低周波パラメトリック超音波を使った音響イメージ …非線形音響研究会資料(17-5) 低周波パラメトリック超音波を使った音響イメージング
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非線形音響研究会資料 (17-5)
低周波パラメトリック超音波を使った音響イメージング ∗
野村 英之 (電気通信大学)
1 はじめに
数百 kHz の低周波超音波を用いたイメージングは距離分解能が悪くなる問題があるが,深達度の改善されたイメージングや骨など硬組織の生体組織診断において新たな手法として期待される [1, 2, 3].そこで,我々は低周波数であるにもかかわらず,指向性が比較的鋭いパラメトリック超音波 (パラメトリックアレイ,パラメトリック音源)[4, 5]の利用が有効である.低周波パラメトリック超音波を利用すれば,比較的指向性のよいの数サイクルの低周波パルスの生成が可能とも考えられる.しかしながら,パラメトリック音源は音波の非線形伝搬を利用する 2 次的効果のため,信号レベルが低く,十分なレベルのエコーが得られない可能性がある.そこで,我々は低周波パラメトリック超音波へパルス圧縮技術を応用し,距離分解能や信号レベルの改善や,距離計測への応用 [6, 7],さらに,単一散乱体を対象に低周波超音波イメージングの検討を行い,その実現性も示してきた [8].本報告では,提案方法の距離及び方位分解能検討,さらに高周波超音波イメージングとの比較を行うことを目的とする.
2 原理
パルス圧縮低周波パラメトリック超音波を利用した超音波イメージングの原理は次のとおりである.
(1) 音源駆動: 低周波パラメトリック超音波がチャープ変調されたトーンバースト信号になるように,変調信号で送波用音源を駆動する.
(2) エコー受波: ターゲットから反射されてきたチャープ変調低周波パラメトリック超音波エコーを受波する.
(3) パルス圧縮処理: 受波エコーと参照信号の相互相関関数を計算することでパルス圧縮処理を行う.参照信号は生成が期待される低周波パラメトリック超音波信号
∗ Acoustic imaging using by parametric sound at low fre-
qeuncy, by Hideyuki Nomura, The University of Electro-
Communications, E-mail: h.nomura@uec.ac.jp
����
Transducer�
Hydrophone�
(a)�
Transducer�
Hydrophone�
(b)�
Fig. 1 Imaging probe. (a) A ring transducer as a
transmitter and a hydrophone as a receiver. (b) A
probe is composed of the ring transducer and the
hydrophone which is inserted into the center hole of
the transducer.
とする.(4) 圧縮パルス信号: 圧縮された低周波パラメトリック超音波エコー (相互相関関数)のピーク位置とレベルが,ターゲットの位置と音響的な特徴,すなわち周囲媒質とターゲットの音響インピーダンス密度比,を示す.
(1) から (4) の処理を電子的,もしくは機械的に超音波の放射方向を走査しながら行えば,物体内部の画像化が可能である [8].低周波パラメトリック超音波のパルス圧縮パラメトリック差音については文献 [6] に述べられているので,ここではその詳細を省略する.
3 超音波波形観測
3.1 実験方法今回,超音波イメージングに使用する超音波振動子は
Fig. 1(a)で示されるような,平板リング型振動子である.この振動子の共振周波数は約 2.8 MHz,また素子は外径25.4 mm,内径 8.5 mmである.高周波超音波は音源をパルサ/レシーバで駆動したパルス音波とする.パラメトリック超音波はパルス圧縮を行うためにチャープ変調された信号を用いた.チャープ変調低周波パラメトリック超音波は掃引開始周波数が100 kHz,掃引終了周波数が 500 kHz,すなわち掃引帯域幅が 400 kHz となるように変調した中心周波数 2.8 MHz
の信号で音源を駆動する.このとき,掃引時間は 10 周
−10 0 10 20 30 40 50
Relative time (μs)
−1.5−1.0−0.50.00.51.01.5
Nor
mal
ized
sig
nal
(a)
−10 0 10 20 30 40 50
Relative time (μs)
−1.5−1.0−0.50.00.51.01.5
(b)
−10 0 10 20 30 40 50
Relative time (μs)
−1.5−1.0−0.50.00.51.01.5
(c)
Fig. 2 Observed ultrasound at 16 cm from the source on the beam axis. Waveform (a) is high-frequency
ultrasound pulse of the center frequency of 2.8 MHz, (b) and (c) are chirp modulated low-frequency parametric
ultrasound and low-frequency parametric ultrasound applied by pulse compression, respectively. The thin
curve in (c) indicates the envelope of the compressed signal.
