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-38- 菊 池   匠 *1 岡 野 正 嗣 *1 箱 田 浩 二 *1 Takumi KIKUCHI Tadatsugu OKANO Koji HAKODA 新型 FCV 向けバルブ製品開発 -水素,エア制御バルブ- Development of Valve Products for New FCV Hydrogen, Air Control Valves 技術紹介 1.まえがき 持続可能なエネルギー社会の実現に向けて, FCV(燃料電池自動車)の開発が進められてい る.ホンダは,2016年3月に将来の普及を考 慮したモデルとして,新型 FCV のリース販売 を開始した (1) 一般的に,FCV用燃料電池スタック(スタッ ク)は,高圧タンクから供給される水素と,エア ポンプから供給されるエアを燃料として電力を 発生させる.実際の車両においては,起動時,停 止時,及び車両要求出力に応じて,スタックへ の各供給ガスの流量や圧力を細かく制御する必 要がある.そのため,水素系とエア系システム には,様々なFCV専用の電動制御バルブが組み 込まれており,ECUを介して制御されている. ケーヒンは,自社ガソリン車向け製品及び NGV(天然ガス自動車)製品の技術を応用し, FCV 専用の制御バルブを長年開発してきた. 本報では,新型 FCV に搭載された,水素系,エ ア系それぞれのバルブの機能と概要を紹介する. 2.システムと製品 2.1. 全体概要 Fig. 1 は,新型 FCV に搭載された水素系, エア系のシステムを示す.水素系システムは, 大別すると高圧水素系と,低圧水素系に分け られる. 高圧水素系のシステムには,水素ステー ションとの接続部となる充填口(Receptacle), 水素タンク充填時の流路とスタックへの水 素供給及び遮断を行うタンク主止弁(Intank Valve) (2) ,水素タンクから供給されてきた圧 *1 開発本部 第9開発部 ※ 2016 年 7 月 28 日受付 FCV has been developed to realize the sustainable society. Honda started lease of new FCV as the proto model for the future mass production on March 2016. Generally, a fuel cell stack of FCV generates power with hydrogen supplied from high pressure tanks and air supplied from an air pump as fuels. A vehicle requires the control of gas pressure and flow rate for FC under the situation such as ignition on/off, and necessary output power. Therefore, the hydrogen and air systems have various electronic controlled valves which are operated through the ECU. Keihin has developed FCV special valves for a long time, applying the technology of NGV and ICE products. In this paper, we introduce the functions and profile of the valves installed in the hydrogen and air systems of the new FCV. Fig. 1 System chart Air Supply Air system Hydrogen system Hydrogen supply Receptacle High Pressure Device Low Pressure Device Intank Valve Regulator Injector Injector Ejector Unit Ejector Stack Purge Valve Drain Valve Bypass Valve Stack Bypass Valve Cathode Cut-off Valve Cathode Cut-off Valve Humidifier TANK Pressure Control Valve Air Pump
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新型FCV向けバルブ製品開発 -水素,エア制御バルブ-...FCV専用の制御バルブを長年開発してきた. 本報では,新型FCVに搭載された,水素系,エ

Jan 20, 2021

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新型 FCV 向けバルブ製品開発 -水素,エア制御バルブ-

菊 池   匠*1 岡 野 正 嗣*1 箱 田 浩 二*1

Takumi KIKUCHI Tadatsugu OKANO Koji HAKODA

新型 FCV 向けバルブ製品開発※

-水素,エア制御バルブ-Development of Valve Products for New FCV

– Hydrogen, Air Control Valves –

技術紹介

1.まえがき

持続可能なエネルギー社会の実現に向けて,FCV(燃料電池自動車)の開発が進められている.ホンダは,2016年3月に将来の普及を考慮したモデルとして,新型FCVのリース販売を開始した(1).一般的に,FCV用燃料電池スタック(スタッ

ク)は,高圧タンクから供給される水素と,エアポンプから供給されるエアを燃料として電力を発生させる.実際の車両においては,起動時,停止時,及び車両要求出力に応じて,スタックへの各供給ガスの流量や圧力を細かく制御する必要がある.そのため,水素系とエア系システムには,様々なFCV専用の電動制御バルブが組み込まれており,ECUを介して制御されている.ケーヒンは,自社ガソリン車向け製品及び

NGV(天然ガス自動車)製品の技術を応用し,FCV専用の制御バルブを長年開発してきた.本報では,新型FCVに搭載された,水素系,エ

ア系それぞれのバルブの機能と概要を紹介する.

