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症  例 症 例:41 歳 女性 現病歴:平成 16 年初めて検診で尿蛋白と血 尿を指摘され,平成 17 4 月に他院で腎生検を 施行し,巣状糸球体硬化症の診断で経口ステロ イド薬を開始となった。その後,寛解し平成 18 10 月ステロイド中止となった。平成 19 9 月より尿潜血陽性,平成 20 3 月には尿たん ぱく陽性,同年 7 月に血清 Cr1.3 /dl に上昇。 MPO-ANCA76EU と上昇を認め,8 月当科に紹 介され腎生検及び加療目的で入院となった。 既往歴:17 歳虫垂炎 31 歳左乳癌(手術)  シェーグレン症候群による脂肪織炎にて平成 15 8 月と平成 16 7 月に PSL 投与 家族歴:妹:糖尿病 嗜好歴:飲酒:機会飲酒,喫煙:なし アレルギー歴:特記事項なし 現  症: 身長 156cm,体重 55.5kg,血圧 132/74mmHg,脈拍数 64 分,整,体温 35.7 ℃, 四肢に下腿浮腫を認める以外特記事項なし 入院時検査所見(2008年8月):図①,② 腎生検所見(2008年8月):図③,④,⑤ 38 個の糸球体が採取され,6 個ほど全節性硬 化に陥っている。細胞性半月体を 2 個,線維細 胞性半月体を 7 個,線維性半月体を 1 個の糸球 体に認め,Mesangial proliferation は軽度であっ た。蛍光抗体ではメサンギウム領域に C3 の沈 着を認めたが,硬化した糸球体であり滲出性の 変化が疑われた。また,IgA もメサンギウム領 域に沈着を認めた。電顕ではメサンギウム領域 と上皮化に dense substance を認め,足突起の癒 合が目立つ。 経 過:図⑥ 腎生検後,ステロイドパル ス療法を施行し,その後比較的早期に MPO- ANCA と血尿は陰性化したが,蛋白尿が遷延し たため, 2009 7 月に第二回腎生検を施行した。 入院時検査所見(2009年7月):図⑦,⑧ 腎生検所見(2009 年 7 月):図⑨,⑩,⑪, ⑫ 51 個の糸球体が採取され半分以上の硬化 を認める糸球体は完全硬化のものを含め,36 個ほど認めた。半月体の形成が比較的目立ち, 線維性半月体を 1 個,線維細胞性半月体を 6 程度の糸球体に認め,線維細胞性半月体の中に は,Segmental だが細胞成分がやや目立つ半月 体も見られ,血管炎の活動性を疑わせる。また, 硬化した糸球体周囲の間質には,PATCHY 炎症細胞浸潤を認めるが,一部は軽度から中等 度の単核細胞浸潤があり尿細管の委縮を伴って いる。 ネフローゼ症候群を呈し MPO-ANCA 陰性となっても 半月体形成が持続する腎炎の 1 例 柳   麻 衣 1 三 橋   洋 1 金 岡 知 彦 1 東   公 一 1 吉 田 伸一郎 1 大 澤 正 人 1 田 村 功 一 1 戸 谷 義 幸 1 梅 村   敏 1 長 濱 清 隆 2 稲 山 嘉 明 2 (1 横浜市立大学大学院医学研究科 病態制御内科学 (2 同 分子病態免疫病理学 Key Word:若年発症,ANCA 関連腎炎,遷延性蛋白尿, ステロイド治療 17 第 53 回神奈川腎炎研究会
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ネフローゼ症候群を呈しMPO-ANCA陰性となっても 半月体形成 … · 2016. 9. 12. · 抗Sm抗体 陰性 抗SS-A抗体 267 抗SS-B抗体 13.3 抗カルジオリピン抗体

Feb 05, 2021

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  • 症  例症 例:41歳 女性現病歴:平成16年初めて検診で尿蛋白と血

    尿を指摘され,平成17年4月に他院で腎生検を施行し,巣状糸球体硬化症の診断で経口ステロイド薬を開始となった。その後,寛解し平成18年10月ステロイド中止となった。平成19年9月より尿潜血陽性,平成20年3月には尿たんぱく陽性,同年7月に血清Cr1.3㎎ /dlに上昇。MPO-ANCA76EUと上昇を認め,8月当科に紹介され腎生検及び加療目的で入院となった。既往歴:17歳虫垂炎 31歳左乳癌(手術) 

    シェーグレン症候群による脂肪織炎にて平成15年8月と平成16年7月にPSL投与家族歴:妹:糖尿病嗜好歴:飲酒:機会飲酒,喫煙:なしアレルギー歴:特記事項なし現 症:身 長 156cm, 体 重 55.5kg, 血 圧

    132/74mmHg,脈拍数 64分,整,体温35.7℃,四肢に下腿浮腫を認める以外特記事項なし入院時検査所見(2008年8月):図①,②腎生検所見(2008年8月):図③,④,⑤

     38個の糸球体が採取され,6個ほど全節性硬化に陥っている。細胞性半月体を2個,線維細胞性半月体を7個,線維性半月体を1個の糸球体に認め,Mesangial proliferation は軽度であった。蛍光抗体ではメサンギウム領域にC3の沈着を認めたが,硬化した糸球体であり滲出性の

    変化が疑われた。また,IgAもメサンギウム領域に沈着を認めた。電顕ではメサンギウム領域と上皮化にdense substanceを認め,足突起の癒合が目立つ。経 過:図⑥ 腎生検後,ステロイドパル

    ス療法を施行し,その後比較的早期にMPO-ANCAと血尿は陰性化したが,蛋白尿が遷延したため,2009年7月に第二回腎生検を施行した。入院時検査所見(2009年7月):図⑦,⑧腎生検所見(2009年7月):図⑨,⑩,⑪,

