2019年5月21日(火) 海洋開発利用システム実現学寄附講座 「海洋開発工学基礎講座」海洋工学編 Realization of Integrated Ocean Development and Utilization systems
2019年5月21日(火)
海洋開発利用システム実現学寄附講座
「海洋開発工学基礎講座」海洋工学編
Realization of Integrated Ocean Development and Utilization systems
本講座では、海洋開発に使用される構造物の設計に必要な海洋工学の基礎知識の体系的な講義とテーマをしぼった演習を行います。想定される海洋構造物・機器は、浮遊式海底掘削リグ・FPSO・FLNGのような大型浮体、浮体式洋上風車・支援船・作業船のような中型浮体、着底式構造物、係留・DPSのような位置保持システム、ライザー・チェーン・アンビリカルケーブルのような水中線状構造物です。
プラントエンジニアリング(トップサイド)
石油工学(油層・地質)
海洋工学
サブシーエンジニアリング
原図 http://www.offshoreenergytoday.com/trelleborg-bags-subsea-job-in-nigeria/
海洋開発技術を牽引する海洋石油開発
• 世界の海洋石油・天然ガス開発産業の市場規模は4,000億ドルとの試算がある
• 今後の石油以外の海洋開発に、海洋石油開発技術が応用される
海洋石油開発における水深大水深 ; 300~1,500m超大水深;1,500m以上
1990年代前半までは水深150m程度が開発の限界2000年には水深2000m、2010年には水深3000mの海域の開発が可能となった
• 技術革新によって大水深海洋石油開発が開花
海洋石油開発の大水深化
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http://www.energyandcapital.com/articles/offshore-oil-boom/4193
海洋石油開発の大水深化
Source: U.S. Energy Information Administration, based on Rystad Energy
大水深化を支える技術
海洋石油開発技術
探査技術
掘削技術
開発技術
生産技術
物理探査法を用いた油ガス田の発見
試掘・生産などのための作井
生産施設の設計・建設
回収率の増大、生産効率の増大など
探査技術
– 三次元地震探査によるデータの精度と情報量の向上
• 探査船の測位技術の向上
GPS(Global Positioning System);数cm以下の誤差
測位衛星(GPS)
マルチチャンネル・ストリーマーケーブル
エアガン
• ストリーマー曳航能力の向上
大型船舶により6000mのストリーマーを8~12本同時曳航
• コンピュータの情報処理能力の向上
データ処理技術の向上による短期間(数週間)での地層構造解釈
大水深化を支える技術
掘削技術
– 大偏距掘削・水平掘削・マルチラテラルウェル
• 大偏距掘削(ERD)による広範囲/複数の油層からの生産
生産施設数低減による開発コスト削減
• 水平掘削による生産性向上
回収率向上による坑井数の低減(特に薄い層)
接触面積増大による生産性向上
• マルチラテラルウェルによる経済性向上
1坑井から複数の油層への枝分かれ
大水深化を支える技術
掘削技術
– 掘削中の計測技術 MWD
• 掘削同時計測(Measurement While Drilling)
掘削孔の傾斜や掘削の安全性に必要なデータを、循環流体を媒体としたパルス波を使ってリアルタイムに船上へ伝送する
• MWDの小型化と検知能力の向上
ビットの制御向上
掘削方向を変えた正確な掘削による薄い油層からの効率的生産
大水深化を支える技術
掘削技術
– 超大水深掘削リグの建造
• 大容量デリックによる吊り下げ能力拡大
• 自動船位保持装置DPS(Dynamic Positioning System)の信頼性向上
セミサブ(半潜水型)ドリルシップ
大水深化を支える技術
開発技術
– 生産用プラットフォームの大水深対応