期のチャープ信号が生成されるように約 33.3 µs とした.チャープ変調パラメトリック差音生成については文献 [6]
に詳細が述べられているので,ここでは割愛する.3.2 観測波形受波音圧波形を Fig. 2に示す.(a)の高周波超音波は短いパルス波形を示す.(b) のチャープ変調された低周波パラメトリック超音波から,瞬時振幅が時間に依存し,時間の経過とともに増大することがわかる.このようなチャープ信号のままでは信号長が長いため,距離分解能が悪い.そこでパルス圧縮処理を適用することで,距離分解能と SNRを改善する.前述したチャープ変調差音信号をコンピュータで圧縮処理した結果を Fig. 2(c)
に示す.このパルス圧縮処理で信号長が短縮され,分解能改善につながるといえる.
4 超音波イメージング
4.1 実験方法距離分解能確認ため,音波の放射方向に沿って直線状に配置した 5 本のターゲット (Fig. 3(a)) の超音波画像を取得した.ターゲットの中心間距離は音源に近いほうから 3,
4, 5, 6 mm とした.最も音源に近いターゲットの中心と音源間距離は 16 cm に設定した.また,方位分解能確認のため,音波の放射方向に直交する方向に並べた 2本 1組のターゲットを 4 組並べた (Fig. 4(a)).2 本のターゲットの間隔は 4, 10, 18, 28 mm とした.距離分解能評価と同様に,最も音源に近いターゲットの中心と音源間距離は16 cmに設定した.高周波超音波イメージングで,超音波の送波は Fig. 1(a)
のリング型超音波振動子を使用し,パルサ/レシーバで駆動した.受波は送波と同じ振動子で行い,エコー信号をコ
ンピュータへ取り込み,超音波画像を構成した.パラメトリック超音波イメージングでは,Fig. 1(a)で示されるリング型送超音波振動子を送波に,ハイドロホンを受波に用いた.Fig. 1(b)に示すように,ハイドロホンを送波用振動子内に挿入して一体型プローブとして用いた.このときの駆動信号は 3.2節のチャープ変調差音生成信号と同一である.受信エコー信号にコンピュータでパルス圧縮処理を行った後,画像を構成した高周波,低周波超音波イメージングともに,振動子は音波の放射に対して直交した方向に水平走査した.その走査範囲は 4 cmで,走査間隔は 0.5 mmとした.4.2 超音波イメージと分解能評価距離分解能評価のために取得された超音波画像を Fig. 3
に示す.これらの超音波画像はエコー信号の包絡から構成されている.音軸方向距離はエコーの遅れ時間と水中音速から換算した.(a) の高周波超音波画像の場合はいずれのターゲットの像も正しい表面位置を示している.ただし,音源に最も近い散乱体は鮮明に画像化されているが,その後方は画像強度が急激に減衰するため,不鮮明になっている.使用超音波が高周波であるため,直線状に配置されたターゲット背後まで超音波が回り込めないため,このような傾向になるものだと考えられる.次に (b)の低周波パラメトリック超音波画像を見る.高周波超音波の場合と異なり,複数の像が得られている.すなわち,物体背後のターゲットも条件によっては画像化が可能と推測される.高周波超音波に比べると,どうしても像が距離方向に伸びてしまうが,およそ正しいターゲット表面位置を示している.ただし,音源側から 3本目と 4
本目の間に本来存在しない像が出現している.これはターゲット間の多重反射や回折の影響と考えられる.
