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派遣先の皆様は、労働者派遣を利用するに当たって、労働者派遣制度の理解とは別に、現場で様々な疑問や問
題を抱えたことがあると思います。
それには、些細に思えるが故に何となくそのままにしていることや、いつの間にか重大な問題に発展してしまった
ことなど、労働者派遣法の理解だけでは解決・理解できないことも多いと思われます。
いうまでもなく、労働の現場では、全てが白と黒に色分けできるわけではありません。そうした場合でも、是非を
もって対処を必要とすることがあるならば、その基準は法律や就業規則ありきではなく、まず社会規範に照らして
どうなのか、ということを考えるべきでしょう。「企業倫理」と大上段に構えるよりも、「コンプライアンス」の精神は
こうした姿勢に集約されています。
派遣スタッフに限らず、人間一人ひとりには感情があり、異なる価値観があります。一緒に仕事をする上で、お互
いがお互いを尊重する姿勢がなければ、業務は円滑に進みません。それは、法律を守っていれば問題はない、とい
う硬直的な姿勢とは異質なものです。
トラブルは起こる前に防がなければなりません。ですから、苦情や不満、職場での様々な歪みには、迅速で適切な
対処が必要です。このChapterでは、派遣先で生じた、素朴なものから微妙な判断を要するものまで、様々な疑問
やトラブル・苦情の相談事例をまとめてみました。
Chapter2
派遣先対応編派遣スタッフを理解し、円滑に受け入れるための相談事例
Section1
労働者派遣契約の契約書には、印紙税法に定められている収入印紙を貼付しなければならないのでしょうか。
派遣スタッフを受け入れる以前、労働者派遣契約書の取り交わしをする際に、これでよいのか不安になったことはありませんか。
労働者派遣契約書に印紙が貼られていないQ1
労働者派遣では、個別契約書はもちろん基本契約書において
も、印紙税法別表第一(課税物件表)のいずれの文書にも該当
しないので、印紙を貼付する必要はありません。�
さて、ここで疑問となるのは、労働者派遣契約は、印紙税法別
表第一の七の「継続的取引の基本となる契約書」に該当しない
かということですが、その「継続的取引」の基本となる契約書とは
「特約店契約書、代理店契約書、銀行取引約定書その他の契
約書で、特定の相手方との間に継続的に生ずる取引の基本とな
るもののうち、政令で定めるものをいう。」⑴�とされ、継続的取引の
基本となる契約書の中に労働者派遣契約書は含まれていません
ので、貼付しなくても構いません。�
⑴印紙税法施行令第26条
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派遣元から労働者派遣の基本契約締結を求められましたが、事業部予算の中での派遣利用ですので、契約書締結は簡素にしたいと考えています。基本契約を除いて個別労働者派遣契約のみを締結したいのですが、基本契約を締結しないと労働者派遣法に抵触するのでしょうか。
以前、Aという派遣会社から派遣されていた派遣スタッフBと直接連絡をとり、「当社でまた派遣スタッフとして働いて欲しい」と相談したところ、現在、別の派遣先で就労中ではあるが、本人としては、ぜひ当社で働きたいと言ってくれました。もし、自社に来てもらうとすれば、どのような手続きをとればよいのでしょうか。
派遣スタッフが派遣先に打ち解けていく中で、親しい人に自分の連絡先を教えたりすることはよくあります。皆に慕われていた方でしたら、派遣先として、また機会があれば働いてもらいたい、と思うのも人情ですし、そのときにまず本人の状況を聞いてみる、ということもあるでしょう。
労働者派遣契約を個別契約のみの締結で済ませたいQ2
以前働いてもらった派遣スタッフに、直接派遣就労を要請したQ3
労働者派遣法は労働者派遣契約(当事者の一方が相手方
に対し労働者派遣をすることを約する契約を言う)に関する規定⑵
を定めていますが、これは、労働者派遣個別契約についての規定
で、個別具体的に労働者派遣をする際の就業条件などを内容と
するものです。したがって、労働者派遣法上は、基本契約について
は何ら定めがなく、基本契約を取り交わすか否か、取り交わすとし
てもどのような内容にするかなどは当事者間で自由に定めることが
できます。したがって、個別契約だけを締結しても労働者派遣法に
違反するものではありません。�
ただし、❶派遣料金に関する条項、❷派遣スタッフの変更及
び交替要求に関する条項、❸債務不履行の場合の損害賠償条
項、❹派遣先における個人情報取扱いに関する条項、❺派遣先
での就業管理に関する条項、❻派遣契約の解除条項等の特約
条項、については、契約書に明文で定めておかないと、後日、トラブ
ルにもなりかねませんので、基本契約書を作成しないのであれば、
個別契約書の中にそれらの条項も取り入れておくべきです。�
ちなみに、個別契約書の中に派遣料金等の条項を入れたとして
も、派遣スタッフに対する就業条件明示書等の書類に明示する
必要は全くありません。�
基本契約を締結しない
労働者派遣法に抵触?
