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-3- Res. Reports Asahi Glass Co., Ltd., 62 (2012) 12CaO・7Al2O3エレクトライドはサブナノポーラスな籠状結晶に電子を包接したユニークな酸 化物セラミックスである。包接された電子に由来して、仕事関数が2.4 eVとアルカリ金属並みに低 く、また、最大1.5×10 5 S/mの導電性を有する。本稿では、12CaO・7Al2O3エレクトライドを蛍光 ランプの陰極に応用し、ランプ特性の改善を検討した。12CaO・7Al2O3エレクトライドを使った 冷陰極蛍光ランプ(CCFL)は、一般的なニッケル製の陰極を用いたCCFLと比べて大電流(20 mA)で駆動でき、かつ、低消費電力であった。これは、スパッタ耐性や二次電子放出係数(γ係 数)が高いことに起因する。また、放電電流を増加すると電流密度18 mA/mm 2 で熱陰極モードへ 遷移することが確認され、DC 100mAで駆動した熱陰極蛍光ランプ(HCFL)は、1500時間以上 の連続点灯を達成した。 UDC:628.972:666.651.6 12CaO・7Al2O3 electride is unique oxide ceramics, having electrical conductivity up to 1.5x10 5 S/m and low work function as low as 2.4 eV which is almost at the same level as alkaline metals. In this report, cold and hot cathode fluorescent lamps using 12CaO・7Al2O3 electride cathode are introduced. CCFL with 12CaO・7Al2O3 electride is able to operate at high current as 20mA due to its high sputtering resistance. Moreover, power consumption of this lamp is lower than the lamp with nickel cathodes by higher secondary electron emission coefficients (γ) . Additionally, cold cathode - hot cathode transition is observed when current density is 18mA/mm 2 . HCFL with 12CaO・7Al2O3 electride cathode achieved continuous DC100mA operation for 1500 hours or more. 蛍光ランプ用 C12A7 エレクトライド陰極 12CaO7Al 2 O 3 Electride Cathode for Fluorescent Lamps 渡邉俊成*・渡邉暁**・伊藤和弘***・宮川直通**** Toshinari Watanabe, Satoru Watanabe, Kazuhiro Ito and Naomichi Miyakawa *中央研究所 主席(E-mail: [email protected])Senior Researcher of Research Center **中央研究所 主席(E-mail: [email protected])Senior Researcher of Research Center ***中央研究所 主席(E-mail: [email protected])Senior Researcher of Research Center ****中央研究所 主幹(E-mail: [email protected])Principal Researcher of Research Center
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12CaO 7Al Electride Cathode for Fluorescent Lamps

Apr 13, 2022

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Res. Reports Asahi Glass Co., Ltd., 62(2012)

 12CaO・7Al2O3エレクトライドはサブナノポーラスな籠状結晶に電子を包接したユニークな酸化物セラミックスである。包接された電子に由来して、仕事関数が2.4 eVとアルカリ金属並みに低く、また、最大1.5×105S/mの導電性を有する。本稿では、12CaO・7Al2O3エレクトライドを蛍光ランプの陰極に応用し、ランプ特性の改善を検討した。12CaO・7Al2O3エレクトライドを使った冷陰極蛍光ランプ(CCFL)は、一般的なニッケル製の陰極を用いたCCFLと比べて大電流(20 mA)で駆動でき、かつ、低消費電力であった。これは、スパッタ耐性や二次電子放出係数(γ係数)が高いことに起因する。また、放電電流を増加すると電流密度18 mA/mm2で熱陰極モードへ遷移することが確認され、DC 100mAで駆動した熱陰極蛍光ランプ(HCFL)は、1500時間以上の連続点灯を達成した。

UDC:628.972:666.651.6

 12CaO・7Al2O3 electride is unique oxide ceramics, having electrical conductivity up to 1.5x105 S/m and low work function as low as 2.4 eV which is almost at the same level as alkaline metals. In this report, cold and hot cathode fluorescent lamps using 12CaO・7Al2O3 electride cathode are introduced. CCFL with 12CaO・7Al2O3 electride is able to operate at high current as 20mA due to its high sputtering resistance. Moreover, power consumption of this lamp is lower than the lamp with nickel cathodes by higher secondary electron emission coefficients (γ). Additionally, cold cathode - hot cathode transition is observed when current density is 18mA/mm2. HCFL with 12CaO・7Al2O3 electride cathode achieved continuous DC100mA operation for 1500 hours or more.