2
14 15 16 17 18 19 20
Range distance (cm/div)
−2
−1
0
1
2
Late
ral d
ista
nce
(cm
)
(a)
−2
−1
0
1
2
Late
ral d
ista
nce
(cm
)
0.0
0.5
1.0
14 15 16 17 18 19 20
Range distance (cm)
0.0
0.5
1.0
Nor
mal
ized
ampl
itude
(b)
−2
−1
0
1
2
Late
ral d
ista
nce
(cm
)
0.0
0.5
1.0
14 15 16 17 18 19 20
Range distance (cm)
0.0
0.5
1.0N
orm
aliz
edam
plitu
de
(c)
Fig. 3 Obtained ultrasound images. (a) Five targets of 2-mm in diameter are linearly aligned. (b) and (c)
are obtained images by the high-frequency ultrasound pulse and the compressed low-frequency parametric
ultrasound, respectively. The top and bottom figures in (b) and (c) are B-mode image and A-mode image
along the dotted line, respectively. B-mode images are constructed by the normalized amplitude of echo
signal. Gray zones in the A-mode indicate the ideal target position.
掃引帯域幅 B のチャープ波を用いたパルス圧縮の場合,音速を cとすると距離分解能は c/(2B)となる.本実験では B = 400 kHzであるので,距離分解能は約 2 mmとなる.今回,最小距離 3 mm (表面距離で 1 mm) の 2 本のターゲットを分離する画像が得られたので,距離分解能に関してはほぼ理論取りの特性が得られた.方位分解能評価のために取得された超音波画像を Fig. 4
に示す.(a) の高周波超音波画像は比較的ターゲットの分離がされており,音源から 3組目の間隔 10 mmが分離されている.一方,(b) のパラメトリック超音波画像はターゲットの分離が難しく,音源から最も遠くの間隔 28 mm
の組がわずかに分離されている.ビーム幅が約 1.5 cm であることから,このような結果になったと思われる.
5 結論
我々が提案しているパルス圧縮技術を適用した低周波パラメトリック超音波イメージングについて,水中に真鍮棒を対象に,数百 kHzの低周波パラメトリック超音波を用い
た距離及び方位分解能の実験的評価を行った.取得した低周波超音波画像をから,距離方向はほぼ理論通りの最小距離 3 mmの物体を分離することができた.さらに数MHz
の高周波超音波パルスを用いた超音波画像と比較を行ったところ,高周波超音波では困難であった,重なり合った背後の物体の画像も得られた.このことは,低周波超音波イメージングは高周波超音波に比べ,得られる画像は拡がってしまうものの,互いに重なり合う物体の画像化が可能となる特徴を持っていることを示唆する.一方,方位分解能は約 3 cm程度以上の値であった.これらについては,合成開口技術を適用するなどして改善を試みたい.
謝辞
本研究の一部は科学研究費補助金 (基盤研究 (C)
16K06380) 及び文部科学省地域イノベーション戦略支援プログラムの助成によって行われた.
3
14 15 16 17 18 19 20
Range distance (cm/div)
−2
−1
0
1
2
Late
ral d
ista
nce
(cm
)
(a)
−2
−1
0
1
2
Late
ral d
ista
nce
(cm
)
0.0
0.5
1.0
14 15 16 17 18 19 20
Range distance (cm)
0.0
0.5
1.0
Nor
mal
ized
ampl
itude
(b)
−2
−1
0
1
2
Late
ral d
ista
nce
(cm
)
0.0
0.5
1.0
14 15 16 17 18 19 20
Range distance (cm)
0.0
0.5
1.0N
orm
aliz
edam
plitu
de
(c)
Fig. 4 Same as in Fig. 3 except that targets are arranged in V shape.
参考文献
[1] P. Lasaygues and J. P. Lefebvre, “Cancellous and
cortical bone imaging by reflected tomography,” Ul-
trason. Imaging, 23, 55–70 (2001).
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V. Kilappa, J. Timonen, M. Talmant, S. Cheng, and
P. Laugier, “Comparison of three ultrasonic axial
transmission methods for bone assessment,” Ultra-
sound in Med. & Biol., 31, 633–642 (2005).
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ward model and conjugate gradient inversion tech-
nique for low-frequency ultrasonic imaging,” J.
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Clement, “Feasibility of low-frequency directive
sound source with high range resolution using pulse
compression technique,” Jpn. J. Appl. Phys., 53,
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tance measurement using pulse compressed paramet-
ric sound at difference frequency,” Proc. of Forum
Acusticum 2014, edited by B. Borkowski.
[8] H. Nomura, H. Adachi, and T. Kamakura, “Feasibil-
ity of low-frequency ultrasound imaging using para-
metric sound,” Proc. of 20th ISNA, AIP CP 1685,
040018 (2015).
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