1 顧客開発モデル概要 2011 年 7 月 堤 孝志 ttutumi@gma il.com 註:本資料の内容は、個人の見解に基づいており、所属する組織の見解を示すものではありま せん。
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新規事業とは「ベンチャー創業」と「社内新規事業の立ち上げ」
特徴製品・サービス:ない。これから開発。顧客:いない。これから開拓。売上:ゼロ。これから。。。
そもそもビジネスモデルも確立されていない。人:自分だけ(または数名の創業チームだけ)
ゼロから新しい事業を立ち上げていくのが新規事業
“a startup is an organization formed to search for a repeatable and scalable business model.” by Steve Blank
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新規事業の開始製品・サービスを決定する。開発計画・販売計画をたてる。
製品コンセプト作り
製品開発 評価試験 発売・出荷開始
製品開発
販売開始準備・無償ベータ版提供
本格販売営業・マーケティング
08/4月 7月 09/4月
仕様策定(機能・性能)
設計 開発 A
開発 B
開発 Z
テスト A
テストB
テスト Z
統合テスト
ベータ評価
量産体制確立
サポート体制構築
初回量産
7月
エンジニア採用
ファイナンス
シード資金調達( 10M円)
シリーズ A
( 200M円)
シリーズ B
( 100M円)
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新規事業の計画例
製品開発 評価試験 出荷開始
販売開始準備・無償ベータ版提供
本格販売
株式会社○ ○ ○
- 500
0
500
1000
1500
2000
2500
2008 2009 2010 2011 2012
百万円
売上 営業利益
IPO
製品コンセプト作り
営業 CF
開発計画
営業・マーケ計画
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新規事業の現実ほとんど計画通りには行かない。前評判に反して、目論み通りいかないことも珍しくない。
原因は???
「モノが売れない」こと。
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新規事業失敗の原因
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よくあるパターン
「良いものを作れば認めてくれるはず」
「新聞、 TVなどメディアでたくさん取り上げられた」
「営業資料を整備し、実績のある優秀な営業部長も採用した」
ところが、思うように製品が売れない!!
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出荷開始までは計画通り製品・サービスの開発は概ね順調。ほぼ予定通り出荷開始。後は計画通り売上があがるはずだった。
マネージメント的には成功?
コンセプト
開発 評価試験 発売・出荷開始 ?
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キャズム?新規事業では、ビジョナリーさえ殆ど獲得できないことも少なくない。
34%
実利主義者
イノベーションの浸透時間
34%
保守主義者 16%ラガード
2.5%テッキー ビジョナリー
13.5%
キャズム
出典:「 Crossing The Chasm」 , Geoffrey A. Moore著
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なぜ売れなかったのか売れなかった理由:
優先度が低い 「すぐ」または「そこまで払って」必要なものではなかった
想定外にコストがかかる 全体への影響 既存資産が使えなくなる 他の設備が必須
機能・性能・品質が不足した その他
セールスサイクルが想定外に長い
1台売れたが、属人的で、そのあとが続かない
売れると想定した理由: 技術の革新性・優秀度 代理店の反響 マスコミの反響 人脈・営業力 広告・宣伝力 知識や過去の経験
予想外の理由で売れない
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売れたパターン
顧客の重要課題を解決するものだった。開発中も対象ユーザと対話し、ニーズを探った。
モノが完成する前に受注した。立ち上がりまで時間がかかるので、小さく初めて徐々に大きくした。
重要課題へのソリューション
開発段階から顧客・市場を真に理解
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「プロダクト・マーケットフィットリスク( =売れないリスク)」の低減策は?やってみないと判らないのか?
