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平成 25 年度医療 IT 海外調査検討タスクフォース 海外調査報告書 インドネシア共和国 2014 1 一般社団法人電子情報技術産業協会 医療 IT イノベーション戦略研究会 医療 IT 海外調査検討タスクフォース ※本調査報告書は、インドネシア訪問時のヒアリングを中心に纏めたもので、掲載情報の正確さについて保証するもの ではありません。正確な情報については各種法令や統計資料等をご参照ください。
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平成 25 年度医療 IT 海外調査検討タスクフォース 海外調査報告書 ...

Feb 09, 2017

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Page 1: 平成 25 年度医療 IT 海外調査検討タスクフォース 海外調査報告書 ...

平成 25 年度医療 IT 海外調査検討タスクフォース 海外調査報告書

インドネシア共和国

2014 年 1 月

一般社団法人電子情報技術産業協会

医療 IT イノベーション戦略研究会

医療 IT 海外調査検討タスクフォース

※本調査報告書は、インドネシア訪問時のヒアリングを中心に纏めたもので、掲載情報の正確さについて保証するもの

ではありません。正確な情報については各種法令や統計資料等をご参照ください。

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目次

目次 ............................................................................................................................................... 1

1.はじめに ................................................................................................................................. 2

1.1.調査団 .......................................................................................................................... 3

1.2.訪問先 .......................................................................................................................... 3

1.3.スケジュール ............................................................................................................... 4

2.Executive Summary ~海外展開可能性について~............................................................. 5

2.1.医療政策の状況 ........................................................................................................... 5

2.2.医療機関の状況 ........................................................................................................... 5

2.3.海外展開可能性について ............................................................................................. 6

3.インドネシアの基礎情報 ........................................................................................................ 7

3.1.一般事情 ...................................................................................................................... 7

3.2.医療事情 ...................................................................................................................... 9

3.2.1.医療保険制度 .................................................................................................... 9

3.2.2.医療機関 ......................................................................................................... 10

3.2.3.保健予算 ......................................................................................................... 12

3.2.4.保健省組織図 .................................................................................................. 13

3.3.その他 ........................................................................................................................ 13

3.3.1.地方行政区画 .................................................................................................. 13

3.3.2.国民 ID カード ................................................................................................ 14

4.調査レポート ........................................................................................................................ 15

4.1.医療機関 .................................................................................................................... 15

4.1.1.公立病院 ......................................................................................................... 15

4.1.2.民間病院 ......................................................................................................... 19

4.1.3.保健センター、保健ポスト ............................................................................ 21

4.1.4.日系クリニック .............................................................................................. 23

4.2.行政機関 .................................................................................................................... 25

4.2.1.インドネシア保健省 ....................................................................................... 25

4.2.2.インドネシア投資調整庁 ................................................................................ 27

4.2.3.JETRO ............................................................................................................ 28

5.おわりに ............................................................................................................................... 30

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1.はじめに

医療・健康・福祉分野における様々な問題は、社会的・国民的な重要課題のひとつとなって

おり、政府の施策においても医療ヘルスケア分野におけるイノベーションの推進が重要政策課

題として挙げられている。こうした中、JEITA では 2011 年より医療 IT イノベーション戦略研

究会(主査:細木活人フクダ電子執行役員)を設置し、ICT の利活用による新たなビジネスモ

デルや、新しい市場を創出していくための検討を行っている。

研究会では、IT システムと医療機器を組み合わせた医療トータルシステム海外輸出の可能性

について検討するため、傘下に医療 IT 海外調査検討タスクフォース(主査:亀尾和弘 日立製

作所 情報・通信システム社経営戦略室担当本部長)を設け、特に、アジアにおける日本の医療

システムの認知度を高め、日本型医療や病院の普及に貢献することを目指し活動している。

ASEAN の盟主とされるインドネシアは、人口が中国、インド、アメリカに次ぐ世界第 4 位 約

2.4 億人の規模を誇り、2035 年頃まで増加し続けることが見込まれている。一方で、病院の数

は 2012 年時点で全国 2,083 施設、A クラスの高度医療病院はわずか 56 施設に留まり、各地区

に設置されている保健所やコミュニティ運営の保健施設が初期医療の中心的役割を担っている。

医療費は公的・民間共に増えており、特に民間支出の増加が著しい。医療保険制度では、今後 国

民皆保険の導入が計画されている。

このように、インドネシアは医療需要の増加や国民皆保険導入といった医療制度の転換期を

迎えており、当業界としても高いポテンシャルを秘めた市場だと期待している。2013 年度の活

動ではインドネシアに調査団を派遣し、次の論点を中心に海外展開の可能性について調査した。

高度医療病院と地域病院、そして初期医療を担う保健所やコミュニティ運営の保健施設の

役割の違いや連携状況

今後導入される国民皆保険の状況およびその影響

市場環境(日本以外の海外ベンダーの進出状況や現地 IT ベンダーの情報等)

2014 年 1 月

医療 IT 海外調査検討タスクフォース

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1.1.調査団

団長 亀尾 和弘 医療 IT 海外調査検討タスクフォース 主査

((株)日立製作所 情報・通信システム社 経営戦略室担当本部長)

近藤 和英 PT OMRON HEALTHCARE INDONESIA , President Director

勝田 圭一 シャープ(株)プロダクトビジネス戦略本部 マーケティングセンター 新規事業開発部 参与

和辻 徹 シャープ(株)新規事業推進本部 健康医療事業推進センター 第一技術部 副参事

伊東 秀幸 ソニー(株) 渉外部門 プロジェクト推進部 新事業支援課

羽澄 典宏 日本電気(株) 医療ソリューション事業部事業推進部エキスパート

鵜飼 拓男 パナソニック(株) 渉外本部主事

永山 昌平 (株)日立メディコ Chief Representative, Indonesia Operation

箱崎 吟子 一般社団法人電子情報技術産業協会 コンシューマプロダクツ部

(社名カナ順)

1.2.訪問先

[医療施設]

Posyandu Cibabat Cimahi(保健ポスト)

Puskesmas Cibabat(保健センター)

Cibabat Hospital(クラス B 公立病院)

Cicalengka Hospital(クラス C 公立病院)

Siloam Hospitals Lippo Village(民間病院)

Kaikoukai Clinic(日系診療所)

[政府系機関]

インドネシア保健省(MoH)

インドネシア投資調整庁(BKPM)