=
派遣会社Aとの雇用契約期間が満了し退職した後に、A社ある
いは別の派遣元などと新たな雇用契約を締結して派遣就業しても
らうのであれば問題はありませんが、派遣スタッフには雇用契約期
間中は誠実に就業する義務がありますので、現在のA社との雇用
契約を破棄したり、一方的に派遣先を貴社に変更してもらうことは
できません。A社との間の雇用契約期間が一旦満了し、退職した
後に就業してもらうようにします。�
したがって、「当社で派遣スタッフとして働いて欲しい」という貴
社の希望通り、派遣スタッフBに就業してもらうためには、まず派遣
会社Aと貴社との間で労働者派遣契約を締結して、その派遣契約
に基づいてスタッフBを派遣してもらうことになります(もちろん、別
の派遣会社より派遣してもらうのでも一向に構いません)。�
その際、貴社が派遣スタッフBを指名することになりますが、どの
派遣スタッフを派遣するかは、派遣元が決めることであり、派遣先
からの指名には拘束されません。したがって、事前に派遣会社に
事情を説明して理解してもらう必要があるでしょう。�
なお、仮に派遣元の判断で他の派遣スタッフを派遣することに
なったとしても、業務が円滑に遂行されるのであれば、派遣先とし
てはそれに異議を申し立てることはできませんのでご承知おきくださ
い。�
派遣スタッフBを当社に…
手続きは?→
⑵労働者派遣法第26条
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Section1 Chapter2 派遣先対応編
VDT(Visual or Video Display Terminals)作業に連続して従事する派遣スタッフには、法定の45分ないし1時間の休憩時間の他に休憩を与えなければならないと、派遣元から言われました。法律はどのようになっているのか教えてください。
派遣スタッフには正社員と同じように、福利厚生施設を使えるようにしなくてはいけないのでしょうか?
派遣スタッフの就業環境にも配慮が必要です。しかし、派遣スタッフだからと特別に考えないでください。基本的な考え方は、自社の従業員と同じです。
派遣スタッフに、VDT労働に伴う休止時間を取らせたい
派遣スタッフに福利厚生施設を利用させる
Q4
Q5
労働基準法上では1日の労働時間が6時間を超える場合は45
分、8時間を超える場合には1時間の休憩時間を労働時間の途中
で与えなければならないと定められています。⑶�したがって、事務用
機器操作業務の場合でも、労働基準法上は法定の休憩時間を
与えれば、それ以外に労働から完全に解放される休憩時間を与え
なくても違法とはなりません。�
ただ、厚生労働省では、労働者の眼または手腕系等への負担
による疲労防止の目的のため、「VDT作業のための労働衛生上
の指針」(昭和60年12月20日付け基発第705号)を定め、各事
業所においてはこれを参考に労働安全衛生管理体制の整備を行
い実施するよう指導しています。これによりますと、連続VDT作業
に常時従事する労働者については、一連続作業時間が1時間を
超えないようにし、次の連続作業までの間に10分〜15分の作業
休止時間を設け、かつ一連続作業時間内において1〜2回程度
の小休止を設けるよう定めています。作業休止時間とは、連続作
業後、いったんVDT作業を中止する時間であり、それ以外の作業
もしない休憩時間ではありません。画面から目を離す、手を休める
時間とお考えください。�
これは派遣スタッフの健康確保のためですから、労働者派遣契
約書、就業条件明示書に「パソコンを連続して操作する時間は1
時間までとする。1時間連続して操作したときは少なくとも10分間
の作業休止時間を与える」などを定めてあることが多いようです。�
派遣先の福利厚生施設の利用規定は、当然のことながら自社
従業員の利用を前提にして作られています。場合によっては、正社
員と非正社員(パート、アルバイト等)とでは、利用規定が異なる
事もあるかもしれません。しかし、派遣スタッフを受け入れる場合に
ついては、規定そのものがない場合が多いのではないでしょうか。
こうした場合、派遣先としては、派遣スタッフに対して派遣先の
従業員同様の福利厚生施設利用の便宜を供与することが求めら
れます。⑷�
「福利厚生施設の何が使えるか、使えないか」というだけの視点
で見ると、あまり大きな問題には見えませんが、実はこうしたところ
に、派遣先が派遣スタッフをどのように考えているかが如実に表れ
ます。そして派遣スタッフが敏感になるところなのです。�
「派遣=臨時の人、でしょう? 福利厚生なんて要らないよ」とい
う派遣先があるかと思えば、「派遣スタッフさんが助けてくれるから、
ウチの会社は何とか業務をこなせる。貴重な戦力なのだから、福利
厚生は社員と同じ」という派遣先もあります。�
派遣スタッフを受け入れる派遣先として、福利厚生について考
える場合、重要なのは派遣スタッフ本人の立場に立って考えると
いうことです。ご自身が派遣スタッフとして働く場合、どういう扱い方
をされたら働きやすいのか。やはり、仲間意識が持てるように、自社
従業員と同様の扱いをされた方が、気持ちよく働けるに違いありま
せん。�
社員食堂の利用や、レクリエーション施設の使用などということ
でなくても、ロッカーやデスクの貸与など、身近なところから派遣ス
タッフの環境整備を考えてあげてください。�
⑶労働基準法第34条
⑷労働者派遣法第40条の2
VDT作業の休憩の目安は?
福利厚生施設利用?
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6カ月の派遣契約で派遣スタッフを受け入れていますが、派遣元の営業担当とのトラブルが絶えず、取引自体を辞めようと考えています。そこで、この契約期間の中途で派遣元を替えて引き続き働いてもらえるように、派遣スタッフ本人を説得しようと考えていますが、このようなことはできるのでしょうか。
ここ数カ月とても忙しく、休日出勤月2回という契約の派遣スタッフに、毎月4回休日に出勤してもらっている状況です。派遣元の営業担当者からも、再三改善を求められていましたがそのままにしていました。その後、派遣スタッフがこちらに突然、退職したいと言ってきましたが、忙しい中困っています。どうすればよいでしょうか。
派遣元の対応にはどうにも不満が多い、ということがあります。そのような時、一向に改善が見られなければ、取引の見直しを考えることもあるでしょう。しかし、派遣スタッフはとてもよくやってくれているとなれば、スタッフには続けて働いてもらいたいとも考え、何とも悩ましい状況になります。
派遣スタッフに派遣元の登録替えを勧める
派遣スタッフから労働条件が違うので辞めたいと言われた
Q6
Q7
派遣元と派遣先との間の派遣契約期間中に、派遣先の要請で
あったとしても派遣スタッフが他の派遣元に登録替えして、そこか
ら引き続き同じ派遣先に派遣されて就業することは原則としてでき
ません。その理由として、現在の派遣元と派遣スタッフとの雇用契
約を途中で解約することになり、以下のようなトラブルになることが
考えられます。�
貴社が登録替えを促したとなれば、各種のトラブルになる可能性
がありますので、貴社としてはこのようなトラブルに巻き込まれない
よう注意する必要があります。現在の派遣スタッフに継続して働い
てもらいたいようであれば、派遣スタッフを巻き込む意味からも避け
るべきです。�
したがって、派遣元の営業担当に不満があれば、その上司に訴
えるなどして改善を求め、派遣スタッフには派遣期間が満了するま
で誠実に就業してもらいましょう。それでも改善がなされなければ、
満了後の対応として派遣元との取り引き見直しをお考えになった
方がよいと思います。�
派遣スタッフの雇用関係は派遣元とありますので、仕事を辞め
たいとすれば、言うべき相手は派遣元です。しかし、派遣スタッフと
しては、派遣元に改善を申し出て、派遣元もその意思をもって貴社
に改善を迫ったにもかかわらず改善がなされなかったのですから派
遣スタッフの取った行動は誠実なものとして受け取るべきです。�
こうした状態は、貴社にとっては労働者派遣契約違反であり、派
遣元にとっては派遣スタッフへの雇用契約違反となります。派遣ス
タッフの同意があれば、派遣契約と雇用契約の内容を変更しての
継続も可能でしょうが、派遣スタッフとしては現在の状況は受け入
れがたいようです。�
改善されないようでしたら、派遣スタッフが退職することもやむを
得ないでしょう。「明示された労働条件が事実と相違する場合にお