蛍光ランプ用C12A7エレクトライド陰極

12CaO・7Al2O3 Electride Cathode for Fluorescent Lamps

渡邉俊成*・渡邉暁**・伊藤和弘***・宮川直通****Toshinari Watanabe, Satoru Watanabe, Kazuhiro Ito and Naomichi Miyakawa

*中央研究所 主席(E-mail: [email protected])Senior Researcher of Research Center**中央研究所 主席(E-mail: [email protected])Senior Researcher of Research Center***中央研究所 主席(E-mail: [email protected])Senior Researcher of Research Center****中央研究所 主幹(E-mail: [email protected])Principal Researcher of Research Center

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旭硝子研究報告 62(2012)

1. はじめに 現在、一般照明用の光源として、LEDや有機ELの開発が盛んに行われている。特に、LEDは高効率、長寿命であることから、近年急速に蛍光灯から置き換え始められている。しかし、蛍光ランプは、高演色性、広配光、高効率、低コストなどの優れた特徴を有しているため、今後も使用され続けると思われる。この蛍光ランプの陰極には、電子放出特性に優れる、すなわち低仕事関数の材料が求められる。 近年、導電性を有し仕事関数の低い酸化物セラミックスとしてC12A7エレクトライドが発見された。(1)(2)

弊社では、本材料の応用を検討しており、電界電子放出素子などを開発している。(3)また、本材料はクラーク数の大きいアルミニウム、カルシウムから構成された化合物であり、レアメタルに頼らない材料としても期待される。本稿では、C12A7エレクトライドの蛍光ランプの陰極への応用について紹介する。

2. C12A7エレクトライドとは

2.1 C12A7エレクトライドの特徴

 C12A7は12CaO・7Al2O3の略であり、セメント構成物質の一つとして知られているが、最近、新しい電子機能性の酸化物結晶化合物として注目されている。C12A7は、籠状の構造単位(以下ケージと呼ぶ)が、面を共有して3次元的に連結した結晶構造を有しており、(4)(5)ゼオライト系化合物のケージが孤立した構造(6)とは対照的である。ケージの内径は約0.4nmで、正に帯電している為、様々な陰イオンのほか、電子を単体で包接することが出来る。(Fig.1)特に、電子を包接したものは、エレクトライド(電子化物)と呼ばれている。C12A7に電子を包接したものがC12A7エレクトライドであり、以後C12A7:e-と記す。 C12A7: e-は、結晶骨格により形成されたバンドギャップ中にケージ内電子に由来したバンドが形成され、(7)(8)(9)(10)(11)仕事関数が2.4 eVとアルカリ金属並みに低いという特徴を示す。(12)また、この包接された電子がケージ間をホッピング伝導するため、電子伝導性を有する。ケージ内の電子密度はある程度制御可能で、高いほど導電率が高く、最大1.5x105S/mと報告されている。(13)

2.2 C12A7エレクトライドの合成方法

 C12A7: e-はケージ内に酸素イオンを包接したC12A7を還元することで得られる。本研究開発では以下の固相反応で多結晶体を合成した。まず、化学量論比のCaCO3とα-Al2O3の混合粉末を、大気中1300℃で6時間保持して、C12A7の多結晶粉末を合成した。その後、得られた粉末を所定の形状に成形したのち、所定の条件で還元熱処理することにより、C12A7: e-のバルク試料を得た。