    ⑫ 51個の糸球体が採取され半分以上の硬化を認める糸球体は完全硬化のものを含め,36個ほど認めた。半月体の形成が比較的目立ち,線維性半月体を1個,線維細胞性半月体を6個程度の糸球体に認め,線維細胞性半月体の中には,Segmentalだが細胞成分がやや目立つ半月体も見られ,血管炎の活動性を疑わせる。また,硬化した糸球体周囲の間質には,PATCHYな炎症細胞浸潤を認めるが,一部は軽度から中等度の単核細胞浸潤があり尿細管の委縮を伴っている。

    ネフローゼ症候群を呈しMPO-ANCA陰性となっても半月体形成が持続する腎炎の1例

    柳   麻 衣1  三 橋   洋1  金 岡 知 彦1東   公 一1  吉 田 伸一郎1  大 澤 正 人1田 村 功 一1  戸 谷 義 幸1  梅 村   敏1長 濱 清 隆2  稲 山 嘉 明2  

    (1横浜市立大学大学院医学研究科 病態制御内科学(2同 分子病態免疫病理学

    Key Word:若年発症,ANCA関連腎炎,遷延性蛋白尿,ステロイド治療

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    第53回神奈川腎炎研究会

  • 図1 図2

    尿所見比重 1.015pH 6.0

    蛋白 3+潜血 3+RBC >51 /HPF

    顆粒円柱 1-3 /WF蝋様円柱 1-3 /WF赤血球円柱 1-3 /WF尿蛋白 /Cr比 4.5 g/g Cr蓄尿:尿蛋白 5.5g /日Selectivity Index 0.32

    24時間Ccr 16.3 ml/min尿中β2-MG 7659 μg/l

    生化学TP 7.0 g/dl

    Alb 2.8 g/dl

    AST 13 U/l

    ALT 10 U/l

    ALP 143 U/I

    LDH 182 U/l

    γ -GTP 13 U/IT-Bil 0.3 mg/dl

    AMY 154 IU/l

    CK 92 U/l

    BUN 29 mg/dl

    Cr 1.92 mg/dl

    UA 5.6 mg/dl

    Na 140 mEq/l

    K 5.6 mEq/l

    Cl 107 mEq/l

    Ca 7.5 mg/dl

    iP 4.5 mg/dl

    CRP 1.31 mg/dl

    Glu 90 mg/dl

    T-C 249 mg/dl

    LDL-C 178 mg/dl

    TG 195 mg/dl

    免疫学的検査IgG 1577 mg/dl

    IgA 341 mg/dl

    IgM 207 mg/dl

    C3 103 mg/dl

    C4 43 mg/dl

    CH50 51.1 U/ml

    RF 2.7 IU/ml

    ANA 40×抗DNA抗体 陰性

    抗Sm抗体 陰性抗SS-A抗体 267抗SS-B抗体 13.3抗カルジオリピン抗体 陰性MPO-ANCA 89 IU/ml

    PR3-ANCA 陰性抗GBM抗体 陰性

    血算WBC 7600 /μ lRBC 384 万 /μ lHb 10.7 g/dl

    Plt 31.3 万 /μ l

    凝固APTT 35.2 秒PT(INR) 1.04

    Fib 532 mg/ml

    眼科受診シルマーテスト 右13m 左2mm両側の点状表層角膜炎あり

    入院時検査所見(2008年8月)

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    腎炎症例研究 27巻 2011年 第53回神奈川腎炎研究会

  • 図3 図4

    尿所見比重 1.021pH 7.5

    蛋白 3+潜血 -RBC 1-5 /HPF

    硝子様円柱 6-10 /LPF尿蛋白 /Cr比 2.9 g/g Cr蓄尿:尿蛋白 3.49 g/日Selectivity Index 0.43

    24時間Ccr 34.6 ml/min尿中β2MG 11136 μg/L尿中NAG 14.9 U/L

    生化学TP 5.6 g/dl

    Alb 3.2 g/dl

    AST 15 U/l

    ALT 21 U/l

    ALP 124 U/I

    LDH 318 U/l

    T-Bil 0.4 mg/dl

    CK 34 U/l

    BUN 35 mg/dl

    Cr 1.26 mg/dl

    UA 9.6 mg/dl

    Na 144 mEq/l

    K 4.4 mEq/l

    Cl 109 mEq/l

    Ca 8.5 mg/dl

    iP 2.6 mg/dl

    CRP 0.07 mg/dl

    Glu 113 mg/dl

    T-C 230 mg/dl

    LDL-C 120 mg/dl

    TG 211 mg/dl

    免疫学的検査IgG 553 mg/dl

    IgA 149 mg/dl

    IgM 180 mg/dl

    C3 86 mg/dl

    C4 28 mg/dl

    CH50 41.9 U/ml

    ANA 40×(SPEC)抗DNA抗体

  • 図5 2009年7月HE

    図6

    図7 2009年7月PAS

    図8 2009年7月HE

    問題点◦ ステロイドパルス後に比較的早期にMPO-

    ANCA陰性化し血尿は消失したが,2回目の腎生検では糸球体硬化が高度に進行しており,また少数ではあるが細胞性半月体も残存しており,現時点でもANCA関連腎炎の活動性が持続していると考えるべきか。◦ MPO-ANCA陰性化し血尿も消失したが,尿

    蛋白が持続しており,ANCA関連腎炎の活動性によるものというより,巣状硬化巣等の炎症後の変化に伴うものと考えるべきか。◦ 間質性腎炎を伴っており,これはシェーグレ

