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2014.11 金属資源レポート 35(392)

白金族金属(PGM)のマテリアルフロー—安定供給上の課題—

金属企画部鉱種戦略チーム 磁石・触媒グループ 奥村 維男

増田 一夫初谷 和則門 泰之

はじめに 白金族金属(PGM:Platinum Group Metals。プラチナ:Pt、パラジウム:Pd、ロジウム:Rh、イリジウム:Ir、ルテニウムRu、オスミウム:Osの6鉱種の総称)の中で、特に需要量が多いプラチナ及びパラジウムは、自動車排気ガス浄化触媒(以下、「自動車触媒」という。)として必要不可欠な材料であるほか、石油精製触媒、電気・電子デバイス、ガラス製造るつぼなどの産業上の用途において重要な鉱種であり、また、宝飾品としての価値も高い。しかし、我が国では原料の主要な供給先として南アフリカやロシアなどの特定国に頼らざるを得ない状況にあり、安定供給の観点においてリスクが高い鉱種の一つとして認識されている。 金属企画部 鉱種戦略チーム 磁石・触媒グループでは、平成25年度にプラチナ及びパラジウムに焦点を当て、需給をはじめとする統計データや公表資料を中心に現状を取りまとめると共に、関連業企業へのヒアリングを通じて情報収集を行った。 本報告では、世界におけるプラチナ及びパラジウムの供給動向を概観しつつ、PGM生産企業の最近の動きに焦点を当てると共に、特に需要分野として重要な自動車産業の現状を中心に動向を取りまとめた。また、これら需給動向の現状から安定供給上の課題を国内需給のマテリアルフローにより整理した上で、安定供給に向けたJOGMECとしての支援策について言及したい。

1. 需給状況(1)供給 直近10年におけるプラチナ供給量の推移を、図1に示す。2013年のプラチナ供給量(リサイクル含む)は243tであり、南アフリカからの供給が全体の53%を占めている。2012年は南アフリカでの労働争議、特に8月のMarikana鉱山(Lonmin社保有)での混乱に伴う一連のストライキの影響により、同国からの供給量が減少、2013年も不安定な状況は変わらず、2年連続の減産となっている。一方、ジンバブエでは2008年までは年間5t程度の供給量しかなかったものの、Zimplats社の第二次拡充プロジェクトの本格化等により、ここ数年は増加傾向にあり、2013年は12.4tが供給された。リサイクルについては、2011年まで増加傾向にあったが、直近3年は65t弱でほぼ横ばいとなっている。 直近10年におけるパラジウム供給量の推移を、図2に示す。2013年のパラジウム供給量(リサイクル含む)は276.5tであり、ロシアが全体の30%、南アフリカが26%であり、2か国で供給量の半分以上を占める。2011年は、前年に24.1tあったロシアの国家備蓄放出量が8.1tへと大幅に減少し、2013年には3.1tとさらに減少傾向が続いたことから、全体の供給量に対し大きな影響を与えている。リサイクルは、自動車触媒からの回収が年々増加傾向にあり、2013年はリサイクルの約76%に当たる57.9tが自動車触媒からの回収であった。 以上から、プラチナの供給は南アフリカの生産動向に、パラジウムはロシア、特に国家備蓄放出の動向に影響を受けると言える。

レポート

白金族金属(PGM)のマテリアルフロー

―安定供給上の課題―

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2014.11 金属資源レポート36(393)

(2)需要 直近10年におけるプラチナの地域別(中国、欧州、北米、日本及びその他)需要量の推移を図3に、プラチナの用途別需要量の推移を図4に、また、用途別需要で全体の約37%を占める自動車触媒の需要量を地域別に表したものを、図5に示す。さらに、約33%を占める宝飾品の需要を地域別に表したものを、図6に示す。2013年の全体需要量の約28%を占める中国に着目すると、主として宝飾品需要の増加が同国の需要量増加に寄与しており、自動車触媒需要はごく少量であること

がわかる。また、全体需要量の約21%を占める欧州では、自動車触媒需要が需要全体の7割以上を占めている。これは欧州では触媒にプラチナを主体として使用するディーゼル車が広く普及しているためであるが、後述のとおり近年のディーゼル車市場は低迷しており、需要量は減少傾向にある。また、2013年にはその他地域の需要が大きく増加しているが、これは主に南アフリカのアブサ(Absa Corporate and Investment Bank)によるプラチナ上場投資信託(ETF)が開始されたことによる。