• 固定式ジャケットから揺動式・浮体式へ コンプライアントタワー、TLP、SPAR、FPSO
• 新形式係留システムの開発 一点係留、タレット式、斜めトート係留
• 新技術
合成繊維ロープによる係留、サクションアンカー
大水深化を支える技術
開発技術
– サブシー技術
• フレキシブルライザー、アンビリカルケーブル
• 海底仕上げの普及
• 作業用ROVの大型化・大水深化
大水深化を支える技術
生産技術
-フローラインの保全技術(Flow Assurance)
• パイプライン輸送長距離化による流体温度低下・圧力低下にともなう生産障害の防止技術の開発
分子量の大きなガス成分の液化(混層流)
ワックスの析出・管の閉塞
メタンハイドレートやCO2ハイドレート生成による管の閉塞
大水深化を支える技術
生産技術
– EOR(原油増進回収法;Enhanced Oil Recovery)
• 一次回収;生産を自噴に依存(回収率20~30%)
• 人工採油法;ポンプなど人工的動力使用
• 二次回収;水やガスを圧入して地層内圧力を高める(回収率30~40%)
• 三次回収またはEOR;熱、CO2、界面活性剤などを圧入して回収率を50~70%に高める
大水深化を支える技術
海洋構造物に影響を及ぼす自然環境要因
設計のための条件設定
自然環境条件により海洋構造物に作用する荷重の推定
荷重に対する応答の推定
不規則な自然現象に対する確率論的取り扱い
海象の変化に対する統計的取り扱い
自然環境下で海洋構造物の安全性や作業性を評価するには・・
海洋開発工学基礎講座「海洋工学編」 内容予定
領 域 主な内容
5月21日Class 1 イントロダクション
海洋構造物の形式、海洋構造物の設計の流れ、浮体の静水力学
Class 2浮体の動揺の基礎 連成運動、RAO
自然環境条件海洋構造物の設計に関する自然環境、風、流れ
Class 3 波、その他
6月26日Class 4
外力の推定
海洋構造物に作用する外力、重力・浮力・静水圧、風・流れによる力
Class 5 波による力、その他
運動・構造応答流体による海洋構造物の様々な応答、剛体とみなせる浮体の運動応答、浮体の運動と内力応答、海洋構造物の構造解析
Class 6
7月24日 Class 7 短期予測・長期予測 異常時の安全性評価、稼働率の推定、疲労強度
Class 8演習 (各自PC持参)
Class 9
8月28日 Class 10位置保持技術 DPS、係留要素と特性、線状構造を用いた係留
Class 11
Class 12 演習 (各自PC持参)
海洋石油開発事業で用いられる船舶・海洋構造物
※作業船・サプライ船などは省略
反射法地震波探査による地下構造調査
測位衛星(GPS)
マルチチャンネル・ストリーマーケーブル
エアガン
探査・探鉱
三次元物理探査船「資源」
試 掘
水深に応じて用いられる試掘施設(リグ)
JDCホームページより
ジャックアップ・リグ
日本海洋掘削㈱ HAKURYU 11
セミサブマージブル・リグ
ドリルシップ
地球深部探査船ちきゅう
生 産
–ジャケット
– コンプライアント・タワー
– SPAR
– TLP
–一点係留式FPSO
水深に応じて用いられる生産施設(プラットフォーム)
固定式プラットフォーム(ジャケット)
コンプライアント・タワー
SPAR
Traditional SPAR Truss SPAR Cell SPAR
RIGZONEホームページ“How Do Spars Work?”より
TLP (Tension Leg Platform)
FPSO (Floating Production Storage & Offloading)
FLNG (Floating Liquefied Natural Gas)
FSRU (Floating Storage, Re-gasification and Unloading)
浮体式海洋構造物の計画・設計の流れ
自然環境条件 構造物の目的・搭載物
設計条件設定 形式選定
形状・寸法 構造配置重量・重心
推進器の性能・配置 係留特性 外力の推定
浮体の安定性
浮体の位置保持性能 構造物の運動・振動の推定
稼動率評価 構造強度解析
位置保持方法選定
ライザー等の挙動解析
疲労寿命評価
浮体の静水力学i. 浮力