    ン症候群との関連と考えてよいか。◦ 上記を踏まえ今後の治療方針についても,コ

    メントいただきたい。

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    腎炎症例研究 27巻 2011年 第53回神奈川腎炎研究会

  • 討  論 座長 続いて I-2,「ネフローゼ症候群を呈し,MPO-ANCA陰性となっても半月体形成が持続する腎炎の一例」。横浜市立大学病態制御内科学,柳先生,お願いします。柳 横浜市立大学の柳です。よろしくお願いします。 症例ですが,41歳の女性です。現病歴ですが,平成16年に初めて健診で尿蛋白と血尿を指摘されております。平成17年4月に他院で腎生検を施行し,巣状糸球体硬化症の診断で経口ステロイド薬を開始となっております。その後,緩解しまして,平成18年10月よりステロイドが中止となっています。その後,平成19年9月から尿潜血が陽性となり,平成20年3月には尿蛋白,陽性。同年7月に血清クレアチニン値が1.3と上昇したため,MPO-ANCAを測定したところ,76と上昇を認めまして,同年8月に当科に紹介されまして,腎生検および加療目的で入院となりました。 既往症ですが,17歳で虫垂炎の手術。31歳で左乳癌の手術を受けておりますが,再発はなく他院でフォローアップ中です。また詳細不明ですが,シェーグレン症候群による脂肪織炎で平成15年8月と平成16年7月にプレドニン投与を受けております。家族歴ですが,妹に糖尿病があります。嗜好歴,アレルギー歴は記載のとおりです。 現症ですが,四肢に下腿浮腫を認める以外は特記すべき事項はありませんでした。

    【スライド】 第1回目の入院時の検査所見です。尿所見ですが,尿蛋白3+,潜血3+,沈渣でも多数の赤血球を認めております。また各種円柱を認めました。尿蛋白 /クレアチニン比4.5,蓄尿での尿蛋白は1日5.5gでした。selec-tivity indexは0.32と不良でした。クレアチニンクリアランスが16.3と低下しております。また尿中β2MGが7650と著明な上昇を認めておりました。血清生化学所見ではアルブミン2.8と

    低下しておりました。またアミラーゼは154と軽度上昇しておりました。BUNのクレアチニンが上昇しておりまして,腎機能障害を認めております。またCRPは1.31と軽度上昇を認めました。LDLコレステロール178と高脂血症を認めております。

    【スライド】 免疫学的検査ですが,免疫グロブリンに異常を認めておりません。補体の低下も認めませんでした。リウマチ因子は陰性でした。抗核抗体は40倍と軽度上昇を認めておりますが,抗DNA抗体,抗Sm抗体,抗カルジオリピン抗体は陰性でした。抗SS-A抗体,抗SS-B抗体の上昇を認めております。MPO-ANCAは89と上昇しておりましたが,PR-3 ANCA,抗GBM抗体は陰性でした。血算ですが,ヘモグロビン10.7と貧血を認めております。凝固系ではフィブリノーゲンが532と上昇しておりました。既往でシェーグレン症候群が疑われるということと,後は抗SS-A抗体,抗SS-B抗体が上昇しておりましたので,眼科を受診したところ,シルマーテストで右が13mm,左が2mmと,左のほうで低下しておりました。また両側の点状表層角膜も認めておりまして,シェーグレン症候群が疑われました。

    【スライド】 病理ですが,38個の糸球体を採取されております。そのうち6個ほど全節性の硬化を認めていました。間質には中等度の単核細胞浸潤を認め,また形質細胞の浸潤があり,ところどころ尿細管の萎縮を認めました。

    【スライド】 細胞性半月体を2個,線維細胞性半月体を7個,線維性半月体を1個の糸球体を認めました。またmesangial proliferationは軽度でした。

    【スライド】 蛍光抗体ではmesangium領域にC3の沈着を認めましたが,硬化した糸球体であって滲出性の変化が疑われました。またme-sangium領域に IgAの沈着も疑われました。電顕ではmesangiumにdense sub-stanceを認めていますが,糸球体が硬化しつつある上,IgA腎症で認められるような典型的なdense depositとは

    腎炎症例研究 27巻 2011年

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    第53回神奈川腎炎研究会

  • やや異なっており,滲出性のものであると考えました。同様のdense substanceが上皮下とおぼしき部分にも見られました。足突起の癒合が目立ちました。

    【スライド】 臨床経過ですが,2008年9月に第1回の腎生検を行いまして,その直後にメチルプレドニゾロンを1g,3日間によるステロイドパルス療法を施行しました。その後,プレドニン35mgから後療法を開始しまして,徐々に ta-peringをいたしました。2008年11月にはMPO-ANCAが陰性化し,2008年12月には尿潜血も陰性化しました。しかし,血清クレアチニン値は一時3.6まで上昇し,速やかに低下したのですが,尿蛋白はご覧のとおり持続いたしました。外来でプレドニゾロン,tapering中に再度,尿蛋白が一時上昇し,プレドニンをさらに30mg増加いたしまして,ただその後も尿蛋白が若干減ったのですが持続するために第2回の腎生検を2009年7月に施行しております。

    【スライド】 2回目の入院時の検査所見です。尿所見ですが,蛋白3+を認めておりますが,潜血は陰性となっています。円柱は硝子様円柱を認めましたが,ほかの円柱は陰性となっておりました。尿 /蛋白クレアチニン比は2.9,蓄尿での尿蛋白は1日3.49gでした。selectivity indexは0.43と不良でした。クレアチニンクリアランス34.6と低下しておりますが,前回入院時よりは改善しておりました。また尿中β2MG,尿中NAGともに上昇しておりました。生化学所見ですが,総蛋白,アルブミンの低下を認めております。BUNのクレアチニンは35の1.26と上昇しておりますが,前回入院時よりは改善しておりました。CRPは0.07と陰性でした。

