示があれば十分です。広告は、マレーシアにおいて、商標を付した商品

の販売又は提供の申出のためになされなければなりません。米国ドルは、マ

レーシア・リンギットに換算することができます。さらに、我国の言語であ

るマレー語で表示されるという選択肢が当該広告において提供されていると

いう事実、及び当該ウェブサイトに提供されているその他の詳細な記述は、

当該広告の使用が商標の使用と判断されることを示しています。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 この問題に関する判決例はありません。

(原稿受領日 2008 年 4 月 1 日)

Author: Mrs. Caroline Francis RamRais & Partners G.P.O. Box 12479 50780 Kuala Lumpur, Malaysia Tel: +603 2693 1125 Fax: +603 2693 0716/ +603 2694 0940 Email: [email protected] Website: http://www.ramrais.com.my/

Page 274: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

274 アジア

パキスタン

パキスタン (Pakistan)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 パキスタンおける商標に関する有効な主たる制定法である 2001 年

商標法(以下「法」と言う。)は、その商標を使用する独占的権利を商標権

者に与えます。また、登録商標と同一・類似若しくは欺瞞的に類似する商標、

又は混同若しくは欺瞞を生じるおそれのある商標が、商標権者の同意なしに

使用された場合、当該独占権の侵害が生じます。登録商標の侵害は、訴訟を

基礎付けるに足る権利侵害であるとされます。

 たとえ商標登録に係る指定商品・役務以外の商品・役務について使用され

る場合であっても、登録商標と同一又は類似の商標を使用することにより、

登録商標の侵害は生じると法は規定してます。したがって、侵害者の商品・

役務は商標権者の商品・役務と同一又は類似である必要はなく、当該登録商

標が周知商標である場合又はパキスタンを含む世界中で評判を得ており、侵

害者がそれを不正に利用しようとしている場合、侵害は生じ得るでしょう。

 さらに、登録商標をドメインネーム、商号又はそれらの一部として使用す

ることも登録商標の侵害となります。また、法は周知商標も保護しています。

法は、広い保護を与えるため、製造、保管から販売までのどの段階において

も、侵害商標の使用と関係するすべての者は、侵害訴訟の訴訟当事者となり、

責めを負わなければならないとしています。

 また、商標権者が、ラベル等の複製、改変又は抹消等の一定の行為を禁止

する旨の注意書を商標登録に係る商品の包装に表示した場合、そのような禁

止された行為を権原なく行う者は、何人も登録商標を侵害するものとする旨

を法は規定しています。

 並行輸入がパキスタン法の下で禁じられているかどうかの問題について、

Page 275: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

275アジア

パキスタン

パキスタンの法律は、並行輸入を禁ずる明確な規定を有していません。しか

しながら、法における一定の規定の解釈に基づくと、権原のない者により「権

利者の同意なく」又は「権原のない出所」からパキスタンに商品が輸入され

る場合、知的所有権の所有者の独占的な権利が侵害されると私は考えます。

 この点に関して、同様の議論がなされた事件があります。その事件におい

ては、並行輸入品の輸入の差止がパキスタンの地方裁判所により、一応、認

められました。しかしながら、この判決に対して高等裁判所に控訴がなされ、

現在係属中です。この判決の結果は、パキスタンにおける並行輸入の判例と

なる可能性があります。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 厳密に言えば、登録商標の使用は、商標権者が商標権を行使するた

めの前提条件ではありません。訴訟は、有効な商標登録に基づいて、又は未

登録商標の場合はパキスタンを含む国際的な評判及びグッドウィルに基づい

て提起することができます。しかしながら、商標が 5 年以上使用されてい

ない場合、利害関係を有する第三者の請求に基づく取消審判の対象となりま

す。法に基づけば、如何なる訴訟においても、まず商標登録が商標の有効性

に関する一応の証拠となります。さらに、商標登録は、登録から 5 年後には、

その有効性が確定的であると判断されます。ただし、その登録が詐取された

ものである場合、恥ずべき図形若しくは事柄を有している場合、司法裁判所

によって保護が剥奪されている場合、公衆の宗教感情を害する場合、又は道

徳若しくは現行法に反する場合は、この限りではありません。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 そもそも、「LOVE」の語は、音楽 CD について本質的な登録可能性

を有しないと思われます。なぜなら、この語は一般的に使用されており、公

有に属すると考えられており、「LOVE」の語を使用する独占権が何人かに認

Page 276: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

276 アジア

パキスタン

められる可能性は低いと思われます。しかしながら、学術的な議論の目的上、

商標「LOVE」が音楽 CD について登録された場合(ほとんどの場合は、使

用に係る実質的証拠の提出を通じて、獲得された識別力に基づく登録でしょ

う。)、登録商標「LOVE」は、消費者にとって、そのレコード会社及びそのレコー

ド会社の制作又は役務に係るすべての CD についての出所表示としての機能

を果たすでしょう。ある個人が「LOVE」の語を音楽 CD のジャケットにレコー

ドアルバムの題号又は楽曲の題号として、すなわち、「LOVE」の語が特定の

CD 又は楽曲の名称となる普通の又は一般的な方法で使用しても、その音楽

の音楽家又は音楽制作会社の出所表示として使用するものでない限り、侵害

は生じないでしょう。

 しかしながら、「LOVE」の題号の使用が商標として使用することが意図さ

れ、その商標が登録商標と「同一」又は「混同を生じさせるほどに類似」す

る場合、登録商標の侵害が生じる可能性があります。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。�

A.4 パキスタン商標法の下では、「商標」は特に、図形、ブランド、表題、

ラベル、チケット、個人名を含む名前、署名、言葉、文字、数字、図形要素、

色彩、音又はこれらの結合を含みます。したがって、商標が言葉、図形又は

これらの結合からなるかどうかは重要ではありません。

 パキスタンにおいて有効な商標に関する主要な制定法である 2001 年商標

法(以下「法」と称します。)は、商標権者に登録商標を使用する独占権を

付与します。同法は、登録商標と同一、類似若しくは欺瞞的に類似する商標、

又は混同若しくは欺瞞を生じさせるその他の商標が、商標権者の同意なしに

使用された場合に侵害が生ずるとしており、登録商標の侵害は、訴訟を基礎

付けるに足る権利侵害であると規定しています。したがって、T シャツに、

登録商標を「許諾を得ず」に使用する行為は、如何なる場合も当該商標の侵

害を構成します。

Page 277: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

277アジア

パキスタン

 法は、登録商標は、たとえ商標登録に係る指定商品・役務以外の商品・役

務に使用される場合であっても、同一又は類似の商標の使用により侵害され

ることを認めています。したがって、当該商標が周知商標である場合、又は

パキスタンを含めて世界的に評判を得ている場合であって、侵害者がその評

判を不正に利用しようとしている場合は、たとえ当該商標が第 25 類につい

て登録されていなくても、当該商標の使用によって侵害が生じます。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 パキスタン商標法によれば、他人の商標を、「取引過程」において、

その商標登録に係る指定商品・役務と同一又は類似の商品・役務に使用する

ことは、侵害を構成します。法の下では、当該商標が周知商標である場合、

又はパキスタンを含めて世界的に評判を得ている場合であって、侵害者がそ

の評判を不正に利用しようとしている場合は、たとえその商品・役務が商標

登録に係る指定商品・役務と同一でなくても、侵害が生じます。

 本事案の状況において、侵害の有無を判断する目的上、重要な問題は、金

融サービスの提供のために「フリーギフト」として頒布されるボールペンに、

「ABC」商標を使用する行為が「取引過程」における使用を構成するかどう

かです。金融サービスの提供において、その役務の提供を促進するために、

「ABC」商標を付したギフトを無料で頒布することは、そのような使用が商

標権者の許諾を得ずに行われたのであれば、取引過程における使用と解釈さ

れ得ます。この問題に関して、パキスタンにおける判例はありませんが、英

国におけるUnic�v�Lyndeau[1964RPC37] という事件に依拠することができ

ると思われます。この判例は、そのような命題に係る事件がパキスタンの裁

判所に提訴された場合、説得力のある価値を有する可能性があります。

 他の側面としては、パキスタン法の下では、「広告」における他人の商標

の使用も、許容される範囲の「比較広告」に該当しない限り、侵害を構成す

る可能性があります。法第 2 条 ( ⅰ ) によれば、「広告」は、商品・役務の

Page 278: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

278 アジア

パキスタン

提供を促進するために、取引、事業又は専門業務に関して行われるものであ

れば、どのような表示も含まれます。

 金融サービスの提供者が、「フリーギフト」としてのボールペンに、商標

「ABC」使用することは、「広告」の一部又はその金融サービスの提供の促進

を構成する可能性があるため、侵害を構成する可能性があります。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 商標「ABC」の商標権者からの同意又は許諾を得ないで、「ABC イ

ンクジェットプリンター用インクジェットプリンターインク」のような表示

を使用することは、製品の出所について需要者に混同を生じさせおそれがあ

り、商品が XX 会社のライセンス、許諾、又は技術提携の下に、市場に送り

出されたものと誤信させるおそれがあります。そのような使用は、ABC 商

標の侵害を構成する可能性が高いと思われます。さもなければ、第三者によ

るそのような使用は、詐称通用となる可能性があります。また、商標法にお

いて具体的に禁止されている不正競争行為と解釈される可能性があります。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 登録商標であることを表示するための「Ⓡ」の記号の使用は、義務

ではありませんが、推奨されます。商標が「登録済み」であると虚偽に表示

することは、法第 102 条に基づき、犯罪となります。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消される要件を説明して下さい。

A.8 登録商標は、「5 年間継続して、誠実かつ真正に使用されておらず、

不使用について正当な理由がない場合」、利害関係を有する第三者の請求に

Page 279: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

279アジア

パキスタン

より取消しの責めを負います。商標の使用についての立証責任は商標権者に

あります。パキスタン法の下では、使用の範囲は、不使用取消審判における

防御の目的上、重要ではなく、たとえ名目的な使用でも十分です。重要なこ

とは、そのような使用が取引過程においてなされている必要があるというこ

とです。たとえ試供品における使用であっても、不使用取消請求を防御する

目的上、商標の使用を構成するに十分であるとしたいくつかの判決例があり

ます。

 5 年の期間の経過後において商標権者が商標の使用を証明することができ

ない場合であっても、取消請求がされるまでは、商標登録は取り消されませ

ん。しかしながら、5 年間の期間の経過後であって、取消請求の 3 月前に使

用の開始又は再開がなされた場合は、商標権者がその請求がなされることを

知る前に、開始又は再開の準備がなされた場合にのみ、その開始又は再開は

有効と判断されます。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国において当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 上記の設例の状況においては、2 つの重要な問題が考慮されなけれ

ばなりません。第 1 に、XYZ が付された製品をインターネットを通じて販

売する行為がパキスタンにおける XYZ 商標の「使用」を構成するかどうか

です。第 2 に、インターネット上において「XYZ」商標の付された商品を単

に広告する行為がパキスタンにおける商標の「使用」の要件を十分に満たす

かどうかです。

 新商標法によれば、一定の状況の下で、外国における商標の使用がパキス

タンにおける使用であるとする余地があります。これは、パキスタンからア

クセスすることが可能なインターネットを通じた販売によっても支持され得

るものです。したがって、XYZ 製品をインターネットを通じてパキスタン

Page 280: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

280 アジア

パキスタン

に販売する行為は、パキスタンにおける商標の使用を証明するに十分である

可能性があります。上記において説明したように、販売額又はウェブサイト

へのアクセス数は重要ではなく、ごく少量の使用でも十分である可能性があ

ります。

 第 2 の問題においては、インターネット上において XYZ 製品の販売の申

出がなされており、又は少なくともパキスタンからアクセスすることが可能

なインターネット上において広告がなされている一方、インターネットに

よる XYZ 製品のパキスタンの消費者への実際の販売が全くない場合、法が、

使用は「商品との関連」においてなされなければならないと定義しているこ

とが関連してきます。「商品との関連」における使用とは、広告、インボイ

ス及びその他の手段による使用を意味します。結局、XYZ 商標がパキスタ

ンからアクセスすることが可能な商標権者のウェブサイト、新聞、雑誌、又

はパキスタンにおいて入手できた若しくは通常パキスタンにおいて入手可能

な刊行物に、広告がなされていたことを証明することができる場合は、「商

品との関連」における使用の条件は満たされると言うことができ、そのよう

な商標は不使用を理由に取り消されるべきではありません。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 はい。パキスタンの消費者が当該広告を見て、当該ウェブサイト

を通じて当該製品を購入したことを XX 社が証明すれば、たとえ XX 社の販

売代理人、ライセンシー等がパキスタンにいなくても、パキスタンにおける

使用と判断される可能性があると思われます。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 当該ウェブサイトが当該国からアクセスすることが可能であれば、

適用される原則は同じです。

Page 281: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

281アジア

パキスタン

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場合はどうですか。

A.12 広告がウルドゥー語によるものではないという事実は、当該製品

の広告の1形式としての当該ウェブサイトの価値を損ないません。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場合はどうですか。  ・登録商標「XYZ」  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 ウェブサイトにおける十分な情報の不足は、不使用を主張する者

の言い分を強くすると思われます。商標の使用は、消費者の心に、商標と商

品の出所との関連付けをもたらす必要があります。ウェブサイト上の広告に

写真がないことは、製品と出所とを関連付けるというこの目的を損ない得る

と言えます。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれているのみである場合はどうですか。

A.14 商標が商品に付されていない場合、そのような使用は商標の有効

な使用と判断されないおそれがあります。ドメインネーム若しくは URL の

一部としての商標の使用、又は表題若しくは商品説明における商標の使用は、

せいぜい公衆における商標の「認識」を示すための議論にしかならず、取消

手続きにおける使用の要件を満たさないおそれがあります。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 ウェブサイト上にパキスタン・ルピーの表示がないことが、販売

又は広告の1形式としてのウェブサイトの使用を損なう可能性は低いと思わ

Page 282: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

282 アジア

パキスタン

れます。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 パキスタンの裁判所によって、ウェブサイト又はインターネット

における商標の使用の問題が検討された判決例はありません。しかしながら、

パキスタンの裁判所、特に上級裁判所が、世界において現われてきた新規な

概念を受け入れると共に、現代の傾向を予期し、その先進的な取り組みの姿

勢を示してきたことを指摘させて頂きます。したがって、楽観的には、裁判

所は、そのような問題に関する国際的な傾向に沿って、法的判断を下す可能

性が高いと言えます。

(原稿受領日 2008 年 10 月 10 日)

Author: Mr. Yawar Irfan Khan UNITED TRADEMARK & PATENT SERVICES West End Building, 61 The Mall Lahore, 54000, PAKISTAN Tel: +92-42-6285588-90, 7236124-25, 7249638-9, 7353025 Fax: +92-42-6285585-87, 7323501, 7243105, 7233083 Email: [email protected] Website: http://www.utmps.com/

Page 283: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

283アジア

フィリピン

フィリピン (Philippines)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1

a.商標の侵害

 フィリピン法の下では、商標は、他の財産権と同じ方法でかつ同じ程

度に認知されかつ保護される特別な財産と考えられています(共和国法

No.166 第 2-A 条、又は旧フィリピン商標法 ;La�Chemise�Lacoste,S.A.vs.�

Fernandez. ,129 SCRA 373 [1984])。したがって、商標権者は、商標を独占

的に使用する権利を有します。また、他人が、取引過程において、同一又は

類似の商標を、商標登録に係る指定商品又は指定役務に使用することにより、

購入者に混同を生じさせるおそれがある場合は、その使用を禁止する権利を

有します。

 共和国法 8293、すなわちフィリピン知的財産法(IPC)の第 155 条に基

づき、商標権者の同意なく、取引において、その商標を使用する者は、侵害

訴訟においてその責めを負います。具体的には、法律上、以下の侵害行為が

規定されています。

 (ⅰ)取引において、登録商標又はその一部若しくはその支配的特徴を再

製、偽造、複製若しくはもっともらしく模造した標章を、商品若しくは役務

の販売、販売の申出、頒布又は広告についてする使用(商品の販売又は役務

の提供に必要な予備的行為を含む。)であって、その使用が混同を生じさせ、

誤認を生じさせ又は他人を欺くおそれのある場合。

 (ⅱ)登録商標又はその支配的特徴を再製し、偽造し、複製又はもっとも

らしく模造し、かつ、その再製、偽造、複製又はもっともらしく模造した標

章を、商品若しくは役務の販売、販売の申出、頒布若しくは広告について又

Page 284: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

284 アジア

フィリピン

はこれらの行為に関連して取引に使用する意図を以って、ラベル、看板、印

刷物、包装、包み紙、容器、又は広告物に付する行為であって、その使用が

混同を生じさせ、誤認を生じさせ又は他人を欺くおそれのある場合。

 権利侵害を被った商標権者が受けられるフィリピン法上の救済は、以下の

通りです。

 (ⅰ)損害の回復。損害額は、侵害者が権利を侵害していなければ商標権

者が得たであろう利益、又は侵害者が侵害により実際に得た利益により算出

されます。

 (ⅱ)裁判所は、訴訟の係属中に、販売の証拠となるインボイス及びその

他の書類を押収することができます。

 (ⅲ)公衆を誤認させ又は商標権者を欺く実際の意図が証明された場合に

は、損害賠償額は 2 倍になります。

 (ⅳ)侵害者に対する差止命令。

 (ⅴ)裁判所は、侵害品を何らの補償なしに破棄することを命じることが

できます。

 b.並行輸入

 フィリピン法は、並行輸入の問題については何も規定していません。フィ

リピンには、並行輸入の問題を取り扱う具体的な法体系、制定法、規則はあ

りません。また、並行輸入を具体的に禁止又は罰する法体系、制定法、規則

も現在ありません。

 しかしながら、1993 年 1 月 21 日に公布された Yu vs. Court of Appeals,

et al.G.R. No. 86683 の事件において、フィリピン最高裁判所は、Unisia

Merchandising Co. によってなされた House of Mayfair の壁紙製品の並行輸

入に対して差止命令を発しました。裁判所は、当該製品の独占的な販売者で

ある Philip S. Yu の権利を支持し、その判決について以下の理由を挙げまし

た。

 「当裁判所の見解によれば、独占販売契約を遂行する権利及びその遂行

から生ずる利益を得ることは、保護されるべき権利である(30 Am. Jur.

Page 285: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

285アジア

フィリピン

Section 19, pp. 71-72; Jurado, Comments and Jurisprudence on Obligations

and Contracts, 1983 8th Rev. Ed., p. 336)。そうでなければ、許諾を受けた

独占的販売者の犠牲の下、当該独占販売契約の目的を台無しにすべく、その

供給業者から当該商品を入手するために人若しくは企業を利用又は介在させ

る功利的な行為によって、当該独占販売契約に係る権利は減殺されるか又は、

それどころか、幻影となってしまう(43 C.J.S. 597)。」

 「…英国の Houwe of Mayfair は、FNF 貿易を通じて注文を受けた商品はナ

イジェリアにのみ出荷されている、とだまされて信じていたが、当該商品は

実際にはフィリピンに送られて販売されていた。この性質の策略は、他人に

法に背くようにしむけたり、契約に基づく約束を破るようしむける、第三者

のシナリオと同種のものである。」

 前記のYu の判例は、それ以後に起き、1995 年 8 月 9 日に公布された、

U-Bix�Corporation�vs.�Ariancorp�International,�Inc,�CAG.R. No. 41620 の事件

において、フィリピン控訴裁判所によって採用されました。

 「事業における競争は健全であるが、暴利を貪る場合には不正となる。し

たがって、別の取引者が、同じ取引業界に参入し、独占的販売者が育み費用

をかけた製品に係るグッドウィルを不当に利用する場合は、独占的販売に係

る権利を侵害し、被侵害者に訴訟原因を提供することになる。」

 「提出された証拠に基づき、裁判所は、被告は、『Murata』ファクシミリ

を輸入販売する、原告のフィリピンにおける独占的販売権を侵犯・侵害した

ものであり、そのような行為は権利の濫用(新民法第 19 条乃至第 21 条)、

害意ある妨害、不正競争を構成し、原告は差止命令による救済及び間接的損

害賠償を受けることができる、と認定しました。」

 したがって、製品の独占的販売者は、以下の理論に基づいて、その製品を

販売する自己の「独占権」への第三者による侵犯・侵害に対して、財産上

の利害関係を有します。すなわち、( ⅰ ) 被告の行為は、フィリピン民法第

1314 条の下、契約違反の誘引にあたるか、又は(ⅱ)民法第 19 乃至第 21

条の権利の濫用、又は民法第 28 条の害意の妨害若しくは不正競争にあたる、

Page 286: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

286 アジア

フィリピン

という理論です。したがって、フィリピン法の現状が、並行輸入を非侵害行

為とし、輸入された商品は真正商品であり、フィリピンへの輸入は商標権者

の知的財産権を侵害しないと認め、したがって、フィリピンへの並行輸入に

対する侵害訴訟が敗訴となるとしても、フィリピンの裁判所による最近の前

記の判決に鑑み、並行輸入業者は、その他の法律、特にフィリピン民法に基

づき、契約違反、権利の濫用、害意の妨害、又は不正競争について責めを負

う可能性があります。我々の見解では、他の法に基づき法的責任を負うとい

う危険は、十分な抑止力となり、少なくとも、並行輸入業者にとって相当の

阻害要因になると思われます。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 いいえ。

 フィリピン法の下では、商標登録は、商標の所有者に対して所有に係るす

べての権利を付与します。商標登録が有効なままであり、また取消しも放棄

の宣言もされていない限り、商標登録権者又は商標の所有者は、商標登録に

よって付与されるすべての権利、すなわち、商標を使用、享有、及び処分す

る権利、並びに第三者が同意なく商標を使用することを禁止する権利、を行

使することができます。商標権の行使の条件として、商標権者による商標の

実際の使用を要求するフィリピン法は存在しません。商標の実際の使用は、

正当に登録された商標権者がその所有権を行使するための必要条件ではあり

ません。

 しかしながら、フィリピン法は、出願日から 3 年以内に、使用を証明する

証拠と共に使用宣誓書を提出することを出願人及び / 又は商標権者に要求し

ており、その提出がなければ、出願は拒絶され、登録は登録簿から取り消さ

れることに留意することが重要です(フィリピン知的財産法第 124.2 条)。

そのため、商標の所有者 / 登録権者は、登録の有効性を維持するために、商

標登録の日から 5 年目にも使用供述書を提出することが義務付けられていま

す。しかしながら、上述のとおり、商標及び / 又は登録が有効に存続し、か

Page 287: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

287アジア

フィリピン

つフィリピン知的財産庁によって登録の取消しも放棄の宣言もされていない

限り、商標権者は所有権に付随するすべての権利を行使することができます。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 いいえ。

 音楽 CD のジャケット上の「LOVE」のような題号は、音楽 CD を指定す

る登録商標「LOVE」の侵害とは判断されません。音楽 CD のジャケット上

の「Love」の語は、その CD に収められている音楽の種類又は類型、すなわち、

その音楽がラブソングであることを単に記述したものです。たとえ、その商

標が CD を保護しているとしても、CD ジャケットのそのような題号は、他

人の所有する登録商標 LOVE を侵害しません。なぜなら、音楽 CD のジャケッ

トに「Love」の語を使用することは、その CD に収められた歌曲のテーマや

雰囲気を記述したものにすぎないからです。したがって、CD ジャケットに

「Love」を使用することは、商標の機能、すなわち、商品を特定し、他人によっ

て製造、販売又は取引される商品を識別する機能を果たすものではありませ

ん。フィリピン知的財産法第 155 条の下、そのような題号「Love」の使用は、

侵害に該当しません。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 「はい。」とも「いいえ。」とも言えます。

 登録商標に係る指定商品が T シャツに関連する場合、すなわち、ニース

分類による同一の区分に属するか、又は同一の記述的な特性、同一の物理的

な特質若しくは本質的な性質を有している場合、T シャツの胸全面に、他人

の登録商標と同一の表示を付すことは、侵害を構成します。その表示が図形

商標であるか文字商標であるかは関係しません。なぜなら、どちらも等しく

一般公衆に混同を引き起こすからです。さらに、商標の所有者 / 登録権者の

Page 288: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

288 アジア

フィリピン

事業が必然的かつ潜在的に T シャツに拡大する場合にも、公衆に事業又は

出所の混同を引き起こすため、混同が生じる可能性があります。

 一方、登録商標に係る指定商品が T シャツと競合せず、無関係であれば、

その表示は侵害を構成しません。なぜなら、購入者に混同が生じるおそれが

ないからです。しかしながら、周知商標の場合は、たとえその周知な登録商

標に係る指定商品が T シャツと競合せず、無関係であっても、侵害は生じ

ます。ただし、(a)T シャツへのその商標の使用が、T シャツとその周知商

標の所有者又は登録権者間との関係を示し、かつ (b) フィリピン知的財産法

123 条 [f] に規定する使用によって、その周知商標の所有者又は登録権者の

利益が損なわれるおそれがある場合に限られます。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 本設問に対する回答は、状況次第です。

 銀行のような金融サービス会社によって無償で配布される、ABC 商標が

付されたボールペンが、商標権者によって製造され又は商標権者を出所とす

る、真正商品であれば、侵害には該当しません。そのボールペンが、例えば、

マーケティングの手段として、銀行によって無償で配布されたという事実は、

無関係です。商品は真正であり、よって、ABC ボールペンの商標権者の知

的財産権は侵害されていません。一方、ABC 商標を付したボールペンが偽

造品であり、商標権者を出所としないものであれば、無償で配布されるか否

かにかかわらず、またどのような理由があろうと、明らかに侵害です。

 他方、おそらくはマーケティングの手段として、その ABC ボールペンを

無償で配布した銀行が、ボールペンに係る ABC 商標の商標権者の存在を知

らず、又はその同意なく、そのボールペンが銀行によって配布されたことを

表示するために、そのボールペンに自己の名称を付した場合は、侵害に該当

します。明らかに、そのペンに自己の名称を刻印又は浮き彫り加工するとい

Page 289: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

289アジア

フィリピン

う、その銀行による権原なき行為は、商品の所有者又は出所について一般公

衆に混同又は誤認を与え、又は一般公衆を欺くものであり、フィリピン知的

財産庁により明確に禁じられています。重ねて申し上げると、そのボールペ

ンが無償で配布されていることは全く無関係です。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 はい。

 フィリピン法、特にフィリピン知的財産法第 147.1 条によると、「商標権

者は、商標権者の同意を有しないすべての第三者に関して、それらの者が、

取引過程において、登録商標と同一若しくは類似の標識又はその一部を、商

標登録に係る指定商品又は指定役務と同一の商品又は役務に使用することに

より、購入者に混同を生じさせるおそれがある場合は、その使用を禁止する

権利を有します。」。XX 会社の許可なく、「ABC インクジェトプリンター用

インクジェットプリンター」と表示された「インクジェットプリンター用の

インク」を製造及び販売する行為は、XX 社の商標権を侵害します。ABC 商

標の保護の及ぶ商品には、インクジェットプリンター用のインクが含まれま

す。XX 社の同意なきその商標の使用は、フィリピン法に基づき禁止されま

す。その商標の権原なき使用は、商品の出所について混同のおそれをもたら

します。さらに、当該第三者は、何ら努力せずして、その商標を創造し育ん

だ XX 社の損害の下に、自己の製品の販売促進を図るために ABC 登録商標

を不正に利用しているものです。当該第三者は、XX 社のブランド商品の評

判を利用し、不当に利益を得ているものです。そのような行為は許容されま

せん。

Page 290: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

290 アジア

フィリピン

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 いいえ。

 R を円で囲んだ文字又はその他の同様の表示によって、登録商標であるこ

とを表示することを要求又は命じる規定は、フィリピン知的財産法にはあり

ません。また、商標権行使の要件として、そのような表示を要求する規定も

フィリピン法にはありません。

 しかしながら、フィリピン知的財産法 158 条が以下のように規定してい

ることに留意すべきです。

 「158 条 損害賠償;告知要件 -侵害訴訟においては、商標権者は、当

該行為が混同を生じさせ、誤認を生じさせ、又は他人を欺くおそれがあると

いう認識を以ってなされた場合を除き、利益又は損害を回復する権利を有

しない。商標権者が当該商標と共に「登録商標」の語若しくは円で囲った R

の文字を表示することにより当該商標が登録されていることを告知している

場合、又は被告がその他の方法によりその登録を現実に認識していた場合は、

そのような認識があったものと推定する。」

 したがって、侵害訴訟に備えて、損害や失われた利益を回復するために、

商標が登録されている事実を、円で囲んだ R の文字又はその他の同様の表

示を通じて、商標権者が表示しておくことが不可欠です。そうしなければ、

商標権者は、裁判所に対して、第三者の侵害行為の禁止又は停止を請求する

ことができるとしても、損害や失われた利益を侵害者から回復することはで

きません。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 商標登録により損害を受けているか又は受けるおそれのあると信じ