JETRO インドネシア

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1.3.スケジュール

月日 時間 場所 訪問先

1 12/8

(日)

午前

夕刻

Tokyo

飛行機東京(成田)発

ジャカルタ着

2 12/9

(月)

9:30

10:00

12:00

16:00

Bandung Posyandu Cibabat Cimahi(保健ポスト)

Puskesmas Cibabat(保健センター)

Cibabat Hospital(クラス B 公立病院)

Cicalengka Hospital(クラス C 公立病院)

3 12/10

(火)

10:30

15:00

20:00

Jakarta

BSD city

インドネシア保健省(MoH)

インドネシア投資調整庁(BKPM)

Dr. Budiman(Head of Bilateral Cooperation Division MoH

and Director for MDGs Indonesia)との会食

4 12/11

(水)

9:30

13:00

15:00

Tangerang

Jakarta

Siloam Hospitals Lippo Village(民間病院)

Kaikoukai Clinic(日系診療所)

JETRO インドネシア

飛行機 ジャカルタ発

5 12/12

(木)

午前 Tokyo 東京(成田)着

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2.Executive Summary ~海外展開可能性について~

2.1.医療政策の状況

インドネシアでは、2014 年 1 月 1 日より国民皆保険制度がスタートするが、今回の調査で

は、2014 年の段階では今ある労働者社会保障制度(JAMSOSTEK)、貧困者向けの健康保険制

度(JAMKESMAS)、公務員向けの保険(ASKES)、軍人及び警察官向けの健康保険制度(ASABRI)

等を 1 つの共同事業体 社会保障実施機関(BPJS)での運営に統一するもので、2019 年にか

けて段階的に国民皆保険を達成する方針である。人口の約 37%に上る保険未加入者への拡大な

ど詳細はまだ明らかになっていないようであった。(※注)

保健予算は年々増加しており、今後も医療需要の増加に対応するため公立病院を新たに増や

していく計画である。同時に民間病院も拡充させていく。残念ながら、政府における具体的な

IT 政策は計画されていないようであった。今回訪問した公立病院の例では、予算は病院の運営

に充てるのが精一杯で医療機器や IT 投資に充当できる状態ではないようである。まずは、基礎

的な医療機器の購入が求められている。

2014 年には、大統領選挙が予定されており、現ユドヨノ大統領の任期満了に伴い新大統領が

誕生することから、医療政策が大きく転換する可能性も否定できない。

(※注)インドネシアの保険制度は、保険種別により給付額や負担方式が異なり、税金で診察費を補てんするものも

ある。詳しくは医療保険の種別(P.9)を参照。

2.2.医療機関の状況

地域の保健ポスト「Posyandu」は母子健康管理のための施設で毎月 1 回オープンし、子供の

成長を母子手帳に記録すると共に、予防接種や健康アドバイスも行う。運営には保健所の職員

とボランティアスタッフが当たっている。

プライマリケアを行うのが保健センター「Puskesmas」で、全国に 9,510 箇所存在する。運

営は政府が行っており、今回の国民皆保険制度も、まず Puskesmas での適用から開始される

ようだ。

公立病院については、クラス B と最も数の多いクラス C 病院を訪問した。外来待合室は患者

でごった返し、病棟には家族が廊下で寝ているところもあった。部外者が簡単に入ることがで

き、またホワイトボードに入院患者の氏名が書かれておりプライバシー保護の考えはあまりな

いようである。患者の登録や会計で一部電子化しているものの、カルテは紙ベースで管理して

おり、X 線写真もフィルム撮影である。予算が十分ではなく、病院運営はできるものの IT はお

ろか医療機器を購入するにも足りない状況である。他方、そこで働く医師やスタッフは非常に

意識が高く医療サービスの改善に熱心であり、強く医療機器を欲している。患者の医療に対す

る要求が高まっており、既存の公立病院の医療サービスに満足できないケースもあるようだ。

民間病院は、営利企業の側面が強い。今回訪問した民間病院はインドネシアの中でもトップ

クラスの病院で、高度な医療機器を備え、ショッピングモールやホテルのような清潔で快適な

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空間を提供している。約 7 割の患者が自己負担(公立病院の場合は 3 割)である。会計システ

ム、PACS、RIS など IT の導入も進んでいるが、院内システム連携や病院間のシステム統一に

課題がある。日系資本では初となる診療所は、ターゲットを日本人向けの一般外来と健康診断、

インドネシア富裕層向けの糖尿病ケアと明確にしており、2014 年 2 月の開院に向けて準備中

である。現地駐在員の期待も厚く、日本の医療機器のショーケースにもなることから早期開院

が待たれる。

2.3.海外展開可能性について

インドネシアの医療格差は非常に大きく、富裕層や上中間層の国民しか医療を受けられる環

境にないようである。政府が今回打ち出している国民皆保険の具体化、国民が安心して医療を

受けられる体制作りが不可欠である。国民の医療を受ける機会が増えるとともに、必然的に必

要とされる医療機器や IT システムの需要も高まり、当業界の事業機会も拡大するだろう。しか

しながら、時間軸が不透明であり、参入に当たっては、短期的な成果を求めるのではなく、長

期的な視点で臨む必要がある。

アプローチするに当たっては、公立病院と民間病院を切り分けて考えるべきであろう。

公立病院は、単純な電子化すら未整備であり潜在的成長領域という解釈も可能ではあるが、

多数を占める貧困層の健康に対する劇的な意識変化が見込めない状況下では、成長領域と捉え

ることは適切ではないかもしれない。しかしニーズは確かに存在する。現場では、予算が伴え

ば基礎的な機器からのスタートになるが医療機器を導入したいと考えている。現在、インドネ

シアは輸入超過の状態にあり、政府は輸出促進の観点から輸出を目的とした輸入品に対する便

宜措置、輸入消費財の税率アップ等の方針を出している。メイド イン インドネシアの商品が

優位性を増すことは間違いないであろう。

医療 IT に関しては、Posyandu から Puskesmas への報告等、現在は紙ベースで行っているも

のを電子化する、また、地域病院と州立病院とのシステム連携のニーズも考えられる。公立病院

は、政府調達が原則であるため、インドネシア保健省の方針策定が必須である。例えば、JICA

が母子手帳を普及させたように、政府間支援のプロジェクトを立ち上げることが有効だろう。

他方、民間病院は先端医療機器の導入に意欲的であり、日本の医療機器、IT システム共に参

入余地は十分にあると考えられる。インドネシアの病院のうち半分以上が民間病院であること

からも、今後ますます民間病院の役割が増していくことであろう。医療 IT に関しては、既存シ

ステムにアドオンする形態で、医療の効率化・質向上に寄与する、あるいは入院患者の満足度

向上につながるシステムの構築が考えられる。

外資企業の参入に当たって最重要課題となるのが、現地パートナー・代理店の選定であるが、

今回の調査でその道筋が得られたとは言えない。民主主義が確立しているとは言い難く、また

意志決定が不透明な国において、有効でコンプライアンス違反をしない販売チャネルの確保が

不可欠である。

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3.インドネシアの基礎情報

3.1.一般事情

面積 約 189 万平方キロメートル(日本の約 5 倍)