    【スライド】 免疫学的検査ですが,IgG553と低下しておりました。また抗核抗体は40倍と軽度上昇しておりました。抗SS-A抗体39.5と上昇しておりましたが,抗SS-B抗体は陰性化しておりました。MPO-ANCAも陰性化しております。血算ですが,ヘモグロビン10.0と貧血を認めております。

    【スライド】 第2回目の腎生検ですが,51個の糸球体が採取されております。半分以上の硬化を有する糸球体は完全硬化のものも含め36個程度認めております。ほかの糸球体も程度の差はありましたが,比較的高度の硬化を伴っていました。また間質ではpatchyな炎症細胞浸潤を認めました。

    【スライド】 半月体の形成が目立ち,線維性半月体1個,線維細胞性半月体は6個ほどの糸球体に認めました。

    【スライド】 左上のほうですが,線維細胞性半月体で癒着,巣状硬化層を伴っています。右下のほうですが,segmentalですが,細胞性の目立つ半月体が見られます。この所見からは活動性を疑わせる所見と考えました。

    【スライド】 間質にpatchyな炎症細胞浸潤を認めましたが,この左上のものですが,それは硬化した糸球体の周囲でした。ただし,一部では軽度から中等度の単核細胞浸潤を認め,尿細管の萎縮も伴っていました。硬化した糸球体の数が多くて,蛍光抗体,電顕には糸球体が含まれておりませんでした。

    【スライド】 この症例での問題点ですが,ステロイドパルス後に比較的早期にMPO-ANCAが陰性化し,血尿も消失しておりましたが,2回目の腎生検では糸球体の硬化が高度に進行しておりまして,また少数ではありますが,細胞性半月体も残存していて,現時点でもANCA関連腎炎の活動性は持続していると考えるべきでしょうか。 またMPO-ANCAは陰性化し,血尿も消失しましたが,尿蛋白が持続しておりまして,ANCA関連腎炎の活動性によるものというよりも,炎症後の巣状硬化層などの変化に伴うものと考えるべきでしょうか。また間質性腎炎を伴っておりまして,これはシェーグレン症候群との関連を考えてよいでしょうか。 上記を踏まえまして,今後の治療方針についてもコメントをいただければ幸いです。以上です。

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    腎炎症例研究 27巻 2011年 第53回神奈川腎炎研究会

  • 座長 ありがとうございました。早速,臨床のほうで質問やコメントがありましたら,お願いします。前田 大変面白いと思いますが,尿中β2ミクログロブリンを測っていますね。あれが第1回目に比べて,第2回目が多いですね。それはやっぱり間質性変化が強くなったというふうに考えるんです。ただクレアチニンクリアランスはむしろ良くなっています。それは本当に良くなったのか,それとも尿を,どこかを取るところが抜けているのか,それはどうなんですか。その辺の検討についてうかがいたい。柳 恐らく蓄尿がきちんとできていましたので,クレアチニンクリアランスはきちんと評価されていると思うのですが,恐らくクレアチニンクリアランスが2回目のほうが良くなっていたというのは,ステロイドの治療によって半月体形成の糸球体腎炎のほうが良くなって腎機能としては良くなったのではないかと考えております。前田 β2が尿中で増えているというのは。柳 そうですね,間質性腎炎については,まだちょっと活動性が高いのではないかというふうに考えています。前田 だからβ2だけではなくて,ほかのアルカリフォスファターゼとか,ほかの酵素を測ってみるとそれは分かるのではないかと思う。もし,こういう症例が出たときに尿中のそういうのを検討していただけたらありがたいかなと思います。柳 ありがとうございます。座長 ありがとうございました。ほかに臨床の面でお願いします。原 虎の門病院の原です。一つお教えいただきたいのですが,MPO-ANCAはdouble negativeでしょうか。ANCAはELISAで測るのと,もう一つ蛍光抗体法で見るANCAともに陰性のdouble negativeなのかどうかとうかがいたかったのです。柳 現時点でですが,ELISAでしか測ってない

    と思うのですが,すみません。原 MPO-ANCAは,両方が-の場合と片方が+の場合,両方+の場合があります。MPO-ANCAというのが最初は分からないのですが,変化しうるものなのかどうかというところで,完全にnegativeといっていいのかどうかと思いまして。柳 調べておりませんでしたので,ありがとうございます。原 それから第1回目の腎生検所見というのは,よそでやっていらっしゃいますよね。柳 ここで申し上げている第1回目というのは当院で行った第1回目で,確かにその前に他院でやっているのですが,そちらのほうは問い合わせたのですが,詳細不明でわたしどもは病理をあまり確認できておりません。原 分かりました。最初の他の病院の腎生検所見とか,その当時の所見が分かれば,今回3回目の腎生検ですから病変の推移や診断に関してより適切と思ってうかがいました。どうもありがとうございました。柳 ありがとうございます。申し訳ありません。座長 ありがとうございました。ほかにご意見,コメントはないでしょうか。では早速,病理のほう,ご検討をお願いします。重松先生,お願いします。重松 この病変を演者はANCAの半月体形成性の腎炎がずっと持続しているという見解をお取りになっているというふうに聞いたのですが,本当にそれでいいだろうかということをお話ししてみたいと思います。

    【スライド01】 第1回目のbiopsyですが,この時点で間質の細胞浸潤もさることながら,かなり硬化糸球体もあるし,間質の線維化もある。だからこれは急性RPGN症候群が来る前に病変があった。それがFGSで説明できるかどうかということがあると思います。