Page 291: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

291アジア

フィリピン

る者は何人であろうとも、以下の場合に、フィリピン知的財産庁の法務部に

対して商標登録の取消請求をすることができます。

 (a)当該商標登録の日から 5 年以内に、

 (b)当該登録商標が登録に係る指定商品・役務若しくはその一部につい

て普通名称になっているか、又は当該登録商標が放棄された場合、当該登録

が不正に若しくは本法の規定に反して取得された場合、又は当該登録商標が、

商標権者により若しくはその許諾を得て、商標の使用に係る商品若しくは役

務の出所を偽って表示するために使用されている場合。登録商標が登録に係

る指定商品・役務の一部について普通名称になっている場合は、当該一部の

商品又は役務についてのみ、商標登録の取消請求をすることができます。登

録商標は、独自の商品若しくは役務について、その名称として又はそれを特

定するためにも使用されているということのみを理由としては、商品又は役

務の普通名称であるとは判断されないとされています。当該登録商標が使用

に係る商品又は役務の普通名称になっているか否かを決定するに当たって

は、購入者の購入の動機ではなく、関連する公衆にとっての当該登録商標の

主要な意味が基準になるとされています。

 (c)商標権者が、正当な理由なく、3 年以上継続して、フィリピンにおい

て当該登録商標を使用しなかった場合、又はライセンスによりフィリピンに

おいて使用させることをしなかった場合。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 いいえ。

 フィリピンにおける商標出願の審査手続において、商標を付した商品がイ

ンターネットを通じてフィリピンで販売されていることを示す、出願人の

Page 292: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

292 アジア

フィリピン

ウェブサイトからの写しを提出することは、通常、認容されます。インター

ネットを通じてフィリピンにおいて商品の実際の販売があったこと示す証拠

は、登録の要件としては通常必要とされません。したがって、そのような出

願は、通常、登録に至ります。

 しかしながら、登録商標が不使用による取消請求を受けた場合、フィリピ

ンにおける実際又は現実の商品の販売がなければ、取消請求を克服すること

は難しいと思われます。インターネットによる販売は、大部分が商標の実際

の使用の証拠として認容されます。よって、XX 会社がフィリピンにおいて

現実の所在を有していなくても、ウェブサイトを通じてのフィリピンでの商

品の販売は使用の十分な証拠と判断されます。しかしながら、フィリピンの

消費者がインターネットを通じて当該商標が付された商品の購入をすること

ができるようになっていない場合、又はフィリピンにおける実際の販売が全

くない場合は、単なるウェブサイトにおける広告だけでは不十分です。XX

社は、ウェブサイトにおいて XYZ 万年筆を広告しているが、フィリピンで

その万年筆を販売したことがなければ、不使用取消請求に勝訴することはで

きません。ウェブサイトにおける単なる広告が十分ではないため、ウェブサ

イトへのアクセス数も無関係であり、重要ではありません。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 はい。

 XYZ 万年筆が、万年筆を輸入した我国の消費者に対してフィリピンで販

売されたという事実は、登録商標が使用されていると言うに十分です。販売

の証拠、例えば、領収書、税関申告書、銀行送金通知書等は、使用を証明す

るために必要とされるでしょう。XX 社のインターネット上の広告によって

又は他の経路を通じて、我国の消費者が当該製品を知ったかどうかは、重要

ではありません。XX 社の販売代理人又はライセンシーが存在するか否かも

Page 293: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

293アジア

フィリピン

重要ではありません。法は、登録商標の使用を証明するために、販売代理人

の存在もライセンシーの存在も必要としていません。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 サーバーの場所は、全く何の関係もありません。サーバーの場所は、

どのような問題とも無関係です。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 フィリピンの公用語はフィリピン語です。しかしながら、すべて

の法律は英語であり、政府及び民間部門の両方における意思疎通の媒体は英

語です。したがって、たとえウェブサイトにフィリピン語による表示がなく

ても、重要な問題とはなりません。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 フィリピンにおける商標の実際の使用を証明するために、所有者

/ 登録権者は、出願日から 3 年以内に使用宣誓書を提出しなければならず、

当該宣誓書に、商品に実際使用されている商標のラベル、又は商標が容器に

視認的に刻印又は付された写真を 5 部添付しなければなりません(フィリ

ピン知的財産庁の商標、役務商標、商号、及びそれらが付される又は刻印さ

れる容器に関する規則及び規定)。

 したがって、XYZ の商標は、製品に、すなわち、万年筆又はその容器若

しくは包装に実際に付されていなければなりません。そうでなければ、ウェ

Page 294: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

294 アジア

フィリピン

ブサイト上の広告は、使用を証明するには不十分です。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 XYZ の商標は、商品に付されなければなりません。そうしなければ、

特に XYZ が URL に含まれているだけのときは、十分な使用とは言えません。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 米国ドルによる表示がされていれば、フィリピン通貨の表示の有

無は関係ありません。なぜなら、フィリピンの消費者は、米国ドルによって、

購入する商品の価格を知り、理解するからです。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 ウェブサイト上の商標の使用の問題に関しては、フィリピンにお

ける判決例はまだありません。

(原稿受領日 2008 年 4 月 2 日)

   Author: Mr. Enrico B. Astudillo E.B. Astudillo & Associates 10th Floor, Citibank Center 8741 Paseo De Roxas Makati City, Metro Manila 1200, Philippines Tel: +63-2-8162915 Fax: +63-2-8181742 Email: [email protected] Website: http://www.astudillolaw.com/

Page 295: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

295アジア

シンガポール

シンガポール (Singapore)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 シンガポールにおいては、登録商標の侵害は、第三者が取引過程に

おいて、商標権者の同意を得ることなく、以下の標識を使用した場合に起こ

り得ます。

 (a)同一の商品 / 役務について使用する登録商標と同一の標識。

 (b)類似の商品 / 役務について使用する登録商標と同一の標識であって、

公衆に混同を生じさせるもの。

 (c)同一 / 類似の商品 / 役務について使用する登録商標と類似する標識で

あって、公衆に混同を生じさせるもの。

 加えて、第三者が取引過程において、周知商標と同一又は混同を生じさせ

るほどに類似する標章を、シンガポールで登録されている当該周知商標の指

定商品 / 指定役務と非類似の商品 / 役務に使用する場合、当該第三者は、「シ

ンガポールにおいて周知」な登録商標を侵害する可能性があります。そのよ

うな侵害が成立するためには、混同のおそれが存在しなければならず、かつ

その使用が当該非類似の商品 / 役務と、その利益が結果として害されるおそ

れがある当該周知商標の商標権者との間における何らかの関係を示すもので

なければなりません。

 真正商品の並行輸入は、商標権侵害を構成しません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 商標権者は、当該登録商標を取引において使用しているかどうかに

かかわらず、第三者の商標権侵害に対して、その権利を行使することができ

ます。しかし、登録手続の完了した日から継続して 5 年間使用されていな

Page 296: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

296 アジア

シンガポール

い登録商標は、第三者からの請求により、不使用を理由として登録簿から抹

消されるか、又は妥当な場合には指定商品 / 役務が減縮される可能性があり

ます。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 「love」の語が商標的な意味において、すなわち、CD の出所を表示

するものとして使用されているのであれば、「love」の使用は「LOVE」の商

標権侵害を構成し得ます。しかし、「love」が、例えば、当該 CD が「love」

ソングを収めているといった、商品の意図された用途を示すものとして、一

般的又は記述的な意味で使用されている場合は、登録商標の侵害とならない

可能性があります。

 Bravado Merchandising Services Ltd. v. Mainstream Publishing Ltd.[1996]

FSR 205 の事件において、「A Sweet Little Mystery – Wet Wet Wet – The

Inside Story」という書籍の題号における「WET WET WET」の使用は、書

籍自体についての使用には当たらないと判示されました。

 Mothercare (UK) Ltd.v. Penguin Books [1988] RPC 113 の事件において、

「Mother Care/Other Care」という書籍の題号における「mother care」の語

は記述的意味において使用されており、商標的意味において使用されていな

いと判示されました。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 そのような登録商標の複製又は使用が平均的な購入者によって T

シャツの出所を表示するものと受け取られるおそれがあれば、本問におけ

る T シャツの胸全面への登録商標(文字及び / 又は図形を含む。)の複製は、

登録商標の侵害となる可能性があります。これは、事実及び程度の問題であ

り、また当該登録商標の固有の特徴にもよります。

Page 297: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

297アジア

シンガポール

 Unidoor Limited v. Marks & Spencer PLC[1988] RPC 275 の良く知られた

事件において、Marks & Spencer's(以下、「M&S」と言う。)の被服の前面

への「coast to coast」の語の使用は、購入者層が M & S の「coast to coast」

の使用を商標としてではなく単なる装飾又はモチーフとして見るものである

ことを根拠に、被服を指定商品とする Unidoor の同一商標に係る登録商標

を侵害しないと判示されました。M & S は「coast to coast」を、被服に取り

付けられるスウィングラベルに、すなわち、製造者が出所を表示するために

その商標やブランドを表示する伝統的な箇所に使用していませんでした。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 これも事実及び程度の問題であり、事件の状況によって結論は異な

ります。金融サービスの提供のための「フリーギフト」として提供されるペ

ンへの「ABC」の使用は、そのような使用がペンの出所を表示するものと受

け取られるならば、第 16 類のペンを指定商品とする登録商標の侵害となる

可能性があります。

 以下のいくつかの判決例があります(「不使用」における使用の問題に関

して判断されたものもあります。)。

Ferodo�Ltd の出願 (1948)�62�RPC�111 - 自動車部品の販売促進キャン

ペーンの一環として頒布された贈答品(例えばマッチ箱や鉛筆)への商標の

使用は、当該贈答品自体についての使用には当たらないとされました。

Kodak�商標 [1990]�FSR�49 - 被服への「Kodak」の使用は、業務に付帯

してなされる、Kodak のカメラ及び写真用製品の販売促進のための広告媒体

であると判断されました。被服についての使用ではないとされました。

Adams�Opel�AG�v.�Autec�AG�(ECJ Case�C-48/05) - Opelのロゴをミニチュ

アレプリカ又は玩具の自動車に使用することは、Opel の登録商標の侵害と

なり得るとされました。

Page 298: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

298 アジア

シンガポール

Budejovicky�Budvar�Narodni�Podnik�v.�Anheuser-Busch�Inc�[2002]�EWCA�

Civ�1534 - 販促品(ビール用コースター)への使用は、「ビール」につ

いての使用を示すに十分であるとされました。

Premier�Brands�UK�Ltd.�v.�Typhoon�Europe�Ltd.�[2000]�FSR�767 - 販促品

(例えば、ティーポット及びマグカップ)への使用は、実際の商品(紅茶)

についての「使用」を示すに十分であると判示されました。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 自己の商品が、他人の商品の部品及び附属品として適合することを

表示する目的で当該他人の登録商標「ABC」を使用することは、当該商品

の「意図された用途」(すなわち、部品及び附属品としての用途)を表示す

るために必要であると判断される場合、商標権侵害には該当しない可能性が

あります。ただし、その使用が工業上又は商業上の公正な慣行に合致してい

ることが必要です。(The�Gillette�Company,�Gillette�Group�Finland�Oy�v.�LA�

Laboratories�Ltd.�Oy�-�(ECJ�Case�C-228/03) の事件もご参照下さい。)

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 商標権者が、登録によって与えられた権利を行使するために、その

商標が登録商標であることを(Ⓡの記号又はその他の方法により)表示する

必要はありません。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 登録商標は、以下のどちらかに該当すれば取り消される可能性があ

Page 299: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

299アジア

シンガポール

ります。

 (1)登録の手続完了の日後5年以内に、当該商標が、シンガポールにおいて、

商標権者によって又は商標権者の同意を得て、商標登録に係る指定商品 / 役

務について、取引上の真正な使用に付されていなかった場合、又は、

 (2)上記の真正な使用があったが、その使用が登録商標の取消請求の日

前の直近の 5 年間継続して中断していた場合

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国において当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 不使用の問題を取り扱う目的上、十分な使用、すなわち「真正な使用」

を構成する最低の数量又は実際の販売額を要求する規定はありません。しか

しながら、Nike�International�Ltd.�v.�Campomar�SL�[2006]�SGCA�2 の最近の

事件において、シンガポールの控訴裁判所は、当該行為に関して「確信する

に足る確かな証拠」が提出されることを条件に、登録商標の 1 回限りの使

用例は真正な使用に該当し得ると判示しました。

 したがって、XX は、販売が全くなかったとしても、真正な使用を証明す

ることができる可能性があります。その商標の使用に関連する情報は役に立

つと思われますが、XX は、シンガポールからの当該ウェブサイトへのアク

セス件数が特定の件数を超えていることを証明する必要はありません。しか

し、さらに重要なこととして、「真正な使用」の証明の目的上、XX は、当該ウェ

ブサイトの内容がシンガポール人又はシンガポール市場を具体的に対象とし

ていることを証明する必要があります。

  シ ン ガ ポ ー ル 高 等 裁 判 所 は 別 の 最 近 の 事 件、Weir�Warman�Ltd.�v.�

Research�&�Development�Pty�Ltd.�[2007]�SGHC�59 において、インターネッ

トのウェブサイトにおいて商標を付した商品の販売の申出をするのみでは十

分ではない旨を判示しました。加えて、潜在的消費者からの電子メールに

Page 300: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

300 アジア

シンガポール

よる商品に関する問合せは、真正な使用を証明するには十分ではありません。

商標権者によって、何らかの積極的な措置がシンガポールにおいて追加的に

なされなければなりません。Weir�Warman の事件において、商標権者がシ

ンガポールの潜在的消費者に対してファックスを送付したこと及び消費者と

打合せを行ったことは、真正な使用を裏付ける「積極的な措置」であると判

示されました。

 シンガポールの公用語は、英語、マレー語、中国語(標準中国語)及びタ

ミル語です。英語は、事業又は商業目的で使用される主要言語です。マレー語、

中国語(標準中国語)及びタミル語は、世界のその他の地域で広く使用され

ているため、例えば日本又は韓国のようないくつかの国が自国語を持ってい

るような意味において、シンガポールには特定の「公用語」又は自国語は存

在しません。この点を考慮に入れると、XX のウェブサイトの内容が英語(又

はマレー語、中国語(標準中国語)及びタミル語)で利用できること自体は、

そのウェブサイトの具体的な対象がシンガポール市場であるという XX の意

図を証明するのにあまり重要ではありません。

 価格がシンガポールドルで表示されている事実は、その製品がシンガポー

ルの市場を対象とするという XX の意図を証明するのに役立ちますが、これ

は、Weir�Warman�Ltd.�v.�Research�&�Development�Pty�Ltd. の事件(上述)

における判決及びWard�Group�Pty�Ltd.�v.�Brodie�&�Stone�Plc�([2005]�FCA�

471) における最近のオーストラリアの判決に照らして、十分なものとはい

えない可能性があります。

 Ward�v.�Brodie の事件において、オーストラリアの連邦高等裁判所は、海

外(オーストラリアの国外)に拠点を置くウェブサイトにおける商品の販売

の申出が商標権の侵害に該当するかどうかの問題について判決を下しまし

た。被告のウェブサイトはイギリスで運営されていましたが、オーストラリ

アからのアクセスが可能でした。「オーストラリア」は出荷可能国リストの

うちの 1 カ国として掲載されており、オーストラリア・ドルでの価格表示

がありました。インターネット上において、世界全体(オーストラリアを

Page 301: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

301アジア

シンガポール

含む。)に向けた被告製品のこのような販売の申出は、オーストラリア又は

オーストラリア市場が対象となっていることを示す何らかの表示がない限

り、オーストラリアにおける使用とはならないと判示しました。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 シンガポールの消費者が広告を見て、個人的に XX の製品をシン

ガポールに輸入していた場合、我々は、当該行為は XX がシンガポールにお

けるその商標の「真正な使用」を証明するには十分ではないと考えます。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 上記のQ.9に対する回答で述べた通り、サーバーの設置場所は、

XX による「万年筆」についての「真正な使用」を判断するにあたって重要

な検討事項ではありません。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場合はどうですか。

A.12 上記のQ.9に対する回答をご参照下さい。当該ウェブサイトが

4 つの公用語の1つで表示されていない場合、XX がシンガポールにおける

「真正な使用」を証明することは非常に困難であると思われます。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場合はどうですか。  ・登録商標「XYZ」  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 上記のQ.9に対する回答をご参照下さい。当該ウェブサイト上

の XX の製品のイラストレーションが「一般的」であって、それらの製品

Page 302: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

302 アジア

シンガポール

がシンガポールの市場向けであることが具体的に表示されていない場合は、

XX がシンガポールにおける「真正な使用」を証明することは困難であると

思われます。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 上記のQ.9に対する回答をご参照下さい。我々は、そのような

使用は XX がシンガポールにおける「真正な使用」を証明するには十分でな

いと考えます。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 上記のQ.9に対する回答をご参照下さい。「シンガポール・ド

ル S $」の単なる表示は、XX がシンガポールにおける「真正な使用」を証

明するには十分ではない可能性があります。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 さらに興味のある事件として、800-Flower�Trade�Mark�[2002]�F.S.R�

12 があります。これは、Weir�Warman�Ltd.�v.�Research�&�Development�Pty�

Ltd.�[2007]�SGHC�59 の事件において、同意を得て引用されたものです。経

験豊富な裁判官が係争中の問題について以下のように論じています。

 「A が行っていることは、英国の国外の場所からインターネット上に当該

商標を掲載することだけであり、英国の誰かがそれをダウンロードし、それ

によって、A の使用となることを期待して待っているだけの場合に、A が英

国でその商標を『使用』していると言う主張には、そもそもどこか非現実的

なところがある。対照的に、A が他の司法管轄領域で保護されている商標に

Page 303: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

303アジア

シンガポール

類似する商標をインターネット上で掲載する場合、A が、当該他の司法管轄

領域の誰かがそれをダウンロードするという危険を覚悟でそのような行為を

することは、もっと容易に議論の対象となり得ると思われる。そのようなア

プローチは、我々が直面している議論において、英国又はオーストラリアに

おける店舗名の商標とたまたま同じ名称を使用したアリゾナ又はブラジルの

店舗が、英国又はオーストラリアの司法管轄領域からの電話の呼び出しに応

えるに当たって慎重に行動しなければならないという潜在的に厄介な側面を

想起させるとしてもである。

 しかしながら、ある特定の領域内における『使用』の概念そのものは、他

人が当該商標を当該領域内に持ち込むことを可能にするための便宜を提供す

ること以上の、当該領域におけるなんらかの積極的な措置をその使用者に要

求するものであると思われる。もちろん、英国の人々が、当該商標の所有者

による直接的な推奨や広告に応じて、インターネット上で当該商標を捜し求

める場合、見解は異なるかもしれない。しかし、そのような場合、広告又は

推奨それ自体が必要な使用を証明するためには十分である可能性が高い。」

(強調部は筆者が付したものです。- BUXTON�L.J.の 220 ページ)

(原稿受領日 2008 年 5 月 21 日)

   Author: Mr. Ian Oei Drew & Napier LLC 20 Raffles Place #17-00, Ocean Towers, Singapore 048620 Republic of Singapore Tel: +65 6531 2518 (Ian Oei) Fax: +65 6533 0694/0765 Email: [email protected] Website: http://www.drewnapier.com/

Page 304: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

304 アジア

台湾

台湾 (Taiwan)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 商標権侵害を構成する行為は、台湾商標法の第 81 条及び第 82 条

に規定されています。我々は、第 81 条及び第 82 条の骨子を以下の通り引

用します。

81 条

 商標権者からの事前の同意なく、以下の行為をした者は何人も、3 年以下

の拘禁、及びそれに加えて又は代えて、NT $200,000 以下の罰金に処する

ものとする。

 1.登録商標と同一の標章を同一の商品又は役務に使用すること。

 2.登録商標と同一の標章を類似の商品又は役務に使用し、関連する消費

者に混同のおそれを生じさせること。

 3.登録商標と類似の商標を同一又は類似の商品又は役務に使用し、関連

する消費者に混同のおそれを生じさせること。

82 条

 81 条に規定する商品をそうと知りながら販売し、販売のために展示し、

輸出又は輸入した者は何人も、1 年以下の拘禁、及びそれに加えて又は代え

て、NT $50,000 以下の罰金に処するものとする。

 真正商品の並行輸入が商標権侵害を構成するか否かに関して、商標法第

30 条 2 項は、登録商標を付した商品が商標権者又はその許可を受けた者に

より、市場において取引又は流通されている場合、商品の劣化又は損傷を防

ぐため又はその他の正当な理由がある場合を除いて、商標権者は、商標が付

された商品について商標権を主張してはならない旨を規定しています。

Page 305: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

305アジア

台湾

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 台湾では、商標権者が登録商標を使用していることは、商標権者が

商標権を行使するための要件でもなく、商標権侵害訴訟を提起するための要

件でもありません。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 いいえ。音楽 CD のジャケットに題号を表示することは、音楽 CD

に収められた音楽の題号及び内容を表示することであり、商標の使用とは判

断されません。したがって、そのような使用は商標権侵害を構成しないと判

断されます。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 他人の登録商標が「T シャツ又はこれに類似する商品」を指定して

いる場合、図形であるか文字であるかを問わず、T シャツの胸全面に他人の

商標と同一の商標を使用することは、商標の使用と判断され、商標権侵害と

なる可能性があります。しかしながら、靴、ズボン、又はポケットの両側に

他人の商標を使用することが「商標の使用」となるか否かは、論議を呼ぶ問

題です。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 これは論議を呼ぶ問題であり、2 つの異なる見解があります。

 一方の見解は、日本における見解と同様です。すなわち、裁判所は、当該

商標の使用はボールペンに関するものではなく、金融サービスに関するもの

Page 306: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

306 アジア

台湾

であると判断するという見解です。したがって、この場合は、商標権侵害で

はありません。

 他方の見解は、当該商標の使用は、金融サービスというよりはむしろ、ボー

ルペンに関するものである、と裁判所は判断するというものです。したがっ

て、この場合は、商標侵害となります。この見解がより支配的です。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 回答は、具体的な使用の態様によります。当該第三者の「ABC イン

クジェットプリンター用のインクジェットプリンターインク」が ABC イン

クジェットプリンターインク(XX 社の純正製品)との混同を生じさせるお

それがない場合は、上記の表示はおそらく商標権侵害を構成しません。一方、

ABC インクジェットプリンターインク(XX 社の純正製品)との混同を生じ

させるおそれのある表示又は行為は、商標権侵害を構成する可能性がありま

す。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 商標が登録商標であることを表示することは推奨されますが、商標

権行使の要件ではありません。Ⓡに関する規定はありません。したがって、

台湾においては、Ⓡの表示は義務でもなく、商標権行使の要件でもありませ

ん。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 台湾では、その要件は台湾商標法の 57 条第 1 項乃至第 3 項に明示

Page 307: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

307アジア

台湾

的に規定されています。

 第 1 項

 商標登録後に以下の状況が生じた場合は如何なる場合も、商標に関する事

項を管轄する行政官庁は、職権によって又は請求に基づいて、当該商標登録

を取り消すものとする。

 (ⅰ)削除

 (ⅱ)正当な理由なく、登録後 5 年間、その商標が使用に付されなかった

場合、又は 3 年間継続して使用が中断した場合。ただし、ライセンシーに

よる使用があった場合は除く。

 第 2 項

 第 1 項(ⅱ)に規定する状況にある登録商標が取消請求前に使用された

場合、商標登録は取り消されないものとする。ただし、取消請求が商標権者

の知るところとなり、その後に商標権者が、取消請求前 3 ヶ月以内に、そ

の商標の使用を開始した場合は、この限りではない。

 第 3 項

 取消理由が商標登録に係る指定商品又は指定役務の一部に存する場合は、

取消しはその一部についてなされるものとする。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 商標の定義は第 6 条に規定されており、本法に言う商標の使用とは、

販売の目的で、商品若しくは役務又はその他の関連物品に、二次元描写によ

る態様、デジタル化された音声及び画像による態様、又は電子媒体若しくは

その他の媒体を通じてなされる商標の使用であって、関連する消費者が商標

と認識できるものを意味する、と定めています。

Page 308: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

308 アジア

台湾

 お気付きのように、使用の定義は非常に広範かつ漠然としており、台湾知

的財産庁(IPO)及び裁判所に対し、大きな解釈及び裁量の余地が与えられ

ています。

 如何なる広告も、たとえそれがインターネット上のものであっても、登録

商標が指定商品に使用されている広告は、我国における登録商標の使用と判

断されます。ただし、その広告が販売を目的としていると判断され、かつ以下

の要素が認められる場合に限られます。

 設問の事例においては、以下の事実が認められます。すなわち、製品に関

する仕様、価格、注文方法等が記載されており、広告が我国の言語で表示さ

れています。したがって、当該ウェブサイト上の広告が、台湾の消費者を指

定及び対象としていると台湾知的財産庁によって判断される場合は、我国に

おいて当該万年筆が全く販売されていなくとも、原則として、登録商標の使用

として十分であると判断される可能性があります。

 具体的なアクセス数を証明する必要はありません。

 インターネット上の広告に関する別の重要な問題は、広告が我国の言語で

表示され、台湾の消費者を指定及び対象としていることです。したがって、

「.com」よりも「.tw」によるインターネット広告の方が使用と認められる可

能性はより高いと思われます。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 (回答なし。)