人口 約 2.38 億人 (2010 年、インドネシア政府統計)

宗教 イスラム教 88.1%、キリスト教 9.3%(プロテスタント 6.1%、カトリック

3.2%)、ヒンズー教 1.8%、仏教 0.6%、儒教 0.1%、その他 0.1%

(2010 年、インドネシア宗教省統計)

外交基本

方針

国益を重視した独立かつ能動的な全方位外交。この外交理念に基づき、ASEAN

を重視した地域外交、国際的な課題への対応に積極的に取り組んでおり、アジア

太平洋における民主主義の普及を目的にバリ民主主義フォーラムを主催。

(外務省「各国・地域情勢」)

主要産業 製造業(24%):輸送機器(二輪車など),飲食品など

農林水産業(15%):パーム油,ゴム,米,ココア,キャッサバ,コーヒー豆など

商業・ホテル・飲食業(14%)

鉱業(12%):LNG,石炭,ニッケル,錫,石油など

(カッコ内は 2011 年における実質 GDP 構成比) (インドネシア政府統計)

経済指標 2007 2008 2009 2010 2011 2012

名目 GDP(億$) 4,330 5,088 5,613 7,071 8,471 8,794

1 人当名目 GDP($) 1,862 2,191 2,349.8 2,977.0 3,498.2 3,562.9

1 人当名目 GNI($) 1,610 1,950 2,160 2,500 2,930 3,420

実質経済成長率(%) 6.3 6.1 4.6 6.1 6.5 6.2

物価上昇率(%) 6.6 11.1 2.8 7.0 3.8 4.3

(インドネシア政府統計)

貿易品目 (1)輸出:石油・ガス(20.4%)、鉱物性燃料(13.5%)、動物・植物油(10.6%)

(2)輸入:石油・ガス(22.9%)、一般機械機器(13.9%)、機械・電機部品(11.5%)

(2011 年、インドネシア政府統計)

貿易相手

国・地域

(1)輸出 日本(16.6%)、中国(11.3%)、シンガポール(9.1%)

(2)輸入 中国(14.8%)、シンガポール(14.6%)、日本(11.0%)

(2011 年総額、インドネシア政府統計)

主 要

援助国

(1)日本 52.5%、(2)豪州 11.7%、(3)フランス 11.5%、(4)米国 8.7%、

(5)ドイツ 6.1%(2010 年 OECD/DAC(グロス)、%は二国間援助に占める割合)

(外務省「各国・地域情勢」)

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日本の

援助実績

(1)無償資金協力 10.8 億円(2011 年度)

(2)有償資金協力 740 億円(2011 年度)

(3)技術協力 92.5 億円 (2011 年度、JICA 実施分のみ)

経済関係 (1)対日貿易

(ア)主要品目

日本への輸出:石油・天然ガス、機械機器、銅鉱、エビ、天然ゴム、合板等

日本からの輸入:一般機械、電気機器、輸送用機器等

(イ)貿易額

2007 2008 2009 2010 2011 2012

対日輸出(億円) 31,166 33,780 20,376 24,762 27,160 25,764

対日輸入(億円) 10,645 13,036 8,697 13,945 14,123 16,187

(財務省貿易統計)

(2)日本からの直接投資(実現ベース)

2007 2008 2009 2010 2011 2012

日本の直接投資(億$) 6.2 13.7 6.8 7.1 15.2 24.6

(インドネシア投資調整庁)

人口予測

(UN「World Population Prospects, the 2010 Revision」)

通信インフラ

普及率

(%) 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

固定電話普及率 6.4 8.4 12.9 14.7 17.1 15.8 15.5

モバイル普及率 27.8 40.2 59.8 68.9 88.1 102.5 115.2

インターネット普及率 4.8 5.8 7.9 6.9 10.9 12.3 15.4

ブロードバンド普及率(有線) 0.1 0.3 0.4 0.8 1.0 1.1 1.2

(ITU)

Female Male Female Male

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3.2.医療事情

3.2.1.医療保険制度

(1)医療保険の種別

医療保険制度としては、労働者社会保障制度(JAMSOSTEK)、貧困者向けの健康保険制度

(JAMKESMAS)、公務員向けの ASKES、軍人及び警察官向けの健康保険制度(ASABRI)、地

方政府による保険者向けの医療保険制度(JAMKESDA)などがあるが国民皆保険制度とはなっ

ていない。2014 年から 2019 年にかけて段階的にこれらの保険を統合していく計画である。

図表 3.2.1-1 医療保険の種別

名称 JAMSOSTEK JAMKESMAS

及び JAMKEDA

ASKES ASABRI その他の民

間医療保険

対象者 民間企業の労働者 貧困者等 公務員等 軍人及び

警察官

任意加入

加入者数 2.1%(483 万人) JAMKESMAS

32.3%(7,640万人)

JAMKEDA

13.5%(3,190万人)

7.4%(1,740 万人) 7.7%

(1,820 万人)

財源 保険料方式(※1)

雇用主負担 3%又は

6%(※2)

(政府負担無し)

税方式

1 人 1 月あたり

5,000 ルピアを政

府が拠出

保険料方式(※1)