いては、労働者は即時に労働契約を解消することができる」⑺�の
で、退職しても法的に問題はないと思われます。�
むしろ問題は、派遣元からの再三の要請に、貴社が誠実に対応
しなかったことにあるのではないでしょうか。たまたま、忙しくなったと
いうことであれば、いつ頃には正常な状態に戻る予定なのか、ある
いはどのような善後策があるのか、そうしたことを派遣元や派遣ス
タッフと話し合うことで、派遣スタッフの理解を得て乗り切るケース
はよくあることです。自社の従業員に対しても同様でしょうが、何と
かやり過ごせば、というような対応は事態を好転させません。�
⑸民法第415条 ⑹Section1�Part1参照
⑺労働基準法第15条第2項
仕事に繁閑の波はつきものです。しかし、通常と違う時期だからということで、当初の契約条件を逸脱したままにしていませんか。
❶�派遣元から契約違反に基づく損害賠償⑸を 請求される可能性があること❷�現在の派遣元と派遣先との派遣契約を巡って トラブルが生ずる可能性があること❸�現在の派遣元と新たに登録する派遣元との間で派遣スタッフの 引き抜き行為等であるとのトラブルが発生する恐れがあること❹�派遣先が登録替えした派遣元に対して、派遣スタッフを特定して 派遣を依頼することになり、これは労働者派遣法⑹に違反し 基本的にできないこと
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Section1 Chapter2 派遣先対応編
半年間の契約で、派遣スタッフに来てもらいましたが、2日間勤務した後、理由も分からぬまま辞めてしまいました。あまりの無責任ぶりに怒りを覚え、派遣元に対して就業した2日分の賃金の支払いを拒否しました。しかし、派遣元は請求を取り下げる気配がありません。非は一方的に派遣元・派遣スタッフにあると思いますので、妥当な対応だと思いますがいかがでしょうか。
当社では夏休みを一斉休業しますので、その期間は派遣スタッフも就業できません。派遣スタッフ本人に夏季休暇の件を伝えましたところ「働けないとその分給与が減るので困ります」と言われました。とはいえ、当社としてもどうすることもできません。こうしたことで、派遣スタッフのモチベーションを下げるのもいかがなものかと思いますので、何かよい対応策はありませんでしょうか。
派遣元と派遣先との「労働者派遣契約」と、派遣元と派遣スタッフとの「雇用契約」は別のものです。
製造業では、生産性を考えて、工場ラインを全て止めて、夏季休暇を全社(ないし工場全体)で一斉に取る傾向があります。年末年始の休暇も含め、こうした一斉休暇の日取りは、派遣元にきちんと伝わっていますでしょうか。
派遣料金の支払いをしたくない
派遣先の一斉休業を派遣スタッフに伝えていなかった
Q8
Q9
まず確認をしておきますと、派遣元と派遣先との「労働者派遣
契約」と、派遣元と派遣スタッフとの「雇用契約」は別のものであ
り、それゆえ、派遣先が派遣元に支払う派遣料金と、派遣元が派
遣スタッフに支払う賃金は分けて考える必要があるということです。
労働者派遣契約で6カ月の契約をしていても、同じ派遣スタッフ
が毎日来なければならないということにはなりません(極端な場合、
毎日別の派遣スタッフが派遣先に来ても何ら問題はありません。
もちろん、毎日仕事を教えていたら、派遣先が期待した適正なサー
ビスを受けたとは言えないでしょうから、その点では契約違反と言
えなくもないのですが)。派遣スタッフが2日間きちんと働いたのなら
(つまり、契約したサービスの提供を受けたのならば)その対価とし
ての派遣料金は支払われるべきと考えられます。�
しかし、2日間で辞めたとなれば、その後、後任の派遣スタッフが
入ったとしても数日のブランクがあったでしょうから、そのブランク期
間は債務の不履行ということなります。派遣先の仕事が滞り、相応
の不利益が生じたとすれば、その損害と派遣料金を相殺するという
ことも考えられます。払う必要の有無というよりは、派遣元と派遣先
が契約そのものにのっとり、真摯に話し合って妥協点を見出すしか
ありません。�
また、もし派遣料金が支払われない、あるいは減額されたしても、
派遣スタッフがきちんと就業していたとすれば、支払われる賃金に