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 たとえウェブサイトのサーバーが我国において設置されていなく

ても、設問の広告が、中国語で表示され、かつその他上記に記載された要素

Page 309: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

309アジア

台湾

を有しており、台湾の消費者を指定及び対象としていると判断されるならば、

当該広告は商標の使用として十分であると判断される可能性があります。し

かしながら、インターネット上の広告が文字通り議論の対象とされた判決例

はありません。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 広告が中国語で表示されていない場合、台湾の消費者を指定及び

対象とする広告であるとされる可能性は低いと思われます。したがって、こ

の場合は、商標の使用として十分であるとは判断されないと思われます。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 我国では、容認される広告は指定商品に関してなされるものでな

ければなりません。したがって、上記の広告は登録商標の適切な使用と認め

られそうにありません。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 消費者が、ウェブサイト上における、当該表題又は当該商品に関

する説明が当該万年筆の商標に係るものであると認識することができる場合

は、登録商標が万年筆又はその包装箱に付されていなくても、当該登録商標

に係る万年筆の広告と判断されます。したがって、そのような表題又は説明

Page 310: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

310 アジア

台湾

は、登録商法の使用として十分です。

 しかしながら、登録商標が URL のみに含まれている場合は、消費者が、

URL に含まれた当該登録商標と指定商品「万年筆」との関係を容易に認識

できる可能性は低いと思われます。したがって、そのような使用は登録商標

の使用であると主張することはできません。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 価格又は通貨は必須の要件ではなく、広告が容認されるかどうか

に関する重要な問題でもありません。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 インターネット上の広告の要件又は容認可能性を文字通り議論の

対象とした判決例はありません。

(原稿受領日 2008 年 3 月 28 日)

Author: Mr. Arthur Li Lee & Li P.O. Box 118-619 Taipei, Taiwan Republic of China Tel: +886-2-27153300 (ext.2717) Fax: +886-2-2718-7099 Email: [email protected] Website: http://www.leeandli.com/

Page 311: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

311アジア

タイ

タイ (Thailand)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 タイにおいて商標権の侵害を構成する行為は、該当する法律、すな

わち、商標法及び刑法に基づき、2 つのカテゴリーに分類されます。

商標法

・模倣商標が商標権者の商標であると公衆に誤信させるために、他人の登録

商標を偽造又は模倣する行為は、商標権の侵害を構成します(第 108 条及

び第 109 条)。

・偽造若しくは模倣された商標が付された製品をタイ王国に持ち込み、販売、

販売の申出若しくは販売のための所持、又は偽造若しくは模倣された役務商

標を使用して役務の提供若しくは提供の申出をすることも商標権の侵害とな

ります。

・詐称通用は、未登録商標の侵害を構成する行為です。この保護を得るため

には、当該商標がタイにおいて一定期間使用されている必要があります。ま

た、侵害者がその商品を当該未登録商標の所有者の商品であるかのように詐

称通用するために未登録商標の評判に依拠しようとしたことを、裁判所に確

信させる正当な理由を有するためには、当該商標が消費者に広く知られてい

ることが必要です。

タイ刑法

・当該他人の商品又は取引であると公衆に誤信させるために、当該他人の名

称、図形、創造された標章若しくは文言を取引上使用すること、又はそれ

らを商品、包装、カバー、広告、価格表、取引書簡等に表示すること[第

272 条(1)]。

・タイ王国内外のいずれで登録されているかにかかわらず、他人の登録商標

Page 312: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

312 アジア

タイ

を偽造又は模倣すること。

・第 272 条(1)に規定する名称、図形、創造された標章若しくは文言を付し

た商品、又は他人の所有に係る商標を偽造若しくは模倣した商標を付した商

品を、タイ王国に持ち込み、売却処分し又は売却処分のために展示すること。

 重要なこととして、最高裁判決によると、真正商品の並行輸入は商標権の

侵害を構成しません。したがって、タイの法律に基づけば、並行輸入は容認

されます。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 商標権者が登録商標を使用している事実は、通常は、商標権に基づ

く差止請求権行使の要件ではありません。しかしながら、実際の使用の証拠

は、場合によって、特に、模倣商標に対する差止命令による救済を請求する

際に、非常に有用です。かかる証拠は、消費者における混同のおそれを証明

する際に、両当事者の製品及び包装デザインの全体的な外観を比較する上で

必要となる場合があるため、重要となります。これは、裁判所を納得させ、

差止命令による救済を得るために必要となるものです。

 加えて、裁判所は、原則として、商標権者が被った実際の損害であって裁

判所に対して証明し得るものに基づいて賠償額を認定するため、商標の使用

は、商標権者が損害賠償請求権を行使する際の要件となります。商標が使用

されていない場合、裁判所は、損害賠償を認めないおそれがあると思われま

す。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 音楽 CD のジャケット上に題号「LOVE」を使用することが、音楽

CD を指定商品とする登録商標「LOVE」の侵害を構成するかどうかを検討

するに当たっては、それが商標として使用されているか否かを検討する必要

があります。音楽 CD のジャケット上の「LOVE」の題号の表示が、音楽 CD

Page 313: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

313アジア

タイ

に収められた音楽の題号及び / 又は内容、すなわち、ラブソングを表示する

ことを目的としているならば、音楽 CD についての商標の使用とは判断され

ず、商標権の侵害を構成しません。

 しかしながら、これは、音楽 CD のジャケット上の「LOVE」の題号の表示が、

音楽 CD に収められている音楽の題号又は内容に関係しない場合には、あて

はまりません。「LOVE」の使用が、消費者に対する、単なる内容の表示であ

るというよりもむしろブランドの表示であると解釈され得る場合、そのよう

な使用は、音楽 CD についての商標の使用と判断し得ることとなり、商標権

の侵害を構成すると思われます。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 他人の登録商標と同一の文字及び / 又は図形を T シャツの胸全面に

表示することは、他人の商標権の侵害を構成します。適用される法律を考慮

すると、その標章が T シャツについて登録されている場合、タイ商標法及

び刑法上の偽造を理由に、法的措置を取ることができます。

 しかしながら、当該標章がタイにおいて T シャツについて登録されてい

ない場合でも、タイ商標法に基づく詐称通用を理由として法的措置を取る

ことができます。さらに、当該標章に係る商品又は取引が、当該他人の商品

又は取引であると公衆に誤信させる場合は、そのような使用はタイ刑法第

272 条(1)違反を構成し得ることになります。加えて、他の国において当

該標章が T シャツについて登録されている場合は、タイ刑法第 273 条、第

274 条及び第 275 条にしたがって、外国登録に基づき、侵害者に対して法

的措置を取ることができます。

 さらに、商標権者は、民事訴訟において、タイ商標法及びタイ民商事法の

規定にしたがって、本案的差止命令による救済、損害賠償及び模倣品の没収

を請求することができます。

Page 314: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

314 アジア

タイ

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 タイにおいては、フリーギフトとしての商品の頒布は、登録商標の

使用と判断されます。したがって、ボールペンに当該標章「ABC」を表示す

ることは、タイ商標法第 108 条に違反し、指定商品についての登録商標の

偽造に基づく侵害を構成します。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 「ABC インクジェットプリンター用のインクジェットプリンターイ

ンク」の表示の使用は、単に商品の用途を表示することが意図されているに

過ぎず、商標「ABC」の使用とは判断されません。したがって、XX 社の許

可なく、「ABC インクジェットプリンター用のインクジェットプリンターイ

ンク」の表示を使用することは、XX 社の登録商標「ABC」に係る商標権を

侵害しません。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 商標がいったん登録されたなら、当該商標と共にⓇの記号又は他の

印を使用しなければならないという規定はありません。また、商標権の行使

の要件でもありません。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消される要件を説明して下さい。

A.8 タイ商標法第 63 条にしたがい、利害関係人又は登録官は、商標審

判部に対して、商標登録の取消しを請求することができます。ただし、利害

Page 315: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

315アジア

タイ

関係人又は登録官が、商標権者が当該登録を求める際に当該登録に係るいず

れの指定商品についてもその商標を誠実かつ真正に使用する意思を有してい

なかったこと、及び実際にその商標がそれらの商品について誠実に使用され

なかったことを証明できるか、又は審判請求の直前の 3年間にその商標が

誠実に使用されなかったことを証明できる場合に限られます。言い換えれば、

商標が登録された 3 年後に取消審判を開始することができます。

 この条項の要件に従えば、取消請求に係る商標が過去 3 年間継続してタ

イにおいて全く使用されなかったことを証明する必要があります。裏付けと

なる証拠としては、信頼できる調査会社による認証付き調査報告書がありま

す。当該商標が、市場で販売する前に当局への認可登録を必要とする商品、

例えば、医薬品を指定して商標登録されている場合、取消請求に係る商標が

付されている製品が担当当局に認可登録されていないことの事実を証明する

認証付き書簡は、不使用についての特に説得力のある証拠とされます。

 取消審判では、タイ商標法第 63 条にしたがい、商標権者は、当該商品に

ついての商標の不使用は、取引上の特別な事情によるものであって、商標を

使用しない又は放棄する意図によるものではないことを証明することによっ

て、有効な抗弁を行うことが認められています。「取引上の特別な事情」の

語句の定義を明示的に規定した法律又は規則は存在しません。しかしながら、

この「特別な事情」は、実務上、広く解釈されています。商標権者は、取消

審判に対する抗弁として、例えば、経済危機、政治問題、為替レート等、広

範囲に渡る問題を挙げることができます。このように、タイにおいては、不

使用取消審判の請求を成功させることはかなり困難です。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国において当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 XX 社がタイで当該万年筆を販売したことがないという事実に鑑み

Page 316: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

316 アジア

タイ

ると、タイでは、設問のような、XX 社のウェブサイトにおける広告のみで

は、登録商標の使用とは判断されないと思われます。なぜなら、不使用取消

審判を克服するための正当な使用は、登録商標「XYZ」を付した万年筆がタ

イの市場において実際に販売されたことを示すものでなければならないから

です。

 しかしながら、設問のようなインターネットにおける広告は、XX 社がタ

イで当該万年筆を販売したことがなかったとしても、不使用による取消しに

対する防御として、XX 社が登録に係る指定商品について当該商標を使用す

る誠実かつ真正な意思を有していたことを証明するためには十分であると思

われます。なぜなら、当該ウェブサイトはタイの消費者がタイ語でアクセス

することが可能であり、商標「XYZ」を付した万年筆又はその包装箱が掲載

され、タイ・バーツによる価格が掲載されているからです。とはいうものの、

その他の関係する事実、例えば、当該商標が長期間登録されているにもかか

わらず未だ使用されていない、及び / 又はインターネットでの広告が取消審

判請求前になってやっと開始されたばかりである、といったことも考慮され

なければなりません。このような事実は、商標の使用意思の信頼性に対して

影響を与えると思われます。

 具体的なアクセス数を証明することを要求する規定はありません。しかし

ながら、広告の有効性を示し、商標の使用意思の主張を強化するために、ウェ

ブサイトに相当数のアクセスがあったことを証明することをお勧めします。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 XX 社の販売代理人、ライセンシー等が存在しなかったとしても、

商標「XYZ」を付した万年筆をタイに個人輸入することは、タイにおける登

録商標の使用を構成します。また、不使用による取消しを克服するための

証拠として使用することが可能です。しかしながら、XX 社は、商標「XYZ」

Page 317: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

317アジア

タイ

を付した万年筆がタイに輸出されたことを示す裏付け証拠を提出することが可能でなければなりません。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 たとえウェブサイトのサーバーがタイに置かれていないとして

も、当該広告は、なおタイの消費者に向けられた広告であると考えられます。

なぜなら、上記の事例における広告はタイ語で表示されており、かつタイ・

バーツの通貨による表示が含まれているからです。したがって、当該公告は、

XX 社による商標「XYZ」の使用意思を示すものであるとなお主張し得ると

思われます。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場合はどうですか。

A.12 タイ語の表示がなかったとしても、英語の表示があれば、当該広

告はタイに住む外国人消費者向けの広告であると判断される可能性がありま

す。したがって、当該広告は、タイにおける登録商標「XYZ」の使用意思を

示すと、主張し得ると思われます。しかしながら、このシナリオは、不使用

による取消しに対する防御としては、上記に示された種々のシナリオより弱

いと言えます。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 インターネット上の広告が上記の情報しか含んでいなければ、XX

Page 318: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

318 アジア

タイ

社による商標「XYZ」の使用意思を示すためには十分ではないと思われます。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 消費者が、ウェブサイトにおける表題又は商品説明が当該万年筆

の商標であると認識できるなら、当該万年筆又はその包装箱に登録商標が付

されていないとしても、当該表題又は商品説明は、当該登録商標に係る万年

筆の広告であると判断されます。したがって、当該表題又は説明は、タイに

おける XX 社による商標「XYZ」の使用意思を示すと主張することが可能で

あると思われます。

 しかしながら、登録商標が URL に含まれているだけの場合、消費者が

URL 中の登録商標と指定商品「万年筆」との関係を容易に認識する可能性

は低いと思われます。したがって、そのような使用が万年筆についての登録

商標の使用意思を示すとの主張はできません。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 我国の通貨、すなわちタイ・バーツの表示がなかったとしても、

米国ドルの表示がある限り、タイ・バーツへの換算は容易に行うことができ

ます。したがって、我国の通貨の表示がないという理由のみで、前記の広告

が具体的な商品についての広告にあたらないとの主張はできません。ある広

告が具体的な商品の広告であるかどうかは、すべての関連要因を考慮して総

合的に判断されます。

 上記の事例において、たとえタイ・バーツの表示がなかったとしても、当

該ウェブサイトがタイ語でアクセス可能である事実等、他の要因を考慮すれ

ば、当該広告がタイの消費者に対する具体的な広告であると判断される余地

がありますので、当該広告が登録商標の使用意思を示しているとの主張は可

Page 319: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

319アジア

タイ

能です。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 タイの商標審判部又は知的財産及び国際通商裁判所(IP&IT

Court)に対してなされる、不使用に基づく取消審判請求は毎年ほとんどあ

りません。しかしながら、商標審判部の決定は、商標の使用を証明するため

になされるインターネット上の広告に、通常、それ程大きな重きを置きませ

ん。したがって、インターネット上の広告のみでは、商標審判部に対して、

商標の使用又は使用意思を証明するのに十分ではないと言えそうです。これ

は知的財産及び国際通商裁判所の判断とは対照的です。裁判所は不使用取消

訴訟において、インターネット上の広告を商標の使用意思の証拠と判断する

可能性が高いからです。しかしながら、インターネット上の広告のみを以っ

て、裁判所に、登録商標の使用意思の存在を納得させるに十分であるか否か

を考慮すると、使用意思の主張を強化するために他の要因も提示すべきです。

これは特に、XX 社がタイにおいて当該万年筆をこれまでに販売したことが

ない理由を説明することによって果たされ得ると思われます。

(原稿受領日 2008 年 3 月 27 日)

Author: Mr. Rungroj Kobkitwattanakul Tilleke & Gibbins International Ltd. Supalai Grand Tower, 20th-26th Fl. 1011 Rama 3 Road Chongnonsi, Yannawa Bangkok 10120, Thailand Tel: +66 2653 5555 Fax: +66 2653 5678 Email: [email protected] Website: http://www.tillekeandgibbins.com/

Page 320: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

320 アジア

ベトナム ベトナム (Vietnam)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 ベトナムにおいては、商標権に対する侵害行為に関して、日本と同

じ規定を設けています。しかしながら、「同一 / 類似の商標」、「同一 / 類似

の商品 / 役務」の使用に加えて、我々は、標識の使用に関してもう一つの規

定を有しています。それは、如何なる商品又は役務についても、周知商標と

称呼又は観念において同一又は類似の標識です。この使用もまた侵害行為を

構成します。これらの規定は、知的財産法の第 12 条 1 に明示されています。

 ベトナムでは、並行輸入が認められています。したがって、真正商品の並

行輸入は、商標権侵害を構成しません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 ベトナムでは、商標権者が登録商標を使用しているという事実は、

商標権を行使するための要件ではありません。商標権者が権利を行使するた

めに課される使用義務の法規定もありません。

 商標権者が登録商標を継続して 5 年間使用しなかった場合に、その登録

は第三者の請求により、不使用を理由に取り消されるという規定があるだけ

です(知的財産法第 95 条 1.d)。この規定に鑑み、商標権者が登録商標を

使用することは、第三者の請求に基づく不使用による取消しからその商標登

録を保護するためだけでなく、損害賠償請求をするための要件となります。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 はい。なぜなら、「音楽 CD のジャケット」は「音楽 CD」に類似す

Page 321: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

321アジア

ベトナム

ると判断されるからです。知的財産法の第 129 条 1.b に照らし、取引を目

的として、「LOVE」を音楽 CD のジャケットに使用することは、音楽 CD を

指定する登録商標「LOVE」の侵害を構成します。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 はい。その理由はA.3と同じです。ベトナムにおいては、取引を

目的として、T シャツに他人の登録商標と同一の図形又は文字を使用するこ

とは、侵害を構成します。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 ベトナムにおいては、フリーギフトとして頒布する目的であっても、

ボールペンに「ABC」の表示を使用することは、商標権の侵害と判断されま

す。このギフトは、金融サービスの利益のために、一種の販売促進又は広告

として使用されています。この場合において、ボールペンに ABC を使用す

ることは、商標権の侵害と判断されなけばなりません。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 はい。ベトナムにおいては、XX の許可なく「ABC インクジェット

プリンター用インクジェットプリンターインク」の表示を使用することは、

XX の商標権の侵害を構成します。

Page 322: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

322 アジア

ベトナム

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 ベトナムにおいては、そのような表示は商標権行使の要件ではあり

ませんが、推奨されます。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 ベトナムにおいては、この要件は知的財産法の第 95 条 1.d に規定

されています。すなわち、「当該商標が、商標権者又は商標権者の許諾を受

けた者により、正当な理由なく、取消請求日前 5 年間継続して使用されなかっ

た場合は、取消請求日前少なくとも 3 月前に使用が再開された場合を除い

て」、商標登録は取り消されます。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 原則として、商標を付した商品の販売の広告は、商標の使用を規定

している知的財産法第 124 条 5.c にしたがい、商標の使用と判断されます。

しかしながら、広告のみでは、取消しを回避し得る商標の使用を証明するに

は十分ではありません。さらに、ウェブサイトの広告がベトナム語以外の言

語で表示されている場合は、当該広告が商標の使用についての法的な証拠で

あると判断されるべきことを証明することも困難です。

Page 323: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

323アジア

ベトナムQ.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 前述の通り、ベトナムにおいては、広告は商標の使用を証明する

には十分ではありません。したがって、たとえ商標権者が、多少の消費者が

ベトナムに当該製品を輸入したことを証明できるとしても、そのような消費

者が多数存在し、多くの製品を輸入していることを請求書や輸入に係る法的

書類を以って証明しない限り、商標権者はなお取消しの危険に直面している

と言えます。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 回答はA.10と同じです。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 我々の公用語で表示されていても、前述の通り、ウェブサイト上

の広告が商標の使用と判断されるか否かは、商標権者が証明し得る数字によ

ります。すなわち、例えば、消費者の数、売上、販売された商品の数量、及

び輸入に関する法的書類等です。ウェブサイトに公用語による表示がなけれ

ば、証明はより難しくなりますが、商標権者がそれらの数字を証明すること

ができ、関係書類がベトナム語に翻訳されるとすれば、なお商標の使用と認

められる可能性はあります。

Page 324: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

324 アジア

ベトナム Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 この広告は、商標の使用と判断される可能性があります。知的財

産法第 124 条 5.d によると、「商標を付した商品の販売のための広告」と明

示的に規定されています。したがって、上記の情報からなる広告が、商標の

使用と認められる可能性があります。しかしながら、我々は、ベトナムにお

ける商標の現実の使用を証明するには十分ではないとの見解を維持します。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 ウェブサイトにおいて、表題又は商品の説明に登録商標「XYZ」

が使用されている広告は、なお商標の使用として認められる可能性がありま

すが、他の広告と同様に、商標の使用を証明するには十分に強力とまでは言

えません。

 「XYZ」が URL にのみ含まれており、指定商品との関係を認識させること

ができない場合は、確実に使用の証拠とは認められません。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 商標権者が、ベトナムの消費者に対する製品の販売による大きな

売上や消費者の数を証明できるとすれば、我国の通貨による表示がなくても、

問題ではありません。

Page 325: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

325アジア

ベトナム

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 ベトナムにおいて、実務上、そのような事件が起こったことはあ

りません。前述したように、広告は使用の証拠の 1 種類と判断されますが、

十分に強くありません。重要なのは、商標権者が、ウェブサイトサイトにお

ける広告による販売から得られた消費者、製品、売上、請求書の数量を証明

することです。これらの書類は、広告そのものではなく、現実の使用の証拠

と判断されます。

(原稿受領日 2008 年 5 月 8 日)

Author: Mr. Le Dang Tho Invenco P.O. Box 412, 29 Truong Han Sieu street Hoan Kiem district, Hanoi, Vietnam Tel: +84 4 3822 8595; 3822 2664; 3822 2153 Fax: +84 4 3822 6059; 3822 3095; 3943 6881; 3943 6882; 3943 6884 Email: [email protected], [email protected] Website: http://www.invenco.com.vn/ , www.invenco.vnn.vn/

Page 326: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

326

Page 327: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

327

大洋州

(OSEANIA)

Page 328: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

328 大洋州

オーストラリア

オーストラリア (Australia)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 1995 年商標法(以下「法」と言う。)は、侵害は、以下の 3 つの

状況において、第三者が登録商標と実質的に同一又は欺瞞的に類似する商標

を使用する場合に生じる旨を規定しています。

 ⅰ.商標登録に係る指定商品又は指定役務について使用する場合:第 120

条(1)。

 ⅱ.商標登録に係る指定商品又は指定役務と同一の種類又は密接に関係す

る商品又は役務について使用する場合:第 120 条(2)。

 ⅲ.商標登録に係る指定商品又は指定役務と同一の種類でもなく、密接な

関係も有しない商品又は役務であるが、登録商標が周知であるために、その

使用が、無関係な商品又は役務と商標権者との関係を示すと認識されるおそ

れがあり、結果として、商標権者の利益に悪影響を与えるおそれがある場合:

第 120 条(3)。

 当該商標が他の商標と酷似するために欺瞞又は混同のおそれがある場合、

当該商標は他の商標と欺瞞的に類似するとされます:第 10 条。

 上述の ( ⅱ ) に記載する状況に関して、被疑侵害者が、その使用が欺瞞も

混同も生じさせるおそれがないことを証明できる場合、侵害に対する抗弁を

主張することができます。

 登録商標を付した真正商品の並行輸入は、当該商標の侵害を構成しません。

法は、当該商標の商標権者により又はその同意を得て、当該商標が商品に又

は商品との関連で付されている場合における、侵害に対する抗弁について規

定しています。この抗弁は、登録商標の商標権者が、真正商品のオーストラ

リアへの輸入又は販売に同意したか否かに関係なく適用されます。

Page 329: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

329大洋州

オーストラリア

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 商標権侵害の要件の立証に成功した商標権者は、損害賠償又は利益

の譲渡及び差止命令を請求する権利を有します。損害賠償の認定は、商標権

者が被った損失を補償することを目的としています。損害賠償請求を行うた

めに、商標権者がその商標を使用していたことを証明する必要はありません

が、商標権者は、評判の喪失等の損害が生じたことを証明しなくてはなりま

せん。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 侵害が成立するためには、関連する使用は、商標としての使用でな

ければなりません。したがって、音楽 CD のジャケット上の LOVE の使用が、

例えば LOVE SONGS のような CD の題号に限定されたり、又は音楽 CD の内

容を説明するために記述的に使用され、かつその使用が CD の出所を表示又

は暗示するものでない場合は、そのような使用は LOVE の登録の侵害を構成

しません。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 上述の通り、関連する問題は、T シャツに施された図形又は文字が

T シャツについて取引上の出所表示として使用されているかどうかというこ

とです。T シャツの図形が純粋に装飾的な機能を発揮し、デザインを表して

いる場合、著作権侵害となる可能性はありますが、おそらく商標権侵害とは

ならないと思われます。しかしながら、当該図形が T シャツの出所を表示

又は暗示する場合は、商標としての使用が存在することになり、よって商標

権者の権利の侵害となります。

 同じ論法が、文字により構成される表示について適用されます。Top�

Page 330: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

330 大洋州

オーストラリア

Heavy�Pty�Ltd.�v.�Killin�(1996)�34�IPR�282 の事件では、T シャツに他の図形

要素と並べて付された「Chill Out」(訳者注:「落ち着け!」の意)の文字の

装飾的な使用は、被服について登録された商標 CHILL OUT の侵害とはなら

ないと判示されました。むしろ、この語句は、relax(訳者注:「落ち着く」

の意)の命令形と理解されました。

 この領域における難しさは、特に図形又は文字が純粋に装飾的であるかど

うか、又は記述的な意味合いを有しているかどうかが明らかでない場合に生

じます。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 侵害を認定するためには、訴えに係る使用は取引上の使用でなけれ

ばなりません。したがって、金融サービスの提供を促進するフリーギフトと

してボールペンを頒布することは、侵害を構成しそうにないと思われます。

Ferodo�Ltd's�Appn�(1948)�62�RPC�111�(Ch�D) の事件において、原告の自動車

製品の販売促進のために無料配布されたマッチ箱や鉛筆等の物品に商標を付

する行為は、ギフトとなる商品についての商標の使用にはあたらないと判示

されました。当該ボールペンが、金融サービスの促進の一部として提供され

たのではなく、「独立」した商品として販売されていた場合、又は他の関連

する状況が存在する場合は、事態は異なるでしょう。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 オーストラリアにおいては、取引者は、信義誠実に基づくものであっ

て、混同を招来するものでない限り、製品を説明するために「ABC インク

ジェットプリンターに適合する」又は「ABC インクジェットプリンターと

Page 331: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

331大洋州

オーストラリア

互換性がある」といった説明書きを使用する権利があります。しかしながら、

一般的に、ABC インクジェットプリンター用の詰め替え品について、「ABC

詰め替え品」と記載することはお勧めできません。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 商標が登録されていることを表示することは義務ではありませんし、

そのような表示は商標権の行使の要件でもありません。しかしながら、Ⓡ記

号の使用は、その商標が登録されており、商標権者が商標登録に係る指定商

品又は指定役務についてその商標を使用する独占権を有していることを第三

者に告知する役割を果たします。したがって、Ⓡ記号の使用は、他人が商標

権の権利侵害となり得る行為を行うのを抑止します。

 商標と共にⓇ記号を使用することは、その商標が登録されていることの表

示となります。したがって、登録されていない商標と共にⓇ記号を使用す

ることは、法上の犯罪となります。かかる行為は、1974 年取引慣行法 (Cth)

の第 52 条に定める誤認及び欺瞞的行為にも該当する可能性があります。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用

Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 不使用による商標の取消請求をするための理由は、法第 92 条(4)