本人負担 2%

政府負担 2%

備考 本人、配偶者及び 21

歳未満の子ども 3 人

までが対象

JAMKEDA は地方

政府による貧困者

向け医療保険

本人、配偶者及び 21 歳

未満の子ども 3 人まで

が対象

自営業者、民間企業の

労働者も任意加入可

― ―

※1 保険料は標準報酬月額を基に計算される。

※2 JAMSOSTEK の雇用主負担は、労働者が独身か既婚者であるかにより分類され、独身の場合は標準

報酬月額の 3%、既婚者は標準報酬月額の 6%を負担する。

図表 3.2.1-2 主な医療保険制度と無保険領域

(出典)厚生労働省「2011~2012 年 海外情勢報告」

(出典)厚生労働省「2011~2012 年 海外情勢報告」

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(2)公的医療保険「Jamkesmas」

公的医療保険「Jamkesmas」は医療サービスへのアクセスや質を向上させることを目的とし

た貧困者のための保険で、妊産婦や 5 歳以下乳幼児の死亡率の低下に貢献している。2012 年

現在の被保険者数は 7,640 万人。同プログラムは医療機関へのアクセスの向上と同時に、疾病

による医療費増加の抑制が期待されている。

(出典)インドネシア保健省「Indonesia health profile 2012」

3.2.2.医療機関

(1)保健センター「Puskesmas」

保健センター「Puskesmas」は地域の健康意識の向上や初期医療の役割を担う小規模な医療

施設である。管理するエリアは 1 つの地区、サブ地区、または村等で、全国各地域に配置され

ている。2012 年現在、全国に 9,510 箇所ある(うち有床施設は 3,152 箇所)。

(出典)インドネシア保健省「Indonesia health profile 2012」

図表 3.2.1-3 JAMKESMAS 加入者の医療機関 利用状況

RJTP: primary outpatient care

RITP: primary inpatient care

RJTL: secondary outpatient care

RITL: secondary inpatient care

図表 3.2.2-1 保健センター「Puskesmas」の数(2008-2012)

無床施設

有床施設

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(2)病院

病院の数は年々増加しており、2012 年には 2083 施設となった。なかでも、2011 年から 2012

年にかけて民間病院の数が大幅に増加し公立病院の数を上回った。

図表 3.2.2-2 インドネシアの病院数 2008-2012

所属 2008 2009 2010 2011 2012

保健省/郡/自治体 508 552 582 614 656

軍/警察 112 125 131 134 154

その他の省 78 78 79 3 3

国立 77 75

民間 673 768 840 238 468

非営利民間 655 727

合計 1,371 1,523 1,632 1,721 2,083

図表 3.2.2-3 病院のクラス別内訳(2012 年)

図表 3.2.2-4 病院のベッド数と人口 10 万人当たりの比率 2008-2012

(出典)インドネシア保健省「Indonesia health profile 2012」

56 2.7% 255

12.2%

630 30.2%

415 19.9%

727 34.9%

Class A

Class B

Class C

Class D

No Class

計 2,083

ベッド数(床)

比率(10 万人当)

(出典)インドネシア保健省「Indonesia health profile 2012」

(出典)インドネシア保健省「Indonesia health profile 2012」

病院のクラス別の

基準は不明である。

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図表 3.2.2-5 病院における主な疾病 2010 年(件)

外来患者 入院患者

1.その他の急性呼吸器感染症

2.本態性高血圧症(プライマリ)

3.皮膚炎や他の皮下の疾患

4.歯髄と歯根尖周囲の疾患

5.その他の外傷と複数領域

6.感染性腸炎による下痢・胃腸炎

7.消化不良

8.糖尿病

9.屈折異常と眼調節障害

10.その他肺結核

525,512

325,112

247,179

209,637

206,123

205,745

201,083

193,630

180,310

169,479

1.感染性腸炎による下痢・胃腸炎

2.出血性テング熱

3.腸チフスとパラチフス

4.妊娠、出産の障害

5.その他の外傷と複数領域

6.消化不良

7.本態性高血圧症(プライマリ)

8.その他の急性呼吸器感染症

9.頭蓋内損傷

10.肺炎

96,278

79,239

55,098

52,019

34,139

33,580

28,484

27,690

25,281

23,683

(出典)インドネシア保健省「Indonesia health profile 2011」

3.2.3.保健予算

医療費は公的・民間共に増えており、特に民間支出の増加が著しい。

(1)医療費の推移

図表 3.2.3-1 医療費の推移

(出典)WHO「Global health expenditure database」

(2)保健省予算

図表 3.2.3-2 保健省の予算配分と支出額 2008-2012

(出典)インドネシア保健省「Indonesia health profile 2012」

0

10

0

5000

10000

15000

20000

25000民間支出

公的支出

政府歳出に占める医療費(右軸)

(百万USD) (%)

予算額

支出額

(百万ルピア)

Page 14: 平成 25 年度医療 IT 海外調査検討タスクフォース 海外調査報告書 ...

13

3.2.4.保健省組織図

図表 3.2.4-1 保健省組織図

(出典)インドネシア保健省

3.3.その他

3.3.1.地方行政区画

図表 3.3.1-1 地方行政区画

(出典)財団法人自治体国際化協会「各国の地方自治シリーズ 第 29 号 インドネシアの地方自治」数値は 2006 年末

※村は地域の固有性慣習に基づくもので、行政区ではない

県・市の機構の一部

郡 5,656

Kecamatan / Subdistrict

区(町)

Kelurahan

Desa / Village

市 91

Kota / City

県 349

Kabupaten / Pegency

州 33

Provinsi / Province

区と村合せて 71,563

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3.3.2.国民 ID カード

17 歳以上の住民に保持が義務付けられている住民登録証(KTP:Kartu Tanda Penduduk)の電

子化が進行しており、e-KTP の交付が進行している。既にカード・ベースでは KTP 制度が確

立されており、国民総背番号化が行われているために、電子化が進めば電子政府関連の施策が

進展する可能性が高い。2012 年度中に人口の約 7 割に当たる 1 億 7,200 万人の登録を目標と

している。

(出典)総務省「世界情報通信事情」

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4.調査レポート

4.1.医療機関

4.1.1.公立病院

(1)Cibabat Hospital(クラス B 公立病院)

面談者: Dr. Erli Suparli Adiwikarta, MM. , Director

訪問日時:2013 年 12 月 9 日(月)12:00~14:00

[説明概要]

モットーは健康とサービスの質に重点を置いている。医療サービスにおいて積極的で創造

的な地域病院を目指す。

保健省より、外来、入院、救急、ICU、薬剤、放射線、リハビリなど 16 項目の医療サービ

スを完備した病院として認定されている。(2012 年、1999 年時点では 5 項目)

今後 2013 年~2014 年にかけて透析や母児を拡充予定。

従業員は公務員 533 人、非公務員 208 人。医師は 65 人(一般医 23、専門医 32、一般歯

科 6、専門歯科医 3、産婦人科医 1)、看護師は 310 人。

診療科は 21 項目、病床数は 78 室 297 床。2013 年第 3 四半期の外来受診数は 167,853 件。

患者の支払別比率(2013 年第 3 四半期)

外来 入院

自己負担 35.4% 31.3%

ASKES(公務員保険) 22.3% 9.6%

JAMKESMAS(貧困者向け医療保険) 19.2% 37.9%

その他契約 9.5% 6.5%

JAMSOSTEC(民間企業保険) 6.2% 4.8%

市・地方政府 7.5% 9.9%

IT システムは、患者登録、医療記録、目録、会計などの請求書システムは存在。治療レコ

ード、モニタリングはまだ導入されていない。

[Q&A]

Q1. 病院のシステムはどのように構築したか?