    【スライド02】 この続きの標本ですが,フレッシュなANCA関連の腎炎が加わった部分もあるし,それから前のFGSと診断を受けたそれ

    腎炎症例研究 27巻 2011年

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    第53回神奈川腎炎研究会

  • が持続しているところも,どうもありそうだということであります。

    【スライド03】 それで病変として見られるのは,こういう多くは segmentalのFGSまがいの病変がまずあることが一つ指摘されます。

    【スライド04】 それからRPGN,ANCA関連の糸球体腎炎というためには,とにかく病理ではnecrotizing lesionが必須で,この病変はnecrotiz-ing and crescentic GNでANCA関連腎炎の一つの特徴です。基底膜が断裂して,しかもそれがpauci-immuneで起こってきているという,こういう壊死巣があるということは,これは確かにこの標本ではANCA関連の糸球体腎炎が起こっているという大きな組織学的な証拠になると思います。

    【スライド05】 これはPAM染色のものと同じところですね。PAS染色でも一緒だけれど,PAMのほうが鮮やかに見られると思います。こういうfibrinoid necrosisといわれるような病変を糸球体の中に見つけることがANCA関連の糸球体腎炎をうんぬんするときに一番大事なところではないかと思います。

    【スライド06】 この症例ではmesangiumにはかなり硬化があるわけです。そういう硬化があるところにバーッと壊死性病変,これはfibrinoid壊死ではないですが,基底膜が断裂して管外病変が起こっていますね。これもANCA関連腎炎として見てもおかしくない。ただ,こういう硬化が先行しているということは,これはANCAだけの腎炎ではどうもないということが言えるのではないかと思います。

    【スライド07】 ここは半月体になってしまっていますが,これはANCAでも起こることですね。半月体ができています。

    【スライド08】 これはFGS的なところがあって,そこに半月体様の病変がありますので,これはANCA関連の糸球体病変というよりも,むしろ最初,FGSだと診断を受けた,その病変がまだ一方ではあるということを示している所見ではないかと思います。

    【スライド09】 ここでは硬化してしまったところのほかに,かなりフレッシュな半月体形成があって,ボーマン嚢が破れて間質のほうに炎症が進展している。こういうのもANCA関連の腎炎でよくあることです。

    【スライド10】 ここなんかはこれだけ硬化が急に一遍に起こるということは考えにくいですから,これは先行病変で起こったところにpseudo-tubular reactionみたいなのが起こっている変化だというふうにわたしは見ました。

    【スライド11】 それで蛍光抗体を見てみますと,IgAは十分に軸部に染まっていると思います。だから IgA腎症があるのだろう。それから IgMも染まっていますね。ただ IgAがこれだけパターンとして染まっているのだとすると,FGSというふうに見られたその変化も IgA腎症のFGSのタイプを取るような亜型がありますから,そういうもので考えても矛盾はないとわたしは考えました。

    【スライド12】 そして電顕はたくさん撮ってあって非常にありがたいのですが,なかなか解析が難しいです。解析ができる例ですが,ここは基底膜で,ここはcapillary lumenですね。そうしてきますと,ここにあるのは半月体ということになります。半月体の中にはこういう遊走細胞のmonocyteがあるし,上皮細胞の変性したものも入っている。基底膜はBowman's capsuleがまだちゃんと保持されています。

    【スライド13】 これも半月体のところだと思うのですが,ここはBowman's capsuleがずっとちゃんと厚みは持っていますが,ここだけ急に細くなってしまって,まだ破けていませんが,この半月体が破け出る寸前みたいな状態である。ここにもやはり上皮細胞だけではなくて,炎症細胞,macrophageがたくさんの lysosomeを持って入り込んでいます。

    【スライド14】 それで IgA腎症ならばdepositが見えるはずだということですね。こういうANCA関連腎炎みたいに管外性になるような激しい炎症があると,IgAのdeposition自身が

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    腎炎症例研究 27巻 2011年 第53回神奈川腎炎研究会

  • washed outされてしまうということで IgA沈着が落ちることがあるのですが,この症例では結構残っていると思います。

    【スライド15】 何か変な膜構造がスライド上に出てしまいましたが,structureではなくて何かの画像を作る上での間違いで入ってしまったので,無構造のdepositがあるということです。これはmesangium細胞です。

    【スライド16】 そして今度はB2に入ります。B2ではご覧のようにglobal sclerosisになったのが過半数あって,間質には石灰沈着もあるようです。

    【スライド17】 恐らく管外性病変であるものは治療が効いて部分的な硬化巣になっていると見られます。

    【スライド18】 それからここなんかも恐らく管外性の部分が硬化を起こして細胞線維半月体様のものになっているということです。ここのところは癒着病変で,これはFGSとか IgA腎症なんかでも見られる変化で,これが炎症として持続しているということは確かだと思います。

    【スライド19】 これも恐らく管外性病変が硬化して,ここでは炎症は終結しているとみなしていいと思います。

    【スライド20】 これは山口先生がお出しになると思いますが,間質の病変が強いので,尿細管がつぶされてしまってできたatubular glom-erulusです。間質が硬化,癪痕化するとよく起こってくる現象です。

    【スライド21】 線維性の半月体になったりして,管外性の病変は大体決着がついて,ANCAが陰性化すると同時にその病変も落ち着いているのだけれども,最初にFGSといわれた病態はまだ続いているというのがB1,B2を通して見たわたしの印象です。 そういうことで,とにかくANCA関連の腎炎で一番大事なのは,係蹄壊死を伴った糸球体があるのか,ないのかということですね。これがあった場合には,まだ炎症が持続していることになりますが,この症例ではB2になるとこ