2.システムと製品

2.1. 全体概要Fig. 1 は,新型 FCVに搭載された水素系,

エア系のシステムを示す.水素系システムは,大別すると高圧水素系と,低圧水素系に分けられる.高圧水素系のシステムには,水素ステー

ションとの接続部となる充填口(Receptacle),水素タンク充填時の流路とスタックへの水素供給及び遮断を行うタンク主止弁(IntankValve)(2),水素タンクから供給されてきた圧

*1開発本部第9開発部

※2016年7月28日受付

FCV has been developed to realize the sustainable society. Honda started lease of new FCV as the proto model for the future mass production on March 2016.

Generally, a fuel cell stack of FCV generates power with hydrogen supplied from high pressure tanks and air supplied from an air pump as fuels. A vehicle requires the control of gas pressure and flow rate for FC under the situation such as ignition on/off, and necessary output power. Therefore, the hydrogen and air systems have various electronic controlled valves which are operated through the ECU.

Keihin has developed FCV special valves for a long time, applying the technology of NGV and ICE products.In this paper, we introduce the functions and profile of the valves installed in the hydrogen and air systems of

the new FCV.

Fig. 1 System chart

AirSupply

Air system

Hydrogen system

HydrogensupplyReceptacle

High Pressure Device

Low Pressure Device

Intank Valve

RegulatorInjector

InjectorEjector

Unit

Ejector

Stack

Purge Valve

Drain Valve

Bypass Valve

Stack Bypass Valve

CathodeCut-offValve

CathodeCut-offValve

Hum

idif

ier

TA

NK

PressureControlValve

AirPump

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ケーヒン技報 Vol.5 (2016)

力を減圧させる減圧弁(Regulator)が搭載されている.低圧水素系のシステムには,スタックへの

燃料供給圧及び流量を制御する流量調整弁(Injector)とその流速を利用してスタック出口の余剰水素を循環させるエゼクタ(Ejector)機構とを組み合わせた,インジェクタエゼクタユニット,スタックから出る水及び不純物を排出するパージ弁(PurgeValve),スタックから出る水を主に排出するドレイン弁(DrainValve)が搭載されている.エア系システムには,エアポンプからス

タックへ供給されるエアの圧力を制御する背圧制御弁(Pressure-Control Valve),エアの湿度を調整する加湿器バイパス弁(BypassVa l v e),エアポンプからの余剰なエアを排出させるスタックバイパス弁(StackBypassValve),停止後にスタック内にエアの流入を封止する封止弁(CathodeCut-off Valve)がスタック入口/出口に搭載されている.続いて,各システムにおける製品詳細を以

下にて説明する.

2.2. 高圧水素系製品技術概要対象製品は,タンク主止弁,減圧弁,充填口

である.本報では,タンク主止弁と減圧弁について

紹介する.2.2.1. タンク主止弁

供給流路を共有化した.駆動構造は,高差圧での作動性と小型化を

考慮してキックパイロット構造を適用した.パイロットバルブには,樹脂を採用することで,気密性,強度,耐久性を確保させている(3).軽量化,コストダウンとして,ボディにアル

ミの鍛造製法を採用した.本タンク主止弁は,高圧ガス保安法国際

圧縮水素自動車燃料装置用附属品の技術基準に基づく設計確認試験及び,UN G l ob a lTechnical Regulation(世界技術規則:GTR)No13 に適合している.

2.2.2. 減圧弁

Fig. 2 Intank valve

Fig. 4 Injector assembly

Fig. 3 Regulator

小型,軽量化を目的とし,ピストン式受圧構造を採用した.バルブ構造は,NGV の減圧弁技術を応用することで,高精度の減圧を一段で可能とし,高い締め切り性能も有している.軽量化,コストダウンとして,タンク主止弁

と同様にアルミの鍛造製法を採用した.

2.3. 低圧水素系製品技術概要低圧系の製品は,インジェクタエゼクタユ

ニット,パージ弁,ドレイン弁であり,以下に詳細を説明する.