浮体式構造物に作用する力
表面力(surface force)
物体の表面で他の物体から受ける力
流体圧力(風荷重、潮流力、波力、浮力)、氷荷重 など
物体力(body force)
物体の内部に直接作用する力
重力、慣性力
浮力は表面力であるが、
アルキメデスの原理で考えると物体力のようである
辞典などで見られる語句説明の例
• アルキメデスの原理とは「流体中の物体は、その物体が押しのけている流体の重さ(重量)と同じ大きさで上向きの浮力を受ける」というもの
• 浮心とは、液体の表面に浮かぶ固体に働く浮力の中心
f として静水圧 p(x, y, z) = -ρgz を考え、上式にあてはめる。
左辺は圧力の法線方向成分(ただし外向き正)の面積分なので、符号を変えると、表面力としての浮力そのものを示す。
∂p ∂p ∂p一方 grad p = ex + ey + ez = -ρg ez∂x ∂y ∂z
よって、上式の右辺は -ρgV ez となる。
すなわち、浮力=ρgV ez となり、表面力である浮力を物体力のように求めることができる
ガウスの定理
f ・ n dS = grad f dVS V ∫∫ ∫∫∫
浮力について
関数fの法線方向成分の面積分
物体内のfの変化ベクトルの体積積分
浮心について
ガウスの定理
f ・ n dS = grad f dVS V ∫∫ ∫∫∫
-ρgz ΔS
ρg ΔV=
ガウスの定理による浮力要素の分布
• 浮心の位置は没水部の体積中心• 浮心=浮力として統合した時の作用点
浮体の静水力学ii. 復原性
並進運動
回転運動
Surge(前後揺れ)
Sway(左右揺れ)
Heave(上下揺れ)
Yaw(船首揺れ)
Roll(横揺れ)
Pitch(縦揺れ)
浮体の6自由度運動
• 変位と逆方向へ働く力を「復原力あるいは復原モーメント」と称する。
HEAVE
浮力増加
ROLL or PITCH
浮力の分布変化にともなう復原モーメント
静水力学的復原力(Hydro-static restoring force)
6自由度運動の復原力/モーメント
SURGE/SWAY
SURGE, SWAY, YAW の方向には静水力学的復原力は無い
YAW
6自由度運動の復原力/モーメント
重心が浮心より高いと転倒する?
密度が一様な物体(例えば角材)は必ず転倒する?
浮体の復原モーメントについて
重心
浮力
重力
浮心 傾斜に対してマイナスの転倒モーメント
傾斜に対してプラス の転倒モーメント
浮体の傾斜によって浮心は傾く側へ移動する。
変化した浮心を通る浮力の作用線と、傾斜していない時に浮心を通る浮力の作用線は、ほぼ同一点(メタセンター)で交差する。
浮体の復原モーメントについて(正)
重心
浮力
重力
浮心 傾斜に対してマイナスの転倒モーメント
傾斜に対してマイナスの転倒モーメント
復原モーメント≒浮力×GM・θ (θは浮体の傾斜)
GM>0なら安定であるという
GM=KB(浮心高さ)+BM-KG(重心高さ)
BM=I/V
ここでVは排水体積、I はもとの浮心の直上・水面高さを通る傾斜軸周りの「水線面二次モーメント」
浮体の復原モーメントと安定性
重心 G
浮心 もとの浮心 B
メタセンターM
浮体の底 K
B
0 x
y
傾斜方向
傾斜軸
x軸周り水線面二次モーメント Ix= y2 dxdy
y軸周り水線面二次モーメント Iy= x2 dxdy
水線面二次モーメント
水線面
∫∫∫∫
例 題
x方向の長さL、y方向の幅b、喫水dの箱型浮体の、x軸周りおよびy軸周りのBMを求めよ。
平面図
側面図
x
zx
z
y
y
L
d
b
X軸周り
例題の解
x方向の長さL、y方向の幅b、喫水dの箱型浮体の、x軸周りおよびy軸周りのBMを求めよ。
Ix=Lb3/12
同様にして、Iy=L3b/12
V=Lbd
BMx=Ix/V=b2/12d
BMy=Iy/V=L2/12d
x軸周り水線面二次モーメント Ix= y2 dxdy∫∫b/2
-b/2
L/2
-L/2
問 題
x方向の長さs、y方向の幅bの箱型浮体が、x方向中心間距離Lで2個剛結されている時、その浮体の、x軸周りおよびy軸周りの水線面二次モーメントを求めよ。
x
zx
yL
d
b
y軸周り
s s zy
X軸周り