A1. 2002 年にスタートし段階的に開発。既存のプログラムを購入したのではなく、外部大学

と連携して開発した。自分達に合ったものを導入しないと失敗する。

初期段階では、請求システム、その後記録システム、人事システムに拡大。IT は院内だけ

ではなく、院外との連携の必要性も感じている。

ただ、まだ医療機器も不十分で予算も不足している。加えて医師の質もまだ十分ではない

ため、IT を活用しどこにいても患者情報を見られるようにする必要があると考えている。

Q2. 医療機器の無償貸与を受ける例はあるか?

A2. ある。無償貸与を受け会社と病院で利益をシェアした例がある。

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Q3. 医療機器の購入プロセスは?

A3. 国の政策に従う。入札で決定する。

Q4. 機器購入に当たっての優先順位は?

A4. 現場の必要性による。どの程度の患者がその機器を必要としているのかに依る。また、そ

れは他の病院に設置されているか?等。ブランドで質が分かるのでそれも判断材料。

Q5. 医療機器を購入するためにどのようなレビューをするか?

A5. データを参照して、購入する必要があるのか?置く場所はあるか?電力はどうか等を勘案

する。

Q6. 日本企業が直接病院にアプローチする機会を設けてもらうことは可能か?

A6. 連携はありうるが、公立病院としては政府のルールを守る必要がある。

Q7. 新しい医療機器の情報はどこで得ているか?

A7. まだ標準的な医療機器も揃っておらず、まずは標準的な機器を持つことが基本と考えてい

る。高度医療のために、大きな民間病院の状況、見本市、インターネットから情報を得て

いる。

保育器 受付

2 台の救急車 入院病棟

[Cibabat Hospital の様子]

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(2)Cicalengka Hospital(クラス C 公立病院)

面談者: Dr. Rio

Ms. Evi Sukmawati (Spokesperson)

訪問日時:2013 年 12 月 9 日(月)16:00~18:00

[説明概要]

2009 年に設立した病院。2014 年には完璧な病院に。

患者の医療に対する意識が高まっている。必要な医療機器がないと患者から不満が出る。

日本や先進国の保険制度を見るとインドネシアは遅れている。また、乳幼児の死亡率が高

く高度な医療設備が求められている。先進国から様々なことを学びたい。

モット―は「最高のサービス、誠実な心を持ったサービス」

病院はバンドン市政府の資産。

病床数は 88 床。入院日数は 2.9 日。自己負担が約 30%、JAMKESMAS が約 30%。約 7

割の患者が貧困層である。

予算は病院運営のためには足りるが、医療機器を購入するには足りない。

[Q&A]

Q1.(病院サイド)病院の在り方についてどのような制度が必要だと思うか?Puskesmas で対

応できれば十分なのか?地域病院が対応するのか?それとも州病院が対応するのか?

A1. 日本はフリーアクセス。大きな病院が遠くにある場合は、近くの病院で治療を受けるケー

スも多い。

Q2. (病院サイド)インドネシアは医師の能力では対応可能であっても医療機器が不十分で対

応できないことがある。島国であり、対応が行き届かない面がある。

A2. 日本には地域病院で対応できない場合は、大きな病院を紹介するシステムがある。

A2.(病院サイド)インドネシアでは間もなく国民皆保険ができる。ただし、保険によって受診

できる病院が異なったり、地域病院と州病院で治療費が異なったりする。地域病院の方が

医療費は安い。

Q3. (病院サイド)保険のランクはあるか?保険料は所得によって違うのか?

A3. 企業と国による保険があるだけでランクは無い。保険料は所得によって異なる。

Q4. インドネシアでは病院によって治療費が異なるか?

A4. 薬は同じだが、地域病院と州病院では治療費が異なる。また、同じ病院であっても、一般

医と専門医で治療費が異なる。

Puskesmas はカバー範囲が決まっているが、州病院は全国からの患者を受け入れること

ができる。当院もどの地域からの患者でも受け入れ可能。

Q5. 病院名の RSUD と RSUP の違いは?

A5. RSUD は地域病院、RSUP は州病院の意。

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[Cicalengka Hospital の様子]

外観はまるでリゾートホテルのような趣 消耗品の保管場所

血液検査結果の記入ノート 熱意が溢れるドクターとスタッフ達

カルテの保管庫 X 線機器

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4.1.2.民間病院

訪問先:Siloam Hospital Lippo Village(大手華僑財閥の Lippo グループの病院)

面談者: Dr. Anastina Tahjoo, MARS, Chief Executive Officer

Mr. Basudewo, Head of IT Dept.

訪問日時:2013 年 12 月 11 日(水)9:30~11:30

[説明概要]

政府は Puskesmas に IT を導入するアイディアはあるが、ずっと進展していない。いくつ

かの Puskesmas で IT 化した例もあるようだ。MoH は Puskesmas のデータを把握したい

と考えている。

本病院は心疾患と神経疾患の専門診療科に注力している。

本病院は人材と医療機器が揃っており、インドネシア全土から患者を受け入れている。

Puskesmas とも連携。

Siloam では敷地内に Puskesmas を開設。政府に提供している。

患者の 7 割は自己負担者、残り 3 割は ASKES と民間医療保険による患者。

診療費は、施設、医療機器、人材などのコストから決定している。

様々な保険会社と連携しているが、保険会社によって適用範囲や給付率は異なる。

Siloam 病院は IT システムの開発段階。今後、15 病院と連携させていきたいと考えている。

現在は、まだ管理部門と会計部門のみで、オーダ、電子カルテは未導入。

HIS(Hospital Information System)の変遷は

第 1 段階:Mardon(米)

第 2 段階:Magic(自社開発)

現在:Wipro(インド) SIer である Multipro が導入したが、システム変更の際、エンジ

ニアをインドに派遣する必要があり手間やコストもかかるため、改善案を検討中。

この他、LIS(日本の Sysmex 社)、RIS・PACS(Wipro のパートナー)を導入済。

今後の計画は

15 病院→19 病院(2014 年)、3,000 床→10,000 床、150 万患者→1,400 万患者

[Q&A]

Q1. Siloam グループ内の IT システムは統一されているか?