に規定されています。要約すると、以下の場合に、商標は取り消されます。

 (a)出願時に、出願人が、オーストラリアにおけるその商標の使用、又

は他人への使用許諾若しくは法人への譲渡について誠実な意思を有していな

かった場合であって、かつその商標が取消請求書の提出日前 1 月までの如

何なる時点においても使用されていなかった場合。

 (b)取消請求日前 1 月までの継続した 3 年間に、その商標が商標登録に

Page 332: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

332 大洋州

オーストラリア

係る指定商品 / 指定役務について、オーストラリアにおいて誠実に使用され

なかった場合であって、かつ取消請求がその商標の出願日から 5 年以内に

なされたものでない場合。

 不使用の申立てに対する反証責任は、被請求人にあります。取消請求が第

92 条(4)(a)に基づいてなされた場合、被請求人は以下について立証し

なければなりません。

 ・その商標の使用、又は他人への使用許諾若しくは法人への譲渡について

誠実な意思を有していたこと、又は

 ・取消請求日前1月までにされた、その商標の誠実な使用。

 取消請求が第 92 条(4)(b)に基づいてなされた場合、被請求人は以下

について立証しなければなりません。

 ・取消請求日前 1 月までの 3 年間における、その商標の誠実な使用、又は

 ・その期間に、その商標の使用を妨げる事情があったこと。

 登録官が不使用による取消しの手続において広い裁量権を有していること

にご留意下さい。たとえ不使用が立証されたとしても、一定の状況下、登録

官は登録の取消しをしない決定をすることができます。また、取り消される

のではなく、商標登録の範囲が制限されることも一般的です。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 「XYZ」万年筆を広告する XX 社のウェブサイトが、オーストラリア

における XYZ 商標の使用とされる可能性は低いと思われます。その筋書き

は、Ward�Group�Pty�Ltd�v.�Brody�&�Stone�plc�[2005]�FCA�471 の事件と似て

います。当該事件において、裁判官は、販売の申出がオーストラリアの消費

者を標的又は対象としていないことを理由として、英国のウェブサイトにお

Page 333: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

333大洋州

オーストラリア

ける「RESTORIA」のブランド名に係る製品の広告は、オーストラリアにお

ける RESTORIA 商標の使用にあたらないと判示しました。

 インターネット上の商標の使用がオーストラリアにおける使用であること

を立証するためには、当該ウェブサイトが具体的にオーストラリアの消費者

を標的としていることを証明する必要があります。関連する証拠の例として

は、以下のものがあるでしょう。

 ・具体的にオーストラリア人を対象としている旨のウェブサイト上におけ

る言及、

 ・ラジオ・テレビ、又は新聞等の他の媒体を通じて行われる、オーストラ

リアにおける当該ウェブサイトの宣伝、

 ・オーストラリア・ドルによる支払いの提示、及びオーストラリアの住所

への配送費用の説明を含むオーストラリアへの配送についての記載、及び

 ・オーストラリア居住者のためのアフターサービスの提供の申出、及び電

話番号、特にオーストラリアから電話するための電話番号の記載。

 XX 社のウェブサイト上において、価格がオーストラリア・ドルによって

表示されているとしても、かかる事実のみを以って、そのウェブサイトが具

体的にオーストラリアの消費者を標的としていることを示す証拠として足り

る可能性は低いでしょう。この点について、Ward�Group�Pty�Ltd�v.�Brody�&�

Stone�plc�[2005]�FCA�471 の事件において、Merkel J 判事は、以下の見解を

示しました。

 「製品の販売のために、ウェブサイトの所有者がインターネット上で行う

広告は、広く世界にその製品を販売する手段であって、オーストラリアの

消費者を具体的に標的又は対象とする販売手段であったとは確信できない

し、オーストラリアの消費者から反応があることを具体的に意図していたと

も確信できない。オーストラリアが、他の多数の国と共に、製品の出荷が可

能な仕向地として、「出荷可能国」欄のリストに記載されていたことに間違

いはない。また、Westons のウェブサイトには、多数の製品について、オー

ストラリア・ドルによる価格が他の通貨と共に、換算価格として表示されて

Page 334: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

334 大洋州

オーストラリア

いた。しかしながら、これらの状況が、問題の特定の商品が、世界中の消費

者に対してその商品又は他の商品の販売の申出がされていた方法とは異なる

方法で、オーストラリアの消費者に対して販売されることの具体的な意図を

示していた、とは確信できない。むしろ、これらの状況は、ウェブサイトの

所有者が、彼らのウェブサイト上で広告された製品の購入に関心を抱く潜在

的な消費者が世界のどこかにいるかもしれないことを期待していたのと同様

に、オーストラリアに潜在的消費者がいるかもしれないことを期待していた

ことを示すに過ぎない。」

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 はい。そのウェブサイトがオーストラリア市場に向けて行われて

いた場合は、XX 社のウェブサイトを通じてオーストラリアの実在者に対し

て行われた実際の販売の証拠(偽装購入ではないもの)は、おそらくオース

トラリアにおける商標の使用を立証するのに十分でしょう。ウェブサイトを

通じた多量の販売は必要ではありません。誠実かつ真正な使用に係る 1 回

の行為でも、不使用の請求を克服するに十分である可能性があります。しか

しながら、報告されている判決例は、個人消費用の製品の単なる輸入は、オー

ストラリアにおける商標の使用に関係しないことを示しています。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 XX 社のウェブサイトが広く世界に向けられたままである限り、

単にウェブサイト上に商標が含まれていることが、オーストラリアにおける

商標の使用としての適格性を有するとされる可能性は低いと思われます。

Page 335: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

335大洋州

オーストラリア

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 XX 社のウェブサイトが広く世界に向けられたままであり、具体

的にオーストラリアに向けられていないことから、同じ結論が適用されます。

 しかしながら、証明にはより困難を伴いますが、XX 社のウェブサイトが

特定の言語で表示され、特にその言語を話すオーストラリアの消費者を標

的としていることが示されている場合、上記A.9に列挙した証拠により、

XX 社がオーストラリアにおいてその商標を使用していたと議論する余地が

あるでしょう。しかしながら、この論法は、まだ裁判所において審理された

ことがありません。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 以下のA.15をご参照下さい。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 以下のA.15をご参照下さい。URL に商標が含まれていること

が商標の使用としての適格性を有するとされる可能性は低いでしょう。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 Q.13、Q.14及びQ.15の各設問例において、XX 社の

Page 336: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

336 大洋州

オーストラリア

ウェブサイトが具体的にオーストラリアの消費者を標的としていること、又

はオーストラリアでの取引過程において商標の使用が発生していることを証

明する証拠はありません。したがって、それらがオーストラリアにおける商

標の使用としての適格性を有するとされる可能性は低いでしょう。提示され

た設問例のいずれにおいても、オーストラリアにおける商標の使用が関係す

る可能性は低いと思われます。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 インターネット上の商標の使用に関するオーストラリアにおけ

るリーディングケースは、Ward�Group�Pty�Ltd�v.�Brody�&�Stone�plc�(2005)�

FCA�471 の事件です。当該事件では、Ward Group は、RESTORIA 商標の

下で抗白髪クリームを販売していました。Ward Group は、英国において

RESTORIA 商標の商標登録出願をしました。英国における事業の売却を通じ

て、その登録は結果的に、英国で引続き RESTORIA のブランド名による製

品を販売する Brody & Stone という会社に譲渡されました。製品は、英国で

運営されるウェブサイトを通じても販売されましたが、オーストラリアから

もアクセスすることが可能でした。かかるウェブサイト上の RESTORIA 製

品の広告が、商標権侵害を構成するかどうかが争われました。ウェブサイト

がオーストラリアの消費者によってアクセスすることが可能であることを証

明するために、オーストラリアの Ward Group の勧誘員によって、多くの偽

装購入が英国のウェブサイトからなされました。

 裁判所は、侵害はなかったと認定し、RESTORIA のブランド名による製品

の販売の申出は、具体的にオーストラリアの消費者を標的又は対象として

行われてはいなかったため、英国のウェブサイトにおける RESTORIA 製品

の広告はオーストラリアにおける商標の使用を構成しなかったと判示しまし

た。オーストラリアにおいて生じた唯一の使用は、偽装購入でした。しかし

ながら、これらの購入は Ward Group の指示の下で、その勧誘員によってな

Page 337: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

337大洋州

オーストラリア

されたものであることから、Ward Group はオーストラリアにおけるその商

標のそのような使用に同意していたことになります。

 Fresh�Intellectual�Properties�Inc�v.�Goldman�(2006)�69�IPR�337 の事件にお

いては、ある商標登録出願が、その商標と実質的に同一の商標を異議申立人

がオーストラリアにおいて先行的に使用していたことを理由として異議申立

を受けました。異議申立の根拠として、当該異議申立人は、そのウェブサイ

ト上における商標の使用を示す証拠を提出しました。しかし、異議申立人の

商標がウェブサイトに表示されていた期間における、オーストラリア人によ

るそのサイトへの訪問を、異議申立人が証明しなかったため、当該ウェブサ

イト上の商標の使用はオーストラリアにおける使用ではないと判示されまし

た。異議申立人がその製品についてオーストラリアの消費者から受けた注文

は、すべて電話でなされたものであって、異議申立人のウェブサイトを通じ

てオンラインでなされたものではなかったようです。

 Honest�Tea�Inc�v.�Teavolution�Pty�Ltd�(2007)�71�IPR�431 の事件では、異議

申立人は、オーストラリアでその商標を使用したことを証明するために、様々

な状況証拠に依拠しようとしました。その中には、1998 年から運営するウェ

ブサイトによる販売の潜在的可能性も含まれていました。審査官は、異議申

立人のウェブサイトへの訪問が、オーストラリアからの異議申立人の販売を

もたらしたことを示すものは何もなく、オーストラリアにおける商標の使用

として適格性を有しないと認定しました。

 McDougall�v.�Deckers�Outdoor�Corporation�(2006)�68�IPR�322の事件では、

審査官は、ウェブサイト上の商標の使用はオーストラリアにおける使用では

ないと認定するに際し、異議申立人が、そのウェブサイト上で、オーストラ

リアのクレジットカードによる取引を処理することが困難であったことに着

目した上で、そのウェブサイトから商品を注文したとして列挙されたオース

トラリアの消費者のうち、少なくとも 2 人が、実際に商品を受領しなかっ

たとの事実に注目しました。

Page 338: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

338 大洋州

オーストラリア

(原稿受領日 2008 年 4 月 29 日)

Author: Mr. Brett Lewis Davies Collison Cave 1 Nicholson Street Melbourne VIC 3000 Australia Tel: +61 3 9254 2800 Fax: +61 3 9254 2770 Email: [email protected] Website: http://www.davies.com.au/

Page 339: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

339大洋州

ニュージーランド

ニュージーランド (New Zealand)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 2002 年商標法第 89 条(1)によれば、登録商標を使用する権利を

有しない者が、取引過程において、以下の標識を使用する場合に、登録商標

の侵害が生じます。

 (a)商標登録に係る指定商品・役務と同一の商品・役務について使用する、

登録商標と同一の標識。

 (b)商標登録に係る指定商品・役務と類似の商品・役務について使用する、

登録商標と同一の標識であって、その使用が欺瞞又は混同を生じさせるおそ

れがあるもの。

 (c)商標登録に係る指定商品・役務と同一又は類似の商品・役務について

使用する、登録商標と類似の標識であって、その使用が欺瞞又は混同を生じ

させるおそれがあるもの。

 (d)商標登録に係る指定商品・役務と非類似の商品・役務について使用

する、登録商標と同一又は類似の標識。ただし、その登録商標がニュージー

ランドにおいて周知であって、かつその標識の使用がその登録商標の識別性

若しくは評判を不正に利用又は損なう場合に限る。

 しかしながら、第 89 条(2)は、その標識が商標として使用されている

と把握されるおそれのある態様で使用される場合に限り、89 条(1)が適

用される旨を規定しています。

 ニュージーランド政府は、並行輸入を支持しており、合法的な並行輸入

を阻止するために登録商標を使用してはならないことを確保するために、

2003 年 10 月 31 日付で、2002 年商標法について改正がなされました。そ

の結果、第 97 条 A が 2002 年商標法に追加されました。同条項は、世界の

Page 340: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

340 大洋州

ニュージーランド

どこにおいてであっても、商標権者により又はその明示若しくは黙示の同意

を得て、その商標の下で市場に置かれた商品についてなされる、その商標の

使用(広告を目的とする使用を含む。)は、登録商標の侵害とならない旨を

規定しています。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 ニュージーランドにおいては、商標権者がその商標を使用している

ことは、商標権行使の要件ではありません。

 しかしながら、その商標が、継続して 3 年間、商標権者又は許諾を受け

た他の者によって、取引過程において、真正な使用に付されない場合、当該

登録は不使用を理由として取り消されるおそれがあります。したがって、侵

害訴訟が開始された場合、被疑侵害者が侵害に係る当該商標の取消請求を

以って反訴請求を行う可能性があります。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 一般的に、音楽 CD の題号は、商標として機能するものではないた

め、音楽 CD に係る第三者の登録の侵害を構成しません。CD の題号は、通常、

CD の取引上の出所を表示するものではないことから、通常、商標として使

用されません。題号はまた、CD の内容を記述するものでもあり得ます。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 T シャツ上にデザインを使用することは、装飾としての使用であっ

て、商標としての機能を発揮する可能性が低いことから、被服に係る第三者

の登録の侵害を構成することは、おそらくないでしょう。しかしながら、T

シャツの胸の部分にごく普通に使用されるものであって、商標としての機能

を発揮し得る又は確かに発揮する図形的商標が存在する場合があります。そ

Page 341: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

341大洋州

ニュージーランド

のようなデザインを権原なく使用する場合は、商標権侵害を構成することに

なりそうです。

 さらに、そのデザインに著作権が存する場合は、芸術著作物の権原なき

使用は、その芸術著作物に係る著作権侵害を構成するか、又は 1994 年著作

権法に基づき、芸術家の著作者人格権を侵害する可能性があります。 -

Radford v. Hallenstein Bros 事件- (High Court, Auckland, CIV 2006-404-

004881, 2007 年 2 月 22 日 )

 商標である文字は、T シャツの胸の部分に一般的に使用されます(様々な

周知スポーツブランドが T シャツに一般的に使用されることを思い浮かべ

て頂ければご理解頂けると思います。)。そのような使用は、被服についての

商標の使用であり、権原なき使用は登録商標の侵害となる可能性が高いと思

われます。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 一般的に、「フリーギフト」として頒布される製品は、商標の本質

的機能である、取引上の使用ではないと考えられることから、そのような商

品についての第三者の登録の侵害とはなりません。

 上記の使用は「ボールペン」についての商標の使用ではなく、「金融サー

ビス」を広告するものです。他の商品を広告するために商品に付する商標の

使用は、当該他の商品についての商標の使用と考えられる可能性は低いと思

われます。特に、証拠上、ペンについての真の取引が行われていない場合は、

商標の使用と考えられる可能性は低いと思われます。

Page 342: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

342 大洋州

ニュージーランド

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 ニュージーランドでは、商品の用途を表示するために、他人の登録

商標を使用することは、他人の商標権の侵害となる可能性があります。

 しかしながら、第 97 条(b)は、侵害について以下の例外を規定しています。

 第 97 条 取引上、一定の関係がある場合は侵害とはならない。

(b) 商品に係る登録商標は、その商標が使用されているか又は使用するこ

とができる他の商品又は役務に関して、その一部を構成するように若しくは

その付属品となるように適合する、又はそれらと共に若しくは関連して供給

することが意図されている同一若しくは類似の商品についてのその商標の使

用によっては侵害されない。ただし、次に掲げる事項を条件とする。

 (ⅰ)その商品が前記のように適合又は意図されていることを表示するた

めに、その商標を使用することが合理的に必要であること。

 (ⅱ)その商標の使用の目的又は効果が、商標権者とライセンシーと商品

との取引上の関係のみを表示することにあること。

 本設問に戻ると、XX 社が「インクジェットプリンター及びインクジェッ

トプリンターインク」を指定商品とする登録商標「ABC」を所有し、商標「ABC」

の下でその製造及び販売を行っている場合、第三者が、XX の許諾を受ける

ことなく、「ABC インクジェットプリンター用のインクジェットプリンター

インク」という表示の下で「インクジェットプリンターインク」を製造・販

売することは、第 97 条(b)により、XX の商標権の侵害を構成しないでしょ

う。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 商標が登録されていることを表示するためにⓇマークを使用してい

Page 343: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

343大洋州

ニュージーランド

ることは、商標権行使の要件ではありません。

 しかしながら、登録された商標権の存在を第三者に告知するためには、も

ちろん、そのような使用は推奨されます。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用

Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 2002 年商標法第 66 条乃至 68 条によれば、登録商標は、商標権

者がニュージーランドにおける取引上、商標登録に係る指定商品又は指定役

務について真正な商標の使用を証明できない場合、不使用を理由として、登

録簿より取り消されます。ただし、不使用の正当な理由となる、商標権者の

支配の及ばない特別な事情がある場合はこの限りではありません。

 商標権者による使用、又は商標権者の許諾を受けているか若しくは商標権

者の支配下にある他人による使用が、使用と認められます(第 7 条(2))。

登録された態様における商標の識別性に影響を与えない要素を変更した態様

での商標の使用は、商標の「使用」として認められます(第 7 条(1)(a))。

 第 66 条は、取消請求は、自己の法的権利を侵された者によってなされな

ければならない旨を規定しています。「自己の法的権利を侵された者」の用

語については、法律の解釈に関する法律の 1999 年法の第 5 条にしたがって、

広く自由な解釈が与えられています。しかしながら、自己の法的権利の侵害

は、取消請求書が提出される日において存在していなければなりません-

Application�for�Revocation�by�G.A.�Modefine�S.A.�of�Trade�Mark�No.�246704�

EA�in�Class�3� in�the�name�of�FD�Management,� Inc (T02/2008, Assistant

Comissioner Walden, 2008 年 2 月 13 日 )。

 第 68 条(1)によれば、商標登録に係る商品又は役務のうち一部につい

てのみ取消理由が存在する場合、取消しはそれらの商品又は役務についての

みなされます。さらに、商標登録が一定の範囲で取り消される場合、商標権

Page 344: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

344 大洋州

ニュージーランド

者の権利は、その限度において、

 (a)商標登録の取消請求日に、又は

 (b)商標局長又は裁判所が商標登録の取消しの理由がより早い日に存在

すると判断した場合は、その日に停止します。 -第 68 条(2)

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 インターネット上の商標の使用が、不使用取消請求を克服するに足

りるかどうかの問題は、ニュージーランドの裁判所によってこれまでに検討

されたことはないと思われます。

 商標局長は、この問題を最近の事案において検討しなければならなかった

ことがあり、ニュージーランドの消費者も製品を注文できるようなオースト

ラリアのウェブサイトにおける商標の使用は、以下の理由により、使用には

あたらないとの決定を下しました。

 ⅰ.その当時、オーストラリアにのみ存在したアウトレット店についての

商標であったこと、及び

 ⅱ.その商標とニュージーランドから受領した注文との間の関係が証明さ

れなかったこと。 -Application�for�Revocation�by�Smiths�City�(Southern)�

Limited�of�Trade�Mark�No.�270064�POWERHOUSE�in�the�name�of�Dick�Smith�

(Wholesale)�Pty�Ltd (T2/2006, Assistant Comissioner Walden, 2006 年 1 月

31 日 )。

 これは、何がニュージーランドにおける使用を構成するかについて、高

い基準を打ち立てたことになります。当該ウェブサイトがニュージーラン

ドを対象としていたものであり、そして、証拠が、注文が当該ウェブサイ

トを介してニュージーランドから受領されたこと、及びその結果として商品

Page 345: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

345大洋州

ニュージーランド

がニュージーランドの注文者に送付されたことを証明していたにもかかわら

ず、商標局の局長補は、これをニュージーランドにおける商標の使用とは判

断しませんでした。

 この局長補の決定を設問の事例に当てはめると、単なるインターネットサ

イトの存在及び設問の広告は、それ以上の事情がなければ、不使用取消請求

を克服するに足りるニュージーランドでの商標の使用に該当する可能性は低

いと思われます。

 登録商標の下で販売の促進が行われる商品の広告が、不使用による登録商

標の取消しを防ぐに足る真正な使用に該当するためには、その広告は、ニュー

ジーランドにおける取引上のものでなければなりません。そのためには、そ

の広告がニュージーランド市場を対象としていることが必要となります。ま

た、ニュージーランドの消費者に供給される商品が存在していなければなら

ず、それは広告に応じてなされる如何なる注文をも履行することができるも

のでなければならないでしょう。しかしながら、この事案は境界線上の事案

であって、商標権者の使用が真正なものであるという認定を裏付ける、ニュー

ジーランドにおけるさらなる使用例があることが望ましいでしょう。

 ニュージーランド裁判所が、このような状況が生じた場合に、それをどの

ように取り扱うかは明らかではありません。POWERHOUSE の決定は、以下

のオーストラリア連邦裁判所の最近の判決とは正反対のように思われます。

「その使用が具体的に、特定の法域において、又はそこを対象若しくは標的

としてなされたことの証拠がある場合、その商標がダウンロードされたとき

に、その法域における使用が存在する可能性が高い。」 -Ward�Group�Pty�

Ltd�v�Brodie�&�Stone�Plc�[2005]�FCA�471。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 ニュージーランドの裁判所がオーストラリアの判例に従った場

Page 346: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

346 大洋州

ニュージーランド

合、商標権者が、ある法域における特定の人々との関係でその商標の具体的

な使用を行うことを意図したことを示すものがさらにない限り、本質問の

回答は否定的になる可能性が高いと思われます。 -Ward�Group�Pty�Ltd�v�

Brodie�&�Stone�Plc�[2005]�FCA�471。

 しかしながら、他の法域を対象とする海外の出版物又はインターネットサ

イト上における広告は、ニュージーランドにおいてその商標が評判を有す

るかどうかの問題と関連する可能性があります。それは、異議理由の基礎

を形成し得るものです。 -Pioneer�Hi-Bred�Corn�Co�v�Hy-Line�Chick�Pty�

Limited�[1978]2�NZLR�50。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 オーストラリアの判例に従えば、ニュージーランド外のウェブサ

イトにおいてアップロードされたインターネット上の商標の使用は、それ以

上の事情がなければ、その商標がダウンロードされる、各々の法域における、

その商標のウェブサイトの所有者による使用と判断される可能性は低いと思

われます。 -Fresh�Intellectual�Properties�Inc.�v�Russell�Goldman�[2006]�

ATMO�21 (2006 年 2 月 28 日 )。

 不使用請求を克服するには、商標権者は、ニュージーランドにおける取引

上の商標の真正な使用を証明する必要があります。それは、広告がニュージー

ランド市場を対象としていないインターネットサイトにおける商標の使用以

上の使用を必要とするものです。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 ニュージーランドの公用語(英語)による表示がない場合は、そ

の使用がニュージーランドの消費者を対象としており、ニュージーランドに

おける取引上なされたものであることを証明するのは難しいでしょう。

Page 347: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

347大洋州

ニュージーランド

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 商品についての標識の使用は、実際の商品に単に物理的に標識を

付することよりも広い使用態様に亘ります。2002 年商標法第 6 条(a)に

よれば、商品についての標識の使用とは、商品自体に、又は物理的に若しく

はその他の関連における標識の使用を意味します。したがって、商品の実際

の写真は必要ではありません。

 しかしながら、XYZ 万年筆がニュージーランドで周知でなければ、設問

の広告が、ニュージーランドにおける取引上の商標の真正な使用に該当する

ことを証明するのは難しいでしょう。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 2002 年商標法第 6 条(a)によれば、ウェブサイト上の表題又は

商品の説明における登録商標 XYZ の使用は、商品との物理的な関係におい

て使用されていることから、商標の「使用」として足りる可能性が高いと思

われます。しかしながら、そのような使用がニュージーランドにおける取引

上の真正な使用に該当するかどうかは、なお判断を要します。

 URL のみにおける商標 XYZ の使用は、商品自体からあまりに離れており、

商標の使用としての適格性を有しない可能性があることから、商標の使用に

該当するに十分である可能性は低いと思われます。

Page 348: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

348 大洋州

ニュージーランド

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 ウェブサイト上にニュージーランド・ドルの表示がないことは、(上

記回答において論じたように)その広告がニュージーランド市場を対象とし

ていたことを示す他の要素が存在するならば、その広告がニュージーランド

における商標の使用に該当するかどうかの決定要因とはならないでしょう。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 インターネット上の商標の使用が不使用取消請求を克服するに十

分であるかどうかの問題に関してなされた、商標局の局長補による一つの決

定があっただけと思われます。-Application�for�Revocation�by�Smiths�City�

(Southern)�Limited�of�Trade�Mark�No.�270064�POWERHOUSE�in�the�name�

of�Dick�Smith�(Wholesale)�Pty�Ltd (T2/2006, 局長補 Waldenm 2006 年 1 月

31 日 ) -上述のとおり(A.9をご参照下さい。)。

 我々は、この問題に関するニュージーランド裁判所の判決例を知りません。

(原稿受領日 2008 年 5 月 14 日)

Author: Ms. Elena Szentivanyi Henry Hughes Ltd P O Box 356, Wellington New Zealand Tel: +64 (0)4 381 6050, +64 (0) 4 381 6057 Fax: +64 (0)4 381 6051 Email: [email protected] Website: http://www.henryhughes.co.nz/, www.henryhughes.com/

Page 349: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

349

中東

(MIDDLE EAST)

Page 350: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

350 中東

イスラエル

イスラエル (Israel)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 イスラエル商標法〔新法〕5732-1972(以下、「法」と称します。)

の第 1 条によれば、商標権の侵害行為とは、他人が登録商標と同一又は類

似の商標を商標登録に係る指定商品・役務と同一又は類似の商品・役務につ

いて使用する行為です。2000 年の法改正(TRIPS 協定にしたがった改正)

によって、法に、「広く認識されている」商標(訳者注:以下、「周知商標」

と称します。)という語が取り入れられました。今日、侵害訴訟は、イスラ

エルにおいて登録されているか否かにかかわらず、周知商標に基づいて提起

することもできます。周知商標がイスラエルにおいて登録されている場合、

商標権者は、商標登録に係る指定商品・役務と非類似の商品・役務について

も、登録された周知商標と同一又は類似の商標の使用を禁止することが可能

となります。商標のライセンシーは、そのライセンスが登録されているとし

ても、自ら商標権侵害訴訟を提起することができないことに注意する必要が

あります。

 イスラエルにおいては、米国及びその他のコモンローの国と同様に、商標

権は使用によっても獲得できます。未登録商標の場合、その使用は詐称通用

及び / 又は不当利得に係る訴訟の理由を構成する可能性があります。

 イスラエル法の下では、商標権侵害は刑事上の犯罪を構成することもあり

得ます。

 イスラエルでは、日本と同様に、真正商品の並行輸入は商標権侵害を構

成しません。確立された判例法(Case 371/89, Leibovitch vs. Eliyahu)がこ

れを確認していることに加え、ハイファ地方裁判所は最近、Dyson Ltd. v Y

Shalom Ltd(Case 1089/05, November 14, 2007)事件において、真正商品

Page 351: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

351中東

イスラエル

の並行輸入及び頒布は商標権侵害を構成しないことを確認しました。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 原則として、商標権侵害に基づく訴訟では、商標権者は差止、損害

賠償又は侵害品の廃棄等を求めるべく、商標権を行使するために、必ずしも

登録商標を使用している必要はありません。商標登録に基づく訴訟では、使

用 / グッドウィルを立証することは要求されず、混同のおそれの立証が要求

されるのみです。実際には、商標権者がその商標をイスラエルにおいて使用

していなければ、裁判所に損害を認定してもらうことは難しいでしょう。さ

らに、イスラエルにおける登録商標の使用がなければ、利害関係人、例えば

被告の請求により、登録は取消しを受けやすくなります。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 いいえ。音楽 CD のジャケット上の題号は、音楽 CD に収められた

音楽の題号及び内容を示すもので、商標の使用とは判断されません。そのよ

うな使用は商標権の侵害を構成しません。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 はい。原則として、T シャツの胸全面に表示された図形は商標の

使用として判断されるので、そのような使用は商標権侵害を構成する可

能性があります。さらに、T シャツに表示された図形は著作権侵害をも構

成する可能性があります。DONALD DUCK 事件(92/2687 Dudu Geva vs.