出所:Johnson Matthey 「PLATINUM」

出所:Johnson Matthey 「PLATINUM」

出所:Johnson Matthey 「PLATINUM」

出所:Johnson Matthey 「PLATINUM」

出所:Johnson Matthey 「PLATINUM」

出所:Johnson Matthey 「PLATINUM」図1. プラチナの供給量推移

図3. プラチナの地域別需要量推移

図5. 自動車触媒に関するプラチナの地域別需要量推移

図2. パラジウムの供給量推移

図4. プラチナの用途別需要量推移

図6. 宝飾品に関するプラチナの地域別需要量推移

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白金族金属(PGM)のマテリアルフロー

―安定供給上の課題―

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出所:Johnson Matthey 「PLATINUM」

出所:Johnson Matthey 「PLATINUM」

出所:Johnson Matthey 「PLATINUM」

 また、直近10年におけるパラジウムの地域別需要量の推移を図7に、パラジウムの用途別需要量推移を、図8に示す。さらに、用途別需要で全体の約72%を占める自動車触媒の需要量を地域別に表したものを、図9に示す。地域別の需要では北米が最も多いものの、年ごとの需要量変化が大きい。これは投資分野において、2010年に米国市場上場のパラジウムETFの発売と

ロシア国家備蓄放出量の減少観測等によりパラジウムETFが急増したことと、2011年に多くの投資家がポジション清算のため大量のパラジウムETFを売却したことによる。また、第3章にて詳細を後述するが、中国では近年自動車生産台数が大幅に伸びており、これに比例しパラジウムの自動車触媒需要も大幅な伸びを記録している。

2. PGM生産企業の動向 前章では、需要状況の概要を述べたが、本章ではPGM生産企業の動向と最近の南アフリカにおける労働争議による影響について着目してみたい。 プラチナの各企業別生産量(2012年)を、図10に示す。プラチナについては、2012年生産量168.5tのうち、78.7tを南アフリカのAnglo American Platinum社が生産しており、全体の47%を占めている。次いで、Impala Platinum社(南アフリカ)の26.9t(16%)、ロシアのMMC Norilsk Nickel OJSC社の21.2t(13%)、Lonmin社(南アフリカ)の21.1t(13%)と続いており、上位4社でプラチ

ナ生産量の約89%を占めている。 パラジウムの各企業別生産量(2012年)を、図11に示す。パラジウムについては、2012年生産量187tのうち84.9tをMMC Norlisk Nickel OJSC社(ロシア)が生産しており、全体の45%を占めている。次いで、Anglo American Platinum社(南アフリカ)の44.5t(24 %)、Impala Platinum社(南アフリカ)の17.9t(10%)、米国のStillwater社が12.3t(6%)、Lonmin社(南アフリカ)の9.7t(5%)と続いており、上位5社でプラチナ生産量の約90%を占めている。

図7. パラジウムの地域別需要量推移

図9. 自動車触媒に関するパラジウムの地域別需要量推移

図8. パラジウムの用途別需要量推移

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白金族金属(PGM)のマテリアルフロー

―安定供給上の課題―

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2014.11 金属資源レポート38(395)

 以上から、プラチナ及びパラジウムの生産については、南アフリカのAnglo American Platinum社、Impala Platinum社及びLonmin社のいわゆるPGM生産大手3社に、ロシアのMMC Norilsk Nickel OJSC社を加えた4社の寡占状態にあると言え、特に南アフリカの大手3社に注目してみると、同3社によるプラチナの生産量は126.7t(76%)、パラジウムの生産量は72.1t(39%)になり、特にプラチナの生産について圧倒的なシェアを握っていると言える。

 ここで、南アフリカにおける2014年のPGM生産動向について見てみると、最も大きな影響を与えたのが、鉱山労働者建設組合連合(AMCU)によってPGM生産大手3社に対して行われた労働争議である。この労働争議は2014年1月23日に開始され、その後、政府仲介による複数回の交渉が行われたものの不調に終わって