影響は生じません。賃金の支払い義務は、派遣スタッフと雇用関
係にある派遣元にあるからです。�
ですから、例えば派遣先が倒産をして派遣料金の支払い能力が
なくなった場合でも、それをもって派遣スタッフへの賃金の支払いを
免除されるということはありません。⑻�
⑻労働基準法第24条
賃金支払拒否!!
一斉休業
就業条件明示書⑼�には、就業日を記載することになっています
ので、その日には派遣スタッフに就業の義務が課せられることにな
ります。それ以外の日が、派遣スタッフの休日となります。�
したがって、一斉休業となる夏休みについて、派遣元から派遣ス
タッフに渡された就業条件明示書に何ら明示されておらず、また口
頭による説明もなかった場合は、派遣元事業主の責によって労働
者に就業させられないときに該当し、派遣スタッフには休業手当を
支給しなければならないことになります。⑽�
今回の場合、派遣先会社の労働協約に基づく就業規則の一
斉休日について、派遣先と派遣元との労働者派遣契約、ないし派
遣元と派遣スタッフとの雇用契約の締結時に失念したことによる
ものと思われます。派遣元・派遣先どちらの責任でも、派遣スタッ
フには失念したことを真摯に謝るとして、派遣先の従業員全員が
休みということに、派遣スタッフの理解を求めることは悪いことでは
ありません。法制度や契約理論のみで非として対応するだけではな
く、やはり、3者で調和的な取り扱いを考えてみるのもよいでしょう。
⑼労働者派遣法第34条、第26条第1項各号 ⑽労働基準法第26条
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一緒に経理課で働いている派遣スタッフから、経理課長が出入りの業者と不正行為を行っていることをこっそり話されました。実際にその現場に居合わせたようなのですが、私自身が目にしたわけではないので、私から誰かに告発するわけにもいきません。しかし、このまま知らなかったことにすると、後になってから責任を押し付けられることにもなりかねませんので、その派遣スタッフから告発してもらうのが一番よいと考えますが、本人としては職を失ったりすることを恐れて消極的です。派遣スタッフの立場を守りながら告発してもらうよい方法はないでしょうか。
私は派遣先責任者の立場にありますが、ある派遣スタッフから、「上司から就業後に食事会に誘われるが、やんわり断っても何度もしつこい、これはセクシャルハラスメントではないか」との申し立てがありました。その上司に事情を聞いてみると、その課ではよく全員で食事会やレクリエーションをしているようです。派遣スタッフへの誘いも、一対一というものではなく、皆で一緒に行くというもので、事実に相違はなさそうです。とはいえ、セクシャルハラスメントと言われた以上、何らかの対応をしなくてはなりませんが、どうすべきでしょうか。
労働者派遣契約や労働者派遣法の遵守には細心の注意が必要ですが、実際に仕事してもらう上では、派遣スタッフも自社の従業員と何ら変わるものでもありません。その立場を尊重し、苦情や不安に素直に耳を傾けることが必要です。
上司の不正行為を指摘された
セクシャルハラスメントの申し立てがあった
Q10
Q11
公益通報者保護法では、派遣スタッフが不正(通報によりその人
を貶めたり、何らかの利益を得るなど)の目的ではなく、派遣先または
その役員、従業員について、犯罪行為または法令違反行為が生じ、
または、生じようとしている旨を派遣先または派遣先の公益通報窓
口に通報したことを理由に派遣契約を解除することを無効としていま
す。また、派遣スタッフの交替を求めるなどの不利益取扱をしてはな
らない旨も規定しています。⑾�
「上司が出入りの業者と不正行為を行っている」ことを告発すると
いうのは、そうしたケースですから、派遣スタッフが告発しても、その労
働者としての立場は法によって守られています。その点では、心配に
は及びません。�
この場合の公益通報は、当該企業内で解決することが望ましいこ
とからすれば、やはり、派遣先に通報すべきです。そして、派遣先企
業で、公益通報窓口⑿�が整備されている場合には、そちらに通報す
べきでしょうし、そうした公益通報処理の仕組みが整備されていない
ような場合には、派遣先の指揮命令者、あるいは、不正行為をしてい