3. 蛍光ランプについて

3.1 発光メカニズム 蛍光ランプは、紫外線励起の蛍光体を内面に塗布したガラス管両端に電極を封入した構造となっており、ガラス管内には1~100Torrの希ガスと水銀が封入されている。(Fig.2) 放電は、電極間に電圧を印加することで開始され、この放電で励起された水銀が紫外線を放出し、蛍光体が励起されて可視光が放出される。 Fig.2の下側に、ランプ内の電位分布を示す。陰極近傍の領域aの大きな電位低下は、陰極降下電圧と呼ばれており、陰極材料の電子放出特性に支配される。この陰極におけるエネルギー消費は、放電維持に不可欠ではあるものの、直接蛍光ランプの発光に寄与しないため、陰極降下電圧は低いほど消費エネルギーは少ない。領域bの電位低下は、陽光柱降下電圧と呼ばれ、主に放電ガスの種類または圧力などプラズマの性質によって決まる。ランプ電圧は、この陰極降下電圧と陽光柱降下電圧の合計で決まる。

3.2 蛍光ランプの分類 蛍光ランプの種類には冷陰極タイプと熱陰極タイプがあり、これらは以下に示すような電子放出メカニズムにより分類される。 蛍光ランプの陰極降下電圧と放電電流にはFig.3のような関係がある。低電流側からグロー放電、異常グロー放電、遷移領域、アーク放電と変化する。グローFig.1 Crystal structure of C12A7 electride.

Fig.2 Structure of fluorescent lamp.

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放電領域では電流を増加すると、陰極を覆うグロー放電面積が広がることで電流を補うため、結果的に電圧は一定を示す。さらに電流を増加すると、グロー放電が陰極の全表面を覆って飽和し、電流密度が増加するため、電圧が上昇する。この領域は異常グロー領域と呼ばれ、陰極はイオン衝撃によって加熱される。さらに、電流を増加し続けると、熱電子放出で電流をまかなうことが出来るようになり、電圧は低下する。多くの場合、この領域では輝点(アークスポット)を生じるため、アーク放電といわれる。 グロー放電では陰極表面に入射する希ガスイオンの励起による電子放出、すなわち、イオン励起2次電子放出によって電子が供給される。そのため、陰極材には高い2次電子放出係数(γ)とスパッタ耐性が求められる。この領域を用いる蛍光ランプは冷陰極蛍光ランプ(Cold Cathode Fluorescent Lamp:CCFL)と呼ばれ、電極構造が単純で細型化が容易なことと長寿命であることから、液晶ディスプレイのバックライト光源などに用いられる。 一方、アーク放電では高温、高電子密度のアークスポットからの熱励起による電子放出(熱電子放出やショットキー放出)によって電子が供給される。そのため、この陰極材には仕事関数が低く、高融点である材料が望まれる。この領域を用いる蛍光ランプは熱陰極蛍光ランプ(Hot Cathode Fluorescent Lamp:HCFL)と呼ばれ、いわゆる蛍光灯として、幅広く一般照明に用いられている。

めに2次電子放出係数γが用いられる。これは、単位入射イオンあたりの放出電子数である。 イオン励起2次電子放出は、入射イオンの運動エネルギーに支配されるカイネティック放出と入射イオンのイオン化ポテンシャル(イオン化電圧)が支配的であるポテンシャル放出に大別される。(14)(15)カイネティック放出では、入射イオンと固体中の原子との衝突によって電子励起が生じるのに対して、ポテンシャル放出では、固体表面に達した陽イオンのオージェ中和によって電子放出が行われる。(15)CCFL用の陰極材料(冷陰極材料)は、カイネティック放出と比較して、より低速のイオンで電子放出を行うことができるポテンシャル放出の特性が優れていることが重要である。 陰極材料のポテンシャル放出は、次式で表される定性的な指標を用いて見積もられることがある。(16)(17)