Amplats、Implats Lonmin基本給 12,500ZAR/ 月未満の労働者

1 〜 2 年目:+ 1,000ZAR/ 月  3 年目:+ 950ZAR/ 月 1 〜 3 年目:+ 1,000ZAR/ 月

基本給 12,500ZAR/ 月以上の労働者

1 〜 2 年目:+ 8%/ 年  3 年目:+ 7.5%/ 年

  1 年目:+ 8%/ 年2 〜 3 年目:+ 7.5%/ 年

いたが、最終的には、これら大手3社が提示した今後3年間の賃金条件についてAMCUが合意したことにより、労働争議は2014年6月24日に終結した(表1)。この労働争議によって、同3社の賃金コストは10~20%上昇するとみられており、収益の悪化は避けられない状況となった。そのため、2014年7月21日にAnglo American Platinum社は、経営再建にあたってUnion鉱山、Rustenburg鉱山、Pandora鉱山の売却を計画していると発表した。同社は、今回の労働争議によってプラチナの生産で44万oz(約13.6t)の生産減を計上したため、鉱山資産のポートフォリオを見直し、利ざやが高く、低コストの鉱山資産に専念することを決定した。PGM生産大手3社の2014年1~3月期のプラチナ生産状況を、図12に示す。3社とも前年同月比で大幅な減産となっており、特にLonmin社は67.8%の大幅な減産となり、大打撃を被った。

出所:各社HP

出所:各社HP

1ZAR=約11.29円(2014年9月平均)

出所:各社HP

表1. 南アフリカPGM生産大手3社による労働争議における賃金条件

図12. 南アフリカPGM生産大手3社の2014年1~3月期におけるプラチナ生産量

図10. プラチナの各企業別生産量(2012年) 図11. パラジウムの各企業別生産量(2012年)

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3. 自動車触媒におけるPGM需要の動向 プラチナ及びパラジウムの需要のうち、前者は約4割、後者は約7割が自動車触媒向けであることは前述のとおりであるが、本章では世界における自動車関連分野のプラチナ及びパラジウムの需要動向について触れてみたい。

(1)世界の自動車生産台数 2004~2013年における世界の自動車生産台数を、図13に示す。 2004年以降の10年間で世界の自動車生産台数は約1.4倍に増加し、2013年には前年より3.7%増加して8,730万台となった。特に中国では、経済の安定成長及び所得水準の向上による新規購入や購入制限の導入に備えた駆け込み需要等により、前年比14.8%増の2,200万台強に達したことが、世界全体の生産台数を押し上げる大きな要素となった。中国自動車工業協会では、今後5~10年の同国自動車市場は8~10%の伸び率により、安定的な拡大が継続すると予測している。

出所:OICA(国際自動車工業連合会)

また、同年の北米での生産台数も1,340万台強と、前年比で5.0%の増加となり、金融危機前の水準を上回った。一方、欧州29か国における生産台数は前年比0.5%減の1,972万台となり、欧州債務危機に伴う緊縮財政などが影響し、2011年以降減少傾向に転じている。今後の見通しとしては、需要回復までにはまだ時間を要するものと予測されており、2012年に新たに導入されたCO2の排出規制(平均排出量を120g/kmに抑える)の影響もあり、小型化・軽量化が一層進むと見られている。 日本国内における生産台数は、リーマンショックの影響や東日本大震災の影響により、2009年や2011年には1,000万台を割り込んだものの、2012年にはエコカー補助金や減税効果による新車販売の下支えや東日本大震災の復興需要により、一時的な回復傾向が見られた。しかし、2013年には前年の反動減が現れたほか、メーカー各社が為替変動リスクを回避するために海外での現地生産を強化していることが国内生産量を押し下げる原因になっており、前年比約3.2%減の963万台にとどまった。

(2)プラチナ及びパラジウムの需要 欧州、北米、日本及び中国における自動車生産台数とプラチナ及びパラジウムの使用量の推移を、図14に示す。 自動車触媒におけるプラチナとパラジウムの使用に関しては、自動車の内燃機関の種類によって使用する貴金属が異なっており、ガソリン車では1983年に当時の排ガス規制に対応して三元触媒(プラチナあるいはパラジウム触媒によりCOやHCを酸化すると同時に、ロジウム触媒によりNOXを窒素と酸素に還元)が開発され、当初は酸化反応においてはプラチナが使用されていたが、1990年代にプラチナの価格が相対的に高くなると、プラチナからパラジウムへの代替が進んだ。2000年初頭にはパラジウム価格の上昇に加え、ロシアからの供給不安によって一時はプラチナに戻る動きがあったものの、パラジウムの価格低下に伴いプラチナ