Walt Disney)において、漫画本の題号に係る Donald Duck の図形は、Walt

Disney の著作権を侵害するとの判決が下されました。文字のみからなる表

示に関しても、商品の出所について混同のおそれがある場合には、商標権侵

害に該当する可能性があります。

Page 352: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

352 中東

イスラエル

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 いいえ。ボールペンに付された商標 ABC が金融サービスについて

誠実に使用され、ABC のボールペンに無関係であることが明らかな場合には、

おそらく商標権侵害を構成しないでしょう。しかしながら、商標 ABC がイ

スラエルにおいて周知である場合には、その使用が商標権者に損害をもたら

す限り、商標権侵害を構成する可能性があります。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 いいえ。法第 47 条によれば、商品の性質や特徴に関するそのよう

な表示は、商標権侵害を構成しません。GILLETTE 事件(1236/93 Gillette

vs. Amir Marketing)において、テルアビブ地方裁判所は、第三者が予備部

品又は付属品を表示するために Gillette の商標を使用することを容認しまし

た。この事件では、Amir Marketing は、そのカートリッジ式かみそり刃の

包装箱に、その刃が GILLETTE CONTOUR™ のかみそりに適合する旨を表示

していました。裁判所は、Amir Marketing は、自己の製品が Gillette と関係

していることを示すものでない限り、自己の製品の特徴を表示するために

Gillette の商標を使用することができると判示しました。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 イスラエル商標法の下では、商標登録の表示は義務ではありません。

登録商標にⓇ記号を付することは推奨されます。未登録商標が登録されてい

るかのような表示は、商品標章法(Merchandise Marks Ordinance)にしたがっ

て、刑事上の重罪となります。

Page 353: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

353中東

イスラエル

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消される要件を説明して下さい。

A.8 法第 41 条の下では、「利害関係人」は、取消請求に係る商品について、

その商標の誠実かつ真正な使用意思がないこと及び誠実かつ真正な実際の使

用がないこと、又は取消請求前 3 年間にそのような使用がなかったことを

理由に商標の取消しを請求することができます。第 41 条はさらに、その不

使用が取引上の「特別な事情」に起因するものであり、その商標を使用しな

い意思又は放棄する意思に起因するものではない場合、その商標は取り消さ

れない旨を規定しています。この条項によれば、商標の「使用」には、広告

のみにおける使用は含まれませんが、法第 50 条に示されるように、その使

用が商標権者の監督下で行われる限り、登録されたライセンシーによる使用

は含まれます。NICHOLAS 事件(302/74 Nicolas Overseas vs. Perminger)

をご参照下さい。さらに、「特別な事情」の存在が無くても、実際の取引市

場を注視する義務の一環として、登録商標の取消しは登録官の裁量の対象と

なります。MISS LAGOTTE 事件(7038/04 Miss El Ofna vs. Pagotte)にお

いて、最高裁判所は、取引市場を注視するという商標登録官の義務の一環と

して、不使用に基づく MISS LAGOTTE 商標の登録の取消しを拒絶した商標

登録官の決定を維持しました。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国において当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 はい。[もし XX 社が本回答の執筆者である Ehrlich & Fenster 事務

所によって代理されていれば ]、XX 社は取消審判に勝つというべきです。

イスラエルにおいては、インターネット上のものを含め、登録商標が指定商

Page 354: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

354 中東

イスラエル

品について使用されている、如何なる広告も登録商標の使用と判断されます。

しかしながら、法第 41 条に基づけば、広告に商標を使用しているだけでは、

誠実かつ真正ではない使用[米国の「名目的使用」と同様]とされる可能性

があります。

 XX 社は、イスラエルにおいて、その製品を市場に出して販売する「誠実

な」試みを行っているように思われます。したがって、たとえ商品がイスラ

エルにおいて全く販売されなかったとしても、上述の行為(例えば、ヘブラ

イ語でのウェブサイト、オンラインでの商品の注文方法及びイスラエルの通

貨での支払い)は、取消審判に勝訴できる十分な使用を構成するでしょう。

ウェブサイトへの具体的なアクセス数は、その証明を要求されることはあり

ませんが、使用があったことのさらなる証拠となるでしょう。WIREFREE 事

件(Case 2690/99 Wirefree vs. Partner)において、テルアビブ地方裁判所は、

たとえ将来の商業化に向けての準備活動であっても容認可能な使用を構成す

ると判示しました。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 (回答なし。)

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 ウェブサイトのサーバーの場所は重要な役割を果たしません。た

とえウェブサイトのサーバーがイスラエルに置かれていないとしても、その

広告はイスラエルの消費者に向けた広告と判断される可能性があります。な

ぜなら、上記の設問に示される広告は、ヘブライ語で示され、イスラエルの

通貨の表示があるからです。したがって、当該広告は登録商標の使用として

十分であると主張する余地があります。

Page 355: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

355中東

イスラエル

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 ヘブライ語での表示がない場合、XX 社はイスラエル市場におけ

る関心を失っており、したがって、商標権者のウェブサイトは 41 条 c の意

味における広告に過ぎず、誠実な使用を構成しないとする議論がなされる可

能性があります。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 当該広告は、41 条 c の意味における広告に過ぎないと判断され

る可能性が非常に強いため、登録商標の使用を構成しないでしょう。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 ZIP 事件(Vampum vs. Gigiesse Confezioni)では、取消請求前の

3 年間においてその商標が使用されておらず、商標権者のウェブサイトは登

録商標の使用を構成しない 41 条 c の意味における広告に過ぎないとして、

登録官は ZIP 商標を取り消しました。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 たとえイスラエル・シケルの表示がない場合でも、その他の要因

を考慮すれば、XX 社がイスラエル市場における関心をなお有している(当

Page 356: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

356 中東

イスラエル

該ウェブサイトは、ヘブライ語で見ることができる)と判断する十分な余地

があるため、当該広告は容認されるべき登録商標の使用とされる可能性があ

ります。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 商標登録官によって出された以下の決定は、ウェブサイトが登録

商標の使用と判断されなかった事例です(Migdor Ltd. v. Boris Gail and Oleg

Kaldovasky- 商標番号 138834 号 -Mig(ロシア語)に対する取消し):当該

商標はとりわけ以下の商品を指定していました:「印刷物、写真及び絵画、

ブックバインディング及び印刷物バインディング、紙シート及び文房具、教

材、講義及び教育材料、アルバム・地図帳・雑誌を含む紙製品」。商標権者

は、自己のウェブサイトは、第 41 条によれば、使用とされるに十分である

と登録官を説得しましたが成功しませんでした。登録官は、当該ウェブサイ

トにおける使用は商標登録に係る指定商品に関連するものではないので、当

該ウェブサイトは無関係であるとの決定を下しました。

(原稿受領日 2008 年 4 月 3 日)

   Author: Mr. Yoel Sztybel Ehrlich & Fenster G.E. Ehrlich (1995) Ltd. Ayalon Tower, 15th Floor, 11 Menachem Begin Street 52 521 Ramat Gan, Israel Tel: +972 73 7919199 Fax: +972 73 7919100 Email: [email protected] Website: http://www.ipatent.co.il/

Page 357: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

357中東

オマーン

オマーン (Oman)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 オマーンのスルタン法第 38/2000 号によれば、商標が同一又はあ

る程度類似し、2 つの商標の識別が困難であって、混同を生じさせるおそれ

がある場合は、正当に登録されている商標に対する侵害が認定されます。こ

れは、同一の商品・役務又は消費者に混同を生じさせるほど類似する商品・

役務を指定する先行出願及び優先権出願に係る商標についても当てはまりま

す。法第 38/2000 号の第 2 条によれば、販売を目的とする、商標の模造又

は偽造も登録商標の侵害となります。

 商品区分が同一である真正商品の並行輸入は、当該輸入が権原なく、かつ

商標権者との適切なリース契約又は商標権者からの販売権なしに行われる場

合は、商標権侵害を構成します。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 商標登録出願をするためには、「使用意思」で十分です。しかしな

がら、第 18 条にしたがって、当該商標が登録後 5 年間継続して不使用であ

ることを証明することができる場合、不使用についての正当な理由が商標権

者によって提示されない限り、関係当事者は何人も、裁判所に対して当該商

標を取り消すことを請求することができます。

 ひとたび商標が、如何なる訴訟も受けることなく、5 年間継続して使用さ

れると、その登録は第 4 条にしたがって不可争性を有することになります。

Page 358: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

358 中東

オマーン

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 音楽 CD のジャケット上の題号「LOVE」は、その特定の CD の名称

であることが意図されており、その製品を識別する出所表示としての使用は

意図されていなかった可能性が高いと思われます。本事例においては、音楽

家及び / 又は音楽制作会社の名称がその出所を示していると言うべきです。

 他方、登録商標「LOVE」は、消費者にとって、そのレコード会社及びそ

のレコード会社の制作又は役務に係るすべての CD についての出所表示とし

ての機能を果たすものです。

 しかしながら、前者の題号「LOVE」が仮に商標として使用されることが

意図されており、当該商標が登録商標「LOVE」と「同一」又は「混同を生

じさせるほどに類似」であるなら、両商標は同一の種類の製品に使用されて

いるため、登録商標の侵害となるでしょう。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 T シャツに他人の登録商標を使用することは、その図形がどれだけ

大きかろうが小さかろうが、当該登録商標もニース分類の第 25 類の被服に

使用されるものであれば、その商標権を侵害していることになります。登録

商標の下で提供される商品又は役務の種類が全く異なるのであれば、侵害を

構成しないでしょう。しかしながら、当該登録商標が関連する商品区分の商

品について使用されるものである場合、又は当該登録商標が非常に周知であ

るため消費者に混同をもたらす場合、裁判所は、この例外となる認定をする

かもしれません。

 商標は、特徴的なものであれば、「単語、署名、個人の名前、文字、数字、

図画、記号、看板、印章、証印、彫刻模様、色彩の組み合わせ、図形要素又

はその他の標識若しくはその組み合わせ」等のどのような態様においても成

立し得ます。したがって、商標として図形の代わりに単語を用いることは、

Page 359: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

359中東

オマーン

何ら差異をもたらしません。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 登録商標が、他人の製品又は役務の識別標識として、当該他人によ

り、同一種類の商品又は役務について使用されているのであれば、侵害は成

立します。しかしながら、「フリーギフト」によって、当該「金融サービス」

会社が ABC ラベルのペンの製造を行っていると誤認されることがなければ、

本事例の行為は許容される可能性があります。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 第 23 条に基づき、商標権者は、商標登録に係る指定商品・役務と

同一の商品・役務について当該登録商標を使用することをライセンスしなけ

ればなりません。したがって、「インクジェットプリンター」のように、同

一種類の商品について、「XX」会社名義で登録された商標を権原なく使用す

ることは、如何なる場合も、模倣行為、自己の製品に関して当該商標の詐

称を企てる行為、又は「XX」会社と適法な関連があると消費者を欺く行為、

と判断されます。商標の使用についての如何なる適法なライセンスも、登録

され、公告されなれければなりません。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 商標権の行使のためには、登録商標であることの表示は義務ではあ

りません。また、オマーン法においては、「Ⓡ」のような記号の使用を規定

する具体的な条項もありません。しかしながら、一般的な実務においては、

この記号は登録されている商標にのみ使用され、公衆にその商標が登録され

ていることを知らせる役割を果たします。他方、「TM」の記号は出願されて

Page 360: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

360 中東

オマーン

いるか否かにかかわらず、商標一般に対して使用することができます。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消される要件を説明して下さい。

A.8 裁判所に対して、当該商標が継続して 5 年間十分に使用されていな

かったことを証明することができる場合、第三者による登録商標の取消請求

の要件は充足します。しかしながら、第 18 条によれば、商標権者が当該商

標の不使用について正当な理由を提示することができる場合は、裁判所は当

該第三者の請求を棄却することができます。商標の取消しは、公示のために

公告される必要があります。

 商標の取消しが商標登録の不更新に基づく場合、3 年間経過しなければ当

該商標が他の者に付与されることはありません。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国において当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 当該商標が登録されている国において、当該商標の十分な使用がな

されたことが例証されなければなりません。当該国における広告は使用を証

明する証拠の1形式ですが、本事例における広告はウェブサイトを通じてな

されるものであり、広告用掲示板・ちらし等の物理的な形式によるものでは

ないため、その証拠の価値は減少するかもしれません。当該ウェブサイトへ

の訪問者数が当該登録国における当該製品のユーザーの心における連想と強

く結び付くのであれば、アクセスの件数は価値があるかもしれません。しか

しながら、直接販売がなされておらず、当該商標の使用を例証するための売

上インボイスなどの十分な使用の証拠を提出することができない場合は、取

消し手続が成功する可能性が高いと思われます。

Page 361: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

361中東

オマーン

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 はい。当該国における製品の販売に係るインボイスを提出するこ

とができれば、それは当該商標の使用の強い証拠としての役割を果たし得る

と思われます。しかしながら、当該商標の使用を通じた、商品とその出所と

の間の市場における関連性も立証されるべきです。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 当該ウェブサイトが当該国からアクセスすることが可能であれば、

適用される規範は同じです。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 (回答なし。)

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 ウェブサイトにおける十分な情報の欠如は、不使用を請求する者

の主張を強くすると思われます。商標の使用は、消費者の心に、当該製品と

の関連付けをもたらす必要があります。ウェブサイト上の広告に写真がない

ことは、この目的を損ない得ると言えます。

Page 362: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

362 中東

オマーン

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 ウェブサイトの URL に限定された使用は、製品との関連におけ

る商標の十分な使用と同等ではないでしょう。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 (回答なし。)

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 (回答なし。)

(原稿受領日 2008 年 7 月 14 日)

Author: Mr. Yawar Irfan Khan UNITED TRADEMARK & PATENT SERVICES West End Building, 61 The Mall Lahore, 54000, PAKISTAN Tel: +92-42-6285588-90, 7236124-25, 7249638-9, 7353025 Fax: +92-42-6285585-87, 7323501, 7243105, 7233083 Email: [email protected] Website: http://www.utmps.com/

Page 363: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

363中東

カタール

カタール (Qatar)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 カタール法の下では、当該商標が他の商標と同一又は類似であり、

2 つの商標の識別が困難であって、混同を生じさせるおそれがある場合は、

当該商標は登録されません。また、そのような商標の使用は、すでに正当に

登録されている商標の侵害となります。同様のことは、その使用が、同一の

商品・役務又は商品・役務の識別性の価値を減じる効果を以って消費者に混

同を生じさせるほど類似する商品・役務に及ぶ場合には、先行出願を有し、

かつ優先権を有する商標についても当てはまります。

 販売を目的とする、商標の模造又は偽造も登録商標の侵害となります。ま

た、登録商標を自己の商品に付する者、又は自己の商品と登録商標とを関連

付ける者は何人も、商標権者の権利を侵害することになります。商品区分が

同一である真正商品の輸入は、書面により、かつ関係当事者によって署名さ

れたライセンス契約に基づいてなされなければなりません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 商標の使用は、商標の登録又は維持のためには義務ではありません。

しかしながら、当該商標が登録後 5 年間継続して不使用であることを証明

することができる場合、第 29 条に基づいて、関係当事者は何人も、裁判所

に対して当該商標を取り消すことを請求することができます。

 カタールにおける 2002 年新法の下では、不使用に基づく取消請求は、商

標権者がその請求が差し迫っているという通知を受けていない限り、行うこ

とができません。加えて、商標権者には、当該商標を使用するための 1 ヶ

月の猶予期間が与えられなければなりません。

Page 364: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

364 中東

カタール

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 登録商標「LOVE」は、消費者にとって、そのレコード会社及びそ

のレコード会社の制作又は役務に係るすべての CD についての出所表示とし

ての機能を果たすものです。他方、音楽 CD のジャケット上の題号「LOVE」

は特定の CD 又は歌の楽曲の名称であることが意図されており、その音楽の

音楽家及び / 又は音楽制作会社の名称であることは意図されていません。

 しかしながら、後者の題号「LOVE」が仮に商標として使用されることが

意図されており、当該商標が登録商標「LOVE」と「同一」又は「混同を生

じさせるほどに類似」するなら、両商標は同一の商品区分の製品に使用され

ているため、登録商標の侵害となるでしょう。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 カタールにおいては、商標に関する 2002 年法は、商標が何である

かについての定義を拡張し、現在では、以下のものを含みます。「名前、署名、

単語、文字、数字、図形、絵、記号、印章、証印、装飾模様、3 次元形状及

びその他の如何なる標識又は色彩の組み合わせ、単一の非機能的な色彩、音、

匂い若しくは標識の組み合わせ」。ただし、製品又は役務を識別することが

意図されている場合に限ります。したがって、商標が文字、図形又はそれら

の組み合わせからなるかどうかによって、何ら差異は生じません。

 本事案においては、T シャツに他人の登録商標を使用することは、その図

形がどれだけ大きかろうが小さかろうが、当該登録商標もニース分類の第

25 類の被服に使用されるものであって、その図形が商標としての機能を果

たすことが意図されているのであれば、その商標権を侵害していることにな

ります。登録商標によって提供される商品又は役務の種類が全く異なるので

あれば、侵害とはならないでしょう。

Page 365: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

365中東

カタール

 しかしながら、裁判所は、当該登録商標が関連する商品区分の商品につい

て使用されるものである場合、この例外を認めるかもしれません。加えて、

カタール新法は、周知商標に対して保護を与えており、第三者の周知商標と

類似する如何なる商標も、たとえそれがカタールにおいて登録されていない

場合であっても、登録されることはありません。

 当該 T シャツの図形が、商標に期待されるような、出所表示の目的を有

しておらず、セカンダリーミーニングも有していなければ、商標権侵害が推

定されることはあり得ません。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 当該「金融サービス」会社が、自己が当該ペンの製造者であること

を示すために当該「ABC」をペンに使用しているのではなく、単に「ギフト」

として使用しているので、侵害は生じていません。

 しかしながら、仮に他の会社が「ABC」を付したボールペンを製造してい

るのであれば、登録商標が他の者によって同一種類の商品又は役務に使用さ

れていることになりますから、商標権侵害を構成することになるでしょう。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 第 22 条の下、商標権者は商標登録に係る商品・役務と同一の商品・

役務について当該商標を使用することをライセンスすることができ、そのよ

うなライセンスを登録することは紛争の際に所有権を示すことを容易にしま

す。商標の使用についての如何なる適法なライセンスも、登録され、公告さ

れなけばなりません。

 「インクジェットプリンター」のように、同一種類の商品について、「XX」

Page 366: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

366 中東

カタール

会社名義で登録された商標が権原なく使用されることによって、製品の出所

に関して消費者に混同が生じるおそれがあるのであれば、それは模倣行為と

判断されることになります。2 つの製品に対するそれぞれの商標が十分に識

別されない限り、消費者は 2 番目の会社が「XX」会社と適法な関連がある

と誤認する可能性があります。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 カタール法においては、「Ⓡ」のような記号の使用を規定する具体

的な条項はありません。しかしながら、一般的な実務においては、この記号

は登録されている商標にのみ使用され、公衆にその商標が登録されているこ

とを知らせる役割を果たします。他方、「TM」の記号は出願されているかど

うかにかかわらず使用することができます。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用

Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 2002 年法の第 24 条の下、如何なる第三者も、当該商標が継続し

て 5 年間使用されていなければ、裁判所に対して、当該商標を登録簿から

取り消すことを請求することができます。この請求は、商標登録に係るすべ

ての商品・役務について又はその一部についてすることができます。商標権

者に当該商標を使用するための 1 ヶ月の猶予期間が与えられない限り、裁

判所は取消しの請求を認めません。これは、商標権者が商標を使用していな

いことについて十分な理由を示すことができる場合には適用されません。

 商標の不使用についての理由が正当ではない場合、商標権者による商標の

使用を不可能ならしめる事情がなかったことが確認された後に、商標の取消

しに関する最終的な決定が当該商標の商標権者に伝えられます。商標の如何

Page 367: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

367中東

カタール

なる取消しも公報において公告され、かつ登録簿に記録され、当該商標は存

在しなかったものと判断されることになります。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 当該商標が登録されている国において、当該商標の十分な使用がな

されたことが例証されなければなりません。当該国における広告は使用を証

明する証拠の1形式です。当該ウェブサイトへの訪問者数が当該登録国にお

ける当該製品のユーザーの心における連想と強く結び付けられるのであれ

ば、アクセスの件数に価値があるのかもしれませんが、当該ウェブサイトへ

の具体的なアクセス件数は当該ウェブサイトが広告としての機能を果たして

いることを例証することとは無関係です。しかしながら、売上インボイスな

どの使用の証拠は、商標の使用についてより強い証拠となり得ることに留意

すべきです。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 (回答なし。)

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 当該ウェブサイトが当該国からアクセスすることが可能であれば、

適用される規範は同じです。

Page 368: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

368 中東

カタール

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 広告がアラビア語によるものではないという事実は、当該製品の

広告の1形式としての当該ウェブサイトの価値を損ないません。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 ウェブサイトにおける十分な情報の不足は、不使用を主張する者

の言い分を強くすると思われます。商標の使用は、消費者の心に、当該製品

との関連付けをもたらす必要があります。ウェブサイト上の広告に写真がな

いことは、製品とその出所を関連付けるというこの目的を損ない得ると言え

ます。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 ウェブサイトの URL に限定された使用は、製品との関連におけ

る商標の十分な使用とは判断されないでしょう。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 ウェブサイト上にカタール・リヤルの表示がないことは、おそらく、

広告の1形式としてのウェブサイトの使用を損なうものではないでしょう。

Page 369: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

369中東

カタール

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 (回答なし。)

(原稿受領日 2008 年 7 月 14 日)

Author: Mr. Yawar Irfan Khan UNITED TRADEMARK & PATENT SERVICES West End Building, 61 The Mall Lahore, 54000, PAKISTAN Tel: +92-42-6285588-90, 7236124-25, 7249638-9, 7353025 Fax: +92-42-6285585-87, 7323501, 7243105, 7233083 Email: [email protected] Website: http://www.utmps.com/

Page 370: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

370 中東

サウジアラビア

サウジアラビア (Saudi Arabia)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 サウジアラビアにおいては、商標権者はその商標の唯一の所有者で

あるとされます。他人による当該商標の使用は、商標権者の同意を条件とし

ます。商標権者は、第三者が、商標登録に係る指定商品・役務及び類似の商

品・役務について公衆に混同を生じさせる同一商標又はそれに類似するその

他の標識を使用することを禁止する訴訟を提起する権利を有します。登録商

標の識別力のある特徴を欠く、標識、表現、記述的な図形についてのフェア

ユースは、商標登録から生じる権利から除外されます。

 より厳しい罰則に影響を与えることなく、以下の者は、1 年以下の拘禁刑

及び / 又は 5 万サウジアラビア・リアル以上 100 万サウジアラビア・リア

ル以下の罰金に処せられます。

 1.公衆に誤認を与えるような方法で登録商標を偽造又は模造する者、及

び偽造又は模倣された商標を不誠実に使用する者。

 2.第三者が所有する商標を不誠実に自己の製品に付する者又は自己の役

務に使用する者。

 3.偽造商標、模造商標又は不正に使用された商標を付した製品について、

そうと知りながら、その販売の申出、販売、又は販売目的での取得を行う者、

及びそのような商標の下で、そうと知りながら、役務を提供する者。

 より厳しい罰則に影響を与えることなく、以下の者は、3 月以下の拘禁刑

及び / 又は 2 万サウジアラビア・リアル以上 25 万サウジアラビア・リアル

以下の罰金に処せられます。

 1.第 2 条第 2 項、3 項、4 項及び 5 項の規定に該当する場合には、未登

録商標を使用する者。

Page 371: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

371中東

サウジアラビア

 2.その商標が登録されたものであると(公衆に)信じさせる記述を自己

の商標又は取引書類に不正に表示する者。

 サウジアラビアでは、真正商品の並行輸入は商標権侵害を構成しません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 サウジアラビアは、商標について、使用主義ではなく登録主義を採

用しています。したがって、商標権は商標の登録によって発生します。した

がって、商標権者は、たとえ、登録商標を使用していなくても、第三者が商

標登録に係る商品・役務及び類似の商品・役務について公衆に混同を生じさ

せる同一商標又はそれに類似するその他の標識を使用することを禁止する訴

訟を提起することが可能です。また、登録商標の不使用は、侵害訴訟におけ

る抗弁として主張することはできません。不使用の問題は、別途、訴訟で争

われるべきです。

 しかしながら、商標の不使用は継続して 5 年を超えないようにすること

が重要です。さもなければ、商標登録は不使用に基づく取消請求を受けやす

くなります。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 上記設問の状況の範囲内でなされた、不服審判部の決定を知りませ

ん。しかしながら、我々の見解では、音楽 CD に収められた音楽の題号及び

内容を表示する音楽 CD ジャケット上の題号の使用は、音楽 CD についての

他人の登録商標の使用と判断されるべきではありません。「love」の文字は

一般的な意味で使用されるので、商標「LOVE」の下で音楽 CD の頒布又は

販売に携わっている企業が指称されることは決してありません。

Page 372: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

372 中東

サウジアラビア

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 上記設問の状況の範囲内でなされた、不服審判部の決定を知りませ

ん。商標法は、商標権者に対して、自己の商標の使用を制限する広い権利を

与えていますが、そのような広い権利においても、登録商標の識別力のある

特徴を欠く、標識、表現、記述的な図形についてのフェアユースは、商標登

録から生じる権利から除外されます。我々の知っている限りでは、フェアユー

スが不服審判部により審理され、実際の決定がなされたことはまだありませ

ん。しかしながら、本設例では、図形又は文字が同一であるとされているの

で、除外規定は適用されません。また、考慮されるべき他の要素は、商標登

録された文字又は図形の指定商品が T シャツ又は織物若しくは衣服に及ん

でいるかどうかです。もしそうなら、その文字又は図形の使用は他人の登録

商標を侵害します。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 商標法は、第三者が、商標登録に係る指定商品・役務及び類似の商