る上司を管理監督している部署等に相談すべきでしょう。�
ただし、他人の不正行為を告発する以上、明白な事実に基づかな
ければなりません。いいかげんな話では、かえって告発者が法律上の
責任を追及されることにもなりかねませんので、注意が必要です。�
派遣スタッフは、派遣元と一定の期間雇用契約を結んだ派遣元
の労働者です。したがって、派遣先従業員との関係は、業務遂行
上での指揮命令に従う義務はありますが、上司、部下の関係ではあ
りませんから、私的な用務はもちろん、地位などを利用して時間外に
飲食などに誘うということはあってはなりません。ましてや、断られた
場合に、感情的になったり、嫌味、意地悪などをするとなれば、明確
にセクシャルハラスメント(またはパワーハラスメント)となり、派遣先
責任者であるあなたが解決に乗り出すことは適正な対応というべき
です。⒀�
しかしこの場合、上司の名前こそ出ていますが、決して悪意がある
ようではなさそうです。よく、派遣スタッフというと、派遣スタッフ全般
の価値観・考え方を固定的に考える派遣先があります。以前、派遣
で働く主人公を描いたドラマがありましたが、派遣スタッフが皆あのよ
うな価値観や仕事振り・態度というわけではありません。�
貴社の従業員にも、職場での付き合いを敬遠する方もいれば、
公私共に皆で和気あいあいとやりたいという方もいるはずです。それ
はそれぞれの価値観であり、是非を問うものでもありません。�
派遣スタッフも同様です。申し出をした派遣スタッフも、あまり職場
の付き合いを好まない方なのかもしれません。そうした価値観は尊重
してあげるべきです。こうした場合は、むしろセクシャルハラスメントと
いう言葉にあまり敏感にならず、まずはその上司に当該スタッフが、
あまり職場での私的な付き合いを好まないことをやんわり伝えた上
で、誘いを当面控えてもらうのがよいのではないでしょうか。もしかす
ると、度重なる誘いにイライラを感じているだけなのかもしれません。
少し間をおいて、職場の同僚から声をかけるなどすれば、派遣スタッ
フ自身の可能な範囲で付き合いに出て来てくれるかもしれません。�
⑾公益通報者保護法第4条、第5条第2項⑿�公益通報者保護法を受けて、民間事業者に対しても、「公益通報窓口の整備等に関するガイドライン」(2005年7月19日 内閣府)が定められている。
⒀労働者派遣法第47条の2
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Section1 Chapter2 派遣先対応編
派遣スタッフを派遣期間終了後、直接雇用することにしたところ、派遣元から雇用することは法律上問題ないが、当社に事前に相談しないのは、道義に反するということで、その派遣スタッフの年収の30%に相当する紹介手数料を請求されております。これに応じなければならないのでしょうか。
どの企業でも、優秀な人材は長く自社にとどめたいものです。派遣スタッフを社員に採用したい、と言う派遣先が出てくることもよくあります。
派遣スタッフを直接雇用したいQ12
派遣元事業主は、❶その雇用する派遣スタッフとの間で、正当
な理由がなく、派遣元事業主との雇用関係終了後、派遣先に雇
用されることを禁ずる旨の契約を締結したり、❷派遣先との間で、
正当な理由がなく、そこで働く派遣スタッフを派遣元との雇用関係
の終了後雇用することを禁ずる旨の契約を締結してはならないこと
になっています。⒁�
これに反する契約の定めは、労働者の職業選択の自由�⒂�を制
限するものであり、公序良俗に反すること�⒃�から無効とされます。
したがって、法的には、派遣元会社から紹介手数料を請求されて
もそれに応ずる必要はありません。しかし、派遣元の大切な人材で
ある派遣スタッフを移籍させるのであり、派遣スタッフを雇用するこ
とを目的として受け入れていたと思われては道義に反することにな
る可能性もありますから、派遣元に対する礼を失しないよう充分に
配慮する必要があります。�
⒁労働者派遣法第33条 ⒂憲法第22条第1項 ⒃民法第90条
参考 労働者派遣事業アドバイザー相談状況