U ‒ 2φ > 0     〔1〕

 ここで、Uは入射イオンのイオン化ポテンシャル、φは材料の仕事関数である。この指標では、ポテンシャル放出は、式〔1〕の条件が満たされる場合に生じ、左辺の値が増えるとγも増加すると考えられる。

3.4 熱電子放出メカニズム 熱電子放出は熱エネルギーによって伝導帯の電子のエネルギーが増加し、仕事関数のポテンシャルエネルギー障壁を乗り越えるのに十分なエネルギーをもった電子が放出される現象である。熱電子放出電流はRichardson-Dushmanの式で与えられる。

〔2〕

 ここで、Aは定数、Tは温度、φは仕事関数、kはボルツマン定数である。 また、外部電界が印加されることでポテンシャル障壁が低下し、熱電子が放出しやすくなることが知られる。これはショットキー効果と言われ、式〔3〕で表される。

〔3〕

 ここで、eは電子の電荷、Eは外部電界、ε0は真空の誘電率である。(18)

3.3 2次電子放出メカニズム 2次電子放出は、電子、イオンまたは中性粒子の衝突によって、固体表面から電子が放出される現象である。イオン励起2次電子放出では、入射したイオンが、固体表面から内部に向けて浸透しながら、そのエネルギーを失う。このエネルギーの一部が固体中の電子に付与され、表面へ移動した一部の電子のうち、固体の仕事関数を超えるエネルギーを持つ電子が外部に放出される。したがって、電子放出の程度は、主に、イオン種、仕事関数、電子の運動エネルギーとイオンの入射角度に依存する。また、電子放出性能を示すた

Fig.3 V-I property of low-pressure discharge lamp.

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4. CCFL陰極への応用

4.1 C12A7エレクトライドに期待される効果 冷陰極材料には、2次電子放出係数(γ)およびスパッタ耐性が高いことが求められる。高いγ係数は、ランプ電圧を低下させ、低消費電力化に寄与する。また、高いスパッタ耐性は、ランプの設計(電流やガス)に関わり、ランプの発光特性や寿命を決定するため重要である。現行CCFLの電極はニッケル製で、スパッタ耐性に乏しいため、スパッタ耐性に優れる材料で代用すれば、ランプの高発光効率化や高輝度化が可能となる。 C12A7: e-は、前述したように低仕事関数なためγ係数が高いことが期待される。また、トリムコード(19)

を使って計算したスパッタ率をFig.4に示す。C12A7のスパッタ率は、ニッケルの4分の1、モリブデンの2分の1程度に低いことがわかる。このように、C12A7:e-は、高いγ係数とスパッタ耐性を有すると考えられ、低電圧で駆動し長寿命な陰極材であると期待される。

は、カイネティック放出の影響と考えられる。しかし、測定したすべての加速電圧で、γNeはγXeよりも大きく、後述のようにポテンシャル放出の寄与が大きいと解釈できる。 Fig.6に、C12A7: e-の電子構造の模式図を示す。図中の縦軸は真空準位からのエネルギー、横軸は状態密度を示す。図に示すように、通常のバンドギャップ中に、ケージおよびケージ内の電子によってつくられたバンドが存在し、仕事関数2.4 eVの起源となっている。Xe+照射の場合、Xeのイオン化ポテンシャルは12.1 eV、ケージ内の電子のエネルギーは2.4 eVであるので、式〔1〕より、C12A7: e-のケージ内電子は、ポテンシャル放出に必要な要件を満たす。一方、価電子帯上端のエネルギー(バンドギャップエネルギーと電子親和力の和)は約7.9 eVであり、価電子帯中の電子はポテンシャル放出のためのエネルギー要件を満たしていない。一方、Ne+照射の場合、Neのイオン化ポテンシャル21.6eVであり、ケージ中電子および価電子帯上端の電子のいずれも式〔1〕のポテンシャル放出の要件を満たしている。