品・役務について公衆に混同を生じさせる同一商標又はそれに類似するその

他の標識を使用することを禁止する訴訟を提起する権利を有する、と規定し

ています。

 設問の状況の下では、ボールペンへの商標 ABC の使用は、金融サービス

の提供のためのフリーギフトとして配布されているので、如何なる混同も生

じさせていません。なぜならば、フリーギフトとして配布される商品は、提

供されるサービスと混同され得ることがないからです。

 しかしながら、無償で提供されたボールペンが偽造品と判断された場合は、

商標権者はそれを頒布した者に対して訴訟原因を有します。

Page 373: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

373中東

サウジアラビア

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 我々は、当該第三者は、XX の許諾を受けることなく、自らの製品

に係る表示としてその商標を使用することにより、XX の商標権を侵害して

いるという見解に傾いています。当該第三者は、XX の商標を使用すること

による恩恵だけでなく、その商標 ABC が生み出したグッドウィルによる利

益を受けることを意図しています。当該第三者は XX に許諾を求めるべきで

す。さもなければ、そのような表示であっても、当該第三者は商標 ABC を

使用すべきではありません。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 商標が登録商標であることを表示することは、商標権行使の要件で

はありません。商標が現実に登録されていることで十分であり、登録証に依

拠することができます。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 商標権者が、正当な理由なく、継続して 5 年以上商標を真摯に使用

していない場合には、所轄部門又は利害関係人は商標登録の取消しを請求す

ることができます。所轄部門又は利害関係人は不服審判部に請求書を提出し

なければなりません。所轄部門は、両当事者の聴聞を行い、両当事者からの

証拠の提出を受けた上で、商標権者がその商標を使用しなかったと信じるに

足る根拠があるか否かを決定します。

Page 374: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

374 中東

サウジアラビア

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 商標法は、商標の十分な使用とされるための商標の使用の性質につ

いて、具体的な規定を設けていません。また、使用の要件の詳細が問題とな

る事件に遭遇したことがありません。とはいえ、商標権者によって証明及び

実証され得る如何なる使用も十分であると思います。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 はい、前述のとおり、使用の要件は商標法の下でも具体的に規定

されておらず、また、その旨の決定も出されたことがありません。したがっ

て、実証され、その証拠が提出される限り、如何なる使用の態様も十分でしょ

う。我国に販売代理人もライセンシーも存在しないことは、商標の使用を証

明する妨げとはならないと考えます。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 本設問の状況は、設問 10 で述べたような使用を商標権者が証明

できる限り、重要ではないでしょう。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 我国の公用語による表示がされていないことは重要ではないと思

Page 375: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

375中東

サウジアラビア

います。当該広告がアラビア語で表示されていればよりよいと言えますが、

英語は一般的に大多数の人に受け入れられており、また理解されています。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 たとえ上記の広告が具体的な「万年筆」についてのものではない

としても、当該状況は商標の使用と判断されます。重要なことは、商標の使

用が明確に表示され、それが商標登録に含まれる商品に関するものであると

いうことです。商品自体についての特定の概念は、使用が十分であるかどう

かを判断するためには必要ではありません。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 商標の使用と判断されるためには、商標は登録された商品を踏ま

えて、使用されるべきであると思います。商標「XYZ」が URL にのみ組み

込まれている場合は、十分な使用とはいえないと思います。このような使用

は、登録された商品を何ら表示していません。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 我国の通貨が表示されているか否かは、重要ではありません。

Page 376: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

376 中東

サウジアラビア

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 我々が知る限り、ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標

の不使用が争われた事件はありません。

(原稿受領日 2008 年 7 月 12 日)

Author: Mr. Nassir A. Kadasa Nassir Kadasa & Partners Ibn Katheer Street, King Abdulaziz Sector, Kadasa Bldg P.O. Box 20883, Riyadh 11465, Saudi Arabia Tel: + 966-1-4792053 Ext 111, Direct Line: + 966-14786315 Fax: + 966-1-4761044, +966-1-4741044 Email: [email protected] Website: http://www.kadasa.com.sa/

Page 377: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

377中東

トルコ

トルコ (Turkey)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 トルコでは、日本と同様に、商標権は以下のような効力を有してい

ます。すなわち、(1)商標登録に係る指定商品・役務について登録商標を

独占的に使用し、(2)他人が登録商標と同一又は類似の商標を商標登録に

係る指定商品・役務と同一又は類似の商品・役務について使用する行為を禁

止する効力です。

 トルコ商標法(法令第 556 号)の関連規定は以下のとおりです。

 「登録商標により付与される権利

 第 9条 -商標権者は、第三者が、商標権者の同意を得ずに、次に掲げ

る商標を使用することを禁止する権利を有する。

 (a)商標登録に係る指定商品・役務と同一の商品・役務について登録商標

と同一の標識を使用すること。

 (b)登録商標と当該標識との同一性又は類似性、並びに登録商標及び当

該標識に係る商品・役務の同一性又は類似性のために、公衆において、当該

標識と登録商標との混同のおそれ(連想のおそれを含む。)がある標識を使

用すること。

 (c)登録商標と同一又は類似の標識の使用であるが、商標登録に係る指定

商品・役務と非類似の商品・役務について使用されるもの。ただし、正当な

理由のない当該標識の使用が登録商標の識別性若しくは評判を不正に利用又

は害する場合に限る。

 次に掲げる行為は,第 1項により禁止される。

(a)標識を商品又はその包装に付すること。

(b)その標識の下で、商品の販売の申出をし、商品を市場に置き若しくは

Page 378: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

378 中東

トルコ

それらの目的で貯蔵し、又はその標識の下で役務の提供若しくは申出をする

こと。

(c)その標識の下で、商品を輸入又は輸出すること。

(d)取引書類及び広告にその標識を使用すること。

 登録商標により付与される権利は、商標登録の公告の日から第三者に対し

て効力を有するものとする。損害賠償は、商標出願の公告の日後に生じる事

項につき請求することができる。ただし、出願公告から生じる権利は、商標

登録の公告により付与される権利の範囲内に限られるものとする。裁判所は、

登録が公告されるまでは、当該事件について本案判決をすることができない

ものとする。」

 真正商品の並行輸入は、商標権侵害を構成しません。この原則は、以下の

判例を以って、控訴裁判所によっても採用されています(控訴裁判所、第

11 民事部、本案番号:1999/2098、判決番号:1998/7997、日付:1999

年 3 月 12 日)。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 トルコでは、商標権者が登録商標を使用していることは、商標権者

が商標権に基づく差止請求請求権及び損害賠償請求権を行使する要件とはな

りません。

 トルコ商標法の損害賠償に関する規定は以下のとおりです。

第 64条 商標を違法に模倣する製品を、商標権者の同意なく、製造、販売、

頒布、若しくは取引に使用、又は輸入若しくはそれらの目的で所持する者は、

違法行為の救済及びその者に起因する損害賠償の責めを負う。

 商標権者により侵害の通告を受け、かつ侵害又はその他の濫用の停止の要

求を受けてなお違法な模倣標識を使用する者は、その者に起因する損害賠償

の責めを負う。

 言い換えれば、日本の法律とは対照的に、商標権者が登録商標を使用して

いない場合でも、商標権者は、侵害者に対して、差止請求権及び損害賠償請

Page 379: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

379中東

トルコ

求権を行使することができます。ただし、侵害者が商標権者から侵害につい

て通告を受け、かつ侵害又はその他の濫用の停止の要求を受けていることが

条件となります。

 しかしながら、他方、商標権者が 5 年間その商標を使用していない場合

には、商標権者は、法第 14 条による無効審判に直面する可能性があります。

 第 14 条 登録後 5年の期間内に、正当な理由なく、商標が使用に付され

ない場合、又はその使用が継続して 5年間中断した場合は、その商標を無

効とする。

 次に掲げる行為は、使用を構成するものとする。

(a)登録商標の識別性に影響を与えない要素において異なる態様での登録商

標の使用。

(b)専ら輸出 1目的の商品又はその包装における商標の使用。

(c)商標権者の同意を得た商標の使用。

(d)商標を付した商品の輸入。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 本件に関連する判例はありませんが、日本と同様に、音楽 CD の所

有者が CD に収められた音楽の内容を示すために、そのような表示を使用す

る場合は、原則として商標権侵害を構成しないと思います。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 法第 9 条 b 又は第 9 条 c の規定によれば、他人の登録商標と同一

の図形をTシャツの胸全面に表示することは、第 9 条に規定する混同のお

それ若しくは連想のおそれを生じさせるか、又は第 9 条 c に規定する登録

商標の識別性若しくは評判を不正に利用するものであるか、又はそれらを害

1 改正された日本の商標法と同様に、トルコにおいても、「輸出」は商標の使用と判断されます。

Page 380: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

380 中東

トルコ

すると判断され得るものです。したがって、この行為は、商標権侵害を構成

する可能性があります。

 この表示が文字から成るとしても、トルコ法及び判例はこの問題に関する

明示の規定を有していないので、答えは同じでしょう。

 他方、この使用が個人的な使用の場合は、法令第 556 号の第 61 条の規

定によれば、侵害を構成しないでしょう。なぜなら、法は取引目的による場

合のみを規定しているからです。

 第 61条 次に掲げる行為は、商標を侵害するものとする。

(a)第 9条の違反。

(b)商標権者の同意なき、同一又は混同を生じるほど類似する商標の使用。

(c)違法な模倣であると知られている又は知られているべき商標を付した商

品の販売、頒布、取引上の使用若しくは輸入,又はそのような目的での所持。

(d)ライセンス契約により取得された権利の第三者への移転又は拡大

(e)上記(a)、(b)及び(c)に規定する行為への加担、幇助、又は何らか

の態様における教唆若しくは助長。

(f)登録商標又は登録商標に混同を生じるほど類似する商標を付した製品の

所持が認定された際における、その製品の入手経路及び入手方法の説明の不

成功。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 いいえ。なぜなら、上記使用は「ボールペン」についてではなく、「金

融サービス」についての商標の使用であるからです。

 しかしながら、この行為が第 9 条 c に規定する登録商標の識別性若しく

は評判を不正に利用又は害する場合には、この行為は侵害と判断される可能

性があります。

Page 381: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

381中東

トルコ

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 トルコ法は、その表示が法令第 556 号の以下の規定に従うことを

条件に、商品の用途を表示する目的で他人の登録商標を表示することを許容

しています。

 登録商標の効力の制限

 第 12 条 商標権者は、第三者が自己の名称若しくは住所、商品若しくは

役務に係る種類、質、量、意図された用途、価格、地理的原産地、又は商品

の製造時期若しくは役務の提供時期、又はその他の特徴に係る情報を、取引

過程において使用することを禁止することができないものとする。ただし、

その使用が工業上又は商業上の公正な慣行に則してなされる場合に限る。

 控訴裁判所(最高裁判所)は、「Opel」事件の判決においてこの規定を解

釈して、そのサービスの提供者が自己の商標を支配的な要素としつつ、他の

商標(Opel)を第二義的に使用している場合には、第 12 条の条件を具備す

る限り、商標権者の許諾を求める必要がないとの判決を下しました(第 11

民事部、本案番号:2003/2346、判決番号:2003/8743、日付:2003 年

10 月 3 日)。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 トルコ法は、登録商標の表示を要求していません。そのような表示

は、また商標権行使の要件でもありません。しかし、登録商標にそのような

表示をすることは推奨されます。

 さらに、法第 556 号の商標法第 61 条 A は、以下のように規定しています。

 (a)商標権者の同一性について虚偽の陳述をなす者、又は製品若しくはそ

の包装に適法に付されている商標権の表示を権原なく剥離する者、又は自己

Page 382: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

382 中東

トルコ

が商標出願人若しくは商標権者であると虚偽に名乗る者は、1 年又は 2 年の

拘禁刑及び 14,000 乃至 27,000 トルコ・リラの罰金に処せられるものとす

る。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用

Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 法令第 556 号の第 42 条によれば、不使用に基づく登録商標の無効

の要件は以下のとおりです。

 第 42 条:

 …

 (c)登録商標が、第 14 条に違反する場合 ( ただし、無効請求の日と 5年

の期間の満了日との間の誠実かつ真正な使用は、無効の理由を構成しない。

無効が請求されることを知った後に使用がなされた場合は、裁判所は、無効

請求前 3月の間になされた使用を考慮しないものとする。)。

 …

 第 14 条の規定は以下のとおりです。

 第 14 条 登録後 5年の期間内に、正当な理由なく、商標が使用に付され

ない場合、又はその使用が継続して 5年間中断した場合は、その商標を無

効とする。

 次に掲げる行為は、使用を構成するものとする。

(a)登録商標の識別性に影響を与えない要素において異なる態様での登録商

標の使用。

(b)専ら輸出目的の商品又はその包装における商標の使用。

(c)商標権者の同意を得た商標の使用。

(d)商標を付した商品の輸入。

Page 383: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

383中東

トルコ

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 トルコの判例において関連する事案がないので、確かな答えを提供

することはできません。しかしながら、トルコの法理によれば、ウェブサイ

ト 2 上の商標の使用も、その使用が真正な使用 3 であり、商標がある企業の商

品又は役務と他の企業の商品又は役務とを識別できるものである限り 4、商標

の使用とされるべきです。この真正な使用は、広告、カタログ、又は販売促

進資料等における使用のように、市場又は市場に影響を及ぼす他の場所にお

けるものでなければなりません。また、この使用は、相当量 5のものであって、

かつ経済的な目的 6 を有するものであることが必要です。

 しかしながら、筆者の一部には、ウェブサイト上の商標の広告及びさらに

トルコへの販売がある場合でも、それだけでは真正な使用を証明するには十

分でないと考える者もいます。そのような者の見解によれば、商標権者は、

販売、マーケティング、流通網、支店、店舗、又はトルコにおける販売代理

店若しくはライセンシーのような少なくともその他の実体を、具体的な証拠

2 ウェブサイトは消費者が多様な方法で容易にアクセスできるものであるので、ウェブサイトも新聞、テレビ又は雑誌と同様のメディアであると判断されることに疑いの余地はありません。しかしながら、「インターネット」の世界的な側面と商標に関する「国家的保護」の原則とを考慮すると、商標権者はトルコ法令第 556 号の第 14 条の規定にしたがった商標の使用を証明すべきです。

3 商標の真正な使用を立証するためには、商標権者は、商標の使用が消費者又はエンドユーザーを対象として、その注目を浴びるに至ったこと、及び当該商品の市場における一定のシェアを創出又は維持するに十分であったことを証明しなければなりません。

4 法令第 556 号の第 5 条及び理事会規則(EC)(共同体商標に関する、1993 年 12 月 20 日付の)第 40/94 号の第 4 条

5 筆者は相当量の使用が必要であるとの立場なので、ウェブサイトへのアクセスは、一定の数を超えるべきであると考えます。

6 Ural Tekinalp, Fikri Mulkiyet Hukuku, Arikan Yayınlari, 2005, Istanbul, 第 4 版、第 428 頁

Page 384: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

384 中東

トルコ

を以って証明しなければなりません。

 評価は、上記の教示を考慮に入れて、個別事件毎になされるべきであると

思います。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 答えは、状況次第です。繰り返しになりますが、商標権者が質問

9 の答えで述べた条件に従うならば、設問の事案は、商標の使用を構成する

と思います。しかしながら、一部の筆者によれば、外国のウェブサイトから

商品の購入がなされ、その商品がトルコに出荷されただけでは、商標の使用

とはされないでしょう(脚注 7 をご参照下さい。)。その評価は、関連する公

衆を考慮に入れてなされなければなりません。

 質問 12 に対する回答において述べる例もご参照下さい。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 関連する公衆がどの場所からでもウェブサイトにアクセスするこ

とが可能であれば、サーバーの場所は重要ではないので、この場合もやはり

答えは同じになります。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 関連する公衆がその言語を知っている場合には、たとえその言語

が公用語ではなくても、商標の使用とされるべきです。他方、関連する公衆

がウェブサイトで提供される言語を知らない場合には、トルコ法の規定に反

するでしょう。

7 Selin SERT Markanin Kullanilmasi Yukumlulugu, Seckin Yayinlari Ankara, 第 80 頁

Page 385: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

385中東

トルコ

 例えば、トルコ人にとって英語も非常に一般的な言語であり、一部の役務

については商標の使用とされる可能性があります。例えば、「Easy jet」がト

ルコにおいて法人又は連絡事務所を有しておらず、また英語のウェブサイト

しか有していないが、イスタンブールにおいて役務を提供している場合(イ

スタンブールに出入りする航空便を持っている場合)、そのチケットをオン

ラインで注文する乗客は関連する公衆であり、これらの人々は英語も知って

いると考えることができるので、商標の使用と判断することができます。

 他方、ボールペンについては、なお議論の余地があります。さらに、脚注

7で述べられている見解によれば、他国のウェブサイトから製品の購入がな

され、その製品がトルコに出荷されることは、たとえその外国のウェブサイ

トがトルコの言語の選択肢を提供しているとしても、商標の使用とはされな

いでしょう。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 質問 9 の答えで述べられた教示に従えば、商標「XYZ」が単独で

使用されるているなら、その他の条件も具備している限り、問題はないでしょ

う。

 しかしながら、製品名又は万年筆の抽象的なイラストを説明する商標及び

文言の表示がない場合は、そのような表示はある企業の商品又は役務と他の

企業の商品又は役務とを識別できないと判断されるべきと考えます(脚注 4

をご参照下さい)。

 第三に、原則として、会社名、住所及び連絡先のみからなり、商標の表示

がない記載は、商標の使用と判断されるべきではありません。しかしながら、

例えば、会社名が商標と同一である場合には、質問 9 の答えで述べた条件

Page 386: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

386 中東

トルコ

が満たされる限り、関連する公衆はその会社と商標とを結び付けると考えて

よいと思われます。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 質問 9 の答えで述べたように、使用が真正な使用であって、ある

企業の商品又は役務と他の企業の商品又は役務とを識別することができる場

合には、この行為は商標の使用を構成します。一部の筆者は、商標が製品に

付されていれば、上記の条件は満たされると述べています 8。しかしながら、

トルコ法には、この問題に関連する規定がありません。したがって、関連す

る公衆が商品・役務と商標とを結び付けるならば、その商標の使用は第 14

条に合致すると判断されるべきです 9。

 URL については、ドメイン名と商標とが同一であり、さらに、ウェブサ

イトが商標登録に係る指定商品・役務に関連して活発に使用されている場合

には、商標の使用と判断される可能性があります。しかしながら、ドメイン

名が単に E メール又はその他のウェブ目的で登録され、実際には、応答も

なく、適切に更新もされず、また商標登録に係る指定商品・役務にも関連し

ていない場合には、そのような使用は十分であると判断すべきではありませ

ん 10。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 トルコ法によれば、商標の使用についての評価をするためには、

8 Hamdi Yasaman/Sinan Yuksel, Vedat Kitapcilik, 2004, Istanbul, 第 1 版 , 第 633 頁 , Hanife Dirikkkan, Tescilli MarkayıKullanma Kulfeti, Prof. Dr. Oguz Imregun'e Armagan, Istanbul, 1998, 第 236頁

9 bih Arkan, Marka Hukuhuku, Ankara, 1998, C.II, 第 146 頁

10 Yasaman/Yuksel, 第 635 頁

Page 387: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

387中東

トルコ

通貨は重要ではありません。通貨がトルコ・リラで表示されていなくても、

質問 9 の答えで述べた条件に適合するならば、商標の使用は認められるべ

きです。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 残念ながら、そのような審判決例はありません。

(原稿受領日 2008 年 4 月 2 日)

   Author: Ms. Dilek Ustun Istanbul Patent & Trademark Consultancy Ltd. Plaza-33, Buyukdere, Cad. No: 33/16 Sisli Istanbul, 34381, Turkey Tel: +90-212-241-7272 Fax: +90-212-241-7026 Email: [email protected], [email protected] Website: http://www.istanbulpatent.com/

Page 388: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

388 中東

アラブ首長国連邦

アラブ首長国連邦 (U.A.E.)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 UAE では、UAE 商標法、すなわち 2002 年の法律第 8 号によって

改正された 1992 年法律第 37 号の下、商標は登録されます。登録により、

指定商品 / 役務について商標を使用する権利が商標権者に独占的に付与され

ます。商標権者に登録商標の独占的使用権を付与すると同時に、UAE 商標

法第 17 条は、他人が登録商標と同一又は類似の商標を、商標登録に係る指

定商品 / 役務と同一・類似又は関連する商品 / 役務に、誤認を生じさせるよ

うな方法で使用することを禁止する権利を商標権者に与えています。商標法

第 37 条は、侵害の構成要件を限定列挙し、それらを処罰の対象とすること

により、侵害行為を防止しています。第 37 条の規定により、以下の行為は

登録商標の侵害を構成します。

 1.登録商標を偽造し、公衆を欺くためにその模造品を使用し、又は偽造

若しくは模造された商標を不誠実に使用すること。

 2.商標権者以外の者が登録商標を違法に使用すること。

 3.他人名義で登録された商標を自分の製品に不誠実に使用すること。

 4.偽造、模造又は違法に使用された商標を付した商品を、そうと知りな

がら、販売し、販売若しくは流通の申出をし、又は販売目的で所持すること。

 5.偽造され、模造され又は違法に使用された商標の下で、役務の申出又

は提供をすること。

 商標権の保護を有効にするために、譲渡を目的とする商品の所持等の直接

侵害の予備的行為も違法行為、すなわち侵害であると定義されています。

 一般的な実務によれば、真正商品の並行輸入は侵害を構成しません。

Page 389: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

389中東

アラブ首長国連邦

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 UAE の法律及び実務によれば、商標権者が、登録商標に係る自己の

権利に起因する問題又は紛争における救済を第三者に求めるために、登録商

標を使用することは、前提条件ではありません。言い換えれば、登録商標に

係る商標権者の権利行使は、一般的に使用を条件としません。商標登録は、

正当な権利者であること、並びに差止及び / 又はその他の救済を求める権利

を有することの十分な証明となります。しかしながら、商標権者による登録

商標の使用とその使用の証明が必要となる 2 つの場合があります。

 ⅰ)商標法第 22 条の規定にしたがって、登録後継続して 5 年間、正当な

理由なく、商標権者により当該商標が使用されていないことを理由に、利害

関係人によって取消審判が請求された場合。

 ⅱ)侵害者に対する損害賠償請求訴訟において、侵害行為により商標権者

に生じた実際の損害を立証する場合。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 一般的には、題号と他人の商標との違いが証明され得るため、答え

は「いいえ。」ですが、題号と他人の商標の表示は関連するものでもあります。

どんな場合でも、題号の表示は、決して欺瞞的に見えてはならず、製品の出

所について公衆を誤認させるものであってはなりません。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 設問のような他人の商標と同一の文字及び図形は両方とも、その大

きさにかかわらず、UAE においては、他人の商標権を侵害する可能性があ

ります。他人の商標が何らかの関連性のある商品又は同一・類似の商品に使

用されている場合は、リスクは特に高くなります。

Page 390: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

390 中東

アラブ首長国連邦

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 いいえ。しかし、商標「ABC」の表示は、金融サービスとの関係を

明確に示していなければならず、どんな場合でもペンの出所について誤認を

生じさせるように見えてはなりません。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 「ABC インクジェットプリンター用のインクジェットプリンターイ

ンク」に係る言及 / 公表の態様に大いに依存します。その使用が欺瞞的で、

「インクジェットプリンターインク」(実際には、第三者によって製造・販売

されているもの)の出所が XX 社であると公衆を誤認させるおそれがある場

合には、侵害が生じると判断される可能性があります。UAE の事業環境に

おいては、そのような表示を避けるか、又はその表示に含まれる商標の所有

者である企業の同意を常に得て使用すべきであり、さらにその表示は欺瞞的

であってはなりません。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 商標法には、Ⓡの使用等、商標登録の表示についての規定は存在せ

ず、そのような使用は商標権行使の要件とはなりませんが、登録商標の侵害

に対する第三者の言い訳を防止するためには推奨されます。Ⓡ記号のそのよ

うな使用は、裁判所において、侵害者が、複製した表示が誰かに所有されて

いることを知らなかったと主張することを避ける / 克服するために、強く推

奨されます。

Page 391: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

391中東

アラブ首長国連邦

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消される要件を説明して下さい。

A.8 UAE 商標法第 22 条の規定により、利害関係人は何人も、継続した

5 年間の不使用を根拠に商標登録の取消審判を請求することができます。そ

の場合、商標権者は、UAE における商標の使用を証明するか、又は UAE に

おける不使用が商標権者の支配の及ばない事由によることを証明しなければ

なりません。

 とりわけ、(不使用について)商標権者の支配の及ばない事由として、以

下のものがあります。

 ⅰ)輸入規制

 ⅱ)当該商標によって識別される商品 / 役務に課せられるその他の行政手続

 UAE における商標の使用を確立するためには、以下のもので十分です。

 ⅰ)当該商標が商標権者から許諾を受けた者によって使用されたこと。そ

のような使用は、商標権者自身による使用と解釈されます。

 ⅱ)当該商標が指定商品又は役務のすべて / 一部について使用されたこと。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国において当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 上記の事例において、当該広告が需要の創出を図るために UAE の

公衆を対象にしており、公衆がウェブサイトを通じて販売者 / 商標権者にア

クセスすることができる場合には、販売者 / 商標権者が UAE に物理的な販

売拠点又は販売代理人を有していない場合でも、UAE において登録された

商標の使用を証明するのに十分であると思われます。UAE の公衆が指定商

品の性質や販売者 / 商標権者自身の事業の概要を知るためにアクセスするこ

Page 392: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

392 中東

アラブ首長国連邦

とができるウェブサイトにおいて、現地語の選択肢が提供されていることは、

UAE において登録された商標を伴う商業活動の存在を証明しています。

 ウェブサイトへの最小限度のアクセス数について規定はありませんが、当

該広告を掲載するウェブサイトに UAE 市場から極めて多数のアクセスが

あったことを明らかにすることは、本件では有益な影響を与える可能性があ

ります。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 Q.9に対する回答がこの質問に対する回答の大部分をカバーし

ますが、もし上記Q.9で説明された広告が存在しないならば、UAE から

の 1 人の消費者を証明することだけでは、不十分であると思われます。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 ウェブサイトのサーバーが UAE に存在しないとしても、UAE 市

場からの消費者が上述のその他の特徴をすべて備えたウェブサイトにアクセ

スすることができる場合には、UAE における指定商品についての登録商標

の使用の証拠としてなお有用です。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場合はどうですか。

A.12 UAE の公用語、すなわちアラビア語による表示がない場合でも、

広く理解されている英語による表示を利用することができれば、十分に目的

にかないます。

Page 393: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

393中東

アラブ首長国連邦

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場合はどうですか。  ・登録商標「XYZ」  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 上記設問の条件下でも、指定商品に関する詳細な情報を得るた