A1. 買収した病院もあり、システムベンダはそれぞれの病院によって異なる。例えば、本病院

とジャカルタ市内の SHMRCCC Semanggi は Wipro 製、買収した病院は Magic。

Q2. それぞれの病院の購買の決定権は?

A2. 集中購買。本 Lippo Village が本部。

Q3. 保険の請求はどのように行うか?

A3. Admedika 社(国内通信大手子会社)のカードリーダを利用。患者が持つ保険会社のカー

ドをリーダで読み取ると保険の適用範囲や給付比率が分かる。このデータを院内の Wipro

システムに取り込み支払請求ができる。

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[Siloam Hospital Lippo Village の様子]

VIP 入院病棟 International counter Admedika のカードリーダ

保険受付カウンター(左が民間保険、右が ASKES)

何でも手に入るショッピングモールのような売店

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4.1.3.保健センター、保健ポスト

訪問先:Posyandu Cibabat Cimahi, Puskesmas Cibabat

面談者: Ms. Pratiwi

Ms.Tintin Yulantni

Mr. Ketva Syamsudin

訪問日時:2013 年 12 月 9 日(月)9:30~11:30

[説明概要]

Posyandu は月に 1 回地区で総合的な母子保健活動(5 歳以下の乳幼児の身長体重測定、

妊産婦検診、アドバイス)を行う施設。

地域の母子は Posyandu において①受付、②乳幼児の身体測定、③測定結果の記録、④ア

ドバイス、⑤予防注射の 5 ステップを受けて母子手帳に子供の成長を記録する。

地域のボランティアと保健所の職員が協力して運営に当たる。

Posyandu の目的は①母子保健、②家族計画、③予防、④栄養指導、⑤下痢対策

[Q&A]

Q1. Puskesmas と Posyandu の違いは?

A1. 前者は母子保健活動に加え一般的なプライマリケアの役割を担う、後者は母子保健活動の

み。また、Puskesmas と Posyandu は上下関係にあり、各記録の紙コピーにより Posyandu

から Puskesmas へ報告。この他、高齢者サービスを展開する PusBindu もある。

A1. Cimahi 市には Puskesmas 15 カ所、Posyandu 388 カ所、PusBindu 317 カ所ある。

Q2. Puskesmas の数はどのように決まるか?

A2 Puskesmas は 3 万人当たり 1 施設。

Posyandu は赤ちゃんの数で決まる。1 施設で 100 人程度をカバー。

Q3. ベッドのある施設はあるか?

A3. この Puskesmas にはないが、全国には有床施設もある。なお、出産用のベッドはある。

Q4. 機材購入の決定者は?

A4. 保健省ではなく Cimahi 市の保健部門。入札になる。Puskesmas は全て政府予算によって

運営される。

Q5. トップセールスはあるか?

A5. ある。

Q6. 予算が不足して困っていることはないか?

A6. 1 年毎に計画を立てその計画通りに進める。

Q7. デジタル血圧計ではなく、水銀血圧計を利用している。世界的に水銀使用の機器を減らす

流の中で、そうした方針はあるか?

A7. デジタル機器が有用といる声もある一方、マニュアルを望む声もある。

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何等かのシステムは導入されている模様 アネロイド血圧計 診察ベッドと乳児用体重計

子供の体重を測るボランティアスタッフ 子供の成長を記録する母子手帳 受付を待つ列

[Posyandu の様子]

外観 診察室 体重計

[Puskesmas の様子]

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4.1.4.日系クリニック

訪問先:Kaikoukai Clinic

面談者:川原 岳志氏 インドネシア開発準備室 室長

訪問日時:2013 年 12 月 11 日(水)13:00~14:30

[説明概要]

2014 年 2 月にオープン予定。鹿島建設が開発する Senayan 地区に位置し、周りには日系

企業が多数進出。

日系企業としてインドネシアに病院を開設するのは初めて。日本人向けの医療施設はある

がいずれもローカル資本のクリニック。

差別化の一つとして、日本の偕行会病院とネットワークで繋ぎ、日本から遠隔で診断支援

ができる。他の医療機関の読影も可能。

経済産業省のフィージビリティ・スタディ(FS)事業の協力を得ている。可能な限り日系

企業の医療機器を設置し、ショーケースとして活用する。

ターゲットは 2 つ。日本人向けの一般外来と健康診断サービス、インドネシア富裕層向け

の慢性疾患:糖尿病のケア。

インドネシア富裕層に対しては、プレミアム感の創出が不可欠。そのため、インドネシア

富裕層向けに病院の動線を工夫している。

院内薬局も完備。現在情報収集中だが、将来的には院外の処方も扱いたいと考えている。

看護師は 15 人。EPA(経済連携協定)に基づき日本で看護助手として働いた経験のある

スタッフを採用。医師は総合内科 4 人程度、小児科 1 人程度を採用予定。医師、看護師共

に日本語対応可能。

IT システムは韓国 INFINITT 社の PACS を採用。電子カルテはないが、患者管理用に

Microsoft Access を利用し独自に開発。この他、支払発行用のシステムを導入予定。

インドネシアでは依然として PACS よりもフィルムという状況。

[Q&A]

Q1. 進出のきっかけは?

A1. 現地パートナーのパナソニック・ゴーベルとパートナーを組めたことが大きい。また、国

民皆保険が整備されていく中で市場として期待。タイやシンガポールの医療機関はすでに

ある程度整備されているが、インドネシアはまだ十分ではない。

さらに、偕行会は日本では透析に強みを持つ。インドネシアの富裕層はシンガポールの病

院に行くため高度医療では勝ち目はないと思ったが、週に数回通院する必要のある透析の

場合は我々の強みを活かせると感じた。

ジャカルタにはすでに病院も沢山あるため、今後はジャカルタ以外の場所で透析施設を作

りたいと考えている。

Q2. 病院の中に別のクリニックを開設できるか?