4.2 イオン励起2次電子放出係数の測定  イオン励起2次電子放出係数γを次のように測定した。Ne+とXe+のイオンビームを加速電圧100V~600VでC12A7:e-に垂直に照射し、放出電子を正に80V電圧印加した捕集電極で検出した。γ値は以下のように計算した。

〔4〕

 ここで、Icは捕集電極とアース間の電流、Isは試料とアース間の電流値である。 Fig.5に、γの入射イオン加速電圧に対する依存性を示す。イオン加速電圧の増加によりγも増加するの

Fig.4 Sputtering yields obtained by simulation for C12A7,    Ni, and Mo.

Fig.5 Ion-induced secondary electron emission coefficients    measured with Ne and Xe for C12A7 electride cathodes    having an electron density of 1021 cm-3.

Fig.6 Schematic illustration of electronic structure of     C12A7 electride, and ion-induced potential emission.

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5. HCFL陰極としての応用

5.1 C12A7エレクトライドに期待される効果 現行のHCFLは、タングステン製フィラメント上に酸化バリウムを主成分としたエミッタを塗布した陰極が用いられている。エミッタは室温では導電性が低いため、放電開始時にフィラメントで加熱して使用されている。 一方、C12A7: e-は常温でも十分な導電性があるため、異常グロー放電で陰極を加熱(自己加熱)することが出来る。従って、現行のHCFLと異なり、フィラメントによる加熱が不要となる。これにより、陰極構造が単純化でき、従来難しかった細管化や、エミッタの大量担持による長寿命化が期待できる。本稿では内径4mmのガラス管を用いた細管HCFLを検討した結果を述べる。HCFLを細管化することで液晶バックライト光源への応用、一般照明の場合は下方光束の改善、電球型蛍光灯への応用などが考えられる。

5.2 試作HCFLの評価 C12A7: e-焼結体を陰極として実際にランプを作製し評価した。外径2.0mm、内径1.8mm、深さ5mmのモリブデン製カップにC12A7:e-焼結体を挿入し、陰極とした。(Fig.10)この陰極を、内径4mmのガラス管両端に電極間隔100mmで封止した。放電ガスはアルゴンを60Torr封入した。 直流回路で点灯した場合のI-V特性をFig.11に示す。20mAでランプ点灯後、電流を徐々に増加すると、45mAから100mAでランプ電圧が急激に低下し、陰極にアークスポットの生成が認められた。これは、放電のイオン衝撃によってC12A7: e-が加熱され、冷陰極モードから熱陰極モードに遷移したことを意味している。このときの電流密度は18mA/mm2であった。さらに300mAまで電流を増加するとランプ電圧は緩やかに減少した。これは陽光柱降下電圧の低下と考えられる。この結果は、100mA以上でC12A7: e-陰極が熱陰極として機能することを示している。

4.3 試作CCFLの評価

 C12A7: e-を陰極としたCCFLを試作し連続点灯試験を行った。陰極はホロー形状のC12A7:e-焼結体をニッケル金属で固定したものを使用した。(Fig.7)比較のため、ホロー内面積が同じニッケル製陰極のCCFLも同時に試作した。これらの陰極を内径3mm、外径4mmのガラス管の両端に250mm間隔で配置し、20TorrのArとHg液滴を封入した。Fig.8にこの試作CCFLを40kHz、実効値20mAで点灯したときのランプ電圧の推移を示す。C12A7: e-陰極のランプはニッケル陰極のランプよりも70V低い電圧で駆動している。これはC12A7:e-のγがニッケルより高いことに起因する。また、このCCFLは1000時間以上安定的に点灯することが確認された。Fig.9には、C12A7: e-陰極のCCFLとニッケル陰極のCCFLをそれぞれ1250時間、1000時間放電した後のガラス管に付着したスパッタ堆積物の写真を示す。C12A7: e-陰極のCCFLはニッケル陰極のCCFLに比べ明らかにスパッタ堆積物が少なく、C12A7: e-のスパッタ耐性が高いことがわかる。以上のように、CCFL陰極として、C12A7:e-は優れた特性を有することが確認できた。(20)

Fig.7 Hollow shaped electrode of C12A7 electride.