との価格差が拡大したことで再度パラジウムに回帰し、その後も代替が進んでいる。このことから、特にガソリン車が市場の大半を占める北米や中国では、相対的にプラチナよりもパラジウムの使用量が多い傾向にあり、両者の差は2009年のリーマンショック以降の自動車生産台数の増加に伴って益々開く傾向にある。一方、日本国内市場でのプラチナの需要に関しては、依然として三元触媒でのプラチナ使用量が北米等の他の地域と比較して多いことに加え、大型ディーゼル車の国内需要が回復したことに伴い、後述のプラチナディーゼル酸化触媒(DOC)やディーゼル微粒子捕集フィルター(DPF)に使用されるプラチナが増加する傾向にある。また、大型ディーゼル車の主要な輸出先である米国における排ガス規制強化(2010年)により、選択式触媒還元(SCR)によるNOX除去やアンモニアスリップ触媒(ASC)による余剰アンモニアの酸化のためにプ

図13. 2004~2013年における世界の自動車生産台数推移

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2014.11 金属資源レポート40(397)

ラチナが用いられていることなどが背景にあることから、パラジウムとの使用量の差は北米等の他の地域ほど大きくない。 一方、ディーゼル車ではプラチナを主体とするDOCによりCOやHCを処理しているが、パラジウムはSOXに代表される触媒毒に対する耐性が低く、化学吸着特性が高いために触媒表面に安定的なSO2吸着層が形成されて排ガスの浄化反応が抑制されてしまうことから、ガソリン車ほどパラジウムへの代替は進んでいない。ディーゼル車では、DOCによるCOやHCの酸化反応プロセスの後に、煤をCO2と水に変えて触媒の粒

子状物質を捕集するDPFの酸化反応プロセスにおいてプラチナやパラジウムが使用されるほか、DPFの耐熱性を向上させ高温環境下での再生を進めるにあたって、パラジウムが必要な貴金属とされている。ディーゼル車市場の牽引役であった欧州では、2009年のリーマンショック前まではディーゼル車用触媒に使用されるプラチナが全体需要量の約70%を占めてきたが、2009年以降はパラジウムへの代替が進んだことに加え、低価格・低燃費のガソリン車需要へのシフトによる小型ディーゼル車市場の低迷により、プラチナ需要は減少傾向にある。

 欧州では、2012年にCO2の排出規制が導入されたのは前述のとおりであるが、更なる技術革新を前提に、2020 年には95g/kmとする長期目標を掲げているほか、日本でも2015年までに燃費を16.8km/L、CO2排出量換算で137.5g/km に低減する燃費基準が示されている。PGMの使用量削減や代替については、世界の自動車業界にて技術開発が進められているものの、これらの規制に対応するには、技術的には限界に近づいてきているとの声がある一方で、燃費基準に対応するためにはハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)の導入による販売拡大が不可欠という共通的な認識ができつつある。環境意識の高まりに加え、こうした燃費規制の強化が環境性能に

優れた次世代車の開発を加速させる大きな要素となっている。 次世代車の開発の観点で言えば、最近では燃料電池車(FCV)の市販に向けた動きが加速しており、トヨタ自動車株式会社では2014年度中に4ドアセダンの販売を開始する予定としているほか、本田技研工業株式会社でも2015年までに市場への投入を計画しており、さらには小型・軽量を狙った次世代型燃料電池システムと水素貯蔵システムに関して、2020年頃の実用化に向けてGMと共同開発を行うこととしている。これらの動きと相まって、自動車メーカーや石油・ガス会社など11社は2015年までに商用の水素ステーションを100か所設置する目標を掲げており、政府もステーション

出所:Johnson Matthey 「PLATINUM」、OICA(国際自動車工業連合会)

図14. 欧州、北米、日本及び中国における自動車生産台数とプラチナ及びパラジウムの使用量の推移

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白金族金属(PGM)のマテリアルフロー

―安定供給上の課題―

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2014.11 金属資源レポート 41(398)

出所:JOGMEC「鉱物資源マテリアルフロー2013」、各社HP

の建設を後押しするために補助金を交付しているほか(2013~2014年度の補助金交付件数は42件)、水素の配管・保管タンクの材質や立地に関する規制緩和によってこの動きを後押ししており、普及に向けた体制が整備されつつある。現状において、燃料電池の触媒電極には数10g単位のプラチナが使用されているとされており、FCVの普及状況によってはプラチナの需給バランスに影響を与えるともいわれているが、水素ステー