当協会では、「労働者派遣事業アドバイザー」事業を実施し、東京・名古屋・大阪において「相談センター」を設置して、派遣スタッフ、派遣先及び派遣元事業者などの方々からの相談及び苦情に対応しています。労働者派遣事業アドバイザーは、労働者派遣法に基づき、雇用及び就業環境の管理をスムーズに運用できるようさまざまな問題解決のお手伝いや情報の提供を行うことを主要業務としています。
派遣スタッフの年収30%要求
…応じる?
労働者派遣事業アドバイザー年度別相談件数
相談件数
年 度 相談件数
対前年比(件数、%)派遣スタッフからの相談件数
構成比 派遣先からの相談件数 構成比
その他の相談件数
(派遣会社含む)構成比
2007年度 14,472 +1,269 109.6% 2,533 17.5% 826 5.7% 11,113 76.8%
2006年度 13,203 +3,581 137.2% 2,616 19.8% 866 6.6% 9,721 73.6%
2005年度 9,622 +2,563 136.3% 2,088 21.7% 566 5.9% 6,968 72.4%
2004年度 7,059 +2,160 144.1% 1,565 22.2% 415 5.9% 5,079 71.9%
2003年度 4,899 +1,179 131.7% 1,646 33.6% 225 4.6% 3,028 61.8%
2002年度 3,720 +792 127.0% 1,796 48.3% 187 5.0% 1,737 46.7%
2001年度 2,928 +1,110 161.1% 1,595 54.5% 220 7.5% 1,113 38.0%
2000年度 1,818 ‐ ‐ 1,087 59.8% 149 8.2% 582 32.0%
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以下に、過年度の派遣スタッフからの相談状況集計を掲載しますが、相談件数は年々増加の傾向にあります。 「中途解約」「労働契約」「労働・社会保険」「中途退社」「賃金」に関する相談が多いようです。
派遣スタッフからの相談件数 相談件数
項 目
2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度
相談件数 構成比 相談件数 構成比 相談件数 構成比 相談件数 構成比 相談件数 構成比 相談件数 構成比 相談件数 構成比
中途解約 267 16.7% 340 18.9% 318 19.3% 273 17.4% 346 16.6% 419 16.0% 369 14.6%
労働契約 191 12.0% 259 14.4% 227 13.8% 211 13.5% 297 14.2% 412 15.7% 384 15.2%
登録・面接 121 7.6% 213 11.9% 197 12.0% 85 5.4% 130 6.2% 137 5.2% 94 3.7%
労働・社会保険 136 8.5% 199 11.1% 147 8.9% 149 9.5% 225 10.8% 257 9.8% 193 7.6%
中途退社 156 9.8% 144 8.0% 142 8.6% 154 9.8% 182 8.7% 237 9.1% 192 7.6%
有給休暇 92 5.8% 93 5.2% 99 6.0% 106 6.8% 140 6.7% 146 5.6% 143 5.6%
賃金 94 5.9% 112 6.2% 96 5.8% 91 5.8% 136 6.5% 191 7.3% 183 7.2%
業務内容 46 2.9% 56 3.1% 53 3.2% 73 4.7% 78 3.7% 100 3.8% 113 4.5%
勤務時間・残業 35 2.2% 36 2.0% 52 3.2% 43 2.7% 68 3.3% 61 2.3% 59 2.3%
担当者の対応 0.0% 27 1.5% 47 2.9% 43 2.7% 52 2.5% 82 3.1% 95 3.8%
個人情報 23 1.4% 33 1.8% 42 2.6% 51 3.3% 46 2.2% 70 2.7% 75 3.0%
紹介予定派遣 0.0% 21 1.2% 28 1.7% 35 2.2% 58 2.8% 63 2.4% 58 2.3%
人間関係 50 3.1% 36 2.0% 26 1.6% 39 2.5% 50 2.4% 53 2.0% 73 2.9%