    れがゼロになっていますね。管外性病変はある程度残っていますから,治療が効いて治るものは治ってしまう。そして駄目なものは全節性硬化になるので,全節性硬化は増えています。けれども,やはり分節性病変というのは依然として残っているわけですね。ということでわたし自身は,これは IgA腎症がずっと初めからあって,その間にANCA関連の腎炎がばっとかぶって,そしてその腎炎は治療によって改善されて,そしてまだ IgA腎症としての慢性の炎症経過は依然として残っている。そういうふうに解釈いたしました。以上です。座長 ありがとうございました。では引き続き,山口先生,お願いします。山口 いみじくも原先生が言われた最初の生検の情報がわれわれにないということが,2番目,3番目の生検をどう解釈するかということで,随分左右されてしまう症例だろうと思います。重松先生はFGSといっても IgAがある程度古くなるとFGS様の病変になりますので,それだろうと。僕はあまり考えなくて,ANCA関連腎炎でも(★②21:38 /一語不明,スモールザリング)のものはFGS likeになって,ときどき間違えられて見られていることがありますので,ずっと連続してANCA関連腎炎が続いているのかなというふうに割り切って考えてしまいました。そうするとそれによって,また見方が変わってしまうんですね。ですから,やっぱり最初の生検でどういう情報があったのかを,正確にわれわれのほうに言っていただかないと,この症例の解釈がだいぶ変わると思います。 それから私自身,シェーグレンがあるという話を,プロトコルだけを見ただけでは全くありませんでしたので,またそこを解釈し直さないといけないということがありますね。なるべく情報は前もってすべて出しておいていただきたいなと思います。

    【スライド01】 比較的弱拡で見ますと,びまん性の間質炎あるいは尿細管炎,それから糸球体には比較的新旧の糸球体炎,それから古い

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  • つぶれ,そういったものが混在しているんですよね。場所によってやられ方が非常に違います。もちろん間質炎が非常に強いというのは,ANCA関連腎炎では特徴的な所見ですし,古いつぶれでリンパ濾胞様になってくるのは,もしかしたら,それはシェーグレンが絡んでいるのかもしれないと言われれば,それまでになってしまいますね。尿細管上皮障害もある。

    【スライド02】 こういうのはANCA関連でも,ある程度globalにつぶれていますが,後で銀で確認すればcrescenticなもので scleroticになってきたということがうかがえるわけですよね。fibrinがfibrinoid壊死があって一部は scarになっているということですね。あと尿細管障害と赤血球円柱が見られています。

    【スライド03】 この辺はどちらかというとperitubular capillaritisですね。毛細血管炎。これもANCA関連腎炎で非常に出やすい病変です。シェーグレンですとperitubular capillaritisはそんなに目立たないですね。それから非常にmildな tuft necrosis,necrotizingな病変ですね。あるいはこういうところもそうです。 ではmesangium側の反応があるのか。IgA腎症があるのか,ないのか。なかなか難しいように思います。われわれもときどきmesangial deposit,paramesangial depositがはっきりしている症例はいいのですが,分からない症例ですと,光顕でもPAMでもparamesangial depositを見逃してしまうことはよくあります。 この辺はどうでしょうか。少し増殖性の病変がある。あるいは外来性の細胞がだいぶ入り込んでいますが,こういう segmentalな病変のあるところというのは,どうしてもhypercellularになる。あるいは外来性の細胞も入り込んでくるということで,もともと IgA腎症があるかどうかというのは,これだけでは分からないですね。

    【スライド04】 先ほどつぶれたところはどうでしょうか。少し新旧が。だから平成16年のFGSといわれた時点での病変が,というか,そ

    こから連続しているのが,いつから始まった。大体crescentでも半月ぐらいで scleroticになりますので,これ自身はボーマン嚢が壊れてfi-brous crescentになっていますので,一部は少しcellularなところ。後でアクティビティを見る上で非常に重要だと思います。この辺はほとんどfibrousになって tuftが巻き込まれて scleroticになってきているわけで,全部crescentの病変ということで tuftが二次的にそこが ruptureしてscleroticになったと考えれば,crescenticなものだけで十分解釈が可能であるということです。plasma,リンパ球が比較的びまん性に出ていますが,これもANCA関連ですから,当然ありうると思います。それから尿細管上皮障害もあります。

    【スライド05】 先ほどの tuft necrosisのところですね。こういうような軽いfibrin様のmaterialが外へ出ていますが,こっち側の,mesangium側の反応というのはないです。ただ,ここは病変がもっと幅が広いのだろうと思うので,こういうようにちょっと分からなくなっています。mesangiumのところが全体にhypercellularで外来性の細胞が混ざっていたところですね。それから尿細管炎も,もちろんシェーグレンでも尿細管炎は出てきますが,ANCA関連腎炎でもlymphocyticな tubulitisというのが大体。好中球,neurotrophicな tubulitisと,一応,最近は入ってきている細胞によって区別しようという考え方が出てきています。

    【スライド06】 先ほど,これは重松先生がちょうど銀で見せたところのMassonですね。fibrin materialで tuftがnecrosisになって,ここが線維性に置換しますと segmental sclerosisになってしまうわけですね。じゃあ,ここに古いのがあるではないか。よくANCAでも新旧がいろいろ混ざるということはあります。

    【スライド07】 全く銀で同じで,fibrinoid ne-crosisで,あちこちで tuftが消失して,そこの部分は最終的には sclerotic。ただ,こちらは少し古いんじゃないのと言われれば,恐らくそう

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  • だろうと思います。ただ原因はこちらで来ても,そう変わらないようには思います。

    【スライド08】 こういうようにあちこちに癒着病変があるので,これは IgAでも来るだろう。それから内皮が嫌に増えたように,あるいは二重化が起きている。血行動態が非常に異常な状態になってきているわけで,もちろんこういう小さなfibrous cellular crescentということも否定できないように思います。