A2. 可能。プロフィットシェアリング等を行っているのかもしれない。例えば、インドネシア

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J-CLINIC はポンドックインダー病院内にある。

Q3. 医師の採用はどのように行うか?

A3. インドネシアの医師や医学生を受け入れた日本の大学病院からの紹介。インドネシアの医

師は常勤でも 3 箇所まで勤務して良い。公立病院の医師は所属病院の許可が必要な場合も

あるようだ。

Q4. 病院の設立認可はすぐに降りたか?

A4. 保健省よりも BKPM の認可に時間を要した。準備を始めて約半年程度かかった。また、保

健省よりも州政府に係る手続きの方が支配的。

Q5. 診療の値付けはどうなるか?

A5. 悩んでいるところ。他の医療機関を参考としている。

[Kaikoukai Clinic の様子]

日系の医療機器

キッズルーム 受付

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4.2.行政機関

4.2.1.インドネシア保健省

(1)Directorate General of Health Building Efforts,

面談者: Dr. Yudhaputra Tristanta, M.Kes, Sub Director General of Health Services, Education

Referral hospital

訪問日時:2013 年 12 月 10 日 10:30~12:30

[説明概要]

2014 年からこれまでの保険制度を統一し、全国民を対象とした新しい保険制度がスター

トする。2014 年にスタートし 2019 年までに達成するよう努力する。

新たな保険制度は貧困層のケアを優先している。第一段階としては、Puskesmas での適

用から入り、地域病院、州病院と拡大させていく。

新たな保険に関していくつかのポイントがある。

①医療サービスの達成、②全国民を対象とする、③人材の開発、④薬・医療機器の開発、

⑤医療費の標準化、⑥経営管理・情報処理の開発等。

この他、保健省としては情報システムに関してマクロデータを収集利用したいと考えてい

る。IT に関しては地域病院から州病院の順番で段階的に開発していきたい。様々な病院で

活用されるよう努力したい。

約 75%はプライマリケアで解決できるとのデータがある。そこで、保険の将来像としては、

プライマリケアを強化したい。それらは、保健予算の抑制にも繋がると思う。

[Q&A]

Q1. 今回の新しい保険で国民の約 37%の無保険層がカバーされるか?

A1. 2019 年までに段階的にカバーしていけるよう努力する。

実施機関が違う各保険種別(JAMSOSTEK,JAMKESMAS,ASKES,ASABRI)を 1 つの共同

事業体 社会保障実施機関(BPJS)での運営に統一する。

保険制度は複雑で難しいと認識しているが、まずスタートを切ることに重点を置いている。

Q2. 貧困層はどのように判断するか?

A2. 適用範囲は税金納付の有無ではなく、どこで働いているのかで判断。貧困層向けの

JAMKESMAS は政府が拠出しており、今後拠出額を増加させたい。

Q3. この保険で CT、MRI 等の高額医療はどの程度カバーされるか?

A3. 入院、薬、治療を一つのパッケージとした包括支払制度がある。マレーシアを参考にして

いる。

Q4. 国民 ID(e-KTP)を活用する予定はあるか?

A4. e-KTP は現在進行中。これも 2019 年までには普及させたい。

Q5. 2011 年から 2012 年にかけて民間病院が公立病院の数を上回ったが、背景は?

A5. 民間・公立合計で約 2,000 の病院がある。民間病院の場合でも、保健省の基準に合格しな

ければならない。生活水準の低い層もカバーすることを民間病院の設立条件としている。

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Q6. 注力する疾病は?

A6. 地方では感染症の問題もあるが、メインは生活習慣病(メタボリック・糖尿病)、心臓病、

ガン。

(2)Center for International Cooperation

面談者:Dr. Dicky Budiman, M.Sc, PH, Head of Bilateral Health Cooperation Division

訪問日時:2013 年 12 月 10 日(火)12:30~14:00

[説明概要]

17,508 の島から成り、東西はアメリカ以上に広い。

インドネシアには 2 つの側面がある。1 つは、富裕層、もう 1 つ

はインフォーマルセクター(非正規部門)に従事する人々。

WHO によると現在 1 万人当たり、わずか 6 ベッド、3 人以下の

内科医しかなく、病院をアップグレードしようとしている。富裕

層や外資系ビジネスエグゼクティブはシンガポール、マレーシア、

タイ等の病院を利用している。

政府は、2014 年までに全国民に医療機会を提供するため、数十億ドル規模の予算を計画

している。今後数年間で、数百の病院、10 万のベッドを新たに増やしたい。

医療産業のマーケット規模は今後 8 年で、およそ 2 倍の$500 億になるだろう。

人口の 50%は 30 歳以下、GDP 成長率は 6%以上(2011 年)で今後 5 年間はその水準が

続くと予測されている。年間可処分所得$5,000~$15,000 の世帯割合は、2008 年の 36%

から 2020 年には 58%に拡大する見込み。6 千万人の低所得者層が今後 10 年で中間層に入

ると予測されている。

インドネシアは世界 2 位の Facebook ユーザ数、1 位の Twitter アカウント数がある。病院

でもこれらのツールを活用し情報発信している。

政府は現在、国際認定に適合した 7 つの国営病院を準備中。また、今後 5 年間で 50 以上

の病院を建設予定。質の高い医療への需要に対応するため、外資系の病院など民間の参入

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がより重要になってきている。

現在、国民の 10~20%が医療保険でカバーされており、2014 年から国民皆保険がスター

トする。

医療機器の 97%は輸入である。輸入額は 2010 年$5.84 億から 2011 年$6.24 億に増加。

中国や韓国は非常に精力的に投資しており価格競争力が高い。我々が驚く程の低価格が提

示されるケースもある。

質やアフターケアも重要な要素。

X 線、CT、MRI、除細動器、保育器、ガンマナイフ、糖尿病薬、コレステロール低下薬の

需要が未だかつてないほど急速に伸びている。

国際競争力のある医療サービスの提供のため国内の病院は、海外の医師や医療機関とコラ

ボレーションしている。

医療 IT は遅れている。しかし、民間病院は医療 IT(non-medical IT)や先進的な IT シス

テムを取り入れている。例えば、EHR(Electronic Health Record)、経営管理・患者管理

システム、会計システム等。

特に期待されるのは、人工呼吸器、麻酔器、生体情報モニタ、医療電子機器、超音波スキ

ャナ、診断装置、使い捨て製品。また、美容整形、神経外科、腫瘍学分野。

参入に当たっては適切なビジネスパートナーの選定が不可欠。商品展開に当たっては、価

格、資金、技術、アフターケアがポイントとなる。

また、定期的に現場を訪問し顧客との関係を密にすること、顧客への十分な情報提供、主

要な展示会に参加すること、セミナーやイベントを主催することも重要である。

[Q&A]

Q1. 我々外資はどのように最適な現地パートナーや代理店を知るのか?