セクシャル・ハラスメント 0.0% 5 0.3% 18 1.1% 16 1.0% 31 1.5% 38 1.5% 26 1.0%
キャリア相談 141 5.6%
その他 384 24.1% 222 12.4% 154 9.4% 196 12.5% 249 11.9% 350 13.4% 335 13.2%
計 1,595 100.0% 1,796 100.0% 1,646 100.0% 1,565 100.0% 2,088 100.0% 2,616 100.0% 2,533 100.0%
2001年度
2002年度
2003年度
2004年度
2005年度
2006年度
2007年度
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100(%)
その他キャリア相談セクシャルハラスメント人間関係紹介予定派遣個人情報
担当者の対応勤務時間・残業業務内容賃金有給休暇
中途退社労働・社会保険登録・面談労働契約中途解約
派遣スタッフからの相談件数項目別相談比率(年度別)
41
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Section1 Chapter2 派遣先対応編
労働者派遣法及び労働関連法など、ご不明点があれば以下にお気軽にご相談ください。 (電話代を除き、ご相談は無料です)
名古屋・大阪の相談日時月~金曜日9:30 ~ 12:00 / 13:00 ~ 16:30(12:00 ~ 13:00休)
東京相談センター
☎03-3222-1605相談日時 月~金曜日9:30 ~ 19:00
名古屋相談センター
☎052-243-0525大阪相談センター
☎06-6949-0020
派遣先事業所の皆様からのご相談件数は2007年度で826件と、まだ全体の6%程度のご利用しかありません。 「派遣契約」「派遣期間」「業務内容」に関する相談が多いようです。
派遣先からの相談件数 相談件数
項 目
2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度
相談件数 構成比 相談件数 構成比 相談件数 構成比 相談件数 構成比 相談件数 構成比 相談件数 構成比 相談件数 構成比
派遣契約 25 11.4% 49 26.2% 83 36.9% 96 23.1% 157 27.7% 256 29.6% 256 31.0%
派遣契約の中途解約 8 3.6% 8 4.3% 12 5.3% 21 5.1% 23 4.1% 37 4.3% 35 4.2%
派遣期間 32 14.5% 18 9.6% 32 14.2% 43 10.4% 51 9.0% 127 14.7% 134 16.2%
業務内容 12 5.5% 17 9.1% 28 12.4% 53 12.8% 65 11.5% 107 12.4% 83 10.0%
勤務態度 3 1.4% 1 0.5% 1 0.4% 7 1.7% 9 1.6% 15 1.7% 7 0.8%
管理台帳等 2 0.9% 7 3.7% 3 1.3% 4 1.0% 13 2.3% 25 2.9% 19 2.3%
対象業務 - 0.0% 7 3.7% 2 0.9% 14 3.4% 21 3.7% 11 1.3% 19 2.3%
個人情報 2 0.9% 22 11.8% 22 9.8% 22 5.3% 20 3.5% 50 5.8% 62 7.5%
その他 136 61.8% 58 31.0% 42 18.7% 155 37.3% 207 36.6% 238 27.5% 211 25.5%
計 220 100.0% 187 100.0% 225 100.0% 415 100.0% 566 100.0% 866 100.0% 826 100.0%
その他個人情報対象業務
管理台帳等勤務態度業務内容
派遣期間派遣契約の途中解約派遣契約
2001年度
2002年度
2003年度
2004年度
2005年度
2006年度
2007年度
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100(%)
派遣先からの相談件数項目別相談比率(年度別)
42