Fig.8 Voltage change of C12A7 and Ni lamp. Discharge     current is 20 mArms with a frequency of 40kHz.

Fig.10 Hot cathode with C12A7 electride.

Fig.9 Appearances of electrode sputtering.    (a)C12A7-lamp, after 1250 hours of operation at 20mA,    (b)Ni-lamp, after 1000 hours of operation at 20mA.

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 次に、同じ陰極、ガラス管を用いて、電極間隔を50mm、100mmとした2本のランプで陰極降下電圧を概算した。ランプ電圧は100mA時にそれぞれ45V、70Vであったので、電極間隔が0mmのときの電圧を陰極降下電圧とみなすと20Vと概算される。現行HCFLの陰極降下電圧も20V程度であり、(21)同程度の電圧で駆動可能であることを示している。 さらに、長期安定性を確認するため、直流で連続点灯を行った。2時間毎に測定したランプ電圧の推移をFig.12に示す。ノイズがあるが、初期のランプ電圧を1500時間以上維持し、長期安定性があることを示した。点灯中、アークスポットはC12A7: e-表面に発生しているが、表面上を移動することがある。ノイズはこのようにアークスポットが不安定であることが原因と思われる。

5.3 アークスポットの分析 電子放出挙動を理解するために、アークスポットの温度とサイズの測定を可視光2色式の放射温度計(波長514nm、614nm)と高速度カメラを用いて行った。放電プラズマの影響を避けるため、点灯時から消灯した瞬間を高速度カメラで撮影し、消灯時の温度変化から点灯時の温度を推定した。Fig.13(a)にアークスポット部分の温度変化を示す。消灯から温度は低下し始め、20m秒で70℃低下した。同図より点灯時のアークスポット温度は、約1370℃であると推察された。C12A7の融点は包接するアニオンによって異なるが、アークスポットはほぼこの材料の融点に達していると思われる。また、Fig.13(b)に100mAで点灯した時の陰極の様子を示す。アークスポットは直径0.7mmであるため、電流密度は0.26A/mm2と見積もられた。縦軸を電流密度、横軸を温度の逆数とし、今回測定したアークスポットおよび東工大 戸田らから報告されている単結晶C12A7: e-の800~900℃の熱電子放出電流密度(22)をFig.14にプロットした。800~900℃のデータから外挿した1370℃の電流密度は10A/mm2であり、今回測定したアークスポットの電流密度と比べ一桁以上大きい。この原因は明確でないが、高温のアークスポットによりC12A7: e-が溶融していることや、表面性状の違いなどによって電子放出特性が低下していることが考えられる。

Fig.11 I-V property of HCFL with C12A7 electr ide      electrode sealed at 60 torr of Ar gas. Electrode      distance is 100 mm.

Fig.12 Voltage change of HCFL with C12A7 electride     electrode. Discharge current is 100 mA in direct     current.

Fig.13 Arc spot on C12A7 electride cathode when discharge     current is 100 mA, and discharge gas is Ar at 60 torr.    (a)Temperature change after discharge.    (b)Appearance of arc spot at discharge.

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6. おわりに C12A7エレクトライドの電子放出特性と蛍光ランプへの応用について概説した。照明は日々の生活に欠かせないものであり、照明デバイスの効率、寿命、演色性などの特性は改善され続けるであろう。蛍光ランプは、技術として成熟しているが、陰極にC12A7エレクトライドを用いることで、CCFLの高輝度化やHCFLの長寿命化、細型化など、さらなる蛍光ランプの高性能化に貢献できると考えている。

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参考文献

(22)(21)

Fig.14 Current density of arc spot on C12A7:e- as a      function of the temperature.

1000:T(K-1)