ションの設置には1か所当たりの建設費として4~5億円が必要とされ、ガソリンスタンドの建設費(1億円)を大きく上回るなどといった建設費の問題や、ガソリンスタンドと比較して広い敷地面積が求められる(燃料補給器と公道との距離は6m以上と定められている(ガソリンスタンドの場合は4m以上))などの法規制があり、FCVの普及にはまだ時間を要するとの見方を示す業界関係者も多い。

Anglo, 35.2

Implats, 19.7

Lonmin, 14

その他, 18.5

単位:百万t

南アの白金族鉱石生産量(2012年)

Anglo, 44.5

Implats, 17.9

Lonmin, 9.7

Heraeus, 2.5

南アのプラチナ地金生産量(左)及びパラジウム地金生産量(右)

(2012年)

Anglo, 78.7

Implats, 26.9

Lonmin, 21.1

Heraeus, 5.6

【地金輸入元】

Pt:南ア 80%

Pd:南ア 45%、ロシア 40%

Pt Pd単位:t

ボトル

ネック

南アの製錬・精錬所は4社のみ

(大手3社で95%以上を生産)

供給上のリスク

・ストライキ

・コスト高

・資産売却

4. PGMのマテリアルフローと今後の展望 関係企業からの聞き取りや既存資料等より作成したPGMの国内需給のマテリアルフローを、図15に示す。

 まず、供給フローについては、3~4割は自動車触媒・宝飾品などのリサイクル原料を起源としているものの、それ以外は海外(主に南アフリカやロシア)より輸入される地金に依存している。前述したとおり、最大の供給国である南アフリカのPGM生産大手3社は、労働争議や生産コスト増などの安定供給を阻害する課題を抱えており、PGM鉱山からの供給はこれらの不安定な要素に直面しており、大きなリスクをはらんでいると言える。 次に、需要フローについて整理すると、PGMを最も多く消費する自動車産業に関しては、近年は世界的な景気減速による生産台数の低迷と、三元触媒のPGM削減・代替により、PGM消費量は横ばい傾向が続いているが、排ガス規制の強化の動きや新興国を中心とする新車販売の増加を背景とし、PGM需要は堅

調に推移していく過程にあると考えられる。自動車の製造拠点については、国内から海外へのシフトが進んでいるものの、将来の燃費基準に対応できる次世代車(HV・PHV・EV)の生産拡大が進んでおり、PGMは全世界的にこれまで以上にクリティカルな鉱種とみなされることが予測されることから、安定供給に向けた対策を講じる必要がある。 他の鉱種と異なり、カントリーリスクが高い国に偏在し、日本国内での製錬拠点を持たないPGMについては、一貫して鉱石生産~製錬が可能な供給国において原料を確保することが望ましい。JOGMECは、世界のPGM鉱石・地金生産のほとんどが集中する南アフリカのブッシュフェルド地域にて探鉱のジョイントベンチャー調査を行い、その結果としてウォーターバーグ地域にて新規PGM鉱床を発見したほか、日本の民

図15. PGMの国内需給マテリアルフロー

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2014.11 金属資源レポート42(399)

間企業が探鉱活動を展開しているプラットリーフ・プロジェクトに探鉱出資・技術協力を行うことで、民間企業による鉱山開発を側面支援している。また、政情が安定した先進国でのプロジェクト発掘も進めており、カナダのパラス地域においてジョイントベンチャー調査を開始したところである。

 JOGMECは今後も探鉱や技術・金融支援事業を積極的に進めるとともに、PGMの国内外の需給動向やリサイクルに関する情報収集を行うことでPGMの安定供給上の課題を抽出し、日本のサプライチェーンを強化するための取り組みを進めて参りたい。 最後に、磁石・触媒グループの活動に対して、貴重な情報をご提供いただいた関連企業の各位に対し、厚く御礼を申し上げる。

(2014.10.28)

【参考文献】朝日新聞社 ホームページJohnson Matthey PLATINUM 2004~2013、PLATINUM Interim Review 2004~2013トヨタ自動車株式会社 ホームページ中国経済産業局(2010) 自動車産業の動向日刊自動車新聞社 日本自動車会議所共編(2013年) 自動車年鑑 2013~2014年版日本自動車工業会 ホームページ日本貿易振興機構(2014) 2013年 主要国の自動車生産・販売動向本田技研工業株式会社 ホームページ

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