めに当該ウェブサイトを通じてなお販売者へのアクセスが可能であるので、

UAE における指定商品についての登録商標の使用を支持する議論を進める

ことができます。また、指定商品の具体的な態様に関連して登録商標を使用

する必要はありません。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれているのみである場合はどうですか。

A.14 消費者がその商標と指定商品とを容易に関連付けることができる

るような方法で、その商標が使用されている場合には、その商標が指定商品、

すなわち本事例における万年筆又はその包装箱に付されていなくても、登録

商標の有効な使用を証明する可能性はそのまま維持されます。

 しかしながら、指定商品に関する商標の使用が証明されるべき場合に、

URL における登録商標表示のみでは、十分ではないと思われます。なぜなら、

登録商標と指定商品との間の関係を証明する強さを欠くからです。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 たとえ UAE の通貨、すなわち、ディルハムの表示がなくても、

米国ドルの表示があるため、消費者はその価格を UAE の通貨に容易に換算

できるので、この理由のみを以って、使用の証拠が不十分とされることはあ

りません。広告における価格の表示は、商標が指定商品について商業的に使

用されていることを立証するための主要な要件ではありません。

Page 394: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

394 中東

アラブ首長国連邦

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 ウェブサイト上の使用の問題に関し登録商標の不使用が争われた

UAE の事件に遭遇したことはありません。ウェブサイト上の登録商標の使

用が有効な使用かどうかの問題は未だ確証されておらず、明確にもされてい

ません。しかしながら、ウェブサイトの URL が「.ae」による ccTLD(カン

トリー・コード・トップ・レベル・ドメイン)である場合には、その使用は

説得力がありますが、商標権者の本国の ccTLD が UAE における有効な使用

として考慮される可能性は低いと思われます。

(原稿受領日 2008 年 3 月 30 日)

Author: Mr. Syed Mubashir Ali United Trademark & Patent Services P.O. Box 22880 Sharjah, United Arab Emirates Tel: +971 6 5722742 Fax: +971 6 5722741 Email: [email protected] Website: http://www.unitedip.com/

Page 395: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

395

アフリカ

(AFRICA)

Page 396: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

396 アフリカ

エジプト エジプト (Egypt)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 エジプトにおいては、商標権の侵害を構成する行為は以下のとおりです。

 (1)登録商標の偽造。

 (2)公衆を誤認させるおそれのある態様での登録商標の模倣。

 (3)偽造又は模造された商標の欺瞞的な使用。

 (4)第三者の所有する商標を製品に欺瞞的に付すること。

 (5)偽造又は模造された商標が付された製品を、そうと知りながら、販売、

販売の申出、若しくは頒布の申出、販売目的で取得すること。

 侵害行為は、根拠のある証拠を以って立証されなければならず、通常、警

察の捜査によって行われます。

 真正商品の並行輸入は、商標権侵害を構成しません。

 したがって、商標が登録商標を侵害しているか、又は混同を生じさせるほ

ど類似しているかどうかの判断は、裁判所の権限及び裁量に任されています。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 はい。商標権者が登録商標を使用していることは、商標権者が権利

行使をするための要件となります。

 さらに、商標は使用されていなければ、取消しの責めを負います。管轄裁

判所は、商標が、正当な理由なく、継続して 5 年間、真摯に使用されてい

ないことが裁判所に明らかな場合には、利害関係人の請求により、当該登録

の取消しを強制し得る決定を出すことができます。

Page 397: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

397アフリカ

エジプトQ.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 この事案は、著作権と商標権との間で争われるものです。この事案

に類似する BBC の Teletubies Characters の事件において、特許庁は、第 29

類の乳製品に係る Teletubies Characters を侵害する商標に対する異議申立を

退けました。

 我々の見解では、この問題は世界のどこにおいても、懸案とされているも

のであると考えます。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 はい。他人の登録商標と同一の図形を T シャツの胸全面に表示する

ことは、他人の商標権を侵害します。それは、T シャツが同一の登録商標の

商標権者によって製造された、又は商標権者と関係する可能性があると誤認

させる表示です。その表示が文字から構成される場合には、さらにもっと、

同じことが言えます。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 公衆を誤認させ、他の商標権者に実質的損害を生じさせるおそれが

ある限り、他人の登録商標を侵害する商品を頒布することは、たとえそれが

フリーギフトであっても、制裁を免れません。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 答えは、使用の具体的な態様によります。ABC インクジェットプリ

ンター用インク(XX 社の純正製品)と混同を生じさせ得る如何なる表示又

Page 398: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

398 アフリカ

エジプト

は行為も商標権の侵害を構成する可能性が高いと言えそうです。エジプト商

標法によれば、上記の行為は制裁を免れません。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 商標権の行使の要件ではありませんが、商標が登録商標である旨の

表示をすることは推奨されます。

 Ⓡに関する規定はありません。

 反対に、商標が登録商標であると信じさせるような虚偽表示は制裁を免れ

ません。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消される要件を説明して下さい。

A.8 エジプトでは、その要件は第 91 条に明示的に規定されています。

すなわち、利害関係を有する者は、何人も、不使用に基づく商標登録の取消

しをすることができ、当該商標が、正当な理由なく、継続して 5 年間(登

録日から起算されます。)、真摯に使用されていないことを示す証拠を提出し

なければなりません。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国において当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 使用は法文で定義されていません。したがって、インターネット上

の広告、電子商取引又は同様のものにおける使用の評価は、裁判所の判断に

任されています。

Page 399: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

399アフリカ

エジプト

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 いいえ。我々の見解では、一貫した使用を裁判所において証明す

るためには、一人の消費者では十分ではないでしょう。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 ウェブサイトのサーバーの場所は、関係ありません。裁判所に確

信させなければならないのは、使用です。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場合はどうですか。

A.12 メディアによる広告においては、アラビア語の使用は必要です。

しかしながら、エジプトで公表又は頒布される英語メディアを使用する広告

は、裁判所によって十分であると判断される可能性があります。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場合はどうですか。  ・登録商標「XYZ」  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 我国では、法は、広告を登録商標の使用として定義していません。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれているのみである場合はどうですか。

A.14 我国では、法は、登録商標の使用を定義していません。しかしな

がら、商標を製品に付することが必要です。

Page 400: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

400 アフリカ

エジプト Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 我国の通貨の表示の存在は、裁判所に使用を確信させるために役

立つ可能性があります。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 いいえ、そのような審判決例はありません。

 注:2002 年知的財産法の改正を検討している特別委員会があります。そ

の中で予期される改正の一つは使用の定義です。

(原稿受領日 2008 年 5 月 14 日)

Author: Mr. Magda Haroun Haroun & Haroun Patents Trademarks & Legal Affairs P.O.Box 1540 Cairo 11511, Egypt Tel: +202 23917734 Fax: +202 23920465 Email: [email protected]

Page 401: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

401アフリカ

エチオピア

エチオピア (Ethiopia)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 侵害は、第一に公正な商慣習に反する競争に係るものです。より具

体的には、競合他社の事業、製品又は営業活動に関して需要者に誤認を生じ

させるおそれのある如何なる行為も侵害に該当します。

 真正商品の並行輸入は商標権侵害を構成しません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 商標の使用は、権利行使の要件ではありません。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 このような側面が問題となった判例はまだありません。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 両方の事例における使用は、侵害になると思われます。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 当該行為は侵害になると思われます。

Page 402: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

402 アフリカ

エチオピア

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 このような側面が問題となった判例はまだありません。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 そのような要件は、法律に規定されていません。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 不可抗力によらない場合、又は正当な理由がない場合、1年間の不

使用を理由に商標登録を取り消すことができます。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 (回答なし。)

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 (回答なし。)

Page 403: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

403アフリカ

エチオピア

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 (回答なし。)

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 (回答なし。)

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 (回答なし。)

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 (回答なし。)

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 (回答なし。)

Page 404: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

404 アフリカ

エチオピア

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 (回答なし。)

(原稿受領日 2008 年 5 月 16 日)

   Author: Dr. Wim Alberts Bowman Gilfillan Inc. John & Kernick 165 West Street, Sandton, Johannesburg PO Box 785812, Sandton 2146, Republic of South Africa Tel: +27 11 669-9648 Fax: +27 11 669-9001 Email: [email protected] Website: http://www.johnandkernick.co.za/

Page 405: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

405アフリカ

ケニア

ケニア (Kenya)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 侵害は、商標権者の同意を得ずに、当該登録商標と同一の商標、又

は欺瞞若しくは混同のおそれがあるほど当該登録商標に類似する商標を、当

該商品の取引の過程において使用した場合に生じます。

 並行輸入は、製造ライセンスを受けた者が権原のない領域に当該商品を頒

布しなかったことを条件に、侵害を構成しません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 登録商標の使用は、必須の要件ではありません。しかしながら、当然、

登録商標は不使用に基づく攻撃を受ける可能性があります。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 この点に関する具体的な判例はまだありません。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 この点に関する具体的な判例はまだありません。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 商品について虚偽の出所の印象を与える場合、そのような使用はな

Page 406: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

406 アフリカ

ケニア

お侵害にあたると思われます。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 この点に関する具体的な判例はまだありません。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 ケニア法においては、そのような要件はありません。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 商標登録官又は裁判所に対して、第 29 条(1)(a)又は第 29 条(1)

(b)の規定に基づいて不使用を理由とする登録商標の取消しを請求する第

三者は、以下のいずれかを証明しなければなりません。

 (1)当該商標が、登録に係る指定商品について当該商標を使用するとい

う出願人の誠実かつ真正な意思無しに登録され、かつ、それらの商品につい

て商標権者又は登録されたライセンシーによる当該商標の誠実かつ真正な使

用が、取消請求前1月までになかったこと(第 29 条(1)(a)をご参照頂

きたい。)、又は、

 (2)取消請求前 1 月までに、登録に係る商品について商標権者又は登録

されたライセンシーによる当該登録商標の誠実かつ真正な使用がなかった期

間が継続して 5 年経過していること(第 29 条(1)(b)をご参照頂きたい)。

 不使用が取引における特別な事情に起因する場合は、取消審判手続を審理

する登録官又は裁判所は、如何なる商品又は役務についてなされた取消請求

であっても、これを拒絶することができます。

Page 407: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

407アフリカ

ケニア

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 この点に関する具体的な判例はまだありません。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 この点に関する具体的な判例はまだありません。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 この点に関する具体的な判例はまだありません。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 この点に関する具体的な判例はまだありません。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 この点に関する具体的な判例はまだありません。

Page 408: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

408 アフリカ

ケニア

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 この点に関する具体的な判例はまだありません。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 この点に関する具体的な判例はまだありません。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 この点に関する具体的な判例はまだありません。

(原稿受領日 2008 年 5 月 16 日)

Author: Dr. Wim Alberts Bowman Gilfillan Inc. John & Kernick 165 West Street, Sandton, Johannesburg PO Box 785812, Sandton 2146, Republic of South Africa Tel: +27 11 669-9648 Fax: +27 11 669-9001 Email: [email protected] Website: http://www.johnandkernick.co.za/

Page 409: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

409アフリカ

南アフリカ共和国

南アフリカ共和国 (Republic of South Africa)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 1993 年第 194 号の商標法は、登録商標の使用に係る侵害を 3 つに

分けています。第 1 に、先行商標の登録に係る商品(又は役務)と同一の

商品(又は役務)について、類似商標が使用された場合に侵害となります。

この場合、混同が証明されなければならないという要件はありません。第 2

に、先行商標の登録に係る商品と類似する商品について、類似商標が使用さ

れた場合に侵害が生じます。この場合は、混同が立証されなければなりませ

ん。第 3 に、反希釈化の保護があります。これは、著名な登録商標と類似

する商標をどのような商品に使用しても生じます。ただし、その使用が当該

著名商標の識別性若しくは評判を不正に利用又は害するおそれがある場合に

限られます。混同のおそれがあることを証明する必要はありません。South

African Breweries vs Laugh If Off CC の事件において、憲法裁判所は、当事

者は実質的な経済上の損害のおそれについて証拠を提出する必要があると判

示しました。これは、販売の損失又は消費者の間で生じた否定的連想のいず

れかの形をとることができます。この判決において、特定の状況においては、

言論の自由等の憲法上の権利が商標権に優先するとも判示されました。これ

は、上記の事件において、商標権者のビールに係る商標を被告がパロディに

したものが、パロディにおいて使用された場合に起こりました。

 真正商品の輸入も販売も侵害にはなりません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 登録商標の使用は、侵害訴訟の提起の要件ではありません。しかしな

がら、当該商標が 5 年間使用されていなければ、これを抹消することが可能です。

Page 410: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

410 アフリカ

南アフリカ共和国

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 そのような使用が誠実かつ真正な使用とみることができるのであれ

ば、侵害になりません。この事例においては、おそらく Mothercare(UK)

事件判決の原則が適用されることになると思われます。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 観念上の類似は、対象を記述する文字と、対象の描画とが等価であ

ることを意味し得るため、当該商標が文字であるか又は図形であるかは原則

として問題とされません。南アフリカの裁判所は、英国の Johnstone 事件に

おける判決を受け入れました。このことは、主要な問題は、当該表示が平均

的な消費者によって出所表示として見られるかどうか、又は(欧州裁判所の

Adidas 事件のように、)単に装飾であると見られるかどうかであることを意

味します。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 当該使用は侵害になると思われます。当該商標がサービスの提供の

促進のために使用されているという考慮は、当該商標がペンについて使用さ

れているという事実を損なうものではありません。すなわち、混同が起こる

可能性が高いと言えます。特に著名商標の場合には、反希釈化の保護が原則

としてすべての区分に及ぶため、当該使用がどの商品区分においてなされて

いるかは問題となりません。

Page 411: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

411アフリカ

南アフリカ共和国

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 当該使用が誠実かつ真正な使用であると客観的に判断される場合は、

侵害にはなりません。このことは、例えば、レタリングの種類や顕著度が考

慮されなければならないことを意味します。「ABC インクジェット」は侵

害になりますが、「ABC プリンター用インクジェット」は侵害にならないと

思われます。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 そのような表示は権利行使の要件ではありませんが、当該商標が登

録されていたことを被告が知っていたことの立証に資する点で、損害賠償請

求において一定の役割を果たし得ると思われます。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消される要件を説明して下さい。

A.8 5 年間 -登録が付与された日から起算されます- 不使用であれ

ば、当該商標は抹消の対象となります。しかしながら、不使用が使用者の支

配の及ばない要因に起因していたことに基づいて、取消請求に対して防御す

ることが可能です。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国において当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 ウェブサイトへのアクセス、通貨等の事実だけでは十分ではありま

Page 412: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

412 アフリカ

南アフリカ共和国

せん。「使用」を構成するためには、商品の実際の販売又は輸入がなければ

なりません。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 これは、十分ではありません。(侵害又は異議申立手続においては、

使用の要件について異なる解釈が適用されます。)

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 これは十分ではありません。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 上記A.9をご参照下さい。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 上記A.9をご参照下さい。

Page 413: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

413アフリカ

南アフリカ共和国

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 上記A.9をご参照下さい。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 上記A.9をご参照下さい。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 該当する事例はありません。

(原稿受領日 2008 年 3 月 31 日)

Author: Dr. Wim Alberts Bowman Gilfillan Inc. John & Kernick 165 West Street, Sandton, Johannesburg PO Box 785812, Sandton 2146, Republic of South Africa Tel: +27 11 669-9648 Fax: +27 11 669-9001 Email: [email protected] Website: http://www.johnandkernick.co.za/

Page 414: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

414

Page 415: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

415

中南米

(CENTRAL AND SOUTH AMERICA)

Page 416: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

416 中南米

アルゼンチン

アルゼンチン (Argentine)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並

行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 商標法は、商標の登録権者に対し、その登録の有効性を通じて、そ

の商標を商標登録に係る製品又は役務に使用する独占的権利を付与します。

法によって付与されたこの権利を行使するにおいて、商標権者は、以下の行

為をする何人に対しても、訴訟を提起することができます。

 a)当該商標を偽造又は複製すること、すなわち、包装、ラベル等に当該

商標を付した製品の販売及び販売の申出をすること;

 b)商標権者の許諾なく、製品及びその包装又は役務に商標を付すことに

より当該商標を使用すること;

 c)商標権者の許諾なく、当該商標を使用した製品を販売し、又は役務を

提供すること。

 上記のすべての場合において、当該行為が商標登録に係る製品又は役務に

関するものでなければならないこと、及び当該商標が正当に登録されている

ことが、基本的な要件です。

 アルゼンチンが採用する一種の消尽について、商標法は何の規定も設けて

いません。一方、判例法は、 -その件数は多くないにしても- 商標に関

する権利の国際的消尽を認めてきました。これの意味するところは、第三者

による真正商品の輸入は、商標の不当な使用とは判断されないということで

す。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 この質問に答えるためには、我々の商標法が、権利の喪失を防ぐた

めに、商標の使用についてどのような規定を設けているかを説明する必要が

Page 417: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

417中南米

アルゼンチン

あります。使用の要求は、商標登録後5年の時点で始まります。その時点から、

登録は不使用に基づく取消請求の対象となります。商標がいくつかの区分に

おいて登録されている場合、特定の区分における特定の製品についてのその

商標の使用は、その区分に係る登録のみならず、残りの区分に係る登録につ

いても使用の利益をもたらします。

 商標登録によって付与された権利を行使するために、商標を有効的に使用

していることは必要ありません。しかしながら、(上記で説明したように)、

法は登録後 5 年以内の商標の使用を要求しているので、5 年以上使用されて

いない商標は、登録の取消請求を受ける危険に晒されていることに留意しな

ければなりません。

 したがって、使用は以下の 2 つの関連性を獲得します。a)登録を更新す

るために、商標は更新申請の日前 5 年以内に使用されていなければなりま

せん。その時点では、その証拠を提出する必要はなく、単に、商標が付され

た製品又は役務についての使用を宣言するだけで足ります。b)不使用に基

づく取消請求を回避する関連性をも有します。よって、取消訴訟の提起前 5

年以内に使用されていない商標は、 -不可効力の場合を除き- 権利の喪

失につながります。

 最後に、更新前又は取消請求の提起前 5 年以内の使用についての法的要

件は、その使用が継続的かつ不断のものでなければならないことを意味しな

いことにも留意すべきです。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」

を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 この質問に対する回答は、LOVE の文字が音楽 CD のジャケット上

にどのように使用されているかによって変わります。その使用が CD の題号

を示し、かつその文字が他の部分と比べて強調されている場合、その使用は、

同一の製品に係る商標権者である第三者の権利の侵害と判断される可能性が

あります。しかしながら、その文字が音楽の種類を説明するための言葉の一

Page 418: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

418 中南米

アルゼンチン

部として使用されているのであれば、その使用が侵害と判断されることはほ

とんどないと思われます。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人

の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 その商標が第 25 類で登録されている場合、上記使用は明らかに商

標権者の権利侵害です。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合

において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに

「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 商標が製品に付された時点から商標権侵害が存在すると考えれば、

当該製品についてなされる使用は不適切です。製品がフリーギフトとして頒

布されるものであるか、販売品であるかにかかわらず、いずれの場合におい

ても商標権侵害が生じるでしょう。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標

権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳

細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 この質問に回答するために、我々は最初に、他人の商品と共に使用

されなければならない商品を販売する場合であって、その過程において、他

人の所有に係る商標に言及して自己の製品を広告する場合に、アルゼンチン

の裁判所が訴訟手続に適用する基準を説明しなければなりません。我々は、

第三者の商標に係る許諾を受けていない使用であって自己の商標の如く使用

されるものと、他人の商標を使用するに際してなされる当該第三者の商標へ

の単なる言及とを区別するべきです。前者の場合は商標権者の権利の侵害と

なるでしょうが、後者の場合は状況次第でしょう。すなわち、後者の場合は、

その使用者が当該第三者がその商標の所有者であることを認識していて、そ

Page 419: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

419中南米

アルゼンチン

の当該第三者の商標を貶めたり、損なったりすることを意図していなければ、

当該第三者の商標に対する言及は適法だからです。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示

は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 アルゼンチン法は、製品に登録商標である旨の表示をすることを要

求していません。商標権者又はライセンシーが、その商標が登録商標である

ことを表示すると決めた場合、通常使用される表示はⓇ又は MR です。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消さ

れる要件を説明して下さい。

A.8 アルゼンチンの手続法は、原則として、事実を主張する者がその事

実を証明することを要求しています。したがって、その商標が使用されてい

ないと主張する者が、 -原則として- その商標が有効的に使用されてい

ないこと、又は取消請求前 5 年以内に使用されなかったことを証明しなけ

ればなりません。しかしながら、裁判所は、消極的事実、 -すなわち、商

標権者による商標の不使用- は極めて証明が難しいことを認めてきまし

た。したがって、商標権者が商標の使用を証明する最善の立場にあることを

考慮し、上記の手続規則は厳格には適用されません。不使用を主張する者は、

不使用を証明することを目的とする一定の証拠方法を提出しなければなりま

せんが、商標権者もまたその商標の使用(不使用の場合は、不使用について

の不可抗力の存在)を証明しなければなりません。

Page 420: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

420 中南米

アルゼンチン

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標

XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国に

おいて当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると

言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の

詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 商標を伴う広告の単なる掲載は、使用とは判断されません。裁判所

は、この原則を要約して、商標法の言う「使用」は、商標が市場に置かれる

製品に有効的に付されなければならないことを意味すると述べています。

 したがって、インターネットに掲載された広告は「使用」にはならないで

しょう。ただし、アルゼンチンに住所を有する個人に商品の販売があった

ことが証明される場合はこの限りではありません。この場合、その広告の証

明及びその販売の証明は、使用があったことを十分に証明するでしょう。商

品の販売はなかったが、アルゼンチンに住所を有する個人によるアクセスが

あった場合、 -取消しの規定の解釈は限定的になされるという理由で、ア

ルゼンチンの裁判所によってまだ規定されていないとしても- 商標権者

は、たとえこれが議論のある問題であるとしても、取消しに異議を唱えるこ

とができる可能性があります。

 これは、商標法が、商標は、製品の販売又は役務の提供において使用され

ていなければならないと規定しているためです。したがって、製品又は役務

が外国から提供される場合、たとえ相当量の販売がなかったとしても、アル

ゼンチンに住所を有する個人に販売されていなければならず、又はアルゼン

チンにおける製品の入手の可能性若しくは役務の利用の可能性がなければな

りません。

 インターネット上の広告に関しては、アルゼンチンに居住する個人によっ

てアクセスされた記録を残しておくことに加えて、それぞれの国で入手可能

な証拠方法による十分な証拠を保持しておくことも必要でしょう。公証人が

この点について証明する権限を有しない場合、記録されたアクセス数、URL

Page 421: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

421中南米

アルゼンチン

及び個人の氏名を宣言する宣誓供述書を、製品が提供されているウェブサイ

トの写と共に作成することをお勧めします。理想的には、そのような広告は

アルゼンチンからアクセスすることが可能であるべきです。この場合、アル

ゼンチンの公証人はこれを証明するでしょうし、その証明は商標の取消しに

対する証拠として使用できる可能性があります。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告

を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、

ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 この場合、アルゼンチンに居住する何れかの個人によって直接な

された我国への製品の輸入があったのであれば、商標権者は商標が使用され

ていたと主張することが可能であると言うべきでしょう。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれ

ていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 サーバーの場所に関しては、ウェブサイトがアルゼンチンに置か

れていることは好ましい一方、Q.9に対する回答において特定される要件

が充足されていれば、設置場所は肯定的な回答のための要件ではありません。

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 ウェブサイトにおける外国語の使用は、関係しません。なぜなら、

重要なのは、潜在的な消費者によってアクセスされ、アルゼンチンに居住す

る人々によって製品の購入がなされるウェブサイトの存在だからです。

Page 422: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

422 中南米

アルゼンチン

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場

合はどうですか。

  ・登録商標「XYZ」

  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション

  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 提供される製品が製品の名称によって特定されていれば、 -た

とえ写真はなくても- 使用と判断され得ると思われます。ただし、それは、

アルゼンチンに居住する個人によってアクセスされ、製品の購入がなされる

広告であることが証明される場合に限られます。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録

商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」

が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれてい

るのみである場合はどうですか。

A.14 商標は、提供される製品と何らかの形で関連付けられていること

が必要です。我々の意見では、商標が URL に含まれているだけ、あるいは

商標がアルゼンチンに送付された商品と共に納められた物品に何らかの形で

含まれているだけでは、十分ではありません。ただし、アルゼンチンに居住

する個人により製品の購入があったことが証明される場合はこの限りではあ

りません。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 アルゼンチンの通貨の表示がないことは、関係しません。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例

があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 今までのところ、商標の不使用が争われ、その使用がウェブペー

Page 423: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

423中南米

アルゼンチン

ジ上でなされた問題に関する判断がなされた判決例はありません。

(原稿受領日 2008 年 5 月 31 日)

Author: Mr. Fernando Noetinger Noetinger & Armando 25 de Mayo 489, 8th Floor C1002ABI Buenos Aires, Argentina Tel: + 54 11 4315 9200 Fax: + 54 11 4315 9201 Email: [email protected] Website: http://www.noetingeryarmando.com.ar/

Page 424: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

424 中南米

ブラジル

ブラジル (Brazil)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 1996 年 5 月 14 日法律第 9.279 号(ブラジル産業財産法)によれば、

商標権者は、国内領域においてその商標を独占的に使用する権利を有します。

また、商標出願人及び商標権者は、とりわけ、商標の本質的な信頼性及び評

判に対する保護を受ける権利が保証されます。

 前記の法律の第 124 条は、商標として登録が認められない標識を規定し

ており、それらの禁止事項の中でも、以下のものが強調され得ると思われま

す。:(ⅰ)商号の特徴的又は識別的な構成要素の複製又は模倣;(ⅱ)識別

されるべき製品又は役務と関連する、一般的な、必要な、普通の、通常の、

又は単に記述的な、文字からなる標識;(ⅲ)登録商標の全部若しくは一部の、

さらには付加を伴う、複製又は模倣であって、同一、類似若しくは近似する

製品又は役務を特定するために使用され、第三者の標章との混同又は連想を

生じさせるおそれのあるもの。

 産業財産法第 189 条及び第 190 条は、商標に対する侵害を規定していま

す。第 189 条によれば、「次に掲げる行為をする者は、商標登録を侵害する。:

Ⅰ.商標権者の許諾なく、登録商標の全部又は一部を複製し、又は混同を生

じさせるおそれがある方法で登録商標を模倣する行為;又は、II.市場に置

かれている製品にすでに付されている第三者の登録商標を改変する行為」。

登録商標の許諾なき複製又は模倣の禁止に関しては、原則として、第三者が

同一、類似又は近似の製品及び / 又は役務を特定するために当該商標を使用

している場合にのみ適用されます。この原則は、高い評判を有する商標には

適用されません。高い評判を有する商標は、一定の製品 / 役務を特定するた

めに登録されているかどうかにかかわらず、可能な限りすべての分野におい

Page 425: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

425中南米

ブラジル

て完全な保護が与えられます。当該法律が商標権侵害を一般的な方法で規定

していることを考慮すると、競合している実際の商標の分析は必要不可欠で

す。

 第 190 条は、転じて、「次に掲げる製品を、輸入、輸出、販売、販売のた

めの申出若しくは展示、隠匿、又は所持する者は、商標登録を侵害する。:I.

