プライマリケアと医療倫理 臨床倫理4分割法を用いて 第2回プラ … · 臨床倫理4 分割法を用い ... 『医療倫理を考える』とは即ち、...

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北海道勤医協 総合診療・家庭医療・医学教育センター(GPMEC)

勤医協中央病院 総合診療センター

川口 篤也

2012/12/23 民医連関西臨床研修センター指導医講習会

多職種カンファレンスによる臨床倫理教育

さて本題です

倫理教育は必要なのでしょうか?

そもそも倫理って?

臨床倫理?医療倫理?生命倫理?

正直なんか面倒だな・・・

働き始めの研修医

『あの肺炎の患者さん、抗菌薬投与のルートが取れなくなったので、CVC入

れようと思うんですが、看護師が先生本当にやるんですか?と言うんです。なんで看護師はそんなこと言うんですかね。』

指導医

『あの人は95歳で、認知症あって、誤嚥も繰り返してるしね・・・』

研修医

『え、病気を治療しないんですか?』

2年目研修医

『あの誤嚥性肺炎の患者さんは、治療は終了したんですが全然食べられませんね。家族は胃瘻を希望していますが、認知症もあるしなんか胃瘻にするのも忍びない気がするんですが・・・。』

指導医

『なんで忍びないんでしょうか?』

研修医

『なんか認知症の人に胃瘻入れても予後がどうのという事も聞いたことありますし・・・』

後期研修医1年目

『70歳の肺癌stageⅣの患者さんの家族が、

本人に告知すると絶対気を落として耐えられないと言って、告知しないでくれと言うんです。患者の自律尊重の原則から絶対告知すべきと思うので、先生告知の日程どうしましょう?』

指導医

『ちょっと待て待て・・・。』

これらはすべて倫理的な問題を抱えています。

臨床倫理は特別なものではありません。われわれの日常臨床に常に存在しています。

そこに気づくかどうか、どのように対応するか、が問題です。

やはり倫理教育は必要ですかね?

このセッションの目標

倫理的問題が日常臨床のなかで常に発生

していることを理解してもらう

臨床倫理教育には多職種で行うカンファ

レンスが適していることを理解する

臨床倫理4分割法を用いたカンファレン

ス運用のtipsを持ち帰っていただく

倫理とは? zzz

倫・・・きちんと並んだ人間の間柄

⇒仲間・人間・世間

理・・・玉の筋目・模様のこと

⇒ものごとの筋道・道理

・倫理・・・

人と人とがかかわりあう場でのふさ

わしいふるまい方

Bioethics (≒生命倫理)

Bioethics

⇒生命に関わる諸問題を扱う学際的な

倫理学

安楽死、終末期医療、遺伝子治療、災害、科学技術政策etc(生命に関わる全て)

⇒特に医療に関わる分野は医療倫理

と呼ばれることもある

*ただし医療倫理の適切な英語はない

リンリンは倫理に関係有るのです

パンダは基本中国から賃借しています

フェイフェイとホアンホアンの間に産まれたユウユウを中国に送る代わりに1992年北京動物園から来た

⇒日本に所有権のある唯一のパンダだった

なんとか子供が欲しいため、2003年メ

キシコからシュアンシュアンが来園し

人工授精が試みられた(メキシコにも3度飛行機で)

擬似妊娠に終わった

2008年リンリン永眠

医療倫理(≒生命倫理)とは・・・

『医療が行われる際に守られるルール、ふさわしい行われ方』

⇒人工授精、中絶、クローン技術etc

⇒胃瘻入れるべきか、告知すべきか etc

⇒医師、看護師などの医療職、患者、家族 etc

*『医の倫理』(medical ethics)というと医師の職業倫理・・・ヒポクラテスの誓い

さらにちなみに・・・

『もはやヒポクラテスではいられない』

21世紀 新医師宣言プロジェクト

http://www.ishisengen.net/follower.html

私は、毎日の仕事の中で、あきらめそうになったり、「まあいいか」と妥協しそうになったり、望ましくない誘惑や圧力に流されそうになったり、患者さんに寄り添う心の余裕がなくなりそうになったりすることを否定しません。

そんなときには、私は以下の宣言文に立ち返ります。そして、医師として患者さんや職場の仲間とともに悩みながら、でもへこたれずに歩んでいくことを誓います。

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医療倫理はプロフェッショナリズムにもつながる

『医療倫理を考える』とは即ち、

『よりよい医療とは何か』 を考えること

それでは毎週2時間研修医に医療倫理を考える授業をしましょう

臨床倫理(clinical ethics) とは

Sieglerら

「日常臨床において生じる倫理的課題を認識し、分析し、解決しようと試みることによって患者ケアを向上させること」

∴胃瘻入れるべきか、告知すべきか etc

臨床倫理とは

日常診療の場において、医療を受ける患者、患者の関係者、医療者間の立場や考えの違いから生じる様々な問題に気付き、分析して、それぞれの価値観を尊重しながら、関係する者が納得できる最善の解決策を模索していくこと。