顧客開発モデル( Customer Development Model)が役立つ
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顧客開発モデル( Customer Development Model)とは4つのステップで新規事業のプロダクトマーケットフィットリスクの低減を図る経営プロセス。キャズム前のビジョナリーの攻略これまで殆ど無かった事業立上時の営業・マーケティング面のプロセス。
E.piphany社など多数のベンチャー経営に関与した米国のシリアル・アントレプレナー Steve Blank氏が開発。
現在は、スタンフォード大学や UCバークレーの起業関連の授業でも利用されている。
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製品の研究開発と平行した顧客の研究開発顧客開発プロセスと、よくあるプロセスとの対比
製品コンセプト作り
製品開発 評価試験 発売・出荷開始
製品開発プロセス
販売開始準備・無償ベータ版提供
本格販売
営業・マーケティングプロセス
仮説 /検証 実証 参入 /開拓 拡大
顧客開発モデルによるプロセス
顧客発見 顧客実証 顧客開拓 組織構築
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顧客開発モデル
顧客発見(ニーズの確認
)
顧客実証(有償販売と拡張性の確認)
顧客開拓(市場参入・需要開拓)
組織構築(本格販売)
創業社長を中心とした顧客開発部隊が行う・「売り込む」のではなく「仮説検証する」
自己のビジョンに従い、仮説構築。外へ出て多数の顧客候補に会って、それを検証する。
受注できなければ、仮説を変更して、やり直す(学習と発見が前提)
エバンジェリストユーザー
” ”へ有償販売する。できれば検証完了。
仮説フレームワーク・顧客:顧客のカテゴリー、抱える問題、顧客の1日、 TCO/ROI、課題認識、必要最小限の機能・製品:機能・仕様、導入メリット、前提条件・競合・チャネル&価格・ PR・需要喚起策・市場タイプ
顧客開発部隊から機能別組織へと移行し、組織による本格量産販売で、一路キャズムへ。
各ステップで、製品開発部隊と会議を行い、製品開発面の調整を行うかどうか議論し、合意する。
市場タイプを確定。市場タイプに即したポジショニングと戦略により市場参入・製品投入。
ピボット
(軌道修正)
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顧客開発の 4ステップステップ 従来 目標 方法・ツール例
顧客発見(ニーズの確認)
「ニーズ(興味)はありますか?」と聞く。
・仮説を構築、検証する(顧客の課題、 4P、競合、 Bizモデル等)。・顧客の課題や不満の存在・重要度の確認から着手。・儲かるのかも必ず検証。
・ 50件はアプローチすべし・課題プレゼンテーションと課題認識度指標・顧客になりきる( ROI、 TCO等)
顧客実証(有償販売)
製品・サービスが完成するまで待つ。
・エバンジェリストユーザー(ビジョナリー、アーリーアダプター)をワクワクさせ、「開発中に」、「有償で」受注する。・合わせて、必勝受注パターン(営業ロードマップ)を確立する。
・バリュープロポジション・製品プレゼン、デモ機、製品ロードマップなど。
顧客開拓(市場参入・需要開拓)
宣伝し、がむしゃらに売り込みまくる。
・市場タイプに応じた戦略で市場参入し、需要を開拓する。
・ポジショニング・メッセージ・伝達・効果測定・初年度目標
組織構築(本格販売)
営業マンをとにかく増やす(管理職も増やす)
・機動性・柔軟性を維持しながら組織を構築し、学習と発見を継続しながら、キャズムを越える。
・ミッション志向経営
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顧客開発における前提 製品・サービスの開発中から「顧客の研究開発( =顧客が抱える課題、 4P、競合などを現場で知る)」を行う。 売れる確信が得られるまでは支出を極力抑制
多くの顧客候補と実際に会って話す そして事実に真摯に向き合う。(都合の良いように解釈しない) 代理店、専門家は顧客ではない。 顧客が決める(あなたではない) 最終的には、エバンジェリストユーザーから完成前に有償受注することが目標。
社長 /プロジェクトリーダーが自ら主導して行う。 営業・マーケティング担当者の仕事ではない。 外部委託等、人に任せる仕事でもない。
仮説をしっかりたてる。検証できなければ元に戻る。 NGでも結果と次の打ち手がはっきりする。 「学習」と「発見」による反復的プロセス。
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顧客発見ステップ :仮説構築と検証大項目 小項目 検証後によくある発見・驚き
(例)顧客 ターゲット層(誰が買うのか?)