A1. マーケットへの参入は簡単ではない。私のもとにも、各国から毎日のように問い合わせが

ある。中でも、中国、韓国はアグレッシブ、次いで米国やインドも積極的。日本は少ない

方。私で力になれることもあるかもしれない。

4.2.2.インドネシア投資調整庁

面談者:Ms. Lestari Indah, Deputy Chairman for Investment Services

訪問日時:2013 年 12 月 10 日(火)16:00~16:40

[説明概要]

BKPM に申請することによって会社設立が可能となる。まず、BKPM に投資計画を登録し

許可を受け、その後、法人設立手続きとして「輸入業者登録証」および「外国人労働者雇

用許可」を受け法人が設立できる。その他、各分野に応じ関連省庁や地方局の許可を受け

る必要がある。

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外国資本の出資比率は、病院の場合は 67%まで、IT 企業の場合は 100%まで認められてい

る。

投資インセンティブとして 2 年間税制上の免税措置を受けられる。

医療 IT 分野への海外からの投資は開かれている。

[Q&A]

Q1. 医療 IT 分野への外資の参入状況は?

A1. 最近 softbank が進出。Microsoft も商社を設立している。

Q2. 1 つのライセンスで他分野にも事業展開することは可能か?

A2. それぞれにライセンスが必要。

Q3. 法人設立認可までの日数は?

A3. 書類が揃っていれば 3 営業日で認可する。

BKPM の位置づけは他の省庁と同等レベルで、外資参入時の全ての法人設立申請および認

可の窓口になる。また、それぞれの省庁とのコーディネーション機能を持つ。

Q4. 今までの経験からインドネシアでビジネスを成功させる秘訣は?

A4. 40%以上が中間層、60%が 40 歳以下、資源が豊富、安定した成長、この他、来年は大統

領選挙があり、このような状況を踏まえたビジネス展開が必要だろう。

4.2.3.JETRO

面談者:吉田 雄介 氏, JETRO Senior Director

訪問日時:2013 年 12 月 11 日(水)15:00~16:00

[説明概要]

1 人当の GDP は$3,563(2012 年)。

ジャカルタの場合は$9,000 程度。

ビジネスでは少数派華人の経済影

響力が強い。

他のイスラム国と異なり女性の社

会進出が目立つ。

中間層が台頭してきており、2020 年には国民の 7 割超が中間所得層との予測もある。

交通、エネルギーなど様々なインフラが不足しており、生産拠点にはなり辛い。国内の交

通インフラ不足により野菜や果物等の生鮮食品でさえ輸入しているケースもある。

2014 年には大統領選があるため、インフラの整備がさらに遅れる見込み。

教育は十分に行き届いていない。全国平均では、小学校就学率は 5 割、大学進学率は 1 割

程度。

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[Q&A]

Q1. 中間層が増えているが、就学率は低いことに矛盾を感じる。今後の教育面の展望はどう

か?

A1. お金に余裕が出てくると教育費に投資するようになる。日本を含め、塾や教育機関の国内

外からの投資の関心も高い。JETRO にも教育機関からの問い合わせは多い。

Q2. 今回の調査で、ドイツ製の機器が多いように感じたがその理由は?

A2. 医師がドイツに留学することが一因と考えられる。

Q3. 現地パートナー、コネ、人脈が大切だと感じる。JETRO で代理店のリストは存在するか?

A3. 分野によるが医療機器分野の代理店のリストはある。ただし、展示会に出展している代理

店をリスト化しているようなもので、その質は分からない。

Q4. 展示会への出展は効果的か?

A4. 現地の感覚を掴むには有用。代理店も沢山出展しており、マッチングの場にもなる。

JETRO では中小企業を対象に、現地代理店とのセミナーを開催。

この他、Hospital expo 2014(2014/10/15-18)にも出展を計画中。かなり大きな規模の展

示会。過去の例では医療 IT 企業の出展はなかったと思う。

Hospital expo HP http://www.hospital-expo.com/

Q5. インドネシアで日系企業の医療機器の業界団体のようなものはあるか?

A5. 製薬企業の集まりはある。それに医療機器メーカも参加。医療機器のみの集まりはない。

Q6. 介護等への対応や意識はどうか?

A6. 現地企業で、介護ビジネスを展開している例や関心を持つ企業もある。しかし、親の面倒

は子供がみるというのが一般的な感覚。富裕層の場合はお手伝いを雇える。

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5.おわりに

当初の予想と不安を裏切り、多くの知見が得られた。特に Posyandu への視察は得がたい経

験であった。かつて JICA で母子手帳の普及を支援したことがあったと聞いていたが、天秤で

体重を測る。突然泣き出す子供もいる。随分昔に見ていた世界のようだった。

国民皆保険が 2014 年1月からスタートする予定であるが、このような短期間で皆保険を実

現できるとしたら「奇跡」であろうと思ったが、やはり「奇跡」は起こっていなかった。今後、

無保険者を如何に把握しカバーしていくかが問題である。また、公立病院と民間病院の格差が

大きく、改善を図らないと国民の不満が増大するのではないかと危惧される。

今後、既存の医療保険制度がどのように連携し、どのように高度医療を提供するかは今回の

調査では理解しきれなかった点で引き続き注視していく必要がある。しかしながらそのような

状況下でも、意欲的に行動する医師に出会えたことは大きな成果であり、インドネシアの医療

変革の「火種」を感じたときである。

最後に、今回の調査を実現するにあたって、様々な方にご協力いただいた。特に、現場を視

察したいとの我々の希望を叶えてくれた Dr.Budiman には厚くお礼を申し上げたい。また、面

談を快く受け入れてくれた医療機関、政府機関の皆様方には感謝の気持ちでいっぱいである。

医療 IT イノベーション戦略研究会

海外調査検討タスクフォース 主査

インドネシア調査 団長

亀尾 和弘

(了)