第三者の商標を、違法に、全部又は一部において、複製又は模倣したものを

付した製品;又は、II.自己の工業又は商業の製品であって、第三者の適法

な商標を付した、容器、包装箱又は包装に入れられたもの」と規定しています。

 最後に、真正商品の並行輸入は、商標権者の明示又は黙示の同意がある場

合であって、当該製品が商標権者によって又はその同意の下で国外の市場に

置かれたものである場合に限り、ブラジル産業財産法により許容されていま

す。これは、ブラジル産業財産法第 132 条 III に規定されているとおりです。

すなわち、「商標権者は、次に掲げる行為をしてはならない。:…�III -商標

権者により又はその同意を得た他の者により国内市場に置かれた製品につい

て、その自由な流通を妨げること…」。したがって、ブラジルの法制度によ

れば、商標権者は、当該商品を販売した後は、その購入者が当該商品の獲得

後にそれらの商品を自由に商業化することが許されるので、当該商標に対す

る自己の権利をもはや主張することができません。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 ブラジルにおいては、商標登録の消滅原因の一つは取消しです。ブ

ラジル産業財産法第 143 条によると、登録は、以下の場合に、取り消され

ます。その登録の付与から 5 年経過後にブラジルにおいてその使用が開始

されていない場合、又はその使用が 5 年以上継続して中断されている場合、

そして最後に、当該期間において、その商標がその元々の識別性に影響を与

える変更された態様で使用されている場合です。

 正当な理由によりその商標が使用されなかったことを証明する商標権者

は、その商標が取消しの宣言を受けることを免れることができます。

Page 426: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

426 中南米

ブラジル

 しかしながら、商標登録の取消しを受けたにもかかわらず、商標権者は、

取消しを受ける前になされた、不当な商標の使用に対する損害賠償請求を目

的とする訴訟を提起することが可能であると考える裁判官も存在するという

重要な指摘をさせて頂きます。この解釈は、取消しの効果はその宣言がなさ

れたときから発生するのであり、それゆえ、当該登録はその時点まで有効か

つ効力があったということに基づくものです。実際に、これは最高裁判所に

よって採用されている見解であり、審判番号 330175/PR を決定する理由と

して用いられました。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 原則として、「いいえ。」です。音楽 CD のジャケットに表示された

題号「LOVE」は、単に特定の曲集の名称に過ぎず、CD 及び / 又は類似する

商品を特定するために使用されているものではないということを考慮する

と、消費者を混同に導くおそれはなく、それゆえ、本件においては商標権侵

害は生じないでしょう。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 ブラジルにおいては、長年に亘り商標権者によって獲得された当該

登録商標の認知度及び魅力とその製品とを消費者に直ちに関連付けさせるよ

うな態様で、既登録商標と同一の図形又は文字の登録商標を T シャツに表

示することは、当該第三者が、商標権者に対する消費者の認知度及び社会的

信用に起因して、利益を得ることになるため、原則として、商標権侵害であ

り、そして不正競争行為であるとも判断されるでしょう。

 さらに、前述したように、商標権者(出願人をも含む。)が有している権

利のうちの一つが、その商標の本質的な信頼性又は評判に対する保護を受け

る権利であるため、当該第三者が、図形登録商標や文字登録商標を下品に模

Page 427: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

427中南米

ブラジル

倣した図形や文言を、T シャツに表示する場合は、まさに商標権侵害を構成

するでしょう。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 「ABC」が当該金融サービス会社によって以前から使用されている

商標であることを考慮すると、「ABC」の語はボールペンを特定するための

商標として使用されているのではなく、すなわち、利益を得る目的で頒布さ

れているのではなく、単にギフトとして、すなわち、世界中において普通に

行われている販売上の慣行として、使用されているのですから、本件におい

ては商標権侵害は生じないでしょう。

 とは言え、当該サービスの市場への提供を目的として当該金融サービス会

社によって頒布されたボールペンに、それらの会社同士が何らかの関係を有

すると消費者を混同又は誤信させ得るような態様で商標「ABC」が付されて

いる場合は、商標権侵害を構成し得るでしょう。したがって、本件のような

問題においては、具体的な事案の分析が大変重要です。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 原則として侵害しません。商標のフェアユースを定めた、ブラジル

産業財産法第 132 条Ⅱは、以下の旨を規定しています。「商標権者は、次に

掲げる行為をしてはならない。:(...)Ⅱ-付属品の製造者がその製品の用途

を表示するために、当該商標を使用することを妨げること。ただし,それら

の者が公正な競争慣行に従うことを条件とする。」

 したがって、付属品の製造者がその製品の互換性を示すために行う「ABC

インクジェットプリンター」の表示が、例えば、それらの会社同士が何らか

の関係を有するとか、及び / 又は付属品の製造者により販売されている製品

Page 428: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

428 中南米

ブラジル

が実は XX 社により製造されているとか、消費者を誤信させ得るような態様

でなされるものでない限り、本件においては商標権侵害は生じないでしょう。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 いいえ。そのような表示は、ある特定の商標が正当に登録されてい

ることを表示するには便利ですが、ブラジルにおいては、Ⓡの記号(又はこ

れに類似のもの)の使用は商標権の行使の要件ではありません。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消される要件を説明して下さい。

A.8 取消しの手続はブラジル産業財産法の第 143 条乃至第 146 条に規

定されています。

 したがって、法律上の利害関係を有する者は、何人も、以下の場合に商標

登録の取消しを請求することができます。登録の付与から 5 年経過後にブ

ラジルにおいてその使用が開始されていない場合、又はその使用が 5 年以

上継続して中断されている場合、そして最後に、当該期間において、その商

標がその元々の識別性に影響を与える変更された態様で使用されている場合

です。

 商標権者には、取消請求に対して答弁をする期間として 60 日の期間が与

えられます。また、第 143 条の第 2 項に明示的に規定されているように、

商標権者は、商標の有効な使用、又は不使用についての正当な理由を立証す

る責任を負います(第 143 条の第 1 項によれば、不使用が正当な理由に起

因する場合は、当該登録は取消しを受けません。)。

 また、商標登録の取消しを防ぐためには、商標の使用は登録証に記載の製

品又は役務を包含していなければならないことを指摘することが重要です。

そうしなければ、商標の使用が証明された製品又は役務に、類似又は近似し

Page 429: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

429中南米

ブラジル

ない製品又は役務について、登録の一部取消しという不利益を受けることに

なります。

 最後に、取消請求は、取消請求前 5 年以内における商標の使用が証明さ

れた場合、又は不使用についての正当な理由が証明された場合、棄却されま

す。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国において当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 原則として、インターネット上の広告は商標「XYZ」の使用を証明

するのに十分です。

 ブラジル産業財産法が、登録の有効性の条件を商標の成功に係らしめるこ

となく、商標の使用は 5 年の期間内にされなければならいと規定している

という指摘をすることが重要です。ブラジル産業財産法第 131 条は、商標

の保護は、「商標権者の事業活動に関連する文書、印刷物、広告及び書類へ

の商標の使用に及ぶ。」と規定しています。したがって、この規定は、本件

に準用され得ると思われます。すなわち、商標権者が、第三者がその商標を

広告物に付するのを防止できるなら、広告物における商標の使用は、その有

効な使用を構成するに十分とされるでしょう。

 しかしながら、議論の余地のある要件ではありますが、ブラジル特許庁及

び裁判所の両者が、商標の取消しを回避するためには、商標の使用の証拠と

して、商標により特定される製品の販売インボイスの提出が必要であると判

断してきたことを指摘することが重要です。

 また、広告された製品は、国内領域において商業化されなければなりません。

問題の当該ウェブサイトが、ブラジルに在住の消費者がブラジルにおいて商

品を購入し、かつその商品を配送してもらうことを可能にするものであれば、

商標の有効な使用を構成し得るでしょう。

Page 430: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

430 中南米

ブラジル

 ウェブサイトへのアクセス数は、商標の実際の使用を証明するのに必要で

はありませんが、その証明過程において確かに役立つことを指摘することが

重要です。

 最後に、問題の当該会社は外国企業であるため、ブラジル産業財産法第

217 条によると、当該会社は、国内に在住する正当な資格を持った代理人

であって、召還状の受領、その他行政上及び司法上、当該会社を代理する権

限を有するものを永続的に維持しなければなりません。そうしなければ、商

標登録の取消しという不利益を受けることになります。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 いいえ、当該会社は国内領域において製品を有効に商業化するこ

とが必要です。本件においては、当該会社は、ブラジルに在住する消費者が、

ブラジルにおいて当該広告された商品を購入し、かつその商品を配送しても

らえることを可能にすることが必要となるでしょう。

 とは言え、第三者が当該商標により特定された商品を海外で購入し、それ

らをブラジルにおいて商業化した場合は、当該商標の有効な使用を構成し得

るでしょう。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 原則として、ブラジルに在住する消費者がその国内領域において

ウェブサイトにアクセスし、当該商品を購入し、かつそれらを配送してもら

える場合は、ウェブサイトのホストの場所にかかわらず、有効な使用を構成

するでしょう。

Page 431: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

431中南米

ブラジル

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場

合はどうですか。

A.12 原則として、広告がポルトガル語によってなされなかったという

事実は、ブラジルに在住する消費者が国内において提供された商品を有効に

購入したということを当該会社が証明し得る限り、問題とはならないでしょ

う。しかしながら、広告がポルトガル語(ブラジルの公用語)で表示されな

かったという事実は、問題の当該商標の有効な使用を証明する際に困難を引

き起こすということを指摘することが重要です。したがって、明らかに、当

該会社はブラジルの公用語で商品を広告することが望ましいでしょう。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場合はどうですか。  ・登録商標「XYZ」  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 ブラジルに在住する消費者が国内領域において広告された商品を

購入し、かつ配送してもらえる限り、なお有効な使用を構成するでしょう。

また、登録の取消宣言を回避するために、商標は商標登録を受けた態様で使

用されなければならない、すなわち、登録証に記載された商標の元々の識別

性に影響を与える変更された態様で使用されてはならないという事実を指摘

することが重要です(ブラジル産業財産法の第 143 条Ⅲ)。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれているのみである場合はどうですか。

A.14 商標は商品を特定しなければなりませんが、それは商標が商品に

付されなければならないことを意味するものではありません。本件において

考慮されるべき要因は、消費者が、商標「XYZ」が具体的な商品を特定して

Page 432: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

432 中南米

ブラジル

いると気付くかどうかです。当該ウェブサイトが、当該商標の下で、その製

品の販売の申出をしている場合は、有効な使用を構成します。

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 前述したように、原則として、ブラジルに在住する消費者が国内

領域において商品を購入することができず、商品を配送してもらえない場合

は、登録は取り消されざるを得ないでしょう。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 当所は、ウェブサイトにおける使用の問題に関連して商標の不使

用が争われた事件を知りません。

(原稿受領日 2008 年 3 月 26 日)

Author: Ms. Mariana Rogeri Vicentini Mr. Luiz Leonardos Momsen, Leonardos & Cia. Rua Teofilo Ottoni, 63, 10th Floor Rio de Janeiro 20090-080, Brazil Tel: +55 21 2136-4100 Fax: +55 21 2136-4200 Email: [email protected], [email protected] Website: http://www.leonardos.com.br/

Page 433: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

433中南米

メキシコ

メキシコ (Mexico)

Ⅰ.商標権侵害における商標の使用Q.1 商標権の侵害となる行為について説明して下さい。併せて、真正商品の並行輸入が商標権の侵害を構成するかについて簡潔に論評して下さい。

A.1 メキシコでは、商標登録は、商標権者に、登録商標を、その登録に

係る指定商品・役務について使用する独占的権利を与えます。

 産業財産法第 213 条Ⅳは、「他人の登録商標に類似する商標を、登録商標

により保護されている製品・役務と同一又は類似の製品・役務について使用

すること」を禁止しています。加えて、第 213 条Ⅴ及び第 213 条Ⅶ条は、

先行する登録商標と同一又は類似の、商号、取引上の名称、又は広告スロー

ガンの使用を禁止しています。ただし、それらが、商標登録に係る指定商品・

役務と類似する商品・役務、又はそのような商品・役務を提供する事業に使

用される場合に限られます。

 「連想のおそれ」をもたらす行為は、第 213 条Ⅸにより禁止されています。

具体的には、法は、「ある所定の企業と第三者の企業との間に関係又は関連

が存在すると、・・・ 公衆を誤信させ、又は思い込ませることにより、公衆に

誤認を与える若しくは公衆を欺く行為」を禁止しています。

 法は、並行輸入問題について、半導体集積回路の回路配置の場合を除き、

何の規定も設けていません。商標が付された商品の並行輸入について、何の

禁止規定もありません。

 産業財産法規則の第 54 条に基づけば、以下に該当する場合、商品は「適法」

と推定されます。

・輸出者が、(a)本国において商標登録を所有すること、又は(b)商標権

者のライセンシーであること、及び、

・その商標についてのメキシコ登録の商標権者が(a)本国における商標の

商標権者、(b)「経済的利益集団」の構成員、又は(c)(a)又は(b)のラ

Page 434: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

434 中南米

メキシコ

イセンシー若しくはサブライセンシーであること。

 第 54 条は、単に適法性の推定をもたらすだけです。外国から輸入された

商品が「適法」となる他の状況はあり得ます。

Q.2 商標権者が登録商標を使用していることが商標権行使の要件となりますか。

A.2 ほとんどの場合、答えは「はい。」です。産業財産法第 229 条は、

侵害訴訟の原告(又は刑事訴訟の告訴人)に対し、原告当人が登録商標を所

有していることについて、公衆が告知を受けていたことを要求しています。

この要件を満たすための慣行的な方法は、Ⓡの記号、「marca registrada」(登

録商標)の文言、又はその頭文字である「M.R.」を、商品、包装箱、包装、

又は広告に使用することです。もちろん、これは商標の現実の使用を意味し

ます。

 商標が使用されていない場合は、原告は、原告当人がその商標について登

録を有している旨の告知を新聞に掲載することにより、第 229 条の要求を

満たすことが可能です。しかしながら、裁判所の判例は、単なる公表は商標

の現実の使用を構成しないとしています。さらに、その商標が過去 3 年間、

商標登録に係る指定商品・役務について、使用されていなければ、登録は不

使用による取消しの対象となり得ます。

 最後に、侵害訴訟における仮差止請求の要件として、「marca registrada」、

「Ⓡ」若しくは「M.R.」の表示を付して商標の使用が行われていたことの証明、

又は当該商標が登録されていることを一般消費者に示すためにその他の手段

が取られたことの証明、をすることが必要とされます。さらに、産業財産法

は、損害賠償を請求する要件として同程度の証明を要求しています。

Q.3 音楽CDを指定商品とする他人の登録商標「LOVE」と同一である「love」を音楽CDのジャケット上に題号として表示する使用は、他人の商標権を侵害しますか。

A.3 被告による、CD のジャケットにおける文字「LOVE」の使用は、そ

の文字の「フェアユース」を主張することにより、侵害ではないと主張し得

Page 435: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

435中南米

メキシコ

ると思われます。この点に関して、商標として登録された文字を記述的に普

通に使用することは、侵害と判断されるべきではありません。残念ながら、

この問題は裁判所によって取り扱われたことはありません。したがって、こ

れは被告の自己責任による行為になるでしょう。

 「LOVE」が特定の事情と関連しないのであれば、メキシコ産業財産庁はそ

のジャケットは商標権を侵害すると判断する可能性が高いでしょう。これは

また、商標の保護が、その商品が販売される包装にまで及ぶか否かという論

争に我々の注意を向けさせるものです。残念ながら、メキシコ産業財産庁は、

何ら見解を示すことなくこの論争を放置し、他の方法によりこの論争を解決

してきています。

Q.4 他人の登録商標と同一の図形をTシャツの胸全面に表示することは、他人の商標権を侵害しますか。その場合、図形でなく文字の場合はどうですか。

A.4 T シャツの前面全体に図形又は文字のいずれかを使用することは、

以下の場合に侵害となるでしょう。(a)商標登録が衣服又はその関連商品に

及んでいた場合、(b)その商標が、商標権者の商品若しくは役務の信用を

傷つけるか、又は連想のおそれをもたらす方法で使用されていた場合、又は

(c)登録商標が周知若しくは著名な場合。

Q.5 「ボールペン」を指定商品とする他人の登録商標「ABC」が存在する場合において、金融サービスの提供のためのフリーギフトとして配布されるボールペンに「ABC」を表示して使用することは、他人の商標権を侵害しますか。

A.5 はい。ペンが無料で配布されているという事実は、抗弁にはなりま

せん。同様に、商品が主として被告の金融サービスの提供の促進を目的とし

ているという事実は、抗弁にはなりません。

Q.6 商品の用途を示すために他人の登録商標を表示することは、他人の商標権を侵害しますか。(設定した事例の詳細については、第21頁の「質問事項」(詳細版)のQ.6の箇所をご参照下さい。)

A.6 商標「ABC」が使用されている状況及び態様により、第三者は XX

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436 中南米

メキシコ

の権利を侵害していると言えます。産業財産法第 213 条Ⅸは、以下の事項

を公衆に誤信させ、又は思い込ませることにより、公衆に誤認を与え若しく

は公衆を欺く行為を禁止しています。「(a)ある所定の企業と第三者の企業

との間に関係又は関連が存在すること、(b)第三者からの仕様書、ライセ

ンス又は承諾に基づいてその製品が製造されていること、又は(c)第三者

からの承諾、ライセンス若しくは仕様書に基づいてその役務若しくは製品が

提供又は販売されていること」。換言すれば、第三者による XX の商標の使

用は、連想のおそれを生じさせる場合は、禁止されるでしょう。

 他方、第 213 条Ⅹは、「偏向的、虚偽的、誇張的 ・・・」なものでない限り、

比較広告を認めています。第三者が、XX が販売する ABC プリンター用プリ

ンターインクの一般的な代替品を提供する場合は、誤認を生じさせない方法

であるということができるでしょう。

Q.7 Ⓡ等の登録商標であることの表示は必ず要求されますか。また、その表示は、商標権行使の要件となりますか。

A.7 登録商標に係る商標権者は、Ⓡの記号、「marca registrada」(登録

商標)」の文言又はその頭文字「M.R.」を使用することができます。これら

の表示は、商標登録に係る指定商品・役務に関してのみ使用することができ

ます。

 登録商標であることを示す適切な告知をしないことで、登録が無効になる

ことはありません。しかしながら、それは商標権者が差止若しくは金銭的な

救済を得ること、又は刑事上の追及を妨げる可能性があります(Q.2に対

する回答をご参照下さい。)。

Ⅱ.不使用取消審判における商標の使用Q.8 不使用取消の手続が第三者から請求された場合に、登録商標が取り消される要件を説明して下さい。

A.8 産業財産法第 152 条Ⅱは、商標が、取消請求前 3 年以内に、商標

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437中南米

メキシコ

登録に係る指定商品又は指定役務について使用されていなければ、その商標

登録は取り消される旨を規定しています。産業財産法規則第 62 条は、商品

又は役務が「取引慣習若しくは慣行に見合う量及び態様で、市場に置かれて

いる、又は市場で入手可能」であれば、商標は「使用」されているものとす

る旨を規定しています。これは、とりわけ、輸出目的の商品に商標を付する

場合も含みます。

 メキシコ法は、商標登録の一部取消しを認めていません。指定商品又は指

定役務に含まれるいずれかの商品・役務についての商標の使用は、登録を維

持するのに十分です。

 不使用取消請求における被告は、登録された態様又はその識別性に影響を

与えない軽微な変更がされた態様による商標について、その有効な使用を証

明する書類を提出しなければなりません。あるいは、商標の不使用が商標権

者の支配の及ばない出来事に起因することを証明することにより、取消しを

免れることができます。

 ライセンシー又はフランチャイジーによる使用は、法的に、商標権者によ

る使用に相当します。ただし、これはライセンス又はフランチャイズ契約が

メキシコ産業財産庁に登録されている場合に限られます。販売契約は登録を

必要としません。

Q.9 下記の事例において、貴国において、「万年筆」を指定商品とする登録商標XYZを所有しているXX社は、下記の広告をウェブサイトに掲げてさえいれば、貴国において当該万年筆を全く販売したことがなくても、登録商標の十分な使用をしていると言えますか。一定数以上のアクセス数の証明が必要となりますか。(設定した事例の詳細については、第22頁の「質問事項」(詳細版)のQ.9の箇所をご参照下さい。)

A.9 産業財産法規則第 62 条は、商品が「市場に置かれている」又は「市

場で入手可能」であることを要求しています。理論的には、ウェブサイトが

メキシコの消費者に向けたものであり、メキシコの消費者がウェブサイトを

通じて商品を購入することが可能であれば、メキシコの消費者に対する現実

の販売は必要ではありません。

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438 中南米

メキシコ

 実務上、メキシコ産業財産庁は、不使用取消請求の被告に対し、メキシコ

の消費者に対する現実の販売を示すインボイスの提出を要求しています。し

たがって、商標権者の唯一の証拠がウェブサイト上の使用のみであれば、登

録が取り消される可能性は高いと思われます。

 メキシコにおける使用についての証拠は、通常、それを他の証拠と結び付

けて分析されます。さらに、我々の法律制度の下では、商標の使用に関する

証拠の分析は、多くの場合、その商標が、どのように、いつ、及びどこで、

使用されたかに関する情報が記載された書類及び / 又は裏付けとなる証拠

(例えば、インボイス、在庫報告書、輸入 / 輸出書類等)に基づいてなされます。

 上記に照らし、インターネットを通じた商標の使用、それ自体は、決して

使用についての確かな証拠とはならず、被告が有利な決定を得ることは大変

難しいでしょう。

Q.10 上記Q.9に対する回答が「否」である場合、貴国の消費者が当該広告を見て商品を個人輸入したという事実を立証できれば、貴国にXX社の販売代理人、ライセンシー等が存在しなくても登録商標の使用として十分と言えますか。

A.10 メキシコの消費者がその製品の広告を見て、他国に訪問した際に

その製品を購入したことを証明するだけでは不十分です。商標は、メキシコ

の市場に置かれなければなりません。これは、製品がメキシコで販売され、

又は少なくとも、メキシコで販売の申出がされていなければならないことを

意味します。したがって、XX が、メキシコにいる消費者がその製品を輸入

したことを証明すれば、登録商標が使用されていたと言うに十分です。

Q.11 前記事例のⅰ)において、当該ウェブサイトのサーバーが貴国に置かれていないが、貴国の消費者がアクセスできる場合はどうですか。

A.11 サーバーの場所は関係ありません。問題は、ウェブサイトを通じて、

商品がメキシコにおいて / メキシコの消費者に対して販売されていたかどう

かです。

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439中南米

メキシコ

Q.12 前記事例のⅱ)において、貴国の公用語による表示がされていない場合はどうですか。

A.12 メキシコの消費者に対し、商業的量の商品が販売されていれば、

ウェブサイトの言語は関係ありません。

Q.13 前記事例のⅲ)において、単に以下の事項が掲載されている広告の場合はどうですか。  ・登録商標「XYZ」  ・商品名「万年筆」の文言又は万年筆の抽象的なイラストレーション  ・XX社の会社名・住所・問合せ先

A.13 上述のとおり、産業財産法規則第 62 条は、商品が「市場に置か

れていること」及び「市場で入手可能」であることを要求しています。した

がって、当該商標権者のウェブサイトは、商品を特定し、メキシコの消費者

がそれらを購入する方法を掲載していることが必要です。

 もちろん、メキシコの消費者に対して商業的量の当該万年筆を販売したこ

とを示すインボイスを提出するのであれば、当該ウェブサイトの内容は重要

ではありません。

Q.14 前記事例のⅳ)において、ウェブサイトの表題又は商品説明として登録商標「XYZ」が使用されているが、当該万年筆又はその包装に登録商標「XYZ」が付されていない場合はどうですか。URLの一部として「XYZ」が組み込まれているのみである場合はどうですか。

A.14 第 62 条は「その商標の下」で商品が販売されていることを要求

しています。当該条項は、商標が、商品又は包装に付されていることは要求

していません。その商標をその製品と結び付ける、広告、販促資料又はイン

ボイスにおける商標の使用は、十分とされるべきでしょう。しかしながら、

URL の一部としての商標の使用は、その商標とその製品とを結び付けない

ので、おそらく十分ではありません。

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440 中南米

メキシコ

Q.15 前記事例のⅴ)において、貴国の通貨の表示がない場合はどうですか。

A.15 メキシコの消費者に対して、商業的量の製品が販売されていれば、

ウェブサイトにおけるメキシコ・ペソの使用は関係ありません。

Q.16 ウェブサイト上の使用の問題に関して登録商標の不使用が争われた事例があれば、その審決・判決の要旨を記入して下さい(複数事例回答可)。

A.16 ウェブサイト上の使用に関する判決が、裁判所によって公表され

たことはまだありません。メキシコ産業財産庁による決定は公表されず、先

例となる価値はありません。

 それにもかかわらず、インターネット上の商標の使用は、確かな使用証拠

とはならないと結論付けてよいと思われます。ただし、その使用が、商品 /

役務がメキシコにおいて入手可能であったことを検証できるその他の証拠や

書類にって証明される場合は、この限りではありません。

(原稿受領日 2008 年 9 月 4 日)

Author: Mr. Rodrigo Fernandez Guerra F Mr. John M. Murphy Hagemeyer Arochi, Marroquin & Lindner, S.C. Insurgentes Sur 1605-Piso 20 Col. San Jose Insurgentes 03900 Mexico D.F., Mexico Tel: +52 55 50.95.20.50 (ext:2276&2304) Fax: +52 55 50.95.20.28 Email: [email protected], [email protected] Website: http://www.aml.com.mx/

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-監修-

深見特許事務所

深見 久郎 (弁理士)

- 翻訳者 -

深見特許事務所

*竹内 耕三 (弁理士)

* 向口 浩二 (弁理士)

並川 鉄也 (弁理士)

本田 順一 (弁理士)

松本 浩一 

吉野  雄 (弁理士)

髙橋 洋江 (弁理士)

中村  恵 (弁理士)

大野 義也 (弁理士)

両部奈穂子 (弁理士)

藤川  順 

小澤 美香 (弁理士)

中島 由賀 (弁理士)

(*印は編者を表す)

Page 442: 編者の解説 - 競輪とオートレースの補助事業

世界の商標使用構成要件研究著者:深見特許事務所

発行日:平成 21年 4月 6日

発行:財団法人 経済産業調査会

   〒104-0061 東京都中央区銀座2丁目8番9号

   TEL 03(3535)3052 FAX 03(3535)4671

この印刷物は、競輪の補助金を受けて作成したものです。

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世界の商標使用構成要件研究著者:深見特許事務所

発行日:平成 21年 4月 6日

発行:財団法人 経済産業調査会

   〒104-0061 東京都中央区銀座2丁目8番9号

   TEL 03(3535)3052 FAX 03(3535)4671

この印刷物は、競輪の補助金を受けて作成したものです。