2.3.1. インジェクタエゼクタユニット

水素タンク用バルブとして,小型,軽量化を考慮し,インタンク式の構造を採用し,逆止弁と遮断弁の機能を統合することで,充填及び

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新型 FCV 向けバルブ製品開発 -水素,エア制御バルブ-

で作動するため,シートとの貼り付きが課題であり,従来はステンレス鋼を切削したシートに特殊なコーティングを施し,貼り付き防止を図っていた.今回のモデルでは,まずシートを,出口流路

一体の樹脂インジェクション成型品とし,大幅なコストダウンを図った.また,樹脂のシート面を特殊な表面性状とすることで,コーティングを廃止すると共に,貼り付き防止とシート性を両立させた.

2.3.3. ドレイン弁

Fig. 5 Injector ejector unit

Fig. 6 Purge valve

Fig. 7 Drain valve

インジェクタエゼクタユニットに内蔵されている流量調整弁は,NGV向けの量産品KN8型をベースに,耐久性,低温作動性,シール性の改良を行い水素環境下での仕様成立性を確立した.特に耐久性に関しては,NGV と比較して高い作動圧力により,しゅう動部・ストッパー部への負荷が課題となった.これらの対応手段として,しゅう動部・ストッパー部のコーティング変更による長寿命化やガイド構造の見直しを行い,作動耐久性を向上させた.インジェクタエゼクタユニットは,スタッ

クとの燃料供給インターフェースとして,水素供給・循環流路,補機類の流路及び接続・保持,及び流量調整弁とエゼクタの機能を一体化させることにより,システムの小型化に大きく貢献した.特に,ボディは,狭いスペース配置に伴う複雑形状と,高い水素気密性が要求されるため,アルミ一体の熱間鍛造とした.これは,ケーヒンのアルミ熱間鍛造部品としては最大級の大きさである.

2.3.2. パージ弁

コイル部分に,量産ソレノイドバルブ部品を流用し,磁路設計を見直すことにより小型・軽量かつコストダウンを実現させた.流路ボディは,耐環境性を考慮しステンレス鋼を使用している.ケーヒン初の熱間鍛造製法を採用することにより,車載レイアウト性の確保とコストダウンを実現した.

2.4. エア系製品概要

Fig. 8 Pressure Control valve

エア系の製品は,背圧制御弁,加湿器バイパス弁,封止弁,スタックバイパス弁である.本報では,背圧制御弁に関して紹介する.背圧制御弁は,低圧損かつ流量制御性に優

パージ弁は,水素シール性を確保するため,弁体にゴムを使用している.低温・氷点下環境

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ケーヒン技報 Vol.5 (2016)

著 者

菊 池  匠

私共の製品技術が,世の中の水素社会の実現に向けて貢献できたことを大変うれしく,誇りに思います.量産立上げに際し,ご協力いただいた各部門の方々に深く感謝申し上げます.(菊池)

れているバタフライバルブ構造を採用し,駆動部にガソリン車用スロットルバルブ部品を流用することで,コストダウンを図った.ガソリン車のスロットルバルブと比較し,

流路内には大量の生成水が存在するため,耐食性と凍結による作動不良が課題である.その対応として,シャフト及びバルブ材をステンレス鋼に変更した.さらに,バルブとボアとの隙間に入った生成水の凍結防止として,ボア部分に特殊なはっ水コーティングを施し,水抜き穴も設置した.水抜きは,ボアを通過する流体のベンチュリー効果を利用することで排水性を向上させた.以上の対策により,水蒸気に対する耐食性

と氷点下での作動性を確保した.

3.まとめ

2016年3月にリース販売した新型 FCV 向けに,新規技術と既存技術を応用し,高圧水素系3製品,低圧水素系3製品,エア系5製品の,合計11製品を新規に開発した.本開発を通して,水素社会実現に向けて大きく貢献した.

参考文献

(1)発行所株式会社三栄書房,発行人鈴木賢志,編集人塚本剛哲:ホンダクラリティFUELCELLの全て

(2)朝野護人,加藤航一,尾崎浩靖,和田信:FCV用70MPa インタンク電磁弁の開発(2016),自動車技術会学術講演会予稿集No.80-16S

(3)滝沢啓太,加藤隆秀,岡野正嗣:FCV用高圧水素供給バルブにおけるパイロット弁仕様の開発 (2016),自動車技術会学術講演会予稿集No.129-16A