(白浜雅司)

白浜先生のスライドから

臨床でモヤモヤする症例を・・

一人で考えこまず

複数で、しかも多職種で

定期的に(気軽に)

定型的なツールを使って

関係者が納得できるような

方針を立てる

*研修医は当事者、参加者になって臨床倫理を学んでいく

臨床倫理4分割表による考え方

ある症例の倫理的課題を検討するため

のツールとして、以下の4つの枠の中

に問題点を入れて考えようとするもの

◦ Medical Indication(医学的適応)

◦ Patient Preference(患者の意向)

◦ QOL(生きることの質)

◦ Contextual Features(周囲の状況)

臨床倫理4分割表

医学的適応

Medical Indication

患者の意向

Patient Preference

QOL

Quality of Life

周囲の状況

Contextual Features

医学的適応

Medical Indication

患者の意向

Patient Preference

QOL

Quality of Life

周囲の状況

Contextual Features

(Beneficience,Non-malficience:恩恵・無害) チェックポイント 1.診断と予後 2.治療目標の確認 3.医学の効用とリスク 4.無益性(futility)

(Autonomy:自己決定の原則) チェックポイント 1.患者さんの判断能力 2.インフォームドコンセント (コミュニケーションと信頼関係) 3.治療の拒否 4.事前の意思表示(Living Will) 5.代理決定 (代行判断、最善利益)

1.QOLの定義と評価 (身体、心理、社会、スピリチュアル) 2.誰がどのような基準で決めるか ・偏見の危険 ・何が患者にとって最善か 3.QOLに影響を及ぼす因子

チェックポイント 1.家族や利害関係者 2.守秘義務 3.経済的側面、公共の利益 4.施設の方針、診療形態、研究教育 5.法律、慣習 、宗教 6.その他 (診療情報開示、医療事故)

医学的適応 1.患者の医学的な問題点、病歴、診断、予後はど

うか

2.急性の問題か慢性の問題か、重篤か、救急か、

回復可能か

3.治療の目標は

4.成功の可能性は

5.治療に失敗した時の対応は

6.総じて、医学治療と看護ケアでこの患者は恩恵

を受け、害を避けられるか

事実と価値を区別する 客観的に医学的事実を明らかにする

例)目の前の患者さんと同じような人に

胃瘻を作った時の予後は?

⇒良質なデータがあれば事実

胃瘻や人工呼吸器はなんとなく良くないもの

⇒これは価値

医学的無益=患者にとって無益

とは限らない

ここに時間をかけ過ぎない!

医学的適応検討のポイント

わかっている事実を示す

ここに価値は入れない

ここで医師間で空中戦をしない

⇒事前に医師間で相談しているとスムーズ

他の職種の医学的疑問を出してもらう

ここで方針を決めない!

患者の意向 1.患者がどのような治療をしたいと述べたか

2.患者は利益とリスクについて情報を与えられ、理解し、同意したか

3.患者の精神的対応能力、法的判断能力は?判断能力がないという根拠は

4.事前の意思表示があったか

5.判断能力がないとしたら、代理決定は誰が?適切な基準を用いているか

6.患者は治療に協力しようとしないのかできないのか?もしそうならなぜ

7.総じて、倫理的法的に許される限り患者の選ぶ権利が尊重されているか 患者が意思表示できたらどう考えるか?

を家族に考えてもらう

周囲の状況 1.治療の決定に影響を与える家族の問題があるか

2.治療の決定に影響を与える医療提供者(医師・看護師)側の問題があるか

3.財政的、経済的な問題があるか

4.宗教的、文化的な問題があるか

5.守秘義務を破る正当性があるか

6.資源の不足の問題があるか

7.治療決定の法的な意味合いは

8.臨床研究や教育の問題があるか

9.医療提供者や施設間の利益上の葛藤があるか

患者の意向、周囲の状況は・・

看護師、SWなどの職種が力を発揮する

⇒研修医に自分一人だけが把握している情報は少ないことを認識してもらう

チームを信頼し、頼ることを学んでもらう

患者の意向、周囲の状況を知ることが医療の

QOL

1.治療した場合としなかった場合の患者がもとの

生活にもどる可能性は

2.偏見を持った評価者が患者のQOLにバイアスを

かけてみることはないか

3.治療が続けば、患者がどのような身体的、精神

的、社会的不利益を被るか

4.患者の現在や将来の状態は、患者が耐えがたい

と判断するようなものか

5.治療を中止する考えやその理由づけはあるのか

6.患者を楽にする緩和的ケアの予定は

臨床倫理4分割表

医学的適応

Medical Indication

患者の意向

Patient Preference

QOL

Quality of Life

周囲の状況

Contextual Features

QOLを上げるのか下げるのか?