    【スライド09】 cellular crescentで部分的には明らかにcrescentの病態が不随していることは間違いないです。

    【スライド10】 これは尿細管間質炎が非常に強いところですね。いわゆる tubulitisが非常に顕著なところ。あるいはperitubular capillaritisの 顕 著 な も の で す。peritubular capillaritisがANCAでは先行する場合も,そういう症例も報告されていますし,あるいは尿細管炎も実際にわれわれは,ANCA関連の場合は,大体は随伴するということは見ています。

    【スライド11】 ですからこれだけではいわゆるシェーグレンによる病変なのか。こういうapoptotic bodyもありますし,尿細管炎が起きていることは事実だろうと思います。peritubular capillaryも少し炎症細胞浸潤があって tubulitisを起こしてきている。apoptotic bodyも上皮細胞のapoptotic bodyも見られるということだろうと思います。

    【スライド12】 rebiopsyがこれです。いろいろなつぶれ方をしています。こういうように尿細管間質が非常に幅広く障害を受けてしまっている場所です。それからこのようにatubularになってglobalな scleroticに完全になってしまっている領域。ですから尿細管もだいぶ混ざっていますから,われわれは例えばANCAですと,動脈炎が何か随伴していなかったかどうか。そういったことも一応考えなくてはいけない。生検でうまく動脈炎がつかまってくることはなかなか少ないように思います。

    【スライド13】 あるいはこのように軽いとこ

    ろもあります。尿細管系が比較的よく残っています。リンパ濾胞様のところで segmentalなscleroticな病変が主体で病変も全周性ではなくて,比較的軽微なところで尿細管も比較的保存されて,capillarisとか tubularisはほとんど見られない場所もあります。

    【スライド14】 あるいはリンパ濾胞様に集積してくる。ANCAでわれわれは rebiopsyの症例を何例か見ましたが,濾胞様に残っていた症例もあったようには思います。globalにつぶれてきて,あるいは segmentalに硬化してきている。

    【スライド15】 ほとんどこういうつぶれた糸球体は tuftの一部が不完全な形で残っていますので,こういうようにfibrousなものに置換されて向こう側に tuftの一部が残っていますので,ほとんどcrescenticに障害を受けてつぶれてきた糸球体ということが言えると思います。

    【スライド16】 ちょっと分からないのももちろん。少し毛細血管腔が残っているので,虚血とは言えない。やはりcrescentでボーマン嚢がなくなっていますから,crescenticでいいのだろうとは思います。間質炎の程度は糸球体のつぶれのわりには間質炎がまだ比較的残っているかなという印象はあります。ただ,全然ない場所もあるんですね。

    【スライド17】 しつこいようですが,このように tuftが部分的に残っていますから,こういうのは,やはり虚血では言えませんので,大部分は,糸球体全体が大きいですね。やはり scarになった糸球体ということが言えると思います。完全にこういう炎症細胞がなくならないのも,組織修復がまだ十分に終わっていないということを示唆しているのだろうと思います。

    【スライド18】 それでactive lesionと見るかどうかの問題です。演者は細胞がこういうところにいる。それから硬化,癒着がある。それからこういうところも細胞が少しいます。adenoma-toid。日医の山中先生たちはadenomatoidの所見を連接して,基本的にはadenomatoidというのは,修復起点であってアクティブなcellularな

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  • 変化とは言えないというふうに山中先生も言っていらっしゃるのですが,こういうところを修復性の上皮の liningと見るかどうかなのですね。それをcellular crescentと言ってしまうかどうか。そこが見解が違ってくるところですね。比較的こちらは尿細管系はよく残っています。

    【スライド19】 ですからこういうところですね。どうするか。確かに細胞は多いんですね。こういうところもそうです。ただ,こういうのは,いわゆるadenomatoidで連続切片を切っていきますと,ボーマン嚢腔につながった lumenが,上皮がそこを liningするのであるということが連続切片の山中先生たちの仕事では確認されているわけで,そうしますと癒着とか硬化性の病変が尿細管極の腔につながっていますと,このような上皮の liningがあちこちに起こる。それは修復起点として行われるわけで,アクティブなcellular crescentとは言えないということですね。

    【スライド20】 似たような,この辺をどう見るかです。確かに細胞が多いのです。ただ癒着して,硬化している。こういうふうになっていれば,われわれは何も問題を感じないのですが,このような上皮が反応して,そこを置換してくるということです。それから部分的にcastがあって,間質炎と尿細管炎がまだ部分的に残っているようなところがあります。

    【スライド21】 後はつぶれがよく分からなかったのも,globalでcrescentの跡があまりはっきりしないつぶれがあります。これは IgA腎症がベースにあってつぶれてきたのか。真ん中にcollapseしているわけではないのですね。断裂もない。よく分からないつぶれがあります。それからatubular,これは尿細管炎でatubularになってもいいと思います。こちらがどちらとも言えない病変だろうと思います。

    【スライド22】 間質炎が強くて,巨細胞なんかが反応しているところが部分的に。それから好中球,cell debrisみたいなものが尿細管炎,先ほど尿細管系のデータがまだ残っているとい

    うことで,もしかしたら糸球体よりは尿細管間質炎のほうが普通は残っていることはあまりないのですが,そちらが残ってしまっているのかなと。シェーグレンとは私自身は分かりませんでしたが,何かそういう病変が持続してしまっているのかなというふうには思います。

    【スライド23】 IgAは,これは1+なので,われわれはmesangial IgA depositionというのは1+以下ということにしていますので,C3も出ていますので,顕性の IgA腎症,あるいはme-sangial IgA depositionでも,どちらでも取りうる所見だろうと思います。