顧客の課題・不満・欲求顧客のタイプ顧客の日常ROI最小限必要な機能
ターゲット層が違った課題・欲求はそれほどでもなかった利用者と費用負担者が違った日常からすると現実的でなかった顧客の立場からは採算が合わない○、 ×という機能は要らないバリュープロポジション(製
品)バリュープロポジション(製品がもたらす価値)製品仕様(機能・性能)所有と活用のための全体コスト( TCO)依存性(製品普及上、必須となる前提)開発・出荷スケジュール
違う価値が評価された既存品との差があまりなかった製品以外の部分でのコスト負担大
市場タイプ 既存市場、新規市場、再セグメント化された市場
再セグメント化不十分で既存市場への参入になると判明
競合 直接競合代替品後発参入
競合相手が強すぎた意外な競合の発覚
収益モデル 価格コスト
値段が高すぎるサポートコスト負担が重い
需要喚起策 販売促進・広告宣伝手法ご意見番
リーチするための媒体が違った
販売チャネル 流通経路流通コスト(マージン)
思いのほか流通が複雑流通者の交渉力が強すぎる
顧客開発における方法・ツール例
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ニーズの背景となる顧客の抱える課題をまず確認
どんな顧客の課題(不満)を解決するのか?課題の認識度・重要性は?(課題認識度指標)
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顧客視点でニーズを検証 21
Alsopの公式「 Q+I+S+M – P2」Quality(動く?) +Innovation(不可能を可能に?) +Smarts(経営者の実力) +Money(資
金) - Pain(導入コスト) 2
「導入コスト」を忘れない。製品購入コストだけではない。
ROIや TCOも考えてみる。見極めの質問は「ただで提供するとしたら?」
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バリュープロポジション( Value Proposition) 「他社と異なる理由」と「製品・サービスの価値」を中心に自分の事業を説明する、明快かつ説得力のある(顧客の心拍数が上がってしまうくらいの)簡潔なメッセージ( =エレベータピッチ) 製品・サービスの価値:どのような課題を解決し、どんな価値があるのか?
” ”顧客視点かつ顧客の言語で。 定量的かつ顧客の経済性に触れるものだと尚良い。また、現実的であることも大事。
代表的な価値 BtoB: 売上増、コスト削減、開発期間短縮、オペレーション効率の改善、市場シェア増、従業員退職率減少、顧客維持、等。
BtoC:快適、簡単(すぐ)、便利、安心・安全(健康)、環境、夢・感動(楽しい・おいしい)、等。
バリュープロポジションの一例: 検査装置メーカー:「当社の革新的なアルゴリズムによる検査装置は、工程でネックになっている目視検査を自動化でき、結果として製造コストを数千万円削減、かつ不良流出低減につながります。」
ライフネット生命:「生活者にとって便利でわかりやすく、かつ高品質な生命保険サービスを提供するという理念のもと、インターネットを主
要チャネルとして、新しい生命保険を販売しています。 」出典:ライフネット生命保険株式会社ホームページ
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市場タイプ: 4種類の新しさ 新事業・新製品と一口に言っても、新しさは異なる。 “ ”新しさに適した需要開拓(ポジショニングからコミュニケーションまで)が重要。 例:カセット・ MD時代と、 iPodが普及した現状とで、「 HDD搭載オーディオプレイヤー」の新しさの説明はどう変わるか?
どのタイプか?最後は顧客が決める。
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既存市場 再セグメント市場(ローエンド)
再セグメント市場(ニッチ)
新規市場
ニーズ( =新しさ) 機能・性能 低コスト(性能・機能劣るが)
特定ニーズ(高いが)
今までない簡易さ・便利さ等
顧客 既存 既存 既存 新規
競合 既存参入者 既存参入者 既存参入者 顧客が受入れないこと
リスク 既存参入者 1.既存参入者2.ニッチ戦略失敗
1.既存参入者2.ニッチ戦略失敗
普及
ポジショニング より良く、より早く 新しいカテゴリー 新しいカテゴリー 今までない世界・生活
例 SONY:ウォークマン(v.s. iPod)、東芝:T01-A(v.s. iPhone)、
Asus(ネットブック)ユニクロ、スーパーホテル、 QBハウス
スターバックス、安心だフォン、富士通( SanSnap)
iPod/iPhone、 Google Adwords/Adsense、 Amazon EC2, キンドル
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まとめ新規事業の失敗の原因は「モノ」が売れないことが圧倒的。
製品・サービスの開発中から徹底的に顧” ”客を研究開発して、売れないリスクを低
減することが重要。顧客開発モデルが役立つ
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参考文献:「アントレプレナーの教科書( The Four Steps to the Epiphany)」 , Steven Gary Blank著