M→P→C と検討し、この方針がQOLを上げるの下げるのかの観点で検討

QOLは患者だけではなく、家族、医療者のQOLを上げるのかも考慮する

(患者の満足度)×(家族の満足度)×(医療者の満足度)

が最大になるように

*どこかが マイナスであればすべてマイナス

最後にNext Stepを書く

誰が、いつまでに、何をするのか

すっきりした方針が決まらなくても、何の情報が不足しているのかわかる

⇒これも立派な方針

⇒いつまでに、誰がその情報を集める か決める

それでは最後のWSです

WSの注意点

医師、看護師、リハビリ技師(PT,OT,ST),薬剤師、SWに割り振りしました

今から名札と各職種のシナリオを配ります

他の職種の人にはシナリオを見せないでください

各職種の一番上にある先生が、その職種の中で最初に発言して下さい

WS注意点

多少情報は作っても構いません

各職種でメインではない人も隙を見つけて発言して下さい

最終的にこの方のQOLを考える際には、自分が思うことを話してください

カンファレンスがスタートしたらすべてファシリテーターに任せてください

とにかく温かい雰囲気で!!

カンファレンス運営のtips

カンファレンスの準備

カンファレンスを導入するときには、緊急なことやわかりやすいことから事例を選ぶ ◦ 胃瘻造設の適否、DNARの是非など

出来る限り目的を明確にしておく ◦ 「〇〇さんの今後」よりも「〇〇さんの今後の療養先はどこが適切か」

カンファレンスの数日前に事例を決めて、それまでに各職種で情報を収集することに努める

カンファレンスの準備

参加者の確保

◦ できるだけ多職種で行うことが望ましい

◦ 医師、看護師、リハビリ技師、薬剤師、ケアワーカー、ケアマネージャー、ソーシャルワーカーなど(実状に合わせて)

多職種で目の付け所、価値感など違う

・いろんな視点を学ぶとともにチームビル

ディングにもなる

・多職種のやりがいにもつながる

カンファレンスの進行

ルールの確認

◦ 決して非難しないことをあらかじめ確認して、安全な環境であることを理解してもらう。

No blame culture

◦ 魔法のツールではないことも確認しておく

難しい問題はやはり難しい

問題の共有、方針の確認が大切

カンファレンスの進行

カンファレンスにかける時間

◦ 30~40分

◦ 関係者が納得して進むためにはある程度の時間が必要

◦ 時間の節約のために

カンファレンスが始まる前に、ホワイトボードに情報を書きこんでおく(MとP、できればCのところまで)

医学的適応は医師の間で詰めておく

・司会と書記は別にする!

カンファレンスの進行

ファシリテーター・司会は誰が適任か

◦ 導入するときは最もカンファレンスを理解している人

◦ 白浜先生は、「しっかり言語化出来る看護師さんがいれば、その方がやるのが最も良い」と言っていました。

◦ われわれは

当初は指導医、その後看護主任、今は後期研修医に司会をしてもらっています

司会心得

その症例を知らなくて構いません

一番気にするのは時間です!

ルールの確認と雰囲気作り

一人一回は発言を促す

適宜まとめる

*基本4分割法の時間配分を知っていれば通常のファシリテート技術です

良いカンファレンスにするために

いかに意見を出してもらうか

◦ 指導医が迷っている姿を見せることも大切

◦ 導入時期は指導医が事例を提示するのも良い

◦ 普段から意見を言いやすい環境づくり

◦ No blame culture

◦参加者全員に役割を与える

◦⇒発言する順番も意識する

◦対立ではなく共に同じ方向を向く

臨床倫理の検討のアウトカム

• 臨床倫理的な問題点への気付きを促す

• 気付いた倫理的問題を自分なりに考えてみようとする

• 他の人と一緒に話し合うことで、新たな対応方法が見えてくるという経験

• 一度に解決できずとも、一緒に考えた上での対応は、状況を少しでも好転させ、次も考えてみようという力になる

白浜先生のスライドから

ニーバー牧師の祈り

主よ、

変えられないものを

受け入れる心の静けさと、

変えられるものを

変える勇気と、

その両者を見分ける

英知を与えたまえ。 アーメン

白浜先生のスライドから

参考文献

白浜雅司先生のホームページ

http://square.umin.ac.jp/masashi/discussion.html

日本生命倫理学会ホームページ

http://ja-bioethics.jp/index.html

入門・医療倫理1 赤林朗[編]

Google 先生

パンダ館へようこそ ホームページ

http://www.panda-kan.com/

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