    【スライド24】 電子顕微鏡は先ほど重松先生がcrescentがあるということと,depositが何カ所か,paramesangialあるいはhANP likeのものがあったように思います。

    【スライド25】 これがそうですかね。上皮下沈着物,hANP様のものですかね。それから好中球,macrophageが基底膜の断裂を起こしているように思います。これも好中球か何かだと思います。paramesangium,どこでしたか。この辺にかすかにあるかなという程度で,そんなにdepositが目立たないように思います。

    【スライド26】 これは間質炎でplasma,リンパ球が主体です。

    【スライド27】 先ほど重松先生が分布でパーセンテージをきれいに出されたのですが,確かにcellularなものは少なくてfibrous cellularで,やはりnecrosisはいみじくも重松先生と同じ数になったので僕も安心したのですが,normalなものもある。それからperitubular capillaritis,tubulitisがあるということですね。この問題はfibrous,adenomatoid crescentというのは基本的におとなしくなったcrescentである。with seg-mental sclerosisというのはほとんどで,それを既存にFGSがあったかどうかというのは,これは一番最初の生検をもう1回,見直さない限りは結論は出ないように思います。sclerosisがやっぱりglomerular cystも二次的に出てきた。これは,私自身は逃げています。どちらでもい

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  • いという考え方であります。hANP様のもの,それからparamesangialにdense depositがあるということですね。

    【スライド28】 最近はいわゆる renal progenitor cellでCD24とCD133陽性のものがボーマン嚢上皮にあって,それがいろいろな修復に働くということです。尿細管の修復にも働きますし,あるいは上皮のpodocyteの,われわれはよくこういうところは transitional cellというか,両方,foot processを持ったpodocyte。ですから(★②39:57 /一語不明)が陽性のものもボーマン嚢側に見ることはあります。血管局部側に比較的多いです。この細胞はどちらにも移行しますし,修復にも働くということで,この症例はシェーグレンがどのくらい絡んでいるのか,あるいは最初の IgA腎症がどのぐらい絡んでいるのか,非常に分からないですね。ただ糸球体に関しては,あまりアクティビティはなくて,tubularinterstitialに,じゃあ,なぜ蛋白が出ているのか。全体に非常に硬化が進んでしまっていますので,ある程度,8割ぐらいはつぶれてきていますから,hyperfiltrationの影響も少しはあるのだろうと思われます。以上です。座長 ありがとうございました。実はこの患者さんは,僕が外来で診ている患者さんで共同演者ということになるのですが,シェーグレンのことのご連絡がなくてすみませんでした。それで実際,今のお話から言うと,ANCA自体は2回目のbiopsyを見る限り,落ち着いてというか,修復過程にあると両先生がおっしゃっていましたので,そう思います。やはり一番大事なのは,今,聞いていて,一番最初の腎生検で何があったかというのが,やはり今後の治療にすごく大事かなと思いました。 実際,この方は42歳ぐらいの女性の方で,ステロイドで今,白内障が出てしまって,今後どう治療していくかということを本当に悩んでいる状態でして,ANCAがもし再発で,一番最初から実はANCAであれば,今後ももしかしたらANCAの再燃ということがあり得るので,

    完全にステロイドを切るというわけにはいかないのかなと。 あと IgA腎症があれば,少し硬化が進んでいるので,積極的な治療にならないのかもしれないのですが,その辺,やはり一番最初の腎生検をもう一度,何とか手に入れて検討をしたいと思いました。ほかにご意見,コメントがありましたらお願いします。乳原 虎の門病院腎センターの乳原です。質問ではないのですが,ちょうどこの患者の年齢が40歳ですね。尿所見が出てきたのが4年前だから,36歳発症ということになり若年発症のANCA関連疾患ということになります。ANCA関連疾患の多くの症例が60代や70代という高齢発症であり,急速に腎機能が悪くなる症例が大多数だと思います。腎生検をしてみると半月体形成が主体の半月体形成性腎炎と診断されます。一方で10代,20代,30代発症のANCA関連疾患があります。この場合の腎組織像や臨床像についてはあまり報告されていないので詳細は不明ですが,高齢者のものとは少し違うように思えます。我々の経験した症例を含めて若年齢の報告もみますと発症時或は診断時の腎機能が高齢者のものと比べると少しよい症例が多いようです。すなわち,Creが1-2ぐらいの症例が目立つようです。我々が経験した30代の症例では,Cre2.5mg/dLの症例で,ANCA値は70-80IUで腎生検では半月体形成は目立たず巣状糸球体硬化症(FGS)と診断されました。その症例はステロイド治療をしましたところ,腎機能もANCA値も良くなってくるのですが,数年たってステロイドを減らしてくると再発するといったことを繰り返しました。10年たってもう一度腎生検をしますとやっぱり半月体形成は目立たずFGS的なのですが,よく見ると係蹄壁の断裂とfibrinoid沈着が目立ち壊死性血管炎と診断されました。10年前のものをもう一度見直してみますとFGS的ではありますが壊死性血管炎と診断されました。臨床像も高齢者では最初にステロイド治療でしっかり治療する

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  • と腎機能もANCA値も落ち着く症例が多いように思えるのですが,若年齢ではステロイドに反応するのですが容易に減量により再発してステロイドが切れず,すっきりしない症例が多いように思えます。あげくのはては徐々に腎機能が悪くなり透析ということになる症例もあるようです。この症例もこのような群に属するのではないかと思えますし,こういう症例をどう治療していくかというのが今後一番の問題だと思います。座長 ありがとうございました。ほかにコメントあるでしょうか。柳先生,ありがとうございました。第 I部を終了します。

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